説明

口腔粘膜炎及び胃腸粘膜炎の症状を緩和させる方法

本発明は、toll-like receptor 4アンタゴニストの投与を包含する、口腔粘膜炎及び胃腸粘膜炎の重篤性を緩和させる方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔粘膜炎及び胃腸粘膜炎の症状をやわらげる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粘膜炎は、胃腸管、口腔及び咽頭などの粘膜の腫れ、炎症、及び不快感によって特徴付けられる疾患であり、それは、口や喉の痛み、下痢、腹部の痙攣や痛み、及び直腸潰瘍に帰着する。当該疾患は、癌患者の約半数に起こり、放射線療法及び/又は化学療法をはじめとする癌治療に共通する副作用である。これら癌治療のアプローチの目的は、急速に分裂する癌細胞を死滅させることであるが、残念なことに、胃腸などの領域に存在する細胞をはじめとする、他の急速に分裂する細胞もまた治療によって死滅し、粘膜炎につながる。粘膜炎の症状は、癌治療開始後5日から10日で起こり、回復には治療停止後2週から4週かかる。粘膜炎の発生やその痛みは、癌治療の種類や期間などのファクターに依存する。例えば、粘膜炎は、頭部や頸部の放射線治療を受けたほぼ全ての患者に起こる。幹細胞や骨髄の移植の準備において、骨髄抑制のための高投薬量の化学療法及び/又は放射線療法を受けた患者の多くが患う。
【0003】
粘膜炎は、様々な点において、癌患者の生活の質に悪影響を及ぼす。例えば、粘膜炎による口や喉の痛みは、著しい苦痛をもたらし、食べたり、飲んだり、経口投薬することさえも困難にさせる。粘膜炎はまた、多数の微生物が住む口腔粘膜や胃腸部の保護膜を破壊し、重大な感染リスクを伴う。また、粘膜炎の不快感を阻止する試みは、癌治療の中断、治療投薬量の変更、又は異なる治療態様への変更につながり得る。重大な粘膜炎はまた、非経口的な栄養摂取や入院を必要とする場合がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、癌患者の看護を改善するためには、粘膜炎を予防及び治療する効果的な方法を開発することが重要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、口腔粘膜炎又は胃腸粘膜炎の痛みを軽減させる方法を提供する。当該方法は、リピッドAアナログのような、以下の式の範囲内にあるToll-like receptor 4(TLR4)の活性化を阻止する1つ又は複数の化合物を含有する組成物、又はそれらの製薬的に許容し得る塩若しくはリン酸エステルを患者に投与するステップを包含する。
【0006】
【化11】

【0007】
式中、R1は、以下:
【化12】


【化13】


から成る群から選択され、ここで、J、K及びQの各々は、個々独立して、直鎖若しくは分岐鎖のC1〜C15アルキルであり;Lは、O、NH、又はCH2であり;Mは、O又はNHであり;GはNH、O、S、SO、又はSO2であり、
R2は、直鎖若しくは分岐鎖のC5〜C15アルキルであり、
R3は、直鎖若しくは分岐鎖のC5〜C18アルキル、
【化14】


【化15】


から成る群から選択され、ここで、Eは、NH、O、S、SO、又はSO2であり;A、B及びDの各々は、個々独立して、直鎖若しくは分岐鎖のC1〜C15アルキルであり、
R4は、直鎖若しくは分岐鎖のC4〜C20アルキル、
【化16】


から成る群から選択され、ここで、U及びVの各々は、個々独立して、直鎖若しくは分岐鎖のC2〜C15アルキルであり、Wは、水素又は直鎖若しくは分岐鎖のC1〜C5アルキルであり、
RAは、R5又はR5-O-CH2-であり、R5は、水素、J'、-J'-OH、-J'-O-K'、-J'-O-K'-OH、及び-J'-O-PO(OH)2から成る群から選択され、ここで、J'及びK'の各々は、個々独立して、直鎖若しくは分岐鎖のC1〜C5アルキルであり、
R6は、ヒドロキシ、ハロゲン、C1〜C5アルコキシ及びC1〜C5アシルオキシから成る群から選択され、
A1及びA2は、個々独立して、
【化17】


【化18】


から成る群から選択され、ここで、Zは、直鎖若しくは分岐鎖のC1〜C10アルキルである。本発明の一態様には、上記の式のリン酸エステルが包含され、そこでは、A1又はA2の少なくとも1つのヒドロキシ基が置換されてリン酸エステルを形成している。
【0008】
本発明の組成物に含有され得るリピッドAアナログの例は、以下の式を有する化合物、又はその製薬的に許容し得る塩若しくはリン酸エステルである。
【0009】
【化19】

【0010】
より詳細な例では、当該化合物は、以下の式から成るか、又はその製薬的に許容し得る塩若しくはリン酸エステルである。
【0011】
【化20】

【0012】
本発明によって治療し得る患者には、口腔粘膜炎又は胃腸粘膜炎を患っているものが含まれる。さらに、口腔粘膜炎や胃腸粘膜炎を患ってはいないものの、発症するリスクを有する患者も、本発明によって治療することができる。後者のグループの患者に関しては、当該治療によって、粘膜炎の発症を阻害又は予防することができる。
【0013】
患者に口腔粘膜炎や胃腸粘膜炎を発症するリスクを課す治療の例は、放射線療法や化学療法であり、それについては、本書の他の箇所又は背景技術の欄において説明する。従って、本発明によって治療し得る患者には、癌患者のみならず、例えば、頭部若しくは頸部の放射線療法、又は幹細胞若しくは骨髄の移植を既に受けた患者、まもなく受ける患者、又は現在受けている患者も含まれる。
【0014】
本発明の方法によれば、本発明で用いられる組成物は、口腔粘膜炎や胃腸粘膜炎のリスクを患者に課す治療の前に、それと同時に、又はその後に、患者に投与することができ、あるいはこれらの方法を組み合わせて用いることができる。一例では、組成物は、治療と同時に、その1〜4時間以内に、又はそれと同じ日に投与することができ、そしてその後1〜3(例えば、1〜2)日間投与することができる(例えば、日に1〜2回)。他の治療処方の例を以下に提示する。
【0015】
当該組成物は、局所的(例えば、ジェル、リンス、ドロップ、クリーム、軟膏、又は絆創膏によって)、静脈注入、経口的(例えば、錠剤、カプセル、ドロップ、クリーム、軟膏、又は絆創膏によって)、直腸(例えば、座剤、軟膏、又は浣腸によって)、又は膣(例えば、クリーム、軟膏、ジェル、又は外用剤によって)によるものをはじめとする、当分野で既知の任意の許容し得る方法によって患者に投与することができる。また、後に詳細に述べるように、本発明による治療は、抗菌剤や緩和剤による治療をはじめとする他の粘膜炎の治療法と組み合わせて実施することができる。
【0016】
上記の方法に加えて、本発明はまた、口腔粘膜炎や胃腸粘膜炎の痛みを軽減させるための薬剤の処方における本書記載の組成物及び化合物の使用も包含する。そのような薬剤は、既に粘膜炎を患っており当該疾患の症状を(部分的に又は完全に)やわらげる努力がなされている患者を治療したり、当該疾患が悪化するのを防止したり、及び/又は当該疾患の悪化のレベルを軽減させるために用いることができる。当該薬剤はまた、粘膜炎をまだ患ってはいないものの発症するリスクを有する患者に用いることができる。本書の他の箇所で述べるように、そのような患者には、放射線療法及び/又は化学療法を受ける予定である癌患者、現在受けている癌患者、又は既に受けた癌患者が含まれる。これらの患者に関しては、当該薬剤の投与は、粘膜炎の痛みをやわらげたり、その発症を阻害したり、粘膜炎が起こるのを予防するために実施することができる。また、当該薬剤に含有される化合物は、本書の他の箇所に記載の任意のものとし得、本書の他の箇所に提示される式の範囲内にある化合物とし得る。そのような化合物の具体例は以下の通りであり、その製薬的に許容し得る塩若しくはリン酸エステルも可能である。
【0017】
【化21】

【0018】
また、本発明は、上述のように、粘膜炎の痛みをやわらげるために投与すべく調合された、本書記載の化合物を含有する組成物を包含する。後に詳細に述べるように、これらの組成物は、局所投与のためのジェル、リンス、錠剤、カプセル、チューイングガム、ドロップ、クリーム、軟膏、浣腸、座剤若しくは絆創膏の形態にて、化合物を含有し得る。
【0019】
本発明は、幾つかの利点をもたらす。例えば、放射線療法や化学療法などの治療による不快な副作用である粘膜炎の痛みをやわらげる方法をもたらす点において、本発明の方法は、患者がそのような治療に伴う難題と直面する際に患者の生活状態に寄与し得る。また、本発明の方法は、粘膜炎によって一般的に引き起こされる感染の発生を軽減させることができる。さらに、患者に改善された安楽さをもたらす点において、本発明の方法は、治療処方計画への患者の同意を高めることができ、回復速度の改善にも寄与し得る。
【0020】
本発明の他の特徴並びに利点は、以下の詳細な説明、図面及び特許請求の範囲から明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、口腔粘膜炎や胃腸粘膜炎の痛みをやわらげる方法を提供する。当該方法は、既に粘膜炎を患っている患者を治療するのに用いることができる。さらに、当該方法は、粘膜炎を患ってはいないものの発症する恐れのある患者(例えば、放射線療法及び/又は化学療法を受ける予定の、現在受けている、又は既に受けた、癌若しくは他の患者)にも実施することができる。まだ粘膜炎を患っていない後者のグループの患者に関しては、本発明による治療によって、癌治療に伴う粘膜炎の痛みを軽減させたり、粘膜炎の発症を抑えたり、又は粘膜炎を予防したりすることができる。
【0022】
本発明は、toll-like receptor 4(TLR4)の活性化を防止することによって、粘膜炎の症状を軽減させるのに優れた治療効果がもたらされるという発見に基づいている。TLR4は、成長し死滅する細菌の細胞壁から放出され炎症反応の惹起に関与するエンドトキシン、即ち、リポ多糖(LPS)、のレセプターである。本発明によれば、TLR4レセプターの活性化は、TLR4アンタゴニストの投与によって阻止され、それによって、粘膜炎の症状の緩和に有益な効果がもたらされる。エンドトキシンを阻止するのに加えて、本発明による治療は、粘膜炎における熱ショック蛋白(HSP)の作用を阻害し得る。詳細には、そのような蛋白はストレス誘導性蛋白であり、それは、放射線療法や化学療法をはじめとするストレス下において誘導され得る。HSP 60、70、又は90は、TLR4の内在性リガンドであり、従って、放射線療法による粘膜炎において一定の役割を果たす。
【0023】
本発明の方法で用いられるTLR4アンタゴニストは、例えば、発明の開示の欄にて記載した式の範囲内にあるリピッドAアナログのような、LPSのリピッドA領域のアナログであり得る。本発明の組成物に含有させ得るリピッドAアナログの例は、以下の式を有する化合物、又はその製薬的に許容し得る塩若しくはリン酸エステルである。
【0024】
【化22】

【0025】
より詳細な例では、当該化合物は、以下の構造、
【化23】


又はその製薬的に許容し得る塩又はリン酸エステルである。この化合物は、eritoranとして知られており(化合物E5564、化合物1287、及びSGEAとしても知られる)、米国特許第5,935,938号に記載されている。
【0026】
本発明において用いることのできる化合物の他の例としては、以下の式並びにその製薬的に許容し得る塩若しくはリン酸エステルが挙げられる。
【0027】
【化24】


【化25】


【化26】

【0028】
本発明において用いることのできる他のTLR4アンタゴニストとしては、例えば、化合物B531(米国特許第5,530,113号)や、以下の特許に記載の他の化合物が挙げられる:米国特許第5,935,938号;米国特許第5,612,476号;米国特許第5,756,718号;米国特許第5,843,918号;米国特許第5,750,664号;米国特許第6,235,724号;米国特許第6,184,366号;米国特許第5,681,824号。これらの化合物を製造する方法についても、これらの文書には記載がある。そのような薬剤をを製造する他の方法は、例えば、WO 02/94019号に記載がある。
【0029】
本発明の方法によれば、TLR4アンタゴニストは、口腔粘膜炎や胃腸粘膜炎を引き起こすか又はそのような粘膜炎を発症するリスクを患者に課す療法による治療の前、間、及び/又は後に、患者に投与される。上述のように、そのような治療には、放射線療法及び化学療法が含まれ、それらは、胃腸、呼吸器及び泌尿生殖器の表面に存在する癌細胞や上皮細胞のような、急速に分裂する細胞の成長を阻止するよう作用する。粘膜炎を引き起こす治療の具体例としては、乳癌、腸癌、胃癌、泌尿生殖器(例えば、膀胱、前立腺、又は睾丸)の癌、婦人科(例えば、子宮頸部、子宮内膜、卵巣、又は子宮)の癌、頭部及び頸部/食道癌、白血病、肺(小細胞又は非小細胞)癌、リンパ腫(Hodgkin及び非Hodgkin)、黒種、多発性黒種、膵癌、及び肉腫などの疾患の治療あるいは補助治療において用いられる放射線療法(例えば、頭部及び/又は頸部、全身、照準を合わせた、及び/又は超断片化放射線療法)や化学療法が挙げられる。
【0030】
当分野で既知のように、これらの癌は、例えば、rituximab、cetuximab、又はbevacizumabなどの薬剤を単独で、又は化学療法あるいは放射線療法と組み合わせて用いることによって、免疫療法をはじめとする方法を用いて治療することができる。他の例では、粘膜炎を惹起する化学療法としては、カルボプラチン、シスプラチン、及びオキサプラチンのような白金誘導体;パクリタキセル、ドセタキセル、ビノレルビン、ビンクリスチン、及びビンブラスチンのような有糸分裂阻害剤;エトポシド、イリノテカン、及びトポテカンのようなトポイソメラーゼ阻害剤;ゲムシタビン、カペシタビン、フルダラビン、メトトレキセート、5−フルオロウラシル、クラドリビン、ペントスタチン、及びシタラビンのような代謝拮抗物質;ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ダウノルビシン、ブレオマイシン、メクロレタミン及びミトキサントロンのようなDNA合成阻害剤;シクロホスファミド、イホスファミド、及びメルファランカルムスチンのようなアルキル化剤;エストラムスチンのようなホルモン癌剤;ダカルバジンのような他の若しくは未知のメカニズムを有する薬剤を利用するものが挙げられる。これらの使用、並びに癌の治療法は、当業者には周知である。
【0031】
上述のようなTLR4アンタゴニストは、例えば、局所法及び静脈注入をはじめとする標準的な方法を用いて投与することができる。特定の患者に用いられる具体的な方法や投薬量は、例えば、癌治療の種類、不快感の場所、並びに患者の全般的な健康状態に依存する。これらのようなファクターに基づいて、開業医は適切な方法を選択することができる。
【0032】
本発明による治療は、癌治療の前(例えば、癌治療の前、1〜2日あるいは1週間まで)、癌治療と同時(例えば、癌治療と同時に、1〜4時間以内に、あるいは同日に)、又は癌治療停止後まもなく(例えば、停止後1〜4日以内、及び/又は症状が現れる前若しくは現れたとき)に開始することができる。そして治療は、例えば、粘膜炎の症状が実質的になくなるまで、又はそのような症状を発症するリスクがなくなるまで、継続することができる。従って、癌治療の前あるいはそれとほぼ同時に開始した治療は、例えば、1〜3日(例えば、1〜2日)の間継続することができる。他の例では、当業者が適切であると判断する際には、治療は、癌治療の停止後1〜4あるいは2〜3週の間継続される。具体的な例では、本発明による治療は、癌治療の前にのみ;癌治療の前と癌治療と同時に;癌治療の前、同時、及び後に;癌治療と同時にのみ;癌治療と同時、及びその後に;癌治療の後にのみ;あるいは、癌治療の前と後にのみ、実施される。また、本発明による治療は、粘膜炎の症状の状態に応じて、変更、中止、再開することができる。治療は、当業者が適切であると判断する間隔にて実施することができる。例えば、投与は、1、2、3又は4回/日にて実施することができる。
【0033】
口腔内の粘膜炎を患っている患者又は発症するリスクを有する患者の場合には、本書記載のTLR4アンタゴニストは、患部あるいはリスクのある領域に適用し得るジェル、ペースト、スプレー、クリーム、軟膏、又は絆創膏の形態にて口腔内に投与することができる。当該患者は、薬剤を含有する口用リンス剤、チューイングガム、又はドロップを用いて治療することもできる。直腸あるいは膣領域を患っている患者に対しては、当該薬剤は、ジェル、クリーム、軟膏、懸濁物、又は座剤の形態の調合物を用いて投与することができる。また、投与は、浣腸を用いることもできる。他の例では、鼻腔内を患っている患者の場合には、本書記載のような局所投与によるか、又は薬剤の吸引(例えば、米国特許第6,683,063号を参照)によって投与することができる。他の方法では、薬剤は、注射(例えば、局所注射)、又は注入(静脈又は筋肉内)によって投与することができる。
【0034】
上述(及び他の)の投与法において用いられる薬剤の調合は、当分野で既知であり、また、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences (18th edition), ed. A. Gennaro, 1990, Mack Publishing Company, Easton, PAに記載されている(例えば、M.J. Rathbone, ed., Oral Mucosal Drug Delivery, Drugs and the Pharmaceutical Sciences Series, Marcel Dekker, Inc., N.Y., U.S.A., 1996;M.J. Rathbone et al., eds., Modified-Release Drug Delivery Technology, Drugs and the Pharmaceutical Sciences Series, Marcel Dekker, Inc., N.Y., U.S.A., 2003;Ghosh et al., eds., Drug Delivery to the Oral Cavity, Drugs and the Pharmaceutical Sciences Series, Marcel Dekker, Inc., N.Y., U.S.A., 2005;及びMathiowitz et al., eds., Bioadhesive Drug Delivery Systems, Drugs and the Pharmaceutical Sciences Series, Marcel Dekker, Inc., N.Y., U.S.A., 1999も参照されたい)。
【0035】
全ての患者、特に、局所投与では容易に到達できない内部領域を患っている(又は、リスクを有する)患者は、静脈注入のような全身的なアプローチによって治療することができる。この投与法は、化学療法剤又は他の薬剤の投与のためのカテーテルを既に有する患者の場合に特に有用である。投与される薬剤がeritoran(上記参照)であり且つ薬剤の指示量が被験者の仮定平均体重70kgを基準とする場合の当該アプローチの例は、以下の通りである。第1の例では、薬剤は、連続的な静脈注入によって、低い投薬量にて投与することができる。具体例を挙げると、薬剤は、治療過程にわたって、10〜500(例えば、50〜400あるいは100〜200)μg/時間の速度にて投与することができる。患者が長期の看護を必要とする他の例では、薬剤は、例えば、0.1〜20(例えば、1〜8、2〜7、3〜6あるいは4〜5)mg/時間の投薬量にて2〜6(例えば、約4)時間の間、断続的に(例えば、12〜24時間毎)投与することができる。このアプローチのバリエーションでは、初期、即ち、装填投薬の後に装填投薬未満(例えば、半分)の量の継続投薬を行うか、又は第1の例において説明した連続的な注入を行う。当該治療の期間は、例えば、疾患の重篤性及び改善の観察などのファクターに基づいて、当業者が決定し得る。注入法を用いた、eritoranなどのTLR4アンタゴニストの投与に関する詳細は、US−2003−0105033−A1(急速静注又は断続注入)及びWO 00/41703号(連続的な注入)に提示されており、参照することで各々の内容を本書に取り入れることとする。
【0036】
静脈注入によって化合物eritoranを投与する場合、当該薬剤と適合性のある装置及び設備(例えば、中心若しくは末梢静脈カテーテルなどのカテーテル、チューブ、ドリップチャンバ、フラッシュバックバルブ、Y形注入部、ストップコック、及び注入バッグ)を用いるのが好ましい。詳細には、クロルヘキシジンをベースとする抗菌コーティングを備えたカテーテルは、調合時に形成された薬剤ミセルの寸法を不均一とし、それによって血液中濃度が不適切となることが確認されている。従って、例えば、1つ又は複数の他の抗生物質(リファンピンやミノサイクリンなど)を含有する抗菌コーティングのような、クロルヘキシジン以外をベースとする抗菌コーティングを有する装置及び設備を用いるのが好ましい。
【0037】
本発明はまた、1つ又は複数のTLR4アンタゴニスト(例えば、化合物eritoranなどの上述のリピッドAアナログ)と、本書記載の方法における薬剤の使用説明書とを含んで成るキットを包含する。当該キットはまた、任意に、投与において用いられる装置あるいは設備(例えば、クロルヘキシジンコーティングを有さないカテーテル)、及び/又は5%デキストロース(例えば、グルコース)溶液のような、薬剤を投与するための溶液も含むことができる。
【0038】
本発明の方法は、単独で用いても、あるいは粘膜炎の重篤性を緩和させる他の方法と組み合わせて用いてもよい。例えば、本発明の方法は、抗菌若しくは殺菌療法(例えば、ナイスタチン、アンフォテリシン、アシクロビル、バラシクロビル、クロチマゾール、及びフルコナゾールなどの殺菌剤の投与を伴う療法)と組み合わせて実施することができる。そのような治療の具体例として、放射線療法を受ける頭部及び頸部癌の患者は、咽頭部にグラム陰性菌が存在する。抗菌剤を用いて口腔内を選択的に浄化することは、放射線療法に伴う口腔粘膜炎を緩和させる利点があるが、そのような治療の効果には限界がある。抗菌療法では、細菌を殺すことはできるもののエンドトキシンを減らすことはできず、実際にはエンドトキシンを増加させる場合もある。エンドトキシンは感染症の有力な媒介物であるため、粘膜炎を悪化させる可能性があり、患者の口腔粘膜炎を治療するには、抗エンドトキシン化合物(例えば、eritoranなどのリピッドAアナログ)及び抗菌剤を用いた併合療法がより効果的な方法である。
【0039】
本発明の方法はまた、リドカイン、アルチカイン、及び/又はモルヒネ、並びに他の鎮痛剤や抗炎症剤を含有する局所リンス剤、ジェル若しくは軟膏の使用を伴う一時的緩和療法と組み合わせて用いることもできる。本発明の方法に従ってTLR4アンタゴニストと共に用いることのできる他の薬剤及び方法の具体例としては:palifermin(組み替え型ケラチン合成細胞成長因子;rHuKGF;Kepivance(商標);Amgen)及びAES-14(摂取改善されたL-グルタミン懸濁物)(Peterson, J. Support Oncol. 4(2 Suppl. 1)9-13, 2006);口腔冷凍療法、低レベルレーザ療法、クロルヘキシジン、アミホスチン、血液成長因子、ペントキシフィリン、及びグルタミン(Saadeh, Pharmacotherapy 25(4):540-554, 2005);アミホスチン、抗菌ペースト若しくはトローチ、加水分解酵素、氷片、ベンジダミン、リン酸カルシウム、ハチミツ、口腔ケアプロトコル、ポビドン、及び硫酸亜鉛(Worthington et al., Cochrane Database Syst. Rev. 2: CD000978, 2006);フルルビプロフェン(例えば、歯補強剤として投与;Stokman et al., Support Care Cancer 13(1):42-48, 2005);ジフェンヒドラミン、水酸化マグネシウム/水酸化アルミニウム、ナイスタチン、及びコルチコステロイド(Chan et al., J. Oncol. Pharm. Pract. 11(4):139-143, 2005);経口腔粘膜クエン酸フェンタニル(例えば、ドロップ形態にて投与;Shaiova et al., Support Care Cancer 12(4):268-273, 2004);clonazepam(例えば、錠剤の形態;Gremeau-Richard et al., Pain 108(102):51-57, 2004);カプサイシン(例えば、ドロップの形態;Okuno et al., J. Cancer Integr. Med. 2(3):179-183, 2004);ケタミン(例えば、口腔リンス剤の形態;Slatkin et al., Pain Med. 4(3):298-303, 2003);及び顆粒細胞マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)/顆粒細胞コロニー刺激因子(G-CSF)、レーザ光療法、及びグルタミン栄養剤(Duncan et al., Aliment, Pharmacol. Ther. 18(9):853-874, 2003)が挙げられる。
【0040】
本発明は、一部には、以下の実験結果に基づいている。
【0041】
例I
1.イントロダクション
1.1 原理
2系統のC3Hマウス(C3H/HeJ及びC3H/HeOuJ)は、LPSレセプターTLR4(C3H/HeOuJ系統に存在)が存在するか存在しないかの点で互いに相違する。C3H/HeJマウスは、全身放射による致死効果に対しより敏感であるが、鼻への局所的な急速放射の後には、C3H/HeOuJマウスほどは口腔粘膜炎を発症しない。この相違に関するメカニズム原理は、解明されていない。
【0042】
1.2 鼻への急速放射モデル
実験化合物の放射線防護特性を判定するために、マウスの鼻への急速放射モデルを利用した。当該モデルにおける口腔粘膜炎の経過を精査したところ、放射後10〜12日に粘膜炎のピークを迎えた。当該急速モデルにはほとんど全身毒性はなく、放射線による動物死はほとんどおこらなかった。本実験では、口腔粘膜炎を惹起させるために30Gyの線量を用いた。
【0043】
2.実験目的及び概要
2.1 実験目的
後述する実験の目的は、2系統のマウスに関し、口腔粘膜炎の重篤性及び期間への局所的な急速放射の影響を評価することであった。野生型C3H/HeOuJマウスを、エンドトキシン耐性系統のC3H/HeJと比較した。30Gyの急速放射線量をマウスの鼻に誘導して粘膜炎を引き起こした。放射後幾つかの時点において、各系統の4匹のマウスのグループを殺した。殺した際、舌を除去し、3つの断片へと切断した。各舌の前1/3を、後続の組織分析のためにホルマリン中に置いた。各舌の中央1/3を、サイトカイン発現濃度の分析のためにmRNAをもたらすべく抽出処理した。各舌の後部は、後の分析のために液体窒素中で瞬間冷凍した。殺した際に、各動物から血液を採取し、後続のサイトカイン分析のために血清を準備した。この実験では、炎症誘発性サイトカインTNF-α及びIL-6に着目した。
【0044】
2.2 実験概要
合計64匹のマウスを用いた。0日目に、56匹のマウス(28匹がC3H/HeOuJ、28匹がC3H/HeJ)に、線量30Gyの放射線を当てた。また、8匹のマウス(4匹がC3H/HeOuJ、4匹がC3H/HeJ)を、放射線を当てない対照用動物として用いた。動物を殺し、表1記載のスケジュールに従って血液及び組織を採取した。
【0045】
【表1】

【0046】
3. 実験計画
64匹のマウス(32匹がC3H/HeOuJ、32匹がC3H/HeJ)を用いた。マウスは、表2記載のように、放射線処理される各28匹のグループ(グループ1及び2)と、放射線処理されない対照用の各4匹のグループ(グループ3及び4)とに任意抽出した。
【0047】
【表2】

【0048】
実験期間(0日目から14日目)は毎日、各動物の体重を測定した。グループ1及び2の動物は、0日目に、線量30Gyの放射線を鼻に受けた。鉛シールドによって、動物の体の他の部分を保護した。放射後、2時間、6時間、24時間(1日)、3日、6日、10日及び14日に、グループ1及び2から4匹の動物を殺し、後述のように血液及び組織を採取した。グループ3及び4の動物は、1日目に殺して舌を切断し、血液を採取した。各動物からの舌を3つの断片に切断し(前部、中央部、後部)、各舌をホルマリン中に置いた。ホルマリン漬け舌のヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色部を組織分析することによって、粘膜炎をアッセイした。粘膜炎の評価は、実証スケール(validated scale)に従って盲検法(blinded manner)により行った。標準的なELISAアッセイを用いて、サイトカインTNF-α及びIL-6について血清試料をアッセイした。
【0049】
4. 素材及び方法
4.1 動物
生後5〜6週の、体重22.3gのC3H/HeOuJ及びC3H/HeJマウス(Jackson Laboratories)を用いた。動物は、耳パンチを用いて個々に番号を付し、1ケージ当たり約5匹の小グループを配した。動物は、試験開始前に、場に順応させた。この少なくとも2日の間は、欠陥のある状態を呈する動物を除外するために、規則的に動物を観察した。
【0050】
4.2 ハウジング
実験は、温度70°F+/−5°F及び相対湿度50%のろ過処理された空気が提供される動物ルームにて行った。動物ルームは、1時間当たり最低12〜15回の換気を維持するように設定した。当該ルームは、衰退期を設けず、オン12時間オフ12時間から成る明/暗周期をもたらす自動タイマーが設けられていた。Bed-O-Cobs(登録商標)下地を用い、1週間に最低1度は取り替えた。ケージ、表面、ボトル等は、市販の洗浄剤で洗浄し、空気乾燥させた。使用する前に、これらの品は、ラップし、オートクレーブにかけた。フードに導入される表面や素材を市販の消毒剤を用いて消毒した。床は規則的に掃き、市販の洗浄剤を用いて週に最低2度はモップで掃除した。壁及びケージ台は、希釈した漂白剤溶液を用いて月に最低1回はスポンジで掃除した。実験、投与量、動物番号、及び治療グループを識別するのに必要な情報の付されたケージカード若しくはラベルを、全てのケージに配した。実験中、温度及び相対湿度を記録し、当該記録を維持した。
【0051】
4.3 食事
動物には、Labdiet(登録商標)5001食材を与え、任意に水を与えた。
【0052】
4.4 動物の任意抽出及び割り当て
放射前に、マウスを、4つの治療グループへと無作為に分けた。個体番号に対応する耳パッチを用いて、各動物を識別した。ケージカード、即ち、実験番号、治療グループ番号及び動物番号のマークされたラベルを用いて、各ケージを識別した。
【0053】
4.5 放射
実験開始2週以内は、装置の校正を検証した。グループ1及び2の全ての動物に、0日目に放射線を1回(30Gy/1回)当てた。放射線は、0.35mmCuフィルタ装置を備えた、焦点距離50cm、電位160キロボルト(15ma)の線源を用いて生成した。照射は、121.5 cGy/分の速度にて行った。放射前に、麻酔を用いて動物を麻痺させ、鼻だけが露出するように鉛シールド下に配した。
【0054】
4.6 組織、血液の採取及び分析
4.6.1 動物の殺処理及び組織採取
グループ3及び4の動物は、放射処理しない対照用の動物であった。これらの動物から得た測定値によって、本実験における放射処理された全サンプルについての対照ベースラインを得た。グループ3及び4の4匹の動物は、1日目に殺した。
【0055】
グループ1及び2の動物は、実験の幾つかの時点で殺した。各時点において、グループ当たり4匹を殺した。その時点は、放射後、2時間、6時間、24時間、3日、6日、10日、及び14日であった。
【0056】
殺す際、舌を除去し、3つの断片へと切断した。各舌の前1/3は、後続の組織分析のためにホルマリン中に置いた。各舌の中央1/3は、サイトカイン発現濃度分析のためにmRNAをもたらすべく抽出した。各舌の後1/3は、後の分析のために、液体窒素中で瞬間冷凍し保存した。
【0057】
殺す際、およそ1mLの血液を各動物から採取し、後続のサイトカイン分析のために血清を準備した。当該実験では、炎症誘導性サイトカインTNF-α及びIL-6に着目した。
【0058】
4.6.2 サイトカインELISA
酵素結合免疫吸着法(ELISA)は、R and D systemsから販売されているキットを用いて、サイトカインTNF-α及びIL-6について行った。これらのキットは、製造者の説明書に従って用いた。全ての測定は、−80℃にて保存した血清サンプルについて、2度行った。IL-6及びTNF-αの両方を試験するには十分でない量の血清しか採取されなかった場合には、サンプルを1:2若しくは1:4に希釈し、両アッセイについて2度行った。全てのアッセイは、1ウェル当たりサンプル50μLを用いた。
【0059】
4.6.3 組織構造
組織サンプルは、10%ホルムアルデヒド/生理食塩水中に置き、標準的な技術を用いてパラフィン組織について処理した。スライドをヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色し、病理専門家が検査した。
【0060】
4.7 結果の評価
一元配置分散分析(one-way ANOVA)を用いて、治療グループ間の統計学的な差異を評価した。治療グループ間の差異として、体重を評価した。
【0061】
5.結果及び考察
5.1 生存
10日目、合計6匹が死んだ。これらは、C3H/HeOuJ及びC3H/HeJグループに等しく分散(各グループ、3匹が死んだ)しており、この結果、14日目には各グループ1匹のみを殺した。14日目の時点に関するデータをもたらす追加の動物をもたらすために、追加の動物を放射処理した。
【0062】
5.2 体重(図1及び2)
各グループの体重変化の平均パーセントを図1に示す。この体重変化データから、両グループとも放射後およそ5%体重が減少し、次いで6日目までは体重が増加したことが分かる。6日目から13日目までは、C3H/HeJマウスは、開始体重比較で、増加なし〜5%増加の間を維持した。C3H/HeOuJマウスは、7〜9日目の間におよそ10%体重が減少し、13日目まで体重は増加しなかった。この2つのグループの相違を評価するために、各個体に関する曲線下部面積(AUC)を計算し、一元配置分散分析を用いて差異を評価した。平均AUCデータを図2に示す。一元配置分散分析から、当該グループ間には統計学的な差異(P=0.008)のあることが分かった。
【0063】
5.3 血清サイトカイン濃度
血清のサイトカインIL-6及びTNF-α濃度をELISAによって評価した。
【0064】
5.3.1 血清IL-6濃度
放射線処理されないC3H/HeOuJマウスでは、血清の平均サイトカインIL-6濃度は1.0 pg/mLであった。この濃度は、放射6時間後には88.8 pg/mLまで増加し、放射3日目には12.0 pg/mLに低下し、6日目には122.7 pg/mLのピーク濃度にまで増加した。10日目及び14日目には、6日目でみられたピーク濃度から徐々に減少していた。放射処理されないC3H/HeJマウスに関しては、血清の平均IL-6濃度は13.8 pg/mLであった。血清のIL-6濃度が69.4 pg/mLまで増加した10日目の時点を除いて、他の全ての読み値は25〜42 pg/mLであった。これらのデータは、図3に示す。
【0065】
5.3.2 血清のTNF-α濃度
放射処理されないC3H/HeOuJマウスの血清のTNF-α平均濃度は、48.0 pg/mLであった。これらのマウスに関しては、2時間後(168.7 pg/mL)と10日目(410.2 pg/mL)に、血清TNF-α濃度のピークが2つあった。これら2つのピークの間の時点においては、血清TNF-α濃度は、放射処理されないC3H/HeOuJマウスの場合の濃度に近かった(31.6 pg/mL〜87.2 pg/mL)。10日目及び14日目には、放射処理されない対照よりも濃度は低かった(それぞれ5.7 pg/mL及び6.6 pg/mL)。C3H/HeJマウスに関しては、放射処理されない対照用マウスは、109.3 pg/mLという血清TNF-α濃度を有した。放射後の読み値は概してこれよりも低く、放射後6時間にて14.2 pg/mLから10日目にて133.8 pg/mLの範囲であった。これらのデータは、図4に示す。
【0066】
5.4 舌組織
各舌の部分を、通常のヘマトキシリン及びエオシン(H&E)組織に関して処理した。次いで、これらのスライドを病理専門家が検査し、0〜3のスケールにて上皮組織及び結合組織の病理状態を、また、上皮組織の有糸分裂、潰瘍パーセント、骨格筋の損傷、高倍率領域(high powered fields)10箇所当たりの炎症細胞数(特異的細胞タイプ分析(differential cell type analysis)を含む)、及び小血管、中血管及び大血管の数を評価した。
【0067】
5.4.1 組織評価
各サンプルの上皮組織及び結合組織領域は各々、別個に評価した。上皮組織に関する評価は図5に示している。放射処理されていないC3H/HeOuJマウスに関する上皮組織の平均スコアは0であり、平均スコアが0.25であった1日目、平均スコアが2であった6日目及び10日目を除く全ての放射後時点においてもそうであった。C3H/HeJマウスに関しては、スコアが0.75であった6日目を除き、全ての時点において、上皮組織の平均スコアは0であった。結合組織に関する平均スコアのデータは図6に示している。放射処理を受けていないC3H/HeOuJマウスの結合組織の平均組織スコアは2であった。このスコアは、放射後2時間において0に低下し、放射後1日目には1へと増加し、3日目には0に低下し、10日目及び14日目には1.5へと増加した。C3H/HeJマウスに関しては、放射処理を受けていないマウスの上皮組織の平均組織スコアは1.25であり、放射後2時間において0.25に低下し、10日目には1.25へと徐々に増加した。結合組織に関しては、C3H/HeOuJ及びC3H/HeJマウスの両方について、放射後のどの時点よりも、放射処理を受けていない対照用マウスの方が、組織スコアは高かった。この理由は、現在のところ、不明である。
【0068】
5.4.2 炎症
各時点における、各系統のマウスについて、高倍率領域10箇所当たりの炎症細胞の平均数を計算し、その結果を図7に示している。放射処理されていない動物の結合組織においてみられた細胞数は、両系統のマウスに関し、予測されたよりも多く、C3H/HeJマウスに関しては、照射後のどの時点においてもそれより少なかった。C3H/HeOuJマウスに関しても、照射処理されていない対照よりも約2倍も細胞数の多い(2時間及び6時間の時点よりも約10倍多い)10日目と、放射処理されていない対照よりも数が約50%多い14日目を除けば、ほとんどの時点において、炎症細胞の数は、放射処理されていない対照において確認されたものよりも少なかった。結合組織の病理学スコアに関しては、放射処理されていない動物においてみられた予期せぬ高い数値の理由は不明である。全ての場合において、浸潤物の大半はリンパ細胞から構成されており、リンパ細胞以外のほぼ全てがモノサイト及びマクロファージである。有意数のpolymorphonucleocyte(PMN又は好中球)は、10日目の時点から、3匹(1匹のOuJ及び2匹のHeJ)においてしか見られなかった。
【0069】
5.4.3 上皮細胞の有糸分裂
上皮細胞層でみられた有糸分裂像の数を数えた。各時点における各系統に関して高倍率領域10箇所当たりの有糸分裂の平均数を図8に示している。C3H/HeOuJマウスの舌の上皮細胞層における有糸分裂像の数は概して低く、放射処理されていないマウスでは平均0.4であり、平均2.75が確認された6日目を除いて、全ての時点においてこれよりも低かった。C3H/HeJマウスに関しては、放射処理していないマウスで見られた有糸分裂数は平均0.1であり、C3H/HeOuJマウスの場合よりも低かった。しかしながら、放射後10日目までに0.4にまで上昇した。
【0070】
5.4.4 血管
高倍率領域10箇所当たりの血管数を各サンプルに関し数え、各時点における各系統のマウスに関して平均数を算出した。これらのデータは、図9に示している。高倍率領域10箇所当たりの血管数は、放射処理していないC3H/HeOuJマウスでは26.6であり、放射処理していないC3H/HeJマウスでは27.2であった。C3H/HeOuJマウスに関しては、血管数は、放射後2時間で4.5へと明らかに低下し、1日目に20.6へと上昇し、3日目に8.5へと下がり、6日目及び10日目に上昇し、14日目には33.7のピーク値に達した。これは、放射処理していない対照に関して27%の、2時間の時点に関して648%の増加を示している。1日目に殺した、放射処理していない対照動物が、1日目の時点と同等のレベルを有することが興味深い。C3H/HeJマウスに関しては、血管数は、放射処理していない対照とほぼ近く、放射後2時間において最小値18.3になり、放射後6日目には最大値33.1となった。血管の質的変化を評価するために、高倍率領域10箇所当たりの大血管の数を評価し、得られた数を、同高倍率領域10箇所において見られた血管総数のパーセンテージとして表した。この分析結果は図10に示している。そこでは、C3H/HeOuJマウス中の大血管の数は、放射処理していない対照マウスの平均9.2%から1日目(放射後24時間)の26.5%のピークまで増加し、実験の残りの期間では低下したことが分かる。C3H/HeJマウスは、放射処理していないマウスに関しては13.2%とわずかに高い対照レベルを有し、放射後6日目には18.7%のピークに増加し、そして放射後10日目及び14日目には対照以下のレベルへと低下した。
【0071】
6.結論
1.この実験期間中、C3H/HeOuJマウスはC3H/HeJマウスよりも体重の低下が大きく、一元配置分散分析試験を用いて評価した際、確認された差異は統計学的に有意であった(P=0.008)。
【0072】
2.血清サイトカイン濃度の分析では、放射処理していないC3H/HeJ対照マウスは、対応するC3H/HeOuJよりも高い濃度を有するが、C3H/HeOuJマウスはC3H/HeJよりも放射後の血清サイトカインの増大は大きいことが分かった(放射後6日目にIL-6及びTNF-α両者のピーク濃度が確認された)。
【0073】
3.病理学的に、C3H/HeJマウスに関しては、非常に僅かな変化がみられた。C3H/HeOuJマウスは、放射後6日目及び10日目に上皮組織の著しい破壊がみられた。結合組織に関する病理学的スコアは、放射処理していない対照C3H/HeOuJマウスは高く、放射後2時間から6日にかけて低下し、放射後10日目及び14日目に対照レベル付近に戻った。
【0074】
4.C3H/HeJマウスに関しては炎症細胞存在数はほとんど変化しなかったが、C3H/HeOuJマウスでは放射後10日目のピークへと増加し、これは、これらの動物の組織サイトカイン濃度のピークと一致した。浸潤物は、主にリンパ球であった。
【0075】
5.上皮細胞層において確認された有糸分裂数については、C3H/HeOuJマウスでは6日目に有糸分裂活性が著しく高まったのに対し、C3H/HeJマウスでは僅かに増加し、10日目にピークを迎えた。
【0076】
6.血管の数及び寸法の分析については、C3H/HeOuJマウスは放射直後(放射後2時間及び6時間)に血管数が低下し、その後の時点(放射後10日目及び14日目)では総じて増加したのに対し、C3H/HeJマウスではほとんど変化はなかった。C3H/HeOuJマウスでは、放射後24時間に大血管パーセンテージの増加が認められた。
【0077】
例II
1.イントロダクション
1.1 原理
例Iで述べたように、2系統のC3Hマウス(C3H/HeJ及びC3H/HeOuJ)は、LPSレセプターTLR4(C3H/HeOuJ系統に存在)が存在するか存在しないかの点で互いに相違する。上述の実験では、C3H/HeOuJ系統は鼻への放射線照射により口腔粘膜炎に感染しやすいのに対し、C3H/HeJ系統は放射線誘導性粘膜炎に比較的耐性のあることが照明された。これらの動物についての炎症誘発性サイトカインの評価では、C3H/HeOuJマウスにおけるLPSレセプターTLR4を介した当該サイトカインの惹起が口腔粘膜炎の発症に或る役割を果たす可能性のあることが示された。以下に述べる実験の目的は、口腔粘膜炎のネズミ科モデルにおいてTLR4の刺激を阻害する化合物(eritoran)を評価することである。
【0078】
1.2 鼻への急速放射モデル
実験化合物の放射線防護特性を判定するために、マウスの鼻への急速放射モデルを利用した。当該モデルにおける口腔粘膜炎の経過を精査したところ、放射後10〜12日に粘膜炎のピークを迎えた。当該急速モデルにはほとんど全身毒性はなく、放射線による動物死はほとんどおこらなかった。本実験では、口腔粘膜炎を惹起させるために30Gyの線量を用いた。
【0079】
2.実験目的及び概要
2.1 実験目的
後述する実験の目的は、放射線により惹起された口腔粘膜炎の重篤性及び期間への、皮下投与されたeritoranの効果を検証することであった。30Gyの急速放射線量をマウスの鼻に誘導して粘膜炎を引き起こした。放射後幾つかの時点において、各系統の4匹のマウスのグループを殺した。殺した際、舌を除去し、3つの断片へと切断した。各舌の前1/3を、後続の組織分析のためにホルマリン中に置いた。各舌の中央1/3を、サイトカイン発現濃度の分析のためにmRNAをもたらすべく抽出処理した。各舌の後部は、後の分析のために液体窒素中で瞬間冷凍し保存した。殺した際に、各動物から血液を採取し、後続のサイトカイン分析のために血清を準備した。
【0080】
2.2 実験概要
合計54匹のマウスを用いた。48匹のC3H/HeOuJマウスを1グループ当たり16匹から成る3グループ(グループ1−3)へと分けた。残りの6匹は、表2記載のように、別個の対照グループ(グループ4)とした。
【0081】
3. 実験計画
体重約22gの、生後6〜7週の54匹の雄のC3H/HeOuJマウスを用いた。それぞれ16匹から成る3つの治療グループと、放射線を受けない6匹から成る対照グループとした。全ての動物は、3日目に、左頸静脈に挿入された頸部カニューレを有していた。0日目に、グループ1及び4の動物に、カニューレを介してプラシーボを日に2度注入した。グループ2の動物には、0日目に、放射前に2時間以下、1mg/kgにて規則的にeritoranの2IV注入物を投与し、10日目まで続けた。グループ3の動物には、0日目に、放射前に2時間以下、10mg/kgにて規則的にeritoranの2IV注入物を投与し、10日目まで続けた。グループ1、2及び3の動物には、0日目に、鼻に線量30Gyの放射線を当てた。グループ4の6匹は、放射処理しない対照用動物として用いた(表2参照)。グループ1、2及び3の各々から8匹を殺し、表2記載のスケジュールに従って血液及び組織を採取した。
【0082】
【表3】

【0083】
4. 素材及び方法
4.1 動物
生後5〜6週の、体重21.3gのC3H/HeOuJマウス(Jackson Laboratories)を用いた。動物は、耳パンチを用いて個々に番号を付し、個々に住まわせた。動物は、試験開始前に、場に順応させた。この少なくとも2日の間は、欠陥のある状態を呈する動物を除外するために、規則的に動物を観察した。
【0084】
4.2 ハウジング
実験は、例Iのセクション4.2において先述した動物ルームにおいて行った。
【0085】
4.3 食事
動物には、無菌照射されたネズミ用Labdiet(登録商標)5061食材を与え、任意に水を与えた。
【0086】
4.4 動物の任意抽出及び割り当て
放射前に、マウスを、3つの治療グループへと無作為に分けた。個体番号に対応する耳パッチを用いて、各動物を識別した。ケージカード、即ち、実験番号、治療グループ番号及び動物番号のマークされたラベルを用いて、各ケージを識別した。
【0087】
4.5 放射
実験開始2週以内は、装置の校正を検証した。グループ1及び2の全ての動物に、0日目に放射線を1回(30Gy/1回)当てた。放射線は、0.35mmCuフィルタ装置を備えた、焦点距離50cm、電位160キロボルト(15ma)の線源を用いて生成した。照射は、121.5 cGy/分の速度にて行った。放射前に、麻酔を用いて動物を麻痺させ、鼻だけが露出するように鉛シールド下に配した。
【0088】
4.6 組織の採取及び分析
4.6.1 組織構造
組織サンプルは、10%ホルムアルデヒド/生理食塩水中に置き、標準的な技術を用いてパラフィン病理組織について処理した。スライドをヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色した。
【0089】
4.7 結果の評価
一元配置分散分析(one-way ANOVA)を用いて、治療グループ間の統計学的な差異を評価した。治療グループ間の差異として、体重を評価した。
【0090】
5.結果及び考察
5.1 体重(図11及び12)
実験各日における各グループの体重増加の平均パーセントを図11に示す。放射線を受けていない対照グループは実験中に平均8.1%増加したのに対し、プラシーボグループでは平均0.8%低下した。eritoranを受容したグループに関しては、10mg/kg受容したグループが正味0.2%低下したのに比べて、1mg/kg受容したグループでは平均4.0%体重が増加した。放射線を受容した3グループについてのこの分析結果は、図12に示している。これら3グループ間には有意な差はなかった(P=0.261)。放射線を受けていない対照と比較すると、放射線を受けていないグループと、プラシーボ(P<0.001)及び10mg/kgのeritoran(P<0.001)を受容した放射線処理したグループとの間には有意の差があった。
【0091】
5.3 舌組織
各舌を、通常のヘマトキシリン及びエオシン病理組織に関して処理した。幾つかの技術的理由のため、合計44サンプルを評価した。これら44サンプルのうち、6個は放射線を受けていない対照グループであり、12個はプラシーボグループ(6日目及び10日目についてそれぞれ6つ)であり、14個はeritoran 1 mg/kgで処理したグループ(6日目及び10日目についてそれぞれ7つ)、12個はeritoran 10 mg/kgで処理したグループ(6日目について7個、10日目について5個)であった。
【0092】
データセット全体について最もよく見られた結果は正常であった。これは、14サンプルにおいていえ、そのうちの4つは放射処理を受けていない対照グループであった。1mg/kgのeritoranで処理されたグループの14サンプルのうちの6つ(6日目の7つのサンプルのうち2つ、10日目の7つのサンプルのうち4つ)、並びに10mg/kgのeritoranで処理されたグループの12サンプルのうちの3つ(6日目の7つのサンプルのうち1つ、10日目の5つのサンプルのうち2つ)についても正常といえる。プラシーボで処理されたグループの12サンプルのうち1つのみが正常であった(6日目のサンプル)。
【0093】
過角化症もまた、サンプルのうち14個において見られた。そのうち、放射線処理を受けていない対照グループにおいてみられなかった。過角化症は、10mg/kgのeritoranで処理したグループから得たサンプルにおいて最もよく見られ、12サンプルのうち7つ(6日目の7サンプルのうち3つ、10日目の5サンプルのうち4つ)がそうであった。過角化症は、1mg/kgのeritoranで処理したグループから得た14サンプルのうち5つ(6日目の7サンプルのうち1つ、10日目の7サンプルうち4つ)においても見られた。プラシーボグループにおいては2サンプル(各時点において1つ)しか過角化症を呈さなかった。上皮過角化症は5サンプルにおいてのみみられたが、これらのサンプルのうち4つは10mg/kgのeritoranで処理されたグループのもの(各時点において2つ)であり、5番目のものはプラシーボグループのもの(6日目)であった。これらの結果から、プラシーボ対照に比べて、eritoranで処理された両グループは実質的な改善を示したことが分かり、高投薬量にて処理したグループ(10mg/kg)は過形成及び過角化症の傾向を示した。
【0094】
結合組織の損傷や破壊は、合計11サンプルにおいて見られた。そのうちの8つはプラシーボで処理されたグループのもの(6日目の6サンプルのうち3つ、10日目の6サンプルのうち5つ)であり、2つは1mg/kgのeritoranで処理したグループのもの(6日目の両者)であり、1つは10mg/kgのeritoranで処理したグループのもの(6日目)のものであった。上皮の損失や損傷は7サンプルにおいて認められ、上皮の萎縮はさらに5サンプルにおいても認められた。上皮損傷を被ったこれら12サンプルのうち、5つはプラシーボ処理されたグループのもの(6日目の2つ、10日目の3つ)であり、5つは1mg/kgのeritoranで処理されたグループのもの(6日目の全て)であり、2つは10mg/kgのeritoranで処理されたグループのもの(6日目の両者)であった。細胞の増大は10サンプルにおいて見られ、その2つはプラシーボグループ(6日目及び10日目についてそれぞれ1つ)であり、5つは1mg/kgのeritoranで処理したグループ(6日目の1つ、10日目の4つ)であり、3つは10mg/kgのeritoranで処理したグループ(6日目の1つ、10日目の2つ)であった。2種類の浸潤物が確認された。球形細胞又はリンパ球浸潤物は8サンプルにおいて認められ、グループ及び時点について等しく分布しており、放射処理していない6つの対照のうち1つにおいてみられた。マスト細胞浸潤物は9サンプルにおいて認められ、そのうち7つはプラシーボ処理したグループ(6日目の5つ、10日目の2つ)であり、他の2サンプルは10mg/kgのeritoranで処理したグループのもの(6日目の時点)であった。血管拡張や血管増大に関する他の観察事項は、治療グループ間に等しく存在し、治療グループ間の有意な差異を示すものではなかった。以上、放射線誘発性の結合組織損傷やマスト細胞浸潤物が少ないことから分かるように、eritoran治療は改善された舌組織に帰着することが示された。
【0095】
5.3.1 舌の背面及び前面の上皮表面の厚さ
各サンプルを、舌の背面及び前面の上皮細胞層の最小数及び最大数について評価した。これらの数から、各時点における各グループについて、平均最小厚さ及び平均最大厚さを算出した。舌の背面について、放射処理しなかった対照の細胞の層数は6細胞層であった。プラシーボ対照治療グループに関しては、細胞の平均層数は、6日目に2.7であり、10日目に2.0であった。eritoran処理したグループに関しては、細胞の平均最小層数は、1mg/kgグループについて2.8(6日目)及び3.8(10日目)であり、10mg/kgグループについて3.8(6日目)及び3.3(10日目)であった。これらのデータは図13に示している。放射処理していない対照の背面の上皮細胞の平均最大層数は、8であった。プラシーボ処理した対照グループに関しては、細胞の平均層数は、6日目に4.8であり、10日目に3.5であった。eritoran処理したグループに関しては、細胞の平均最大層数は、1mg/kgグループについて5.3(6日目)及び6.4(10日目)であり、10mg/kgグループについて6.2(6日目)及び6.1(10日目)であった。これらのデータは図14に示している。前面に関しては、放射処理していない対照の細胞の平均最大層数は、4細胞層であった。プラシーボ処理した対照治療グループに関しては、細胞の平均最大層数は、6日目に1.7であり、10日目に0.9であった。eritoran処理したグループに関しては、細胞の平均最大層数は、1mg/kgのグループについて2.0(6日目)及び2.8(10日目)であり、10mg/kgのグループについて3.0(6日目及び10日目)であった。これらのデータは図15に示している。放射処理していない対照の前面の上皮細胞の平均最大層数は6であった。プラシーボ処理した対照治療グループに関しては、細胞の平均層数は、6日目に4.2であり、10日目に2.4であった。eritoran処理したグループに関しては、細胞の平均最小層数は、1mg/kgのグループについて3.7(6日目)及び4.6(10日目)であり、10mg/kgのグループについて5.8(6日目)及び5.9(10日目)であった。これらのデータは図16に示している。これらの結果から、eritoranは、上皮細胞層を保護することが示され、10mg/kgのグループは、特に前面に関して1mg/kgのグループよりも僅かに高い保護能を示した。
【0096】
6.結論
1.この実験では著しい死亡率がみられたが、この過度の死亡率は1つの治療グループに関連するものではなかった。
【0097】
2.放射処理された3つのグループ間において、体重増加における有意な統計学的差異はみられなかった。
【0098】
3.正常とされたサンプルの数から分かるように、eritoranで処理した両グループは、プラシーボ処理された対照グループと比較して、舌の病理組織において改善を示し、上皮過角化症及び過形成を増やし、結合組織の損傷やマスト細胞浸潤物を低下させた。
【0099】
4.eritoranで処理された両グループは舌組織における改善を示したが、1mg/kgのグループと10mg/kgのグループとの間には組織形態において識別し得る差異が存在した(どの投薬量がより大きな改善を示すかは明らかではないが)。
【0100】
例III
1.イントロダクション
1.1 原理
上述のように、2系統のC3Hマウス(C3H/HeJ及びC3H/HeOuJ)は、LPSレセプターTLR4(C3H/HeOuJ系統に存在)が存在するか存在しないかの点で互いに相違し、そして、C3H/HeOuJ系統は鼻への放射線照射により口腔粘膜炎に感染しやすいのに対し、C3H/HeJ系統は放射線誘導性粘膜炎に比較的耐性がある。さらに上述のように、これらの動物についての炎症誘発性サイトカインの評価では、C3H/HeOuJマウスにおけるLPSレセプターTLR4を介した当該サイトカインの惹起が口腔粘膜炎の発症に或る役割を果たす可能性のあることが示された。例IIに記載の実験では、口腔粘膜炎のモデルにおいてeritoranの有効性が実証された。以下に述べる実験では、eritoranの最適な投薬スケジュールを決定する。
【0101】
1.2 鼻への急速放射モデル
実験化合物の放射線防護特性を判定するために、マウスの鼻への急速放射モデルを利用した。当該モデルにおける口腔粘膜炎の経過を精査したところ、放射後10〜12日に粘膜炎のピークを迎えた。当該急速モデルにはほとんど全身毒性はなく、放射線による動物死はほとんどおこらなかった。本実験では、口腔粘膜炎を惹起させるために30Gyの線量を用いた。
【0102】
2.実験目的及び概要
2.1 実験目的
この実験の目的は、放射線により惹起された口腔粘膜炎の重篤性及び期間への、静脈投与されたeritoranのスケジュールの影響を検証することである。30Gyの急速放射線量をマウスの鼻に誘導して粘膜炎を引き起こした。放射後10日目に、各治療グループから4匹のマウスのグループを殺した。殺した際、各動物から血液を採取し、後続のサイトカイン分析のために血清を準備した。これらのサンプルは、血清腫瘍壊死因子(TNF-α)、インターロイキン-6(IL-6)、及び血清アミロイドA(SAA)濃度の測定のために用いた。
【0103】
2.2 実験概要
60匹のC3H/HeOuJマウスをJackson Laboratoriesから入手した。これらの動物は、頸部カニューレを既に取り付けらた状態で出荷されたものであった。それらの動物を、表4記載のように、グループ当たり10匹から成る6つのグループへと無作為に分けた。
【0104】
3. 実験計画
体重約22gの、生後6〜7週の60匹の雄のC3H/HeOuJマウスを用いた。それぞれ10匹から成る5つの治療グループと、放射線を受けない10匹から成る対照グループとした。0日目に、グループ1−6の動物に、放射前に2時間以下、プラシーボ又は10mg/kgのeritoranの何れかを投与した。投与は、放射処理日(0日目)から9日目まで、日に2度続けた。グループ1及び2の動物には、投与期間中ずっとプラシーボを与えた。グループ3の動物には、投与期間の全体にわたって、10mg/kgにてeritoranを与えた。グループ4の動物には、0日目から3日目まで日に2度10mg/kgにてeritoranを与え、次いで投与期間の終わりまで日に2度プラシーボを与えた。グループ5の動物には、0日目から2日目まで日に2度プラシーボを与え、次いで3日目から6日目まで日に2度10mg/kgにてeritoranを与え、次いで投与期間の終わりまで日に2度プラシーボを与えた。グループ6の動物には0日目から5日目まで日に2度プラシーボを与え、次いで投与期間の終わりまで日に2度10mg/kgにてeritoranを与えた。薬剤及びプラシーボの投与の全ては、頸部カニューレを介して静脈注入であった。
【0105】
【表4】

【0106】
実験期間(0日目から10日目)の毎日、各動物の重量を精度0.1gにて量った。放射後10日目に、全ての動物を殺し、病理組織分析のために舌を採取した。殺した際に血液を採取し、血清を−80℃にて貯蔵した。
【0107】
4. 素材及び方法
4.1 動物
生後5〜6週の、体重23.2gのC3H/HeOuJマウス(Jackson Laboratories)を用いた。動物は、出荷前にJackson Laboratoriesによって頸部カニューレを取り付けられ、そして耳パンチを用いて個々に番号を付し、個々に住まわせた。動物は、試験開始前に、場に順応させた。この少なくとも2日の間は、欠陥のある状態を呈する動物を除外するために、規則的に動物を観察した。
【0108】
4.2 ハウジング
実験は、例Iのセクション4.2において先述した動物ルームにおいて行った。
【0109】
4.3 食事
動物には、無菌照射されたネズミ用Labdiet(登録商標)5061食材を与え、任意に水を与えた。
【0110】
4.4 動物の任意抽出及び割り当て
放射前に、マウスを、3つの治療グループへと無作為に分けた。個体番号に対応する耳パッチを用いて、各動物を識別した。ケージカード、即ち、実験番号、治療グループ番号及び動物番号のマークされたラベルを用いて、各ケージを識別した。
【0111】
4.5 放射
実験開始2週以内は、装置の校正を検証した。グループ1及び2の全ての動物に、0日目に放射線を1回(30Gy/1回)当てた。放射線は、0.35mmCuフィルタ装置を備えた、焦点距離50cm、電位160キロボルト(15ma)の線源を用いて生成した。照射は、121.5 cGy/分の速度にて行った。放射前に、麻酔を用いて動物を麻痺させ、鼻だけが露出するように鉛シールド下に配した。
【0112】
4.6 組織の採取及び分析
4.6.1 組織構造
組織サンプルは、10%ホルムアルデヒド/生理食塩水中に置き、標準的な技術を用いてパラフィン病理組織について処理した。スライドはヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色した。
【0113】
4.6.2 サイトカインELISA
酵素結合免疫吸着法(ELISA)は、R and D systemsから販売されているキットを用いて、サイトカインTNF-α及びIL-6について行った。血清アミロイドAの判定は、Biosource InternationalからのELISAキットを用いて行った。これらのキットは、製造者の説明書に従って用いた。全ての測定は、−80℃にて保存した血清サンプルについて、2度行った。サンプルは3つのアッセイの全てにおいて2度試験し、IL-6、SAA及びTNF-αアッセイを行うには十分でない量の血清しか採取されなかった場合には、サンプルを1:4に希釈した。全てのアッセイは、1ウェル当たりサンプル50μLを用いた。
【0114】
4.7 結果の評価
一元配置分散分析(one-way ANOVA)を用いて、治療グループ間の統計学的な差異を評価した。治療グループ間の差異として、体重を評価した。
【0115】
5.結果及び考察
5.1 生存
この実験では、合計108匹のカニューレを挿入された動物を用いた。当該C3H/HeOuJマウスの利用は限られているため、これらの動物は、6週間かけて3グループに処理した。これらのマウスのうち57匹は、10日目まで生きていた。10日目まで生きなかった51匹のマウスのうち、21匹は0日目に死亡するか又は安楽死させた。このうち、11匹は麻酔や放射線によるものであり、10匹はカニューレの問題によるものであった(初期注入後、凝血塊、カニューレ不通、又はカニューレ脱落により死亡)。実験期間中に死亡するか又は安楽死させた残り30匹のうち、2匹は1日目に、5匹は2日目に、4匹は3日目に、7匹は4日目に、3匹ずつ5日目及び6日目に、1匹ずつ7日目及び8日目に、2匹ずつ9日目及び10日目に死んだ。死亡率はグループ間でほぼ等しかった。放射処理しない対照グループ並びに賦形剤対照グループの各々について、9匹の死亡が確認された。0〜10日目又は0〜3日目に10mg/kgのeritoranで処理したグループの各々について、7匹の死亡が確認された。3日目から6日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループでは9匹の死亡が確認され、また、6日目から9日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループでは10匹の死亡が確認された。
【0116】
5.2 体重(図17、18、19及び20)
実験各日における各グループの体重増加の平均パーセントを図17に示す。放射線を受けていない対照グループは実験中に平均3.2%増加したのに対し、プラシーボグループでは平均12.1%低下した。10mg/kg にてeritoranを受容したグループに関しては、0−10日目に処理したグループが平均7.8%の体重低下を示したのに比べて、0−3日目に処理したグループでは正味2.2%低下し、3−6日目に処理したグループでは正味7.3%低下し、6−9日目に処理したグループでは正味8.9%低下した。確認された体重変化の差異が有意であるか否かを判定するために、平均の曲線下面積(AUC)データについて一元配置分散分析を実施した。当該分析の結果を図18に示す。放射線を受けた3つのグループは放射線を受けていない対照とは著しく異なり、プラシーボグループ(P<0.001)、0日目から10日目までeritoranで処理したグループ(P=0.014)、及び6日目から9日目までeritoranで処理したグループ(P=0.025)であった。0日目から3日目まで又は3日目から6日目までeritoranで処理したグループは、放射処理しない対照とさほど差異はなかった。しかしながら、0日目から3日目までeritoranで処理したグループは、プラシーボ対照よりも体重低下は著しく少なかった(P=0.030)。実験中に死亡した全ての動物からのデータを除去して、体重データを再分析した。この分析結果は図19及び20に示している。この実験では0日目から9日目までeritoranで処理したグループが放射処理していない対照とさほど差異がなかったことを除いて、一元分散分析の結果とほどんど差異はなかった。
【0117】
5.3 舌組織
各舌を、通常のヘマトキシリン及びエオシン病理組織に関して処理し、盲検法によってスライドを検査した。合計57サンプルを評価した。このうち、9個は放射処理しない対照グループのものであり、9個はプラシーボグループのものであり、11個は0日目から9日目まで10mg/kgにてeritoranで処理したグループのものであり、11個は0日目から3日目まで10mg/kgにてeritoranで処理したグループのものであり、9個は3日目から6日目まで10mg/kgにてeritoranで処理したグループのものであり、そして9個は6日目から9日目まで10mg/kgにてeritoranで処理したグループのものであった。各サンプルからの3つの部分を以下のパラメータについて評価した:上皮スコア、結合組織スコア、炎症スコア、高倍率領域(hpf)10箇所当たりの有糸分裂、潰瘍パーセント、hpf10箇所当たりの炎症細胞の数(好中球、リンパ球、及びモノサイト/マクロファージのパーセント)、hpf10箇所当たりの小血管、中血管及び大血管の数、並びにhpf10箇所当たりのマスト細胞の数。
【0118】
5.3.1 上皮スコア
セクション4.7.1で概説したように、上皮組織を、0〜3の4点についてスコア付けした。これらのスコアは図21に示している。放射処理しない動物は全て、スコア0であった。プラシーボ対照グループの平均スコアは、0日目から9日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループと同様に、1.1であった。0日目から3日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループの平均スコアは0.45であった。3日目から6日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループの平均スコアは0.89であった。6日目から9日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループの平均スコアは0.75であった。
【0119】
5.3.2 結合組織スコア
セクション4.7.1で概説したように、結合組織を、0〜3の4点についてスコア付けした。これらのスコアは図22に示している。放射処理しない動物は全て、スコア0であった。プラシーボ対照グループの平均スコアは0.4であり、0日目から9日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループの平均スコアは0.6であった。0日目から3日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループの平均スコアは0.4であった。3日目から6日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループの平均スコアは0.6であった。6日目から9日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループの平均スコアは0.8であった。
【0120】
5.3.3 炎症スコア
セクション4.7.1で概説したように、炎症を、0〜3の4点についてスコア付けした。これらのスコアは図23に示している。放射処理しない動物は全て、スコア0であった。プラシーボ対照グループの平均スコアは0.4であり、0日目から9日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループの平均スコアは0.5であった。0日目から3日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループの平均スコアは0.4であった。3日目から6日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループの平均スコアは0.6であった。6日目から9日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループの平均スコアは0.8であった。
【0121】
5.3.4 有糸分裂の数
有糸分裂の数を、高倍率領域(hpf)10箇所当たりについて数えた。これらのデータは図24に示している。放射処理しない動物では、hpf10箇所当たりの有糸分裂数は平均1.2であった。プラシーボ対照グループでは、hpf10箇所当たりの有糸分裂数は平均3.9であった。0日目から9日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループでは、hpf10箇所当たりの有糸分裂数は平均2.3であった。0日目から3日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループでは、hpf10箇所当たりの有糸分裂数は平均1.5であった。3日目から6日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループでは、hpf10箇所当たりの有糸分裂数は平均1.6であった。6日目から9日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループでは、hpf10箇所当たりの有糸分裂数は平均1.5であった。
【0122】
5.3.5 潰瘍パーセント
各グループについて、潰瘍パーセントを評価した。これらのデータは図25に示している。放射処理していない動物に潰瘍はなかった。プラシーボ対照グループは、平均13.3%の潰瘍を有した。0日目から9日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループは、平均13.2%の潰瘍を有した。0日目から3日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループは、平均2.7%の潰瘍を有した。3日目から6日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループは、平均16.7%の潰瘍を有した。6日目から9日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループは、平均10.0%の潰瘍を有した。
【0123】
5.3.6 炎症細胞浸潤物
hpf10箇所当たりの炎症細胞の合計数を数えることによって各サンプルに存在する炎症細胞浸潤物を評価し、そして浸潤物中の好中球、リンパ球、又はモノサイト/マクロファージといった細胞の割合を評価することによって細胞タイプについて評価した。炎症細胞数のデータは図26に、好中球パーセントは図27に、リンパ球パーセントは図28に、そしてモノサイト/マクロファージパーセントは図29に示している。放射処理しない動物は、10hpf当たり平均9.3の細胞を有し、平均組成はリンパ球98.9%及びモノサイト/マクロファージ1.1%であり、好中球は見られなかった。プラシーボ対照グループは、10hpf当たり平均44.9の細胞を有し、平均組成は好中球10.6%、リンパ球86.7%及びモノサイト/マクロファージ2.8%であった。0日目から9日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループは、10hpf当たり平均43.6の細胞を有し、平均組成は好中球13.6%、リンパ球82.7%及びモノサイト/マクロファージ4.5%であった。0日目から3日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループは、10hpf当たり平均33.3の細胞を有し、平均組成は好中球6.4%、リンパ球93.2%及びモノサイト/マクロファージ0.5%であった。3日目から6日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループは、10hpf当たり平均31.5の細胞を有し、平均組成は好中球7.2%、リンパ球91.1%及びモノサイト/マクロファージ1.15%であった。6日目から9日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループは、10hpf当たり平均52.1の細胞を有し、平均組成は好中球8%、リンパ球91.0%及びモノサイト/マクロファージ1.0%であった。
【0124】
5.3.7 血管
10hpf当たりの血管の合計数を数えることによって各サンプル中に存在する血管の数を評価し、当該サンプル中の小血管、中血管及び大血管の数を数えることによって血管サイズを評価した。これらのデータは図30〜32に示している。放射処理していない動物は10hpf当たり平均5.6の血管を有し、その平均組成は小血管63.3%、中血管20.7%及び大血管16.0%であった。プラシーボ対照グループは10hpf当たり平均8.8の血管を有し、その平均組成は小血管63.9%、中血管22.3%及び大血管13.9%であった。0日目から9日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループは、10hpf当たり平均9.4の血管を有し、平均組成は小血管74.6%、中血管16.1%及び大血管9.3%であった。0日目から9日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループは、10hpf当たり平均9.4の血管を有し、平均組成は小血管74.6%、中血管16.1%及び大血管9.3%であった。0日目から3日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループは、10hpf当たり平均8.2の血管を有し、平均組成は小血管72.5%、中血管14.9%及び大血管12.6%であった。3日目から6日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループは、10hpf当たり平均7.0の血管を有し、平均組成は小血管67.9%、中血管20.5%及び大血管11.6%であった。6日目から9日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループは、10hpf当たり平均7.5の血管を有し、平均組成は小血管72.1%、中血管17.3%及び大血管10.6%であった。
【0125】
5.3.8 マスト細胞
10hpf当たりの細胞数を数えることによって各サンプル中に存在するマスト細胞の数を決定した。これらのデータは図33に示している。放射処理していない動物は10hpf当たり23.7のマスト細胞を有した。プラシーボ対照グループは10hpf当たり26のマスト細胞を有した。0日目から9日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループは、10hpf当たり18.4のマスト細胞を有した。0日目から3日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループは、10hpf当たり24.4のマスト細胞を有した。3日目から6日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループは、10hpf当たり24.2のマスト細胞を有した。6日目から9日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループは、10hpf当たり24.5のマスト細胞を有した。
【0126】
5.4 血清サイトカイン濃度
TNF-α、IL-6及びSAAの血清濃度は、市販のELISAキットを用いて測定した。
【0127】
5.4.1 血清TNF-α濃度
放射処理しない動物の血清TNF-α濃度は43.0pg/mLであった。プラシーボ対照グループの平均血清TNF-α濃度は63.8pg/mLであった。0日目から9日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループの平均TNF-α濃度は62.0pg/mLであった。0日目から3日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループの平均TNF-α濃度は20.3pg/mLであった。3日目から6日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループの平均TNF-α濃度は40.2pg/mLであった。6日目から9日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループの平均TNF-α濃度は119.1pg/mLであった。これらのデータは図34に示している。
【0128】
5.4.2 血清IL-6濃度
放射処理しない動物の血清IL-6濃度は48.7pg/mLであった。プラシーボ対照グループの平均血清IL-6濃度は154.2pg/mLであった。0日目から9日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループの平均IL-6濃度は85.6pg/mLであった。0日目から3日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループの平均IL-6濃度は19.7pg/mLであった。3日目から6日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループの平均IL-6濃度は50.4pg/mLであった。6日目から9日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループの平均IL-6濃度は119.3pg/mLであった。これらのデータは図35に示している。
【0129】
5.4.3 血清SAA濃度
放射処理しない動物の血清SAA濃度は597μg/mLであった。プラシーボ対照グループの平均血清SAA濃度は427μg/mLであった。0日目から9日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループの平均SAA濃度は344μg/mLであった。0日目から3日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループの平均SAA濃度は279μg/mLであった。3日目から6日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループの平均SAA濃度は475μg/mLであった。6日目から9日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループの平均SAA濃度は652μg/mLであった。これらのデータは図36に示している。
【0130】
6.結論
1.本実験からの死亡率や体重減少データにおいて、eritoranによる毒性の証拠はなかった。先の実験と同様に、死亡率は高かったが、グループ間に均一に分布していた。
【0131】
2.0〜3日目にeritoranで処理したマウスは、プラシーボ処理した対照グループと比較して、体重低下において著しい改善を示した。
【0132】
3.プラシーボ処理した対照マウスにおいて確認された口腔粘膜炎のレベルは、予測したよりも低く、口腔粘膜炎のレベルへのeritoranの影響を検査するのは困難であった。
【0133】
4.プラシーボ対照グループでみられた比較的低いレベルの粘膜炎に恐らく起因するであろうが、0日目から9日目まで10mg/kgのeritoranで処理したグループに関しては、当該治療プロトコルの有効性が確認された先の実験とは対照的に、ほどんど効果はみられなかった。
【0134】
5.放射線を受けたグループの中では、0〜3日目にeritoranで処理したグループが最も低い上皮スコア、結合組織スコア、及び潰瘍パーセントを呈し、他のグループよりもダメージを被らないことが示された。このグループはまた、最も低い炎症スコアを呈し、炎症細胞及び有糸分裂の数においても2番目に低かった。
【0135】
6.放射線を受けたグループの中では、0〜3日目にeritoranで処理したグループが最も低いTNF-α、IL-6及びSAAの血清濃度を呈し、炎症反応を軽減させる点でこの処方計画が有効であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】鼻放射線処理後のC3H/HeOuJ及びC3H/HeJマウスの体重変化パーセントを示すグラフ。動物は毎日重量測定し、0日目からの体重変化パーセントを算出し、各々の日についてグループ平均及び当該平均の標準誤差(SEM)を計算した。
【図2】鼻放射線処理したC3H/HeOuJ及びC3H/HeJマウスが呈した体重変化パーセントについて計算された曲線下面積(AUC)を示すグラフ。この計算は、台形法則変換式を用いて行った。グループ平均を計算し、各グループについて、SEMを表す誤差バーを用いて表した。一元配置分散分析試験によって、グループ間に統計学的に有意な差異のあることが示された(P=0.008)。
【図3】鼻放射処理したC3H/HeOuJ及びC3H/HeJマウスの、表記時点においてELISA分析により測定された平均血清IL-6濃度を示すグラフ
【図4】鼻放射処理したC3H/HeOuJ及びC3H/HeJマウスの、表記時点においてELISA分析により測定された平均血清TNF-α濃度を示すグラフ
【図5】鼻放射処理したC3H/HeOuJ及びC3H/HeJマウスの上皮病理組織スコアのグラフ。上皮細胞層の損傷に関して各サンプルを0〜3のスケールにてスコア付けした。
【図6】鼻放射処理したC3H/HeOuJ及びC3H/HeJマウスの結合組織病理組織スコアのグラフ。結合組織の損傷に関して各サンプルを0〜3のスケールにてスコア付けした。
【図7】鼻放射処理したC3H/HeOuJ及びC3H/HeJマウスの、表記時点において測定した炎症細胞の平均数を示すグラフ
【図8】鼻放射処理したC3H/HeOuJ及びC3H/HeJマウスの、表記時点において測定した上皮細胞における平均有糸分裂数を示すグラフ
【図9】鼻放射処理したC3H/HeOuJ及びC3H/HeJマウスの、表記時点において測定した、高倍率領域10箇所当たりの平均血管数を示すグラフ
【図10】C3H/HeOuJ及びC3H/HeJマウスの、表記時点において測定した、全血管におけるパーセンテージとしての高倍率領域10箇所当たりの大血管の平均数を示すグラフ。値は、当該領域で確認された血管の合計数におけるパーセンテージとして表示。
【図11】鼻放射線処理の後、表記の量のeritoranで処理したC3H/HeOuJマウスの体重変化パーセントを示すグラフ。当該動物は毎日体重測定し、0日目からの体重変化パーセントを計算し、各々の日についてグループ平均並びに当該平均の標準誤差(SEM)を算出した。
【図12】図11記載の鼻放射線処理されたC3H/HeOuJマウスが呈した体重変化パーセントについて計算した曲線下面積(AUC)を示すグラフ。この計算は、台形法則変換式を用いて行った。グループ平均を計算し、各グループについて、SEMを表す誤差バーを用いて表した。一元配置分散分析試験によって、グループ間に統計学的に有意な差異はないことが示された(P=0.261)。
【図13】表記の時点における、表記の量のeritoranで処理した鼻放射線処理されたC3H/HeOuJマウスの舌の背面の上皮細胞層の最小数を示すグラフ
【図14】表記の時点における、表記の量のeritoranで処理した鼻放射線処理されたC3H/HeOuJマウスの舌の背面の上皮細胞層の最大数を示すグラフ
【図15】表記の時点における、表記の量のeritoranで処理した鼻放射線処理されたC3H/HeOuJマウスの舌の前面の上皮細胞層の最小数を示すグラフ
【図16】表記の時点における、表記の量のeritoranで処理した鼻放射線処理されたC3H/HeOuJマウスの舌の前面の上皮細胞層の最大数を示すグラフ
【図17】表記の処方計画に従ってeritoran(E5564)で処理した動物並びに放射線処理していない対照及びプラシーボ処理した対照の体重変化パーセントを示すグラフ。当該動物は毎日体重測定し、0日目からの体重変化パーセントを計算し、各々の日についてグループ平均並びに当該平均の標準誤差(SEM)を算出した。
【図18】実験中に各動物が呈した体重変化パーセントについて計算した曲線下面積(AUC)を示すグラフ。この計算は、台形法則変換式を用いて行った。グループ平均を計算し、各グループについて、SEMを表す誤差バーを用いて表した。単一アスタリスクは放射線を受けたグループと放射処理していない対照との間に統計学的に有意な差異のあることを表し、2つのアスタリスクは0〜3日目にeritoranで処理したグループとプラシーボ対照(未放射)との間に統計学的に有意な差異のあることを表す(P=0.030)。
【図19】図記載の処方計画に従って処理した動物の体重変化パーセントを示すグラフ。実験の終わりまで生存した動物についてのみデータを示している。当該動物は毎日体重測定し、0日目からの体重変化パーセントを計算し、各々の日についてグループ平均並びに当該平均の標準誤差(SEM)を算出した。
【図20】グラフ記載の処方計画に従って処理した各動物が呈した体重変化パーセントについて計算した曲線下面積(AUC)を示すグラフ。この計算は、台形法則変換式を用いて行った。グループ平均を計算し、各グループについて、SEMを表す誤差バーを用いて表した。単一アスタリスクは放射線を受けたグループと放射処理していない対照との間に統計学的に有意な差異のあることを表し、2つのアスタリスクは0〜3日目にeritoranで処理したグループとプラシーボ対照(未放射)との間に統計学的に有意な差異のあることを表す(P=0.041)。
【図21】表記の各グループに関する、平均上皮スコア及び平均標準誤差を示すグラフ
【図22】表記の各グループに関する、平均結合組織スコア及び平均標準誤差を示すグラフ
【図23】表記の各グループに関する、平均炎症スコア及び平均標準誤差を示すグラフ
【図24】表記の各グループに関する、10hpf当たりの平均有糸分裂数及び当該平均の標準誤差を示すグラフ
【図25】表記の各グループに関する、平均潰瘍パーセント及び当該平均の標準誤差を示すグラフ
【図26】表記の各グループに関する、10hpf当たりの平均炎症細胞数及び当該平均の標準誤差を示すグラフ
【図27】各サンプルについて浸潤している炎症細胞(好中球)のパーセンテージ及び表記の各グループに関する平均及び標準偏差を示すグラフ
【図28】各サンプルについて浸潤している炎症細胞(リンパ球)のパーセンテージ及び表記の各グループに関する平均及び標準偏差を示すグラフ
【図29】各サンプルについて浸潤している炎症細胞(モノサイト又はマクロファージ)のパーセンテージ及び表記の各グループに関する平均及び標準偏差を示すグラフ
【図30】表記の各グループに関する、10hpf当たりの小血管数、平均、及び当該平均の標準誤差を示すグラフ
【図31】表記の各グループに関する、10hpf当たりの中血管数、平均、及び当該平均の標準誤差を示すグラフ
【図32】表記の各グループに関する、10hpf当たりの大血管数、平均、及び当該平均の標準誤差を示すグラフ
【図33】表記の各グループに関する、10hpf当たりのマスト細胞数、平均、及び当該平均の標準誤差を示すグラフ
【図34】表記の各グループに関する、ELISAアッセイを用いて測定した血清TNF-α濃度、平均及び当該平均の標準誤差を示すグラフ
【図35】表記の各グループに関する、ELISAアッセイを用いて測定した血清IL-6濃度、平均及び当該平均の標準誤差を示すグラフ
【図36】表記の各グループに関する、ELISAアッセイを用いて測定した血清SAA濃度、平均及び当該平均の標準誤差を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の口腔粘膜炎又は胃腸粘膜炎の重篤性を低減させる方法であって、toll-like receptor 4の活性化を阻害する化合物を含む組成物を前記患者に投与するステップを包含する、方法。
【請求項2】
前記化合物が、リピッドAアナログである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リピッドAアナログが、以下の式:
【化1】


であるか、又は製薬的に許容し得る塩若しくはそのリン酸エステルである、請求項2に記載の方法。
式中、R1は、以下の群:
【化2】


【化3】


から選択され、ここでJ、K及びQの各々は、個々独立して、直鎖若しくは分岐鎖のC1-C15アルキルであり;Lは、O、NH、又はCH2であり;Mは、O又はNHであり;Gは、NH、O、S、SO、又はSO2であり、
R2は、直鎖若しくは分岐鎖のC5-C15アルキルであり、
R3は、直鎖若しくは分岐鎖のC5-C18アルキル、
【化4】


【化5】


から成る群から選択され、ここでEは、NH、O、S、SO、又はSO2であり;A、B
及びDの各々は、個々独立して、直鎖若しくは分岐鎖のC1-C15アルキルであり、
R4は、直鎖若しくは分岐鎖のC4-C20アルキル及び
【化6】


から成る群から選択され、ここでU及びVの各々は、個々独立して、直裁若しくは分岐鎖のC2-C15アルキルであり、Wは水素又は直鎖若しくは分岐鎖のC1-C5アルキルであり、
RAは、R5又はR5-O-CH2-であり、R5は、水素、J'、-J'-OH、-J'-O-K'、-J'-O-K'-OH、及び-J'-O-PO(OH)2から成る群から選択され、ここでJ'及びK'の各々は、個々独立して、直鎖若しくは分岐鎖のC1-C5アルキルであり、
R6は、ヒドロキシ、ハロゲン、C1-C5アルコキシ及びC1-C5アシルオキシから成る群から選択され、
A1及びA2は、個々独立して、OH、
【化7】


から成る群から選択され、ここでZは直鎖若しくは分岐鎖のC1-C10アルキルである。
【請求項4】
前記リピッドAアナログが、以下の式:
【化8】


から成るか、又は製薬的に許容し得る塩若しくはそのリン酸エステルである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記リピッドAアナログが、以下の式:
【化9】


から成るか、又は製薬的に許容し得る塩若しくはそのリン酸エステルである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記粘膜炎が、口腔粘膜炎である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記粘膜炎が、胃腸管のものである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記患者が粘膜炎を患っている、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記患者が粘膜炎を患ってはいないものの、発症するリスクを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物の投与によって、前記患者において、粘膜炎の発症が阻害される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物の投与によって、前記患者において、粘膜炎の発症が予防される、請求項11に記載の方法。
【請求項12】
前記患者が、癌患者である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記患者が、頭部若しくは頸部の放射線療法、又は幹細胞若しくは骨髄の移植を既に受けているか、まもなく受けるか、又は現在受けている、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記投与ステップが、前記患者に粘膜炎を発症するリスクを課す治療の前に、それと同時に、その後に、又はそれらの組み合わせにて実施される、請求項14に記載の方法。
【請求項15】
前記投与ステップが、前記患者に粘膜炎を発症するリスクを課す治療の前に行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記投与ステップが、前記患者に粘膜炎を発症するリスクを課す治療と同時に行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記投与ステップが、前記患者に粘膜炎を発症するリスクを課す治療の後に行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記投与ステップが、前記患者に粘膜炎を発症するリスクを課す治療と同時に行われ、さらに、前記患者に粘膜炎を発症するリスクをかす前記治療の後0〜3日の間に少なくとも1回、前記組成物を投与するステップを包含する、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記患者に粘膜炎を発症するリスクを課す前記治療が、放射線療法を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記患者に粘膜炎を発症するリスクを課す前記治療が、化学療法を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記組成物が、前記患者に局所的に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記組成物が、前記患者に静脈注入によって投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記患者に抗菌療法を施すステップをさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記抗菌療法が、抗生物質療法である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
患者の口腔粘膜炎又は胃腸粘膜炎の重篤性を低減させる薬剤の調製における、toll-like receptor 4の活性化を阻害する化合物の使用。
【請求項26】
前記化合物が、以下の式のリピッドAアナログであるか、又は製薬的に許容し得る塩若しくはそのリン酸エステルである、請求項25に記載の使用。
【化10】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【公表番号】特表2008−540510(P2008−540510A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−510678(P2008−510678)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【国際出願番号】PCT/IB2006/003538
【国際公開番号】WO2007/031879
【国際公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000000217)エーザイ株式会社 (102)
【Fターム(参考)】