競技用ウエア
【課題】骨盤の所定の領域を大きな緊締力を有するベルト部で覆って競技者の運動能力を高める。
【解決手段】
本発明の競技用ウエア1は、弾性率の小さい第1生地F1と、第1生地F1よりも弾性率の大きい第2生地F2とで形成される。前記ウエア1における骨盤Bhの上部の周囲が第2生地で覆われてベルト状の第1ベルト部10が形成される。第1ベルト部10は、骨盤Bhの上部を前面から覆うベルト前部11と、骨盤Bhの上部を背面から覆うベルト背部13と、骨盤Bhの上部を側面から覆う一対のベルト側部12とが胴回りの周方向に連続的に延びて形成される。
【解決手段】
本発明の競技用ウエア1は、弾性率の小さい第1生地F1と、第1生地F1よりも弾性率の大きい第2生地F2とで形成される。前記ウエア1における骨盤Bhの上部の周囲が第2生地で覆われてベルト状の第1ベルト部10が形成される。第1ベルト部10は、骨盤Bhの上部を前面から覆うベルト前部11と、骨盤Bhの上部を背面から覆うベルト背部13と、骨盤Bhの上部を側面から覆う一対のベルト側部12とが胴回りの周方向に連続的に延びて形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は競技者の運動能力を高める競技用ウエアに関し、特にスイムウエア(水着)として好適である。
【背景技術】
【0002】
競技者が水中において受ける抵抗として、最も大きいのは形状抵抗である。形状抵抗は、進行方向正面から見た競泳者の投影面積によって決まる。したがって、前記形状抵抗を低減させるためには、競技者は水面に対してできるだけ平行な姿勢を保つことが有効である。すなわち、水泳時には競技者の頭部の位置に対して、腰、膝、足先の位置が下方に沈み込むのを押さえて、体全体を水面に対してできるだけ平行かつ真っ直ぐな姿勢に保つことが望ましい。
【0003】
しかし、身体の中心線に対し、垂直方向に重力と浮力とが作用するので、競泳者の姿勢は不安定になり易い。一方、下半身は上半身に比べ骨の密度が高く筋肉が多いので、上半身に比べ水中に沈み易い。
【0004】
かかる観点から、以下の特許文献1,2の発明が開示されている。
【特許文献1】特開2001−32104号
【特許文献2】特開2001−262409号
【特許文献3】特開2003−129310号
【0005】
特開2001−32104号に開示されたスイムウエアは、伸縮性を有する生地で、胴および大腿にわたって連続的に身体を覆い、これにより、腰から脚にかけての部分の水中への沈み込み防止を図っている。
【発明の開示】
【0006】
競泳者は前記有効な姿勢を保つためには腹筋や背筋の筋力を必要とする。しかし、競泳中に筋肉が疲労してくると、前記有効な姿勢の保持が困難となる。前記特開2001−32104号の発明は筋肉が疲労した場合について考慮されていない。
【0007】
特開2001−262409号には、競泳者のウエストを所定の圧力で締め付けるために、広範囲にわたって伸縮強度の高い素材を配したスイムウエアが開示されている。
【0008】
この先行技術は、競泳者のウエスト周囲に所定以上の圧力が作用することで、水泳中の姿勢の安定を狙っている。しかし、前記有効な姿勢を積極的に保つことについては配慮されていない。そのため、腰や大腿の沈み込みを防止する十分な効果は期待できないだろう。
【0009】
なお、特開2003−129310号には、腰を含む臀部よりも上方の部位の胴回り域をベルト状の伸縮性の小さい生地で覆うスイムウエアが開示されている。
【0010】
この先行技術のスイムウエアは、腹部にたるみのある人が着用した場合に、体型補正ができ、また、水中運動において動き易いという効果を狙っている。
【0011】
本発明の第1の目的は、水泳時に競泳者の姿勢が水面に対して平行かつ真っ直ぐな有効姿勢となり易く、かつ、競泳者の筋肉が疲労しても、前記有効姿勢を維持し易い水泳用の競技用ウエアを提供することである。
【0012】
近年、以下に説明する姿勢を矯正する矯正衣料についての発明がなされている。
【特許文献4】特開2001−192903号
【特許文献5】特開2005−281899号
【特許文献6】特開2004−107844号
【0013】
特開2001−192903号には、日常やスポーツを行う際に着用し、腰や股関節の可動域の拡大を図ったガードルのような衣料が開示されている。この先行技術のガードルでは、ウエストの背部の中心位置を通り胴回りに沿って延びる緊締力の大きいベルトの部位を持つ。したがって、ベルト中心は骨盤よりも上方に配置されているだろう。
【0014】
特開2005−281899号には、着用者の姿勢を改善させるとともに快適で動き易いガードルのような衣料が開示されている。この先行技術のガードルは、腹や腰よりも側部のほうが胴体に対する圧力が大きい。
また、この先行技術のガードルは、上前腸骨棘よりも2〜3cm上方の位置を中心に締付力の大きいベルトが配置されている。したがって、ベルトの中心は骨盤の上端よりも上方に配置されているだろう。
【0015】
特開2004−107844号には、骨盤廻りの筋肉が骨盤に作用させる力と同様の力を骨盤に作用させることを狙ったガードルのような衣料が開示されている。この先行技術の衣料においては、緊締力の大きいベルト部が骨盤の前面を覆っていない。したがって、骨盤を周囲から締め付ける力が弱いであろう。
【0016】
したがって、本発明の第2の目的は、骨盤の所定の領域を大きな緊締力を有するベルト部で覆って競技者の運動能力を高めることである。
【0017】
本発明のある態様の競技用ウエアは、伸縮性を有する生地からなる競技用のウエアであって、伸縮性を有する第1生地および第2生地で形成され、前記第2生地の胴回り方向に沿った弾性率が、前記第1生地の胴回り方向に沿った弾性率よりも大きく、前記ウエアにおける股間および骨盤の下部の周囲が前記第1生地で覆われ、前記ウエアにおける前記骨盤の上部の周囲が前記第2生地で覆われてベルト状の第1ベルト部が形成され、前記第1ベルト部は、前記骨盤の上部を前面から覆うベルト前部と、前記骨盤の上部を背面から覆うベルト背部と、前記骨盤の上部を側面から覆う一対のベルト側部とを本質的に連続的に備え、前記ベルト前部、ベルト背部およびベルト側部は前記第1ベルト部を周方向に4等分したそれぞれ領域に設定され、前記第1ベルト部の上端のラインが前記ベルト側部から前記ベルト前部の中央に近づくに従い下方に向かって傾斜しており、前記ベルト前部の前上端のラインは、前記骨盤の上端またはその近傍のレベルに沿って配置されて、前記骨盤よりも上方の部位を本質的に覆わず、かつ、前記ベルト背部の後上端のラインよりも上方の部位を本質的に覆わず、前記後上端の中央が前記前上端の中央よりも概ね4cm〜6cm程度上方の位置に配置され、前記ベルト背部を上下に2分割する仮想の後中心ラインが、前記ベルト前部を上下に2分割する仮想の前中心ラインよりも平均値で4cm〜6cm程度上方の位置となるように前記第1ベルト部が形成されている。
【0018】
骨盤が左右・前後に安定することにより、上半身と下半身が安定し、競技におけるフォームも安定する。また、骨盤には、お尻の筋肉や太ももの筋肉などランニングで働く主要な筋肉がつながっている。筋肉が大きな筋力を発揮するためには、筋肉が至適長さになる必要がある。骨盤が後傾すると、ランニングで重要なお尻の筋肉(大殿筋)や太ももの裏側の筋肉(ハムストリングス)が縮んでしまい、大きな筋力を発揮することができない。骨盤が直立すると、それらの筋肉が至適長さになり、筋力が発揮され易い。
【0019】
本発明によれば、弾性率の大きい第2生地により骨盤の上部を周囲から覆うので、骨盤が左右・前後に振れ難く安定する。
ベルト背部がベルト前部よりも骨盤の上方の位置に配置されており、オフセットした偶力が骨盤を直立させるモーメントとなって骨盤に加わる。その結果、骨盤が直立した姿勢となり易い。
【0020】
特に、骨を支える筋肉が疲労した後も、骨盤の傾きが安定し易く、骨盤が直立した姿勢を維持し易い。したがって、大殿筋やハムストリングスなどの筋肉が至適長さとなり易く、その結果、筋力が発揮され易い。
【0021】
一方、弾性率の大きい第2生地は、骨盤よりも上方の部位を本質的に覆っていない。そのため、弾性率の大きい第2生地が骨盤よりも上方において、ウエストに食い込むおそれがない。したがって、呼吸による周囲長の変化が阻害されず、腹部に過度の圧迫が加わるおそれがない。
【0022】
本発明において、第1生地および第2生地は、それぞれ、単一材であっても、複合材であってもよい。たとえば、ウエアの概ね全域にわたる身生地で第1生地を構成し、ベルト部について強化ネットのような強化生地を前記身生地に重ね合わせたり、樹脂を身生地に含浸ないし塗布するなどして第2生地としてもよい。
【0023】
本発明において、前記後上端の中央が前記前上端の中央よりも概ね4cm〜6cm程度上方に配置され、かつ、前記後中心ラインが前記前中心ラインよりも平均値で4cm〜6cm上方に配置されていることを数値で限定した理由は、以下のとおりである。
下限値が4cm未満であると、前記偶力が十分に発揮されず、オフセットしていない場合に比べ、十分な効果が得られない。
上限値が6cmを超えると、ベルト前部の下端が下肢に近づき、下肢の動きを阻害したり、あるいは、ベルト前部の下端が下肢に近づくのを防ぐためベルトの上下の幅を必要以上に小さくしなければならない。
【0024】
第1ベルト部の上端部には、ゴム様ベルトが配置されると共に前記ゴム様ベルトを収納するために第2生地を袋状に縫って形成した収納部が配置される。これらのゴム様ベルトや収納部を持つ前記上端部は胴回り方向に沿った弾性率が極めて大きい。そのため、第1ベルト部の上端のラインの位置は、適切な偶力を発揮させる上で、重要な要素となる。
すなわち、後上端の中央と前上端の中央とのレベル差が4cm未満であると、前記偶力が十分に発揮されないだろう。
一方、後上端の中央と前上端の中央とのレベル差が6cmを超えると、ベルト背部の上端が腸骨よりも上方を覆ったり、あるいは、ベルト前部のゴム様ベルトや収納部の位置が下方になるのに伴いベルト前部の下端のラインが下肢に近づく。このようなベルト前部は不快感や運動能力の低下を招く。
【0025】
本発明では、前記第1ベルト部の上端のラインが前記ベルト側部の中央(前面の両端)から前記ベルト前部の中央に近づくに従い下方に向かって傾斜している。そのため、前記ベルト前部の前上端のラインが、前記仙骨の上端またはその近傍に沿って配置されることが可能である。
【0026】
“前記ベルト前部、ベルト背部および一対のベルト側部とを本質的に連続的に備え”とは、第2生地からなる第1ベルト部の一部に第1生地が設けられていてもよい(弾性率の小さい部分があってもよい)ことを意味する。弾性率の小さい第1生地が若干設けられている場合においても、骨盤の周囲から骨盤に大きな圧力を付与することが可能である。
【0027】
“前記ベルト前部の前上端のラインが骨盤よりも上方の部位を本質的に覆わず”とは、前上端のラインが仙骨前面の上端よりも上方に配置されている場合を含むことを意味すると共に、前上端のラインが仙骨前面の両側の腸骨において骨盤の上端よりも下方に配置されていることを意味する。
【0028】
“前上端のラインが後上端のラインよりも上方の部位を本質的に覆わず”とは、ベルト背部の一部が第1生地で形成されている場合に、当該第1生地の部位を前上端のラインが横断するように前上端のラインが配置されていてもよいことを意味する。
【0029】
スイムウエア以外においては、前記第1生地の胴回り方向に沿った弾性率E1が0.3〜3.0N/cmに設定されているのが好ましいだろう。
【0030】
第1生地の弾性率E1が0.3N/cmよりも小さいと、運動時に第1生地がめくれ易いだろう。一方、第1生地の弾性率E1が3.0N/cmよりも大きいと、第1生地の過度の締付により下肢の動きを阻害するかもしれないだろう。
【0031】
かかる観点から、第1生地の弾性率E1は0.4〜2.5N/cm程度がより好ましく、0.6〜2.0N/cm程度が最も好ましいだろう。
【0032】
また、スイムウエア以外においては、前記第2生地の胴回り方向に沿った弾性率E2が3.0〜14.0N/cmに設定されているのが好ましいだろう。
第2生地の弾性率E2が3.0N/cmよりも小さいと、第2生地による腰に対する圧力が小さすぎて十分な偶力が得られないかもしれない。一方、第2生地の弾性率E2が14.0N/cmよりも大きいと、腰に対する締付力が大きくなりすぎて、腰の動きを阻害したり、血行が劣化したりするかもしれない。
【0033】
かかる観点から、第2生地の弾性率E2は4.0〜12.0N/cm程度がより好ましく、4.5〜11.0N/cm程度が更に好ましく、競技の種類に関係なく、5.5〜10N/cmが最も好ましいかもしれない。
【0034】
更に、スイムウエア以外においては、前記第2生地の弾性率E2を前記第1生地の弾性率E1で除した除算値(E2/E1)が、2.0〜25.0に設定されているのが好ましいだろう。
【0035】
前記除算値(E2/E1)が2.0よりも小さいと、前記第2生地の弾性率E2が小さくなりすぎたり、第1生地の弾性率E1が大きくなりすぎたりするだろう。そのため、骨盤外周に加わる力が不十分であったり、下肢に過度の圧迫が加わるかもしれない。
一方、前記除算値(E2/E1)が25.0よりも大きいと、前記第1生地の弾性率E1が小さくなりすぎたり、前記第2生地の弾性率E2が大きくなりすぎるだろう。そのため、骨盤外周に過度の力が加わったり、第1生地がめくれて運動が阻害されるかもしれない。
【0036】
かかる観点から、前記除算値(E2/E1)は3.0〜20程度がより好ましく、4.0〜18.0程度が最も好ましいだろう。
【0037】
また、スイムウエア以外においては、前記第2生地の弾性率E2から前記第1生地の弾性率E1を減算した減算値(E2−E1)が2.7〜13.7N/cmに設定されているのが好ましいだろう。
【0038】
前記減算値(E2ーE1)が2.7N/cmよりも小さいと、前記第2生地の弾性率E2が小さくなりすぎたり、第1生地の弾性率E1が大きくなりすぎたりするだろう。そのため、骨盤外周に加わる力が不十分であったり、腹部に過度の圧迫が加わるかもしれない。
一方、前記減算値(E2ーE1)が13.7N/cmよりも大きいと、前記第1生地の弾性率E1が小さくなりすぎたり、前記第2生地の弾性率E2が大きくなりすぎるだろう。そのため、骨盤外周に過度の力が加わったり、第1生地がめくれて運動が阻害されるかもしれない。
【0039】
かかる観点から、減算値(E2ーE1)は、3.6〜11.6N/cmがより好ましく、3.9〜10.4N/cmが最も好ましいだろう。
【0040】
これらの組み合わせから、スイムウエア以外においては、前記第1生地の胴回り方向に沿った弾性率が0.3〜3.0N/cmに設定され、前記第2生地の胴回り方向に沿った弾性率が3.0〜14.0N/cmに設定され、前記第2生地の弾性率を前記第1生地の弾性率で除した値が2.0〜25.0に設定され、前記第2生地の弾性率から前記第1生地の弾性率を減算した値が2.7〜13.7N/cmに設定されているのが好ましいだろう。
【0041】
また、スイムウエア以外において、前記第1生地の弾性率が0.4〜2.5N/cmに設定され、前記第2生地の弾性率が4.0〜12.0N/cmに設定され、前記第2生地の弾性率を前記第1生地の弾性率で除した値が3.0〜20.0に設定され、前記第2生地の弾性率から前記第1生地の弾性率を減算した値が3.6〜11.6N/cmに設定されるのがより好ましいだろう。
【0042】
スイムウエア以外において、前記第1生地の弾性率が0.6〜2.0N/cmに設定され、前記第2生地の弾性率が4.5〜11.0N/cmに設定され、前記第2生地の弾性率を前記第1生地の弾性率で除した値が4.0〜18.0に設定され、前記第2生地の弾性率から前記第1生地の弾性率を減算した値が3.9〜10.4N/cmに設定されるのが更に好ましいだろう。最も好ましい例では、競技の種類に関係なく、前記第2生地の弾性率が5.5〜10.0N/cmに設定される。
【0043】
スイムウエアの場合、生地が肌の表面から離れるとスイムウエア内に水が浸入し大きな抵抗となるので、生地が肌に密着しているのが好ましい。そのため、第1生地の弾性率も高いのが好ましい。
【0044】
一方、前記第1生地の弾性率E1を高くした場合、前記第2生地の弾性率E2を高くしすぎると、ウエアによる身体の締め付け力が大きくなりすぎる。また、スイムウエアの場合、伸びが大きい状態で水泳者がスイムウエアを着用する。そのため、第2生地自体の弾性率は小さいが、水泳者の腰に加わる力は大きい。
【0045】
かかる観点から、スイムウエアの場合、前記第1生地の弾性率が1.2〜3.5N/cmに設定され、前記第2生地の弾性率が5.0〜14.0N/cmに設定され、前記第2生地の弾性率E2を前記第1生地の弾性率E1の平均値で除した値が1.5〜7.0に設定され、前記第2生地の弾性率E2から前記第1生地の弾性率E1を減算した値が3.7〜12.0N/cmに設定されるのが好ましいだろう。
【0046】
スイムウエアの場合、前記第1生地の弾性率が1.5〜3.0N/cmに設定され、前記第2生地の弾性率が5.5〜10.0N/cmに設定され、前記第2生地の弾性率E2を前記第1生地の弾性率E1で除した値が1.9〜6.0に設定され、前記第2生地の弾性率E2から前記第1生地の弾性率E1を減算した値が2.5〜8.5N/cmに設定されるのがより好ましいだろう。
【0047】
スイムウエアの場合、前記第1生地の弾性率が1.7〜2.8N/cmに設定され、前記第2生地の弾性率が6.0〜9.0N/cmに設定され、前記第2生地の弾性率E2を前記第1生地の弾性率E1で除した値が2.2〜4.0に設定され、前記第2生地の弾性率E2から前記第1生地の弾性率E1を減算した値が4.3〜7.2N/cmに設定されるのが最も好ましいだろう。
【0048】
スイムウエアにおいては、筋肉が大きく動く大腿の前面については弾性率がより小さい生地(第1生地)を用い、下腹部、臀部および大腿背面については弾性率がやや大きい生地(第1生地)を用いてもよい。かかる場合、つまり、弾性率の異なる2種以上の生地を第1生地や第2生地が含む場合、スイムウエアだけでなく全てのウエアにおいて生地の弾性率は平均値で定義される。
【0049】
本発明において、弾性率E1、E2は着用時に胴に加わる圧力を設定するものであるから、着用状態の値で定義されるべきである。一方、生地の弾性率は金属材料の弾性率と異なり、伸びの量によって変動する。そこで、本発明では弾性率の再現性を考慮し、弾性率を以下のように定義する。
【0050】
すなわち、下記の(1) 式に示すように、弾性率とは単位幅の生地について生地が20%伸びた時における単位伸びに対する荷重の大きさをいう。
E=(F/W)/Δ …(1)
E:弾性率
F:20%伸び時の荷重
W:サンプルの幅
Δ:0.2(ひずみ)
本発明における弾性率は生地の単位幅当りの荷重の大きさであるから、生地の厚さは無視される。
なお、「単位伸び」とは生地の単位長さ当りの伸びを意味する。
また、第1または第2の生地が複合材である場合には、複合した状態で測定された値で定義される。
【0051】
一方、ゴム様ベルトやゴム様ベルトを収納するために第2生地を二重にして袋状に形成した収納部については、局部的に弾性率が高くなっている。しかし、これらの部材のうち測定の困難な袋状の収納部については、本明細書における弾性率の定義から除外される。
【0052】
本発明の好適な実施例においては、前記第1ベルト部の上端部には、胴回り方向に連なった収納部が設けられ、前記収納部は前記第2生地が二重になるように前記第2生地を折り返して形成され、前記収納部には前記胴回り方向に伸縮性を有するゴム弾性を持つゴム様ベルトが収納されている。
【0053】
前述のように、収納部やゴム様ベルトを持つ第1ベルト部の上端部の弾性率は他の部位の弾性率に比べ著しく大きい。したがって、前記収納部やゴム様ベルトが第1ベルト部の上端部において胴回り方向に連なっていることで、着用時に腰部において大きな偶力が発揮される。
【0054】
ここで、ゴム弾性を持つゴム様ベルトとは、ベルトが糸ゴムや平ゴムで形成されている場合の他に、糸ゴムを織って形成されたベルトや、生地に樹脂を含浸・塗布などして形成されたベルトを含み、伸縮性の大きい熱可塑性エラストマーを素材として糸状または帯状に形成されたベルトを含む。
なお、「ゴム弾性」とは、ベルトの大きな変形が可能で(例えば、破断伸度が100%以上)、かつ、応力を取り除くとベルトが元の形状に復元する性質をいう。
【0055】
本発明の更に好適な実施例では、前記ゴム様ベルトの弾性率が17〜40N/cmに設定され、かつ、前記ゴム様ベルトの幅が2.0〜3.5cmに設定されている。
【0056】
この場合、ゴム様ベルトの弾性率が大きく、かつ、十分な幅を持つので、大きな偶力が発揮される。
【0057】
本発明の効果は、着用時にウエアが着用者の骨盤に与える圧力およびモーメントによって得られる。したがって、本来的には、ウエアをマネキンに着せて、マネキンの表面の圧力の分布を測定し、この測定値をパラメータとすべきである。しかし、前記圧力分布の測定は、マネキンが異なれば得られるデータが異なる。そこで、本明細書においては、生地の弾性率をパラメータとした。
【0058】
ベルト前部の上下方向の平均幅は、3〜12cm程度が好ましく、4〜10cm程度が更に好ましいだろう。
一方、ベルト背部の上下方向の平均幅は、5〜12cm程度が好ましく、6〜10cm程度が更に好ましいだろう。
【0059】
第1ベルト部の幅が大きすぎるとオフセットの効果が得にくくなる。一方、第1ベルト部の幅が小さすぎると着用者に対し力が局所的に作用しすぎる。
【0060】
本発明において、前記ベルト前部の前上端のラインは下方に向かって凸となるように形成されており、前記ベルト背部の後上端のラインは上方に向かって凸または概ね水平となるように形成されているのが好ましい。
このように第1ベルト部の上端が形成されていることで、第1ベルト部の上端のラインが背面の中心から側部を通り前面の中心に向かって緩やかなカーブを描き、かつ、自然なラインとなる。
【0061】
この場合、前記ベルト前部の下端のラインは上方に向って凸となるように形成されており、前記ベルト背部の下端のラインは上方に向って凸となるように形成されているのが更に好ましい。
この実施例の場合、ベルト側部の上下の幅が大きくなる。ベルト側部の上下の幅が大きいと、骨盤の左右方向の安定が高まる。
【0062】
本発明では、前記第1ベルト部は前記前面の両端近傍において上前腸骨棘の少なくとも一部を覆い、かつ、腸腰筋の一部を覆い、前記ベルト背部は仙骨の一部を覆うのが好ましい。
このような配置で第1ベルト部が骨および筋肉を覆うことにより骨盤が安定すると共に、第1ベルト部が腸腰筋を圧迫して、インナーマッスルである腸腰筋の働きを高めることが可能となる。
【0063】
この場合、前記ベルト背部は仙骨の上端またはその近傍を覆い下端を覆わないのが更に好ましい。
このような位置にベルト背部が設けられていると、背面から骨盤に加わる力と前面から骨盤に加わる力とのオフセット量が大きい。したがって、骨盤が直立した姿勢となり易い。
【0064】
また、前記ベルト側部は腸骨稜よりも下方でかつ大転子よりも上方に配置されているのが好ましい。
腸骨稜と大転子の間において、ベルト側部が中殿筋に力を加えていることで、中殿筋の動きが左右にブレるのを防止し、中殿筋の働きが高められる。その結果、骨盤および下肢が左右方向に安定し運動効率が向上する。
【0065】
この場合、前記ベルト側部の下端のラインは、前記ベルト側部における周方向の概ね中心に近づくに従い下方に向かって凸となるように形成されており、前記ベルト側部の最下端が前記大転子に接近している。前記ベルト側部の高さが前記大転子から前記腸骨稜までの距離の1/2以上でかつ4/5以下に設定されているのが好ましいだろう。
【0066】
腸骨稜と大転子の間においてベルト側部が中殿筋を広い面積にわたって圧迫することは、中殿筋の働きを高める。ベルト側部が大転子を覆わない場合、脚の運動がスムーズになる。
【0067】
本発明はスイムウエアとして好的に用いることができる。
骨盤にオフセットした力が加えられることで、水泳中に、重い下肢を上方に持ち上げる力が骨盤に作用する。そのため、水泳時において腰が沈み込まない上、筋疲労が生じても姿勢が安定する。その結果、競泳者の姿勢が水面に対して平行かつ真っ直ぐな有効姿勢となり易く、かつ、筋肉が疲労しても、前記有効姿勢を維持し易い。
【0068】
スイムウエアの場合、前記第1生地とは異なる生地で形成された一対の第2ベルト部を更に備え、前記第2ベルト部の長手方向に沿った弾性率が前記第1生地の弾性率よりも大きく、前記各第2ベルト部は、前記第2ベルト部の上端が前記骨盤の外側における大腿背部において前記第1ベルト部の下端に連結された第1連結部を有し、前記第1連結部から膝の内側に向かうベルト状に形成されているのが好ましい。
【0069】
大腿背部の骨盤外側と膝内側を結ぶ仮想のライン上に、第2ベルト部を配置することで股関節を伸展させるハムストリングスおよび大殿筋の働きを補助する機能や股関節を内旋させる機能が向上する。また、股関節を伸展させることにより、水泳時における腰の沈み込みが抑制される。
【0070】
スイムウエアの場合、前記第1生地とは異なる生地で形成された一対の第3ベルト部を更に備え、前記第3ベルト部の長手方向に沿った弾性率が前記第1生地の弾性率よりも大きく、前記第3ベルト部は、大腿前部の上端近傍の内側から膝の外側に向かってベルト状に形成されているのが更に好ましい。
【0071】
大腿前部の上端近傍の内側と膝外側を結ぶ仮想のライン上に、第3ベルト部を配置することで、股関節を内転させる内転筋群の働きを補助する機能や股関節を内旋させる機能が向上する。股関節を内転、内旋させることにより、水中におけるキック動作において、より多くの水を下肢や足でとらえることができる。
【0072】
膝よりも下方を覆う脚部を持つランニングタイツの場合、前記第2生地で形成され膝近傍の上方の前面を覆うサポート部と、前記サポート部と前記ベルト側部とを脚の長手方向に沿って連ねる連結部とを更に備えているのが好ましい。
【0073】
この場合、前記サポート部により、大腿部の振動抑制が図られる。また、サポート部をベルト部に連結することで、下肢の側方安定性が図られる。さらに、膝関節や股関節の回旋の安定が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1Aは本発明の第1実施例にかかるパンツ型の競技用ウエアを示す概略正面図、図1Bは従来のパンツ型のウエアを示す概略正面図である。
【図2】図2Aはパンツ型の競技用ウエアを示す概略正面図、図2Bは同背面図である。
【図3】図3Aは従来のパンツ型のウエアを示す概略正面図、図3Bは同背面図である。
【図4】図4Aは、本発明の第1実施例にかかる競技用ウエアの一部を破断した概略断面図、図4Bは人体の骨格の一部を示す正面図である。
【図5】図5A,図5Bおよび図5Cは、それぞれ、同競技用ウエアと骨および筋肉との関係を示す概略正面図、概略側面図、概略背面図である。
【図6】図6A,図6Bおよび図6Cは、それぞれ、本発明の第2実施例にかかるパンツ型の競技用ウエアを着用した場合の概略正面図、概略背面図、概略側面図である。
【図7】図7A,図7Bおよび図7Cは、それぞれ、本発明の第3実施例にかかるパンツ型の競技用ウエアを示す概略正面図、概略背面図、概略側面図である。
【図8】図8A,図8Bおよび図8Cは、それぞれ、本発明の第4実施例にかかるパンツ型の競技用ウエアを示す概略正面図、概略背面図、概略側面図である。
【図9】図9は本発明の第5実施例にかかるタイツ型の競技用ウエアを示す概略斜視図である。
【図10】図10A,図10Bおよび図10Cは、それぞれ、本発明の第6実施例にかかるスーツ型の競技用ウエアを示す概略背面図、概略側面図、概略正面図である。
【図11】図11Aは比較例および試験例に用いたウエアを着用して走速度を測定した結果を示す棒グラフ、図11Bは比較例および試験例に用いたウエアを着用して推進力積を測定した結果を示す棒グラフである。
【図12】図12Aは比較例および試験例に用いたウエアを着用して横方向の力積を測定した結果を示す棒グラフ、図12Bは比較例および試験例に用いたウエアを着用して推進効率を測定した結果を示す棒グラフである。
【図13】図13Aは比較例および試験例に用いたウエアを着用して跳躍高を測定した結果を示す棒グラフ、図13Bは比較例および試験例に用いたウエアを着用して跳躍高のバラツキを測定した結果を示す棒グラフである。
【図14】図14Aは比較例および試験例に用いたウエアを着用して大殿筋の筋力の発揮効率を測定した結果を示す棒グラフ、図14Bは比較例および試験例に用いたウエアを着用してハムストリングスの筋力の発揮効率を測定した結果を示す棒グラフである。
【図15】図15Aおよび図15Bは、それぞれ、比較例および試験例に用いたウエアを着用して跳躍高を測定した結果を示す棒グラフである。
【図16】図16Aは比較例および試験例に用いたウエアを着用して泳いだ場合のストローク長を測定した結果を示す棒グラフ、図16Bは水中姿勢を示す側面図である。
【符号の説明】
【0075】
1:パンツ型の競技用ウエア
10:第1ベルト部
11:ベルト前部
12:ベルト側部
13:ベルト背部
14:第1ベルト部の前上端のライン
15:第1ベルト部の後上端のライン
17:脚部
22:第2ベルト部
23:第3ベルト部
24:第2連結部
25:第1サポート部
26:第2サポート部
200:脹脛(ふくらはぎ)
31:第1連結部
101:第1領域
102:第2領域
103:第3領域
F:生地
Fb:身生地
Fs:強化生地
H1:上端のラインのオフセット量
H2:中心のラインのオフセット量
M1:腸腰筋
M2:中殿筋
M3:腰方形筋
Bb:大転子
Bf:大腿骨
Bh:骨盤
Bs:仙骨
Bt:腸骨
Bhu:骨盤の上部
Blc:腸骨稜
Bls:上前腸骨棘
Gb:ゴム様ベルト
Gs:収納部
Tu:大腿前部Tfの上端近傍の内側
Tf:大腿前部
Tb:大腿背部
J:股関節
K:膝
【発明を実施するための最良の形態】
【0076】
本発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施例の説明からより明瞭に理解されるであろう。しかしながら、実施例および図面は単なる図示および説明のためのものであり、本発明の範囲は請求の範囲によって定まる。添付図面において、複数の図面における同一の部品番号は、同一または相当部分を示す。
【0077】
第1実施例:
以下、本発明の第1実施例が図1A,図2A,図2B,図4〜図5Cを参照して説明される。
図4Bにおいて、骨盤Bhは腸骨Btおよび仙骨Bsからなる。骨盤Bhには股関節Jを介して大腿骨Bfが接続されている。
【0078】
全体構成:
図1Aは、膝上丈のパンツ型の競技用ウエア1を示す。
図1Aに示すように、本競技用ウエア1は伸縮性を有する生地F1,F2からなる。
【0079】
前記競技用ウエア1は、図2Aおよび図2Bに示すように、弾性率の小さい第1生地F1と、前記第1生地F1よりも弾性率の大きい第2生地F2(図2Aおよび図2Bの荒い網点で示す部分)とで形成されている。
【0080】
図5A,図5Bおよび図5Cに示すように、ウエア1を着用すると、股間Cおよび骨盤Bhの下部の周囲は、第1生地F1で覆われ、前記骨盤Bhの上部の周囲は、第2生地F2で覆われる。前記第2生地F2は、ベルト状の第1ベルト部10を構成している。
【0081】
図4Aに示すように、前記第1生地F1はウエアの概ね全域にわたる身生地Fbで構成されている。第1ベルト部10は、たとえば、強化ネットのような強化生地Fsを身生地Fbに重ね合わせた第2生地F2により構成されている。
第1ベルト部10の上部は折り曲げられた後、折り曲げられた前記上部の端部が他の第1ベルト10と縫合されて袋状の収納部Gsが形成されている。図2Aおよび図2Bに示すように、前記収納部Gsには、帯状のゴム様ベルトGbがウエア1の胴回りの全周にわたって挿入されている。この実施例の場合、ゴム様ベルトGbの幅は、たとえば2.5cmである。
【0082】
第1ベルト部10:
図2Aおよび図2Bの2点鎖線で示すように、ベルト前部11、一対のベルト側部12およびベルト背部13が第1ベルト部10を周方向Rに4等分した領域にそれぞれ設定されている。すなわち、ウエアの前面にベルト前部11、背面にベルト背部13、側面にベルト側部12がそれぞれ設定されている。前記ベルト前部11、ベルト側部12およびベルト背部13は、連続的に形成されている。
【0083】
図2Aに示すように、ベルト前部11の前上端のライン11uは、下方に向って凸となるように形成されている。図2Bに示すように、ベルト背部13の後上端のライン13uは、上方に向って凸となるように形成されている。
図2Aに示すように、ベルト前部11の下端のライン11dは、上方に向って凸となるように形成されている。図2Bに示すように、ベルト背部13の下端のライン13dは、上方に向って凸となるように形成されている。
【0084】
第2実施例を示す図6A,図6Bおよび図6Cのように、第1実施例においても第1ベルト部10の上端のライン14,15は、ベルト背部13の中央15cからベルト側部を通ってベルト前部11の中央14cに近づくに従い下方に向って傾斜している。なお、図6A〜図6Cの第2実施例では収納部Gsに糸状のゴム様ベルトが収納されている。なお、第2実施例の詳細については後述される。
【0085】
図6A,図6Bおよび図6Cに示すように、第1ベルト部10は、後上端のライン15の中央15cが前上端のライン14の中央14cよりもたとえば5.0cm上方に配置されている。
図2BにおいてラインLbはベルト背部13を上下に2分割する仮想の後中心ラインである。図2AにおいてラインLfはベルト前部11を上下に2分割する仮想の前中心ラインである。図1に示すように、ラインLbがラインLfよりも平均値で約5.0cm上方となるように、第1ベルト部10が形成されている。
【0086】
ウエア1の着用状態:
図5A,図5Bおよび図5Cに示すように、ウエア1が着用されると、第1ベルト部10により骨盤Bhの周囲が覆われる。
図5Aに示すように、ベルト前部11は骨盤Bhの上部Bhuを前面から覆う。図5Bに示すように、ベルト側部12は骨盤Bhの上部Bhuを側面から覆う。図5Cに示すように、ベルト背部13は骨盤Bhの上部Bhuを背面から覆う。
【0087】
図5Aに示すように、ベルト前部11の前上端のライン14は、骨盤Bhの上端またはその近傍に沿って配置される。すなわち、前上端のライン14のレベルは、概ね、仙骨前面の中央上端またはその近傍のレベルに配置される。前上端のライン14は、骨盤Bhよりも上方の部位を覆わない。前上端のライン14は、ベルト背部13の後上端のライン15よりも上方の部位を覆わない。
ベルト前部11の下端のライン11dは、骨盤Bhの下部の股関節Jや大転子Bbよりも上方に位置する。
第1ベルト部10は、前面の両端において上前腸骨棘BIsの一部を覆い、かつ、腸腰筋M1の一部を覆う。
【0088】
図5Bに示すように、ベルト側部12は、腸骨稜BIcの上端よりも下方で、かつ、大転子Bbよりも上方に配置される。ベルト側部12の上端のラインは前記腸骨稜BIcに近接しているのが好ましい。
ベルト側部12の下端12dは、ベルト側部12における周方向Rの概ね中心に近づくに従い下方に向って凸となるように形成されている。そのため、ベルト側部12の最下端は、大転子Bbに接近している。
ベルト側部12の高さは、大転子Bbから腸骨稜BIcまでの距離の1/2以上で、かつ、4/5以下に設定される。そのため、中殿筋M2は、その中部から上部にかけて、ベルト側部12によって覆われている。
【0089】
図5Bに示すように、前面から骨盤Bhに加わる力Wfと背面から骨盤Bhに加わる力Wbとが互いにオフセットした状態で骨盤Bhに加わっている。
すなわち、前面から骨盤Bhに加わる力Wfより上方の位置において、力Wbが背面から骨盤Bhに加わっている。
【0090】
図5Cに示すように、ベルト背部13は仙骨Bsの上部を覆う。前記仙骨Bsの両側において、前記ベルト背部13の後上端のライン13uは、腸骨Btの上端に近接し、かつ、腸骨Btの上端よりも下方の位置となるのが好ましい。ベルト背部13は、仙骨Bsの上端またはその近傍を覆うと共に、仙骨Bsの下端を覆わない。ベルト背部13およびベルト側部12は、腰方形筋M3を覆わない。
【0091】
第3実施例:
つぎに、本発明の第3実施例が図7A,図7Bおよび図7Cを参照して説明される。
図7Bおよび図7Cに示すように、本競技用ウエア1Bは、一対の第2ベルト部22を備えている。前記第2ベルト部22は第2生地F2で形成されており、第2生地F2の長手方向に沿った弾性率E3は第1生地F1の弾性率E1よりも大きい。
第2ベルト部22の上端は、骨盤Bh(図5B)の外側における大腿背部Tbにおいて、第1ベルト部10の下端に連結された第1連結部31を有している。第2ベルト部22は、前記第1連結部31から膝Kの内側K1に向かって膝Kの内側K1までベルト状に形成されている。一方、図7Aに示すように、第2ベルト部22は、大腿前部Tfには配置されていない。
なお、第2生地F2の長手方向に沿った弾性率E3と第2生地F2の胴回り方向に沿った弾性率E2は同じ値である。
【0092】
その他の構成は、第1実施例と同様であり、同一部分または相当部分に同一符号を付して、その説明を省略する。
【0093】
第4実施例:
つぎに、本発明の第4実施例が図8A,図8Bおよび図8Cを参照して説明される。
図8Aおよび図8Cに示すように、本競技用ウエア1Cは、一対の第3ベルト部23を備えている。前記第3ベルト部23は第2生地F2で形成されており、第2生地F2の長手方向に沿った弾性率E3は第1生地F1の弾性率E1よりも大きい。
第3ベルト部23は、大腿前部Tfの上端近傍の内側Tuから、膝Kの外側K2に向かって膝Kの外側K2までベルト状に形成されている。
なお、第2生地F2の長手方向に沿った弾性率E3と第2生地F2の胴回り方向に沿った弾性率E2は同じ値である。
【0094】
その他の構成は、第3実施例と同様であり、同一部分または相当部分に同一符号を付して、その説明を省略する。
【0095】
第5実施例:
つぎに、本発明の第5実施例が図9を参照して説明される。
図9に示すように、本競技用ウエア1Dは、いわゆるタイツ型であり、膝Kおよびその下方の脹脛(ふくらはぎ)200を覆う脚部17を備えている。前記ウエア1Dは、第1サポート部25、第2サポート部26および第2連結部24を備えている。
前記第1および第2サポート部25,26および第2連結部24は、第1生地F1よりも弾性率の大きい第2生地F2で形成されている。
【0096】
すなわち、第1および第2サポート部25、26の脚周り方向に沿った弾性率E4は第1生地F1の弾性率E1よりも大きく、第2連結部24の長手方向に沿った弾性率E5は前記第1生地F1の弾性率E1よりも大きい。
第1サポート部25は、膝K近傍の上方の前面を覆う。第2サポート部26は、膝K近傍の下方の前面を覆う。
第2連結部24は、前記第1および第2サポート部25,26と、第1ベルト部10のベルト側部12の側部とを脚の長手方向Zに沿って連なるように形成されている。
なお、前記第2生地F2の第1および第2サポート部25、26の脚周り方向に沿った弾性率E4、第2生地F2の第2連結部24の長手方向に沿った弾性率E5および第2生地F2の胴回り方向に沿った弾性率E2は同じ値である。
【0097】
その他の構成は、第1実施例と同様であり、同一部分または相当部分に同一符号を付して、その説明を省略する。
【0098】
第2実施例、第6実施例:
図6A〜図6Cは男性用のスイムウエアを示す。図10A,図10Bおよび図10Cに示す競技用ウエア1Aは第6実施例を示し、前述の第2実施例のスイムウエア1を女性用スイムウエアに適用したものである。
【0099】
図6A〜図6Cにおいて、前記第1生地F1は、大腿の前面である第1領域101と、大腿の背面および臀部である第2領域102とを覆い、前記第1領域101を覆う第1生地F1の前記弾性率よりも前記第2領域102を覆う第1生地F1の前記弾性率の方が大きい。
前記第1生地F1は更に下腹部からなる第3領域103を覆い、前記第3領域103の第1生地F1の前記弾性率は、前記第1領域101を覆う第1生地F1の前記弾性率よりも大きい。
【0100】
たとえば、前記第2および第3領域102、103の第1生地F1の弾性率は3.3N/cmであり、前記第1領域101の第1生地F1の弾性率は1.2N/cmである。図6A〜図6Cにおいて前記第2および第3領域102、103については細かい網点が施されている。この場合、第1生地F1の弾性率E1は下記の(2)式で求められる。
E1=(E11・A11+E12・A12+・・・E1n・A1n)/A1・・・(2)
E1i:第1生地で覆われた領域の生地の弾性率
A1i:弾性率E1iの生地で覆われた領域の面積
A1:腰盤下部を覆う第1生地の総面積
【0101】
図10A〜図10Cの女性用スイムウエアにおいては、前記第2および第3領域102、103およびこれらと同等の弾性率を持つ部位に細かい網点が施されている。
本第6実施例のウエア1Aについてのその他の構成は、前述した競技用ウエア1と同様であり、同一部分または相当部分に同一符号を付して、その説明を省略する。
【0102】
試験例および比較例:
つぎに、本発明の効果を明瞭にするために、試験例および比較例が示される。
【0103】
試験に用いた試験例1、試験例2、試験例3、比較例1、比較例2および比較例3が説明される。
なお、以下において「ゴム様ベルトGbの弾性率」とは、ゴム様ベルトGbの表面および裏面に第1生地F1を重ね合わせた状態における弾性率を示す。
【0104】
試験例1:
試験例1は、図1Aの競技用ウエア1において、第1生地F1の胴回り方向Rに沿った弾性率が1.1N/cmに設定され、第2生地F2の胴回り方向Rに沿った弾性率が4.6N/cmに設定されたウエアである。ゴム様ベルトGbの弾性率は18.4N/cmであった。
【0105】
試験例2:
試験例2は、前記図1Aの競技用ウエア1において、第1生地F1の胴回り方向Rに沿った弾性率が1.1N/cmに設定され、第2生地F2の胴回り方向Rに沿った弾性率が8.0N/cmに設定されたウエアである。ゴム様ベルトGbの弾性率は25.7N/cmであった。
したがって、試験例1は試験例2よりも、第1ベルト部10(図1A)による被験者に与える圧力および偶力が小さく設定されている。
【0106】
比較例1:
比較例1は、前記図1の競技用ウエア1において、第1および第2生地F1、F2の胴回り方向Rに沿った弾性率が1.1N/cmに設定されたウエアである。比較例1のゴム様ベルトGbの弾性率は6.1N/cmであった。
【0107】
比較例2:
比較例2は、図1B、図3Aおよび図3Bに示す公知のパンツ100を用いた。
図1Bに示すように、比較例2のパンツ100は第3生地F3、第4生地F4および第5生地F5を備えている。
【0108】
パンツ100の上端部には、ゴム様ベルトGbが該パンツ100の胴回りの全周にわたって挿入されている。
図1Aおよび図1Bに示すように、パンツ100の前上端のライン14Aは、図1Aの競技用ウエア1の前上端のライン14に比べて、股間Cからの高さが高く設定されている。そのため、前記ゴム様ベルトGbによって、着用者の骨盤Bh(図5Aおよび図5B)よりも上方の部分が締めつけられる。
このパンツ100の上端のラインの最大のオフセット量H1は約3cm程度であった。
【0109】
図3Aおよび図3Bに示すように、パンツ100の両側面112および背面113の上部には第4生地F4が用いられている。パンツ100のベルト前部111には、中央に行くに従い下方に向かって凸となるように形成された第5生地F5が用いられている。
前記第3生地F3、第4生地F4および第5生地F5の弾性率は、それぞれ、1.7N/cm、4.4N/cmおよび4.9N/cmであった。なお、比較例2のゴム様ベルトの弾性率は腹部で11.6N/cm、背部で18.0N/cmであった。
【0110】
試験例3、4および比較例3:
試験例3は図6A〜図6Cの男子用のスイムウエア、試験例4は図10A〜図10Cの女子用のスイムウエアである。試験例3、4の第1生地の弾性率は前面が1.2N/cm、背面が3.3N/cm、第2生地の弾性率は6.7N/cmであった。なお、試験例3のゴム様ベルトは糸ゴムである。
なお、比較例3としては、一般的なスイムウエアを用いた。
【0111】
弾性率の測定方法
生地の弾性率はJIS−L1018に準拠して下記の仕様で測定した。
試験機:万能材料試験機(インストロン5565型)
引張方向:ウエアの胴回り方向
引張速度:20.0cm/min
チャック間距離:10.0cm
生地のサイズ:幅5.0cm、長さ20.0cm
試験例1,2および比較例1のゴム様ベルトのサンプルのサイズ:幅2.5cm、長さ20.0cm
比較例2のゴム様ベルトのサンプルのサイズ:幅3.0、長さ20.0cm
前記各サンプルが20%伸びたときの単位伸びに対する単位幅当りの荷重の大きさを測定して求めた。
【0112】
短距離ランニングテスト:
図11Aおよび図11Bは、比較例1および試験例1を用いた短距離ランニングテストの結果を示す。
このテストでは、男子短距離選手14名を被験者として、20mをダッシュした場合の走速度と推進力の変化を計測した。
その結果、図11Aに示すように走速度が平均値で0.5%向上し、図11Bに示すように推進力積が平均値で3%向上した。
この向上の度合いは、100mを10秒で走ることを想定した場合、0.05秒短縮されたことに相当する。
【0113】
キック動作の変化:
図12Aおよび図12Bは、比較例1および試験例1を用いたキック動作テストの結果を示す。
この試験は、男子長距離選手5名を被験者として、キック動作の変化を計測した。
その結果、図12Aに示すように、試験例1は、比較例1に比べて、キック動作の不安定性を示す横方向の力が減少した。また、図12Bに示すように、比較例1に比べ試験例1は推進効率が平均値で8%向上した。なお、ランニング中の腰の左右の動揺も小さくなった。
【0114】
つぎに、以下に示すジャンプテスト1,2,3を行った。この試験は、被験者が助走付きジャンプ動作を行い、被験者の腰に付けた反射マーカーの鉛直変位から跳躍高を測定した。各ウエアを着用した被験者は、2回のジャンプを1セットとして、2セットのジャンプを行い、合計4回のジャンプを行った。
【0115】
ジャンプテスト1:
図13Aおよび図13Bは、比較例1および試験例2を用いたジャンプテスト1の結果を示す。
ジャンプテスト1は、男子バスケットボール選手5名、バレーボール選手3名の合計8名を被験者として、跳躍高を計測した。
その結果、図13Aに示すように、試験例2は比較例1に比べて跳躍高が平均で1cm向上した。また、図13Bに示すように、試験例2は比較例1に比べて跳躍高のばらつきが減少し、ジャンプの失敗が減少した。
【0116】
かかるテストにおいて、大殿筋とハムストリングスについて、被験者が床面を蹴ったときの力の積分値を筋の活動量で除算して、筋力発揮効率が測定された。
図14Aに示すように、大殿筋の筋力発揮効率は、試験例2、比較例1,試験例1の順番に大きな値を示した。特に、試験例2は、試験例1および比較例1に比べて約1.5倍の筋力発揮効率を示した。
図14Bに示すように、ハムストリングスの筋力の発揮効率は、試験例2,試験例1,比較例1の順番に大きな値を示した。
これらの結果から、骨盤に加わる偶力が大きい順に前記各筋力の発揮効率も大きいことが分る。
これは、前記ジャンプ時において、骨盤を安定させる中殿筋M2(図5B)の活動が促進され、かつ、骨盤が直立することで筋肉が至適長さとなり、その結果、ジャンプで主に働く大殿筋およびハムストリングスの筋力発揮効率が向上したものと考えられる。
【0117】
ジャンプテスト2:
この試験は、競技スポーツを行っている成人男子5名を被験者とした。
その結果、図15Aに示すように、跳躍高の平均値は、試験例2,試験例1,比較例2,比較例1の順番に高かった。
【0118】
比較例2のウエアと試験例1のウエアとは同程度の弾性率の生地で形成されている。また、双方ともにオフセットされた力が身体に加わる。
しかし、比較例2と試験例1の実験結果の差が生じており、その理由について考察する。
【0119】
図1Bの比較例2に用いたパンツ100のゴム様ベルトGbの前上端のライン14Aは、着用者の骨盤Bhよりも上方の部分に配置されている。
これに対し、試験例1に用いた競技用ウエア1のゴム様ベルトGbの前上端のライン14および後上端のライン15uは、着用者の骨盤Bhより上方の部分に配置されていない。
また、試験例1の競技用ウエア1のゴム様ベルトGbの前上端のラインと後上端のラインとのオフセット量は、前記従来のパンツ100のゴム様ベルトGbの前上端のラインと後上端のラインとのオフセット量よりも大きい。
【0120】
すなわち、試験例1の競技用ウエア1は、前記パンツ100に比べ、(1)ゴム様ベルトGbの前上端のラインが骨盤よりも上方に配置されていない、(2)前記オフセット量が前記パンツ100のオフセット量よりも大きい、という違いがある。
【0121】
このように、前記競技用ウエア1は、ゴム様ベルトGbの前上端のラインが骨盤よりも上方に配置されておらず、前記オフセット量が大きいため、オフセットした偶力による骨盤を直立させるモーメントが大きい。その結果、骨盤が直立した姿勢となり易いと推測される。
これに対し、前記パンツ100は、ゴム様ベルトの前上端のライン14Aが骨盤Bhよりも上方の部分に配置されており、かつ、前記オフセット量が小さいため、オフセットした偶力が小さい。その結果、骨盤を直立させ難いと推測される。
以上より、前記競技用ウエア1と前記パンツ100は構成において明確な差異があり、骨盤Bhに加える偶力の大きさの違いが実験結果に影響を与えたと考えられる。
【0122】
つぎに、試験例1と試験例2の実験結果の差について考察する。
前述したように、試験例1の第2生地F2の弾性率は4.6N/cm、ゴム様ベルトGbの弾性率は18.4N/cm、試験例2の第2生地F2の弾性率は8.0N/cm、ゴム様ベルトGbの弾性率は25.7N/cmであった。
したがって、試験例2の第1ベルト部10(図1A)が骨盤Bhに与える圧力および偶力は、試験例1の第1ベルト部10が骨盤Bhに与える圧力および偶力よりも大きい。
骨盤に加える圧力が大きい場合、骨盤の安定を図ることができる。さらに、骨盤に加える偶力が大きいことで、骨盤が直立した姿勢となり易い。
以上より、試験例1と試験例2は第2生地F2およびゴム様ベルトGbの弾性率において差異があり、骨盤Bhに加える圧力および偶力の大きさの違いが実験結果に影響を与えたと考えられる。
【0123】
ジャンプテスト3:
つぎに、一般的な成人男子8名を被験者として、同様のジャンプテストを試験例1と比較例1の各ウエアを着用して行った。その結果、図15Bに示すように、試験例1の方が比較例1に比べて跳躍力が高かった。
【0124】
スイミングテスト:
比較例3および試験例3、4のスイムウエアを着用した大学水泳部の男子学生7名および女子学生6名を被験者として、平泳時の1ストロークに対する推進距離の平均値を計測した。その結果、図16Aに示すように、前記ストローク長が平均で2cm長くなった。
また、試験例3、4では約70%の選手において図16Bの矢印方向に腰が起き、そのため、腰の沈み込みが抑えられたとの実感があり、比較例3に比べ、けのびの推進距離が増加したものと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明は、水泳、レスリング、陸上競技などの種々の競技用ウエアとして用いることができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は競技者の運動能力を高める競技用ウエアに関し、特にスイムウエア(水着)として好適である。
【背景技術】
【0002】
競技者が水中において受ける抵抗として、最も大きいのは形状抵抗である。形状抵抗は、進行方向正面から見た競泳者の投影面積によって決まる。したがって、前記形状抵抗を低減させるためには、競技者は水面に対してできるだけ平行な姿勢を保つことが有効である。すなわち、水泳時には競技者の頭部の位置に対して、腰、膝、足先の位置が下方に沈み込むのを押さえて、体全体を水面に対してできるだけ平行かつ真っ直ぐな姿勢に保つことが望ましい。
【0003】
しかし、身体の中心線に対し、垂直方向に重力と浮力とが作用するので、競泳者の姿勢は不安定になり易い。一方、下半身は上半身に比べ骨の密度が高く筋肉が多いので、上半身に比べ水中に沈み易い。
【0004】
かかる観点から、以下の特許文献1,2の発明が開示されている。
【特許文献1】特開2001−32104号
【特許文献2】特開2001−262409号
【特許文献3】特開2003−129310号
【0005】
特開2001−32104号に開示されたスイムウエアは、伸縮性を有する生地で、胴および大腿にわたって連続的に身体を覆い、これにより、腰から脚にかけての部分の水中への沈み込み防止を図っている。
【発明の開示】
【0006】
競泳者は前記有効な姿勢を保つためには腹筋や背筋の筋力を必要とする。しかし、競泳中に筋肉が疲労してくると、前記有効な姿勢の保持が困難となる。前記特開2001−32104号の発明は筋肉が疲労した場合について考慮されていない。
【0007】
特開2001−262409号には、競泳者のウエストを所定の圧力で締め付けるために、広範囲にわたって伸縮強度の高い素材を配したスイムウエアが開示されている。
【0008】
この先行技術は、競泳者のウエスト周囲に所定以上の圧力が作用することで、水泳中の姿勢の安定を狙っている。しかし、前記有効な姿勢を積極的に保つことについては配慮されていない。そのため、腰や大腿の沈み込みを防止する十分な効果は期待できないだろう。
【0009】
なお、特開2003−129310号には、腰を含む臀部よりも上方の部位の胴回り域をベルト状の伸縮性の小さい生地で覆うスイムウエアが開示されている。
【0010】
この先行技術のスイムウエアは、腹部にたるみのある人が着用した場合に、体型補正ができ、また、水中運動において動き易いという効果を狙っている。
【0011】
本発明の第1の目的は、水泳時に競泳者の姿勢が水面に対して平行かつ真っ直ぐな有効姿勢となり易く、かつ、競泳者の筋肉が疲労しても、前記有効姿勢を維持し易い水泳用の競技用ウエアを提供することである。
【0012】
近年、以下に説明する姿勢を矯正する矯正衣料についての発明がなされている。
【特許文献4】特開2001−192903号
【特許文献5】特開2005−281899号
【特許文献6】特開2004−107844号
【0013】
特開2001−192903号には、日常やスポーツを行う際に着用し、腰や股関節の可動域の拡大を図ったガードルのような衣料が開示されている。この先行技術のガードルでは、ウエストの背部の中心位置を通り胴回りに沿って延びる緊締力の大きいベルトの部位を持つ。したがって、ベルト中心は骨盤よりも上方に配置されているだろう。
【0014】
特開2005−281899号には、着用者の姿勢を改善させるとともに快適で動き易いガードルのような衣料が開示されている。この先行技術のガードルは、腹や腰よりも側部のほうが胴体に対する圧力が大きい。
また、この先行技術のガードルは、上前腸骨棘よりも2〜3cm上方の位置を中心に締付力の大きいベルトが配置されている。したがって、ベルトの中心は骨盤の上端よりも上方に配置されているだろう。
【0015】
特開2004−107844号には、骨盤廻りの筋肉が骨盤に作用させる力と同様の力を骨盤に作用させることを狙ったガードルのような衣料が開示されている。この先行技術の衣料においては、緊締力の大きいベルト部が骨盤の前面を覆っていない。したがって、骨盤を周囲から締め付ける力が弱いであろう。
【0016】
したがって、本発明の第2の目的は、骨盤の所定の領域を大きな緊締力を有するベルト部で覆って競技者の運動能力を高めることである。
【0017】
本発明のある態様の競技用ウエアは、伸縮性を有する生地からなる競技用のウエアであって、伸縮性を有する第1生地および第2生地で形成され、前記第2生地の胴回り方向に沿った弾性率が、前記第1生地の胴回り方向に沿った弾性率よりも大きく、前記ウエアにおける股間および骨盤の下部の周囲が前記第1生地で覆われ、前記ウエアにおける前記骨盤の上部の周囲が前記第2生地で覆われてベルト状の第1ベルト部が形成され、前記第1ベルト部は、前記骨盤の上部を前面から覆うベルト前部と、前記骨盤の上部を背面から覆うベルト背部と、前記骨盤の上部を側面から覆う一対のベルト側部とを本質的に連続的に備え、前記ベルト前部、ベルト背部およびベルト側部は前記第1ベルト部を周方向に4等分したそれぞれ領域に設定され、前記第1ベルト部の上端のラインが前記ベルト側部から前記ベルト前部の中央に近づくに従い下方に向かって傾斜しており、前記ベルト前部の前上端のラインは、前記骨盤の上端またはその近傍のレベルに沿って配置されて、前記骨盤よりも上方の部位を本質的に覆わず、かつ、前記ベルト背部の後上端のラインよりも上方の部位を本質的に覆わず、前記後上端の中央が前記前上端の中央よりも概ね4cm〜6cm程度上方の位置に配置され、前記ベルト背部を上下に2分割する仮想の後中心ラインが、前記ベルト前部を上下に2分割する仮想の前中心ラインよりも平均値で4cm〜6cm程度上方の位置となるように前記第1ベルト部が形成されている。
【0018】
骨盤が左右・前後に安定することにより、上半身と下半身が安定し、競技におけるフォームも安定する。また、骨盤には、お尻の筋肉や太ももの筋肉などランニングで働く主要な筋肉がつながっている。筋肉が大きな筋力を発揮するためには、筋肉が至適長さになる必要がある。骨盤が後傾すると、ランニングで重要なお尻の筋肉(大殿筋)や太ももの裏側の筋肉(ハムストリングス)が縮んでしまい、大きな筋力を発揮することができない。骨盤が直立すると、それらの筋肉が至適長さになり、筋力が発揮され易い。
【0019】
本発明によれば、弾性率の大きい第2生地により骨盤の上部を周囲から覆うので、骨盤が左右・前後に振れ難く安定する。
ベルト背部がベルト前部よりも骨盤の上方の位置に配置されており、オフセットした偶力が骨盤を直立させるモーメントとなって骨盤に加わる。その結果、骨盤が直立した姿勢となり易い。
【0020】
特に、骨を支える筋肉が疲労した後も、骨盤の傾きが安定し易く、骨盤が直立した姿勢を維持し易い。したがって、大殿筋やハムストリングスなどの筋肉が至適長さとなり易く、その結果、筋力が発揮され易い。
【0021】
一方、弾性率の大きい第2生地は、骨盤よりも上方の部位を本質的に覆っていない。そのため、弾性率の大きい第2生地が骨盤よりも上方において、ウエストに食い込むおそれがない。したがって、呼吸による周囲長の変化が阻害されず、腹部に過度の圧迫が加わるおそれがない。
【0022】
本発明において、第1生地および第2生地は、それぞれ、単一材であっても、複合材であってもよい。たとえば、ウエアの概ね全域にわたる身生地で第1生地を構成し、ベルト部について強化ネットのような強化生地を前記身生地に重ね合わせたり、樹脂を身生地に含浸ないし塗布するなどして第2生地としてもよい。
【0023】
本発明において、前記後上端の中央が前記前上端の中央よりも概ね4cm〜6cm程度上方に配置され、かつ、前記後中心ラインが前記前中心ラインよりも平均値で4cm〜6cm上方に配置されていることを数値で限定した理由は、以下のとおりである。
下限値が4cm未満であると、前記偶力が十分に発揮されず、オフセットしていない場合に比べ、十分な効果が得られない。
上限値が6cmを超えると、ベルト前部の下端が下肢に近づき、下肢の動きを阻害したり、あるいは、ベルト前部の下端が下肢に近づくのを防ぐためベルトの上下の幅を必要以上に小さくしなければならない。
【0024】
第1ベルト部の上端部には、ゴム様ベルトが配置されると共に前記ゴム様ベルトを収納するために第2生地を袋状に縫って形成した収納部が配置される。これらのゴム様ベルトや収納部を持つ前記上端部は胴回り方向に沿った弾性率が極めて大きい。そのため、第1ベルト部の上端のラインの位置は、適切な偶力を発揮させる上で、重要な要素となる。
すなわち、後上端の中央と前上端の中央とのレベル差が4cm未満であると、前記偶力が十分に発揮されないだろう。
一方、後上端の中央と前上端の中央とのレベル差が6cmを超えると、ベルト背部の上端が腸骨よりも上方を覆ったり、あるいは、ベルト前部のゴム様ベルトや収納部の位置が下方になるのに伴いベルト前部の下端のラインが下肢に近づく。このようなベルト前部は不快感や運動能力の低下を招く。
【0025】
本発明では、前記第1ベルト部の上端のラインが前記ベルト側部の中央(前面の両端)から前記ベルト前部の中央に近づくに従い下方に向かって傾斜している。そのため、前記ベルト前部の前上端のラインが、前記仙骨の上端またはその近傍に沿って配置されることが可能である。
【0026】
“前記ベルト前部、ベルト背部および一対のベルト側部とを本質的に連続的に備え”とは、第2生地からなる第1ベルト部の一部に第1生地が設けられていてもよい(弾性率の小さい部分があってもよい)ことを意味する。弾性率の小さい第1生地が若干設けられている場合においても、骨盤の周囲から骨盤に大きな圧力を付与することが可能である。
【0027】
“前記ベルト前部の前上端のラインが骨盤よりも上方の部位を本質的に覆わず”とは、前上端のラインが仙骨前面の上端よりも上方に配置されている場合を含むことを意味すると共に、前上端のラインが仙骨前面の両側の腸骨において骨盤の上端よりも下方に配置されていることを意味する。
【0028】
“前上端のラインが後上端のラインよりも上方の部位を本質的に覆わず”とは、ベルト背部の一部が第1生地で形成されている場合に、当該第1生地の部位を前上端のラインが横断するように前上端のラインが配置されていてもよいことを意味する。
【0029】
スイムウエア以外においては、前記第1生地の胴回り方向に沿った弾性率E1が0.3〜3.0N/cmに設定されているのが好ましいだろう。
【0030】
第1生地の弾性率E1が0.3N/cmよりも小さいと、運動時に第1生地がめくれ易いだろう。一方、第1生地の弾性率E1が3.0N/cmよりも大きいと、第1生地の過度の締付により下肢の動きを阻害するかもしれないだろう。
【0031】
かかる観点から、第1生地の弾性率E1は0.4〜2.5N/cm程度がより好ましく、0.6〜2.0N/cm程度が最も好ましいだろう。
【0032】
また、スイムウエア以外においては、前記第2生地の胴回り方向に沿った弾性率E2が3.0〜14.0N/cmに設定されているのが好ましいだろう。
第2生地の弾性率E2が3.0N/cmよりも小さいと、第2生地による腰に対する圧力が小さすぎて十分な偶力が得られないかもしれない。一方、第2生地の弾性率E2が14.0N/cmよりも大きいと、腰に対する締付力が大きくなりすぎて、腰の動きを阻害したり、血行が劣化したりするかもしれない。
【0033】
かかる観点から、第2生地の弾性率E2は4.0〜12.0N/cm程度がより好ましく、4.5〜11.0N/cm程度が更に好ましく、競技の種類に関係なく、5.5〜10N/cmが最も好ましいかもしれない。
【0034】
更に、スイムウエア以外においては、前記第2生地の弾性率E2を前記第1生地の弾性率E1で除した除算値(E2/E1)が、2.0〜25.0に設定されているのが好ましいだろう。
【0035】
前記除算値(E2/E1)が2.0よりも小さいと、前記第2生地の弾性率E2が小さくなりすぎたり、第1生地の弾性率E1が大きくなりすぎたりするだろう。そのため、骨盤外周に加わる力が不十分であったり、下肢に過度の圧迫が加わるかもしれない。
一方、前記除算値(E2/E1)が25.0よりも大きいと、前記第1生地の弾性率E1が小さくなりすぎたり、前記第2生地の弾性率E2が大きくなりすぎるだろう。そのため、骨盤外周に過度の力が加わったり、第1生地がめくれて運動が阻害されるかもしれない。
【0036】
かかる観点から、前記除算値(E2/E1)は3.0〜20程度がより好ましく、4.0〜18.0程度が最も好ましいだろう。
【0037】
また、スイムウエア以外においては、前記第2生地の弾性率E2から前記第1生地の弾性率E1を減算した減算値(E2−E1)が2.7〜13.7N/cmに設定されているのが好ましいだろう。
【0038】
前記減算値(E2ーE1)が2.7N/cmよりも小さいと、前記第2生地の弾性率E2が小さくなりすぎたり、第1生地の弾性率E1が大きくなりすぎたりするだろう。そのため、骨盤外周に加わる力が不十分であったり、腹部に過度の圧迫が加わるかもしれない。
一方、前記減算値(E2ーE1)が13.7N/cmよりも大きいと、前記第1生地の弾性率E1が小さくなりすぎたり、前記第2生地の弾性率E2が大きくなりすぎるだろう。そのため、骨盤外周に過度の力が加わったり、第1生地がめくれて運動が阻害されるかもしれない。
【0039】
かかる観点から、減算値(E2ーE1)は、3.6〜11.6N/cmがより好ましく、3.9〜10.4N/cmが最も好ましいだろう。
【0040】
これらの組み合わせから、スイムウエア以外においては、前記第1生地の胴回り方向に沿った弾性率が0.3〜3.0N/cmに設定され、前記第2生地の胴回り方向に沿った弾性率が3.0〜14.0N/cmに設定され、前記第2生地の弾性率を前記第1生地の弾性率で除した値が2.0〜25.0に設定され、前記第2生地の弾性率から前記第1生地の弾性率を減算した値が2.7〜13.7N/cmに設定されているのが好ましいだろう。
【0041】
また、スイムウエア以外において、前記第1生地の弾性率が0.4〜2.5N/cmに設定され、前記第2生地の弾性率が4.0〜12.0N/cmに設定され、前記第2生地の弾性率を前記第1生地の弾性率で除した値が3.0〜20.0に設定され、前記第2生地の弾性率から前記第1生地の弾性率を減算した値が3.6〜11.6N/cmに設定されるのがより好ましいだろう。
【0042】
スイムウエア以外において、前記第1生地の弾性率が0.6〜2.0N/cmに設定され、前記第2生地の弾性率が4.5〜11.0N/cmに設定され、前記第2生地の弾性率を前記第1生地の弾性率で除した値が4.0〜18.0に設定され、前記第2生地の弾性率から前記第1生地の弾性率を減算した値が3.9〜10.4N/cmに設定されるのが更に好ましいだろう。最も好ましい例では、競技の種類に関係なく、前記第2生地の弾性率が5.5〜10.0N/cmに設定される。
【0043】
スイムウエアの場合、生地が肌の表面から離れるとスイムウエア内に水が浸入し大きな抵抗となるので、生地が肌に密着しているのが好ましい。そのため、第1生地の弾性率も高いのが好ましい。
【0044】
一方、前記第1生地の弾性率E1を高くした場合、前記第2生地の弾性率E2を高くしすぎると、ウエアによる身体の締め付け力が大きくなりすぎる。また、スイムウエアの場合、伸びが大きい状態で水泳者がスイムウエアを着用する。そのため、第2生地自体の弾性率は小さいが、水泳者の腰に加わる力は大きい。
【0045】
かかる観点から、スイムウエアの場合、前記第1生地の弾性率が1.2〜3.5N/cmに設定され、前記第2生地の弾性率が5.0〜14.0N/cmに設定され、前記第2生地の弾性率E2を前記第1生地の弾性率E1の平均値で除した値が1.5〜7.0に設定され、前記第2生地の弾性率E2から前記第1生地の弾性率E1を減算した値が3.7〜12.0N/cmに設定されるのが好ましいだろう。
【0046】
スイムウエアの場合、前記第1生地の弾性率が1.5〜3.0N/cmに設定され、前記第2生地の弾性率が5.5〜10.0N/cmに設定され、前記第2生地の弾性率E2を前記第1生地の弾性率E1で除した値が1.9〜6.0に設定され、前記第2生地の弾性率E2から前記第1生地の弾性率E1を減算した値が2.5〜8.5N/cmに設定されるのがより好ましいだろう。
【0047】
スイムウエアの場合、前記第1生地の弾性率が1.7〜2.8N/cmに設定され、前記第2生地の弾性率が6.0〜9.0N/cmに設定され、前記第2生地の弾性率E2を前記第1生地の弾性率E1で除した値が2.2〜4.0に設定され、前記第2生地の弾性率E2から前記第1生地の弾性率E1を減算した値が4.3〜7.2N/cmに設定されるのが最も好ましいだろう。
【0048】
スイムウエアにおいては、筋肉が大きく動く大腿の前面については弾性率がより小さい生地(第1生地)を用い、下腹部、臀部および大腿背面については弾性率がやや大きい生地(第1生地)を用いてもよい。かかる場合、つまり、弾性率の異なる2種以上の生地を第1生地や第2生地が含む場合、スイムウエアだけでなく全てのウエアにおいて生地の弾性率は平均値で定義される。
【0049】
本発明において、弾性率E1、E2は着用時に胴に加わる圧力を設定するものであるから、着用状態の値で定義されるべきである。一方、生地の弾性率は金属材料の弾性率と異なり、伸びの量によって変動する。そこで、本発明では弾性率の再現性を考慮し、弾性率を以下のように定義する。
【0050】
すなわち、下記の(1) 式に示すように、弾性率とは単位幅の生地について生地が20%伸びた時における単位伸びに対する荷重の大きさをいう。
E=(F/W)/Δ …(1)
E:弾性率
F:20%伸び時の荷重
W:サンプルの幅
Δ:0.2(ひずみ)
本発明における弾性率は生地の単位幅当りの荷重の大きさであるから、生地の厚さは無視される。
なお、「単位伸び」とは生地の単位長さ当りの伸びを意味する。
また、第1または第2の生地が複合材である場合には、複合した状態で測定された値で定義される。
【0051】
一方、ゴム様ベルトやゴム様ベルトを収納するために第2生地を二重にして袋状に形成した収納部については、局部的に弾性率が高くなっている。しかし、これらの部材のうち測定の困難な袋状の収納部については、本明細書における弾性率の定義から除外される。
【0052】
本発明の好適な実施例においては、前記第1ベルト部の上端部には、胴回り方向に連なった収納部が設けられ、前記収納部は前記第2生地が二重になるように前記第2生地を折り返して形成され、前記収納部には前記胴回り方向に伸縮性を有するゴム弾性を持つゴム様ベルトが収納されている。
【0053】
前述のように、収納部やゴム様ベルトを持つ第1ベルト部の上端部の弾性率は他の部位の弾性率に比べ著しく大きい。したがって、前記収納部やゴム様ベルトが第1ベルト部の上端部において胴回り方向に連なっていることで、着用時に腰部において大きな偶力が発揮される。
【0054】
ここで、ゴム弾性を持つゴム様ベルトとは、ベルトが糸ゴムや平ゴムで形成されている場合の他に、糸ゴムを織って形成されたベルトや、生地に樹脂を含浸・塗布などして形成されたベルトを含み、伸縮性の大きい熱可塑性エラストマーを素材として糸状または帯状に形成されたベルトを含む。
なお、「ゴム弾性」とは、ベルトの大きな変形が可能で(例えば、破断伸度が100%以上)、かつ、応力を取り除くとベルトが元の形状に復元する性質をいう。
【0055】
本発明の更に好適な実施例では、前記ゴム様ベルトの弾性率が17〜40N/cmに設定され、かつ、前記ゴム様ベルトの幅が2.0〜3.5cmに設定されている。
【0056】
この場合、ゴム様ベルトの弾性率が大きく、かつ、十分な幅を持つので、大きな偶力が発揮される。
【0057】
本発明の効果は、着用時にウエアが着用者の骨盤に与える圧力およびモーメントによって得られる。したがって、本来的には、ウエアをマネキンに着せて、マネキンの表面の圧力の分布を測定し、この測定値をパラメータとすべきである。しかし、前記圧力分布の測定は、マネキンが異なれば得られるデータが異なる。そこで、本明細書においては、生地の弾性率をパラメータとした。
【0058】
ベルト前部の上下方向の平均幅は、3〜12cm程度が好ましく、4〜10cm程度が更に好ましいだろう。
一方、ベルト背部の上下方向の平均幅は、5〜12cm程度が好ましく、6〜10cm程度が更に好ましいだろう。
【0059】
第1ベルト部の幅が大きすぎるとオフセットの効果が得にくくなる。一方、第1ベルト部の幅が小さすぎると着用者に対し力が局所的に作用しすぎる。
【0060】
本発明において、前記ベルト前部の前上端のラインは下方に向かって凸となるように形成されており、前記ベルト背部の後上端のラインは上方に向かって凸または概ね水平となるように形成されているのが好ましい。
このように第1ベルト部の上端が形成されていることで、第1ベルト部の上端のラインが背面の中心から側部を通り前面の中心に向かって緩やかなカーブを描き、かつ、自然なラインとなる。
【0061】
この場合、前記ベルト前部の下端のラインは上方に向って凸となるように形成されており、前記ベルト背部の下端のラインは上方に向って凸となるように形成されているのが更に好ましい。
この実施例の場合、ベルト側部の上下の幅が大きくなる。ベルト側部の上下の幅が大きいと、骨盤の左右方向の安定が高まる。
【0062】
本発明では、前記第1ベルト部は前記前面の両端近傍において上前腸骨棘の少なくとも一部を覆い、かつ、腸腰筋の一部を覆い、前記ベルト背部は仙骨の一部を覆うのが好ましい。
このような配置で第1ベルト部が骨および筋肉を覆うことにより骨盤が安定すると共に、第1ベルト部が腸腰筋を圧迫して、インナーマッスルである腸腰筋の働きを高めることが可能となる。
【0063】
この場合、前記ベルト背部は仙骨の上端またはその近傍を覆い下端を覆わないのが更に好ましい。
このような位置にベルト背部が設けられていると、背面から骨盤に加わる力と前面から骨盤に加わる力とのオフセット量が大きい。したがって、骨盤が直立した姿勢となり易い。
【0064】
また、前記ベルト側部は腸骨稜よりも下方でかつ大転子よりも上方に配置されているのが好ましい。
腸骨稜と大転子の間において、ベルト側部が中殿筋に力を加えていることで、中殿筋の動きが左右にブレるのを防止し、中殿筋の働きが高められる。その結果、骨盤および下肢が左右方向に安定し運動効率が向上する。
【0065】
この場合、前記ベルト側部の下端のラインは、前記ベルト側部における周方向の概ね中心に近づくに従い下方に向かって凸となるように形成されており、前記ベルト側部の最下端が前記大転子に接近している。前記ベルト側部の高さが前記大転子から前記腸骨稜までの距離の1/2以上でかつ4/5以下に設定されているのが好ましいだろう。
【0066】
腸骨稜と大転子の間においてベルト側部が中殿筋を広い面積にわたって圧迫することは、中殿筋の働きを高める。ベルト側部が大転子を覆わない場合、脚の運動がスムーズになる。
【0067】
本発明はスイムウエアとして好的に用いることができる。
骨盤にオフセットした力が加えられることで、水泳中に、重い下肢を上方に持ち上げる力が骨盤に作用する。そのため、水泳時において腰が沈み込まない上、筋疲労が生じても姿勢が安定する。その結果、競泳者の姿勢が水面に対して平行かつ真っ直ぐな有効姿勢となり易く、かつ、筋肉が疲労しても、前記有効姿勢を維持し易い。
【0068】
スイムウエアの場合、前記第1生地とは異なる生地で形成された一対の第2ベルト部を更に備え、前記第2ベルト部の長手方向に沿った弾性率が前記第1生地の弾性率よりも大きく、前記各第2ベルト部は、前記第2ベルト部の上端が前記骨盤の外側における大腿背部において前記第1ベルト部の下端に連結された第1連結部を有し、前記第1連結部から膝の内側に向かうベルト状に形成されているのが好ましい。
【0069】
大腿背部の骨盤外側と膝内側を結ぶ仮想のライン上に、第2ベルト部を配置することで股関節を伸展させるハムストリングスおよび大殿筋の働きを補助する機能や股関節を内旋させる機能が向上する。また、股関節を伸展させることにより、水泳時における腰の沈み込みが抑制される。
【0070】
スイムウエアの場合、前記第1生地とは異なる生地で形成された一対の第3ベルト部を更に備え、前記第3ベルト部の長手方向に沿った弾性率が前記第1生地の弾性率よりも大きく、前記第3ベルト部は、大腿前部の上端近傍の内側から膝の外側に向かってベルト状に形成されているのが更に好ましい。
【0071】
大腿前部の上端近傍の内側と膝外側を結ぶ仮想のライン上に、第3ベルト部を配置することで、股関節を内転させる内転筋群の働きを補助する機能や股関節を内旋させる機能が向上する。股関節を内転、内旋させることにより、水中におけるキック動作において、より多くの水を下肢や足でとらえることができる。
【0072】
膝よりも下方を覆う脚部を持つランニングタイツの場合、前記第2生地で形成され膝近傍の上方の前面を覆うサポート部と、前記サポート部と前記ベルト側部とを脚の長手方向に沿って連ねる連結部とを更に備えているのが好ましい。
【0073】
この場合、前記サポート部により、大腿部の振動抑制が図られる。また、サポート部をベルト部に連結することで、下肢の側方安定性が図られる。さらに、膝関節や股関節の回旋の安定が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1Aは本発明の第1実施例にかかるパンツ型の競技用ウエアを示す概略正面図、図1Bは従来のパンツ型のウエアを示す概略正面図である。
【図2】図2Aはパンツ型の競技用ウエアを示す概略正面図、図2Bは同背面図である。
【図3】図3Aは従来のパンツ型のウエアを示す概略正面図、図3Bは同背面図である。
【図4】図4Aは、本発明の第1実施例にかかる競技用ウエアの一部を破断した概略断面図、図4Bは人体の骨格の一部を示す正面図である。
【図5】図5A,図5Bおよび図5Cは、それぞれ、同競技用ウエアと骨および筋肉との関係を示す概略正面図、概略側面図、概略背面図である。
【図6】図6A,図6Bおよび図6Cは、それぞれ、本発明の第2実施例にかかるパンツ型の競技用ウエアを着用した場合の概略正面図、概略背面図、概略側面図である。
【図7】図7A,図7Bおよび図7Cは、それぞれ、本発明の第3実施例にかかるパンツ型の競技用ウエアを示す概略正面図、概略背面図、概略側面図である。
【図8】図8A,図8Bおよび図8Cは、それぞれ、本発明の第4実施例にかかるパンツ型の競技用ウエアを示す概略正面図、概略背面図、概略側面図である。
【図9】図9は本発明の第5実施例にかかるタイツ型の競技用ウエアを示す概略斜視図である。
【図10】図10A,図10Bおよび図10Cは、それぞれ、本発明の第6実施例にかかるスーツ型の競技用ウエアを示す概略背面図、概略側面図、概略正面図である。
【図11】図11Aは比較例および試験例に用いたウエアを着用して走速度を測定した結果を示す棒グラフ、図11Bは比較例および試験例に用いたウエアを着用して推進力積を測定した結果を示す棒グラフである。
【図12】図12Aは比較例および試験例に用いたウエアを着用して横方向の力積を測定した結果を示す棒グラフ、図12Bは比較例および試験例に用いたウエアを着用して推進効率を測定した結果を示す棒グラフである。
【図13】図13Aは比較例および試験例に用いたウエアを着用して跳躍高を測定した結果を示す棒グラフ、図13Bは比較例および試験例に用いたウエアを着用して跳躍高のバラツキを測定した結果を示す棒グラフである。
【図14】図14Aは比較例および試験例に用いたウエアを着用して大殿筋の筋力の発揮効率を測定した結果を示す棒グラフ、図14Bは比較例および試験例に用いたウエアを着用してハムストリングスの筋力の発揮効率を測定した結果を示す棒グラフである。
【図15】図15Aおよび図15Bは、それぞれ、比較例および試験例に用いたウエアを着用して跳躍高を測定した結果を示す棒グラフである。
【図16】図16Aは比較例および試験例に用いたウエアを着用して泳いだ場合のストローク長を測定した結果を示す棒グラフ、図16Bは水中姿勢を示す側面図である。
【符号の説明】
【0075】
1:パンツ型の競技用ウエア
10:第1ベルト部
11:ベルト前部
12:ベルト側部
13:ベルト背部
14:第1ベルト部の前上端のライン
15:第1ベルト部の後上端のライン
17:脚部
22:第2ベルト部
23:第3ベルト部
24:第2連結部
25:第1サポート部
26:第2サポート部
200:脹脛(ふくらはぎ)
31:第1連結部
101:第1領域
102:第2領域
103:第3領域
F:生地
Fb:身生地
Fs:強化生地
H1:上端のラインのオフセット量
H2:中心のラインのオフセット量
M1:腸腰筋
M2:中殿筋
M3:腰方形筋
Bb:大転子
Bf:大腿骨
Bh:骨盤
Bs:仙骨
Bt:腸骨
Bhu:骨盤の上部
Blc:腸骨稜
Bls:上前腸骨棘
Gb:ゴム様ベルト
Gs:収納部
Tu:大腿前部Tfの上端近傍の内側
Tf:大腿前部
Tb:大腿背部
J:股関節
K:膝
【発明を実施するための最良の形態】
【0076】
本発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施例の説明からより明瞭に理解されるであろう。しかしながら、実施例および図面は単なる図示および説明のためのものであり、本発明の範囲は請求の範囲によって定まる。添付図面において、複数の図面における同一の部品番号は、同一または相当部分を示す。
【0077】
第1実施例:
以下、本発明の第1実施例が図1A,図2A,図2B,図4〜図5Cを参照して説明される。
図4Bにおいて、骨盤Bhは腸骨Btおよび仙骨Bsからなる。骨盤Bhには股関節Jを介して大腿骨Bfが接続されている。
【0078】
全体構成:
図1Aは、膝上丈のパンツ型の競技用ウエア1を示す。
図1Aに示すように、本競技用ウエア1は伸縮性を有する生地F1,F2からなる。
【0079】
前記競技用ウエア1は、図2Aおよび図2Bに示すように、弾性率の小さい第1生地F1と、前記第1生地F1よりも弾性率の大きい第2生地F2(図2Aおよび図2Bの荒い網点で示す部分)とで形成されている。
【0080】
図5A,図5Bおよび図5Cに示すように、ウエア1を着用すると、股間Cおよび骨盤Bhの下部の周囲は、第1生地F1で覆われ、前記骨盤Bhの上部の周囲は、第2生地F2で覆われる。前記第2生地F2は、ベルト状の第1ベルト部10を構成している。
【0081】
図4Aに示すように、前記第1生地F1はウエアの概ね全域にわたる身生地Fbで構成されている。第1ベルト部10は、たとえば、強化ネットのような強化生地Fsを身生地Fbに重ね合わせた第2生地F2により構成されている。
第1ベルト部10の上部は折り曲げられた後、折り曲げられた前記上部の端部が他の第1ベルト10と縫合されて袋状の収納部Gsが形成されている。図2Aおよび図2Bに示すように、前記収納部Gsには、帯状のゴム様ベルトGbがウエア1の胴回りの全周にわたって挿入されている。この実施例の場合、ゴム様ベルトGbの幅は、たとえば2.5cmである。
【0082】
第1ベルト部10:
図2Aおよび図2Bの2点鎖線で示すように、ベルト前部11、一対のベルト側部12およびベルト背部13が第1ベルト部10を周方向Rに4等分した領域にそれぞれ設定されている。すなわち、ウエアの前面にベルト前部11、背面にベルト背部13、側面にベルト側部12がそれぞれ設定されている。前記ベルト前部11、ベルト側部12およびベルト背部13は、連続的に形成されている。
【0083】
図2Aに示すように、ベルト前部11の前上端のライン11uは、下方に向って凸となるように形成されている。図2Bに示すように、ベルト背部13の後上端のライン13uは、上方に向って凸となるように形成されている。
図2Aに示すように、ベルト前部11の下端のライン11dは、上方に向って凸となるように形成されている。図2Bに示すように、ベルト背部13の下端のライン13dは、上方に向って凸となるように形成されている。
【0084】
第2実施例を示す図6A,図6Bおよび図6Cのように、第1実施例においても第1ベルト部10の上端のライン14,15は、ベルト背部13の中央15cからベルト側部を通ってベルト前部11の中央14cに近づくに従い下方に向って傾斜している。なお、図6A〜図6Cの第2実施例では収納部Gsに糸状のゴム様ベルトが収納されている。なお、第2実施例の詳細については後述される。
【0085】
図6A,図6Bおよび図6Cに示すように、第1ベルト部10は、後上端のライン15の中央15cが前上端のライン14の中央14cよりもたとえば5.0cm上方に配置されている。
図2BにおいてラインLbはベルト背部13を上下に2分割する仮想の後中心ラインである。図2AにおいてラインLfはベルト前部11を上下に2分割する仮想の前中心ラインである。図1に示すように、ラインLbがラインLfよりも平均値で約5.0cm上方となるように、第1ベルト部10が形成されている。
【0086】
ウエア1の着用状態:
図5A,図5Bおよび図5Cに示すように、ウエア1が着用されると、第1ベルト部10により骨盤Bhの周囲が覆われる。
図5Aに示すように、ベルト前部11は骨盤Bhの上部Bhuを前面から覆う。図5Bに示すように、ベルト側部12は骨盤Bhの上部Bhuを側面から覆う。図5Cに示すように、ベルト背部13は骨盤Bhの上部Bhuを背面から覆う。
【0087】
図5Aに示すように、ベルト前部11の前上端のライン14は、骨盤Bhの上端またはその近傍に沿って配置される。すなわち、前上端のライン14のレベルは、概ね、仙骨前面の中央上端またはその近傍のレベルに配置される。前上端のライン14は、骨盤Bhよりも上方の部位を覆わない。前上端のライン14は、ベルト背部13の後上端のライン15よりも上方の部位を覆わない。
ベルト前部11の下端のライン11dは、骨盤Bhの下部の股関節Jや大転子Bbよりも上方に位置する。
第1ベルト部10は、前面の両端において上前腸骨棘BIsの一部を覆い、かつ、腸腰筋M1の一部を覆う。
【0088】
図5Bに示すように、ベルト側部12は、腸骨稜BIcの上端よりも下方で、かつ、大転子Bbよりも上方に配置される。ベルト側部12の上端のラインは前記腸骨稜BIcに近接しているのが好ましい。
ベルト側部12の下端12dは、ベルト側部12における周方向Rの概ね中心に近づくに従い下方に向って凸となるように形成されている。そのため、ベルト側部12の最下端は、大転子Bbに接近している。
ベルト側部12の高さは、大転子Bbから腸骨稜BIcまでの距離の1/2以上で、かつ、4/5以下に設定される。そのため、中殿筋M2は、その中部から上部にかけて、ベルト側部12によって覆われている。
【0089】
図5Bに示すように、前面から骨盤Bhに加わる力Wfと背面から骨盤Bhに加わる力Wbとが互いにオフセットした状態で骨盤Bhに加わっている。
すなわち、前面から骨盤Bhに加わる力Wfより上方の位置において、力Wbが背面から骨盤Bhに加わっている。
【0090】
図5Cに示すように、ベルト背部13は仙骨Bsの上部を覆う。前記仙骨Bsの両側において、前記ベルト背部13の後上端のライン13uは、腸骨Btの上端に近接し、かつ、腸骨Btの上端よりも下方の位置となるのが好ましい。ベルト背部13は、仙骨Bsの上端またはその近傍を覆うと共に、仙骨Bsの下端を覆わない。ベルト背部13およびベルト側部12は、腰方形筋M3を覆わない。
【0091】
第3実施例:
つぎに、本発明の第3実施例が図7A,図7Bおよび図7Cを参照して説明される。
図7Bおよび図7Cに示すように、本競技用ウエア1Bは、一対の第2ベルト部22を備えている。前記第2ベルト部22は第2生地F2で形成されており、第2生地F2の長手方向に沿った弾性率E3は第1生地F1の弾性率E1よりも大きい。
第2ベルト部22の上端は、骨盤Bh(図5B)の外側における大腿背部Tbにおいて、第1ベルト部10の下端に連結された第1連結部31を有している。第2ベルト部22は、前記第1連結部31から膝Kの内側K1に向かって膝Kの内側K1までベルト状に形成されている。一方、図7Aに示すように、第2ベルト部22は、大腿前部Tfには配置されていない。
なお、第2生地F2の長手方向に沿った弾性率E3と第2生地F2の胴回り方向に沿った弾性率E2は同じ値である。
【0092】
その他の構成は、第1実施例と同様であり、同一部分または相当部分に同一符号を付して、その説明を省略する。
【0093】
第4実施例:
つぎに、本発明の第4実施例が図8A,図8Bおよび図8Cを参照して説明される。
図8Aおよび図8Cに示すように、本競技用ウエア1Cは、一対の第3ベルト部23を備えている。前記第3ベルト部23は第2生地F2で形成されており、第2生地F2の長手方向に沿った弾性率E3は第1生地F1の弾性率E1よりも大きい。
第3ベルト部23は、大腿前部Tfの上端近傍の内側Tuから、膝Kの外側K2に向かって膝Kの外側K2までベルト状に形成されている。
なお、第2生地F2の長手方向に沿った弾性率E3と第2生地F2の胴回り方向に沿った弾性率E2は同じ値である。
【0094】
その他の構成は、第3実施例と同様であり、同一部分または相当部分に同一符号を付して、その説明を省略する。
【0095】
第5実施例:
つぎに、本発明の第5実施例が図9を参照して説明される。
図9に示すように、本競技用ウエア1Dは、いわゆるタイツ型であり、膝Kおよびその下方の脹脛(ふくらはぎ)200を覆う脚部17を備えている。前記ウエア1Dは、第1サポート部25、第2サポート部26および第2連結部24を備えている。
前記第1および第2サポート部25,26および第2連結部24は、第1生地F1よりも弾性率の大きい第2生地F2で形成されている。
【0096】
すなわち、第1および第2サポート部25、26の脚周り方向に沿った弾性率E4は第1生地F1の弾性率E1よりも大きく、第2連結部24の長手方向に沿った弾性率E5は前記第1生地F1の弾性率E1よりも大きい。
第1サポート部25は、膝K近傍の上方の前面を覆う。第2サポート部26は、膝K近傍の下方の前面を覆う。
第2連結部24は、前記第1および第2サポート部25,26と、第1ベルト部10のベルト側部12の側部とを脚の長手方向Zに沿って連なるように形成されている。
なお、前記第2生地F2の第1および第2サポート部25、26の脚周り方向に沿った弾性率E4、第2生地F2の第2連結部24の長手方向に沿った弾性率E5および第2生地F2の胴回り方向に沿った弾性率E2は同じ値である。
【0097】
その他の構成は、第1実施例と同様であり、同一部分または相当部分に同一符号を付して、その説明を省略する。
【0098】
第2実施例、第6実施例:
図6A〜図6Cは男性用のスイムウエアを示す。図10A,図10Bおよび図10Cに示す競技用ウエア1Aは第6実施例を示し、前述の第2実施例のスイムウエア1を女性用スイムウエアに適用したものである。
【0099】
図6A〜図6Cにおいて、前記第1生地F1は、大腿の前面である第1領域101と、大腿の背面および臀部である第2領域102とを覆い、前記第1領域101を覆う第1生地F1の前記弾性率よりも前記第2領域102を覆う第1生地F1の前記弾性率の方が大きい。
前記第1生地F1は更に下腹部からなる第3領域103を覆い、前記第3領域103の第1生地F1の前記弾性率は、前記第1領域101を覆う第1生地F1の前記弾性率よりも大きい。
【0100】
たとえば、前記第2および第3領域102、103の第1生地F1の弾性率は3.3N/cmであり、前記第1領域101の第1生地F1の弾性率は1.2N/cmである。図6A〜図6Cにおいて前記第2および第3領域102、103については細かい網点が施されている。この場合、第1生地F1の弾性率E1は下記の(2)式で求められる。
E1=(E11・A11+E12・A12+・・・E1n・A1n)/A1・・・(2)
E1i:第1生地で覆われた領域の生地の弾性率
A1i:弾性率E1iの生地で覆われた領域の面積
A1:腰盤下部を覆う第1生地の総面積
【0101】
図10A〜図10Cの女性用スイムウエアにおいては、前記第2および第3領域102、103およびこれらと同等の弾性率を持つ部位に細かい網点が施されている。
本第6実施例のウエア1Aについてのその他の構成は、前述した競技用ウエア1と同様であり、同一部分または相当部分に同一符号を付して、その説明を省略する。
【0102】
試験例および比較例:
つぎに、本発明の効果を明瞭にするために、試験例および比較例が示される。
【0103】
試験に用いた試験例1、試験例2、試験例3、比較例1、比較例2および比較例3が説明される。
なお、以下において「ゴム様ベルトGbの弾性率」とは、ゴム様ベルトGbの表面および裏面に第1生地F1を重ね合わせた状態における弾性率を示す。
【0104】
試験例1:
試験例1は、図1Aの競技用ウエア1において、第1生地F1の胴回り方向Rに沿った弾性率が1.1N/cmに設定され、第2生地F2の胴回り方向Rに沿った弾性率が4.6N/cmに設定されたウエアである。ゴム様ベルトGbの弾性率は18.4N/cmであった。
【0105】
試験例2:
試験例2は、前記図1Aの競技用ウエア1において、第1生地F1の胴回り方向Rに沿った弾性率が1.1N/cmに設定され、第2生地F2の胴回り方向Rに沿った弾性率が8.0N/cmに設定されたウエアである。ゴム様ベルトGbの弾性率は25.7N/cmであった。
したがって、試験例1は試験例2よりも、第1ベルト部10(図1A)による被験者に与える圧力および偶力が小さく設定されている。
【0106】
比較例1:
比較例1は、前記図1の競技用ウエア1において、第1および第2生地F1、F2の胴回り方向Rに沿った弾性率が1.1N/cmに設定されたウエアである。比較例1のゴム様ベルトGbの弾性率は6.1N/cmであった。
【0107】
比較例2:
比較例2は、図1B、図3Aおよび図3Bに示す公知のパンツ100を用いた。
図1Bに示すように、比較例2のパンツ100は第3生地F3、第4生地F4および第5生地F5を備えている。
【0108】
パンツ100の上端部には、ゴム様ベルトGbが該パンツ100の胴回りの全周にわたって挿入されている。
図1Aおよび図1Bに示すように、パンツ100の前上端のライン14Aは、図1Aの競技用ウエア1の前上端のライン14に比べて、股間Cからの高さが高く設定されている。そのため、前記ゴム様ベルトGbによって、着用者の骨盤Bh(図5Aおよび図5B)よりも上方の部分が締めつけられる。
このパンツ100の上端のラインの最大のオフセット量H1は約3cm程度であった。
【0109】
図3Aおよび図3Bに示すように、パンツ100の両側面112および背面113の上部には第4生地F4が用いられている。パンツ100のベルト前部111には、中央に行くに従い下方に向かって凸となるように形成された第5生地F5が用いられている。
前記第3生地F3、第4生地F4および第5生地F5の弾性率は、それぞれ、1.7N/cm、4.4N/cmおよび4.9N/cmであった。なお、比較例2のゴム様ベルトの弾性率は腹部で11.6N/cm、背部で18.0N/cmであった。
【0110】
試験例3、4および比較例3:
試験例3は図6A〜図6Cの男子用のスイムウエア、試験例4は図10A〜図10Cの女子用のスイムウエアである。試験例3、4の第1生地の弾性率は前面が1.2N/cm、背面が3.3N/cm、第2生地の弾性率は6.7N/cmであった。なお、試験例3のゴム様ベルトは糸ゴムである。
なお、比較例3としては、一般的なスイムウエアを用いた。
【0111】
弾性率の測定方法
生地の弾性率はJIS−L1018に準拠して下記の仕様で測定した。
試験機:万能材料試験機(インストロン5565型)
引張方向:ウエアの胴回り方向
引張速度:20.0cm/min
チャック間距離:10.0cm
生地のサイズ:幅5.0cm、長さ20.0cm
試験例1,2および比較例1のゴム様ベルトのサンプルのサイズ:幅2.5cm、長さ20.0cm
比較例2のゴム様ベルトのサンプルのサイズ:幅3.0、長さ20.0cm
前記各サンプルが20%伸びたときの単位伸びに対する単位幅当りの荷重の大きさを測定して求めた。
【0112】
短距離ランニングテスト:
図11Aおよび図11Bは、比較例1および試験例1を用いた短距離ランニングテストの結果を示す。
このテストでは、男子短距離選手14名を被験者として、20mをダッシュした場合の走速度と推進力の変化を計測した。
その結果、図11Aに示すように走速度が平均値で0.5%向上し、図11Bに示すように推進力積が平均値で3%向上した。
この向上の度合いは、100mを10秒で走ることを想定した場合、0.05秒短縮されたことに相当する。
【0113】
キック動作の変化:
図12Aおよび図12Bは、比較例1および試験例1を用いたキック動作テストの結果を示す。
この試験は、男子長距離選手5名を被験者として、キック動作の変化を計測した。
その結果、図12Aに示すように、試験例1は、比較例1に比べて、キック動作の不安定性を示す横方向の力が減少した。また、図12Bに示すように、比較例1に比べ試験例1は推進効率が平均値で8%向上した。なお、ランニング中の腰の左右の動揺も小さくなった。
【0114】
つぎに、以下に示すジャンプテスト1,2,3を行った。この試験は、被験者が助走付きジャンプ動作を行い、被験者の腰に付けた反射マーカーの鉛直変位から跳躍高を測定した。各ウエアを着用した被験者は、2回のジャンプを1セットとして、2セットのジャンプを行い、合計4回のジャンプを行った。
【0115】
ジャンプテスト1:
図13Aおよび図13Bは、比較例1および試験例2を用いたジャンプテスト1の結果を示す。
ジャンプテスト1は、男子バスケットボール選手5名、バレーボール選手3名の合計8名を被験者として、跳躍高を計測した。
その結果、図13Aに示すように、試験例2は比較例1に比べて跳躍高が平均で1cm向上した。また、図13Bに示すように、試験例2は比較例1に比べて跳躍高のばらつきが減少し、ジャンプの失敗が減少した。
【0116】
かかるテストにおいて、大殿筋とハムストリングスについて、被験者が床面を蹴ったときの力の積分値を筋の活動量で除算して、筋力発揮効率が測定された。
図14Aに示すように、大殿筋の筋力発揮効率は、試験例2、比較例1,試験例1の順番に大きな値を示した。特に、試験例2は、試験例1および比較例1に比べて約1.5倍の筋力発揮効率を示した。
図14Bに示すように、ハムストリングスの筋力の発揮効率は、試験例2,試験例1,比較例1の順番に大きな値を示した。
これらの結果から、骨盤に加わる偶力が大きい順に前記各筋力の発揮効率も大きいことが分る。
これは、前記ジャンプ時において、骨盤を安定させる中殿筋M2(図5B)の活動が促進され、かつ、骨盤が直立することで筋肉が至適長さとなり、その結果、ジャンプで主に働く大殿筋およびハムストリングスの筋力発揮効率が向上したものと考えられる。
【0117】
ジャンプテスト2:
この試験は、競技スポーツを行っている成人男子5名を被験者とした。
その結果、図15Aに示すように、跳躍高の平均値は、試験例2,試験例1,比較例2,比較例1の順番に高かった。
【0118】
比較例2のウエアと試験例1のウエアとは同程度の弾性率の生地で形成されている。また、双方ともにオフセットされた力が身体に加わる。
しかし、比較例2と試験例1の実験結果の差が生じており、その理由について考察する。
【0119】
図1Bの比較例2に用いたパンツ100のゴム様ベルトGbの前上端のライン14Aは、着用者の骨盤Bhよりも上方の部分に配置されている。
これに対し、試験例1に用いた競技用ウエア1のゴム様ベルトGbの前上端のライン14および後上端のライン15uは、着用者の骨盤Bhより上方の部分に配置されていない。
また、試験例1の競技用ウエア1のゴム様ベルトGbの前上端のラインと後上端のラインとのオフセット量は、前記従来のパンツ100のゴム様ベルトGbの前上端のラインと後上端のラインとのオフセット量よりも大きい。
【0120】
すなわち、試験例1の競技用ウエア1は、前記パンツ100に比べ、(1)ゴム様ベルトGbの前上端のラインが骨盤よりも上方に配置されていない、(2)前記オフセット量が前記パンツ100のオフセット量よりも大きい、という違いがある。
【0121】
このように、前記競技用ウエア1は、ゴム様ベルトGbの前上端のラインが骨盤よりも上方に配置されておらず、前記オフセット量が大きいため、オフセットした偶力による骨盤を直立させるモーメントが大きい。その結果、骨盤が直立した姿勢となり易いと推測される。
これに対し、前記パンツ100は、ゴム様ベルトの前上端のライン14Aが骨盤Bhよりも上方の部分に配置されており、かつ、前記オフセット量が小さいため、オフセットした偶力が小さい。その結果、骨盤を直立させ難いと推測される。
以上より、前記競技用ウエア1と前記パンツ100は構成において明確な差異があり、骨盤Bhに加える偶力の大きさの違いが実験結果に影響を与えたと考えられる。
【0122】
つぎに、試験例1と試験例2の実験結果の差について考察する。
前述したように、試験例1の第2生地F2の弾性率は4.6N/cm、ゴム様ベルトGbの弾性率は18.4N/cm、試験例2の第2生地F2の弾性率は8.0N/cm、ゴム様ベルトGbの弾性率は25.7N/cmであった。
したがって、試験例2の第1ベルト部10(図1A)が骨盤Bhに与える圧力および偶力は、試験例1の第1ベルト部10が骨盤Bhに与える圧力および偶力よりも大きい。
骨盤に加える圧力が大きい場合、骨盤の安定を図ることができる。さらに、骨盤に加える偶力が大きいことで、骨盤が直立した姿勢となり易い。
以上より、試験例1と試験例2は第2生地F2およびゴム様ベルトGbの弾性率において差異があり、骨盤Bhに加える圧力および偶力の大きさの違いが実験結果に影響を与えたと考えられる。
【0123】
ジャンプテスト3:
つぎに、一般的な成人男子8名を被験者として、同様のジャンプテストを試験例1と比較例1の各ウエアを着用して行った。その結果、図15Bに示すように、試験例1の方が比較例1に比べて跳躍力が高かった。
【0124】
スイミングテスト:
比較例3および試験例3、4のスイムウエアを着用した大学水泳部の男子学生7名および女子学生6名を被験者として、平泳時の1ストロークに対する推進距離の平均値を計測した。その結果、図16Aに示すように、前記ストローク長が平均で2cm長くなった。
また、試験例3、4では約70%の選手において図16Bの矢印方向に腰が起き、そのため、腰の沈み込みが抑えられたとの実感があり、比較例3に比べ、けのびの推進距離が増加したものと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明は、水泳、レスリング、陸上競技などの種々の競技用ウエアとして用いることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性を有する生地からなる競技用のウエアであって、
伸縮性を有する第1生地および第2生地で形成され、
前記第2生地の胴回り方向に沿った弾性率が、前記第1生地の胴回り方向に沿った弾性率よりも大きく、
前記ウエアにおける股間および骨盤の下部の周囲が前記第1生地で覆われ、
前記ウエアにおける前記骨盤の上部の周囲が前記第2生地で覆われてベルト状の第1ベルト部が形成され、
前記第1ベルト部は、
前記骨盤の上部を前面から覆うベルト前部と、
前記骨盤の上部を背面から覆うベルト背部と、
前記骨盤の上部を側面から覆う一対のベルト側部と、
が胴回りの周方向に連続的に延びて形成され、
前記ベルト前部、ベルト背部およびベルト側部は前記第1ベルト部を周方向に4等分した領域にそれぞれ設定され、
前記第1ベルト部の上端のラインが前記ベルト側部から前記ベルト前部の中央に近づくに従い下方に向かって傾斜しており、
前記ベルト背部の後上端ラインは、前記骨盤の仙骨の両側において前記骨盤の腸骨の上端よりも下方の位置に設定され、
前記後上端の中央が前記前上端の中央よりも上方の位置に配置され、
前記ベルト背部を上下に等分に2分割する仮想の後中心ラインが、前記ベルト前部を上下に等分に2分割する仮想の前中心ラインよりも平均値で上方の位置となるように前記第1ベルト部が形成されている競技用ウェア。
【請求項2】
請求項1において、前記第1ベルト部は前記前面の両端近傍において上前腸骨棘の少なくとも一部を覆い、かつ、腸腰筋の一部を覆い、
前記ベルト背部は仙骨の一部を覆う競技用ウエア。
【請求項3】
請求項1において、前記ベルト背部は仙骨の上端またはその近傍を覆い下端を覆わない競技用ウエア。
【請求項4】
請求項1において、前記ベルト側部は腸骨稜よりも下方でかつ大転子よりも上方に配置されている競技用ウエア。
【請求項5】
請求項1において、前記ベルト側部の下端のラインは、前記ベルト側部における周方向の概ね中心に近づくに従い下方に向かって凸となるように形成されており、
前記ベルト側部の最下端が前記大転子に接近しており、前記ベルト側部の高さが前記大転子から前記腸骨稜までの距離の1/2以上でかつ4/5以下に設定されている競技用ウエア。
【請求項1】
伸縮性を有する生地からなる競技用のウエアであって、
伸縮性を有する第1生地および第2生地で形成され、
前記第2生地の胴回り方向に沿った弾性率が、前記第1生地の胴回り方向に沿った弾性率よりも大きく、
前記ウエアにおける股間および骨盤の下部の周囲が前記第1生地で覆われ、
前記ウエアにおける前記骨盤の上部の周囲が前記第2生地で覆われてベルト状の第1ベルト部が形成され、
前記第1ベルト部は、
前記骨盤の上部を前面から覆うベルト前部と、
前記骨盤の上部を背面から覆うベルト背部と、
前記骨盤の上部を側面から覆う一対のベルト側部と、
が胴回りの周方向に連続的に延びて形成され、
前記ベルト前部、ベルト背部およびベルト側部は前記第1ベルト部を周方向に4等分した領域にそれぞれ設定され、
前記第1ベルト部の上端のラインが前記ベルト側部から前記ベルト前部の中央に近づくに従い下方に向かって傾斜しており、
前記ベルト背部の後上端ラインは、前記骨盤の仙骨の両側において前記骨盤の腸骨の上端よりも下方の位置に設定され、
前記後上端の中央が前記前上端の中央よりも上方の位置に配置され、
前記ベルト背部を上下に等分に2分割する仮想の後中心ラインが、前記ベルト前部を上下に等分に2分割する仮想の前中心ラインよりも平均値で上方の位置となるように前記第1ベルト部が形成されている競技用ウェア。
【請求項2】
請求項1において、前記第1ベルト部は前記前面の両端近傍において上前腸骨棘の少なくとも一部を覆い、かつ、腸腰筋の一部を覆い、
前記ベルト背部は仙骨の一部を覆う競技用ウエア。
【請求項3】
請求項1において、前記ベルト背部は仙骨の上端またはその近傍を覆い下端を覆わない競技用ウエア。
【請求項4】
請求項1において、前記ベルト側部は腸骨稜よりも下方でかつ大転子よりも上方に配置されている競技用ウエア。
【請求項5】
請求項1において、前記ベルト側部の下端のラインは、前記ベルト側部における周方向の概ね中心に近づくに従い下方に向かって凸となるように形成されており、
前記ベルト側部の最下端が前記大転子に接近しており、前記ベルト側部の高さが前記大転子から前記腸骨稜までの距離の1/2以上でかつ4/5以下に設定されている競技用ウエア。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−255247(P2012−255247A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−187732(P2012−187732)
【出願日】平成24年8月28日(2012.8.28)
【分割の表示】特願2009−537784(P2009−537784)の分割
【原出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(000000310)株式会社アシックス (57)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年8月28日(2012.8.28)
【分割の表示】特願2009−537784(P2009−537784)の分割
【原出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(000000310)株式会社アシックス (57)
【Fターム(参考)】
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