蓄電デバイス
【課題】電気容量の大きな蓄電デバイスを提供すること。
【解決手段】黒鉛を含む正極材料、Ti、Zr、V、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sn、Sb、Bi、WおよびTaから選ばれる少なくとも一種の金属元素の酸化物、好ましくは金属元素として少なくともTiを含む金属酸化物を含む負極材料、および電解液を含む蓄電デバイスである。
【効果】この蓄電デバイスは、電気容量が大きく、放電電圧が高いためエネルギー量が大きく、高エネルギー密度化が可能であり、更に、サイクル特性、レート特性にも優れている。
【解決手段】黒鉛を含む正極材料、Ti、Zr、V、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sn、Sb、Bi、WおよびTaから選ばれる少なくとも一種の金属元素の酸化物、好ましくは金属元素として少なくともTiを含む金属酸化物を含む負極材料、および電解液を含む蓄電デバイスである。
【効果】この蓄電デバイスは、電気容量が大きく、放電電圧が高いためエネルギー量が大きく、高エネルギー密度化が可能であり、更に、サイクル特性、レート特性にも優れている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気容量が大きな蓄電デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
正極、負極および非水電解液を主たる構成要素とする蓄電デバイスは、これまでに種々の構成が提案され、モバイル機器などの電源や回生用蓄電システム、パーソナルコンピューターのバックアップ電源などに実用化されてきている。中でも、正極材料に黒鉛を用い、負極材料に炭素質材料を用いた電気二重層キャパシタは、従来の活性炭を電極に用いた蓄電デバイスと較べ電気容量並びに耐電圧性に優れたものである(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−294780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の電気二重層蓄電デバイスは、上記のとおり電気容量並びに耐電圧性に優れたものであるが、より一層電気容量の大きな蓄電デバイスが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、黒鉛を含む正極材料、特定の金属酸化物を含む負極材料、および電解液を含む蓄電デバイスは、電気容量が大きく、しかも安定性・安全性にも優れていることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は、黒鉛を含む正極材料、Ti、Zr、V、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sn、Sb、Bi、WおよびTaから選ばれる少なくとも一種の金属元素の酸化物を含む負極材料、および電解液を含む蓄電デバイスである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の蓄電デバイスは、特定の金属酸化物を含む負極材料を用いているため、電気容量が大きくなる。黒鉛を含む正極材料により高い電圧で充放電が可能となり、高エネルギー密度化が図れる。特に、本発明においては、黒鉛を正極とし、特定の金属酸化物を負極として用いることにより、高入出力化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1で得られたチタン酸化物(試料g)のX線回折チャートである。
【図2】実施例2で得られたチタン酸化物(試料h)のX線回折チャートである。
【図3】参考例1で得られた蓄電デバイス(試料A)の放電曲線を示すグラフである。
【図4】参考例2で得られた蓄電デバイス(試料B)の放電曲線を示すグラフである。
【図5】参考例3で得られた蓄電デバイス(試料C)の放電曲線を示すグラフである。
【図6】参考例4で得られた蓄電デバイス(試料D)の放電曲線を示すグラフである。
【図7】参考例5で得られた蓄電デバイス(試料E)の放電曲線を示すグラフである。
【図8】参考例6で得られた蓄電デバイス(試料F)の放電曲線を示すグラフである。
【図9】実施例1で得られた蓄電デバイス(試料G)の放電曲線を示すグラフである。
【図10】実施例2で得られた蓄電デバイス(試料H)の放電曲線を示すグラフである。
【図11】参考例7で得られた蓄電デバイス(試料I)の放電曲線を示すグラフである。
【図12】参考例8で得られた蓄電デバイス(試料J)の放電曲線を示すグラフである。
【図13】参考例9で得られた蓄電デバイス(試料K)の放電曲線を示すグラフである。
【図14】参考例10で得られた蓄電デバイス(試料L)の放電曲線を示すグラフである。
【図15】参考例12で得られた蓄電デバイス(試料N)の放電曲線を示すグラフである。
【図16】参考例16で得られた蓄電デバイス(試料R)の放電曲線を示すグラフである。
【図17】比較例1で得られた蓄電デバイス(試料U)の放電曲線を示すグラフである。
【図18】比較例2で得られた蓄電デバイス(試料V)の放電曲線を示すグラフである。
【図19】参考例1で得られた蓄電デバイス(試料A)のサイクル特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の蓄電デバイスは、黒鉛を含む正極材料、Ti、Zr、V、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sn、Sb、Bi、WおよびTaから選ばれる少なくとも一種の金属元素の酸化物を含む負極材料、および電解質を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明においては、負極材料として、Ti、Zr、V、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sn、Sb、Bi、WおよびTaから選ばれる少なくとも一種の金属元素の酸化物を用いる。上記金属元素の酸化物としては、少なくともチタンを含む金属酸化物を用いると、電気容量が大きくなるので好ましい。また、リチウム塩を含む電解液を用いた場合、リチウムの酸化還元電位を0Vとすると、チタンを含む金属酸化物の酸化還元電位は、いずれも1〜2V程度と、リチウムに対して十分に高いので、負極への金属リチウムの析出が抑制され、安全性も高いものとなる。より好ましくは、チタン酸化物、およびチタンとアルカリ金属またはアルカリ土類金属元素との複合酸化物である。上記複合酸化物としては、チタン酸リチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムや、M2Ti3O7(Mはアルカリ金属を表す)で表される層状チタン酸アルカリ金属などが挙げられる。これらの粒子形状は、球状、多面体状等の等方性形状、棒状、繊維状、薄片状等の異方性形状等のいずれでもよく、特に制限は無い。さらに、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の異種金属をドープした前記酸化物や、前記酸化物の粒子表面にシリカ、アルミナ等の無機物、界面活性剤やカップリング剤等の有機物で表面処理したものも用いることができる。
【0011】
上記金属酸化物の中でもチタン酸化物は、結晶格子が安定しており、より好ましい。尚、本発明におけるチタン酸化物は、チタンと酸素の化合物及びその含水素化合物、含水物または水和物を包含する化合物であり、例えば、酸化チタン(二酸化チタン、三酸化二チタン、一酸化チタン等)、チタン酸化合物(二水素三酸化チタン(メタチタン酸)、四水素三酸化チタン(オルトチタン酸)、H2Ti3O7、H4x/3Ti(2−x)/3O4(x=0.50〜1.0)等で表される層状チタン酸化合物等)、水酸化チタン(四水酸化チタン等)等が挙げられる。チタン酸化物の粒子径は特に制約はないが、比表面積で表わして0.1〜500m2/gの範囲のものが、高入出力化を図る上で好ましい。
【0012】
本発明においてはチタン酸化物としては、ルチル型、ブルッカイト型、アナターゼ型、ブロンズ型、ホランダイト型、ラムズデライト型等の結晶性を有するもの、又は非晶質性のもの何れも用いることができるが、アナターゼ型及び/またはルチル型酸化チタンは、他の酸化チタンと比べ、電気容量においてより一層優れているため好ましい。特に、アナターゼ型であれば、比表面積が5〜500m2/gの範囲にあるものが好ましく、5〜350m2/gの範囲にあるものが更に好ましい。また、ルチル型であれば、50〜500m2/gの範囲が好ましい比表面積であり、50〜350m2/gが更に好ましい範囲である。
【0013】
あるいは、層状チタン酸化合物を加熱して得られるチタン酸化物を用いることもできる。具体的には、特願2007−221311号明細書や特願2007−223722号明細書に記載のチタン酸化物が挙げられる。すなわち、特願2007−221311号明細書に記載のチタン酸化物は、H2Ti3O7で表される層状チタン酸化合物を200〜350℃の温度範囲で、好ましくは260℃より高く300℃未満の範囲で加熱焼成したものであり、特願2007−223722号明細書に記載のチタン酸化物は、H4x/3Ti2−x/3O4(x=0.5〜1.0)で表される層状チタン酸化合物を、250〜450℃の温度範囲で加熱焼成したものである。
【0014】
チタン酸化物は、一次粒子を集合させ二次粒子にして用いることもできる。本発明における二次粒子とは、一次粒子同士が強固に結合した状態にあり、ファンデルワース力等の粒子間の相互作用で凝集したり、機械的に圧密化されたものではなく、通常の混合、解砕、濾過、水洗、搬送、秤量、袋詰め、堆積等の工業的操作では容易に崩壊せず、ほとんどが二次粒子として残るものである。二次粒子の空隙量は、電池特性上、0.005〜1.0cm3/gの範囲にあるのが好ましく、0.05〜1.0cm3/gの範囲のものが更に好ましい。二次粒子の平均粒子径(レーザー散乱法による50%メジアン径)は、電極を作製する上で、0.5〜100μmの範囲にあるのが好ましい。
また、一次粒子の平均粒子径(電子顕微鏡法による50%メジアン径)は、1〜500nmの範囲にあれば、所望の空隙量が得られ易く、1〜100nmの範囲であれば更に好ましい。比表面積は特に制限は無いが、0.1〜200m2/gの範囲が好ましく、3〜200m2/gの範囲が更に好ましい。また、粒子形状も、制限は受けず、等方性形状、異方性形状等の様々な形状のものを用いることができる。
【0015】
また、本発明では、粒子形状が薄片状であるチタン酸化物を用いることもできる。薄片状粒子は、一般的に、板状、シート状、フレーク状と呼ばれるものを包含する。薄片状粒子の大きさとしては、厚さが1〜100nmの範囲、幅及び長さが0.1〜500μmの範囲が好ましい。あるいは、ナノシートとも呼ばれる微細な薄片状粒子を用いることもでき、このものは、厚さは0.5〜100nmの範囲が、幅及び長さは0.1〜30μmの範囲が好ましく、それぞれが0.5〜10nmの範囲、1〜10μmであれば更に好ましい。
【0016】
次に、本発明において正極材料に用いる黒鉛に特に制約はない。なお、本発明において黒鉛とはX線回折002面のピーク位置から求めたd(002)が0.335〜0.344nmの範囲にあるものをいう。中でも、比表面積が0.5〜300m2/gの範囲の黒鉛を用いるのが好ましく、5〜100m2/gの範囲のものが更に好ましい。
【0017】
上記正極および負極を浸漬する電解液としては、例えば、非水溶媒中に溶質を溶解させたものを用いることができる。電解液において作用する陰イオンとしては、4フッ化ホウ酸イオン(BF4−)、6フッ化リン酸イオン(PF6−)、過塩素酸イオン(ClO4−)、6フッ化ヒ素(AsF6−)、6フッ化アンチモン(SbF6−)、ペルフルオロメチルスルホニル(CF3SO2−)、ペルフルオロメチルスルホナト(CF3SO3−)からなる群から選ばれる少なくとも一種を挙げることができる。
【0018】
また、陽イオンとしては、対称、非対称の四級アンモニウムイオン、エチルメチルイミダゾリウム、スピロ−(1,1’)ビピロリジニウム等のイミダゾリウム誘導体イオン、リチウムイオンからなる群から選ばれる。なかでも、リチウムイオンを含むものが好ましい。
【0019】
また、非水溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、メチルテトラヒドロフラン(MeTHF)、メチルホルムアミド、メチルアセテート、ジエチルカーボネート、ジメチルエーテル(DME)、プロピレンカーボネート(PC)、γ−ブチルラクトン(GBL)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の炭酸エステル類、アセトニトリル(AN)、スルホラン(SL)あるいは分子の一部にフッ素を含有するこれら非水溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1種を選ぶことができる。
【0020】
本発明の蓄電デバイスは、前記の正極、負極、電解液及びセパレーターを含み、具体的には、電気化学的キャパシタ、ハイブリッドキャパシタ、レドックスキャパシタ、電気二重層キャパシタ、リチウム電池等が挙げられる。正極や負極は、正極材料、負極材料に、それぞれカーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの導電材とフッ素樹脂、水溶性ゴム系樹脂などのバインダを加え、適宜成形または塗布して得られる。セパレーターには、多孔性ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムなどが用いられる。
【実施例】
【0021】
以下に本発明の実施例を示すが、これらは本発明を限定するものではない。
【0022】
参考例1
(正極の製造)
X線回折で求めたd(002)が0.3371nmである黒鉛(1)と、アセチレンブラックとポリテトラフルオロエチレン樹脂が混合された粉末(商品名:TAB、ブルガリアン セントラル ラボラトリー オブ エレクトロケミカル パワー ソース(The Bulgarian Central Laboratory of Electrochemical Power Source)社製)とを、重量比3:1で混合し、めのう乳鉢を用いて混練し、直径10mmの円形に成型してペレットを得た。ペレットの重量は10mgであった。このペレットに、直径10mmに切り出したアルミニウム製のメッシュを集電体として重ね合わせ、9MPaでプレスして正極(1)を得た。
【0023】
(負極の製造)
比表面積が314m2/gのアナターゼ型二酸化チタン、アセチレンブラック、ポリテトラフルオロエチレン樹脂を重量比で5:4:1で混合し、めのう乳鉢を用いて混練し、直径10mmの円形に成型してペレットを得た。ペレットの重量は15mgであった。このペレットに、直径10mmに切り出した銅箔を集電体として重ね合わせ、負極(1)を得た。
【0024】
(蓄電デバイスの製造)
上記正極(1)、負極(1)を200℃で4時間真空乾燥した後、露点−70℃以下のグローブボックス中で、密閉可能なコイン型の試験用セルに組み込んだ。試験用セルには材質がステンレス製(SUS316)で外径20mm、高さ3.2mmのものを用いた。正極(1)は集電体を下方にして評価用セルの下部缶に置き、その上にセパレーターとして多孔性ポリプロピレンフィルムを置き、その上から非水電解液として1モル/リットルとなる濃度でLiPF6を溶解したエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの混合溶液(体積比で3:7に混合)を滴下した。その上に集電体を上方にして負極(1)及び厚み調整用の0.5mm厚スペーサーとスプリング(ともにSUS316製)をのせ、プロピレン製ガスケットのついた上部缶を被せて外周縁部をかしめて密封し、参考試料の蓄電デバイス(試料A)を得た。
【0025】
参考例2〜6
参考例1において、比表面積が314m2/gのアナターゼ型二酸化チタンに代えて表1に示す各種チタン酸化物を用いた他は、実施例1と同様にして、参考試料の蓄電デバイス(試料B〜F)を得た。
【0026】
実施例1
市販のルチル型高純度二酸化チタン(PT−301:石原産業製)20.0gと炭酸ナトリウム8.85gとを混合した後、電気炉を用いて大気中で800℃の温度で20時間加熱焼成した後、再度、同様の条件で加熱焼成し、Na2Ti3O7の組成を有する層状チタン酸ナトリウムを得た。得られた層状チタン酸ナトリウムを、1モルの濃度の塩酸水溶液に10g/リットルの濃度になるように添加し、4日間反応させた。反応生成物を分析したところ、ナトリウムはほとんど含まれていなかったので、ナトリウムと水素がほぼ置換されて、H2Ti3O7の組成を有する層状チタン酸化合物が得られていることが確認された。なお、反応中は、1日毎に塩酸水溶液を取り替えた。得られた層状チタン酸化合物を、濾過、洗浄し、固液分離し、60℃の温度で12時間大気中で乾燥した後、電気炉を用い大気中で280℃の温度で20時間加熱し、チタン酸化物(試料g)を得た。尚、示差熱天秤を用いて、試料gの300〜600℃の温度範囲で測定したところ、1.0重量%の加熱減量が認められた。この加熱減量は、チタン酸化物に含まれる結晶水に由来するものであると推測すると、H2Ti22O45の組成のチタン酸化合物であると考えられる。また、線源としてCu−Kα線を用いて試料gのX線回折パターンを測定したところ、JCPDSカード35−088等に示されるブロンズ型二酸化チタンに類似したパターンを示した。しかし、ブロンズ型では回折角(2θ)が15°の近傍で、(001)面と(200)面の2つのピークが観測されるが、試料hではこの2つのピークの面間隔が0であるか非常に近接している。試料gのX線回折パターンを図1に示す。参考例1において、チタン酸化物として試料gを用いた他は、参考例1と同様にして、本発明の蓄電デバイス(試料G)を得た。
【0027】
実施例2
炭酸カリウム、炭酸リチウム、及び、チタン酸化物として、四塩化チタンを中和加水分解して得られたルチル型二酸化チタンを用い、これらをK/Li/Tiのモル比にして3/1/6.5の割合で混合し、十分に摩砕した。摩砕物を白金るつぼに移し、電気炉を用いて大気中で800℃の温度で5時間焼成し、K0.8Li0.27Ti1.73O4の組成を有する層状チタン酸リチウム・カリウムを得た。得られた層状チタン酸リチウム・カリウム1gに対して、1規定の塩酸100cm3を、1日間室温で攪拌しながら反応させた。反応生成物を分析したところ、リチウム、カリウムはほとんど含まれていなかったので、リチウム、カリウムと水素とがほぼ置換されて、H1.07Ti1.73O4の組成を有する層状チタン酸化合物であることが確認された。次いで、濾過、水洗、乾燥した後、大気中で400℃の温度で20時間加熱し、チタン酸化物(試料h)を得た。試料hの300〜600℃の加熱減量を測定したところ0.12重量%となり、実施例8と同様に推測すると、試料はH2Ti189O379の組成となり、ほぼ二酸化チタン(TiO2)であると考えられる。また、線源としてCu−Kα線を用いて試料hのX線回折パターンを測定したところ、JCPDSカード35−088等に示されるブロンズ型二酸化チタンに類似したパターンを示した。しかし、ブロンズ型では回折角(2θ)が44°の近傍で、(003)面と(−601)面の2つのピークが観測されるが、試料hではこの2つのピークの面間隔が0であるか非常に近接している。試料hのX線回折パターンを図2に示す。参考例1において、チタン酸化物としてこの二酸化チタンを用いた他は、参考例1と同様にして、本発明の蓄電デバイス(試料H)を得た。
【0028】
参考例7
TiO2換算で0.4gに相当する量の実施例2で得られたH1.07Ti1.73O4の組成を有する層状チタン酸化合物を、この層状チタン酸化合物中のH+量に対して1中和当量の水酸化テトラブチルアンモニウムが溶解した水溶液100cm3に添加し、シェーカーで150回連/分程度の振とうを10日間行うことにより、層状チタン酸を剥離させ、アナターゼ型の薄片状二酸化チタンを得た。このものを、走査型プローブ顕微鏡で測定したところ、幅及び長さが約0.2〜1.0μm、最大厚さが約1.5nmであった。チタン酸化物としてこの薄片状二酸化チタンを用いた他は、参考例1と同様にして、参考試料の蓄電デバイス(試料I)を得た。
【0029】
参考例8
参考例1で用いた比表面積が314m2/gのアナターゼ型二酸化チタンを、ジュースミキサーを用いて純水中に分散させてスラリー化し、TiO2換算の前記含水酸化チタンに対し、5重量%に相当するポリビニルアルコール(ホバールPVA−204C:クラレ製)の水溶液を添加した後、更に純水を添加して、TiO2に換算して10重量%の濃度に調整した。この前記スラリーを四流体ノズル式噴霧乾燥機(MDL−050B型:藤崎電機製)を用いて、入口温度200℃、出口温度80℃、空気吐出量80リットル/分の条件で噴霧乾燥を行い、二次粒子を得た。得られた二次粒子を大気中500℃の温度で3時間加熱焼成を行い、その後、加熱焼成物を、純水で再スラリー化し、濾過、洗浄、固液分離、分級、乾燥を行って、アナターゼ型二酸化チタンの二次粒子を得た。このものの平均一次粒子径(電子顕微鏡法による体積基準の50%径)は7nm、平均二次粒子径(レーザー散乱法による体積基準の50%径)の平均二次粒子径は9.2nm、空隙量は0.552cm3/gであった。チタン酸化物としてこの二次粒子を用いた他は、参考例1と同様にして、参考試料の蓄電デバイス(試料J)を得た。
【0030】
参考例9
実施例1で得られたH2Ti3O7の組成を有する層状チタン酸化合物を、比表面積が314m2/gのアナターゼ型二酸化チタンに替えて負極活物質として用いた他は、参考例1と同様にして、参考試料の蓄電デバイス(試料K)を得た。
【0031】
参考例10
実施例2で得られたNa2Ti3O7の組成を有する層状チタン酸ナトリウムを、チタンとアルカリ金属を含む複合酸化物として用い、比表面積が314m2/gのアナターゼ型二酸化チタンに替え、ペレットの重量を60mgとした他は、参考例1と同様にして、参考試料の蓄電デバイス(試料L)を得た。
【0032】
参考例11〜18
参考例1〜3、8で用いた黒鉛(1)に替えて、X線回折で求めたd(002)が0.3368である黒鉛(2)またはd(002)が0.3363である黒鉛(3)を用いた他は、参考例1と同様にして、参考試料の蓄電デバイス(試料M〜T)を得た。
【0033】
比較例1
参考例1において、負極材料を二酸化チタンに替えて市販の活性炭を用いた他は、実施例1と同様にして、比較対象の蓄電デバイス(試料U)を得た。
【0034】
比較例2
参考例1において、正極材料を黒鉛(1)に替えて比較例1で用いた市販の活性炭を用いた他は、実施例1と同様にして、比較対象の蓄電デバイス(試料V)を得た。
【0035】
評価1:比表面積の測定
実施例1、2、参考例1〜18、比較例1、2で用いた正極材料及び負極材料の比表面積を、比表面積測定装置(モノソーブ:ユアサイアオニクス製)を用い、BET法により測定した。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
評価2:電気容量の評価
実施例1、2、参考例1〜18及び比較例1、2で得られた蓄電デバイス(試料A〜V)の電気容量を評価した。各試料に対して、充電器の設定を0.3mAの定電流とし、3.5Vまで充電電圧として2時間の充電を行った後、0.3mA、1Vまで放電した際の放電容量を、試料の電気容量(mAh/g(正極活物質))として表2に示した。また、試料A〜L、N、Rの放電曲線を図3〜18に示した。図の放電曲線、電圧軸切片、電気容量切片及び原点で囲まれた部分の面積が、蓄電デバイスのエネルギー量に相当し、この面積が大きい程、エネルギー量が大きい。
【0038】
【表2】
【0039】
評価3:サイクル特性の測定
実施例1、2、参考例1〜10で得られた蓄電デバイス(試料A〜L)について、サイクル特性の評価を行った。各試料について、充放電電流を0.3mAに設定して、定電流で3.3Vで充電後、同様にして1.0Vまで放電し、この充放電サイクルを30サイクル繰り返した。2サイクル目と30サイクル目の充放容量を測定し、これをそれぞれの電気容量として、(30サイクル目の電気容量/2サイクル目の電気容量)×100をサイクル特性とした。結果を表3に示す。また、実施例1の容量維持率の推移を図19に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
評価4:レート特性の評価
実施例1、参考例1、2、4、7、8で得られた蓄電デバイス(試料A、B、D、G、I、J)について、レート特性の評価を行った。各試料について、電圧範囲を1.0〜3.3Vに、充電電流を40mA/gに、放電電流を40〜1600mA/gの範囲に設定して充放電を行い、それぞれの放電容量を測定した。容量維持率は、40mA/gでの放電容量の測定値をX1、80〜1600mA/gの範囲での各測定値をXnとすると、(Xn/X1)×100の式で算出した。結果を表4に示す。電流量を大きくしても容量維持率が高いと、レート特性に優れていることが判る。
【0042】
【表4】
【0043】
参考例19
(正極の製造)
参考例1で用いた黒鉛(1)3g、アセチレンブラックとポリテトラフルオロエチレンが混合された粉末(TAB)1gをめのう乳鉢を用いて混練し、アルミ基板上に圧着した後、直径12mmの円形に打ち抜き、活物質量10mg、厚み約0.1mmの正極(2)を得た。
【0044】
(負極の製造)
参考例1で用いた比表面積が314m2/gのアナターゼ型酸化チタン3g、TAB1gをめのう乳鉢を用いて混練し、アルミ基板上に圧着した後、直径12mmの円形に打ち抜き、活物質量10mg、厚み約0.1mmの負極(2)を得た。
【0045】
(蓄電デバイスの製造)
参考例1において、正極(1)、負極(1)を、それぞれ正極(2)、負極(2)に替えた他は、実施例1と同様にして、参考試料の蓄電デバイス(試料A’)を得た。
【0046】
参考例20〜27
参考例19において、比表面積が314m2/gのアナターゼ型酸化チタンに代えて表5に示す各種酸化チタンを用いた他は、参考例19と同様にして、参考試料の蓄電デバイス(試料B’〜I’)を得た。
【0047】
評価5:比表面積の測定
参考例19〜27で用いたチタン酸化物の比表面積を、評価1と同様にして測定した。結果を表5に示す。
【0048】
【表5】
【0049】
評価6:電気容量の評価
参考例19〜27で得られた蓄電デバイス(試料A’〜I’)の電気容量を評価した。試料A’〜I’の蓄電デバイスに対して、1mAの定電流で充電電流を印加した後に、3.5Vに達した時点で定電圧に切り換えて、計2時間の充電を行った後、1mA、0Vまで放電した際の放電容量を、試料の電気容量(mAh/g(正極活物質))として表6に示した。
【0050】
【表6】
【0051】
本発明の蓄電デバイスは、電気容量が大きい。また、参考例4、5、10と比較例1の対比に見られるように、本発明においては、あまり電気容量が大きくないものでも、放電電圧が高いためエネルギー量が大きい。このため、高エネルギー密度化が可能であることがわかった。更に、サイクル特性、レート特性にも優れている。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の蓄電デバイスは、電気自動車等の移動体用の電源、電気事業用の電力貯蔵システム等に有用なものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気容量が大きな蓄電デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
正極、負極および非水電解液を主たる構成要素とする蓄電デバイスは、これまでに種々の構成が提案され、モバイル機器などの電源や回生用蓄電システム、パーソナルコンピューターのバックアップ電源などに実用化されてきている。中でも、正極材料に黒鉛を用い、負極材料に炭素質材料を用いた電気二重層キャパシタは、従来の活性炭を電極に用いた蓄電デバイスと較べ電気容量並びに耐電圧性に優れたものである(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−294780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の電気二重層蓄電デバイスは、上記のとおり電気容量並びに耐電圧性に優れたものであるが、より一層電気容量の大きな蓄電デバイスが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、黒鉛を含む正極材料、特定の金属酸化物を含む負極材料、および電解液を含む蓄電デバイスは、電気容量が大きく、しかも安定性・安全性にも優れていることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は、黒鉛を含む正極材料、Ti、Zr、V、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sn、Sb、Bi、WおよびTaから選ばれる少なくとも一種の金属元素の酸化物を含む負極材料、および電解液を含む蓄電デバイスである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の蓄電デバイスは、特定の金属酸化物を含む負極材料を用いているため、電気容量が大きくなる。黒鉛を含む正極材料により高い電圧で充放電が可能となり、高エネルギー密度化が図れる。特に、本発明においては、黒鉛を正極とし、特定の金属酸化物を負極として用いることにより、高入出力化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1で得られたチタン酸化物(試料g)のX線回折チャートである。
【図2】実施例2で得られたチタン酸化物(試料h)のX線回折チャートである。
【図3】参考例1で得られた蓄電デバイス(試料A)の放電曲線を示すグラフである。
【図4】参考例2で得られた蓄電デバイス(試料B)の放電曲線を示すグラフである。
【図5】参考例3で得られた蓄電デバイス(試料C)の放電曲線を示すグラフである。
【図6】参考例4で得られた蓄電デバイス(試料D)の放電曲線を示すグラフである。
【図7】参考例5で得られた蓄電デバイス(試料E)の放電曲線を示すグラフである。
【図8】参考例6で得られた蓄電デバイス(試料F)の放電曲線を示すグラフである。
【図9】実施例1で得られた蓄電デバイス(試料G)の放電曲線を示すグラフである。
【図10】実施例2で得られた蓄電デバイス(試料H)の放電曲線を示すグラフである。
【図11】参考例7で得られた蓄電デバイス(試料I)の放電曲線を示すグラフである。
【図12】参考例8で得られた蓄電デバイス(試料J)の放電曲線を示すグラフである。
【図13】参考例9で得られた蓄電デバイス(試料K)の放電曲線を示すグラフである。
【図14】参考例10で得られた蓄電デバイス(試料L)の放電曲線を示すグラフである。
【図15】参考例12で得られた蓄電デバイス(試料N)の放電曲線を示すグラフである。
【図16】参考例16で得られた蓄電デバイス(試料R)の放電曲線を示すグラフである。
【図17】比較例1で得られた蓄電デバイス(試料U)の放電曲線を示すグラフである。
【図18】比較例2で得られた蓄電デバイス(試料V)の放電曲線を示すグラフである。
【図19】参考例1で得られた蓄電デバイス(試料A)のサイクル特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の蓄電デバイスは、黒鉛を含む正極材料、Ti、Zr、V、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sn、Sb、Bi、WおよびTaから選ばれる少なくとも一種の金属元素の酸化物を含む負極材料、および電解質を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明においては、負極材料として、Ti、Zr、V、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sn、Sb、Bi、WおよびTaから選ばれる少なくとも一種の金属元素の酸化物を用いる。上記金属元素の酸化物としては、少なくともチタンを含む金属酸化物を用いると、電気容量が大きくなるので好ましい。また、リチウム塩を含む電解液を用いた場合、リチウムの酸化還元電位を0Vとすると、チタンを含む金属酸化物の酸化還元電位は、いずれも1〜2V程度と、リチウムに対して十分に高いので、負極への金属リチウムの析出が抑制され、安全性も高いものとなる。より好ましくは、チタン酸化物、およびチタンとアルカリ金属またはアルカリ土類金属元素との複合酸化物である。上記複合酸化物としては、チタン酸リチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムや、M2Ti3O7(Mはアルカリ金属を表す)で表される層状チタン酸アルカリ金属などが挙げられる。これらの粒子形状は、球状、多面体状等の等方性形状、棒状、繊維状、薄片状等の異方性形状等のいずれでもよく、特に制限は無い。さらに、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の異種金属をドープした前記酸化物や、前記酸化物の粒子表面にシリカ、アルミナ等の無機物、界面活性剤やカップリング剤等の有機物で表面処理したものも用いることができる。
【0011】
上記金属酸化物の中でもチタン酸化物は、結晶格子が安定しており、より好ましい。尚、本発明におけるチタン酸化物は、チタンと酸素の化合物及びその含水素化合物、含水物または水和物を包含する化合物であり、例えば、酸化チタン(二酸化チタン、三酸化二チタン、一酸化チタン等)、チタン酸化合物(二水素三酸化チタン(メタチタン酸)、四水素三酸化チタン(オルトチタン酸)、H2Ti3O7、H4x/3Ti(2−x)/3O4(x=0.50〜1.0)等で表される層状チタン酸化合物等)、水酸化チタン(四水酸化チタン等)等が挙げられる。チタン酸化物の粒子径は特に制約はないが、比表面積で表わして0.1〜500m2/gの範囲のものが、高入出力化を図る上で好ましい。
【0012】
本発明においてはチタン酸化物としては、ルチル型、ブルッカイト型、アナターゼ型、ブロンズ型、ホランダイト型、ラムズデライト型等の結晶性を有するもの、又は非晶質性のもの何れも用いることができるが、アナターゼ型及び/またはルチル型酸化チタンは、他の酸化チタンと比べ、電気容量においてより一層優れているため好ましい。特に、アナターゼ型であれば、比表面積が5〜500m2/gの範囲にあるものが好ましく、5〜350m2/gの範囲にあるものが更に好ましい。また、ルチル型であれば、50〜500m2/gの範囲が好ましい比表面積であり、50〜350m2/gが更に好ましい範囲である。
【0013】
あるいは、層状チタン酸化合物を加熱して得られるチタン酸化物を用いることもできる。具体的には、特願2007−221311号明細書や特願2007−223722号明細書に記載のチタン酸化物が挙げられる。すなわち、特願2007−221311号明細書に記載のチタン酸化物は、H2Ti3O7で表される層状チタン酸化合物を200〜350℃の温度範囲で、好ましくは260℃より高く300℃未満の範囲で加熱焼成したものであり、特願2007−223722号明細書に記載のチタン酸化物は、H4x/3Ti2−x/3O4(x=0.5〜1.0)で表される層状チタン酸化合物を、250〜450℃の温度範囲で加熱焼成したものである。
【0014】
チタン酸化物は、一次粒子を集合させ二次粒子にして用いることもできる。本発明における二次粒子とは、一次粒子同士が強固に結合した状態にあり、ファンデルワース力等の粒子間の相互作用で凝集したり、機械的に圧密化されたものではなく、通常の混合、解砕、濾過、水洗、搬送、秤量、袋詰め、堆積等の工業的操作では容易に崩壊せず、ほとんどが二次粒子として残るものである。二次粒子の空隙量は、電池特性上、0.005〜1.0cm3/gの範囲にあるのが好ましく、0.05〜1.0cm3/gの範囲のものが更に好ましい。二次粒子の平均粒子径(レーザー散乱法による50%メジアン径)は、電極を作製する上で、0.5〜100μmの範囲にあるのが好ましい。
また、一次粒子の平均粒子径(電子顕微鏡法による50%メジアン径)は、1〜500nmの範囲にあれば、所望の空隙量が得られ易く、1〜100nmの範囲であれば更に好ましい。比表面積は特に制限は無いが、0.1〜200m2/gの範囲が好ましく、3〜200m2/gの範囲が更に好ましい。また、粒子形状も、制限は受けず、等方性形状、異方性形状等の様々な形状のものを用いることができる。
【0015】
また、本発明では、粒子形状が薄片状であるチタン酸化物を用いることもできる。薄片状粒子は、一般的に、板状、シート状、フレーク状と呼ばれるものを包含する。薄片状粒子の大きさとしては、厚さが1〜100nmの範囲、幅及び長さが0.1〜500μmの範囲が好ましい。あるいは、ナノシートとも呼ばれる微細な薄片状粒子を用いることもでき、このものは、厚さは0.5〜100nmの範囲が、幅及び長さは0.1〜30μmの範囲が好ましく、それぞれが0.5〜10nmの範囲、1〜10μmであれば更に好ましい。
【0016】
次に、本発明において正極材料に用いる黒鉛に特に制約はない。なお、本発明において黒鉛とはX線回折002面のピーク位置から求めたd(002)が0.335〜0.344nmの範囲にあるものをいう。中でも、比表面積が0.5〜300m2/gの範囲の黒鉛を用いるのが好ましく、5〜100m2/gの範囲のものが更に好ましい。
【0017】
上記正極および負極を浸漬する電解液としては、例えば、非水溶媒中に溶質を溶解させたものを用いることができる。電解液において作用する陰イオンとしては、4フッ化ホウ酸イオン(BF4−)、6フッ化リン酸イオン(PF6−)、過塩素酸イオン(ClO4−)、6フッ化ヒ素(AsF6−)、6フッ化アンチモン(SbF6−)、ペルフルオロメチルスルホニル(CF3SO2−)、ペルフルオロメチルスルホナト(CF3SO3−)からなる群から選ばれる少なくとも一種を挙げることができる。
【0018】
また、陽イオンとしては、対称、非対称の四級アンモニウムイオン、エチルメチルイミダゾリウム、スピロ−(1,1’)ビピロリジニウム等のイミダゾリウム誘導体イオン、リチウムイオンからなる群から選ばれる。なかでも、リチウムイオンを含むものが好ましい。
【0019】
また、非水溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、メチルテトラヒドロフラン(MeTHF)、メチルホルムアミド、メチルアセテート、ジエチルカーボネート、ジメチルエーテル(DME)、プロピレンカーボネート(PC)、γ−ブチルラクトン(GBL)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の炭酸エステル類、アセトニトリル(AN)、スルホラン(SL)あるいは分子の一部にフッ素を含有するこれら非水溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1種を選ぶことができる。
【0020】
本発明の蓄電デバイスは、前記の正極、負極、電解液及びセパレーターを含み、具体的には、電気化学的キャパシタ、ハイブリッドキャパシタ、レドックスキャパシタ、電気二重層キャパシタ、リチウム電池等が挙げられる。正極や負極は、正極材料、負極材料に、それぞれカーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの導電材とフッ素樹脂、水溶性ゴム系樹脂などのバインダを加え、適宜成形または塗布して得られる。セパレーターには、多孔性ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムなどが用いられる。
【実施例】
【0021】
以下に本発明の実施例を示すが、これらは本発明を限定するものではない。
【0022】
参考例1
(正極の製造)
X線回折で求めたd(002)が0.3371nmである黒鉛(1)と、アセチレンブラックとポリテトラフルオロエチレン樹脂が混合された粉末(商品名:TAB、ブルガリアン セントラル ラボラトリー オブ エレクトロケミカル パワー ソース(The Bulgarian Central Laboratory of Electrochemical Power Source)社製)とを、重量比3:1で混合し、めのう乳鉢を用いて混練し、直径10mmの円形に成型してペレットを得た。ペレットの重量は10mgであった。このペレットに、直径10mmに切り出したアルミニウム製のメッシュを集電体として重ね合わせ、9MPaでプレスして正極(1)を得た。
【0023】
(負極の製造)
比表面積が314m2/gのアナターゼ型二酸化チタン、アセチレンブラック、ポリテトラフルオロエチレン樹脂を重量比で5:4:1で混合し、めのう乳鉢を用いて混練し、直径10mmの円形に成型してペレットを得た。ペレットの重量は15mgであった。このペレットに、直径10mmに切り出した銅箔を集電体として重ね合わせ、負極(1)を得た。
【0024】
(蓄電デバイスの製造)
上記正極(1)、負極(1)を200℃で4時間真空乾燥した後、露点−70℃以下のグローブボックス中で、密閉可能なコイン型の試験用セルに組み込んだ。試験用セルには材質がステンレス製(SUS316)で外径20mm、高さ3.2mmのものを用いた。正極(1)は集電体を下方にして評価用セルの下部缶に置き、その上にセパレーターとして多孔性ポリプロピレンフィルムを置き、その上から非水電解液として1モル/リットルとなる濃度でLiPF6を溶解したエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの混合溶液(体積比で3:7に混合)を滴下した。その上に集電体を上方にして負極(1)及び厚み調整用の0.5mm厚スペーサーとスプリング(ともにSUS316製)をのせ、プロピレン製ガスケットのついた上部缶を被せて外周縁部をかしめて密封し、参考試料の蓄電デバイス(試料A)を得た。
【0025】
参考例2〜6
参考例1において、比表面積が314m2/gのアナターゼ型二酸化チタンに代えて表1に示す各種チタン酸化物を用いた他は、実施例1と同様にして、参考試料の蓄電デバイス(試料B〜F)を得た。
【0026】
実施例1
市販のルチル型高純度二酸化チタン(PT−301:石原産業製)20.0gと炭酸ナトリウム8.85gとを混合した後、電気炉を用いて大気中で800℃の温度で20時間加熱焼成した後、再度、同様の条件で加熱焼成し、Na2Ti3O7の組成を有する層状チタン酸ナトリウムを得た。得られた層状チタン酸ナトリウムを、1モルの濃度の塩酸水溶液に10g/リットルの濃度になるように添加し、4日間反応させた。反応生成物を分析したところ、ナトリウムはほとんど含まれていなかったので、ナトリウムと水素がほぼ置換されて、H2Ti3O7の組成を有する層状チタン酸化合物が得られていることが確認された。なお、反応中は、1日毎に塩酸水溶液を取り替えた。得られた層状チタン酸化合物を、濾過、洗浄し、固液分離し、60℃の温度で12時間大気中で乾燥した後、電気炉を用い大気中で280℃の温度で20時間加熱し、チタン酸化物(試料g)を得た。尚、示差熱天秤を用いて、試料gの300〜600℃の温度範囲で測定したところ、1.0重量%の加熱減量が認められた。この加熱減量は、チタン酸化物に含まれる結晶水に由来するものであると推測すると、H2Ti22O45の組成のチタン酸化合物であると考えられる。また、線源としてCu−Kα線を用いて試料gのX線回折パターンを測定したところ、JCPDSカード35−088等に示されるブロンズ型二酸化チタンに類似したパターンを示した。しかし、ブロンズ型では回折角(2θ)が15°の近傍で、(001)面と(200)面の2つのピークが観測されるが、試料hではこの2つのピークの面間隔が0であるか非常に近接している。試料gのX線回折パターンを図1に示す。参考例1において、チタン酸化物として試料gを用いた他は、参考例1と同様にして、本発明の蓄電デバイス(試料G)を得た。
【0027】
実施例2
炭酸カリウム、炭酸リチウム、及び、チタン酸化物として、四塩化チタンを中和加水分解して得られたルチル型二酸化チタンを用い、これらをK/Li/Tiのモル比にして3/1/6.5の割合で混合し、十分に摩砕した。摩砕物を白金るつぼに移し、電気炉を用いて大気中で800℃の温度で5時間焼成し、K0.8Li0.27Ti1.73O4の組成を有する層状チタン酸リチウム・カリウムを得た。得られた層状チタン酸リチウム・カリウム1gに対して、1規定の塩酸100cm3を、1日間室温で攪拌しながら反応させた。反応生成物を分析したところ、リチウム、カリウムはほとんど含まれていなかったので、リチウム、カリウムと水素とがほぼ置換されて、H1.07Ti1.73O4の組成を有する層状チタン酸化合物であることが確認された。次いで、濾過、水洗、乾燥した後、大気中で400℃の温度で20時間加熱し、チタン酸化物(試料h)を得た。試料hの300〜600℃の加熱減量を測定したところ0.12重量%となり、実施例8と同様に推測すると、試料はH2Ti189O379の組成となり、ほぼ二酸化チタン(TiO2)であると考えられる。また、線源としてCu−Kα線を用いて試料hのX線回折パターンを測定したところ、JCPDSカード35−088等に示されるブロンズ型二酸化チタンに類似したパターンを示した。しかし、ブロンズ型では回折角(2θ)が44°の近傍で、(003)面と(−601)面の2つのピークが観測されるが、試料hではこの2つのピークの面間隔が0であるか非常に近接している。試料hのX線回折パターンを図2に示す。参考例1において、チタン酸化物としてこの二酸化チタンを用いた他は、参考例1と同様にして、本発明の蓄電デバイス(試料H)を得た。
【0028】
参考例7
TiO2換算で0.4gに相当する量の実施例2で得られたH1.07Ti1.73O4の組成を有する層状チタン酸化合物を、この層状チタン酸化合物中のH+量に対して1中和当量の水酸化テトラブチルアンモニウムが溶解した水溶液100cm3に添加し、シェーカーで150回連/分程度の振とうを10日間行うことにより、層状チタン酸を剥離させ、アナターゼ型の薄片状二酸化チタンを得た。このものを、走査型プローブ顕微鏡で測定したところ、幅及び長さが約0.2〜1.0μm、最大厚さが約1.5nmであった。チタン酸化物としてこの薄片状二酸化チタンを用いた他は、参考例1と同様にして、参考試料の蓄電デバイス(試料I)を得た。
【0029】
参考例8
参考例1で用いた比表面積が314m2/gのアナターゼ型二酸化チタンを、ジュースミキサーを用いて純水中に分散させてスラリー化し、TiO2換算の前記含水酸化チタンに対し、5重量%に相当するポリビニルアルコール(ホバールPVA−204C:クラレ製)の水溶液を添加した後、更に純水を添加して、TiO2に換算して10重量%の濃度に調整した。この前記スラリーを四流体ノズル式噴霧乾燥機(MDL−050B型:藤崎電機製)を用いて、入口温度200℃、出口温度80℃、空気吐出量80リットル/分の条件で噴霧乾燥を行い、二次粒子を得た。得られた二次粒子を大気中500℃の温度で3時間加熱焼成を行い、その後、加熱焼成物を、純水で再スラリー化し、濾過、洗浄、固液分離、分級、乾燥を行って、アナターゼ型二酸化チタンの二次粒子を得た。このものの平均一次粒子径(電子顕微鏡法による体積基準の50%径)は7nm、平均二次粒子径(レーザー散乱法による体積基準の50%径)の平均二次粒子径は9.2nm、空隙量は0.552cm3/gであった。チタン酸化物としてこの二次粒子を用いた他は、参考例1と同様にして、参考試料の蓄電デバイス(試料J)を得た。
【0030】
参考例9
実施例1で得られたH2Ti3O7の組成を有する層状チタン酸化合物を、比表面積が314m2/gのアナターゼ型二酸化チタンに替えて負極活物質として用いた他は、参考例1と同様にして、参考試料の蓄電デバイス(試料K)を得た。
【0031】
参考例10
実施例2で得られたNa2Ti3O7の組成を有する層状チタン酸ナトリウムを、チタンとアルカリ金属を含む複合酸化物として用い、比表面積が314m2/gのアナターゼ型二酸化チタンに替え、ペレットの重量を60mgとした他は、参考例1と同様にして、参考試料の蓄電デバイス(試料L)を得た。
【0032】
参考例11〜18
参考例1〜3、8で用いた黒鉛(1)に替えて、X線回折で求めたd(002)が0.3368である黒鉛(2)またはd(002)が0.3363である黒鉛(3)を用いた他は、参考例1と同様にして、参考試料の蓄電デバイス(試料M〜T)を得た。
【0033】
比較例1
参考例1において、負極材料を二酸化チタンに替えて市販の活性炭を用いた他は、実施例1と同様にして、比較対象の蓄電デバイス(試料U)を得た。
【0034】
比較例2
参考例1において、正極材料を黒鉛(1)に替えて比較例1で用いた市販の活性炭を用いた他は、実施例1と同様にして、比較対象の蓄電デバイス(試料V)を得た。
【0035】
評価1:比表面積の測定
実施例1、2、参考例1〜18、比較例1、2で用いた正極材料及び負極材料の比表面積を、比表面積測定装置(モノソーブ:ユアサイアオニクス製)を用い、BET法により測定した。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
評価2:電気容量の評価
実施例1、2、参考例1〜18及び比較例1、2で得られた蓄電デバイス(試料A〜V)の電気容量を評価した。各試料に対して、充電器の設定を0.3mAの定電流とし、3.5Vまで充電電圧として2時間の充電を行った後、0.3mA、1Vまで放電した際の放電容量を、試料の電気容量(mAh/g(正極活物質))として表2に示した。また、試料A〜L、N、Rの放電曲線を図3〜18に示した。図の放電曲線、電圧軸切片、電気容量切片及び原点で囲まれた部分の面積が、蓄電デバイスのエネルギー量に相当し、この面積が大きい程、エネルギー量が大きい。
【0038】
【表2】
【0039】
評価3:サイクル特性の測定
実施例1、2、参考例1〜10で得られた蓄電デバイス(試料A〜L)について、サイクル特性の評価を行った。各試料について、充放電電流を0.3mAに設定して、定電流で3.3Vで充電後、同様にして1.0Vまで放電し、この充放電サイクルを30サイクル繰り返した。2サイクル目と30サイクル目の充放容量を測定し、これをそれぞれの電気容量として、(30サイクル目の電気容量/2サイクル目の電気容量)×100をサイクル特性とした。結果を表3に示す。また、実施例1の容量維持率の推移を図19に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
評価4:レート特性の評価
実施例1、参考例1、2、4、7、8で得られた蓄電デバイス(試料A、B、D、G、I、J)について、レート特性の評価を行った。各試料について、電圧範囲を1.0〜3.3Vに、充電電流を40mA/gに、放電電流を40〜1600mA/gの範囲に設定して充放電を行い、それぞれの放電容量を測定した。容量維持率は、40mA/gでの放電容量の測定値をX1、80〜1600mA/gの範囲での各測定値をXnとすると、(Xn/X1)×100の式で算出した。結果を表4に示す。電流量を大きくしても容量維持率が高いと、レート特性に優れていることが判る。
【0042】
【表4】
【0043】
参考例19
(正極の製造)
参考例1で用いた黒鉛(1)3g、アセチレンブラックとポリテトラフルオロエチレンが混合された粉末(TAB)1gをめのう乳鉢を用いて混練し、アルミ基板上に圧着した後、直径12mmの円形に打ち抜き、活物質量10mg、厚み約0.1mmの正極(2)を得た。
【0044】
(負極の製造)
参考例1で用いた比表面積が314m2/gのアナターゼ型酸化チタン3g、TAB1gをめのう乳鉢を用いて混練し、アルミ基板上に圧着した後、直径12mmの円形に打ち抜き、活物質量10mg、厚み約0.1mmの負極(2)を得た。
【0045】
(蓄電デバイスの製造)
参考例1において、正極(1)、負極(1)を、それぞれ正極(2)、負極(2)に替えた他は、実施例1と同様にして、参考試料の蓄電デバイス(試料A’)を得た。
【0046】
参考例20〜27
参考例19において、比表面積が314m2/gのアナターゼ型酸化チタンに代えて表5に示す各種酸化チタンを用いた他は、参考例19と同様にして、参考試料の蓄電デバイス(試料B’〜I’)を得た。
【0047】
評価5:比表面積の測定
参考例19〜27で用いたチタン酸化物の比表面積を、評価1と同様にして測定した。結果を表5に示す。
【0048】
【表5】
【0049】
評価6:電気容量の評価
参考例19〜27で得られた蓄電デバイス(試料A’〜I’)の電気容量を評価した。試料A’〜I’の蓄電デバイスに対して、1mAの定電流で充電電流を印加した後に、3.5Vに達した時点で定電圧に切り換えて、計2時間の充電を行った後、1mA、0Vまで放電した際の放電容量を、試料の電気容量(mAh/g(正極活物質))として表6に示した。
【0050】
【表6】
【0051】
本発明の蓄電デバイスは、電気容量が大きい。また、参考例4、5、10と比較例1の対比に見られるように、本発明においては、あまり電気容量が大きくないものでも、放電電圧が高いためエネルギー量が大きい。このため、高エネルギー密度化が可能であることがわかった。更に、サイクル特性、レート特性にも優れている。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の蓄電デバイスは、電気自動車等の移動体用の電源、電気事業用の電力貯蔵システム等に有用なものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛を含む正極材料、層状チタン酸化合物を加熱したチタン酸化物を含む負極材料、および電解液を含む蓄電デバイス。
【請求項1】
黒鉛を含む正極材料、層状チタン酸化合物を加熱したチタン酸化物を含む負極材料、および電解液を含む蓄電デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2013−102199(P2013−102199A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−7082(P2013−7082)
【出願日】平成25年1月18日(2013.1.18)
【分割の表示】特願2007−272137(P2007−272137)の分割
【原出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成25年1月18日(2013.1.18)
【分割の表示】特願2007−272137(P2007−272137)の分割
【原出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】
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