説明

補強金物および補強金物を用いた木部材の補強構造

【課題】木部材の交差部に設ける補強金物が熱橋になることによる結露や錆等の発生を防止できると共に、気密性や断熱性能を向上させることができる補強金物および補強金物を用いた木部材の補強構造を提供する。
【解決手段】この補強金物1は、一方の木部材の側面に固定するための固定ボルト12が挿入される第1ボルト孔11a1と、その第1ボルト孔11a1とはほぼ垂直方向を向く第2ボルト孔11a2が設けられた羽子板部11と、軸部13aの先端部は第2ボルト孔11b1に挿入されナット14により固定される一方、軸部13aの基端部にはボルト頭部13a2が設けられた連結ボルト13と、連結ボルト13の軸部13aが嵌まると共にボルト頭部13a2が切欠部周縁に当接する切欠部15aを有し、他方の木部材の側面に形成された収容溝に収容される座金15とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、桁と梁や、梁同士、柱と胴差し等の木部材の交差部に設置され、交差する木部材を強固に連結する補強金物および補強金物を用いた木部材の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、羽子板ボルト等の補強金物を用いた木部材の補強構造として、例えば、補強金物の本体部の先端部は、桁の外表面まで達することなく桁の内部で停止する深さで桁に挿入し、補強金物の本体部の穴に桁を貫通するボルトを通して、桁の上下側面を座金を介してナットにより締め付けることにより、補強金物が外部に露出しないようにした構造や(例えば、特許文献1参照。)、羽子板部は梁に固定する一方、連結ボルトを介して羽子板部に対向する側に設けられた固定板を桁に設けた外部に露出した嵌合孔に固定するようにした構造がある(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4776042号公報
【特許文献2】実用新案登録第3101725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の特許文献1,2に記載された従来の補強構造では、補強金具の一部が室外または外壁側に露出されて外気に触れる構成および使用方法となっており、室外と室内と間の温度差により補強金物が熱橋(ヒートブリッジ)となり、室内側で結露が生じ、補強金物が錆びたり、補強金物に接している木部材が腐食し易いという問題がある。例えば、特許文献1の従来の補強金物では、補強金物の本体部を桁の中に固定するボルトの両端部や、座金およびナットが外部に露出する一方、特許文献2の従来の補強構造では、固定板等が外部に露出しており、その補強金物が熱橋となることにより、補強金物が錆びたり、補強金物に接している木部材が腐食し易い。また、両者共に貫通孔を介して室外に金具の一部が露出する構成となっているため、その貫通孔より外気が室内に侵入する場合があり、室内の気密性が保たれず、断熱性の点でも問題が残る。特に、特許文献1の従来技術では、上下に貫通ボルトを設けているため、外気に露出するボルトやナットの表面積が大きくなり、熱橋の影響が大きくなる。
【0005】
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、木部材の交差部に補強金物の一部が室外または外壁側に露出しないように取付けて、補強金物が熱橋になることによる結露や錆等の発生を防止できると共に、気密性や断熱性能を向上させることができる補強金物および補強金物を用いた木部材の補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明に係る補強金物は、木部材の交差部に設置される補強金物において、一方の木部材の側面に固定するための固定ボルトが挿入される第1ボルト孔と、その第1ボルト孔に対しほぼ垂直方向を向く第2ボルト孔が設けられた羽子板部と、軸部の先端部には第2ボルト孔に挿入されナットが螺合するネジ部が設けられている一方、軸部の基端部には軸部より径が大きいボルト頭部が設けられた連結ボルトと、連結ボルトの軸部の外径以上でボルト頭部の外径より小さい幅の切欠部を有し、他方の木部材の側面に形成された収容溝に収容される座金とを有することを特徴とする。これにより、座金やボルト頭部は、他方の木部材の中に収容されるので、羽子板部を一方の木部材の室内側に固定することにより、補強金物の一部が室外または外壁側に露出することがなくなり、補強金物が熱橋になることによる結露や錆等の発生を防止できると共に、気密性や断熱性能を向上させることができる。
また、請求項2に記載の発明に係る木部材の補強構造は、請求項1記載の補強金物を用いた木部材の補強構造において、他方の木部材には、座金を収容する収容溝が形成されていると共に、連結ボルトに対向する側面に連結ボルトのボルト頭部を挿通させ、収容溝を横断した位置まで到達させる挿通孔が形成されており、他方の木部材の挿通孔に連結ボルトのボルト頭部を挿入し、収容溝から座金を挿入して、座金の切欠部を連結ボルトの軸部に嵌める一方、第1ボルト孔から固定ボルトを通して一方の木部材の側面に羽子板部を固定し、最後に羽子板部の第2ボルト孔から突出する連結ボルト先端部のネジ部をナットにより締め付けることを特徴とする。これにより、座金やボルト頭部は、他方の木部材の中に収容されるので、羽子板部を一方の木部材の室内側に固定することにより、補強金物の一部が室外または外壁側に露出することがなくなり、補強金物が熱橋になることによる結露や錆等の発生を防止できると共に、気密性や断熱性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の補強金物および補強金物を用いた木部材の補強構造によれば、連結ボルトを介して羽子板部とは対向する座金やボルト頭部は、他方の木部材の中に収容されるので、羽子板部を一方の木部材の室内側に固定することにより、補強金物の一部が室外または外壁側に露出することがなくなり、補強金物が熱橋になることによる結露や錆等の発生を防止できると共に、気密性や断熱性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る補強金物を示す図である。
【図2】その補強金物を用いる木部材の状況を示す図である。
【図3】その補強金物を用いた木部材の補強手順を示す図である。
【図4】本発明に係る補強金物を用いた木部材の補強構造を示す図である。
【図5】本発明に係る補強金物を用いた木部材の補強構造の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態1.
図1は、本発明に係る補強金物1を示す図であって、(a)は分解斜視図、(b)は組み立てた状態を下方から見た側面図である。図1(a),(b)に示すように、この補強金物1は、羽子板部11と、固定ボルト12と、連結ボルト13と、ナット14と、座金15とから構成される。羽子板部11は、羽子板本体部11aと、スリーブ部11bとから構成される。羽子板本体部11aには、一方の木部材(図2では、梁23になる。)の側面に固定するための固定ボルト12が挿入される第1ボルト孔11a1が形成されている。また、羽子板本体部11aには、その第1ボルト孔11a1とはほぼ垂直方向を向く第2ボルト孔11b1を有するスリーブ部11bが羽子板本体部11aの一部を折り曲げる等して溶着されている。ここで、このスリーブ部11bは、その第2ボルト孔11b1に連結ボルト13先端部のネジ部13a1が挿入され、ナット14が螺合されるため、図1(b)に示すようにナット14が回転できる程度に、かつ、座金15が収容溝22a1に挿入され、座金15の切欠部15aが連結ボルト13の軸部13aに嵌まるように、羽子板本体部11aの平面部より浮かせた状態で溶着されている。
【0010】
連結ボルト13は、その軸部13aの先端部に、ナット14が螺合されるようネジ部13a1が形成されている一方、その軸部13aの基端部に、軸部13aよりも径の大きいボルト頭部13a2が設けられている。座金15は、連結ボルト13の軸部13aの外径以上で、かつ、ボルト頭部13a2の外径より小さい切欠(溝)幅の切欠部15aが設けられている。なお、座金15は、次に説明する図2に示すように、他方の木部材(図2では、梁22となる。)の側面に形成された収容溝22a1に挿入される。ここで、座金15は、図1(a)に示すように縦長、すなわち切欠部15aが延びる方向に長く、その方向に直交する方向の横幅は狭い形状が望ましい。これは、座金15は、収容溝22a1に収容された際に、横幅が狭い方が収容溝22a1の開口部の面積が小さくなり、より断熱性が向上すると共に、スリーブ部11bを羽子板本体部11aの平面部より浮かせる量(高さ)が小さくなるので、羽子板部11の材料費が低減されると共に、安定性や強度等が向上するからである。
【0011】
次に、木部材の交差部に上述の補強金物1を設置する手順について説明する。図2は、補強金物1により補強する木部材の交差部の一例を示す図である。図2では、柱21の両側に接合された梁22と梁23との交差部に補強金物1を設置して補強する。この場合、各側面全てが室内側に露出する梁23が本発明における一方の木部材に相当し、各側面のうち少なくとも一の側面が室外または外壁側に露出される梁22が本発明における他方の木部材に相当する。ここで、図2に示すように、柱21に接合されている梁22の上側面22aには、図2に示すように座金15が上方から挿入されて収容される収容溝22a1が形成されている一方、補強金物1の連結ボルト13に対向する内側面22bには、連結ボルト13のボルト頭部13a2を挿通させ、収容溝22a1を横断した位置まで到達させる挿通孔22b1が形成されている。なお、その内側面22bに対向する側面、すなわち内側面22bとは反対側の側面が室外または外壁側に位置することになる。
【0012】
まず、図3に示すように、梁22の内側面22bの挿通孔22b1に、補強金物1の連結ボルト13のボルト頭部13a2を挿入し、その後、梁22の上側面22aの収容溝22a1に座金15を挿入する。すると、座金15が梁22の収容溝22a1に完全に収まると共に、座金15の切欠部15aが連結ボルト13の軸部13aに嵌まり、ボルト頭部13a2が座金15の切欠部15aの周縁に当り、連結ボルト13が図上右方向の室内方向に抜けることを防止する。
【0013】
また、連結ボルト13のネジ部13a1にスリーブ部11bの第2ボルト孔11a2を通し(図1参照。)、または図3に示すように予め通しておき、その状態で羽子板本体部11aの第1ボルト孔11a1に固定ボルト12を挿入して梁23を貫通させ、他端側の側面において角座金16およびナット17により、羽子板部11を梁23の側面23aに固定する。そして、最後に、図4に示すようにスリーブ部11bから突出する連結ボルト13のネジ部13a1にナット14を螺合し締め付ける。すると、図5に示すように、連結ボルト13のボルト頭部13a2は、座金15の切欠部15aの周縁に当たり、補強金物1の連結ボルト13に引張力(テンション)が働くため、梁22と梁23とが補強金物1によって補強されることになる。
【0014】
このように、補強金物1の羽子板部11は、室内側に延びる梁23に固定される一方、座金15は、一の側面が室外または外壁側に配置される梁22の収容溝22a1に挿入され、連結ボルト13のボルト頭部13a2も梁22の挿通孔22b1に挿入されるため、補強金物1の一部が室外または外壁側に露出することがなくなる。そのため、補強金物1が外気に触れ熱橋になることによる結露や錆等の発生を防止できると共に、室外または外壁側まで貫通する貫通孔もなくなるので、気密性や断熱性能を向上させることができる。特に、座金15や連結ボルト13のボルト頭部13a2は、梁22内に収容されるので、梁22が断熱材の役割を果たすことになり、この点でも断熱性能が向上する。なお、より断熱性能の向上を図るため、収容溝22a1に座金15を収納後、その収容溝22a1の開口部を断熱材等により埋めるようにしても良い。また、連結ボルト13先端部のネジ部13a1は、梁23の側面23aに固定された羽子板部11にナット14により固定される一方、連結ボルト13基端部のボルト頭部13a2は、梁22の収容溝22a1に挿入された座金15により抜け止めされるので、羽子板部11および座金15が十分な支圧面積を確保することが可能となり、梁22と梁23との間の十分な引き抜き防止効果を期待できる。
【符号の説明】
【0015】
1…補強金物、11…羽子板部、11a…羽子板本体部、11a1…第1ボルト孔、11b…スリーブ部、11b1…第2ボルト孔、12…固定ボルト、13…連結ボルト、13a…軸部、13a1…ネジ部、13a2…ボルト頭部、14…ナット、15…座金、15a…切欠部、16…角座金、17…ナット、21…柱、22…梁、22a1…収容溝、22b1…挿通孔、23…梁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木部材の交差部に設置される補強金物において、
一方の木部材の側面に固定するための固定ボルトが挿入される第1ボルト孔と、その第1ボルト孔に対しほぼ垂直方向を向く第2ボルト孔が設けられた羽子板部と、
軸部の先端部には第2ボルト孔に挿入されナットが螺合するネジ部が設けられている一方、軸部の基端部には軸部より径が大きいボルト頭部が設けられた連結ボルトと、
連結ボルトの軸部の外径以上でボルト頭部の外径より小さい幅の切欠部を有し、他方の木部材の側面に形成された収容溝に収容される座金とを有することを特徴とする補強金物。
【請求項2】
請求項1記載の補強金物を用いた木部材の補強構造において、
他方の木部材には、座金を収容する収容溝が形成されていると共に、連結ボルトに対向する側面に連結ボルトのボルト頭部を挿通させ、収容溝を横断した位置まで到達させる挿通孔が形成されており、
他方の木部材の挿通孔に連結ボルトのボルト頭部を挿入し、収容溝から座金を挿入して、座金の切欠部を連結ボルトの軸部に嵌める一方、第1ボルト孔から固定ボルトを通して一方の木部材の側面に羽子板部を固定し、
最後に羽子板部の第2ボルト孔から突出する連結ボルト先端部のネジ部をナットにより締め付けることを特徴とする補強金物を用いた木部材の補強構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−113038(P2013−113038A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261851(P2011−261851)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】