説明

金属錯体化合物、色素及び有機電界発光素子

【課題】発光輝度が高く、堅牢で、且つ、溶解性の良好なりん光性色素を提供する。また、良好な昇華性、高い耐熱性が求められる有機EL用色素としても有用な新規化合物を提供する。
【解決手段】一般式:


[式中、Mは、二価又は三価の金属原子であり;R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基であり;Rは、トリフルオロメチル基またはフッ素原子であり;Rは、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、アルキルチオ基もしくはジアルキルアミノ基、シアノ基又はニトロ基であり;aは1又は2であり;bは0から2の任意の整数であり;m及びnは各々独立に1又は2である(但し、mとnの合計は2又は3である]で表わされる金属錯体化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な金属錯体化合物、該化合物からなる色素、及び該化合物を用いて作製した有機電界発光素子に関する。本発明の金属錯体化合物は機能性色素、特に青色〜緑色系りん光性色素として有用である。本発明の有機電界発光素子は、表示用照明、表示装置などに利用できる。
【背景技術】
【0002】
有機電界発光(エレクトロルミネッセンス、EL)素子は携帯電話やデジタルカメラ等の小型ディスプレイとして実用化され、将来のフレキシブルディスプレイ実現に向けて大きな期待が寄せられている。有機EL素子では本来絶縁体である有機層に高電場を印加することによって高密度の電荷が有機薄膜中に注入されて動作する。外部から注入された電子とホールは薄膜中を移動し、蛍光やりん光性有機分子上である確率で再結合し、この再結合のエネルギーが有機分子を励起させ、光エネルギーを放出する。この光エネルギー放出は蛍光やりん光現象と同じであり、EL色は蛍光やりん光(フォトルミネッセンス、PL)の色と一致する。
【0003】
この有機EL素子中には高密度の電荷と励起子とが共存した状態となり、従来の有機材料を用いた素子では考えられない非常に過酷な条件で使用される。そのため、有機EL素子に利用される材料には化学的・電気的耐久性が求められる。現在、実用化されている有機EL素子は、キャリア輸送層や発光層を蒸着法によって積層して製膜されることから、使用されるキャリア輸送材や発光材料には、優れたキャリア輸送能や発光効率の他に、製膜するための昇華性も必要となる。さらに、大画面の有機EL素子を実用化するためには、高価な大型の真空蒸着装置が必要となり、有機EL素子大画面の実用化の大きな妨げとなっている。
【0004】
一方、容易に大面積の薄膜形成が可能な蛍光色素分散型高分子有機EL素子に関する研究は、使用できる蛍光色素が限られていたことから、報告例は少ない。高分子系有機EL素子は、低分子系に比べて物理的強度が高く、塗布によって簡便に素子を製膜できる利点もあり、製造コストの低減化が期待できる。とくに、蛍光色素分散型高分子有機EL素子は蛍光色素を均一分散したものであり低分子系キャリア輸送材料やドーパントなどを用いることができるのも一つの特徴である。また、発光色に関しても分散する色素の自由度が高いため、青から赤までの各色及び白色まで実現できる。さらに、蒸着法により製膜される低分子型EL素子では耐久性に悪影響を与えるとされる結晶化の問題や、高精細大型パネルの製造プロセスの難しさなどは、高分子分散溶液を用いたインクジェット法、ロールツーロール法等の印刷プロセスを採用することによって克服できる利点がある。
【0005】
従来、金属錯体化合物、例えば、イリジウム錯体化合物について種々の構造及び発光色の錯体が知られているが(特開2008-222635(特許文献1))、青色に高輝度で発光し、更に堅牢性、溶解性などの優れた化合物は少ない。例えば、European Journal of Inorganic chemistry 2407-2411 (2009)(非特許文献1)には、下記の構造を有するイリジウム錯体化合物が報告されている。
【0006】
【化1】

【0007】
上記構造の化合物の発光スペクトルのλmaxは、482 nmである。
【0008】
Inorganic chemistry 47(6) 2039-2048 (2008)(非特許文献2)には、下記の構造を有するイリジウム錯体化合物が記載されているが、その発光特性に関する記述は無い。
【0009】
【化2】

【0010】
また、WO2005/118606(特許文献2)には、下記の構造を有するイリジウム錯体化合物が記載されているが、その発光特性に関する記述は無い。
【0011】
【化3】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008-222635号公報
【特許文献2】WO2005/118606
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Xin Gu et al. European Journal of Inorganic chemistry 2407-2411 (2009)
【非特許文献2】Coughlin, Frederick et al. Inorganic chemistry 47(6) 2039-2048 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
イリジウム錯体化合物などの金属錯体化合物は、電子分野等において種々の機能的用途が開発され、その多様性、機能性などのより一層の拡大を求めて、常に新しい化合物の開発が求められている。本発明が解決しようとする課題は、発光輝度が高く、堅牢で、且つ、溶解性の良好なりん光性色素を提供することである。また、良好な昇華性、高い耐熱性が求められる有機EL用色素としても有用な新規化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上述の課題を解決すべく鋭意検討を進めた結果、本発明の金属錯体化合物を見出すに至った。即ち、本発明は、一般式:
【0016】
【化4】

【0017】
[式中、Mは、二価又は三価の金属原子であり;R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基であり;Rは、トリフルオロメチル基またはフッ素原子であり;Rは、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、アルキルチオ基もしくはジアルキルアミノ基、シアノ基又はニトロ基であり;aは1又は2であり;bは0から2の任意の整数であり;m及びnは各々独立に1又は2である(但し、mとnの合計は2又は3である)。但し、R及びRが同時にメチル基である場合または無置換のフェニル基である場合を除く]で表わされる金属錯体化合物に関する。
【0018】
また、本発明は、該金属錯体化合物からなるりん光性色素、並びに、対向する陽極と陰極の間に有機層を有する有機電界発光素子において、該有機層が該金属錯体化合物を含有することを特徴とする有機電界発光素子に関する。さらに、本発明は、スピンコート法を用いて、金属錯体化合物を含有する有機層を形成することから成る有機電界発光素子の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の金属錯体化合物は、青色〜赤色、特に青色〜緑色の高輝度で発光(りん光)し、更に堅牢性、溶解性、昇華性などに優れている。また、本発明の金属錯体化合物は、各種材料の着色剤として、又有機EL素子の色素としても優れた性能を有する機能性色素として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例6で製造した有機電界発光素子の概略図である。
【図2】実施例6で製造した有機電界発光素子の発光スペクトラムである。
【図3】実施例7で製造した有機電界発光素子の発光スペクトラムである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
前記式(I)で表される金属錯体化合物において、中心金属Mに、トリフルオロメチル基またはフッ素原子が置換したピリジン化合物及びジケトン化合物が配位子として配位している。
【0022】
中心金属Mは、二価又は三価の金属原子である。Mとしては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、金(Au)が好ましく、その中でも、白金(Pt)又はイリジウム(Ir)が特に好ましい。即ち、本発明の金属錯体化合物としては、一般式(I-a):
【0023】
【化5】

【0024】
[式中、R、R、R、R、aおよびbは前記と同義である。但し、R及びRが同時にメチル基である場合または無置換のフェニル基である場合を除く]で表されるイリジウム錯体化合物、及び一般式(I-b):
【0025】
【化6】

【0026】
[式中、R、R、R、R、aおよびbは前記と同義である。但し、R及びRが同時にメチル基である場合または無置換のフェニル基である場合を除く]で表される白金錯体化合物が特に好ましい。これらのイリジウム錯体化合物及び白金錯体化合物は、青色〜緑色に高輝度で発光し、更に堅牢性、溶解性、昇華性などに優れている。
【0027】
前記式(I)で表される金属錯体化合物中のm及びnは、1又は2である。Mが二価である場合に、m及びnは1である。Mが三価である場合に、m及びnの一方が1であり、他方が2であるが、mが2でありnが1であることが好ましい。
【0028】
前記式(I)で表される金属錯体化合物中には、R及びRを含むジケトン配位子が含まれる。ジケトン配位子を形成するジケトン化合物は、式(II):
【0029】
【化7】

【0030】
[式中、R及びRは前記と同義である]で表される化合物であり、R及びRは、対称(特に、線対称)なジケトン化合物を形成するように、同一であることが好ましい(但し、R及びRが同時にメチル基である場合または無置換のフェニル基である場合を除く)。R及びRは、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜12の置換または無置換のアリール基であるが、R及びRは、金属錯体の溶解性を高めるために、炭素数2以上のアルキル基または置換されたアリール基が好ましい。置換されたアリール基の置換基としては、青色〜緑色の発光を得るため炭素数1〜12のアルキル基、アルコキシ基などの電子供与基が好ましい。
及びRの例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、iso-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、iso-ペンチル、tert-ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、2-エチルヘキシル、オクチル、ノニル、iso-ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルなどの鎖状もしくは分岐状のアルキル基、並びに、フェニル、o-トリル、m-トリル、p-トリル、o-エチルフェニル、m-エチルフェニル、p-エチルフェニル、o-iso-プロピルフェニル、m-iso-プロピルフェニル、p-iso-プロピルフェニル、p-iso-ブチルフェニル、p-n-ブチルフェニル、p-n-ヘキシルフェニル、o-メトキシフェニル、m-メトキシフェニル、p-メトキシフェニル、p-iso-ブトキシフェニル、p-iso-アミルオキシフェニルなどの置換アリール基が挙げられる。ジケトン化合物(II)の具体例としては、例えば、3,5-ヘプタジオン、4,6-ノナジオン、2,6-ジメチル-3,5-ヘプタジオン、5,7-ウンデカジオン、2,8-ジメチル-4,6-ナノジオン、2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオン(又は、ジピバロイルメタン)などが挙げられる。
【0031】
前記式(I)で表される金属錯体化合物中のピリジン配位子中の置換基Rは、トリフルオロメチル基またはフッ素原子から選ばれる。配位子を形成するトリフルオロメチル基またはフッ素原子が置換したピリジン化合物の具体例としては、2-(2,4-ジフルオロフェニル)-5-トリフルオロメチルピリジン、2-(2,4-ジフルオロフェニル)-4-トリフルオロメチルピリジン、2-(2,4-ジフルオロフェニル)-3-トリフルオロメチルピリジン、2-(2,4-ジフルオロフェニル)-6-フルオロピリジン、2-(2,4-ジフルオロフェニル)-5-フルオロピリジン、2-(2,4-ジフルオロフェニル)-4-フルオロピリジン、2-(2,4-ジフルオロフェニル)-3-フルオロピリジン、2-(2,4-ジフルオロフェニル)-5-フルオロ-4-トリフルオロメチルピリジンなどが挙げられる。
【0032】
ピリジン配位子中の置換基Rは、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、アルキルチオ基もしくはジアルキルアミノ基、シアノ基又はニトロ基から選ばれる。
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素が挙げられる。
炭素数1〜12のアルキル基の例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、iso-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、iso-ペンチル、tert-ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、2-エチルヘキシル、オクチル、ノニル、iso-ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルなどの鎖状もしくは分岐状のアルキル基が挙げられる。
炭素数1〜12のアルコキシ基、アルキルチオ基もしくはジアルキルアミノ基の例としては、上記アルキル基のアルキルオキシ、アルキルチオ、もしくはジアルキルアミノの各基が挙げられる。
【0033】
前記式(I)、(I-a)、(I-b)で表される金属錯体化合物の具体例としては、[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-5-トリフルオロメチルピリジナト-N,C2']-(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオナト-O,O')白金(実施例1:白金錯体1)、[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-4-トリフルオロメチルピリジナト-N,C2']-(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオナト-O,O')白金、[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-3-トリフルオロメチルピリジナト-N,C2']-(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオナト-O,O')白金、[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-6-フルオロピリジナト-N,C2']-(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオナト-O,O')白金、[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-5-フルオロピリジナト-N,C2']-(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオナト-O,O')白金、[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-4-フルオロピリジナト-N,C2']-(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオナト-O,O')白金、[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-3-フルオロピリジナト-N,C2']-(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオナト-O,O')白金、[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-5-フルオロ-4-トリフルオロメチルピリジナト-N,C2']-(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオナト-O,O')白金、[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-5-トリフルオロメチルピリジナト-N,C2']-(3,5-ヘプタジオナト-O,O')白金、[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-4-トリフルオロメチルピリジナト-N,C2']-(3,5-ヘプタジオナト-O,O')白金、[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-3-トリフルオロメチルピリジナト-N,C2']-(3,5-ヘプタジオナト-O,O')白金、[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-6-フルオロピリジナト-N,C2']-(3,5-ヘプタジオナト-O,O')白金、[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-5-フルオロピリジナト-N,C2']-(3,5-ヘプタジオナト-O,O')白金、[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-4-フルオロピリジナト-N,C2']-(3,5-ヘプタジオナト-O,O')白金、[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-3-フルオロピリジナト-N,C2']-(3,5-ヘプタジオナト-O,O')白金、[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-5-フルオロ-4-トリフルオロメチルピリジナト-N,C2']-(3,5-ヘプタジオナト-O,O')白金、
【0034】
ビス[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-5-トリフルオロメチルピリジナト-N,C2']-(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオナト-O,O')イリジウム(実施例2:イリジウム錯体1)、ビス[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-4-トリフルオロメチルピリジナト-N,C2']-(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオナト-O,O')イリジウム(実施例3:イリジウム錯体2)、ビス[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-3-トリフルオロメチルピリジナト-N,C2']-(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオナト-O,O')イリジウム(実施例4:イリジウム錯体3)、ビス[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-6-フルオロピリジナト-N,C2']-(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオナト-O,O')イリジウム、ビス[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-5-フルオロピリジナト-N,C2']-(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオナト-O,O')イリジウム(実施例5:イリジウム錯体4)、ビス[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-4-フルオロピリジナト-N,C2']-(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオナト-O,O')イリジウム、ビス[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-3-フルオロピリジナト-N,C2']-(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオナト-O,O')イリジウム、ビス[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-5-フルオロ-4-トリフルオロメチルピリジナト-N,C2']-(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオナト-O,O')イリジウム、ビス[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-5-トリフルオロメチルピリジナト-N,C2']-(3,5-ヘプタジオナト-O,O')イリジウム、ビス[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-4-トリフルオロメチルピリジナト-N,C2']-(3,5-ヘプタジオナト-O,O')イリジウム、ビス[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-3-トリフルオロメチルピリジナト-N,C2']-(3,5-ヘプタジオナト-O,O')イリジウム、ビス[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-6-フルオロピリジナト-N,C2']-(3,5-ヘプタジオナト-O,O')イリジウム、ビス[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-5-フルオロピリジナト-N,C2']-(3,5-ヘプタジオナト-O,O')イリジウム、ビス[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-4-フルオロピリジナト-N,C2']-(3,5-ヘプタジオナト-O,O')イリジウム、ビス[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-3-フルオロピリジナト-N,C2']-(3,5-ヘプタジオナト-O,O')イリジウム、ビス[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-5-フルオロ-4-トリフルオロメチルピリジナト-N,C2']-(3,5-ヘプタジオナト-O,O')イリジウムなどが挙げられる。
【0035】
本発明の金属錯体化合物は、(i)金属塩とトリフルオロメチル基またはフッ素原子が置換したピリジン化合物を80〜200℃、好ましくは100〜150℃で、1〜48時間、好ましくは10〜24時間、加熱して前駆体を得る工程、次いで(ii)前駆体と前記式(II)のジケトン化合物を30〜150℃、好ましくは50〜120℃で、1〜48時間、好ましくは2〜24時間加熱して金属錯体化合物を得る工程によって製造できる。前記式(II)のジケトン化合物を反応させた後に、トリフルオロメチル基が置換したピリジン化合物を反応させてもよい。工程(i)及び(ii)は、必要に応じ窒素ガスまたはアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下に反応を行うことが好ましい。また、反応を円滑にするために溶媒を存在させることが好ましい。工程(ii)は、反応を円滑にするために塩基または銀塩を共存させることが好ましい。
【0036】
金属塩は、ハロゲン化金属であることが好ましい。ハロゲン化金属は、金属原子とハロゲン原子によって構成される。金属原子は、中心金属M(例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、金(Au))のみからなってもよいし、或いは中心金属と他の金属との組合せであってもよい。他の金属の例は、アルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム)、アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム)などである。ハロゲン原子の例は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素である。金属塩の具体例は、次のとおりである。
【0037】
PtCl、PtCl、KPdCl、PdCl、KIrCl、IrCl、RhCl、RuCl、OsCl、KAuCl
PtBr、PtI、KPdI、PdBr、KIrBr、IrI、RhBr、RuBr、OsBr、KAuBr
【0038】
トリフルオロメチル基またはフッ素原子が置換したピリジン化合物及び前記式(II)のジケトン化合物の量は、得ようとする金属錯体化合物におけるトリフルオロメチル基またはフッ素原子が置換したピリジン化合物と前記式(II)のジケトン化合物の比に依存する。トリフルオロメチル基またはフッ素原子が置換したピリジン化合物の量は、金属塩1モルに対して、1〜8モル、例えば2〜5モルであってよい。前記式(II)のジケトン化合物の量は、前駆体1モルに対して1〜6モル、例えば1〜3モルであってよい。
【0039】
工程(i)及び(ii)は、溶媒を用いることが好ましく、工程(i)及び(ii)に対して不活性であり、反応物を溶解し、反応に必要な温度を維持できるものであればどのような化合物であっても良い。工程(i)の溶媒の量は、金属塩1ミリモルに対して2〜100mL、特に5〜20mLであることが好ましい。工程(ii)の溶媒の量は、前駆体1ミリモルに対して10〜150mL、特に40〜100mLであることが好ましい。溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール、2−エトキシエタノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド類、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、水等が挙げられる。これら溶媒は、夫々単独で用いても2種以上適宜組み合わせて用いても良い。工程(i)の溶媒は、アルコール類及び水を単独或いは併用することが好ましい。工程(ii)の溶媒は、アルコール類またはアミド類が好ましい。
【0040】
工程(ii)は、塩基または銀塩を用いることが好ましい。塩基の量はジケトン化合物1ミリモルに対して0.5〜10ミリモル、特に1〜5ミリモルであることが好ましい。銀塩の量はジケトン化合物1ミリモルに対して0.1〜5ミリモル、特に0.5〜1.5ミリモルであることが好ましい。塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の無機塩基類、ナトリウムメトキシド、カリウム−tert−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド類、水素化ナトリウム、水素化カリウム等の金属水素化物類、トリエチルアミン、ピリジン、DBU等の有機アミン類等が挙げられる。銀塩としては、硝酸銀、酢酸銀、酸化銀等が挙げられる。
【0041】
製造した金属錯体化合物は、固体として析出することなどにより容易に単離することができる。金属錯体化合物を精製してもよい。精製には、抽出、再結晶、クロマトグラフィーなどを使用することができる。
【0042】
本発明の金属錯体化合物は、色素、特にりん光性色素として使用できる。また、本発明の金属錯体化合物は、溶媒、特に有機溶媒に容易に溶解するので、溶液塗布(特に、スピンコート)できる。金属錯体化合物の溶液を塗布(特に、スピンコート)した後に溶媒を除去することによって金属錯体化合物層を得ることができる。
【0043】
溶媒の例としては、脂肪族炭化水素、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン;芳香族炭化水素、例えばベンゼン、トルエン、キシレン;脂環式炭化水素、例えばシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリン;石油系溶媒、例えば石油エーテル、石油ベンジン;ハロゲン化炭化水素、四塩化炭素、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン;エーテル、例えばエチルエーテル、イソプロピルエーテル、アニソール、ジオキサン、テトラヒドロフラン;ケトン、例えばアセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、イソフォロン;エステル、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル;アミド、例えばジメチルフォルムアミド;アセトニトリル;ジメチルスルフォキシド;ハロゲン化ベンゼン、例えばクロロベンゼン、ジクロロベンゼンが挙げられる。
【0044】
スピンコートによって、有機電界発光素子の有機層(例えば、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層)を形成することができる。例えば、陰極、陽極、ホール(電子)輸送層、ホール(電子)注入層などの基材の上に有機層をスピンコートする。スピンコート操作において、100〜10000rpm、例えば500〜4000rpmで0.1〜30分間、例えば0.5〜3分間、基材を回転させることが好ましい。スピンコートする際に、溶液における固体(特に金属錯体化合物)の濃度は、0.0001〜10重量%、例えば、0.001〜1重量%であることが好ましい。スピンコートによって、厚さ5〜500nm、例えば25〜250nm(乾燥後の膜厚)の膜を形成する。スピンコートは、真空蒸着などに比較して、物質が蒸着時に飛散するという物質の無駄が生じることがなく、複雑な工程を必要とせず、製造コストが低く、簡便に行えるという利点がある。
【0045】
対向する陽極と陰極の間に有機層を有する有機電界発光素子において、該有機層が金属錯体化合物を含有する。有機層の例は、発光層、ホール輸送層、電子輸送層、ホールブロック層、電子ブロック層、ホール注入層、電子注入層である。金属錯体化合物を含有する有機層は、発光層であることが好ましい。本発明において、有機電界発光素子は、有機層に加えて、基板、陽極、陰極を有する。
【0046】
次のような層構成を有することが好ましい。
(i)陽極/ホール注入層/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(ii)陽極/ホール注入層/ホール輸送層/発光層/電子注入輸送層/陰極
(iii)陽極/ホール注入輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(iv)陽極/ホール注入輸送層/発光層/電子注入輸送層/陰極
(v)陽極/ホール注入層/ホール輸送層/発光層/陰極
(vi)陽極/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(vii)陽極/ホール注入輸送層/発光層/陰極
(viii)陽極/発光層/電子注入輸送層/陰極
(ix)陽極/発光層/陰極
層構成において、ホールブロック層が陽極に隣接して存在してよく、電子ブロック層が陰極に隣接して存在してよい。
【0047】
基板の上に陽極を形成してもよいし、或いは基板の上に陰極を形成してもよい。
基板は、特に限定されないが、ジルコニア安定化イットリウム、ガラス等の無機材料;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルや、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート、アリルジグリコールカーボネート、ポリイミド、ポリシクロオレフィン、ノルボルネン樹脂、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン−ポリエチレン共重合体等の高分子材料であってよい。基板は、これらの2種以上の材料を組み合わせた複合シートであってもよい。さらに、基板に、例えば、カラーフィルタ膜、色変換膜、誘電体反射膜を組み合わせて、発光色をコントロールすることもできる。
【0048】
陽極に使用する物質としては、金属、合金、金属酸化物、導電性化合物、又はこれらの2種以上が挙げられる。具体例としては金、白金、銀、銅、コバルト、ニッケル、パラジウム、バナジウム、タングステン、酸化錫、酸化亜鉛、ITO(酸化インジウムスズ)、ポリチオフェン、ポリピロール等が挙げられる。陽極に使用する物質は、単独で使用しても良く、或いは2種以上併用しても良い。陽極に使用する物質は、隣接する層との密着性やイオン化ポテンシャル、安定性等を考慮して選ばれる。
【0049】
陽極は、例えば、蒸着法、スパッタリング法等の方法により、基板の上に形成することができる。また、陽極は一層構造であっても良く、或いは多層構造であっても良い。陽極のシート電気抵抗は、数百Ω/□以下、より好ましくは、5〜50Ω/□程度であることが好ましい。陽極の厚さは、一般に、5〜1000nm程度、より好ましくは、10〜500nm程度である。
【0050】
陰極に使用する物質としては金属、合金、金属酸化物、導電性化合物、又はこれらの2種以上が挙げられる。具体例としてはアルカリ金属(例えばLi、Na、K、Cs等)又はフッ化アルカリ金属、ナフトール等の有機塩、アルカリ土類金属(例えばMg、Ca等)又はフッ化アルカリ土類金属、金、銀、白金、鉛、アルミニウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−銀合金、又はそれらの2種以上を併用する合金、インジウム、イッテルビウム等の希土類金属が挙げられる。陰極に使用する物質は、電子注入輸送の機能を有する層、陰極と隣接する層との密着性や、イオン化ポテンシャル、安定性等を考慮して選ばれる。
【0051】
陰極の作製には電子ビーム法、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、コーティング法等の方法が用いられ、金属を単体で蒸着することも、二成分以上を同時に蒸着することもできる。さらに、2種以上の金属を同時に蒸着して合金電極を形成することも可能である。また、あらかじめ調製した合金を蒸着させても良い。陰極のシート抵抗は低い方が好ましく、数百Ω/□以下がより好ましい。
陰極の厚さは、使用する物質により適宜選択可能であるが、通常10nm〜5μmの範囲が好ましく、より好ましくは50nm〜1μmであり、さらに好ましくは100nm〜1μmである。
【0052】
本発明の金属錯体化合物を、有機層、特に、ホール注入/ホール輸送/発光/電子輸送/電子注入の少なくとも1つの機能を有する層において使用する。
本発明の金属錯体化合物は、ホール注入輸送機能、発光機能及び電子注入輸送機能のいずれか1つを有する。
【0053】
ホール注入輸送機能を持つ化合物を、ホール注入層、ホール輸送層、ホール注入輸送層等のホール注入輸送機能を有する層において使用する。
ホール注入輸送機能を有する層において、本発明の金属錯体化合物のみ、他の化合物のみ、或いは金属錯体化合物と他の化合物との組合せを使用する。
ホール注入輸送機能を有する他の化合物の具体例としては、フタロシアニン誘導体、トリアリールメタン誘導体、トリアリールアミン誘導体、オキサゾール誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、ピラゾリン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリ−N−ビニルカルバゾール誘導体等が挙げられる。ホール注入輸送機能を有する他の化合物は、単独で使用しても良く、或いは2種以上併用しても良い。
【0054】
発光機能を有する化合物を、発光層において使用する。発光層において、本発明の金属錯体化合物のみ、他の化合物のみ、或いは金属錯体化合物と他の化合物との組合せを使用する。
本発明の金属錯体化合物以外の発光機能を有する化合物としては、例えば、アクリドン誘導体、キナクリドン誘導体、ジケトピロロピロール誘導体、多環芳香族化合物、トリアリールアミン誘導体、エナミン構造を有する化合物、有機金属錯体、スチルベン誘導体、ピラン誘導体、オキサゾン誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ピラジン誘導体、ケイ皮酸エステル誘導体、ポリ−N−ビニルカルバゾール及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリフェニレン及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体、ポリフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリビフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリターフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリナフチレンビニレン及びその誘導体、ポリチエニレンビニレン及びその誘導体等が挙げられる。これら発光機能を有する化合物は単独で使用しても良く、或いは2種以上併用しても良い。
【0055】
上記の多環芳香族化合物としては、例えば、ルブレン、アントラセン、テトラセン、ピレン、ペリレン、クリセン、デカシクレン、コロネン、テトラフェニルシクロペンタジエン、ペンタフェニルシクロペンタジエン、9,10−ジフェニルアントラセン、9,10−ビス(フェニルエチニル)アントラセン、1,4−ビス(9'−エチニルアントラセニル)ベンゼン、4,4'−ビス(9"−エチニルアントラセニル)ビフェニル等が挙げられる。
本発明の金属錯体化合物を含有している有機層は、発光層であることが好ましい。
【0056】
電子注入輸送機能を有する化合物を、電子注入層、電子輸送層、電子注入輸送層等の電子注入輸送機能を有する層において使用する。
電子注入輸送機能を有する層において、本発明の金属錯体化合物のみ、他の化合物のみ、或いは金属錯体化合物と他の化合物との組合せを使用する。
電子注入輸送機能を有する他の化合物としては、例えば、有機金属錯体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ペリレン誘導体、キノリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレノン誘導体、チオピランジオキサイド誘導体、キノキサリン誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体等が挙げられる。
【0057】
本発明の有機電界発光素子においては、有機層が金属錯体化合物を含有している。他の化合物(例えば、発光機能又はホール(電子)注入輸送機能を有する他の化合物)を併用する場合、有機層中に占める金属錯体化合物の割合は、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.1〜99.9重量%、例えば1〜99重量%、特に2〜30重量%、特別に1〜10重量%である。
有機層においては、本発明の金属錯体化合物以外の、上記のような(発光機能又はホール(電子)注入輸送機能を有する)他の化合物を使用してよい。他の化合物の量は、有機層に対して、0.01〜90重量%、例えば0.1〜50重量%、特に1〜30重量%であってよい。
【0058】
溶液塗布法により有機層(特に、発光層)を形成する場合、発光機能又はホール(電子)注入輸送機能を有する化合物のみ、或いはこれら化合物とバインダーポリマーとを溶媒に溶解又は分散させて塗布液とする。バインダーポリマーとしては、例えば、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリアリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリシロキサン、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリパラキシレン、ポリエチレン、ポリエチレンエーテル、ポリプロピレンエーテル、ポリフェニレンオキサイド、ポリエーテルスルフォン、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリフェニレンエチニレン及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体、ポリチエニレンビニレン及びその誘導体等の高分子化合物が挙げられる。バインダーポリマーは、単独で使用しても良く、或いは2種以上併用しても良い。バインダーポリマーの量は、有機層の1〜99重量%、例えば10〜80重量%であってよい。
【0059】
有機層(例えば、ホール注入輸送機能を有する層、発光層、電子注入輸送機能を有する層)の形成方法に関しては、特に限定するものではなく、真空蒸着法、イオン化蒸着法、溶液塗布法(例えば、スピンコート法、キャスト法、ディップコート法、バーコート法、ロールコート法、ラングミュア・ブロゼット法、インクジェット法等)により薄膜を形成することにより作製することができる。本発明においては、有機層の形成は、スピンコート法を用いることが好ましい。
本発明の金属錯体化合物は、溶剤に対して高い溶解性を有しており、均一な分散状態で溶剤に良好に溶解するので、溶液塗布(特に、スピンコート)により、良好な有機層が得られる。
各有機層の厚さは、好ましくは5〜500nm、例えば25〜250nm、特に50〜150nmであってよい。
【0060】
有機電界発光素子において、保護液、保護層(封止層)を設けても良い。これにより、有機電界発光素子が酸素や水分等と接触することが防止される。保護液は、例えば、パラフィン、流動パラフィン、シリコーンオイル、フルオロカーボン油、ゼオライト含有フルオロカーボン油等の不活性液体であってよい。保護層は、例えば、有機高分子材料(例えば、光硬化性樹脂)、無機材料であってよい。
有機電界発光素子に印加する電圧は、例えば、0.1〜50Vである。
【0061】
本発明の有機電界発光素子は、表示素子、ディスプレイ、バックライト、電子写真、照明光源、記録光源、露光光源、読み取り光源、標識、看板、インテリア、光通信等に好適に利用できる。
【0062】
次に本発明の具体的な実施形態を記載するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)前記一般式(I)で表わされる金属錯体化合物。
(2)前記一般式(I)中のMが白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)又は金(Au)である前記(1)に記載の金属錯体化合物。
(3)前記一般式(I)中のジケトン配位子を形成するR及びRを含むジケトン化合物が対称な化合物である前記(1)に記載の金属錯体化合物。
(4)前記一般式(I-a)で表されるイリジウム錯体化合物である前記(1)に記載の金属錯体化合物。
(5)前記一般式(I-b)で表される白金錯体化合物である前記(1)に記載の金属錯体化合物。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の金属錯体化合物からなるりん光性色素。
(7)有機電界発光用色素である(6)に記載のりん光性色素。
(8)対向する陽極と陰極の間に有機層を有する有機電界発光素子において、該有機層が前記(1)〜(5)のいずれかに記載の金属錯体化合物を含有することを特徴とする有機電界発光素子。
(9)有機層が発光層である前記(8)に記載の有機電界発光素子。
(10)スピンコート法を用いて、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の金属錯体化合物を含有する有機層を形成することを特徴とする、有機電界発光素子の製法。
(11)金属錯体化合物と溶媒からなる溶液をスピンコート法により塗布した後に、溶剤を除去することによって有機層を形成する前記(10)に記載の製法。
【0063】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に制約されるものではない。
[1][トリフルオロメチル基またはフッ素原子が置換したピリジン化合物の合成]
【0064】
合成例1
[2-(2,4-ジフルオロフェニル)-5-トリフルオロメチルピリジンの合成]
2-クロロ-5-トリフルオロメチルピリジン(1.82g, 10mmol)、2,4-ジフルオロフェニルボロン酸(1.58g, 10mmol)、Pd(PPh3)4(340mg, 0.29mmol)、炭酸ナトリウム(6.5g, 61mmol)、トルエン20mL、エタノール5mL、水20mLの混合物を窒素雰囲気下、3.5時間加熱還流させた。放冷後、酢酸エチルで抽出、水洗、および飽和食塩水で洗浄し、減圧下に溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン/アセトン=3/1)で精製することによって2-(2,4-ジフルオロフェニル)-5-トリフルオロメチルピリジンを白色固体として得た(2.4g, 9.3mmol)。得られた生成物の分析結果を以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ(ppm): 6.95(ddd, J=11.2, 8.8, 2.4Hz, 1H), 7.00-7.10(m, 1H), 7.90(d, J=8.4Hz, 1H), 7.99(d, J=8.4Hz, 1H), 8.05-8.15(m, 1H), 8.96(s, 1H).
【0065】
合成例2
[2-(2,4-ジフルオロフェニル)-4-トリフルオロメチルピリジンの合成]
2-クロロ-4-トリフルオロメチルピリジン(1.82g, 10mmol)、2,4-ジフルオロフェニルボロン酸(1.58g, 10mmol)、Pd(PPh3)4(340mg, 0.29mmol)、炭酸ナトリウム(6.5g, 61mmol)、トルエン20mL、エタノール5mL、水20mLの混合物を窒素雰囲気下、1.5時間加熱還流させた。放冷後、酢酸エチルで抽出、水洗、および飽和食塩水で洗浄し、減圧下に溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン/アセトン=3/1)で精製することによって2-(2,4-ジフルオロフェニル)-4-トリフルオロメチルピリジンを白色固体として得た(2.3g, 8.9mmol)。得られた生成物の分析結果を以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ(ppm): 6.97(ddd, J=11.5,8.5,2.5Hz,1H), 7.05(ddt, J=2.5,0.5,8.3Hz, 1H), 7.49(d, J=5.0Hz, 1H), 8.00(s, 1H), 8.07(dt, J=6.5,8.5Hz, 1H), 8.90(d, J=5.0Hz, 1H).
【0066】
合成例3
[2-(2,4-ジフルオロフェニル)-3-トリフルオロメチルピリジンの合成]
2-クロロ-3-トリフルオロメチルピリジン(1.82g,10mmol)、2,4-ジフルオロフェニルボロン酸(1.58g,10mmol)、Pd(PPh3)4(340mg, 0.29mmol)、炭酸ナトリウム(6.5g,61mmol)、エチレングリコールジメチルエーテル25mL、水25mLの混合物を窒素雰囲気下、17時間加熱還流させた。放冷後、酢酸エチルで抽出、水洗、および飽和食塩水で洗浄し、減圧下に溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン/酢酸エチル=2/1)で精製することによって2-(2,4-ジフルオロフェニル)-3-トリフルオロメチルピリジンを白色固体として得た(1.0g, 3.9mmol)。得られた生成物の分析結果を以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ(ppm): 6.92(dt, J=5.0,9.0Hz, 1H), 6.97(dt, J=2.5,3.5Hz, 1H), 7.34(dt, J=6.5,8.5Hz, 1H), 7.50(dd, J=8.0,5.0Hz, 1H), 8.10(d, J=8.0Hz, 1H), 8.87(d, J=5.0Hz, 1H).
【0067】
合成例4
[2-(2,4-ジフルオロフェニル)-5-フルオロピリジンの合成]
2-ブロモ-5-フルオロピリジン(1.76g,10mmol)、2,4-ジフルオロフェニルボロン酸(1.58g, 10mmol)、Pd(PPh3)4(340mg, 0.29mmol)、炭酸ナトリウム(6.5g, 61mmol)、トルエン20mL、水20mL、エタノール5mLの混合物を窒素雰囲気下、1.5時間加熱還流させた。放冷後、酢酸エチルで抽出、水洗、および飽和食塩水で洗浄し、減圧下に溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘプタン/酢酸エチル=4/1)で精製することによって2-(2,4-ジフルオロフェニル)-5-フルオロピリジンを白色固体として得た(1.72g, 8.2mmol)。得られた生成物の分析結果を以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ(ppm): 6.92(ddd, J=11.5,8.5,2.5Hz,1H), 6.99-7.03(1H), 7.48(ddd, J=8.5, 8.5, 3.0Hz, 1H), 7.77(ddd, J=8.5, 4.0, 2.0Hz, 1H), 7.97(ddd, J=9.0, 9.0, 7.0Hz, 1H), 8.56(d, J=3.0Hz, 1H).
【0068】
[2][前駆体の合成]
合成例5
[前駆体1の合成]
【0069】
【化8】

【0070】
2-(2,4-ジフルオロフェニル)-5-トリフルオロメチルピリジン(650mg, 2.5mmol)、K2PtCl4(415mg, 1.0mmol)、エトキシエタノール12mL、水4mLの混合物を窒素雰囲気下、20時間加熱還流させた。放冷後、水48mLを加えると黄緑色固体が析出した。析出した固体を濾過によって集め、ヘキサンで洗浄し、前駆体1を淡黄緑色固体として得た(650mg, 0.87mmol)。得られた生成物の分析結果を以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ(ppm): 5.63(dd, J=8.4, 2.4Hz, 1H), 6.56(ddd, J=12.4, 8.8, 2.4Hz, 1H), 6.75-6.85(m, 1H), 6.95-7.00(m, 1H), 7.87(d, J=8.4Hz, 1H), 8.06(s, 2H), 8.26(d, J=8.0Hz, 1H), 8.49(dt, J=8.4, 6.4Hz, 1H), 9.48(s, 1H), 10.01(s, 1H).
【0071】
合成例6
[前駆体2の合成]
【0072】
【化9】

【0073】
2-(2,4-ジフルオロフェニル)-5-トリフルオロメチルピリジン(700mg, 2.7mmol)、IrCl3・xH2O(400mg)、エトキシエタノール12mL、水4mLの混合物を窒素雰囲気下、20時間加熱還流させた。放冷後、水48mLを加えると黄緑色固体が析出した。析出した固体を濾過によって集め、ヘキサンで洗浄し、前駆体2を淡黄緑色固体として得た(680mg, 0.46mmol)。得られた生成物の分析結果を以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ(ppm): 5.07(d, J=8.5Hz, 4H), 6.43(t, J=10.5Hz, 4H), 8.05(d, J=9.0Hz, 4H), 8.46(d, J=9.0Hz, 4H), 9.51(s, 4H).
【0074】
合成例7
[前駆体3の合成]
【0075】
【化10】

【0076】
2-(2,4-ジフルオロフェニル)-4-トリフルオロメチルピリジン(1.0g, 3.9mmol)、IrCl3・xH2O(580mg)、エトキシエタノール17mL、水6mLの混合物を窒素雰囲気下、21時間加熱還流させた。放冷後、水72mLを加えると黄緑色固体が析出した。析出した固体を濾過によって集め、ヘキサンで洗浄し、前駆体3を淡黄緑色固体として得た(1.09g, 0.73mmol)。得られた生成物の分析結果を以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ(ppm): 5.28(dd, J=8.5, 2.0Hz, 4H), 6.45(ddd, J=12.0, 9.3, 2.0Hz, 4H), 6.99(d, J=6.0Hz, 4H), 8.55(s, 4H), 9.19(d, J=6.0Hz, 4H).
【0077】
合成例8
[前駆体4の合成]
【0078】
【化11】

【0079】
2-(2,4-ジフルオロフェニル)-3-トリフルオロメチルピリジン(1.0g, 3.9mmol)、IrCl3・xH2O(580mg)、エトキシエタノール18mL、水6mLの混合物を窒素雰囲気下、19時間加熱還流させた。放冷後、水72mLを加えると黄緑色固体が析出した。析出した固体を濾過によって集め、ヘキサンで洗浄し、前駆体4を淡黄緑色固体として得た(1.08g, 0.73mmol)。得られた生成物の分析結果を以下に示す。
1H NMR (d6-DMSO) δ(ppm): 4.66(dd, J=8.5, 2.5Hz, 2H), 5.69(dd, J=8.0, 2.5Hz, 2H), 6.79-6.84(m, 2H), 6.89-6.93(m, 2H), 7.79(dd, J=8.0, 5.5Hz, 2H), 7.88(dd, J=8.0, 5.5Hz, 2H), 8.56(d, J=7.5Hz, 2H), 8.65(d, J=8.0Hz, 2H), 9.75(d, J=4.5Hz, 2H), 10.00(d, J=5.5Hz, 2H).
【0080】
合成例9
[前駆体5の合成]
【0081】
【化12】

【0082】
2-(2,4-ジフルオロフェニル)-5-フルオロピリジン(1.72g,8.2mmol)、IrCl3・xH2O(1.22g)、エトキシエタノール24mL、水8mLの混合物を窒素雰囲気下、19時間加熱還流させた。放冷後、水96mLを加えると黄緑色固体が析出した。析出した固体を濾過によって集め、ヘキサンで洗浄し、前駆体5を淡黄緑色固体として得た(1.96g,1.52mmol)。
【0083】
[3][白金(II)錯体の合成]
実施例1
[白金錯体1([2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-5-トリフルオロメチルピリジナト-N,C2']-(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオナト-O,O')白金)の合成]
【0084】
【化13】

【0085】
前駆体1(300mg, 0.40mmol)、ジピバロイルメタン(150mg, 0.82mmol)、酸化銀(I)(140mg, 0.60mol)、エトキシエタノール25mLの混合物を窒素雰囲気下、約110 ℃にて14時間攪拌した。放冷後、クロロホルム25mLを加え十分攪拌し、不溶物をろ過除去して、ろ液を減圧下に濃縮した。残渣を少量のクロロホルムに溶解し、不溶物をろ過除去し、ろ液を減圧下に濃縮した。残渣を少量のヘキサンで洗浄し、白金錯体1を黄色の固体として得た(220 mg, 0.35mmol)。得られた生成物の分析結果を以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ(ppm): 1.28(s, 18H), 5.86(s, 1H), 6.61(ddd, J=12.0, 9.0, 4.5Hz, 1H), 7.14(dd, J=13.0, 4.5Hz, 1H), 8.00-8.10(m, 2H), 9.45(s, 1H).
【0086】
[4][イリジウム(III)錯体の合成]
実施例2
[イリジウム錯体1(ビス[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-5-トリフルオロメチルピリジナト-N,C2']-(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオナト-O,O')イリジウム)の合成]
【0087】
【化14】

【0088】
前駆体2(300mg, 0.20mmol)、ジピバロイルメタン(93mg, 0.51mmol)、炭酸ナトリウム(190mg, 1.79mol)、エトキシエタノール15mLの混合物を窒素雰囲気下、約110 ℃にて2.5時間攪拌した。放冷後、水60mLを加えると黄緑色固体が析出した。析出した固体を濾過によって集め、少量のクロロホルムに溶解し、不溶物をろ過除去して、ろ液を減圧下に濃縮した。残渣をヘキサン15mLに溶解し、不溶物をろ過除去し、ろ液を減圧下に濃縮した。残渣を少量のヘキサンで洗浄し、イリジウム錯体1を黄緑色の固体として得た(210mg, 0.24mmol)。得られた生成物の分析結果を以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ(ppm): 0.90(s, 18H), 5.61(s, 1H), 5.77(dd, J=8.5, 2.5Hz, 2H), 6.41(ddd, J=12.5, 9.5, 2.5Hz, 2H), 7.97(d, J=8.5Hz, 2H), 8.34(d, J=8.5Hz, 2H), 8.56(s, 2H).
【0089】
実施例3
[イリジウム錯体2(ビス[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-4-トリフルオロメチルピリジナト-N,C2']-(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオナト-O,O')イリジウム)の合成]
【0090】
【化15】

【0091】
前駆体3(320mg, 0.22mmol)、ジピバロイルメタン(100mg, 0.54mmol)、炭酸ナトリウム(200mg, 1.89mol)、エトキシエタノール15mLの混合物を窒素雰囲気下、約110 ℃にて3時間攪拌した。放冷後、水60mLを加えると黄緑色固体が析出した。析出した固体を濾過によって集め、少量のクロロホルムに溶解し、不溶物をろ過除去して、ろ液を減圧下に濃縮した。残渣を少量のヘキサンで洗浄し、イリジウム錯体2を黄緑色の固体として得た(290mg, 0.33mmol)。得られた生成物の分析結果を以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ(ppm): 0.90(s, 18H), 5.56(s, 1H), 5.74(dd, J=8.5, 2.0Hz, 2H), 6.42(ddd, J=12.5, 9.5, 2.0Hz, 2H), 7.34(d, J=6.0Hz, 2H), 8.43(s, 2H), 8.47(d, J=6.0Hz, 2H).
【0092】
実施例4
[イリジウム錯体3(ビス[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-3-トリフルオロメチルピリジナト-N,C2']-(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオナト-O,O')イリジウム)の合成]
【0093】
【化16】

【0094】
前駆体4(320mg, 0.22mmol)、ジピバロイルメタン(100mg, 0.54mmol)、炭酸ナトリウム(200mg, 1.89mol)、エトキシエタノール15mLの混合物を窒素雰囲気下、約110 ℃にて3時間攪拌した。放冷後、水60mLを加えると黄緑色固体が析出した。析出した固体を濾過によって集め、クロロホルムに溶解し、不溶物をろ過除去して、ろ液を減圧下に濃縮した。残渣を少量のヘキサンで洗浄し、イリジウム錯体3を黄緑色の固体として得た(340mg, 0.38mmol)。得られた生成物の分析結果を以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ(ppm): 0.85(s, 18H), 5.40(s, 1H), 5.88(dd, J=8.0, 2.5Hz, 2H), 6.40(ddd, J=12.0, 9.5, 2.5Hz, 2H), 7.21(dd, J=8.0, 6.0Hz, 2H), 8.07(d, J=8.0Hz, 2H), 8.41(d, J=6.0, 2H).
【0095】
実施例5
[イリジウム錯体4(ビス[2-(4',6'-ジフルオロフェニル)-5-フルオロピリジナト-N,C2']-(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタジオナト-O,O')イリジウム)の合成]
【0096】
【化17】

【0097】
前駆体5(300mg, 0.23mmol)、ジピバロイルメタン(110mg, 0.60mmol)、炭酸ナトリウム(220mg, 2.08mol)、エトキシエタノール15mLの混合物を窒素雰囲気下、約110 ℃にて2時間攪拌した。放冷後、水60mLを加えると黄緑色固体が析出した。析出した固体を濾過によって集め、少量のクロロホルムに溶解し、不溶物をろ過除去して、ろ液を減圧下に濃縮した。残渣を少量のヘキサンで洗浄し、イリジウム錯体4を黄緑色の固体として得た(230mg, 0.29mmol)。得られた生成物の分析結果を以下を以下に示す。
1H NMR (CDCl3) δ(ppm): 0.93(s, 18H), 5.58(s, 1H), 5.73(dd, J=8.5, 2.5Hz, 2H), 6.37(ddd, J=12.5, 9.0, 2.5Hz, 2H), 7.58(ddd, J=9.0, 7.0, 3.0Hz, 2H), 8.18-8.24(4H).
【0098】
[5][有機EL素子の作製]
実施例6
[イリジウム錯体1による有機EL素子の作製]
図1に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。ガラス基板上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を150nm堆積したものを通常のフォトリソグラフィ技術と亜鉛-塩酸エッチングを用いて5mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成した。亜鉛−塩酸で洗浄後、パターン形成したITO基板を、クロロホルムによる超音波洗浄、中性洗剤による洗浄、純水による水洗、エタノールとアセトンによる超音波洗浄、イソプロピルアルコールによるソックスレー洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させた。最後にオゾン処理による表面親水化を行った後、スピンコーター内に設置した。
その上に、ポリ(エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレン・スルフォン酸)(PEDOT:PSS)をスピンコートした(厚さ40nm)。
以下に、PEDOT:PSSの構造式を示す。
【0099】
【化18】

[PEDOT:PSS]
【0100】
次に、イリジウム錯体化合物1(0.4mg)と2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4,-オキサジアゾール(PBD、3.0mg)をポリビニルカルバゾ-ル(PVCz、分子量25000-50000、10mg)に分散させたトルエン溶液(0.7mL)をマイクロフィルターによりろ過後、スピンコートして色素薄膜を作製した(100nm)。
以下に、PVCz、PBD、イリジウム錯体化合物1の構造式を示す。
【0101】
【化19】

【0102】
【化20】

【0103】
ここで、スピンコートを行った素子を、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極のITOストライプと直交するように素子に密着させて、真空蒸着装置内に設置して装置内の真空度が1×10-6Torr以下になるまで排気した。続いて、フッ化セシウムをタングステンボートを用いて膜厚1.0nmとなるように蒸着し、電子注入層を製作した。さらにアルミニウムをタングステンボートを用いて膜厚200nmとなるように蒸着し、陰極を製作した。陰極蒸着時の基板温度は室温に保持した。以上の様にして、5mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。
得られた有機電界発光素子の概略を図1に示す。
【0104】
図1において、有機電界発光素子は、ガラス基板、陽極(ITO)、ポリ(エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレン・スルフォン酸)(PEDOT:PSS)の層、イリジウム錯体化合物1と2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4,-オキサジアゾール(PBD)をポリビニルカルバゾ-ル(PVCz)に分散させた層、CsFの層、陰極(Al)を有する。ポリ(スチレン・スルフォン酸)(PEDOT:PSS)の層はホール注入輸送層として働き、イリジウム錯体化合物1と2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4,-オキサジアゾール(PBD)をポリビニルカルバゾ-ル(PVCz)に分散させた層は発光層として働き、CsFの層は電子注入層として働く。
この有機電界発光素子の輝度を測定した。有機電界発光素子の最大輝度は14.5Vにおいて8,971cd/m2であった。発光スペクトラムを図2に示す。
【0105】
実施例7
[イリジウム錯体4による有機EL素子の作製]
イリジウム錯体化合物4(0.4mg)を用い、実施例6と同様の方法にて有機電界発光素子を作製した。以下に、イリジウム錯体化合物4の構造式を示す。
【0106】
【化21】

【0107】
得られた有機電界発光素子の輝度を測定した。有機電界発光素子の最大輝度は12.5Vにおいて4,769cd/m2であった。発光スペクトラムを図3に示す。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の金属錯体化合物は、青色〜赤色、特に青色〜緑色の高輝度で発光(りん光)し、更に堅牢性、溶解性、昇華性などに優れている。また、本発明の金属錯体化合物は、各種材料の着色剤として、又有機EL素子の色素としても優れた性能を有する機能性色素として有用である。
【符号の説明】
【0109】
11 基盤、 12 陽極、 13 PEDOT:PSSの層、
14 発光層 15 電子注入層、 16 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:
【化1】

[式中、Mは、二価又は三価の金属原子であり;R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜12のアリール基であり;Rは、トリフルオロメチル基またはフッ素原子であり;Rは、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、アルキルチオ基もしくはジアルキルアミノ基、シアノ基又はニトロ基であり;aは1又は2であり;bは0から2の任意の整数であり;m及びnは各々独立に1又は2である(但し、mとnの合計は2又は3である)。但し、R及びRが同時にメチル基である場合または無置換のフェニル基である場合を除く]
で表わされる金属錯体化合物。
【請求項2】
Mが白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)又は金(Au)である、請求項1に記載の金属錯体化合物。
【請求項3】
ジケトン配位子を形成するR及びRを含むジケトン化合物が対称な化合物である、請求項1または2に記載の金属錯体化合物。
【請求項4】
金属錯体化合物が、一般式(I-a):
【化2】


[式中、R、R、R、R、aおよびbは前記と同義である。但し、R及びRが同時にメチル基である場合または無置換のフェニル基である場合を除く]で表されるイリジウム錯体化合物である、請求項1に記載の金属錯体化合物。
【請求項5】
金属錯体化合物が、一般式(I-b):
【化3】


[式中、R、R、R、R、aおよびbは前記と同義である。但し、R及びRが同時にメチル基である場合または無置換のフェニル基である場合を除く]で表される白金錯体化合物である、請求項1に記載の金属錯体化合物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1つに記載の金属錯体化合物から成るりん光性色素。
【請求項7】
有機電界発光用色素である請求項6に記載のりん光性色素。
【請求項8】
対向する陽極と陰極の間に有機層を有する有機電界発光素子において、該有機層が請求項1〜5のいずれか1つに記載の金属錯体化合物を含有する、有機電界発光素子。
【請求項9】
有機層が発光層である、請求項8に記載の有機電界発光素子。
【請求項10】
スピンコート法を用いて、請求項1〜5のいずれか1つに記載の金属錯体化合物を含有する有機層を形成することを特徴とする、有機電界発光素子の製造方法。
【請求項11】
金属錯体化合物と溶媒からなる溶液をスピンコート法により塗布した後に、溶剤を除去することによって有機層を形成する、請求項10に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−43877(P2013−43877A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184326(P2011−184326)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】