説明

α−アミノ−ε−カプロラクタムの製造方法

【課題】アルコールなどの極性溶媒に代えて、溶媒の回収リサイクルが容易である非極性溶媒を用いて、リジンまたはその塩からα-アミノ-ε-カプロラクタムを製造する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】温度200〜400℃、圧力5〜40MPaの、非極性溶媒と水の混合溶媒の存在下、リジンまたはその塩を脱水環化することを特徴とするα-アミノ-ε-カプロラクタムの製造方法によって上記課題は解決される。本発明により水の使用が低減され、反応装置の腐食を軽減でき、非極性溶媒媒の回収リサイクルが容易となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリジンからのα-アミノ-ε-カプロラクタムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リジンからのα-アミノ-ε-カプロラクタムの製造方法としては、炭素数4乃至10のアルコール中でリジンを加熱して脱水環化させる方法(特許文献1)、アルコールを含む溶媒中でL‐リジンの塩を加熱する方法(特許文献2)、高温高圧水の存在下、リジンまたはポリリジンを脱水環化する方法(特許文献3)、塩基の存在下、リジン塩酸塩をアルコール中で加熱して環化させる方法(特許文献4)などが知られている。
しかし、いずれもアルコールなど極性溶媒を使用するものであり、非極性溶媒を使用するものはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59−76063号公報
【特許文献2】特表2008−502728号公報
【特許文献3】特開2003−206276号公報
【特許文献4】特開平3−17062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルコールなどの極性溶媒に代えて、非極性溶媒を用いてリジンからα-アミノ-ε-カプロラクタムを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の上記課題は、下記の発明によって解決される。
【0006】
即ち、本発明は、温度200〜400℃、圧力5〜40MPaの、非極性溶媒と水の混合溶媒の存在下、リジン又はその塩を脱水環化することを特徴とするα-アミノ-ε-カプロラクタムの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
非極性溶媒を使用する本発明は、収率良く目的のα-アミノ-ε-カプロラクタムの製造することができ、水の使用を低減させる事ができるため、高温、高圧下での水での反応装置の腐食を軽減できる。また、非極性溶媒が水との分離か良い事から、溶媒の回収リサイクルが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例2記載の連続高温高圧反応装置
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の詳細について以下説明する。
【0010】
本発明は、温度150〜400℃、圧力5〜40MPaの、非極性溶媒と水の混合溶媒の存在下、リジン又はその塩を脱水環化することを特徴とするα-アミノ-ε-カプロラクタムの製造方法に関する。
【0011】
本発明において使用するリジンは、廃糖蜜などのバイオマスから酵素反応によって得られるものがカーボンニュートラルな製造方法という見地から好ましく用いられるが、市販のリジンでも良い。また、L-体、D-体、ラセミ体の何れのリジンであっても使用することができる。なお、1960年代初期、日本のバイオテクノロジー社により、糖からリジンを製造する細菌発酵技術が発見されており、L‐リジンは味の素、協和発酵、Sewon、Arthur Daniels Midland、Cheil Jedang、BASFおよびCargillなどの多くの企業において製造されており、入手できる。
【0012】
また、上記リジンの塩も使用する事ができ、例えば、二塩酸L‐リジン、塩酸L‐リジン、リン酸L‐リジン、二リン酸L‐リジン、酢酸L‐リジンなどが挙げられる。これらは、市販品を用いる事ができる。これらのリジン塩は水酸化ナトリウム水溶液などで中和して用いる事ができる。リジンの調製においては、L‐リジンをD‐リジンから分離するステップ、例えばキラル分離ステップも加えてよく、定法の分離および精製を行う事も含む。
【0013】
非極性溶媒としては、トルエン、ベンゼンなどの芳香族炭化水素、ヘプタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素が挙げられるが、芳香族炭化水素が好ましく、トルエンがより好ましい。
【0014】
非極性溶媒と水の混合比(体積比)は、非極性溶媒/水=0.5〜19、好ましくは、非極性溶媒/水=1〜9である。非極性溶媒がトルエンの場合は、トルエン/水=99/1〜1/20(トルエン重量% 99%〜0.05%)が特に好ましい。
【0015】
リジン又はその塩の濃度は、非極性溶媒と水の混合溶媒に対して1〜500g/L、好ましくは10〜200g/Lである。500g/Lより高い濃度になると反応収率が低下する。一方、1g/Lより低い濃度は工業的に好ましくない。
【0016】
反応の温度は200〜400℃、好ましくは230〜350℃である。200℃より低い温度は反応速度が低下するため好ましくない。一方、400℃より高い温度では、分解反応が促進されるため好ましくない。
【0017】
滞留時間(反応時間)は、通常1〜120分である。
【0018】
圧力は滞留時間(反応時間)が維持できる圧力であれば特に限定するものではないが、好ましくは1〜40MPa、より好ましくは5〜20MPaである。
【0019】
脱水環化反応は、反応装置に空隙がある場合、窒素、アルゴンなどの不活性ガスの雰囲気下で行うのが好ましい。
【0020】
反応装置としては、オートクレーブ(SUS製)、封じ込め配管(例えば、SUS製の配管の両端をSUS製のスクリューキャップ等で密栓、或いは、一端において密栓が固定されるか閉塞されており、開放部をスクリューキャップ等で密栓するもの。)などが使用される。
【0021】
反応終了後、蒸留または再結晶などの定法により目的のα-アミノ-ε-カプロラクタムを得る事ができる。
【実施例】
【0022】
[実施例1]
反応容器(内容積10mlのSUS316製の封じ込め配管)にリジン0.0867gと、トルエン2.1207g、脱気水0.5238gを仕込み、計内を窒素置換し密栓した。これを、温度250℃に保った電気炉に入れ反応容器を加熱し反応を開始させた。該反応容器の温度上昇に伴い、容器内の圧力は6.8MPa(ゲージ圧)に上昇した。反応を開始してから30分後に該反応器を電気炉から取り出し、冷水浴に浸し室温まで冷却して反応を停止させた。次いで、該反応容器から内容物である反応液を取り出し、液体クロマトグラフ-質量分析法(カラム:YMC−Pack Diol−120−NP 250×4.6mmI.D. S−5μm,12nm、カラムオーブン温度:40℃、移動層組成:アセトニトリル/50mMギ酸アンモニウム水溶液=85/15、移動層流速:1mL/min、検出器:UV−VIS検出器,波長210nm)にて該反応液の分析を行った。
その結果、目的化合物であるα-アミノ-ε-カプロラクタムの生成量は0.0334gであり、収率は44%であった。また、反応後の反応容器内を目視で確認したところ、ステンレスの光沢を維持していた。
【0023】
[比較例1]
反応容器(内容積10mlのSUS316製の封じ込め配管)にリジン0.1101gと、トルエン3.0475gを仕込み、系内を窒素置換し密栓した。これを、温度250℃に保った電気炉に入れ反応容器を加熱し反応を開始させた。該反応容器の温度上昇に伴い、容器内の圧力は4.6MPa(ゲージ圧)に上昇した。反応を開始してから30分後に該反応器を電気炉から取り出し、冷水浴に浸し室温まで冷却して反応を停止させた。次いで、該反応容器から内容物である反応液を取り出し、液体クロマトグラフ-質量分析法(カラム:YMC−Pack Diol−120−NP 250×4.6mmI.D. S−5μm,12nm、カラムオーブン温度:40℃、移動層組成:アセトニトリル/50mMギ酸アンモニウム水溶液=85/15、移動層流速:1mL/min、検出器:UV−VIS検出器,波長210nm)にて該反応液の分析を行った。
その結果、目的化合物であるα-アミノ-ε-カプロラクタムの生成量は0.0243gであり、収率は25%であった。また、反応後の反応容器内を目視で確認したところ、ステンレスの光沢を維持していた。
【0024】
[比較例2、実施例1及び2]
比較例1と同様の条件でトルエン/水混合比および反応時間を変えて反応を行った。その結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
[実施例3]
図1に示す連続高温高圧反応装置を用いて、以下、実施例5−1〜5−19に示す通り、温度、圧力、滞留時間を変更し反応を行った。なお、反応時間(滞留時間)は送液量と反応器容積から算出した。反応液の分析は、採取された反応液を、液体クロマトグラフ-質量分析法(カラム:YMC−Pack Diol−120−NP 250×4.6mmI.D. S−5μm,12nm、カラムオーブン温度:40℃、移動層組成:アセトニトリル/50mMギ酸アンモニウム水溶液=85/15、移動層流速:1mL/min、検出器:UV−VIS検出器,波長210nm)を用いて行った。
【0027】
[実施例3−1]
反応器容積を5ml、圧力調整機の圧力を30MPaG、反応器内部温度が250℃になるように電気炉の温度を設定にした前記連続高温高圧反応装置に送液ポンプ1(JASCO PU−2086Plus)より原料水溶液(リジン1塩酸塩3.8g、水酸化ナトリウム0.9g、純水150.4g)を流量0.5ml/minで送液し、送液ポンプ2(JASCO PU−2086Plus)よりトルエンを流量0.5ml/minで送液した。採取した反応液を、前記液体クロマトグラフ-質量分析法によって分析を行った結果、目的のα-アミノ-ε-カプロラクタムの収率は51%であった。
【0028】
[実施例3−2〜3−8]
表2に示す反応時間(滞留時間)に設定し、反応器の内部温度を250℃又は300℃にした以外は実施例3−1と同様の条件で反応を行った。その結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
[実施例3−8及び3−9]
表3に示す非極性溶媒(トルエン)/水混合比、反応器の内部温度、滞留時間になるように設定した以外は実施例3−1と同様にして反応を行った。その結果を表3に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
[実施例3−10及び3−11]
表4に示す非極性溶媒にて行った以外は実施例3−1と同様に反応を行った。その結果を表4に示す。
【0033】
【表4】

【0034】
[実施例3−12〜3−15]
表5に示す滞留時間(反応時間)、基質濃度(リジン1塩酸塩の濃度)、反応器の内部温度で行った以外は実施例3−1と同様に反応を行った。その結果を表5に示す。
【0035】
【表5】

【0036】
[実施例3−16及び3−17]
表6に示す圧力で行った以外は実施例3−3と同様に反応を行った。その結果を表6に示す。
【0037】
【表6】

【符号の説明】
【0038】
1 原料層(リジン塩酸塩水溶液)
2 送液ポンプ1(JASCO PU−2086Plus)
3 開閉用バルブ1
4 非極性溶媒層
5 送液ポンプ2(JASCO PU−2086Plus)
6 開閉用バルブ2
7 電気炉内反応器(SUS316、3mm配管)
8 電気炉(ESPEC STPH−101M)
9 反応器内部温度測定機
10 冷却ライン(SUS316、1/16配管)
11 圧力調整機(JASCO SCFBpg)
12 反応液採取層排ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度200〜400℃、圧力5〜40MPaの、非極性溶媒と水の混合溶媒の存在下、リジン又はその塩を脱水環化することを特徴とするα-アミノ-ε-カプロラクタムの製造方法。
【請求項2】
非極性溶媒がトルエンである請求項1記載のα-アミノ-ε-カプロラクタムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−162462(P2012−162462A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21744(P2011−21744)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)