説明

α−アミノ−ε−カプロラクタムの製造法

【課題】リジン又はその塩から直接的に目的化合物であるα−アミノ−ε−カプロラクタムを効率よく製造し得る新規な方法を提供する。
【解決手段】アルコール/水(体積比)が1〜99のアルコール−水混合液中でリジン又はその塩を加熱して脱水環化させる、α−アミノ−ε−カプロラクタムの製造法。当該方法によって、α−アミノ−ε−カプロラクタムを迅速に収率良く、製造することができる。好ましくは、アルコールはメタノールである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリジンを原料に用いて直接にα−アミノ−ε−カプロラクタムを製造する新規な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リジンを出発原料とするα−アミノ−ε−カプロラクタムの製造法としては、リジンをエステルとし、これを有機溶媒中又は無溶媒で加熱することにより脱アルコール環化する方法(非特許文献1)、およびリジンエステルを濃アンモニア水中で環化する方法(特許文献1)が知られている。しかし、これらの公知方法はいずれもリジンのエステルを経由するため、リジンをアルコール中で酸の存在下にエステル化する工程、エステル化に用いた酸を塩基で中和する工程及びエステルの単離工程を必要とする上に、ジケトピペラジンの副生を生じ環化収率の低下をもたらす等の欠点を有する事が知られている(特許文献2)。更にリジンエステルを濃アンモニア水中で環化する方法では刺激性の高い濃アンモニア水を必要とし、経済的に不利であるばかりかアンモニアの揮発漏洩に伴う危険や環境汚染を防止するための対策が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭46−37352号公報
【特許文献2】特開昭59−76063号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J、 Chem、 Soc、 1943. p39
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記、従来法の有する如き欠点を有せず、リジンから直接にα−アミノ−ε−カプロラクタムを効率よく製造し得る簡便な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、本発明であるアルコール/水(体積比)が1〜99のアルコール水混合液中でリジンを加熱して脱水環化させるα−アミノ−ε−カプロラクタムの製造法によって解決される。
【発明の効果】
【0007】
本発明のα−アミノ−ε−カプロラクタムの製造法によって、目的とするα−アミノ−ε−カプロラクタムを迅速に収率良く、製造取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例2記載の連続高温高圧反応装置
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に於いて用いられるアルコール水混合液のアルコール/水(体積比)は1〜99、好ましくは2〜19、より好ましくは3〜9である。このアルコール/水(体積比)の範囲は、アルコールあるいは水のみの場合に比べ高い反応速度を示す。また、水のみの場合に比べ、反応収率も向上する。
本発明の原料であるリジンは、廃糖蜜などのバイオマスから酵素反応によって得られるものがカーボンニュートラルな製造方法という見地から好ましく用いられるが、市販のリジンでも良い。また、L-体、D-体、ラセミ体の何れのリジンであっても使用することができる。なお、1960年代初期、日本のバイオテクノロジー社により、糖からリジンを製造する細菌発酵技術が発見されており、L‐リジンは味の素、協和発酵、Sewon、Arthur Daniels Midland、Cheil Jedang、BASFおよびCargillなどの多くの企業において製造されており、入手できる。
【0010】
また、二塩酸L‐リジン、塩酸L‐リジン、リン酸L‐リジン、二リン酸L‐リジン、酢酸L‐リジンなどの市販のリジン塩も水酸化ナトリウム水溶液などで中和して用いる事ができる。リジンの調製においては、L‐リジンをD‐リジンから分離するステップ、例えばキラル分離ステップも加えてよく、定法の分離および精製を行う事も含む。
【0011】
本発明におけるアルコールとしては、炭素数1〜3の脂肪族アルコール、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ノルマルプロパノールなどが挙げられる。
【0012】
反応温度は100〜400℃、好ましくは200〜350℃である。100℃より低い温度は反応速度が低下するため好ましくない。一方、400℃より高い温度では、分解反応が促進されるため好ましくない。
反応圧力は滞留時間(反応時間)が維持できる圧力であれば特に限定するものではないが、好ましくは1〜40MPa(ゲージ圧)、より好ましくは2〜20MPa(ゲージ圧)さらに好ましくは3〜10MPa(ゲージ圧)である。
【0013】
反応時間は、1分から3時間であることが好ましく、2.5分から15分であることがより好ましい。
【0014】
メタノールと水との混合液の総体積に対するリジン(リジン塩の場合は、リジン換算。)の使用量は、0を越え500g/L以下であることが好ましく、10〜200g/Lであることが特に好ましい。500g/Lを超えて高い濃度になると反応収率が低下する。一方、1g/Lより低い濃度は工業的に好ましくない。
連続反応においては、メタノールと水との混合であることにより、アルコールのみの系よりも基質であるリジンの濃度を上げる事が可能となっている。
【0015】
本発明の反応は、反応装置に空隙がある場合、窒素、アルゴンなどの不活性ガスの雰囲気下で行うのが好ましい。
【0016】
反応装置としては、オートクレーブ(SUS製)、封じ込め配管(例えば、SUS製の配管の両端をSUS製のスクリューキャップ等で密栓、或いは、一端において密栓が固定されるか閉塞されており、開放部をスクリューキャップ等で密栓するもの。)などが使用される。
【0017】
反応形式は、連続方式、バッチ方式のいずれかを問わない。リジンとメタノールは、別々に反応装置に供給することができるが、予め混合しているものを反応装置に供給しても良い。
得られたα−アミノ−ε−カプロラクタムの精製は、脱メタノール工程と分離工程によって行なわれても良く、脱メタノール工程のみによって行なっても良い。
【0018】
脱メタノール工程は、単蒸留装置、フラッシュドラム等からなるフラッシュ分離装置、蒸留塔等の(減圧)蒸留装置、吸着塔等の吸着装置、乾燥装置等によって行なわれ、分離回収工程としては、単蒸留装置、蒸留塔等の(減圧)蒸留装置、薄膜蒸発装置や、脱ガス、抽出、遠心分離、遠心沈降機、液体サイクロン、静置分離、濾過、圧搾、分別等が行える各装置等によって行なわれる。これら脱メタノール工程や分離工程は、減圧または加圧状態で行ってもよい。
【0019】
脱アルコール工程において、フラッシュ分離装置等を利用して分離された蒸気状態のメタノールは、熱交換器によって凝縮される。凝縮されたメタノールは、ポンプにより、再び反応用にリサイクルすることができる。これにより、メタノールの使用量を減少させることが可能となる。
以下、実施例によって具体的に説明する。しかし、本発明は実施例のみに限定されない。
【実施例】
【0020】
[実施例1−1]
反応容器(内容積10mlのSUS316製配管)にリジン0.1021gと、メタノール1.9280g、脱気水を0.6170g仕込み窒素置換し、密栓した。これを、温度250℃に保った電気炉にいれることで反応容器を速やかに加熱し反応を開始させた。該反応容器の温度上昇に伴い、容器内の圧力は9.3MPaG(ゲージ圧)に上昇した。反応を開始してから15分後に該反応器を恒温槽から取り出し、冷水浴に浸し室温まで冷却して反応を停止させた。次いで、該反応容器から内容物である反応液を取り出し、液体クロマトグラフ-質量分析法(カラム:YMC−Pack Diol−120−NP 250×4.6mmI.D. S−5μm,12nm、カラムオーブン温度:40℃、移動層組成:アセトニトリル/50mMギ酸アンモニウム水溶液=85/15、移動層流速:1mL/min、検出器:UV−VIS検出器,波長210nm)にて該反応液の分析を行った。
α-アミノ-ε-カプロラクタムの生成量を計算すると、生成量は0.0696gであり、収率は77%であった。
【0021】
[実施例1−2、比較例1−1及び1−2]
溶媒を表1に示すとおり変更した以外は、実施例1と同様の条件で反応させた。その結果を表1に示す。
溶媒をメタノールのみにして行った結果は比較例として示す。
【0022】
【表1】

【0023】
[実施例2]
図1に示す連続高温高圧反応装置を用いて、以下、実施例2−1〜2−5に記載の温度、圧力、滞留時間で反応を行った。なお、反応時間(滞留時間)は送液量と反応器容積から算出した。反応液の分析は、採取された反応液を、液体クロマトグラフ-質量分析法(カラム:YMC−Pack Diol−120−NP 250×4.6mmI.D. S−5μm,12nm、カラムオーブン温度:40℃、移動層組成:アセトニトリル/50mMギ酸アンモニウム水溶液=85/15、移動層流速:1mL/min、検出器:UV−VIS検出器,波長210nm)を用いて行った。
【0024】
[実施例2−1]
反応器容積を5ml、圧力調整弁の圧力を10MPaG、反応器内部温度が250℃になるように電気炉の温度を設定した連続高温高圧反応装置にポンプ1(JASCO PU−2086Plus)より原料水溶液(リジン1塩酸塩117.7g、水酸化ナトリウム25.8g、純水450.8g)を流量2ml/minで送液、ポンプ2(JASCO PU−2086Plus)よりメタノールを流量2ml/minで送液した。採取された反応液を、液体クロマトグラフ-質量分析法にて該反応液の分析を行った結果、α-アミノ-ε-カプロラクタムの収率は45%であった。
【0025】
[実施例2−2〜2−5]
表2に示すとおり滞留時間(反応時間)を変更した以外は、実施例2−1と同様の条件に反応を行った。その結果を以下の表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
[実施例3−1]
反応器容積を10ml、圧力調整弁の圧力を10MPaG、反応器内部温度が250℃になるように電気炉の温度を設定した連続高温高圧反応装置にポンプ1(JASCO PU−2086Plus)より原料水溶液(リジン1塩酸塩7.6g、水酸化ナトリウム1.7g、純水300.4g)を流量1ml/minで送液、ポンプ2(JASCO PU−2086Plus)よりメタノールを流量1ml/minで送液した。採取された反応液を、液体クロマトグラフ-質量分析法にて該反応液の分析を行った結果、α-アミノ-ε-カプロラクタムの収率は78%であった。
【0028】
[実施例3−2及び3−3]
表3に示す圧力(ゲージ圧)に変更した以外は、実施例3−1と同様の条件で反応を行った。その結果を表3に示す。
【0029】
【表3】

【0030】
[実施例3−4〜3−8]
表4に示す基質濃度(リジン1塩酸塩の濃度)、温度、滞留時間(反応時間)に変更した以外は実施例3−3と同様の条件で反応を行った。その結果を表4に示す。
【0031】
【表4】

【0032】
[実施例3−9〜3−13]
表5に示す溶媒混合比、温度、滞留時間に変更した以外は実施例3−3と同様の条件で行った。その結果を表5に示す。
【0033】
【表5】

【0034】
[実施例4−1]
反応器容積を5ml、圧力調整弁の圧力を10MPaG、反応器内部温度が250℃になるように電気炉の温度を設定した連続高温高圧反応装置にポンプ1(JASCO PU−2086Plus)より原料水溶液(リジン1塩酸塩45.1g、水酸化ナトリウム9.9g、純水399.9g)を流量0.5ml/minで送液、ポンプ2(JASCO PU−2086Plus)よりメタノールを流量0.5ml/minで送液した。採取された反応液を、液体クロマトグラフ-質量分析法にて該反応液の分析を行った結果、α-アミノ-ε-カプロラクタムの収率は65%であった。
【0035】
[実施例4−2〜4−4]
表6に示すアルコールに変更した以外は実施例4−1と同様の条件で反応を行った。その結果を表6に示す。
【0036】
【表6】

【符号の説明】
【0037】
1 原料層(リジン塩酸塩水溶液)
2 送液ポンプ1(JASCO PU−2086Plus)
3 開閉用バルブ1
4 非極性溶媒層
5 送液ポンプ2(JASCO PU−2086Plus)
6 開閉用バルブ2
7 電気炉内反応器(SUS316、3mm配管)
8 電気炉(ESPEC STPH−101M)
9 反応器内部温度測定機
10 冷却ライン(SUS316、1/16配管)
11 圧力調整機(JASCO SCFBpg)
12 反応液採取層排ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール/水(体積比)が1〜99であるアルコール水混合液中、リジンを加熱して脱水環化させるα−アミノ−ε−カプロラクタムの製造方法。
【請求項2】
アルコールがメタノールである請求項1記載のα−アミノ−ε−カプロラクタムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−162463(P2012−162463A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21747(P2011−21747)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)