説明

α−ラクトアルブミン由来のトリプトファン含有ペプチドを含有する乳漿タンパク質加水分解物およびその使用

本発明は、乳漿タンパク質加水分解物、特に、α−ラクトアルブミンを強化した乳漿タンパク質に由来する、およびα−ラクトアルブミンに由来する加水分解物、ならびに、医薬、降圧剤、栄養補助食品、食品、および飼料を製造するためのその使用、ならびに、このようにして製造された医薬、降圧剤、栄養補助食品、食品、および飼料に関する。ACE阻害および抗高血圧作用を有する本発明の乳漿タンパク質加水分解物は、少なくとも1種類のトリプトファン含有ペプチド、好ましくは少なくとも1種類の生理活性ジペプチドIle−TrpおよびTrp−Leuを生理学的に有効な量含有し、乳漿タンパク質単離物または純粋なα−ラクトアルブミンの広範な加水分解によって得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳漿タンパク質加水分解物、特に、α−ラクトアルブミンを富化した乳漿タンパク質に由来する、およびα−ラクトアルブミンに由来する加水分解物、ならびに、医薬、降圧剤、栄養補助食品、食品、および飼料を製造するためのその使用、ならびに、このようにして製造された医薬、降圧剤、栄養補助食品、食品、および飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
末梢動脈高血圧(高血圧)は、西欧工業国で50歳以上の成人の2人に1人が罹っている国民病である(収縮期血圧140mmHg超)。高血圧は、多くの続発症に、例えば、動脈閉塞症(冠動脈性心疾患、脳機能不全、末梢動脈閉塞症)を伴う血管変性(アテローム性動脈硬化症)、心肥大、心筋梗塞、および心不全、ならびに卒中発作に繋がる。これらの合併症のリスクは、収縮期および拡張期血圧の上昇に伴ってほぼ指数関数的に増加し、閾値は存在しない。収縮期血圧が110mmHgの場合と比較して、心筋梗塞で死亡するリスクは、血圧が145mmHgの場合には2倍になり、160mmHgの場合には3倍になる。最近の高血圧治療の不可欠の要素は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)活性阻害、即ち、1980年代初期以降、いわゆるACE阻害剤の使用により有効性が広く記載されている方法による、いわゆるレニン−アンジオテンシン−アルドステロン系の阻害である。推定によれば、ドイツでは、今日、人口の約20%、即ち、55歳より上の2人に1人が、高血圧に対する医薬による治療を受けている。健康保険制度が負担する費用は、BRDでは2005年には約15億ユーロであったが、そのうち、約半分がACE阻害剤の処方箋であった(非特許文献1)。このような背景から、高血圧の結果として起こる心血管死の更なる減少を達成できるように新種の予防法が必要である。これは、年齢による動脈血圧の変化(Entwicklung)に良い影響を及ぼすように、毎日の食品に有効成分を添加することによって行うことができる。
【0003】
高血圧は、獣医学においても、近年顕著な問題になっており、その結果、飼い主にその直接の治療費用が掛かっている。推定によれば、ドイツでは、約2300万匹のペットが飼われており、そのうち約530万匹がイヌであり、750万匹がネコである(ドイツ統計年鑑、2006年)。これらのペットの寿命が延びているため、ここでも高血圧はますます医薬上の問題になっている。
【0004】
ペット飼育の個人的−社会的意義の他に、これには相当な経済的意義もある。例えば、ドイツでは2008年に動物の餌の売上高は約26億ユーロであったが、そのうち90%をはるかに上回る大部分がイヌとネコの餌であった(出典:非特許文献2)。研究から、ネコの約61%およびイヌの93%以下が、その「最適な」飼育条件およびそれに伴う長い余命のため、その寿命の間に高血圧を発症することが示唆された(非特許文献3)。その場合、高血圧は、老齢に起因する腎臓疾患または別の代謝異常と関連して現れることが多く、これは、腎不全、失明、および神経医学的合併症に繋がる可能性がある(非特許文献4)。
【0005】
一方で、食品タンパク質の構造中に、特に乳タンパク質中に存在し、インビトロでACEを阻害し得る複数のペプチドが既知である(非特許文献5)。そこで最もよく知られているのは、2つのトリペプチドVal−Pro−ProおよびIle−Pro−Proであり、これらは、特殊な微生物(ラクトバチルス・ヘルベティカスLBK−16H(Lactobacillus helveticus LBK−16H)、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)を用いて乳発酵する際に、カゼインからタンパク質分解により生成される(非特許文献6)。「カソキニン(Casokinine)」または「ラクトトリペプチド」としても知られているこれらのペプチドは、発酵乳製品中に生成され得るか、または事前に濃縮した後で特定の食品に添加され得る。一方で、血圧降下のための対応する機能性乳製品は、日本(「カルピス」)や複数の欧州諸国(フィンランド、ポルトガル、スイスでは「Evolus」)で市販されている。
【0006】
臨床試験から、Val−Pro−ProおよびIle−Pro−Proを含有する発酵乳製品の摂取により、高血圧の場合に著しい血圧降下を達成できることが示唆されている(非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10)が、最近の研究はそれと相反している(非特許文献11、非特許文献12)。
【0007】
前述の理由で、さらに、ACE阻害ペプチドによる血圧降下の原理を動物の飼料の場合に応用することも考えられる。その場合、基本的に全ての製品について使用が考えられる(湿潤および乾燥配合飼料の富化、特別な「スナック」など)。これらの飼料は同様に自由に販売することができ、飼い主はそれを、獣医が処方する医薬よりずっと少ない費用で使用することができる。
【0008】
前述のペプチドを使用するこれまでの適用(Applikation)は、次の欠点を特徴とする。例えば、それは、比較的効果の低い、即ち、比較的弱いACE阻害剤を使用する。それによって、生物学的作用を得るには、当該食品(例えば、発酵した乳製品)に比較的高濃度のペプチドを添加しなければならず、これは、費用の理由からだけでなく感覚的な点からも好ましくないが、その理由は、食品タンパク質の加水分解の際に、苦く不快な味を有するペプチドを生成し、そのため食品中に使用することが困難になるからである。
【0009】
特許文献1は、苦い香味を含まない生理活性ペプチドを含有する、加水分解された乳漿タンパク質製品を製造する方法を開示している。その目的で、乳漿タンパク質含有基質は、最大10%の加水分解度が達成されるまで酵素により加水分解される。10%の加水分解度は、加水分解されるタンパク質中のペプチド結合の平均10%が切断されることに対応する。また、本発明の製品に含有される多数の生理活性ペプチドも開示されており、それらは、アミノ酸2〜19個の長さであり、プロテアーゼ−ペプトン、β−ラクトグロブリン、グリコマクロペプチドおよびβ−カゼインの一次配列から遊離されたものである。
【0010】
特許文献2は、ACE阻害作用を有する組成物の製造方法を開示している。その目的で、乳漿タンパク質単離物がタンパク質分解消化される。ACE阻害作用は特定のペプチドによるものとされていない。
【0011】
特許文献3は、β−ラクトグロブリン含有基質を2段階で消化することによる、ACE阻害作用を有するタンパク質加水分解物の酵素による製造を開示している。第1段階では、β−ラクトグロブリン含有基質を広域(Breitband)エンドプロテアーゼ、好ましくはアルカラーゼ(Alcalase)で消化し、第2段階では、プロリン特異性エンドプロテアーゼにより消化を行う。この発明は、とりわけ、出発物質中のβ−ラクトグロブリンの割合を増加させるために、基質として乳漿タンパク質を使用する場合、α−ラクトアルブミンなどの別の乳漿タンパク質を沈殿させることも開示している。
【0012】
特許文献4は、カゼイン含有出発物質を乳酸菌で発酵させることにより、抗高血圧作用を有するペプチドを含有する製品の製造方法を開示している。その後、ナノろ過し、その後、保持液を回収することにより、ペプチド含有発酵製品が得られる。
【0013】
Satoらは、ACE阻害作用を有する様々なペプチドを記載しており、その中に、プロテアーゼSアマノ(Protease S Amano)を用いて褐藻類をタンパク質分解消化することにより得られたIle−Trpも記載されている(非特許文献13)。
【0014】
特許文献5は、サケの筋肉または肝臓からプロテアーゼ消化により、ACE阻害作用を有する生理活性ペプチド、とりわけIle−Trpを製造することも開示している。
【0015】
Kubaらは、大豆製品の発酵により製造される伝統的な日本の食品中のACE阻害ジペプチドTrp−Leuを記載している(非特許文献14)。
【0016】
特許文献6は、肝障害を有する患者、ならびに、術後、感染症または熱湯傷の患者のための食品組成物を開示しており、それは、脂質成分としての脂肪酸を多く含む油および乳レクチンまたは大豆レクチンの他に、タンパク質成分として乳タンパク質加水分解物および発酵した乳製品から得られたタンパク質を含有する。この食品組成物の有利な作用は、TNF−α、IL−6などの炎症性サイトカインの抑制によるものとされる。この作用の原因である個々のペプチドには言及していない。この加水分解は、純粋に経験的−現象学的に行われ、化学分析目標値(例えば、加水分解度、分子量範囲、個々のペプチド)は記載されていない。
【0017】
特許文献7は、確かに、乳漿タンパク質由来のACE阻害ペプチドに関するものであるが、専ら、より高い分子量のペプチド(アミノ酸2〜14個のオリゴペプチド)に関するものである。しかし、ジペプチドIle−TrpおよびTrp−Leuには言及していない。
【0018】
Mullaly,M.M.らの出版物(非特許文献15)は、α−ラクトアルブミンおよびβ−ラクトグロブリンの特定の配列領域に対応するACE阻害作用を有する合成ペプチドに関する。しかし、この配列は、ジペプチドIle−TrpおよびTrp−Leuを含まない。
【0019】
Philanto−Leppaelae A.らの要約(非特許文献16)は、全般に、乳漿加水分解物のACE阻害作用に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】欧州特許第1087668B1号明細書
【特許文献2】国際公開第01/85984号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2006/025731号パンフレット
【特許文献4】欧州特許第1226267B1号明細書
【特許文献5】特開2006−096747号公報
【特許文献6】国際公開第2004/047566号パンフレット
【特許文献7】国際公開2007/004876A2号パンフレット
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Schwabe U.und Pfaffrath E.Arzneiverordnungs−Report 2006.Springer,Berlin,2006
【非特許文献2】Industrieverband Heimtierbedarf IVH e.V.,”The German PET Market−Structure and Sales Data”http://www.ivh−online.de/fileadmin/user_upload/German_Pet_Market_2008_A4.pdf
【非特許文献3】Acierno M.J.,Labato M.A.(2005)Hypertension in renal disease Clin.Tech.Small Anim.Pract.20:23−30
【非特許文献4】Brown S.A.,Henik R.A.(1998)Diagnosis and treatment of systemic hypertension.Vet.Clin.North Am.Small Anim.Pract.28:1481−94
【非特許文献5】Saito T.Antihypertensive peptides derived from bovine casein and whey proteins.Adv.Exp.Med.Biol.2008,606,295−317
【非特許文献6】Nakamura Y.,et al.Purification and characterization of angiotensin I−converting enzyme inhibitors from sour milk.J.Dairy Sci.1995,78,777−783
【非特許文献7】Hata Y.et al.A placebo−controlled study of the effect of a sour milk on blood pressure in hypertensive subjects.Am.J.Clin.Nutr.1996,64,767−771
【非特許文献8】Mizushima S.et al.Ramdomized controlled trial of sour milk on blood pressure in borderline hypertensive men.Am.J.Hypertens.2004,17,701−706
【非特許文献9】Seppo L.et al.A fermented milk high in bioactive peptides has a blood pressure−lowering effect in hypertensive subjects.Am.J.Clin.Nutr.2003,77,326−330
【非特許文献10】Mizuno S.et al.Antihypertensive effect of casein hydrolysate in a placebo−controlled study in subjects with high blood pressure and mild hypertension. Brit.J.Nutr.2005,94,84−91
【非特許文献11】Lee Y.M.et al.Effect of a milk drink supplemented with whey peptides on blood pressure in patients with mild hypertension.Eur.J.Nutr.2007,46,21−27
【非特許文献12】Engberink M.F.et al.Lactotripeptides show no effect on human blood pressure:results from a double−blind randomized controlled trial.Hypertension 2008,51,399−405
【非特許文献13】Sato M.et al.Angiotensin I−converting enzyme inhibitory peptides derived from wakame(Undaria pinnatifida)and their antihypertensive effect in spontaneously hypertensive rats.J.Agric.Food Chem.2002;50(21)6245−52
【非特許文献14】Kuba et al.Angiotensin I−Converting Enzyme Inhibitory Peptides Isolated from Tofuyo Fermented Soybean Food,Biosci.Biotechnol.Biochem.2003,67(6)1278−1283
【非特許文献15】Biol.Chem.Hoppe−Seyler,Vol.377,pp.259−260,April 1996
【非特許文献16】Journal of Dairy Research(2000)67(1),pp.53−64
【非特許文献17】Cushman,D.W. and Cheung,H.−S.Spectrophotometric Assay and Properties of Angiotensin−Converting Enzyme of Rabbit Lung, Biochemical Pharmacology,1971,20,1637−1648
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
これまで使用されたペプチドは、主としてACE阻害作用があり、別の標的系(エンドセリン変換酵素、マトリックス金属タンパク質分解酵素)に対する作用、従って広い血管保護作用は記載されていない。さらに、これまで記載されたペプチドの多くは、3個以上のアミノ酸からなるオリゴペプチドである。このため、小腸における加水分解不安定性が顕著であり、それに対応して経口アベイラビリティが低い。
【0023】
α−ラクトアルブミンは、今日、チーズの製造過程で乳漿の一部として毎日トンのスケールで生じる。今のところ包括的な使用はなされていない。従って、これまで食品業界でほとんど利用されなかった食品タンパク質(α−ラクトアルブミン)を、機能性食品の製造に利用(「加工(Veredelung)」)することは、非常に望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本特許の新規な点および対象は、ACE阻害作用を有し、機能性食品、栄養補助食品または医薬組成物の成分として使用できるα−ラクトアルブミン由来の特定のトリプトファン含有ペプチド(加水分解物)の使用である。
【0025】
本明細書に記載の本発明の目的は、効果が高く、即ち、ACE阻害作用が強く、従って血圧を降下させる可能性があるペプチドを、これまで広く利用されなかった乳漿タンパク質であるα−ラクトアルブミンのタンパク質分解により生成し、機能性食品の生理活性成分として使用することである。
【0026】
本発明の目的は、さらに、ACE阻害による血圧降下の他に、他の関連する標的系(ECE、MMP)の阻害により更なる血管保護に寄与するトリプトファン含有ペプチドを含有する製品を使用可能にすることである。本明細書に記載の本発明により、非常に様々な有効な機能性食品が開発される。
【0027】
意外なことに、これらの目的は、本発明の乳漿タンパク質加水分解物によって達成される。
【0028】
本発明は、ACE阻害および抗高血圧作用を有する乳漿タンパク質加水分解物を含み、それは、配列番号2〜32から選択される配列を有する少なくとも1種類の生理活性トリプトファン含有ペプチドを生理学的に有効な量含有する。本発明のタンパク質加水分解物は、乳漿タンパク質単離物または純粋なα−ラクトアルブミンの広範な(extensive)加水分解によって得られる。本発明の意味では広範な加水分解とは、加水分解物中のペプチドの平均モル質量(Molmassen)が4kDa未満、好ましくは1000Da未満、特に500Da未満であることと理解されるものとする。これは、タンパク質をジペプチド〜ペンタペプチドに分解することに対応する。この場合、加水分解は、好ましくは酵素により行われる。
【0029】
加水分解の出発物質として、乳漿と同様に、市販の乳漿粉末、乳漿タンパク質単離物、乳漿タンパク質調製物または乳漿から得られるα−ラクトアルブミンも適しており、これらは、精密ろ過、等電沈殿、クロマトグラフィー等の方法工程により工業的にさらに処理されたものである。好ましくは、加水分解の出発物質としてα−ラクトアルブミンが使用される。タンパク質α−ラクトアルブミンは、牛乳の乳漿中に、全乳漿タンパク質の約20%の割合で含有されており、従って、β−ラクトグロブリンに次いで、牛乳の乳漿中に2番目に多い乳漿タンパク質である。有利には、本発明の乳漿タンパク質加水分解物は、これまで食品業界でほとんど利用されなかったこの食品タンパク質を機能性食品の製造に利用できるようにする(「加工」)。この「廃棄化合物」の加水分解により、高血圧に予防的および薬理学的な影響を及ぼすACE阻害剤として利用可能な、生物学的に効果の高いペプチドが得られる。
【0030】
意外なことに、本発明の乳漿タンパク質加水分解物中に、加水分解により、α−ラクトアルブミンの一次配列に由来するアミノ酸2〜5個、好ましくは2〜3個、特に好ましくは2個の長さを有する生理活性トリプトファン含有ペプチドが遊離される。本発明の生理活性トリプトファン含有ペプチドは、アミノ酸トリプトファンを末端の位置に、即ち、C末端またはN末端アミノ酸として含有する。好ましくは、トリプトファンはC末端に位置する。
【0031】
本発明の生理活性ペプチドの配列は、従って、α−ラクトアルブミンの一次配列から生じ、当該トリプトファン残基(W26、W60、W104、およびW118)と1〜4個のアミノ酸を含み、このアミノ酸は、α−ラクトアルブミン配列中で、当該トリプトファン残基のN末端またはC末端にある。
【0032】
ウシα−ラクトアルブミン(UniProtKB/Swiss−Prot P00711[LALBA_BOVIN])の一次配列は、配列番号1に対応する:

1 11 21
EQLTKCEVFR ELKDLKGYGG VSLPEVCTT
31 41 51
FHTSGYDTQA IVQNNDSTEY GLFQINNKI
61 71 81
CKDDQNPHSS NICNISCDKF LDDDLTDDIM
91 101 111 121
CVKKILDKVG INYLAHKAL CSEKLDQLC EKL
(配列番号1)
【0033】
本発明の加水分解物を製造するために牛乳の乳漿を使用する場合、本発明の生理活性ペプチドの配列は、ウシα−ラクトアルブミンの一次配列から生じ、含有されるトリプトファン(W26、W60、W104、およびW118)のうちの1つのN末端またはC末端にある1〜4個のアミノ酸と当該トリプトファンを含む。
【0034】
本発明の生理活性トリプトファン含有ペプチドは、従って、好ましくは、配列番号2〜8を有するジペプチド、配列番号9〜16を有するトリペプチド、配列番号17〜24を有するテトラペプチド、および配列番号25〜32を有するペンタペプチドを含む。
【0035】
本発明のトリプトファン含有ペプチドの配列を次の表に記載する:
【0036】

【0037】
特に好ましくは、本発明の乳漿タンパク質加水分解物中には、食品中に検出されたこれまでで最も効力のあるACE阻害剤(IC50=0.7μM)であるジペプチドIle−Trp、および/または同様に効果の高いジペプチドTrp−Leu(IC50=10μM)が含有されている。本発明の乳漿タンパク質加水分解物中に含有され、α−ラクトアルブミンに由来するこれまでに知られていないジペプチドは、強いACE阻害を特徴とし、食品ペプチドに関して記載されたこれまでで最も高い効果を有する。
【0038】
生理活性トリプトファン含有ペプチドは、ACE阻害剤と構造的類似性を有する。この構造的類似性のため、ACE阻害またはそれに伴う血圧降下の他に、広範な生理学的作用、即ち、血管保護、心重量の減少、血管壁肥厚の退縮、心筋梗塞および脳卒中の予防に繋がる可能性がある。これらのペプチドを含有する乳漿タンパク質加水分解物を用いた自然発症高血圧ラットでの実験から、このような作用が示唆された。
【0039】
本発明の乳漿タンパク質加水分解物は、ACE阻害のIC50値を特徴とする。IC50値が低いほど、ACE阻害作用が高い。本発明の乳漿タンパク質加水分解物のIC50は、好ましくは、50〜100mg乳漿タンパク質加水分解物/リットル、好ましくは20〜50mg乳漿タンパク質加水分解物/リットル、特に好ましくは2〜20mg乳漿タンパク質加水分解物/リットルである。
【0040】
IC50値が低く、ACE阻害が強いため、それに加えて、必要なペプチド添加の量が非常に少なく(前述のトリペプチドIle−Pro−ProおよびVal−Pro−Proと比較して、Ile−Trpでは約1/10のみ)、これは、起こり得る感覚的な点に鑑みて、有利である。即ち、タンパク質加水分解物は、加水分解により、たいてい苦味を持つようになり、そのため、飲食に適している食品、または経口摂取される医薬の製造における使用が明らかに制限される。この苦い味により、タンパク質加水分解物は、非常に限られた範囲でしかこれらの製品に添加できない。しかし、本発明の乳漿タンパク質加水分解物は、少量で既に効果が高く、従って、有利には、食品および経口投与される医薬の製造に使用することができる。
【0041】
本発明の乳漿タンパク質中に含有される効果の高いペプチドは、好ましくは、例えば、配列番号3、4、7、11、14、17および22を有するペプチドなどの疎水性の高いアミノ酸からなる。
【0042】
このため本トリプトファン含有ペプチドは、有利には、加水分解に対して安定であり、そのため、加水分解時間が長い場合でも、加水分解物は本発明のトリプトファン含有ペプチドを有効な濃度含有すると考えることができる。
【0043】
本発明は、さらに、本発明の乳漿タンパク質加水分解物の製造方法を含む。加水分解は、好ましくは、少なくとも酵素アルカラーゼ(Alcalase)およびトリプシンを用いて酵素により行われる。この2つの酵素を用いた消化は、逐次的にまたは同時に実施することができる。酵素/基質比(g酵素/g基質)は、好ましくは1:10〜1:10,000である。
【0044】
特に好ましくは、その後に他の酵素を用いた消化を行うか、または他の酵素を、アルカラーゼ(Alcalase)およびトリプシンを用いた消化に添加する。使用される酵素は、好ましくはエンドプロテアーゼ、特に好ましくは、キモトリプシン、パンクレアチン、ペプシン、およびコロラーゼ(Corolase)PPなどの酵素である。
【0045】
加水分解速度は、使用される酵素ならびにその濃度および加水分解温度に依存する。また、例えば、pH値または加水分解基質の化学組成などの他のパラメータも加水分解速度に影響を及ぼす可能性がある。
【0046】
加水分解は、含有されるタンパク質の50%超が4kDa未満、好ましくは1KDa未満、特に好ましくは500Da未満のモル質量を有するまで、実施される。それは、タンパク質がジペプチド〜ペンタペプチドに分解されることに対応する。本発明のジペプチドIle−TrpおよびTrp−Leuは、例えば、約317Daのモル質量を有する。十分長い時間、加水分解を実施することによって、本発明の乳漿タンパク質加水分解物中に生理活性トリプトファン含有ペプチドができるだけ高い割合で得られることが確実になる。酵素による加水分解は、10℃〜80℃、好ましくは30℃〜70℃、特に好ましくは50℃〜60℃の温度で実施される。このとき、加水分解の進行を例えばゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で監視し、所望の加水分解度を達成した後、酵素の失活により、好ましくは80℃〜100℃の温度に加熱することにより停止させる。加水分解段階(インキュベーション時間)は、好ましくは12時間〜36時間、好ましくは18時間〜30時間、特に好ましくは20〜28時間持続する。
【0047】
本発明は、また、本発明の乳漿タンパク質加水分解物を製造するための乳漿タンパク質の使用も含む。本発明の生理活性トリプトファン含有ペプチドは、乳漿タンパク質α−ラクトアルブミンの一次配列に含まれており、酵素による加水分解でこれから遊離される。従って、好ましくは、乳漿タンパク質加水分解物を製造するために、α−ラクトアルブミンを富化した乳漿タンパク質、特に好ましくはα−ラクトアルブミン自体も乳漿タンパク質として、乳漿タンパク質加水分解物の製造に使用される。
【0048】
本発明は、さらに、ACE阻害および抗高血圧作用を有する配列番号2〜32から選択される配列を有する生理活性トリプトファン含有ペプチドの製造方法を含む。ここで、本方法は、乳漿タンパク質の加水分解、および、その後、乳漿タンパク質加水分解物から生理活性トリプトファン含有ペプチドを得ることを含む。ここで、好ましくは、加水分解は、請求項7〜10に開示されている方法に従って実施される。
【0049】
加水分解の出発物質として、乳漿、市販の乳漿粉末、乳漿タンパク質単離物、乳漿タンパク質調製物または乳漿から得られるα−ラクトアルブミンが適しており、それらは、精密ろ過、等電沈殿、クロマトグラフィー等により工業的にさらに処理されたものである。従って、本発明は、生理活性トリプトファン含有ペプチドを製造するための乳漿タンパク質の使用も含む。
【0050】
乳漿中に十分な量のα−ラクトアルブミン(約100mg/リットル)を含有する限り、原則的にどのような種類の哺乳類の乳汁も本発明の加水分解物の製造に適している。しかし、牛乳の乳漿を使用することが好ましい。
【0051】
例えば、有機溶媒を用いた抽出、限外ろ過などの調製化学の標準的技術で、または好ましくは分取RP−HPLC(逆相高速液体クロマトグラフィー)で生理活性トリプトファン含有ペプチドを得る。
【0052】
乳漿タンパク質加水分解物から単離されたトリプトファン含有ペプチドを食品に添加することができる。このような食品としては、食品(Nahrungsmittel)および嗜好品(Genussmittel)、ならびに栄養補助食品などの食品が挙げられる。最後に、α−ラクトアルブミン由来の新規で効果のあるトリプトファン含有ペプチドは、ACE阻害剤の医薬製造に適している。
【0053】
本発明は、また、食品を製造するための本発明の乳漿タンパク質加水分解物の使用も含む。さらに、本発明は、降圧薬を製造するための本発明の乳漿タンパク質加水分解物の使用を含む。
【0054】
本発明は、同様に、食品を製造するための、請求項11に従って製造された生理活性トリプトファン含有ペプチドの使用を含む。
【0055】
最後に、本発明は、降圧薬を製造するための、請求項に従って製造された請求項11に記載の生理活性トリプトファン含有ペプチドの使用を含む。本発明の医薬は、特に経口投与に適しており、経口投与に適したどのような製剤にも調合できる。適した投与形態としては、例えば、粉末、インスタント粉末、圧縮錠剤(Presslinge)、顆粒、錠剤、発泡錠(Brausetabletten)、カプセル、糖衣錠、またはシロップ等がある。
【0056】
本明細書に記載の、生理活性トリプトファン含有ペプチドを含有する乳漿タンパク質加水分解物は、直接、食品に添加することができる(例えば、乳飲料および乳漿飲料、フルーツジュース、清涼飲料水)。
【0057】
乳漿タンパク質加水分解物は、また、凍結乾燥または噴霧乾燥により乾燥し、粉末に加工することができる。その場合、乳漿タンパク質加水分解物は、最終調製される(konfektioniert)、かつ/または、ビタミン、鉱物性物質、および/または微量元素などの別の栄養強化剤(Nahrungsmittelergaenzungsstoffen)と一緒に配合物中に使用される成分として使用可能である。粉末は、食品の添加物として、さらに、顆粒、錠剤、カプセル、パスチル(Pastillen)、ロゼンジ(Suessigkeiten)および液剤を製造するためにルースパウダーとして使用するのに適している。場合によっては、粉末に補助剤(Hilfsstoffe)および結合剤を添加することができる。
【0058】
本発明の乳漿タンパク質加水分解物は、好ましくは、インスタント製品(可溶性飲料粉末、例えば、ココア、コーヒーまたは茶製品の飲料粉末、シロップ、濃縮液、発泡粉末または発泡錠など)として提供され、約5〜50g、好ましくは5〜10gの分包に包装されており、例えば、250mlの水またはフルーツジュースに溶解させることができる。インスタント粉末は、インスタント粉末の総重量に基づいて、本発明の乳漿タンパク質加水分解物を好ましくは50重量%〜98重量%、好ましくは70重量%〜95重量%、特に好ましくは80重量%〜92重量%の量で含有する。
【0059】
乳漿タンパク質加水分解物は、その場合、インスタント粉末の他の成分の担体材料の役割もすることができるが、インスタント粉末は、他の通常の担体物質も含有することができる。乳漿タンパク質加水分解物の他に、インスタント粉末は、場合によっては、鉱物性物質、微量元素、ビタミン、天然および合成甘味料、香味料、酸味料、炭酸化合物、着色料、保存料、酸化防止剤、安定剤、および/またはその他の食品添加物を含有する。
【0060】
インスタント飲料粉末の製造は、当業者に周知であり、標準的方法で行われる。
【0061】
動物用の乾燥飼料/ペレット中のペプチドを置換するために、類似の方法を使用することができる。
【0062】
本発明は、さらに、本発明の乳漿タンパク質加水分解物または本発明の方法で製造された少なくとも1種類の生理活性トリプトファン含有ペプチドを含有する食品を含む。
【0063】
このような食品としては、例えば、ベーカリー製品類、特に、パン、クッキー、ペーストリー、長持ちのするベーカリー製品、ビスケット、およびワッフル、デザート類、特に、プディング、クリームおよびムース、ブレッドスプレッド類、マーガリン製品、ショートニング、果物製品類、特に、粒入りジャム、マーマレード、ゼリー、果物の保存食品、果物のピューレ、フルーツジュース、濃縮果汁、果肉飲料および果物粉末、野菜製品類、特に、野菜保存食品、野菜ジュース、および野菜ピューレ、シリアル、ミューズリ、およびシリアル混合物(Cerealien−Mischungen)、または甘い菓子類、例えば、チョコレート、ボンボン、チューインガム、糖果、リコリス菓子、マシュマロ、フレークおよびヌガー製品である。
【0064】
このような食品は、好ましくは、乳製品(Milcherzeugnis)または乳製品(Milchprodukt)である。乳製品は、特に好ましくは、乳汁、乳汁から製造されるブレッドスプレッド、乳飲料、乳漿飲料、ヨーグルトおよびヨーグルト飲料、および乳汁から製造されるその他の清涼飲料水ならびにアイスクリーム、生チーズ−、チーズ−、バター−、ケフィア−、カッテージチーズ、発酵乳−、バターミルク−、生クリーム−、コンデンスミルク−、粉乳−、乳漿−、乳糖−、乳タンパク質−、半脂肪バター(Milchhalbfett−)、乳漿混合(Molkenmisch)−、または、乳脂肪−製品または調製物を含む群から選択される。
【0065】
食品は、場合によっては、栄養強化剤、補助剤、および/または甘味料を含有する。栄養強化剤または補助剤は、好ましくは、香味料、例えば、バニリン、着色料、味覚物質、乳化剤、例えば、レシチン、増粘剤、例えば、ペクチン、ローカストビーンガムまたはグアーガム、酸化防止剤、保存料、トリグリセリド、および天然または合成ビタミン類、例えば、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB12、ビタミンB複合体、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、および/またはビタミンKからなる群から選択される。甘味料は、好ましくは、スクラロース、サイクラミン酸ナトリウム、アセスルファムK、アスパルテーム、サッカリン、アセスルファム、サイクラミン酸塩類、タウマチン、およびネオヘスペリジンから選択される。
【0066】
抗高血圧効果のある成分の栄養補給は、有利には、薬理学的治療のための補完的使用に適しており、例えば、食塩摂取の制限、スポーツ、ヨガ、および他の食事療法などの様々な補助的(「生活様式」)方法を補足する。乳漿製品のタンパク質分解から得られるACE阻害ペプチドは、従って、機能性食品中で、本質的に高血圧の予防および補助的治療に寄与する。
【0067】
最後に、α−ラクトアルブミン由来の新規で有効なトリプトファン含有ペプチドは、ACE阻害剤の医薬製造に適しており、例えば、血管壁再構築を含めた高血圧の薬物療法において、心重量減少に、血流予備能の改善に、および心筋梗塞のリスクおよび脳卒中のリスクの低減に、単剤としてまたは合剤(Kombinationspraeparat)として使用可能である。
【0068】
本発明は、従って、本発明の乳漿タンパク質加水分解物または本発明の方法により製造された少なくとも1種類の生理活性トリプトファン含有ペプチドを含有する降圧薬を含む。降圧薬は、その場合、まだ他の作用物質、好ましくは他のACE阻害剤または他の血圧降下作用物質を含有することができる。医薬は、その他に、溶剤、溶解補助剤、酸化防止剤、吸収促進剤、および他の添加剤を含有することができる。医薬は、液体または固体の形態で存在することができ、好ましくは経口投与される。
【0069】
本発明の乳漿タンパク質加水分解物または本発明の方法で製造された生理活性トリプトファン含有ペプチドは、その他に、動物用食品の添加物としても、動物用栄養補助食品(スナック)としてもまたは動物用医薬としても適している。乳漿タンパク質加水分解物または本発明の方法で製造された生理活性トリプトファン含有ペプチドは、その場合、直接または乾燥した形態で固体飼料、濃厚飼料(Kraftfutter)、濃厚飼料(Konzentratkraftfutter)、栄養補助飼料(Futterergaenzungsmitteln)、飲料水、塩なめ石(Leckstein)、またはこのような組成物のための予備混合物に添加することができる。乳漿タンパク質加水分解物は、飼い主が粉末として動物の餌または飲料水に混入することができる。場合によっては、粉末は、乳漿タンパク質加水分解物のほかに、添加物および補助剤を含有する。特に、他の添加剤は、鉱物性物質、ビタミン、微量元素、糖、麦芽、糖蜜、穀類、ふすま、種子(特に油脂植物の種子)、タンパク質、アミノ酸、塩、油、脂肪、脂肪酸、果物、果物の成分または果物エキス、またはこれらの混合物の群から選択されてもよい。
【0070】
このようにして、ペットおよび有用動物(例えば、ウマ、ウシ、ロバ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ブタ、ノウサギ、カイウサギ、モルモット、ハムスター、またはトリなど)の餌、ならびに、動物園の動物または外来動物(例えば、サル、シマウマ、アンテロープ、キリン、ネコ科の猛獣、水牛、およびげっ歯類の動物等)の餌も同様に、本発明の乳漿タンパク質加水分解物で富化することができるが、前述の動物に限定されるものではない。
【0071】
飼料配合物中に(飼料としてまたは栄養強化剤として)本発明の乳漿タンパク質加水分解物を50重量%以下添加することができる。しかし、通常、乳漿タンパク質加水分解物は、組成物中に0.01〜20重量%、好ましくは0.05〜10重量%、特に好ましくは0.05〜5重量%の範囲で添加される。その場合、添加される乳漿タンパク質加水分解物の量およびその粒度は、それぞれ考慮される動物の種類に依存する。
【0072】
乳漿タンパク質加水分解物が、場合によっては、他の前述した添加物の少なくとも1つと一緒に、栄養補助飼料として提供される場合、これは、事前に最終調製することなく直接、成分の混合物として、または顆粒、圧縮錠、ペレット、粉末、糖衣錠、シロップ、懸濁剤の形態または他の何らかの適した投与形態で行われる。
【0073】
好ましくは、本発明の乳漿タンパク質加水分解物を含有する栄養補助飼料は、飼い主が各動物に個々の用量を投与できる形態で提供される。これは、例えば、粉末または顆粒の場合に、しかしまた、糖衣錠またはペレットの場合にも、特にもたらされる。
【0074】
本発明は、最後に、血管壁再構築、心重量減少、血流予備能の改善、および心筋梗塞のリスクや卒中発作のリスクの低減を含めた、高血圧の治療方法も含み、本発明の乳漿タンパク質加水分解物を薬学的に有効な用量で規則的に投与することを特徴とする。
【0075】
添付の図面を参照して実施例をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】未分解の(nativen)乳漿タンパク質(Milei60 0h)、ならびに4時間(Milei60 4h)および48時間(Milei60 48h)インキュベートした後の加水分解された乳漿タンパク質のモル質量分布のGPCクロマトグラムを示す。
【図2】加水分解時間の増加に伴う低分子量物質(lmw)の増加、ならびに高分子量物質(hmw)の減少を示す。
【図3】加水分解時間に依存した乳漿タンパク質粉末Milei60のACE阻害のIC50値を示す。
【図4】初期(0週)、7週間および15週間給餌試験した後の自然発症高血圧ラットの収縮期血圧を示す。本発明のペプチドを含有する調製物(PP)、そのままの乳漿タンパク質を有する飼料(MP)、ならびに、対照として、既知のACE阻害剤であるカプトプリルを有するラット飼料、ならびにプラセボを投与した。PPでは、カプトプリルに匹敵する血圧降下が起こった。
【実施例】
【0077】
実施例1:乳漿タンパク質粉末Milei60の酵素による加水分解
乳漿タンパク質Milei60をタンパク質分解作用のある酵素で、即ち、ブタすい臓から得られたトリプシン(EC3.4.21.4)、ならびに他の2種類のプロテアーゼ、Alcalase(登録商標)(バチルス・リケニホルミス(Bacillus licheniformis))およびFlavourzyme(アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae))で、酵素により加水分解した。次の表は、加水分解の実施を示す。
【0078】
【表1】

【0079】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、様々な時間インキュベートした試料のモル質量分布で加水分解度を分析した。続いて、標準と比較することによりモル質量を求めた。89.1Da(アラニン)〜25.0kDa(キモトリプシノーゲン)の範囲で較正した(表2も参照)。排除限界を測定するために、デキストランブルーを使用した。吸収性の差に基づいて、様々な濃度の標準物質を使用した。次に、較正に必要な標準物質、ならびにそのモル質量、およびクロマトグラフィーに使用される濃度および保持時間を表に要約する。
【0080】
【表2】

【0081】
加水分解度を測定するために、全ての試料について、反応混合物(Ansatz)に均一なタンパク質濃度10mg/mlを選択した。リン酸緩衝食塩水で溶離した。溶出物質の検出は、220および280nmで行った。実施に使用した化学物質およびパラメータを以下に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
乳漿粉末Milei60の加水分解プロセスを48時間調べた。酵素による消化の程度をGPCで、続いて、220nmおよび280nmの紫外吸光検出で測定した。モル質量分布を特徴付けるため、試料クロマトグラムを5つの部分(66〜24kDa、24〜4kDa、4〜1kDa、1〜0.175kDaおよび<0.175kDa)に分割し、その領域を図1に示す。それによって、例えば、まだどの程度までそのままのタンパク質が存在するか、または、加水分解中、主にアミノ酸、短鎖または長鎖のペプチドが遊離されるかが分かり、それによって、また、可能なACE阻害剤を生成するための情報を得ることができる。
【0084】
図1に、幾つかの選択された加水分解段階(4h、48h)ならびに未消化の乳漿タンパク質粉末(0h)のモル質量分布が示されている。出発タンパク質中には、予想されるように、複数の高分子量化合物(66〜24kDa)が存在する。それは、主に、主タンパク質、即ち、α−ラクトアルブミン(大部分が単量体の形態で存在する)とβ−ラクトグロブリンである。後者は、Milei60中のタンパク質の大部分を構成し、主に二量体として存在する。
【0085】
しかし、また、例えば、一番最初の領域で溶離するウシ血清アルブミン(BSA)などの他の乳漿タンパク質も、または乳性タンパク質成分のグリコシリル化した形態もこの方法で検出される。より小さい物質は、生成物中に存在しないか、または有意量では存在しない。わずか10分後に既に(表4参照)、乳漿タンパク質、特にα−ラクトアルブミンが比較的多く分解し、それは、酵素による消化中、連続的に進行するが、48時間後でも完全には加水分解しない。加水分解中、化合物の割合はますます低分子量領域に移るが、低分子量領域には主にジペプチドならびに遊離アミノ酸が存在する。さらに分かり易く示すため、GPCクロマトグラムの面積百分率から得られる加水分解物中のモル質量分布を表4に総括した。
【0086】
【表4】

【0087】
ここでも、加水分解の継続中、高分子量領域から低分子量領域に移り続けることが明らかになるが、完全な分解は達成されない。48時間酵素により消化した後、最後に、主に遊離アミノ酸が存在する<0.175kDaの領域が大部分を占めるのではなく、モル質量1〜0.175kDaの化合物が加水分解物中の高い割合を構成する。
【0088】
高分子量(24〜66kDa)化合物の分解または低分子量(<0.175kDa)物質の遊離は、24時間加水分解した後、それ以前の時間と比較して明らかに横ばいになる(図2参照)。
【0089】
特定の時間以降、直線的な分解、ひいては小さい化合物の遊離が起こらず、約18時間後に平坦域が生じた、即ち、加水分解は比較的ゆっくりとしか進行しなかった。最も多い加水分解は、最初の1時間で進行し、4時間後にはペプチドの51%超が4kDa未満であった。
【0090】
実施例2:タンパク質加水分解物のACE阻害効果の測定
タンパク質加水分解物のACE活性の測定は、CushmanおよびCheungにより1979年に記載された酵素試験(非特許文献17)に準拠して行った。ただし、複数の変更を行った。使用したACEは、Sigma−Aldrichを介して購入したカイウサギの肺に由来する酵素である。天然の基質、アンジオテンシンIの類似体と考えられているN−ベンゾイル−グリシル−L−ヒスチジル−L−ロイシン(HHL)を基質として使用した。ACEは、L−ヒスチジル−L−ロイシン(HL)およびN−ベンゾイル−グリシン(馬尿酸)への加水分解を触媒する。
【化1】

【0091】
馬尿酸はUV活性(λmax=228nm)であるため、RP−HPLCにより測定される含有量で、その変換、ひいては酵素活性を求めることができる。一連の濃度の各阻害剤溶液を用いて、ACE活性を半分に低下させるのに必要な阻害剤濃度(IC50)を求めることができる。
【0092】
表5に、活性試験の実施に必要な試薬を記載する。
【0093】
【表5】

【0094】
試験液は全て、2回蒸留水に溶解させた。
【0095】
表6は、ACE活性試験の実施を示す。各一連の測定で、2つの酵素ブランク値も一緒に実施したが、ブランク値では、試料溶液の代わりに、同量の2回蒸留水を添加した。ブランク値は、100%ACE活性に対応する。IC50値の算出は、ソフトウェアプログラムSigmaPlot5.0で行った。
【0096】
【表6】

【0097】
表7に、馬尿酸を定量化するためのRP−HPLCパラメータ、ならびに、対応して希釈される較正に必要な原液を記載する。
【0098】
【表7】

【0099】
表8は、RP−HPLCを用いて馬尿酸の含有量を測定するために使用した勾配を示す。
【0100】
【表8】

【0101】
様々な時間インキュベートした試料の他に、ブランク値試料も分析したが、それらは使用した全ての酵素と乳漿タンパク質粉末を加水分解試料と同じ濃度で含有した。ただし、全ての物質を添加した後直ぐに100℃で10分間インキュベートすることにより酵素作用を失活させた。同様に、個々の化合物で、場合によっては起こり得るACEに対する効果を調べた。そのために酵素を失活させ、起こり得るACE阻害を個々に調べた。乳漿タンパク質粉末でも全く同様に行う。熱処理されなかった乳漿タンパク質粉末の阻害作用も調べた。加水分解試料のIC50値を測定するために、ACE活性試験で複数の濃度を使用した。1000mgタンパク質/lのタンパク質濃度から出発した。この原液を1:2、1:5、1:10、1:20、1:50、1:100に希釈し、ACE阻害効果に関して全ての溶液を調べた。値を求めるために、ここでもSigmaPlot 5.0で処理した。
【0102】
使用した加水分解酵素トリプシンおよびアルカラーゼ(Alcalase)ならびに乳漿タンパク質粉末のACE活性に対して及ぼし得る効果を調べるために、それが使用された混合物中に酵素を個々に含むもの、および、酵素を添加していないMilei60の溶液を加水分解物と同様に100℃で10分間熱処理した。これはプロテアーゼを変性させるために行ったが、その理由は、さもなければ、ACEの消化、ひいてはこの阻害も考慮に入れなければならないからである。この試験から、失活した酵素単独でも混合物でも、またタンパク質もACEに影響を及ぼさないということが分かった。それに対して、酵素を失活させるために直ぐに100℃で10分間インキュベートされた乳漿タンパク質粉末と3種類の酵素の溶液は、比較的強いACE阻害を示した。乳漿タンパク質の十分に測定可能な加水分解を引き起こし、ACE阻害ペプチドを遊離するのに、数分で十分であったことが明らかである。これは、使用したプロテアーゼによって、酵素による分解が多く達成されることを裏付ける。
【0103】
試験がさらに経過する間に、製造された各加水分解物はACE阻害能を示した。データをより詳しく比較するために、各試料のIC50値を求め、表9に示す。
【0104】
【表9】

【0105】
加水分解物の阻害能は、最初の4時間以内は増加し続け、4時間後の加水分解物についてわずか42mgタンパク質/lの非常に低いIC50値が求められた。その後、やがて阻害効果は減少した。8時間加水分解した後、4時間後の加水分解物と同じ効果を達成するには、2倍超の試料が必要である。意外なことに、阻害効果は再び増加し、24時間または30時間後に最も強い阻害作用が達成されたが、ただし、それは48時間加水分解した後に再び低下した。加水分解時間に対する加水分解物のIC50値がプロットされている図3に、この結果を再度示す。
【0106】
乳漿タンパク質の加水分解の経過における阻害能の経過の変動は、ACE阻害化合物が生成し、分解したということによって、説明できる。タンパク質分解は時間が経つにつれて、ますます遅くなるため、ACE阻害能の変化もまた、加水分解時間が長くなるにつれますます進行が遅くなると考えることができる。意外なことに、24時間後の加水分解物では、4時間後の加水分解物と同様に、ACE活性の著しい低下が起こる。この場合、これらの作用は様々な阻害剤によるものであると考えられるが、その理由は、インキュベーション時間が経過するにつれ、乳漿タンパク質成分は酵素の作用を受けやすくなり、そのため、効力のある阻害剤、例えば、Ile−Trp(α−La59−60)を後になってようやく遊離できるからである。また、24時間後の加水分解物中には、4時間後の加水分解物より、分子量1〜0.175kDaの化合物が多く存在した。
【0107】
実施例3:
加水分解の経過における本発明のジペプチドTrp−LeuおよびIle−Trpの遊離は、GPCおよびLC−ESI−TOF−MS(液体クロマトグラフィー/エレクトロスプレーイオン化飛行時間型質量分析計)によって分析された。
【0108】
本発明のジペプチドを明確に同定できるようにするため、まず、RP−HPLCで加水分解物を分離し、その後、220nmおよび280nmのUVで検出した。高分解能ESI−TOF−質量分析計で個々のピークのモル質量を求めた。エレクトロスプレーイオン化(ESI)の原理は、試料溶液を細かい霧状に噴霧し、それから溶媒を完全に蒸発させることができることに基づく。残存する試料分子は、電荷移動により溶媒からの1つ以上のプロトンを含有する。その後、イオンは飛行時間分析計(飛行時間=TOF)で、質量/電荷比(m/z)に応じて分離される。最後に、求めたモル質量から、プログラムData ExplorerTMで可能なアミノ酸組成を決定することができる。
【0109】
これらの分析方法では、選択された加水分解物を40mg/mlの濃度で使用し、メンブレンフィルタでろ過した。使用したHPLCパラメータを表10に記載する。
【0110】
【表10】

【0111】
分析された質量を、一緒に実施した標準ペプチドIle−TrpおよびTrp−Leu(Bachem Distribution Services GmbH,Weil am Rhein,Deutschland)と比較した。試料の注入量は50μlであった。勾配系を表11に示す。
【0112】
【表11】

【0113】
本発明のジペプチドに関してRP−HPLCおよびLC−ESI−TOF−MSで測定されたパラメータを表12に要約する。表には、その他に、ジペプチドについて得られたIC50値を記載する。酵素阻害活性の測定は、実施例2に記載のように行い、そのために標準ペプチドIle−TrpおよびTrp−Leu(Bachem Distribution Services GmbH,Weil am Rhein,Deutschland)を使用した。
【0114】
GPCでは、一緒に実施した標準ペプチドのピークと比較することによって、ジペプチドの同定を行った。
【0115】
【表12】

【0116】
強力なACE阻害ペプチドIle−Trpは、3時間加水分解した後、加水分解物中に明確に検出された。従って、Trp−Leuと同様に、一定の時間後にようやくプロテアーゼが作用できる(zugaenglich)ようになると思われる。しかし、これらのペプチドは両方とも安定であり、さらにアミノ酸に消化されないように思われるが、その理由は、後に続く加水分解物全てにこの2つのペプチドがGPCで測定できたからである。
【0117】
実施例4:自然発症高血圧ラットでの給餌実験
本発明によるトリプトファン含有ペプチドを含有する乳漿タンパク質加水分解物の、動脈血圧に及ぼす影響に関する決定的な重要性は、動物実験において、自然発症高血圧ラットで客観化された(図4)。ここで、乳漿タンパク質加水分解物は、対照の食餌と比較して、収縮時血圧が7週間後に21±6mmHg顕著に降下した。カプトプリル(第1世代のACE阻害剤)の給餌により、同じ時間で、血圧が28±7mmHg降下した。
【0118】
乳漿タンパク質加水分解物の他の有利な効果は、本発明のトリプトファン含有ペプチドを有する調製物の給餌後に、対照と比較して心重量が8%減少した(カプトプリル:16%減)ことであり、対照と比較して冠動脈血流予備能は75%増加した。このことから、乳漿タンパク質加水分解物によって包括的な心臓および血管保護効果が得られることが考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
広範な加水分解によって得られる、C末端またはN末端のトリプトファンおよび前記トリプトファンのC末端またはN末端にある1〜4個のアミノ酸を含む、α−ラクトアルブミンの部分配列からなる少なくとも1種類の生理活性トリプトファン含有ペプチドを生理学的に有効な量含有する、ACE阻害および抗高血圧作用を有する乳漿タンパク質加水分解物。
【請求項2】
前記生理活性トリプトファン含有ペプチドが、配列番号2〜32から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の乳漿タンパク質加水分解物。
【請求項3】
前記加水分解物中に含有されるタンパク質の50%超が、4kDa未満のモル質量(Molmasse)を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の乳漿タンパク質加水分解物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の乳漿タンパク質加水分解物を製造するための乳漿タンパク質の使用。
【請求項5】
配列番号2〜32から選択される配列を有する、ACE阻害および抗高血圧作用を有する生理活性トリプトファン含有ペプチドを製造するための乳漿タンパク質の使用。
【請求項6】
加水分解が、少なくとも酵素アルカラーゼ(Alcalase)およびトリプシンを用いて酵素により実施されることを特徴とする、ACE阻害および抗高血圧作用を有する乳漿タンパク質加水分解物の製造方法。
【請求項7】
含有されるタンパク質の50%超が4kDa未満のモル質量を有するまで、前記加水分解が実施されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
加水分解に使用される乳漿タンパク質が、α−ラクトアルブミンが富化されていることを特徴とする、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
乳漿タンパク質としてα−ラクトアルブミンが使用されることを特徴とする、請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記酵素による加水分解が、10℃〜80℃で実施される、請求項6〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
乳漿タンパク質がまず加水分解され、乳漿タンパク質加水分解物から生理活性ジペプチドが得られる、請求項1または2に記載の生理活性トリプトファン含有ペプチドの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の乳漿タンパク質加水分解物、請求項6〜10のいずれか一項により製造される乳漿タンパク質加水分解物、および/または、請求項11に記載の方法により製造される生理活性トリプトファン含有ペプチドの、医薬、食品、動物用医薬または飼料における使用。
【請求項13】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の乳漿タンパク質加水分解物、および/または、請求項6〜10のいずれか一項に記載の方法によって製造される乳漿タンパク質加水分解物、および/または、請求項11に記載の方法によって製造される生理活性トリプトファン含有ペプチドを含有する食品。
【請求項14】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の乳漿タンパク質加水分解物、および/または、請求項6〜10のいずれか一項に記載の方法によって製造される乳漿タンパク質加水分解物、および/または、請求項11に記載の方法によって製造される生理活性トリプトファン含有ペプチドを含有する医薬。
【請求項15】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の乳漿タンパク質加水分解物、および/または、請求項6〜10のいずれか一項に記載の方法によって製造される乳漿タンパク質加水分解物、および/または、請求項11に記載の方法によって製造される生理活性トリプトファン含有ペプチドを含有する飼料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−526600(P2011−526600A)
【公表日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515459(P2011−515459)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際出願番号】PCT/EP2009/058328
【国際公開番号】WO2010/000801
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(511000821)テヒニッシェ・ウニヴェルジテート・ドレスデン (2)
【Fターム(参考)】