説明

α−1,4グルカングラフト化セルロース

【課題】セルロースに重合度25以上のα−1,4グルカンをグラフト化し、α−1,4グルカンの包接機能を付与したα−1,4グルカングラフト化セルロースを提供すること。
【解決手段】α−1,4グルカン側鎖がセルロース主鎖に結合したグラフトポリマーであって、セルロース主鎖中の少なくとも1つのグルコース残基の6位炭素にα−1,4グルカン側鎖の末端の1位炭素が、−NH−基を介して共有結合しており;該1位炭素に2つの水素基が結合しているか、または1つの酸素原子が結合しており;該セルロース主鎖の重合度が25以上であり;該α−1,4グルカン側鎖の重合度が25以上である、グラフトポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−1,4グルカンを結合させたセルロースおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造および/または機能が異なる2種類のポリマーを結合させ、機能および/または物性の異なるポリマーを開発することが、高分子材料分野では行われている。例えば、デンプンにアクリル酸をグラフト化させたポリマーは高吸水性ポリマーとして日用品分野で利用されている。
【0003】
また、枝分かれした複合多糖は、自然界において重要な役割を示すことが知られている。これらの材料は異なる糖ユニットから構成された分岐型構造を有しており、このような構造が材料の機能に影響していると考えられる。一方、でんぷん、アミロース、セルロース、キチンなどの天然多糖は自然界に豊富に存在し、生分解性を持つ循環型炭素資源であることから低環境負荷材料としての利用が期待される。
【0004】
セルロースはグルコース残基がβ−1,4−結合で多数結合した多糖である。セルロースは水に不溶性であり、結晶性が高く、高い力学強度を有することが特徴であり、構造材、フィルム、繊維などに利用されている。
【0005】
一方アミロースは、グルコースがα−1,4−結合で多数結合した多糖であり、水に溶解あるいは膨潤し、水溶液またはヒドロゲルになる。またアミロースはヘリックス構造をとり、その内部の空洞部分にゲスト物質を取り込んで包接化合物を形成するという、特徴的な機能を有する。アミロースの包接化合物形成能力は、アミロースの重合度によって大きく影響を受け、アミロースの重合度が高いほど強いことが報告されている(非特許文献1)。また、重合度10〜20程度の短いα−1,4グルカンが、α−1,6結合により多数結合した分岐状多糖のアミロペクチンやグリコーゲンには、包接機能はないことが知られている。このように、包接機能を充分発揮させるためには、アミロースは分岐構造を含まない、完全直鎖状のα−1,4グルカンであることが好ましく、かつその重合度が長いほど好ましい。一方、アミロースは環境内および生体内で容易に分解されることも大きな特徴である。
【0006】
当該分野においては、例えば、特許文献1は、直鎖状アミノ多糖類(例えば、キトサン繊維)に環状オリゴ糖類が結合した高分子包接性化合物からなる繊維を開示している。さらに、化学−酵素法によるアミロースグラフト化キチンおよびアミロースグラフト化キトサンの合成が非特許文献2に報告されている。非特許文献2においては、キチンの構造中に存在するNH基に側鎖を結合してグラフトポリマーを製造することが開示されている。
【0007】
しかし、セルロースにはNH基が存在しないので、グラフトポリマーを製造するためには水酸基を使わなければならない。しかし、セルロース中には非常に多数の水酸基が存在し、キチンのように選択的に反応させることはできない。セルロース中の全ての水酸基をグラフト化しようとすると構造障害が発生して、反応が進まない。また、重合度25以上のような重合度の大きなアミロースは反応性が低く、化学合成によってグラフト化させることができない。このため、アミロース側鎖をセルロース主鎖にグラフト結合させたグラフトポリマーについては報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−327338号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Polymer Preprints, Japan Vol.56,No.1 1623(2007)
【非特許文献2】Biomacromolecules,Vol.8, 3959 (2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、セルロースに重合度25以上のα−1,4グルカンをグラフト化し、α−1,4グルカンの包接機能を付与したグラフトポリマー(すなわち、α−1,4グルカングラフト化セルロース)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、プライマーをセルロースに共有結合し、その後、酵素的にプライマーを伸長させてα−1,4グルカンとすることにより、重合度25以上のα−1,4グルカン側鎖をセルロース主鎖に共有結合することができることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0012】
酵素触媒重合を用いてアミロース側鎖を有するセルロースを得るには、セルロースにマルトオリゴ糖または短鎖アミロースを導入する必要がある。本発明の1つの実施形態では、還元的アミノ化反応によってマルトオリゴ糖または短鎖アミロースを導入する。すなわち、セルロース主鎖中のグルコース残基中の6位のヒドロキシ基の一部をアミノ基に変換し、このアミノ基に対して還元的アミノ化反応を行うことによりマルトオリゴ糖または短鎖アミロースを導入する。その後、このマルトオリゴ糖部位または短鎖アミロース部位からのアミロース生成重合を行いアミロースグラフト化セルロースを合成する。他の実施形態については、本明細書の「発明を実施するための形態」中で詳細に説明する。
【0013】
本発明によるグラフトポリマーの製造方法の一例を図1に示す。この例では、プライマーとしてマルトヘプタオースを使用し、酵素としてα−グルカンホスホリラーゼを使用する。図1に示すように、本発明においては、まず、セルロース(cellulose)に化学反応によってアミノ基(amino group)を導入してアミノ基含有セルロース(cellulose having amino goup)を得る。次いで、化学反応によってこのアミノ基含有セルロースにマルトヘプタオース(maltoheptaose)を導入して、マルトヘプタオースグラフト化セルロース(maltoheptaose−grafted cellulose)を得る。マルトヘプタオースグラフト化セルロースにおいては、セルロースに導入されたアミノ基を介してマルトヘプタオース鎖(maltoheptaose−chain)が結合している。このマルトヘプタオースグラフト化セルロースを用いて、α−グルカンホスホリラーゼ(phosphorylase)を用いた酵素反応によってマルトヘプタオース鎖を伸長してアミロース鎖(amylose−chain)とすることにより、アミロースグラフト化セルロース(amylose−grafted cellulose)が得られる。
【0014】
本発明により、例えば、以下が提供される:
(項目1)
α−1,4グルカン側鎖がセルロース主鎖に結合したグラフトポリマーであって、
セルロース主鎖中の少なくとも1つのグルコース残基の6位炭素にα−1,4グルカン側鎖の末端の1位炭素が、−NH−基を介して共有結合しており;
該1位炭素に2つの水素基が結合しているか、または1つの酸素原子が結合しており;
該セルロース主鎖の重合度が25以上であり;
該α−1,4グルカン側鎖の重合度が25以上である、
グラフトポリマー。
【0015】
(項目2)
前記α−1,4グルカン側鎖が完全に直鎖状である、項目1に記載のグラフトポリマー。
【0016】
(項目3)
前記グラフトポリマーが、以下の構造(I):
【0017】
【化3】

を有し、ここで、各Rは、−OH、−NHおよび以下の構造(II)もしくは(III):
【0018】
【化4】

からなる群より独立して選択され、該nが25〜20,000の整数であり、該mが24〜1000の整数であり、セルロース主鎖中のグルコース残基どうしがβ−1,4結合により結合している、項目1または2に記載のグラフトポリマー。
【0019】
(項目4)
前記α−1,4グルカン側鎖の重合度が40以上である、項目1〜3のいずれか1項に記載のグラフトポリマー。
【0020】
(項目5)
前記α−1,4グルカン側鎖の重合度が50以上である、項目1〜4のいずれか1項に記載のグラフトポリマー。
【0021】
(項目6)
前記セルロース主鎖に結合しているα−1,4グルカン側鎖の数が、1〜10,000個である、項目1〜5のいずれか1項に記載のグラフトポリマー。
【0022】
(項目7)
前記セルロース主鎖に結合しているα−1,4グルカン側鎖の数が、セルロース主鎖中のグルコース残基100個あたり1〜50個である、項目1〜6のいずれか1項に記載のグラフトポリマー。
【0023】
(項目8)
項目1〜7のいずれか1項に記載のグラフトポリマーの製造方法であって、
セルロース中の少なくとも1つのグルコース残基の6位炭素に結合しているOH基をNH基に置換して、アミノ化セルロースを得る工程;
該アミノ化セルロースとプライマーとを反応させて、該アミノ化セルロース中の少なくとも1つのグルコース残基の6位炭素と、該プライマーの末端の1位炭素とを、−NH−基を介して共有結合させて、プライマー結合セルロースを得る工程;
該プライマー結合セルロースと、基質と、α−1,4グルカン鎖伸長酵素とを接触させることによってプライマーを伸長させることにより、重合度25以上のα−1,4グルカン側鎖を形成させて、項目1〜7のいずれか1項に記載のグラフトポリマーを得る工程
を包含し、
該プライマーは、重合度3〜20のα−1,4グルカン、またはその還元末端酸化物もしくはラクトン化物であり、
該基質は、該酵素の作用により該プライマーにグルコース残基を提供する物質であり、
該α−1,4グルカン側鎖の重合度が25以上であり、
α−1,4グルカン結合セルロースにおいては、該1位炭素に2つの水素基が結合しているか、または1つの酸素原子が結合している、方法。
【0024】
(項目9)
前記α−1,4グルカン側鎖の重合度が40以上である、項目8に記載の方法。
【0025】
(項目10)
前記α−1,4グルカン側鎖の重合度が50以上である、項目8または9に記載の方法。
【0026】
(項目11)
前記セルロースに結合しているα−1,4グルカンの数が、1〜10,000個である、項目8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【0027】
(項目12)
前記セルロース主鎖に結合しているα−1,4グルカン側鎖の数が、セルロース主鎖中のグルコース残基100個あたり1〜50個である、項目8〜11のいずれか1項に記載の方法。
【0028】
(項目13)
前記グラフトポリマーを精製する工程をさらに包含する、項目8〜12のいずれか1項に記載の方法。
【0029】
(項目14)
前記アミノ化セルロースを得る工程が、
トリエチルアミン、塩化リチウムおよびN,N−ジメチルアセトアミドの存在下でセルロースと塩化−p−トルエンスルホニルとを反応させてトシル化セルロースを得ること;
テトラ−n−ブチルアンモニウムヨージドおよびジメチルスルホキシドの存在下で該トシル化セルロースをアジ化ナトリウムと反応させて6−アジド−6−デオキシセルロースを得ること;ならびに
ジメチルスルホキシド中で該6−アジド−6−デオキシセルロースを水素化ホウ素ナトリウムと反応させてアミノ化セルロースを得ること
によって行われる、項目8〜13のいずれか1項に記載の方法。
【0030】
(項目15)
前記α−1,4グルカン鎖伸長酵素がα−グルカンホスホリラーゼであり、前記基質がグルコース−1−リン酸である、項目8〜14のいずれか1項に記載の方法。
【0031】
(項目16)
前記α−1,4グルカン鎖伸長酵素がα−グルカンホスホリラーゼおよびスクロースホスホリラーゼであり、前記基質がスクロースおよび無機リン酸またはグルコース−1−リン酸である、項目8〜14のいずれか1項に記載の方法。
【0032】
(項目17)
前記α−1,4グルカン鎖伸長酵素がアミロスクラーゼであり、前記基質がスクロースである、項目8〜14のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0033】
本発明により、α−1,4グルカングラフト化セルロース(アミロースグラフト化セルロースともいう)が得られる。本発明により、アミロースの機能が付与された、セルロースまたはセルロース製品を得ることができる。本発明のアミロースグラフト化セルロースは、セルロースの性能(例えば、力学的強度などの物性)とアミロースの性能(例えば、包接機能)とを併せ持つ素材であり、種々の用途に利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本発明によるグラフトポリマーの製造方法の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0036】
(1.セルロース)
本明細書中では、用語「セルロース」とは、多数(例えば、25個以上)のD−グルコピラノースがβ1→4グルコシド結合によって連結された分子をいう。セルロース中の各結合単位をグルコース残基ともいう。セルロースは、(C10によって表され得る。セルロースは、植物細胞壁の骨組を形成する、植物体のおもな多糖類であり、植物が光合成する物質であり、植物体の約3分の1を占める。セルロースは、地球上で最も多い炭水化物である。セルロースは通常、白色で無臭の固体で吸湿性が強い。セルロースは、極性の高い溶媒に強親和性であり、硫酸、銅アンモニウム液、塩化亜鉛溶液、および塩酸に可溶である。セルロースは、水、アルコール、エーテル、メタノールに不溶である。セルロースは、40〜50本の分子が平行に並んでミクロフィブリルを形成し、それらが非結晶分子の散在する中を走って全体としてふさ状のミセルをつくっている。酸およびセルラーゼによって加水分解されてグルコースになるが、その中間体生成物としてセロビオース、セロトリオース、セロトテラオースなどができる。
【0037】
本発明で使用されるセルロース1分子中のグルコース残基の数は、好ましくは約25以上であり、より好ましくは約30以上であり、さらに好ましくは約35以上であり、特に好ましくは約40以上であり、最も好ましくは約50以上である。本発明で使用されるセルロース1分子中のグルコース残基の数は、例えば、約100以上、約200以上、約300以上、約400以上、約500以上、約600以上、約700以上、約800以上、約900以上、約1,000以上、約2,000以上、約2,500以上、約3,000以上、約4,000以上、約5,000以上などであってもよい。本発明で使用されるセルロース1分子中のグルコース残基の数は、好ましくは約30,000以下であり、より好ましくは約25,000以下であり、さらに好ましくは約20,000以下であり、特に好ましくは約15,000以下であり、最も好ましくは約10,000以下である。本発明で使用されるセルロース1分子中のグルコース残基の数は、例えば、約9,000以下、約8,000以下、約7,000以下、約6,000以下、約5,000以下、約4,000以下、約3,000以下、約2,000以下、約1,000以下、約900以下、約800以下、約700以下、約600以下、約500以下、約400以下などであってもよい。
【0038】
一般に市販されるセルロースは天然物であり、種々の分子量を有するセルロースの混合物である。
【0039】
本発明では、市販のセルロースを使用し得る。
【0040】
(2.アミノ化セルロース)
本発明のグラフトポリマーの製造方法は、セルロース中の少なくとも1つのグルコース残基の6位炭素に結合しているOH基をNH基に置換して、アミノ化セルロースを得る工程;該アミノ化セルロースとプライマーとを反応させて、該アミノ化セルロース中の少なくとも1つのグルコース残基の6位炭素と、該プライマーの末端の1位炭素とを、−NH−基を介して共有結合させて、プライマー結合セルロースを得る工程;該プライマー結合セルロースと、基質と、α−1,4グルカン鎖伸長酵素とを接触させることによってプライマーを伸長させることにより、重合度25以上のα−1,4グルカン側鎖を形成させて、本発明のグラフトポリマーを得る工程を包含する。ここではまず、アミノ化セルロースの作製方法について以下に説明する。
【0041】
なお、アミノ化セルロースの製造方法については種々の経路を経るものが当該分野で公知であり、本明細書中に記載した経路以外の経路で製造することもできる。例えば、6−トシル化セルロース誘導体を経て製造する以外に、6−酸化セルロース誘導体を経て製造する方法が公知である。アミノ化セルロースは、当該分野で公知の方法によって製造され得る。例えば、Carbohydrate Research,340(2005)1403−1406およびCarbohydrate Research,208(1990)83−191を参照のこと。
【0042】
(3. スキーム1 セルロースからのアミノ基含有セルロースの合成)
アミノ化セルロース(すなわち、アミノ基含有セルロース)を製造する方法の1つの実施態様のスキームを以下に示す。
【0043】
【化5】

本発明の1つの実施形態ではまず、上記スキーム1にしたがってアミノ基含有セルロース(スキーム1中の化学式3)の合成を行う。概略を述べると、塩化トシル(p−toluenesulphonyl chloride)を用いてセルロース(cellulose)をトシラート化してp−トルエンスルホニル基含有セルロース(cellulose having p−toluenesulphonyl group)1を得る。
【0044】
なお、本明細書中では、p−トルエンスルホニル基含有セルロース1についてスキーム1中に示したように、化学式の()内に/で区切られた2つの構造を示す場合がある。これは、ポリマーの構造単位が、/で区切られた2つの構造のいずれかであることを示す。この2つの構造の並び方、存在頻度などは、反応条件、反応物などによって変化するため、確定した化学式として示すことができない。
【0045】
各工程についてより詳細に説明する。
【0046】
(3.1 トシラート化)
詳細には、まず、セルロースをトシラート化して、p−トルエンスルホニル基含有セルロース(スキーム1中の化学式1)を得る。トシラート化の代表的な条件は、トリエチルアミン(triethylamine)および塩化リチウム(LiCl)を含有するN,N−ジメチルアセトアミド中で、塩化トシルとともに10℃にて24時間である。この条件で反応を行うと、6位の水酸基が選択的にトシラート化され、他の水酸基はトシラート化されない。セルロースと、塩化トシルと、N,N−ジメチルアセトアミドと、トリエチルアミンと、塩化リチウムとは、一度に混合してもよいが、予めセルロース溶液を作製した後に塩化トシルを添加することが好ましい。トシラート化の前にセルロースをN,N−ジメチルアセトアミド中に充分に溶解させ、その後塩化リチウムを添加して溶解し、トリエチルアミンを添加してよく混合した後に塩化トシルを添加することが好ましい。
【0047】
セルロースに対して導入されるp−トルエンスルホニル基の数または割合を増やすためには、塩化トシルの量を増やすか、反応温度を上げるか、または反応時間を長くすればよい。セルロースに対して導入されるp−トルエンスルホニル基の数または割合を減らすためには、塩化トシルの量を減らすか、反応温度を下げるか、または反応時間を短くすればよい。セルロースに対して導入されるp−トルエンスルホニル基の数または割合の調節は、当業者によって容易に行われ得る。
【0048】
(3.2 アジド化)
次いで、上記で得られたp−トルエンスルホニル基含有セルロース(スキーム1中の化学式1)をアジド化することにより、アジド基含有セルロース(cellulose having azide groups)(スキーム1中の化学式2)を得る。p−トルエンスルホニル基含有セルロース1のアジド化の代表的な条件は、テトラ−n−ブチルアンモニウムヨージド((n−Bu)NI)およびアジ化ナトリウム(NaN)を含有するジメチルスルホキシド(DMSO)中、70℃にて72時間である。p−トルエンスルホニル基含有セルロースと、テトラ−n−ブチルアンモニウムヨージドと、アジ化ナトリウムと、ジメチルスルホキシドとは、一度に混合してよい。
【0049】
(3.3 アジド基の還元)
次いで、アジド基含有セルロース(スキーム1中の化学式2)を還元することによりアミノ基含有セルロース(cellulose having amino groups)(スキーム1中の化学式3)を合成する。アジド基含有セルロース(スキーム1中の化学式2)の還元の代表的な条件は、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)を含有するDMSO中、60℃にて72時間である。アジド基含有セルロース(スキーム1中の化学式2)と、水素化ホウ素ナトリウムと、DMSOとは、一度に混合してよい。
【0050】
(4.プライマー)
本発明において使用されるプライマーは、α−1,4グルカン鎖の合成において出発物質として作用する分子をいう。本発明の方法では、プライマーに対して糖単位がα−1,4−グルコシド結合で順次結合されて、約25残基以上の長さのα−1,4グルカン鎖が合成される。プライマーの例としては、α−グルカンホスホリラーゼによって糖単位が付加され得る任意の糖が挙げられる。
【0051】
プライマーは、α−1,4−グルコシド結合のみを含むα−1,4グルカンであっても、α−1,6−グルコシド結合を部分的に有してもよい。当業者は、所望のグルカンに応じて、適切なプライマーを容易に選択し得る。本発明では、直鎖状のアミロースをグラフト化させたセルロースを合成することが好ましいので、α−1,4−グルコシド結合のみを含むα−1,4グルカン、またはその還元末端酸化物もしくはラクトン化物をプライマーとして用いることが好ましい。本明細書中では、α−1,4グルカンであるプライマーをα−1,4グルカンプライマーということがあり、α−1,4グルカンの還元末端酸化物であるプライマーを酸化プライマーということがあり、α−1,4グルカンの還元末端のグルコース残基のラクトン化物であるプライマーをラクトン化プライマーということがある。
【0052】
(4.1 α−1,4グルカンプライマー)
α−1,4グルカンプライマーの例としては、マルトオリゴ糖および短鎖アミロースが挙げられる。α−1,4グルカンの還元末端は、酸化もラクトン化もされておらず、水溶液中では、アルデヒドの状態と環状構造になった状態との平衡状態を保っている。α−1,4グルカンプライマーは、アルデヒドの状態で還元的アミノ化に寄与する。
【0053】
マルトオリゴ糖は、本明細書中では、2〜10個のグルコースが脱水縮合して生じた物質であって、α−1,4結合によって連結された物質をいう。マルトオリゴ糖は、好ましくは4個以上の糖単位、より好ましくは5個以上の糖単位、さらに好ましくは7個以上の糖単位を有する。なお、この糖単位の数を、重合度ともいう。マルトオリゴ糖は、好ましくは10個以下の糖単位を有する。マルトオリゴ糖の糖単位数は、例えば、9個以下、8個以下、7個以下などであってもよい。マルトオリゴ糖の糖単位数が小さいほど、調整が容易であり、コストも安く、その後の取り扱いも容易である。マルトオリゴ糖が短すぎると、酵素が効率的に作用できず、よって糖鎖を伸長させることができない。マルトオリゴ糖の例としては、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、マルトオクタオース、マルトノナオース、マルトデカオースなどのマルトオリゴ糖が挙げられる。マルトオリゴ糖は、好ましくはマルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースまたはマルトヘプタオースである。本発明で使用するマルトオリゴ糖は、純粋な単一の化合物であってもよいし、複数のマルトオリゴ糖の混合物であってもよい。マルトオリゴ糖は、直鎖状のオリゴ糖であってもよいし、分枝状のオリゴ糖であってもよい。マルトオリゴ糖は、その分子内に、環状部分を有し得る。本発明では、直鎖状のマルトオリゴ糖が好ましい。
【0054】
本明細書中では、短鎖アミロースとは、重合度が11以上20以下である、α−1,4結合によって連結されたグルコース単位から構成される直鎖状分子である。短鎖アミロースは、天然の澱粉中に含まれるアミロペクチンを枝きり酵素(例えばイソアミラーゼ)により完全分解することによって得られる。本発明においてプライマーとして用いる場合、短鎖アミロースの糖単位数は、例えば、約11以上、約12以上、約13以上などであり得る。本発明においてプライマーとして用いる場合、短鎖アミロースの糖単位数は、例えば、約20以下、約19以下、約18以下、約17以下、約16以下、約15以下、約14以下、約13以下、約12以下などであり得る。
【0055】
(4.2 酸化プライマー)
本明細書中では、「酸化プライマー」とは、プライマーの還元末端にあるアルデヒド基が酸化されてカルボキシル基になっているものをいう。酸化プライマーにおいては、アルデヒド基以外の部分は酸化されていないことが好ましい。
【0056】
上記4.1に記載されるマルトオリゴ糖および短鎖アミロースの還元末端にあるアルデヒド基を酸化することにより、酸化プライマーを製造することができる。マルトオリゴ糖(または短鎖アミロース)の還元末端のアルデヒド基の酸化は、例えば酵素的または化学的に行うことができる。酵素的酸化には、例えばオリゴ糖酸化酵素を用いることができる。また、化学的酸化には、例えば臭素水やヨウ素を用いることができる。
【0057】
オリゴ糖酸化酵素の例としては、特開平5−84074号公報に記載されているアクレモニウム属起源のオリゴ糖酸化酵素を挙げることができる。オリゴ糖酸化酵素を作用させた場合、原料のマルトオリゴ糖(または短鎖アミロース)の還元末端グルコース残基が酸化されグルコン酸型になる。例えば、基質となるマルトオリゴ糖の濃度を1〜20%(w/v)とし、pHを6〜8とし、温度30〜50℃でこの酸化酵素を0.1〜0.5単位加えて5〜10時間反応を行なうことにより、マルトオリゴ糖がマルトオリゴ糖酸に変換され得る。
【0058】
臭素水またはヨウ素による原料のマルトオリゴ糖(または短鎖アミロース)の還元末端のアルデヒド基の化学的酸化は、例えば、以下のとおりに行われ得る。ヨウ素を用いる場合、1〜10重量%マルトオリゴ糖水溶液と例えば5重量%ヨウ素−メタノール溶液とを等量混合し、30〜50℃で4%水酸化カリウムを全液量の1/5〜1/3滴下することにより、原料のマルトオリゴ糖をマルトオリゴ糖酸に変換し得る。
【0059】
(4.3 ラクトン化プライマー)
本明細書中では、「ラクトン化プライマー」とは、プライマーの還元末端にあるグルコース残基がラクトン化されたものをいう。ラクトン化プライマーにおいては、還元末端のグルコース残基以外の部分はラクトン化されていないことが好ましい。
【0060】
上記4.2に記載される酸化プライマーを含む溶液からイオン交換樹脂を用いてカウンターイオンを除去した後、酸化プライマーを含む画分を集めて乾燥することによりラクトン化プライマーを得ることができる。
【0061】
(5.プライマーグラフト化アミノ化セルロースの作製方法)
アミノ化セルロースにプライマーを結合させ、プライマーグラフトセルロースを作る方法としては、以下のいずれかの方法を選択しうる。
(1)還元的アミノ化法:セルロースに結合したアミノ基とプライマーの還元性末端とからシッフ塩基を形成させ、その後還元剤を用いてこのシッフ塩基を還元的にアミノ化する方法。この方法を用いた場合、プライマーは以下の構造式(III)の構造でセルロースに共有結合(グラフト)される。
(2)カルボジイミドカップリング法:プライマーの還元性末端を酸化した酸化プライマーのカルボキシル基と、セルロースに結合したアミノ基との間に、カルボジイミドを用いてアミド結合を形成させる方法。この方法を用いた場合、プライマーは以下の構造式(II)の構造でセルロースに共有結合(グラフト)される。
(3)ラクトン化プライマー法:プライマーの還元性末端を酸化した酸化プライマーを脱水することにより得られたラクトン化プライマーおよびアミノ化セルロースを無水環境下で加熱して、ラクトン化プライマーの−CO−O−部分とセルロースに結合したアミノ基との間にアミド結合を形成させる方法。この場合、プライマーは以下の構造式(II)の構造でセルロースに共有結合(グラフト)される。
【0062】
【化6】

(5.1 スキーム2 プライマーグラフト化セルロースの合成)
プライマーグラフト化セルロースを合成する方法の1つの実施態様を以下のスキームに示す。
【0063】
【化7】

上記スキーム2では、プライマーの例としてマルトヘプタオースを示し、プライマーグラフト化セルロースの例として、マルトヘプタオースグラフト化セルロース(スキーム2中の化学式5)を示す。概略を述べると、アミノ基含有セルロース(cellulose having amino groups)(スキーム2中の化学式3)へのプライマー(例えば、マルトヘプタオース(maltoheptaose)(スキーム2中の化学式4))の導入反応を、シアノトリヒドロホウ酸ナトリウム(NaBHCN)を用いる還元的アミノ化反応により行う。得られた生成物をH NMRスペクトルにより分析すると、マルトヘプタオース(スキーム2中の化学式4)の良溶媒であるDMSOで十分洗浄したとしても、主鎖であるセルロースのアノマー位由来のピークとマルトヘプタオース(スキーム2中の化学式4)のアノマー位由来のピークが観察される。それゆえ、生成物の構造がマルトヘプタオースグラフト化セルロース(maltoheptaose−grafted cellulose)(スキーム2中の化学式5)であることが確認される。
【0064】
(5.2 還元的アミノ化)
還元的アミノ化の代表的な条件は、シアノトリヒドロホウ酸ナトリウムおよびプライマーを含有する酢酸メタノール混合溶液(1:1混合溶液)中で室温(r.t.)にて3日間である。アミノ基含有セルロースと、シアノトリヒドロホウ酸ナトリウムと、トリエチルアミンと、プライマーと、酢酸と、メタノールとは、一度に混合してもよく、予め酢酸エタノール混合溶液を作製した後に他のものを添加してもよい。他の任意の混合順序であってもよい。
【0065】
(5.3 カルボジイミドカップリング)
カルボジイミドカップリングの代表的な条件は、アミノ基含有セルロース、酸化プライマー、カルボジイミド(例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩化物)およびN−ヒドロキシコハク酸イミドを含有する水溶液中で室温にて1日間である。アミノ基含有セルロースと、酸化プライマーと、N−ヒドロキシコハク酸イミドとは、一度に混合してもよく、予め酸化プライマー溶液を作製した後に他のものを添加してもよい。他の任意の混合順序であってもよい。
【0066】
(5.4 ラクトン化プライマー法)
ラクトン化プライマー法の代表的な条件は、アミノ基含有セルロースおよびラクトン化プライマーを含むエチレングリコールの70℃で6時間の加熱である。アミノ基含有セルロースと、ラクトン化プライマーと、エチレングリコールとは、一度に混合してもよく、または他の任意の混合順序であってもよい。
【0067】
(6.基質およびα−1,4グルカン鎖伸長酵素)
本明細書中では、用語「基質」とは、酵素によって触媒作用を受けて変化する物質をいう。本明細書では場合によって、基質の概念にプライマーを含まない場合がある。好ましくは、基質は、酵素によって触媒作用を受けて、プライマーに対してα−1,4グルカン鎖を伸長させる化合物である。
【0068】
当該分野では、水溶液中で行われる、種々のα−1,4グルカン鎖伸長反応が公知である。本発明においては、α−1,4グルカン鎖が伸長される限り、当該分野で公知の任意の基質が使用され得る。基質は、使用されるα−1,4グルカン鎖伸長酵素に適切であるように選択される。
【0069】
本明細書中では、用語「α−1,4グルカン鎖伸長酵素」とは、プライマーに対してα−1,4グルカン鎖を伸長させる酵素およびそれに関与する酵素をいう。
【0070】
本発明で使用され得るα−1,4グルカン鎖伸長系の例としては、以下が挙げられる:
(1)α−グルカンホスホリラーゼ(Glucan phosphorylase:GP)(例えば、馬鈴薯由来)により、α−グルコース−1−リン酸(alpha−glucose−1−phosphate)のグルコシル基をプライマーであるマルトヘプタオースなどに転移することによりα−1,4−グルカン鎖を合成する方法;
(2)プライマー、スクロースおよび無機リン酸またはグルコース−1−リン酸を基質として、スクロースホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼを同時に作用させてα−1,4−グルカン鎖を合成する方法(以下、SP−GP法という)(Waldmann,H.ら,Carbohydrate Research,157(1986)c4−c7;WO2002/097107)。この方法は、他の方法よりも安価に直鎖状グルカンを合成し得るという利点を有する;
(3)プライマーおよびスクロースを基質として使用して、アミロスクラーゼを作用させることによりα−1,4−グルカン鎖を合成する方法。
【0071】
従って、(1)の反応系を使用する場合、α−1,4グルカン鎖伸長酵素はα−グルカンホスホリラーゼであり、基質はプライマーおよびグルコース−1−リン酸である。
【0072】
(2)の反応系を使用する場合、α−1,4グルカン鎖伸長酵素はα−グルカンホスホリラーゼおよびスクロースホスホリラーゼであり、基質はプライマー、スクロースおよび無機リン酸またはグルコース−1−リン酸である。
【0073】
(3)の反応系を使用する場合、α−1,4グルカン鎖伸長酵素はアミロスクラーゼであり、基質はプライマーおよびスクロースである。
【0074】
(6.1 無機リン酸)
本明細書中において、無機リン酸とは、SPの反応においてリン酸基質を供与し得る物質をいう。ここでリン酸基質とは、グルコース−1−リン酸のリン酸部分(moiety)の原料となる物質をいう。スクロースホスホリラーゼによって触媒されるスクロース加リン酸分解において、無機リン酸はリン酸イオンの形態で基質として作用していると考えられる。当該分野ではこの基質を慣習的に無機リン酸というので、本明細書中でも、この基質を無機リン酸という。無機リン酸には、リン酸およびリン酸の無機塩が含まれる。通常、無機リン酸は、アルカリ金属イオンなどの陽イオンを含む水中で使用される。この場合、リン酸とリン酸塩とリン酸イオンとは平衡状態になるので、リン酸とリン酸塩とは区別をしにくい。従って、便宜上、リン酸とリン酸塩とを合わせて無機リン酸という。本発明において、無機リン酸は好ましくは、リン酸の任意の金属塩であり、より好ましくはリン酸のアルカリ金属塩である。無機リン酸の好ましい具体例としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸(HPO)、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウムなどが挙げられる。
【0075】
無機リン酸は、1種類のみ使用してもよく、複数種類使用してもよい。
【0076】
無機リン酸は、例えば、ポリリン酸(例えば、ピロリン酸、三リン酸および四リン酸)のようなリン酸縮合体またはその塩を、物理的、化学的または酵素反応などによって分解したものを反応溶液に添加することによって提供され得る。
【0077】
本明細書において、グルコース−1−リン酸とは、グルコース−1−リン酸(C13P)およびその塩をいう。グルコース−1−リン酸は好ましくは、狭義のグルコース−1−リン酸(C13P)の任意の金属塩であり、より好ましくはグルコース−1−リン酸(C13P)の任意のアルカリ金属塩である。グルコース−1−リン酸の好ましい具体例としては、グルコース−1−リン酸二ナトリウム、グルコース−1−リン酸二カリウム、グルコース−1−リン酸(C13P)、などが挙げられる。本明細書において、括弧書きで化学式を書いていないグルコース−1−リン酸は、広義のグルコース−1−リン酸、すなわち狭義のグルコース−1−リン酸(C13P)およびその塩を示す。
【0078】
グルコース−1−リン酸は反応開始時のSP−GP反応系において、1種類のみ使用してもよく、複数種類使用してもよい。
【0079】
本発明の系(好ましくは、水を主成分とする水系溶媒相)に含まれる無機リン酸のモル濃度とグルコース−1−リン酸のモル濃度との合計は、代表的には約1mM以上であり、好ましくは約10mM以上であり、より好ましくは約20mM以上である。本発明の系(好ましくは、水を主成分とする水系溶媒相)に含まれる無機リン酸のモル濃度とグルコース−1−リン酸のモル濃度との合計は、好ましくは約1000mM以下であり、好ましくは約500mM以下であり、より好ましくは約250mM以下である。無機リン酸およびグルコース−1−リン酸の量が多すぎると、グルカンの収率が低下する場合がある。使用量が少なすぎると、グルカンの合成に時間がかかる場合がある。
【0080】
(6.2 スクロース)
スクロースは、C122211で示される、分子量約342の二糖である。スクロースは、光合成能を有するあらゆる植物中に存在する。スクロースは、植物から単離されてもよいし、化学的に合成されてもよい。コストの面からみて、スクロースを植物から単離することが好ましい。スクロースを多量に含む植物の例としては、サトウキビ、サトウダイコンなどが挙げられる。サトウキビは、汁液中に約20%のスクロースを含む。サトウダイコンは、汁液中に約10〜15%のスクロースを含む。スクロースは、スクロースを含む植物の汁液から精製糖に至るいずれの精製段階のものとして提供されてもよい。
【0081】
本発明の方法で使用されるスクロースは、純粋なものであることが好ましい。しかし、α−1,4グルカン鎖伸長を阻害しない限り、任意の他の夾雑物を含んでいてもよい。
【0082】
(6.3 α−グルカンホスホリラーゼ(EC.2.4.1.1):
α−グルカンホスホリラーゼとは、α−1,4−グルカンの加リン酸分解を触媒する酵素の総称であり、グルカンホスホリラーゼ、ホスホリラーゼ、スターチホスホリラーゼ、グリコーゲンホスホリラーゼ、マルトデキストリンホスホリラーゼなどと呼ばれる場合もある。α−グルカンホスホリラーゼは、加リン酸分解の逆反応であるα−1,4−グルカン合成反応をも触媒し得る。反応がどちらの方向に進むかは、基質の量に依存する。生体内では、無機リン酸の量が多いので、α−グルカンホスホリラーゼは加リン酸分解の方向に反応が進む。本発明の方法においてSP−GP法を用いる場合、無機リン酸は、スクロースの加リン酸分解に使われ、反応溶液中に含まれる無機リン酸の量が少ないので、α−1,4−グルカンの合成の方向に反応が進む。他の系を用いる場合も、α−1,4−グルカンの合成の方向に反応が進むように基質の量が調整される。
【0083】
α−グルカンホスホリラーゼは、デンプンまたはグリコーゲンを貯蔵し得る種々の植物、動物および微生物中に普遍的に存在すると考えられる。本発明においてα−グルカンホスホリラーゼを用いる場合、このα−グルカンホスホリラーゼは、植物、動物または微生物由来であってもよく、またはこれらに由来するものを遺伝子工学によって生産したものであってもよい。
【0084】
α−グルカンホスホリラーゼは、藻類、ジャガイモ(馬鈴薯ともいう)、サツマイモ(甘藷ともいう)、ヤマイモ、サトイモ、キャッサバなどの芋類、キャベツ、ホウレンソウなどの野菜類、トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、アワなどの穀類、えんどう豆、大豆、小豆、うずら豆などの豆類などからなる群より選択される選択される植物由来であり得る。
【0085】
α−グルカンホスホリラーゼは、ヒト、ウサギ、ラット、ブタなどの哺乳類などからなる群より選択される動物由来であり得る。
【0086】
α−グルカンホスホリラーゼは、Thermus aquaticus、Bacillus stearothermophilus、Deinococcus radiodurans、Thermococcus litoralis、Streptomyces coelicolor、Pyrococcus horikoshi、Mycobacterium tuberculosis、Thermotoga maritima、Aquifex aeolicus、Methanococcus Jannaschii、Pseudomonas aeruginosa、Chlamydia pneumoniae、Chlorella vulgaris、Agrobacterium tumefaciens、Clostridium pasteurianum、Klebsiella pneumoniae、Synecococcus sp.、Synechocystis sp.、E.coli、Neurospora crassa、Saccharomyces cerevisiae、Chlamydomonas sp.などからなる群より選択される微生物由来であり得る。グルカンホスホリラーゼを産生する生物はこれらに限定されない。
【0087】
α−グルカンホスホリラーゼは、ジャガイモ、Thermus aquaticus、またはBacillus stearothermophilusに由来することが好ましく、ジャガイモに由来することがより好ましい。α−グルカンホスホリラーゼは、反応至適温度が高いことが好ましい。反応至適温度が高いα−グルカンホスホリラーゼは、例えば、高度好熱細菌に由来し得る。α−グルカンホスホリラーゼは、精製されていても未精製であってもよい。
【0088】
(6.4 スクロースホスホリラーゼ(EC.2.4.1.7))
本明細書中では、「スクロースホスホリラーゼ」とは、スクロースのα−グリコシル基をリン酸基に転移して加リン酸分解を行う任意の酵素をいう。スクロースホスホリラーゼによって触媒される反応は、次式により示される:
【0089】
【化8】

スクロースホスホリラーゼは、自然界では種々の生物に含まれる。スクロースホスホリラーゼは、Streptococcus属に属する細菌(例えば、Streptococcus thermophilus、Streptococcus mutans、Streptococcus pneumoniae、およびStreptococcus mitis)、Leuconostoc mesenteroides、Pseudomonas sp.、Clostridium sp.、Pullularia pullulans、Acetobacter xylinum、Agrobacterium sp.、Synecococcus sp.、E.coli、Listeria monocytogenes、Bifidobacterium adolescentis、Aspergillus niger、Monilia sitophila、Sclerotinea escerotiorum、およびChlamydomonas sp.からなる群より選択される細菌に由来し得る。スクロースホスホリラーゼが由来する生物は、これらに限定されない。
【0090】
スクロースホスホリラーゼは、スクロースホスホリラーゼを産生する任意の生物由来であり得る。スクロースホスホリラーゼは、ある程度の耐熱性を有することが好ましい。スクロースホスホリラーゼは、単独で存在する場合の耐熱性が高ければ高いほど好ましい。例えば、スクロースホスホリラーゼを4%のスクロース存在下で55℃にて30分間加熱した場合に加熱前のスクロースホスホリラーゼの活性の50%以上の活性を保持するものであることが好ましい。スクロースホスホリラーゼは、好ましくはStreptococcus属の細菌由来であり、さらに好ましくはStreptococcus mutans、Streptococcus thermophilus、Streptococcus pneumoniaeまたはStreptococcus mitis由来である。スクロースホスホリラーゼは、精製されていても未精製であってもよい。
【0091】
(6.5 α−1,4グルカン鎖伸長酵素についての一般的説明)
上記のような本発明のα−1,4グルカン鎖伸長酵素は、任意の生物に由来し得る。本明細書中では、酵素がある生物に「由来する」とは、その生物から直接単離したことのみを意味するのではなく、その生物を何らかの形で利用することによりその酵素が得られることをいう。例えば、その生物から入手したその酵素をコードする遺伝子を大腸菌に導入して、その大腸菌から酵素を単離する場合も、その酵素はその生物に「由来する」という。
【0092】
本発明で用いられるα−1,4グルカン鎖伸長酵素は、上記のような自然界に存在する、α−1,4グルカン鎖伸長酵素を産生する動物、植物、および微生物から直接単離され得る。
【0093】
本発明で用いられるα−1,4グルカン鎖伸長酵素は、これらの動物、植物または微生物から単離したα−1,4グルカン鎖伸長酵素をコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物(例えば、細菌、真菌など)から単離してもよい。α−1,4グルカン鎖伸長酵素は、遺伝子組換えされた微生物から得られ得る。スクロースホスホリラーゼおよびα−グルカンホスホリラーゼの生産方法は、例えば、WO2002/097107に開示されている。他のα−1,4グルカン鎖伸長酵素についても、この記載に従って同様に行われ得る。
【0094】
(7.プライマーグラフト化セルロースからのα−1,4グルカングラフト化セルロースの作製方法)
以下では、プライマーグラフト化セルロース(プライマー結合セルロースともいう)と、基質と、α−1,4グルカン鎖伸長酵素とを接触させることによってプライマーを伸長させることにより、重合度25以上のα−1,4グルカン側鎖を形成させて、本発明のアミロースグラフト化セルロース(グラフトポリマーともいう)を得る工程について説明する。
【0095】
(7.1 スキーム3 アミロースグラフト化セルロースの合成)
【0096】
【化9】

次に、アミロースグラフト化セルロース(スキーム3中の化学式6)の合成をスキーム3に示す。このスキーム3では、酵素反応系として(1)の反応系を使用する場合を示す。概略を述べると、マルトヘプタオースグラフト化セルロース(スキーム3中の化学式5)のマルトヘプタオースユニットに対して100当量のグルコース−1−リン酸塩(G−1−P)存在下、酢酸緩衝液中でα−1,4グルカン鎖伸長酵素(例えば、α−グルカンホスホリラーゼ)による酵素触媒重合を行い、アミロースグラフト化セルロース(スキーム3中の化学式6)の合成を行う。生成物は1mol/L水酸化ナトリウム水溶液に可溶であり、H NMRスペクトル、XRD測定、TG測定により得られた生成物の構造がアミロースグラフト化セルロース(スキーム3中の化学式6)であることが確認される。
【0097】
上述のように、酵素反応系としては、(1)に限定されず、(1)〜(3)の任意のものが使用され得、そしてその酵素反応系に合わせて酵素および基質が適切に選択され得る。
【0098】
(7.2 α−1,4グルカン鎖の伸長)
酵素反応系として(1)を用いる場合、α−1,4グルカン鎖の伸長の代表的な条件は、プライマーグラフト化セルロース(例えば、マルトヘプタオースグラフト化セルロース(スキーム3中の化学式5))のプライマーユニット(例えば、マルトヘプタオースユニット)に対して100当量のグルコース−1−リン酸塩(G−1−P)存在下、酢酸緩衝液中でα−1,4グルカン鎖伸長酵素(例えば、α−グルカンホスホリラーゼ)によって約42℃にて約7時間である。プライマーグラフト化セルロースと、グルコース−1−リン酸塩と、α−1,4グルカン鎖伸長酵素と、酢酸緩衝液とは、一度に混合してもよく、予め酢酸エタノール混合溶液を作製した後に他のものを添加してもよい。他の任意の混合順序であってもよい。
【0099】
酵素反応系として(1)〜(3)のいずれの反応系を用いる場合も、α−1,4グルカン鎖の伸長反応開始時の溶液中でのプライマーグラフト化セルロースの量は、好ましくは約0.1重量%以上であり、より好ましくは約0.2重量%以上であり、さらに好ましくは約0.3重量%以上であり、特に好ましくは約0.4重量%以上であり、最も好ましくは約0.5重量%以上である。α−1,4グルカン鎖の伸長反応開始時の溶液中でのプライマーグラフト化セルロースの量は、好ましくは約10重量%以下であり、より好ましくは約5重量%以下であり、さらに好ましくは約4重量%以下であり、特に好ましくは約3重量%以下であり、最も好ましくは約2重量%以下である。
【0100】
酵素反応系として(1)の反応系を用いる場合、α−1,4グルカン鎖の伸長反応開始時の系中でのグルコース−1−リン酸塩の濃度は、好ましくはプライマーグラフト化セルロース中のプライマーモル濃度の約40倍以上であり、より好ましくは約50倍以上であり、さらに好ましくは約60倍以上であり、特に好ましくは約70倍以上であり、最も好ましくは約80倍以上である。α−1,4グルカン鎖の伸長反応開始時の溶液中での無機リン酸またはグルコース−1−リン酸塩の濃度は、好ましくはプライマーグラフト化セルロース中のプライマーモル濃度の約1000倍以下であり、より好ましくは約800倍以下であり、さらに好ましくは約600倍以下であり、特に好ましくは約400倍以下であり、最も好ましくは約300倍以下である。
【0101】
酵素反応系として(1)の反応系を用いる場合、反応開始時の系中に含まれるα−グルカンホスホリラーゼの量は、反応開始時の溶液中のグルコース−1−リン酸に対して、好ましくは約0.05U/gグルコース−1−リン酸以上であり、より好ましくは約0.1U/gグルコース−1−リン酸以上であり、さらに好ましくは約0.5U/gグルコース−1−リン酸以上である。反応開始時の系中に含まれるα−グルカンホスホリラーゼの量は、反応開始時の溶液中のグルコース−1−リン酸に対して、好ましくは約1,000U/gグルコース−1−リン酸以下であり、より好ましくは約500U/gグルコース−1−リン酸以下であり、さらに好ましくは約100U/gグルコース−1−リン酸以下である。α−グルカンホスホリラーゼの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0102】
酵素反応系として(2)の反応系を使用する場合、反応開始時の系中に含まれるスクロースのモル濃度は、好ましくはプライマーグラフト化セルロース中のプライマーモル濃度の約40倍以上であり、より好ましくは約50倍以上であり、さらに好ましくは約60倍以上である。スクロースの濃度は、例えば、約6w/v%以上、約7w/v%以上、約8w/v%以上、約9w/v%以上、約10w/v%以上、約15w/v%以上などであってもよい。本発明の系中に含まれるスクロースの濃度は、プライマーグラフト化セルロース中のプライマーモル濃度の約1000倍以下であり、より好ましくは約800倍以下であり、さらに好ましくは約600倍以下である。スクロースの濃度は、例えば、約50w/v%以下、約40w/v%以下、約30w/v%以下、約20w/v%以下、約15w/v%以下、約10w/v%以下などであってもよい。
【0103】
上述のスクロースの濃度は、Weight/Volumeで、すなわち、
(スクロースの重量)×100/(溶液の容量)
で計算する。スクロースの重量が多すぎると、反応中に未反応のスクロースが析出する場合がある。スクロースの使用量が少なすぎると、高温での反応において収率が低下する場合がある。
【0104】
酵素反応系として(2)の反応系を用いる場合、α−1,4グルカン鎖の伸長反応開始時の系中での無機リン酸またはグルコース−1−リン酸塩の量は、合計として、好ましくはスクロースのモル濃度の約1/40以上であり、より好ましくは約1/30以上であり、さらに好ましくは約1/25以上であり、特に好ましくは約1/20以上であり、最も好ましくは約1/15重量%以上である。α−1,4グルカン鎖の伸長反応開始時の溶液中での無機リン酸またはグルコース−1−リン酸塩の量は、合計として、好ましくはスクロースのモル濃度の約1/2以下であり、より好ましくは約1/3重量%以下であり、さらに好ましくは約1/4重量%以下であり、特に好ましくは約1/5重量%以下であり、最も好ましくは約1/6重量%以下である。
【0105】
酵素反応系として(2)の反応系を使用する場合、反応開始時の系中に含まれるα−グルカンホスホリラーゼの量は、反応開始時の溶液中のスクロースに対して、好ましくは約0.05U/gスクロース以上であり、より好ましくは約0.1U/gスクロース以上であり、さらに好ましくは約0.5U/gスクロース以上である。反応開始時の系中に含まれるα−グルカンホスホリラーゼの量は、反応開始時の溶液中のスクロースに対して、好ましくは約1,000U/gスクロース以下であり、より好ましくは約500U/gスクロース以下であり、さらに好ましくは約100U/gスクロース以下である。α−グルカンホスホリラーゼの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0106】
酵素反応系として(2)の反応系を使用する場合、反応開始時の系中に含まれるスクロースホスホリラーゼの量は、反応開始時の溶液中のスクロースに対して、好ましくは約0.05U/gスクロース以上であり、より好ましくは約0.1U/gスクロース以上であり、さらに好ましくは約0.5U/gスクロース以上である。反応開始時の系中に含まれるスクロースホスホリラーゼの量は、反応開始時の溶液中のスクロースに対して、好ましくは約1,000U/gスクロース以下であり、より好ましくは約500U/gスクロース以下であり、さらに好ましくは約100U/gスクロース以下である。スクロースホスホリラーゼの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0107】
酵素反応系として(3)の反応系を使用する場合、反応開始時の系中に含まれるスクロースの量は、好ましくは約1w/v%以上であり、より好ましくは約3w/v%以上であり、さらに好ましくは約5w/v%以上である。スクロースの濃度は、例えば、約6w/v%以上、約7w/v%以上、約8w/v%以上、約9w/v%以上、約10w/v%以上、約15w/v%以上などであってもよい。本発明の系中に含まれるスクロースの濃度は、好ましくは約80w/v%以下であり、より好ましくは約70w/v%以下であり、さらに好ましくは約60w/v%以下である。スクロースの濃度は、例えば、約50w/v%以下、約40w/v%以下、約30w/v%以下、約20w/v%以下、約15w/v%以下、約10w/v%以下などであってもよい。
【0108】
酵素反応系として(3)の反応系を使用する場合、反応開始時の系中に含まれるアミロスクラーゼの量は、反応開始時の溶液中のスクロースに対して、好ましくは約0.05U/gスクロース以上であり、より好ましくは約0.1U/gスクロース以上であり、さらに好ましくは約0.5U/gスクロース以上である。反応開始時の系中に含まれるアミロスクラーゼの量は、反応開始時の溶液中のスクロースに対して、好ましくは約1,000U/gスクロース以下であり、より好ましくは約500U/gスクロース以下であり、さらに好ましくは約100U/gスクロース以下である。スクロースホスホリラーゼの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0109】
酵素反応系として(1)〜(3)のいずれの反応系を用いる場合も、α−1,4グルカン鎖の伸長の際の温度条件は、使用する酵素の反応至適温度、耐熱性などを考慮して適切に設定される。反応至適温度が約37℃付近にある通常の酵素の場合、反応温度は、好ましくは約10℃以上であり、より好ましくは約20℃以上であり、さらに好ましくは約25℃以上であり、特に好ましくは約30℃以上である。α−1,4グルカン鎖の伸長の際の温度条件は、好ましくは約45℃以下であり、より好ましくは約42℃以下であり、さらに好ましくは約40℃以下であり、特に好ましくは約38℃以下である。例えば、反応至適温度が約50℃の耐熱性酵素の場合、反応温度は、好ましくは約30℃以上であり、より好ましくは約35℃以上であり、さらに好ましくは約40℃以上であり、特に好ましくは約45℃以上である。α−1,4グルカン鎖の伸長の際の温度条件は、好ましくは約65℃以下であり、より好ましくは約60℃以下であり、さらに好ましくは約55℃以下であり、特に好ましくは約53℃以下である。反応温度は、使用される酵素の反応至適温度の±10℃以内であることが好ましく、±5℃以内であることがより好ましい。この工程での反応温度が高すぎると、酵素が失活しα−1,4グルカン鎖の伸長が行われない場合がある。この工程での反応温度が低すぎると、酵素反応が進まずα−1,4グルカン鎖の伸長が行われない場合がある。
【0110】
加熱は、どのような手段を用いて行ってもよいが、反応系全体に均質に熱が伝わるように、例えば有機系溶媒相中で攪拌を行いながら加熱することが好ましい。溶液は、例えば、温水ジャケットと攪拌装置を備えたステンレス製反応タンクの中に入れられて攪拌される。
【0111】
反応時間は、好ましくは約0.5時間以上であり、より好ましくは約1時間以上であり、さらに好ましくは約3時間以上であり、特に好ましくは約5時間以上であり、最も好ましくは約8時間以上である。反応時間は、好ましくは約72時間以下であり、より好ましくは約48時間以下であり、さらに好ましくは約36時間以下であり、特に好ましくは約24時間以下であり、最も好ましくは約20時間以下である。この工程での反応時間が長すぎると、微生物汚染などのリスクが高くなる。この工程での反応時間が短すぎると、必要酵素量が多くなり、コストアップになる。
【0112】
反応終了後、反応系は、必要に応じて例えば、100℃にて10分間加熱することによって反応系中の酵素が失活され得る。あるいは、酵素を失活させる処理を行うことなく後の工程を行ってもよい。反応系は、そのまま保存されてもよいし、生産されたグラフトポリマーを単離するために処理されてもよい。
【0113】
各α−1,4グルカン側鎖は、好ましくは、重合度が約25以上になるまで伸長される。各α−1,4グルカン側鎖の重合度は、反応系に含まれる基質の量、セルロース中に導入されたプライマーの量、反応時間の長さなどによって調節される。一般的には、基質の量が多いほど重合度は高くなり、基質の量が少ないほど重合度は低くなる。セルロース中に導入されたプライマーの量が多いほど重合度は低くなり、プライマーの量が少ないほど重合度は高くなる。反応時間が長いほど重合度は低くなり、反応時間が短いほど重合度は高くなる。
【0114】
本発明の方法によって得られる生成物は、当業者に公知の方法によって精製され得る。精製方法の例としては、限外ろ過膜を用いた膜分画、クロマトグラフィー、濾過、遠心分離が挙げられる。
【0115】
本発明の方法によって得られる生成物は、当業者に周知の従来の方法(例えば、薄層クロマトグラフィー(TLC)、NMR(核磁気共鳴スペクトル)、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)、融点、質量分析(MS)、元素分析など)により、純度について分析および/または検査され得る。反応生成物の構造は、反応生成物を精製した後、NMR(核磁気共鳴スペクトル)およびMSを行うことにより、詳細に確認され得る。
【0116】
(8.本発明のグラフトポリマー)
本発明のグラフトポリマーは、α−1,4グルカン側鎖がセルロース主鎖に結合したグラフトポリマーであって、セルロース主鎖中の少なくとも1つのグルコース残基の6位炭素にα−1,4グルカン側鎖の末端の1位炭素が、−NH−基を介して共有結合しており;該1位炭素に2つの水素基が結合しているか、または1つの酸素原子が結合しており;該セルロース主鎖の重合度が25以上であり;該α−1,4グルカン側鎖の重合度が25以上である。
【0117】
ここで、α−1,4グルカン側鎖中のグルコース残基とグルコース残基との間の結合は、主にα−1,4結合である。グルコース残基とグルコース残基との間の結合のうち、90%以上がα−1,4結合であることが好ましく、95%以上がα−1,4結合であることがより好ましく、98%以上がα−1,4結合であることがさらに好ましく、99%以上がα−1,4結合であることが特に好ましく、99.5%以上がα−1,4結合であることが最も好ましい。
【0118】
該α−1,4グルカン側鎖は完全に直鎖状であることが好ましい。ここで、「完全に直鎖状」とは、α−1,4グルカン側鎖中のグルコース残基とグルコース残基との間の結合が、すべてα−1,4結合であり、α−1,6結合を含まないことをいう。
【0119】
本発明のグラフトポリマーはまた、α−1,4グルカングラフト化セルロース、アミロースグラフト化セルロースなどとも呼ばれる。
【0120】
本発明のグラフトポリマーは、好ましくは以下の構造(I)を有する:
【0121】
【化10】

ここで、各Rは、−OH、−NHおよび以下の構造(II)もしくは(III)からなる群より独立して選択され、該nが25〜20,000の任意の整数であり、該mが24〜1000の整数であり、セルロース主鎖中のグルコース残基どうしがβ−1,4結合により結合している:
【0122】
【化11】


【0123】
本発明の製造方法においてプライマーとしてα−1,4グルカンプライマー(すなわち、還元末端が酸化もラクトン化もされていないプライマー)を用いると、セルロースの6位炭素と−NH−基を介して結合しているα−1,4グルカンの末端の1位炭素に2つの水素基が結合したグラフトポリマーが得られる。すなわち、上記IIIの構造を有するα−1,4グルカン側鎖がセルロース骨格に結合しているグラフトポリマーが得られる。
【0124】
本発明の製造方法においてプライマーとして酸化プライマーまたはラクトン化プライマーを用いると、セルロースの6位炭素と−NH−基を介して結合しているα−1,4グルカンの末端の1位炭素に1つの酸素原子が結合したグラフトポリマーが得られる。すなわち、上記IIの構造を有するα−1,4グルカン側鎖がセルロース骨格に結合しているグラフトポリマーが得られる。
【0125】
本発明のグラフトポリマー中のセルロース主鎖1分子中のグルコース残基の数(すなわち、n)は、好ましくは約25以上であり、より好ましくは約30以上であり、さらに好ましくは約35以上であり、特に好ましくは約40以上であり、最も好ましくは約50以上である。例えば、約100以上、約200以上、約300以上、約400以上、約500以上、約600以上、約700以上、約800以上、約900以上、約1,000以上、約2,000以上、約2,500以上、約3,000以上、約4,000以上、約5,000以上などであってもよい。本発明で使用されるセルロース主鎖1分子中のグルコース残基の数は、好ましくは約30,000以下であり、より好ましくは約25,000以下であり、さらに好ましくは約20,000以下であり、特に好ましくは約15,000以下であり、最も好ましくは約10,000以下である。例えば、約9,000以下、約8,000以下、約7,000以下、約6,000以下、約5,000以下、約4,000以下、約3,000以下、約2,000以下、約1,000以下、約900以下、約800以下、約700以下、約600以下、約500以下、約400以下などであってもよい。
【0126】
本発明のグラフトポリマーにおいては、少なくとも1個のα−1,4グルカン鎖の重合度は、好ましくは約25以上であり、より好ましくは約30以上であり、さらに好ましくは約40以上である。例えば、約50以上、約60以上、約70以上、約80以上、約90以上、約100以上などであってもよい。本発明のグラフトポリマーにおいては、少なくとも1個のα−1,4グルカン鎖の重合度は、好ましくは約1,000以下であり、より好ましくは約800以下であり、さらに好ましくは約500以下である。例えば、約400以下、約300以下、約200以下、約100以下、約90以下、約80以下、約70以下、約60以下、約50以下などであってもよい。α−1,4グルカン側鎖の重合度が大きすぎると、立体障害が生じて包接機能を充分に発揮できない場合がある。α−1,4グルカン側鎖の重合度が小さすぎると、所望の包接機能を得られない場合がある。
【0127】
本発明のグラフトポリマーにおいては、セルロース主鎖に結合したα−1,4グルカン側鎖の数平均重合度が上記の好適な範囲内にあることが特に好ましい。また、本発明のグラフトポリマーにおいては、セルロース主鎖に結合したα−1,4グルカン側鎖のうち、上記の好適な範囲を満たすα−1,4グルカン側鎖の割合は、好ましくは約50%以上であり、より好ましくは約60%以上であり、さらに好ましくは約70%以上であり、特に好ましくは約80%以上であり、最も好ましくは約90%以上である。
【0128】
本発明のグラフトポリマーにおいては、セルロース1分子に結合しているα−1,4グルカン側鎖の数は、セルロース主鎖中のグルコース残基の数100個あたり、好ましくは約1個以上であり、より好ましくは約2個以上であり、さらに好ましくは約3個以上であり、特に好ましくは約4個以上であり、最も好ましくは約5個以上である。本発明のグラフトポリマーにおいては、セルロース1分子に結合しているα−1,4グルカン側鎖の数は、セルロース主鎖中のグルコース残基の数100個あたり、好ましくは約50個以下であり、より好ましくは約45個以下であり、さらに好ましくは約40個以下であり、特に好ましくは約35個以下であり、最も好ましくは約30個以下である。
【0129】
(9.本発明のグラフトポリマーの用途)
従来からセルロースは、さまざまな用途に利用されており、その利用方法は公知である。その様々な用途において、本発明のグラフトポリマーを使用することが可能である。すなわち、従来からセルロースが使用される材料において、そのセルロースの一部またはすべてを本発明のグラフトポリマーに置き換えて使用することができる。
【0130】
より具体的には、例えば、本発明のグラフトポリマーは、環境浄化機能を有するフィルター、カラム充填材、香料含有繊維などの、複合機能性素材およびデバイスなどに利用され得る。
【0131】
例えば、本発明のグラフトポリマーを繊維の形態に加工して、得られた繊維を所望の形態に加工して最終的な製品とすることができる。
【0132】
また、例えば、セルロース繊維を製造する際に、原料のセルロース中に本発明のグラフトポリマーを混入させて、グラフトポリマー含有繊維を製造し、その繊維を所望の形態に加工して目的の製品を得ることもできる。
【0133】
また、例えば、本発明のグラフトポリマーから得られた繊維をセルロース繊維と混合して、得られた混合繊維を所望の形態に加工して最終的な製品とすることができる。このような混合繊維はアミロースの包接機能を付与された繊維であり、環境ホルモンや界面活性剤の除去機能を有する水処理用フィルターなどに利用できる。
【0134】
また、例えば、本発明のグラフトポリマーを成型して所望の形状の製品を得ることができる。例えば、本発明のグラフトポリマーをフィルム状に成型してフィルム状の製品を得ることができる。
【0135】
さらに、例えば、本発明のグラフトポリマーを添加剤として所望の製品に添加することもできる。
【0136】
(実施例)
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明は以下の実施例のみに限定されない。
【実施例1】
【0137】
(アミノ基含有セルロースの合成)
(1)トシル化セルロースの合成
N,N−ジメチルアセトアミド50ml、セルロース(試薬等級;微結晶セルロース;数平均重合度約300)0.5gをナス型フラスコに加え、130℃で1時間撹拌し、さらに、塩化リチウム4.2gを加え、100℃で30分間撹拌後、室温になるまで放置し溶解させた。これにトリエチルアミン0.5mlを加え、10℃に冷却後、塩化−p−トルエンスルホニル0.0412g(グルコースユニットに対して0.4当量)を加え、10℃で24時間反応させた。反応液を水中に再沈殿し、吸引ろ過後、減圧下で乾燥してトシル化セルロース0.56gを得た。
【0138】
(2)アジド化セルロースの合成
ジメチルスルホキシド25ml、トシル化セルロース0.5g、テトラ−n−ブチルアンモニウムヨージド0.027g、アジ化ナトリウム0.468gをナス型フラスコに加え、70℃で72時間反応させた。反応液を水中に再沈澱し、吸引ろ過後、減圧下で乾燥し、6−アジド−6−デオキシセルロース0.463gを得た。
【0139】
(3)アミノ化セルロースの合成
ジメチルスルホキシド45ml、6−アジド−6−デオキシセルロース0.450g、水素化ホウ素ナトリウム0.603gをナス型フラスコに加え、60℃で72時間反応させた。反応液を0℃に冷却し、未反応の水素化ホウ素ナトリウムを除去するため、1N塩酸をガスが発生しなくなるまでゆっくり滴下した後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で中和した。これを吸引ろ過によって単離し、凍結乾燥して6−アミノ−6−デオキシセルロース0.444gを得た。
【実施例2】
【0140】
(還元アミノ化法によるマルトヘプタオースグラフト化セルロースの合成)
実施例1で得られた6−アミノ−6−デオキシセルロース0.444g、酢酸−メタノール混合溶液20ml、マルトヘプタオース0.784g、シアノトリヒドロホウ酸ナトリウム0.237gをサンプル管に加え、室温で3日間反応させた。これをメタノール中に投入し、吸引ろ過を行ない、未反応のマルトヘプタオースを除去するため、ジメチルスルホキシドで洗浄後単離した。減圧下で乾燥し、マルトヘプタオースグラフト化セルロースを0.478g得た。
【0141】
得られた生成物をH NMRスペクトルにより分析すると、主鎖であるセルロースのアノマー位由来のピークとマルトヘプタオースのアノマー位由来のピークが観察された。生成物の構造がマルトヘプタオースグラフト化セルロースであることが確認された。
【実施例3】
【0142】
(カルボジイミドカップリング法によるマルトヘプタオースグラフト化セルロースの合成)
(酸化マルトヘプタオースの合成)
マルトヘプタオース1gを水20mlに溶解し、5%(w/v)ヨウ素−メタノール溶液25mlを添加し、40℃で撹拌しながら4%(w/v)水酸化カリウム−メタノール溶液10mlを1滴ずつ滴下した。1時間撹拌後、ヨウ素の色が消えるまで4%(w/v)水酸化カリウム−メタノール溶液をさらに滴下し、30分撹拌後反応を終了した。反応液を冷却し、沈殿物をろ過後、45mlの脱イオン水に溶解し、アンバーライトIR−120B(H+型)に通液した。溶出液がpH7.0になるまで脱イオン水を流して目的物を回収し、ロータリーエバポレーターにより数回減圧乾固した。45mlの脱イオン水に溶解し、酸化マルトヘプタオースの水溶液(19mg/ml)を得た。
【0143】
(マルトヘプタオースグラフト化セルロースの合成)
実施例1で得られた6−アミノ−6−デオキシセルロース0.42g、酸化マルトヘプタオース(19mg/ml)の水溶液40ml、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩化物0.13g、N−ヒドロキシコハク酸イミド0.08gをサンプル管に加え、室温で1日間反応させた。これをゲルろ過カラムに通液し、未反応の酸化マルトヘプタオース、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩化物およびN−ヒドロキシスクシンイミドを除去した。減圧下で乾燥し、マルトヘプタオースグラフト化セルロースを0.41g得た。
【実施例4】
【0144】
(ラクトン化プライマー法によるマルトヘプタオースグラフト化セルロースの合成)
(ラクトン化マルトヘプタオースの合成)
マルトヘプタオース2.0gを水3.0mlに溶解し、そこへヨウ素1.33gをメタノール10ml中に溶解した液を加え、40℃、2時間撹拌した。続いて、水酸化カリウム1.21gをメタノール35ml中に溶解し、1滴ずつ滴下後、1時間撹拌した。反応後、
冷却し、得られた沈殿物をデカンテーションにより単離した。未反応のヨウ素、生成したヨウ化カリウムを除去するため水10mlを加え溶解液とし、メタノール100mlを加え沈殿物を得た。再度、デカンテーションし、水で溶解し、メタノールで沈殿を形成させた。デカンテーション後、この沈澱を9mlの水で溶解し、イオン交換カラムに通液し、生成物の回収を行った。減圧下で乾燥し、ラクトン化マルトヘプタオースを1.2g得た。生成物のH NMRにおいて、ラクトン環の2位(4.47ppm)および3位(4.25ppm)のピークが観察されたことから、生成物がラクトン化マルトヘプタオースであることを確認した。
【0145】
(マルトヘプタオースグラフト化セルロースの合成)
実施例1で得られた6−アミノ−6−デオキシセルロース0.7g、ラクトン化マルトヘプタオース1.2gおよびエチレングリコール10mlをサンプル管に加え、70℃で6時間反応させた。反応終了後、室温まで冷却し、窒素雰囲気下でアセトンを加えた。沈殿物をろ過し、アセトンおよびヘキサンで洗浄しながら吸引ろ過し、エチレングリコールおよび未反応のラクトン化マルトヘプタオースを除去した。減圧下で乾燥し、マルトヘプタオースグラフト化セルロース1.25gを得た。
【実施例5】
【0146】
(アミロースグラフト化セルロースの合成)
実施例2で得られたマルトヘプタオースグラフト化セルロース0.14g、酢酸緩衝液12.5ml、グルコース−1−リン酸ナトリウム0.38g(マルトヘプタオース基に対して100当量)、馬鈴薯由来α−グルカンホスホリラーゼ42単位をサンプル管に加え、pH6.2、42℃で7時間反応させた。不純物を除去するために1N水酸化ナトリウム水溶液で透析後、メタノール中に投入し、吸引ろ過によって単離した。減圧下で乾燥し、アミロースグラフト化セルロース0.19gを得た。
【0147】
生成物のH NMRからセルロースのアノマー位由来のピークとアミロースのアノマー位由来のピークが観察されたことから、この生成物は、セルロースに重合度49のアミロースがグラフト化したものであることが確認された。また、元素分析により、セルロース主鎖中のグルコース残基28個あたり1個の割合でアミロースがセルロースに結合していることが確認された。また生成物はセルロースとは異なり、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液に可溶であった。これらの結果から、生成物の構造がアミロースグラフト化セルロースであることが確認された。それゆえ、この生成物は、セルロース主鎖中のグルコース残基の6位炭素にα−1,4グルカン側鎖の末端の1位炭素が−NH−基を介して共有結合しており、この1位炭素に2つの水素基が結合しており、セルロース主鎖の数平均重合度が約300であって、セルロース主鎖のグルコース残基28個あたり1個の割合で重合度49のアミロースがグラフト化された構造を有するグラフトポリマーである。
【実施例6】
【0148】
(α−1,4グルカングラフト化セルロースからのフィルムの製造)
実施例5の反応液をガラス容器に入れ静置したところ不透明で膨潤したゲルが得られた。未反応物等を除去するために水で洗浄した。セルロースは同じ条件でこのようなゲルを形成することはできなかった。次にこのゲルを自然乾燥させたところ、不透明な固形物が得られた。さらに、この乾燥した固形物に水を加えると、不透明で浸潤したゲルに戻った。また、このゲルを自然乾燥させると、再度、不透明な固形物が得られた。
【0149】
また実施例5の反応液をガラスプレートに薄く広げ静置したところ不透明で膨潤したフィルムを得た。未反応物等を除去するために水で洗浄した。このフィルムを自然乾燥したところ不透明である程度柔軟なフィルムが得られた。さらに乾燥したフィルムに水を加えると不透明で膨潤したフィルムに戻った。このフィルムを自然乾燥すると再度不透明である程度柔軟なフィルムが得られた。乾燥したフィルムに1N NaOH水溶液を加えたところ、このフィルムは溶解した。このようにα−1,4グルカングラフト化セルロースは、セルロースと異なり、アミロースの溶解性や柔軟性を併せ持つ独特の物性を示した。
【0150】
さらに得られたゲルおよびフィルムをそれぞれ5mMのヨウ素溶液(KI・I:0.024M/0.010M)10mlに添加したところ、いずれも青色に染色された。従って、α−1,4グルカングラフト化セルロースには、アミロースの物性だけでなく、アミロースの包接機能が付与されていることを確認した。
【0151】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0152】
セルロースは、繊維、紙、不織布、織物、フィルターなど、幅広い産業分野で利用されている。本発明を利用することにより、セルロースまたはセルロース製品にアミロースの機能を付与することができる。たとえばアミロースは様々な化学物質と包接錯体を形成することができるが、これを利用して環境浄化機能を有するフィルター、香料含有繊維などの、複合機能性素材およびデバイスを設計することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−1,4グルカン側鎖がセルロース主鎖に結合したグラフトポリマーであって、
セルロース主鎖中の少なくとも1つのグルコース残基の6位炭素にα−1,4グルカン側鎖の末端の1位炭素が、−NH−基を介して共有結合しており;
該1位炭素に2つの水素基が結合しているか、または1つの酸素原子が結合しており;
該セルロース主鎖の重合度が25以上であり;
該α−1,4グルカン側鎖の重合度が25以上である、
グラフトポリマー。
【請求項2】
前記α−1,4グルカン側鎖が完全に直鎖状である、請求項1に記載のグラフトポリマー。
【請求項3】
前記グラフトポリマーが、以下の構造(I):
【化1】

を有し、ここで、各Rは、−OH、−NH2および以下の構造(II)もしくは(III):
【化2】

からなる群より独立して選択され、該nが25〜20,000の整数であり、該mが24〜1000の整数であり、セルロース主鎖中のグルコース残基どうしがβ−1,4結合により結合している、請求項1または2に記載のグラフトポリマー。
【請求項4】
前記α−1,4グルカン側鎖の重合度が40以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のグラフトポリマー。
【請求項5】
前記α−1,4グルカン側鎖の重合度が50以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のグラフトポリマー。
【請求項6】
前記セルロース主鎖に結合しているα−1,4グルカン側鎖の数が、1〜10,000
個である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のグラフトポリマー。
【請求項7】
前記セルロース主鎖に結合しているα−1,4グルカン側鎖の数が、セルロース主鎖中のグルコース残基100個あたり1〜50個である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のグラフトポリマー。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のグラフトポリマーの製造方法であって、
セルロース中の少なくとも1つのグルコース残基の6位炭素に結合しているOH基をNH2基に置換して、アミノ化セルロースを得る工程;
該アミノ化セルロースとプライマーとを反応させて、該アミノ化セルロース中の少なくとも1つのグルコース残基の6位炭素と、該プライマーの末端の1位炭素とを、−NH−基を介して共有結合させて、プライマー結合セルロースを得る工程;
該プライマー結合セルロースと、基質と、α−1,4グルカン鎖伸長酵素とを接触させることによってプライマーを伸長させることにより、重合度25以上のα−1,4グルカン側鎖を形成させて、請求項1〜7のいずれか1項に記載のグラフトポリマーを得る工程を包含し、
該プライマーは、重合度3〜20のα−1,4グルカン、またはその還元末端酸化物もしくはラクトン化物であり、
該基質は、該酵素の作用により該プライマーにグルコース残基を提供する物質であり、
該α−1,4グルカン側鎖の重合度が25以上であり、
α−1,4グルカン結合セルロースにおいては、該1位炭素に2つの水素基が結合しているか、または1つの酸素原子が結合している、方法。
【請求項9】
前記α−1,4グルカン側鎖の重合度が40以上である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記α−1,4グルカン側鎖の重合度が50以上である、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記セルロースに結合しているα−1,4グルカンの数が、1〜10,000個である、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記セルロース主鎖に結合しているα−1,4グルカン側鎖の数が、セルロース主鎖中のグルコース残基100個あたり1〜50個である、請求項8〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記グラフトポリマーを精製する工程をさらに包含する、請求項8〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記アミノ化セルロースを得る工程が、
トリエチルアミン、塩化リチウムおよびN,N−ジメチルアセトアミドの存在下でセルロースと塩化−p−トルエンスルホニルとを反応させてトシル化セルロースを得ること;
テトラ−n−ブチルアンモニウムヨージドおよびジメチルスルホキシドの存在下で該トシル化セルロースをアジ化ナトリウムと反応させて6−アジド−6−デオキシセルロースを得ること;ならびに
ジメチルスルホキシド中で該6−アジド−6−デオキシセルロースを水素化ホウ素ナトリウムと反応させてアミノ化セルロースを得ること
によって行われる、請求項8〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記α−1,4グルカン鎖伸長酵素がα−グルカンホスホリラーゼであり、前記基質がグルコース−1−リン酸である、請求項8〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記α−1,4グルカン鎖伸長酵素がα−グルカンホスホリラーゼおよびスクロースホスホリラーゼであり、前記基質がスクロースおよび無機リン酸またはグルコース−1−リン酸である、請求項8〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記α−1,4グルカン鎖伸長酵素がアミロスクラーゼであり、前記基質がスクロースである、請求項8〜14のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−293017(P2009−293017A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111922(P2009−111922)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】