説明

β−1,4−グルカンをα−グルカンに変換する方法

β−1,4−グルカンからα−グルカンを製造する方法であって、β−1,4−グルカンと、プライマーと、リン酸源と、β−1,4−グルカンホスホリラーゼと、α−1,4−グルカンホスホリラーゼを含む溶液を反応させて、α−グルカンを生産する工程を包含する、方法が提供される。この方法においては、上記β−1,4−グルカンは、セロビオースであり、上記β−1,4−グルカンホスホリラーゼは、セロビオースホスホリラーゼであり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−1,4−グルカンからα−グルカンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間は、デンプンなどのα−グルカンを消化してエネルギー源として利用している。α−グルカンは食品産業以外にも、医薬、化粧品、化学工業、製紙、繊維などにおける原料としても幅広く利用されており、非常に有用性の高い物質である。α−グルカンの中でも特に、アミロースは豊富な機能ゆえ、幅広い分野での利用が期待されている。
【0003】
近年、人口増加により食糧危機が問題視されており、植物の生産するデンプンだけでは将来エネルギー源が不足すると予想されている。
【0004】
一方、人間は、セルロースなどのβ−グルカンを消化できないので、エネルギー源として利用することができず、食物繊維成分としてのみ利用されている。それゆえ、β−グルカンを食糧危機問題の解決には利用できない。しかし、β−グルカンの年間生産量は、デンプンの約2万倍と推定されており、枯渇の心配はない。そのため、β−グルカンを、人間がエネルギー源とし得る物質に変換する種々の試みが行われている。
【0005】
例えば、セルロースをグルコースまで分解し、エタノール醗酵に利用することが検討されている。グルコースは人間によって代謝され得るが、甘すぎるため、エネルギー源として大量に摂取することができない。
【0006】
β−グルカンを人間にとってより摂取しやすい物質(特に、同じグルコースのポリマーであるデンプン)に変換することができれば、食糧危機問題の解決に大きな貢献ができるが、これまでにそのような技術は開示されていない。
【0007】
そこで、本発明者らは、β−グルカンを原料としてα−グルカンを産生することを試みた。β−グルカンを直接α−グルカンに変換することはできない。従来の方法においては、セロビオースホスホリラーゼ(CBP)の作用によってG−1−Pおよびグルコースからセロビオースを合成する方法が知られている。セロデキストリンホスホリラーゼ(CDP)の作用によって、G−1−Pおよびセロオリゴ糖(重合度n)から重合度n+1のセロオリゴ糖を合成する方法もまた知られている。また、α−1,4−グルカンホスホリラーゼの作用によって、G−1−Pおよび低分子量α−グルカンから高分子量α−グルカンを合成する方法が知られている。一般に、酵素によって触媒される反応は可逆反応であることが多いので、本発明者らは、CBPによって触媒される反応をセロビオースの分解方法に、CDPによって触媒される反応をセロオリゴ糖の分解方向に進ませてG−1−Pを産生し、そして得られるG−1−Pからα−グルカンを合成することができないかと考えて、β−1,4−グルカンからのα−グルカンの合成法の構築を検討した。この方法は、セロビオースホスホリラーゼ(CBP)またはセロデキストリンホスホリラーゼ(CDP)を用いてβ−グルカンを加リン酸分解してG−1−Pを得て(第1工程)、このG−1−Pを原料としてグルカンホスホリラーゼ(GP)によってα−グルカンを合成する(第2工程)2段階方法である。この方法のβ−グルカンを加リン酸分解する反応においてG−1−Pを効率よく得るためには、多量の無機リン酸を添加する必要があるが、この多量の無機リン酸は、次の反応であるG−1−Pを原料とするα−グルカンの合成反応を阻害するため、第1工程の反応終了後にこの無機リン酸を取り除かなければならない。しかし、その精製ステップには多大なコストがかかることが、この2段階方法の欠点の1つである。
【0008】
また、G−1−Pを原料にα−グルカンを合成しようとすると、反応時に等モルのリン酸を副生するため、反応終了後に除去する必要を生じる。また、リン酸副産物に起因するpHの大幅な低下が見られるため、アルカリなどの添加あるいは高濃度の緩衝液を使用することにより反応液のpHを維持する操作等が必要となってしまい、そのため、この2段階方法は簡便な製造方法とはいえない。
【0009】
そのため、これら欠点を克服する低コスト、簡便かつ効率的な方法の開発が望まれている。
【0010】
2つの酵素反応工程からなる触媒反応を行うために、各酵素をカップリングさせて1つの反応系で反応させる方法が、他の触媒反応において開発されている。このような反応系の従来公知の例は、2種類のホスホリラーゼをカップルさせて利用する方法である。例えば、北岡ら(非特許文献1)はスクロースホスホリラーゼ(SP)とCBPを同時に作用させることにより、スクロースをセロビオースに効率的に変換する技術を開示している。また、藤井ら(特許文献1)は、SPとGPを同時に作用させることにより、スクロースをアミロースに効率的に変換する技術を開示している。
【0011】
これらの技術は、2種類の酵素が、その基質および生産物を共有しあう(北岡らの例では、G−1−PはSPの生産物であると同時にCBPの基質にもなっているし、またリン酸はSPの基質であると同時にCBPの生産物にもなっている)という、複雑な反応を利用している。それゆえ、単一の酵素を用いる反応とは異なり、反応メカニズムが極めて複雑である。そのため、単に2種類の酵素を組み合わせても必ずしも原料となる基質を目的とする生産物に変換できないことが技術常識である。
【0012】
北岡らは日本応用糖質科学会2001年度大会において、SPおよびCBPを用いたシステムは、スクロースからG−1−Pを経由してセロビオースを合成する方法には有効に利用できるが、セロビオースからG−1−Pを経由してスクロースを合成する反応は進行しないことを口頭で報告している。この報告に基づいて本発明者らが確認実験(参考例2)を行ったところ、セロビオースからG−1−Pを経由してスクロースを合成する反応が進まないことが確認されている。
【0013】
つまり、CBPによりG−1−Pを合成する酵素反応と、合成されたG−1−Pに対するさらなる酵素反応とを同時に行うことができないのである。
【0014】
従って、セロビオースを出発物質として2段階の酵素反応を同時に行うことは困難であると考えられていた。
【0015】
さらに、G−1−Pを経由する方法以外の方法においても、β−1,4−グルカンからα−グルカンを合成する効率的な方法が存在しなかったので、結局、β−1,4−グルカンからα−グルカンを合成する、低コスト、簡便かつ効率的な方法は存在しなかった。
【0016】
β−1,4−グルカンからα−グルカンを産生する酵素反応には、グルコースが関与する。そのため、グルコース濃度を制御することによって、目的の酵素反応を効率的に行うことが可能になるとも考えられる。
【0017】
北岡ら(非特許文献2)は、スクロースからセロビオースを合成するシステムにおいて、セロビオース合成側に反応を進行させるためには、アクセプターとして必須な原料であるグルコースの濃度を、反応系内で低く保つことが重要であることを主張している。そのため、SPの作用により生じるフラクトースを、キシロースイソメラーゼを用いてグルコースに変換することで、グルコースを系外から添加することなく反応を進行させてセロビオースの収率を高めている。北岡らは、これは、グルコースがCBPのG−1−Pに対する拮抗阻害剤であるため、高濃度のグルコースの蓄積はCBPのセロビオース合成反応を著しく低下させるためであると説明している。従って、従来は、セロビオースを基質とする酵素反応においては、セロビオースの合成方向に反応を進めるためには反応液中のグルコース濃度を低下させ、逆にセロビオースの分解方向に反応を進めるためには反応液中のグルコース濃度を高めることが重要であると考えられていた。
【0018】
本発明では、CBPを用いてその基質であるセロビオースを分解する反応を包含する。上記知見に基づけば、グルコース濃度が高いことは、セロビオース合成反応が阻害されセロビオース分解にとって有利な条件であると当業者は考える。
【0019】
一方、2つの酵素を用いるセロビオースからアミロースへの変換反応において、CBPの反応の平衡は、G−1−P/リン酸比、グルコース/CBP比によってコントロールされるため、グルコースの濃度のみを下げたとしても全体の反応が、セロビオースからアミロースへの変換に有利になるかどうかは不明である。実際、セロビオースからスクロースを合成する系においては、グルコース濃度を低下させても、反応収率を上げることはできなかった(参考例2)。このことは、2種類のホスホリラーゼを組み合わせた複雑な反応系においては、副産物を消去しても反応効率が向上しないことを意味する。
【特許文献1】国際公開第02/097107号パンフレット
【非特許文献1】北岡ら、Denpun Kagaku,vol.39,No.4,1992,pp.281−283
【非特許文献2】北岡ら、Trends in Glycoscience and Glycotechnology,vol.14,No.75,2002,pp.35−50
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、食糧とはなりえないβ−1,4−グルカンを、複雑な製造工程を経ることなく効率良くα−グルカンに変換する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、β−1,4−グルカンホスホリラーゼの存在下でβ−グルカンを加リン酸分解してグルコース−1−リン酸を合成する反応と、α−グルカンホスホリラーゼの存在下でグルコース−1−リン酸とプライマーとを反応させてα−グルカンを合成する反応とをカップリングすることにより、β−1,4−グルカンからα−グルカンが効率よく合成されることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0022】
本発明者らはまた、従来の知見に反して、この反応系において、β−1,4−グルカンホスホリラーゼの存在下でβ−グルカンを加リン酸分解する際に生じるグルコースの濃度を減少させることにより、α−グルカンをより一層効率的に製造することができることを予想外に見出した。
【0023】
本発明の方法は、β−1,4−グルカンからα−グルカンを製造する方法であって、β−1,4−グルカンと、プライマーと、リン酸源と、β−1,4−グルカンホスホリラーゼと、α−1,4−グルカンホスホリラーゼを含む溶液を反応させて、α−グルカンを生産する工程を包含する。
【0024】
1つの実施形態では、上記β−1,4−グルカンは、セロビオースであり得、上記β−1,4−グルカンホスホリラーゼが、セロビオースホスホリラーゼであり得る。
【0025】
1つの実施形態では、上記β−1,4−グルカンは、重合度3以上のセロオリゴ糖であり得、上記β−1,4−グルカンホスホリラーゼは、セロデキストリンホスホリラーゼであり得る。
【0026】
1つの実施形態では、上記β−1,4−グルカンは、重合度3以上のセロオリゴ糖であり得、上記β−1,4−グルカンホスホリラーゼは、セロビオースホスホリラーゼおよびセロデキストリンホスホリラーゼであり得る。
【0027】
1つの実施形態では、上記生産工程において、上記α−グルカンの生産と同時に副生するグルコースを、上記溶液から除去する工程をさらに包含し得る。
【0028】
1つの実施形態では、上記溶液は、グルコースイソメラーゼまたはグルコースオキシダーゼをさらに含み得る。
【0029】
1つの実施形態では、上記溶液は、グルコースオキシダーゼおよびムタロターゼをさらに含み得る。
【0030】
1つの実施形態では、上記溶液は、カタラーゼまたはペルオキシダーゼをさらに含み得る。
【0031】
1つの実施形態では、上記リン酸源は、無機リン酸、グルコース−1−リン酸、または無機リン酸とグルコース−1−リン酸との混合物であり得る。
【0032】
1つの実施形態では、上記リン酸源の濃度は、1mM〜50mMであり得る。
【0033】
1つの実施形態では、上記α−グルカンが、アミロースである、請求項1に記載の方法。
【発明の効果】
【0034】
本発明の方法により、非消化性のセルロースを消化性の食品へと効率よく変換できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、本発明の製造方法において生じる反応の概略を示す。
【図2】図2は、β−1,4−グルカンとしてセロビオースを用い、β−1,4−グルカンホスホリラーゼとしてセロビオースホスホリラーゼを用いた場合の、本発明の製造方法において生じる反応の概略を示す。
【図3】図3は、セロビオースホスホリラーゼの濃度を変化させた場合のアミロース収率の変化を示す。
【図4】図4は、リン酸濃度を変化させた場合のアミロース収率の変化を示す。
【図5】図5は、セロビオース濃度と、プライマー濃度と、リン酸濃度との比率を一定としてセロビオース濃度を上昇させた場合のアミロース収率の変化を示す。
【図6】図6は、本発明の製造方法において、グルコースイソメラーゼ(GI)またはグルコースオキシダーゼ(GOx)+ムタロターゼ(MT)+ペルオキシダーゼ(POx)を添加した場合のアミロース収率の変化を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0036】
配列番号1は、合成DNAプライマー1の塩基配列であり;
配列番号2は、合成DNAプライマー2の塩基配列である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0038】
本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
【0039】
本明細書中では「α−グルカン」とは、D−グルコースを構成単位とする糖であって、α−1,4−グルコシド結合によって連結された糖単位を少なくとも2糖単位以上有する糖をいう。α−グルカンは、直鎖状、分岐状または環状の分子であり得る。直鎖状α−グルカンとα−1,4−グルカンとは同義語である。直鎖状α−グルカンでは、α−1,4−グルコシド結合によってのみ糖単位の間が連結されている。α−1,6−グルコシド結合を1つ以上含むα−グルカンは、分岐状α−グルカンである。α−グルカンは、好ましくは、直鎖状の部分をある程度含む。分岐のない直鎖状α−グルカンがより好ましい。本発明で製造されるα−グルカンは、好ましくは、アミロース、環状構造を有するグルカンまたは分岐構造を有するグルカンであり、より好ましくはアミロースである。1分子のα−グルカンに含まれる糖単位の数を、このα−グルカンの重合度という。
【0040】
α−グルカンは、場合によっては、分岐の数(すなわち、α−1,6−グルコシド結合の数)が少ないことが好ましい。このような場合、分岐の数は、代表的には0〜10000個、好ましくは0〜1000個、より好ましくは0〜500個、さらに好ましくは0〜100個、さらに好ましくは0〜50個、さらに好ましくは0〜25個、さらに好ましくは0個である。
【0041】
本発明の方法によって製造される分岐状α−グルカンでは、α−1,6−グルコシド結合を1としたときのα−1,6−グルコシド結合の数に対するα−1,4−グルコシド結合の数の比は、好ましくは1〜10000であり、より好ましくは10〜5000であり、さらに好ましくは50〜1000であり、さらに好ましくは100〜500である。
【0042】
α−1,6−グルコシド結合は、α−グルカン中に無秩序に分布していてもよいし、均質に分布していてもよい。α−グルカン中に糖単位で5個以上の直鎖状部分ができる程度の分布であることが好ましい。
【0043】
α−グルカンは、D−グルコースのみから構成されていてもよいし、α−グルカンの性質を損なわない程度に修飾された誘導体であってもよい。修飾されていないことが好ましい。α−グルカンの性質を損なわない程度の修飾としては、エステル化、エーテル化、架橋などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの修飾は、当該分野で公知の方法に従って行われ得る。
【0044】
α−グルカンは、代表的には約1×10以上、好ましくは約5×10以上、より好ましくは約1×10以上、さらに好ましくは約5×10以上、さらに好ましくは約1×10以上の分子量を有する。α−グルカンは、代表的には約1×10以下、好ましくは約5×10以下、さらに好ましくは約1×10以下の分子量を有する。
【0045】
当業者は、本発明の製造方法で用いられる基質(例えば、プライマー、β−1,4−グルカンなど)の量、酵素の量、反応時間などを適宜設定することによって所望の分子量のα−グルカンが得られることを容易に理解する。
【0046】
<α−グルカンの製造に用いる材料>
本発明の製造方法では、例えば、β−1,4−グルカンと、プライマーと、リン酸源と、β−1,4−グルカンホスホリラーゼと、α−1,4−グルカンホスホリラーゼを含む溶液を用いる。この溶液の調製においては、例えば、β−1,4−グルカンと、プライマーと、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸と、β−1,4−グルカンホスホリラーゼと、α−1,4−グルカンホスホリラーゼと、緩衝剤およびこれらを溶かしている溶媒を主な材料として用いる。これらの材料は通常、反応開始時に全て添加されるが、反応の途中でこれらのうちの任意の材料を追加して添加してもよい。
【0047】
本明細書において使用される用語「リン酸源」とは、CBPの触媒反応にリン酸を提供し得る分子をいい、無機リン酸(例えば、NaHPO、NaHPO、KHPOおよびKHPOのような無機リン酸塩)ならびに有機リン酸塩(例えば、グルコース−1−リン酸)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
本発明の製造方法では、溶液中にグルコースイソメラーゼまたはグルコースオキシダーゼをさらに含み得る。グルコースオキシダーゼを用いる場合、ムタロターゼをさらに含み得る。グルコースオキシダーゼを用いる場合はまた、本発明の溶液は、カタラーゼまたはペルオキシダーゼも含み得る。
【0049】
本発明の製造方法では、必要に応じて、枝切り酵素、ブランチングエンザイム、4−α−グルカノトランスフェラーゼおよびグリコーゲンデブランチングエンザイムからなる群より選択される酵素を用いることができる。枝切り酵素、ブランチングエンザイム、4−α−グルカノトランスフェラーゼおよびグリコーゲンデブランチングエンザイムからなる群より選択される酵素は、目的とするα−グルカンの構造に応じて、本発明の製造方法の最初から溶液中に添加してもよく、途中から溶液中に添加してもよい。
【0050】
(1.β−1,4−グルカン)
本明細書中では「β−1,4−グルカン」とは、D−グルコースを構成単位とする糖であって、β−1,4−グルコシド結合によって連結された糖単位を少なくとも2糖単位以上有する糖をいう。β−1,4−グルカンは、直鎖状の分子であり得る。直鎖状β−グルカンとβ−1,4−グルカンとセルロースとは同義語である。直鎖状β−グルカンでは、β−1,4−グルコシド結合によってのみ糖単位の間が連結されている。1分子のβ−1,4−グルカンに含まれる糖単位の数を、このβ−1,4−グルカンの重合度という。β−1,4−グルカンの重合度は、好ましくは、約2〜約10であり、より好ましくは約2〜約8であり、より好ましくは約2〜約5である。重合度が約2〜約10のβ−1,4−グルカンを、セロオリゴ糖ともいう。重合度が2のβ−1,4−グルカンを特に、セロビオースという。重合度が3のβ−1,4−グルカンをセロトリオースという。重合度が4のβ−1,4−グルカンをセロテトラオースという。β−1,4−グルカンの重合度が低いほど溶解度が高く、取り扱いが容易であるので、重合度の低いβ−1,4−グルカンがより好ましい。β−1,4−グルカンは、あらゆる植物中に存在する。β−1,4−グルカンは、植物から単離されたまま未改変のものであってもよく、植物から単離したものを化学的または酵素的に処理することによって得られたものであってもよい。β−1,4−グルカンはまた、古紙、建材、古布などの廃棄物から再生されるセルロースまたはそれから調製されたものであってもよい。例えば、植物から単離した高分子量のセルロースに対してセルラーゼを作用させることによって、より低分子量のセロオリゴ糖が得られる。植物からセロオリゴ糖を大量に生産する方法は当該分野で公知である。このような文献の例としては、特開2001−95594号公報が挙げられる。β−1,4−グルカンは、β−1,4−グルカンを含む植物破砕液から精製β−1,4−グルカンに至るいずれの生成段階のものとして提供されてもよい。本発明の方法で使用されるβ−1,4−グルカンは、純粋なものであることが好ましい。しかし、本発明で用いる酵素の作用を阻害しない限り、任意の他の夾雑物を含んでいてもよい。
【0051】
溶液中に含まれるβ−1,4−グルカンの濃度は、代表的には約0.1%〜約40%であり、好ましくは約0.5%〜約30%であり、より好ましくは約1%〜約20%であり、特に好ましくは約2%〜約15%であり、最も好ましくは約3%〜約12%である。なお、本明細書中でβ−1,4−グルカンの濃度は、Weight/Volumeで、すなわち、
(β−1,4−グルカンの重量)×100/(溶液の容量)
で計算する。β−1,4−グルカンの重量が多すぎると、溶液中に未反応のβ−1,4−グルカンが析出する場合がある。β−1,4−グルカンの使用量が少なすぎると、高温での反応において、反応自体は起こるものの、収率が低下する場合がある。
【0052】
本明細書中では、溶液中のβ−1,4−グルカンモル濃度を、反応溶液中の無機リン酸のモル濃度とグルコース−1−リン酸のモル濃度との合計によって除算することによって得られる比率を、β−1,4−グルカン:リン酸比率という。すなわち、以下の通りである:
【0053】
【数1】

全反応材料を投入して反応を始めて、反応中に材料の追加をしないのであれば、β−1,4−グルカン:リン酸比率は反応開始時が最大である。反応開始時のβ−1,4−グルカン:リン酸比率は、任意の比率であり得るが、好ましくは、約0.01以上であり、より好ましくは約0.03以上であり、さらに好ましくは約0.06以上であり、特に好ましくは約0.1以上であり、最も好ましくは約0.1〜約0.6である。
【0054】
(2.プライマー)
本発明の方法で用いられるプライマーとは、α−グルカンの合成においてグリコシド残基を付加するための出発物質として作用する分子をいう。なお、本明細書中では、グリコシド残基とグルコース残基とは交換可能に使用され得る。プライマーは、G−1−Pのグリコシド残基のアクセプターとして作用する分子ともいうことができる。プライマーは、α−1,4−グルコシド結合で糖単位が結合できる遊離部分を1個以上有すれば、他の部分は糖以外の部分によって形成されていてもよい。本発明の方法では、反応開始時に含まれるプライマーに対して1つのグリコシド残基がα−1,4結合で転移することによって、このプライマーよりも重合度が1大きいα−グルカンが形成される。形成されたこのα−グルカンは、同じ溶液中で再度アクセプターとして作用することができる。このようにして、本発明の方法では、プライマーに対してグリコシド残基がα−1,4−グルコシド結合で順次結合されて、任意の重合度のα−グルカンが合成される。プライマーとしては、グルカンホスホリラーゼによって糖単位が付加され得る任意の糖が挙げられる。
【0055】
プライマーは、本発明の反応の出発物質として作用し得ればよく、例えば、本発明の方法によって合成されたα−グルカンをプライマーとして用いて、本発明の方法によってα−1,4−グルコシド鎖を再度伸長することも可能である。
【0056】
プライマーは、α−1,4−グルコシド結合のみを含むα−1,4−グルカンであっても、α−1,6−グルコシド結合を部分的に有してもよい。当業者は、所望のグルカンに応じて、適切なプライマーを容易に選択し得る。直鎖状のアミロースを合成する場合には、α−1,4−グルコシド結合のみを含むα−1,4−グルカンをプライマーとして用いれば、枝切り酵素などを用いずに直鎖状アミロースを合成できるので好ましい。
【0057】
プライマーの例としては、マルトオリゴ糖、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、プルラン、カップリングシュガー、澱粉およびこれらの誘導体が挙げられる。
【0058】
マルトオリゴ糖は、本明細書中では、約2個〜約10個のグルコースが脱水縮合して生じた物質であって、α−1,4結合によって連結された物質をいう。マルトオリゴ糖は、好ましくは約3個〜約10個の糖単位、より好ましくは約4個〜約10個の糖単位、さらに好ましくは約5個〜約10個の糖単位を有する。マルトオリゴ糖の例としては、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、マルトオクタオース、マルトノナオース、マルトデカオースなどのマルトオリゴ糖が挙げられる。1つの実施形態では、マルトオリゴ糖は、好ましくはマルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースまたはマルトヘプタオースであり、より好ましくはマルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースまたはマルトヘプタオースであり、さらに好ましくはマルトテトラオースである。マルトオリゴ糖は、単品であってもよいし、複数のマルトオリゴ糖の混合物であってもよい。コストが低いため、マルトオリゴ糖の混合物が好ましい。1つの実施態様では、マルトオリゴ糖の混合物は、マルトテトラオースの重合度以上の重合度のマルトオリゴ糖に加えて、マルトトリオース、マルトースおよびグルコースのうちの少なくとも1つを含有する。ここで、「マルトテトラオースの重合度以上の重合度のマルトオリゴ糖」とは、重合度4以上のマルトオリゴ糖をいう。オリゴ糖は、直鎖状のオリゴ糖であってもよいし、分枝状のオリゴ糖であってもよい。オリゴ糖は、その分子内に、環状部分を有し得る。本発明では、直鎖状のオリゴ糖が好ましい。
【0059】
アミロースとは、α−1,4結合によって連結されたグルコース単位から構成される直鎖分子である。アミロースは、天然の澱粉中に含まれる。
【0060】
アミロペクチンとは、α−1,4結合によって連結されたグルコース単位に、α1,6結合でグルコース単位が連結された、分枝状分子である。アミロペクチンは天然の澱粉中に含まれる。アミロペクチンとしては、例えば、アミロペクチン100%からなるワキシーコーンスターチが用いられ得る。例えば、重合度が約1×10程度以上のアミロペクチンが原料として用いられ得る。
【0061】
グリコーゲンは、グルコースから構成されるグルカンの一種であり、高頻度の枝分かれを有するグルカンである。グリコーゲンは、動植物の貯蔵多糖としてほとんどあらゆる細胞に顆粒状態で広く分布している。グリコーゲンは、植物中では、例えば、トウモロコシの種子などに存在する。グリコーゲンは、代表的には、グルコースのα−1,4−結合の糖鎖に対して、グルコースおよそ3単位おきに1本程度の割合で、平均重合度12〜18のグルコースのα−1,4−結合の糖鎖がα−1,6−結合で結合している。また、α−1,6−結合で結合している分枝にも同様にグルコースのα−1,4−結合の糖鎖がα−1,6−結合で結合している。そのため、グリコーゲンは網状構造を形成する。
【0062】
グリコーゲンの分子量は代表的には約1×10〜約1×10であり、好ましくは約1×10〜約1×10である。
【0063】
プルランは、マルトトリオースが規則正しく、階段状にα−1,6−結合した、分子量約10万〜約30万(例えば、約20万)のグルカンである。プルランは、例えば、澱粉を原料として黒酵母Aureobasidium pullulansを培養することにより製造される。プルランは、例えば、林原商事から入手され得る。
【0064】
カップリングシュガーは、ショ糖、グルコシルスクロース、マルトシルスクロースを主成分とする混合物である。カップリングシュガーは、例えば、ショ糖と澱粉との混合溶液にBacillus megateriumなどが産生するサイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させることにより製造される。カップリングシュガーは、例えば、林原商事から入手され得る。
【0065】
澱粉は、アミロースとアミロペクチンとの混合物である。澱粉としては、通常市販されている澱粉であればどのような澱粉でも用いられ得る。澱粉に含まれるアミロースとアミロペクチンとの比率は、澱粉を産生する植物の種類によって異なる。モチゴメ、モチトウモロコシなどの有する澱粉のほとんどはアミロペクチンである。他方、アミロースのみからなり、かつアミロペクチンを含まない澱粉は、通常の植物からは得られない。
【0066】
澱粉は、天然の澱粉、澱粉分解物および化工澱粉に区分される。
【0067】
天然の澱粉は、原料により、いも類澱粉および穀類澱粉に分けられる。いも類澱粉の例としては、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、くず澱粉、およびわらび澱粉などが挙げられる。穀類澱粉の例としては、コーンスターチ、小麦澱粉、および米澱粉などが挙げられる。天然の澱粉の例は、澱粉を生産する植物の品種改良の結果、アミロースの含量を50%〜70%まで高めたハイアミロース澱粉(例えば、ハイアミロースコーンスターチ)である。天然の澱粉の別の例は、澱粉を生産する植物の品種改良の結果、アミロースを含まないワキシー澱粉である。
【0068】
可溶性澱粉は、天然の澱粉に種々の処理を施すことにより得られる、水溶性の澱粉をいう。
【0069】
化工澱粉は、天然の澱粉に加水分解、エステル化、またはα化などの処理を施して、より利用しやすい性質を持たせた澱粉である。糊化開始温度、糊の粘度、糊の透明度、老化安定性などを様々な組み合わせで有する幅広い種類の化工澱粉が入手可能である。化工澱粉の種類には種々ある。このような澱粉の例は、澱粉の糊化温度以下において澱粉粒子を酸に浸漬することにより、澱粉分子は切断するが、澱粉粒子は破壊していない澱粉である。
【0070】
澱粉分解物は、澱粉に酵素処理または加水分解などの処理を施して得られる、処理前よりも分子量が小さいオリゴ糖もしくは多糖である。澱粉分解物の例としては、澱粉枝切り酵素分解物、澱粉ホスホリラーゼ分解物および澱粉部分加水分解物が挙げられる。
【0071】
澱粉枝切り酵素分解物は、澱粉に枝切り酵素を作用させることによって得られる。枝切り酵素の作用時間を種々に変更することによって、任意の程度に分岐部分(すなわち、α−1,6−グルコシド結合)が切断された澱粉枝切り酵素分解物が得られる。枝切り酵素分解物の例としては、糖単位数4〜10000のうちα−1,6−グルコシド結合を1個〜20個有する分解物、糖単位数3〜500のα−1,6−グルコシド結合を全く有さない分解物、マルトオリゴ糖およびアミロースが挙げられる。澱粉枝切り酵素分解物の場合、分解された澱粉の種類によって得られる分解物の分子量の分布が異なり得る。澱粉枝切り酵素分解物は、種々の長さの糖鎖の混合物であり得る。
【0072】
澱粉ホスホリラーゼ分解物は、澱粉にグルカンホスホリラーゼ(ホスホリラーゼともいう)を作用させることによって得られる。グルカンホスホリラーゼは、澱粉の非還元性末端からグルコース残基を1糖単位ずつ他の基質へと転移させる。グルカンホスホリラーゼは、α−1,6−グルコシド結合を切断することができないので、グルカンホスホリラーゼを澱粉に充分に長時間作用させると、α−1,6−グルコシド結合の部分で切断が終わった分解物が得られる。本発明では、澱粉ホスホリラーゼ分解物の有する糖単位数は、好ましくは約10〜約100,000、より好ましくは約50〜約50,000、さらにより好ましくは約100〜約10,000である。澱粉ホスホリラーゼ分解物は、分解された澱粉の種類によって得られる分解産物の分子量の分布が異なり得る。澱粉ホスホリラーゼ分解物は、種々の長さの糖鎖の混合物であり得る。
【0073】
デキストリンおよび澱粉部分加水分解物は、澱粉を、酸、アルカリ、酵素などの作用によって部分的に分解して得られる分解物をいう。本発明では、デキストリンおよび澱粉部分加水分解物の有する糖単位数は、好ましくは約10〜約100,000、より好ましくは約50〜約50,000、さらにより好ましくは約100〜約10,000である。デキストリンおよび澱粉部分加水分解物の場合、分解された澱粉の種類によって得られる分解産物の分子量の分布が異なり得る。デキストリンおよび澱粉部分加水分解物は、種々の長さを持つ糖鎖の混合物であり得る。
【0074】
澱粉は、可溶性澱粉、ワキシー澱粉、ハイアミロース澱粉、澱粉枝切り酵素分解物、澱粉ホスホリラーゼ分解物、澱粉部分加水分解物、化工澱粉、およびこれらの誘導体からなる群から選択されることが好ましい。
【0075】
本発明の方法では、上記各種糖の誘導体は、プライマーとして用いられ得る。例えば、上記糖のアルコール性水酸基の少なくとも1つが、ヒドロキシアルキル化、アルキル化、アセチル化、カルボキシメチル化、硫酸化、あるいはリン酸化された誘導体などが用いられ得る。さらに、これらの2種以上の誘導体の混合物が原料として用いられ得る。
【0076】
(3.無機リン酸またはグルコース−1−リン酸)
本明細書中において、無機リン酸などのリン酸源とは、CBPの反応においてリン酸基質を供与し得る物質をいう。ここでリン酸基質とは、グルコース−1−リン酸のリン酸部分(moiety)の原料となる物質をいう。β−1,4−グルカンホスホリラーゼによって触媒されるβ−1,4−グルカン加リン酸分解において、無機リン酸はリン酸イオンの形態で基質として作用していると考えられる。当該分野ではこの基質を慣習的に無機リン酸というので、本明細書中でも、この基質を無機リン酸という。無機リン酸には、リン酸およびリン酸の無機塩が含まれる。通常、無機リン酸は、アルカリ金属イオンなどの陽イオンを含む水中で使用される。この場合、リン酸とリン酸塩とリン酸イオンとは平衡状態になるので、リン酸とリン酸塩とは区別をしにくい。従って、便宜上、リン酸とリン酸塩とを合わせて無機リン酸という。本発明において、無機リン酸は好ましくは、リン酸の任意の金属塩であり、より好ましくはリン酸のアルカリ金属塩である。無機リン酸の好ましい具体例としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸(HPO)、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウムなどが挙げられる。
【0077】
無機リン酸は、反応開始時のCBP−GP反応系において、1種類のみ含有されてもよく、複数種類含有されてもよい。
【0078】
無機リン酸は、例えば、ポリリン酸(例えば、ピロリン酸、三リン酸および四リン酸)のようなリン酸縮合体またはその塩を、物理的、化学的または酵素反応などによって分解したものを反応溶液に添加することによって提供され得る。
【0079】
本明細書において、グルコース−1−リン酸とは、グルコース−1−リン酸(C13P)およびその塩をいう。グルコース−1−リン酸は好ましくは、狭義のグルコース−1−リン酸(C13P)の任意の金属塩であり、より好ましくはグルコース−1−リン酸(C13P)の任意のアルカリ金属塩である。グルコース−1−リン酸の好ましい具体例としては、グルコース−1−リン酸二ナトリウム、グルコース−1−リン酸二カリウム、グルコース−1−リン酸(C13P)、などが挙げられる。本明細書において、括弧書きで化学式を書いていないグルコース−1−リン酸は、広義のグルコース−1−リン酸、すなわち狭義のグルコース−1−リン酸(C13P)およびその塩を示す。
【0080】
グルコース−1−リン酸は反応開始時のCBP−GP反応系において、1種類のみ含有されてもよく、複数種類含有されていてもよい。
【0081】
本発明の方法において、反応開始時の反応溶液中のリン酸とグルコース−1−リン酸との間の比率は、任意の比率であり得る。
【0082】
反応溶液中に含まれる無機リン酸のモル濃度とグルコース−1−リン酸のモル濃度との合計は、代表的には約0.1mM〜約1000mM、好ましくは約1mM〜約500mM、より好ましくは約1mM〜約50mMであり、さらにより好ましくは約5mM〜約30mMである。無機リン酸およびグルコース−1−リン酸の量が多すぎると、反応自体は起こるものの、α−グルカンの収率が低下する場合がある。これらの使用量が少なすぎると、α−グルカンの合成に時間がかかる場合がある。
【0083】
本発明の方法における溶液中の無機リン酸の含有量は、当該分野で公知の方法によって定量され得る。この溶液中のグルコース−1−リン酸の含有量は、当該分野で公知の方法によって定量され得る。反応に関与しないリン含有物質を使わない場合、そのような場合は原子吸光法によって無機リン酸およびグルコース−1−リン酸の合計含有量を測定してもよい。
【0084】
無機リン酸は、例えば、リン酸イオンとして以下の方法により求められる。無機リン酸を含む溶液(200μl)に対し、800μlのモリブデン試薬(15mM モリブデン酸アンモニウム、100mM 酢酸亜鉛)を混合し、続いて200μlの568mMアスコルビン酸(pH5.0)を加えて攪拌し、反応系を得る。この反応系を、30℃で20分間保持した後、分光光度計を用いて850nmでの吸光度を測定する。濃度既知の無機リン酸を用いて同様に吸光度を測定し、標準曲線を作成する。この標準曲線に試料で得られた吸光度を当てはめ、試料中の無機リン酸を求める。この定量法では、無機リン酸の量が定量され、グルコース−1−リン酸の量は定量されない。
【0085】
グルコース−1−リン酸は、例えば、以下の方法により定量され得る。300μlの測定試薬(200mM Tris−HCl(pH7.0)、3mM NADP、15mM 塩化マグネシウム、3mM EDTA、15μMグルコース−1,6−二リン酸、6μg/ml ホスホグルコムターゼ、6μg/ml グルコース−6−リン酸脱水素酵素)に、適切に希釈したグルコース−1−リン酸を含む溶液600μlを加えて攪拌し、反応系を得る。この反応系を、30℃で30分間保持した後、分光光度計を用いて340nmでの吸光度を測定する。濃度既知のグルコース−1−リン酸ナトリウムを用いて同様に吸光度を測定し、標準曲線を作成する。この標準曲線に試料で得られた吸光度を当てはめ、試料中のグルコース−1−リン酸濃度を求める。通常は、1分間に1μmolのグルコース−1−リン酸を生成する活性を1単位とする。この定量法では、グルコース−1−リン酸のみが定量され、無機リン酸の量は定量されない。
【0086】
(4.β−1,4−グルカンホスホリラーゼ)
本明細書中では、「β−1,4−グルカンホスホリラーゼ」とは、β−1,4−グルカンの非還元末端側グルコース残基をリン酸基に転移して加リン酸分解を行う任意の酵素をいう。β−1,4−グルカンホスホリラーゼは、加リン酸分解の逆反応であるβ−1,4−グルカン合成反応をも触媒し得る。反応がどちらの方向に進むかは、基質の量に依存するが、この反応は、β−1,4−グルカン合成反応の方向に進みやすい傾向がある。β−1,4−グルカンホスホリラーゼによって触媒される反応は、次式により示される:
【0087】
【化1】

なお、この式において、出発時のβ−1,4−グルカンの重合度が2の場合、β−1,4−グルカンの代わりにグルコースが得られる。
【0088】
β−1,4−グルカンホスホリラーゼは好ましくは、セロビオースホスホリラーゼ(EC:2.4.1.20)またはセロデキストリンホスホリラーゼ(EC:2.4.1.49)である。
【0089】
セロビオースホスホリラーゼは、セロビオースの非還元末端側グルコース残基をリン酸基に転移して加リン酸分解を行う酵素をいう。セロビオースホスホリラーゼによって触媒される反応は、次式により示される:
【0090】
【化2】

セロデキストリンホスホリラーゼは、重合度3以上のセロオリゴ糖の非還元末端側グルコース残基をリン酸基に転移して加リン酸分解を行う酵素をいう。セロオリゴ糖は、セロデキストリンとも呼ばれる。セロデキストリンホスホリラーゼによって触媒される反応は、次式により示される:
【0091】
【化3】

本発明の方法においては、β−1,4−グルカンがセロビオースである場合、β−1,4−グルカンホスホリラーゼとしてセロビオースホスホリラーゼを用いることが好ましい。本発明の方法においては、β−1,4−グルカンがセロオリゴ糖である場合、β−1,4−グルカンホスホリラーゼとしてセロデキストリンホスホリラーゼを用いることが好ましい。本発明の方法においてはまた、β−1,4−グルカンがセロオリゴ糖である場合、β−1,4−グルカンホスホリラーゼとしてセロビオースホスホリラーゼおよびセロデキストリンホスホリラーゼを用いることが好ましい。この場合、セロデキストリンホスホリラーゼの作用によってセロオリゴ糖が分解されることによって生じたグルコース−1−リン酸がα−グルカン合成に使用され、かつ最終的に生じたセロビオースをセロビオースホスホリラーゼによって分解し得るので、セロオリゴ糖からα−グルカンの合成速度がより速くなる。
【0092】
β−1,4−グルカンホスホリラーゼは、自然界では種々の生物に含まれる。β−1,4−グルカンホスホリラーゼを産生する生物の例としては、Clostridium属の生物(例えば、Clostridium thermocellumおよびClostridium sterocorarium)、Cellvibrio属の生物(例えば、Cellvibrio gilvus)、Thermotoga属の生物(例えば、Thermotoga neapolitanaおよびThermotoga maritima)、Ruminococcas属の生物(例えば、Ruminococcas flavofaciens)、Fomes属の生物(例えば、Fomes annos)、Cellulomonas属の生物およびErwinia属の生物が挙げられる。β−1,4−グルカンホスホリラーゼを産生する生物は好ましくは、Clostridium thermocellum、Clostridium sterocorarium、Cellvibrio gilvus、Thermotoga neapolitana、Thermotoga maritima、Ruminococcas flavofaciens、Fomes annos、Cellulomonas sp.、Erwinia sp.からなる群より選択される。β−1,4−グルカンホスホリラーゼは、植物由来であってもよい。
【0093】
セロビオースホスホリラーゼは、自然界では種々の生物に含まれる。セロビオースホスホリラーゼを産生する生物の例としては、Clostridium属の生物(例えば、Clostridium thermocellumおよびClostridium sterocorarium)、Cellvibrio属の生物(例えば、Cellvibrio gilvus)、Thermotoga属の生物(例えば、Thermotoga neapolitanaおよびThermotoga maritima)、Ruminococcas属の生物(例えば、Ruminococcas flavofaciens)、Fomes属の生物(例えば、Fomes annos)、Cellulomonas属の生物およびErwinia属の生物が挙げられる。セロビオースホスホリラーゼを産生する生物は好ましくは、Clostridium thermocellum、Clostridium sterocorarium、Cellvibrio gilvus、Thermotoga neapolitana、Thermotoga maritima、Ruminococcas flavofaciens、Fomes annos、Cellulomonas sp.、Erwinia sp.からなる群より選択され、より好ましくはClostridium thermocellumまたはCellvibrio gilvusであり、最も好ましくはClostridium thermocellumである。セロビオースホスホリラーゼは、植物由来であってもよい。
【0094】
セロデキストリンホスホリラーゼは、自然界では種々の生物に含まれる。セロデキストリンホスホリラーゼを産生する生物の例としては、Clostridium属の生物(例えば、Clostridium thermocellumおよびClostridium sterocorarium)、Cellvibrio属の生物(例えば、Cellvibrio gilvus)、Thermotoga属の生物(例えば、Thermotoga neapolitanaおよびThermotoga maritima)、Ruminococcas属の生物(例えば、Ruminococcas flavofaciens)、Fomes属の生物(例えば、Fomes annos)、Cellulomonas属の生物およびErwinia属の生物が挙げられる。セロデキストリンホスホリラーゼを産生する生物は好ましくは、Clostridium thermocellum、Clostridium sterocorarium、Cellvibrio gilvus、Thermotoga neapolitana、Thermotoga maritima、Ruminococcas flavofaciens、Fomes annos、Cellulomonas sp.、Erwinia sp.からなる群より選択され、より好ましくはClostridium thermocellumまたはCellulomonas sp.であり、最も好ましくはClostridium thermocellumである。セロデキストリンホスホリラーゼホスホリラーゼは、植物由来であってもよい。
【0095】
β−1,4−グルカンホスホリラーゼ(好ましくはセロビオースホスホリラーゼまたはセロデキストリンホスホリラーゼ、最も好ましくはセロビオースホスホリラーゼ)は、β−1,4−グルカンホスホリラーゼ(好ましくはセロビオースホスホリラーゼまたはセロデキストリンホスホリラーゼ、最も好ましくはセロビオースホスホリラーゼ)を産生する任意の生物由来であり得る。β−1,4−グルカンホスホリラーゼは、ある程度の耐熱性を有することが好ましい。β−1,4−グルカンホスホリラーゼは、耐熱性が高ければ高いほど好ましい。例えば、β−1,4−グルカンホスホリラーゼを1.4mMの2−メルカプトエタノールを含む50mMリン酸緩衝液(pH7.5)中で55℃にて20分間加熱した場合に加熱前のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼの活性の50%以上の活性を保持するものであることが好ましく、60%以上の活性を保持するものであることがより好ましく、70%以上の活性を保持するものであることがさらに好ましく、80%以上の活性を保持するものであることが特に好ましく、85%以上の活性を保持するものであることが最も好ましい。β−1,4−グルカンホスホリラーゼは、好ましくはClostridium thermocellum、Clostridium sterocorarium、Cellvibrio gilvus、Thermotoga neapolitana、Thermotoga maritima、Ruminococcas flavofaciens、Fomes annos、Cellulomonas sp.、Erwinia sp.からなる群より選択される細菌由来である。
【0096】
β−1,4−グルカンホスホリラーゼがセロビオースホスホリラーゼである場合、セロビオースホスホリラーゼは、好ましくはClostridium thermocellum、Clostridium sterocorarium、Cellvibrio gilvus、Thermotoga neapolitana、Thermotoga maritima、Ruminococcas flavofaciens、Fomes annos、Cellulomonas sp.、Erwinia sp.からなる群より選択される細菌由来であり、より好ましくはClostridium thermocellumまたはCellvibrio gilvus由来であり、最も好ましくはClostridium thermocellum由来である。
【0097】
β−1,4−グルカンホスホリラーゼがセロビオースホスホリラーゼである場合、セロビオースホスホリラーゼは、好ましくはClostridium thermocellum、Clostridium sterocorarium、Cellvibrio gilvus、Thermotoga neapolitana、Thermotoga maritima、Ruminococcas flavofaciens、Fomes annos、Cellulomonas sp.、Erwinia sp.からなる群より選択される細菌由来であり、より好ましくはClostridium thermocellumまたはCellulomonas sp.由来であり、最も好ましくはClostridium thermocellum由来である。
【0098】
本明細書中では、酵素がある生物に「由来する」とは、その生物から直接単離したことのみを意味するのではなく、その生物を何らかの形で利用することによりその酵素が得られることをいう。例えば、その生物から入手したその酵素をコードする遺伝子を大腸菌に導入して、その大腸菌から酵素を単離する場合も、その酵素はその生物に「由来する」という。
【0099】
本発明で用いられるβ−1,4−グルカンホスホリラーゼは、上記のような自然界に存在する、β−1,4−グルカンホスホリラーゼを産生する生物から直接単離され得る。本発明で用いられるβ−1,4−グルカンホスホリラーゼは、上記の生物から単離したβ−1,4−グルカンホスホリラーゼをコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物(例えば、細菌、真菌など)から単離してもよい。
【0100】
本発明の方法で用いられるβ−1,4−グルカンホスホリラーゼは、例えば、以下のようにして調製され得る。まず、β−1,4−グルカンホスホリラーゼを産生する微生物(例えば、細菌、真菌など)を培養する。この微生物は、β−1,4−グルカンホスホリラーゼを直接生産する微生物であってもよい。また、β−1,4−グルカンホスホリラーゼをコードする遺伝子をクローン化し、得られた遺伝子でβ−1,4−グルカンホスホリラーゼ発現に有利な微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えして組換えされた微生物を得、得られた微生物からβ−1,4−グルカンホスホリラーゼを得てもよい。
【0101】
β−1,4−グルカンホスホリラーゼ遺伝子での遺伝子組換えに用いられる微生物は、β−1,4−グルカンホスホリラーゼの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。β−1,4−グルカンホスホリラーゼは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えに用いることが好ましい。β−1,4−グルカンホスホリラーゼの遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を用いて産生されるβ−1,4−グルカンホスホリラーゼは、アミラーゼを実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。
【0102】
クローン化した遺伝子での微生物(例えば、細菌、真菌など)の遺伝子組換えは、当業者に周知の方法に従って行われ得る。クローン化した遺伝子を用いる場合、この遺伝子を、構成性プロモーターまたは誘導性プロモーターに作動可能に連結することが好ましい。「作動可能に連結する」とは、プロモーターと遺伝子とが、そのプロモーターによって遺伝子の発現が調節されるように連結されることをいう。誘導性プロモーターを用いる場合、培養を、誘導条件下で行うことが好ましい。種々の誘導性プロモーターは当業者に公知である。
【0103】
クローン化した遺伝子について、生産されるβ−1,4−グルカンホスホリラーゼが菌体外に分泌されるように、シグナルペプチドをコードする塩基配列をこの遺伝子に連結し得る。シグナルペプチドをコードする塩基配列は当業者に公知である。
【0104】
当業者は、β−1,4−グルカンホスホリラーゼを生産するために、微生物(例えば、細菌、真菌など)の培養の条件を適切に設定し得る。微生物の培養に適切な培地、各誘導性プロモーターに適切な誘導条件などは当業者に公知である。
【0105】
例えば、発現されたβ−1,4−グルカンホスホリラーゼが形質転換細胞内に蓄積する場合、形質転換細胞を適切な条件下で培養した後、培養物を遠心分離または濾過することによって細胞を回収し、次いで適切な緩衝液に懸濁する。次いで超音波処理などにより細胞を破砕した後、遠心分離もしくは濾過することによって上清を得る。あるいは、発現されたβ−1,4−グルカンホスホリラーゼが形質転換細胞外に分泌される場合、このようにして形質転換細胞を培養した後、培養物を遠心分離または濾過することによって細胞を分離して上清を得る。β−1,4−グルカンホスホリラーゼが形質転換細胞内に蓄積する場合も、形質転換細胞外に分泌される場合も、このようにして得られたβ−1,4−グルカンホスホリラーゼ含有上清を通常の手段(例えば、塩析法、溶媒沈澱、限外濾過)を用いて濃縮し、β−1,4−グルカンホスホリラーゼを含む画分を得る。この画分を濾過、あるいは遠心分離、脱塩処理などの処理を行い粗酵素液を得る。さらにこの粗酵素液を、凍結乾燥、等電点電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、晶出などの通常の酵素の精製手段を適宜組み合わせることによって、比活性が向上した粗酵素あるいは精製酵素が得られる。α−アミラーゼなどのグルカンを加水分解する酵素が含まれていなければ、粗酵素をそのまま、例えば、α−グルカンの製造に用い得る。
【0106】
反応開始時の溶液中に含まれるβ−1,4−グルカンホスホリラーゼの量は、反応開始時の溶液中のβ−1,4−グルカンに対して、代表的には約0.01〜1,000U/g β−1,4−グルカン、好ましくは約0.05〜500U/g β−1,4−グルカン、より好ましくは約0.1〜100U/g β−1,4−グルカンであり、特に好ましくは約0.5〜50U/g β−1,4−グルカンであり、最も好ましくは約1〜7U/ β−1,4−グルカンである。β−1,4−グルカンホスホリラーゼの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、反応自体は起こるものの、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0107】
β−1,4−グルカンホスホリラーゼは、精製されていても未精製であってもよい。β−1,4−グルカンホスホリラーゼは、固定化されていても固定化されていなくともよい。β−1,4−グルカンホスホリラーゼは、固定化されることが好ましい。固定化の方法としては、担体結合法(たとえば、共有結合法、イオン結合法、または物理的吸着法)、架橋法または包括法(格子型またはマイクロカプセル型)など、当業者に周知の方法が使用され得る。β−1,4−グルカンホスホリラーゼは、担体上に固定化されていることが好ましい。
【0108】
(5.α−1,4−グルカンホスホリラーゼ)
α−1,4−グルカンホスホリラーゼ(EC:2.4.1.1)とは、α−1,4−グルカン(重合度n)の加リン酸分解による、α−1,4−グルカン(重合度n−1)とα−D−グルコース−1−リン酸との産生を触媒する酵素の総称であり、ホスホリラーゼ、スターチホスホリラーゼ、グリコーゲンホスホリラーゼ、マルトデキストリンホスホリラーゼなどと呼ばれる場合もある。グルカンホスホリラーゼは、加リン酸分解の逆反応である、α−1,4−グルカン(重合度n−1)およびα−D−グルコース−1−リン酸からα−1,4−グルカン(重合度n)を合成する反応をも触媒し得る。反応がどちらの方向に進むかは、基質の量に依存する。生体内では、無機リン酸の量が多いので、グルカンホスホリラーゼは加リン酸分解の方向に反応が進む。本発明の方法では、無機リン酸は、β−1,4−グルカンの加リン酸分解に使われ、反応溶液中に含まれる無機リン酸の量が少ないので、α−グルカンの合成の方向に反応が進む。
【0109】
α−1,4−グルカンホスホリラーゼは、デンプンまたはグリコーゲンを貯蔵し得る種々の植物、動物および微生物中に普遍的に存在すると考えられる。
【0110】
α−1,4−グルカンホスホリラーゼを産生する植物の例としては、藻類、ジャガイモ(馬鈴薯ともいう)、サツマイモ(甘藷ともいう)、ヤマイモ、サトイモ、キャッサバなどの芋類、キャベツ、ホウレンソウなどの野菜類、トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、アワなどの穀類、えんどう豆、大豆、小豆、うずら豆などの豆類などが挙げられる。
【0111】
α−1,4−グルカンホスホリラーゼを産生する動物の例としては、ヒト、ウサギ、ラット、ブタなどの哺乳類などが挙げられる。
【0112】
α−1,4−グルカンホスホリラーゼを産生する微生物の例としては、Thermus aquaticus、Bacillus stearothermophilus、Deinococcus radiodurans、Thermococcus litoralis、Streptomyces coelicolor、Pyrococcus horikoshi、Mycobacterium tuberculosis、Thermotoga maritima、Aquifex aeolicus、Methanococcus Jannaschii、Pseudomonas aeruginosa、Chlamydia pneumoniae、Chlorella vulgaris、Agrobacterium tumefaiens、Clostridium pasteurianum、Klebsiella pneumoniae、Synecococcus sp.、Synechocystis sp.、E.coli、Neurospora crassa、Saccharomyces cerevisiae、Chlamydomonas sp.などが挙げられる。α−1,4−グルカンホスホリラーゼを産生する生物はこれらに限定されない。
【0113】
本発明で用いられるα−1,4−グルカンホスホリラーゼは、ジャガイモ、Thermus aquaticus、Bacillus stearothermophilusに由来することが好ましく、ジャガイモに由来することがより好ましい。本発明で用いられるα−1,4−グルカンホスホリラーゼは、反応至適温度が高いことが好ましい。反応至適温度が高いα−1,4−グルカンホスホリラーゼは、例えば、高度好熱細菌に由来し得る。
【0114】
本発明で用いられるα−1,4−グルカンホスホリラーゼは、上記のような自然界に存在する、α−1,4−グルカンホスホリラーゼを産生する動物、植物、および微生物から直接単離され得る。
【0115】
本発明で用いられるα−1,4−グルカンホスホリラーゼは、これらの動物、植物または微生物から単離したα−1,4−グルカンホスホリラーゼをコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物(例えば、細菌、真菌など)から単離してもよい。
【0116】
α−1,4−グルカンホスホリラーゼは、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に、遺伝子組換えされた微生物から得られ得る。
【0117】
遺伝子組換えに用いる微生物(例えば、細菌、真菌など)は、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に、α−1,4−グルカンホスホリラーゼの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。α−1,4−グルカンホスホリラーゼは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えに用いることが好ましい。α−1,4−グルカンホスホリラーゼの遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を用いて産生されるα−1,4−グルカンホスホリラーゼは、アミラーゼを実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。
【0118】
遺伝子組換えによって得られたα−1,4−グルカンホスホリラーゼの生産および精製は、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に行われ得る。
【0119】
反応開始時の溶液中に含まれるα−1,4−グルカンホスホリラーゼの量は、反応開始時の溶液中のβ−1,4−グルカンに対して、代表的には約0.05〜1,000U/g β−1,4−グルカン、好ましくは約0.1〜500U/g β−1,4−グルカン、より好ましくは約0.5〜100U/g β−1,4−グルカンであり、特に好ましくは約1〜80U/g β−1,4−グルカンであり、最も好ましくは約10〜50U/g β−1,4−グルカンである。α−1,4−グルカンホスホリラーゼの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、反応自体は起こるものの、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0120】
α−1,4−グルカンホスホリラーゼは、精製されていても未精製であってもよい。α−1,4−グルカンホスホリラーゼは、固定化されていても固定化されていなくともよい。α−1,4−グルカンホスホリラーゼは、固定化されることが好ましい。固定化の方法としては、担体結合法(たとえば、共有結合法、イオン結合法、または物理的吸着法)、架橋法または包括法(格子型またはマイクロカプセル型)など、当業者に周知の方法が使用され得る。α−1,4−グルカンホスホリラーゼは、担体上に固定化されていることが好ましい。α−1,4−グルカンホスホリラーゼはまた、β−1,4−グルカンホスホリラーゼと同じ担体上に固定化されていてもよいし、別の担体上に固定化されていてもよい。同じ担体上に固定化されていることが好ましい。
【0121】
(6.グルコースイソメラーゼ(EC:5.3.1.5))
本発明の製造方法においては、溶液液中にグルコースイソメラーゼをさらに含むことが好ましい。溶液中にグルコースイソメラーゼを含むことにより、セロビオースの加リン酸分解によって生じたグルコースをフルクトースへと変換できる。グルコースはセロビオースの加リン酸分解方向の反応を阻害するので、溶液中にグルコースイソメラーゼを含むことにより、セロビオースの加リン酸分解をより一層促進することができ、最終的に得られるα−グルカンの収率を向上させることができる。
【0122】
本発明の製造方法で用いられ得るグルコースイソメラーゼは、D−グルコースとD−フルクトースとの相互変換を触媒し得る酵素である。グルコースイソメラーゼは、D−キシロースとD−キシルロースとの相互変換をも触媒し得るので、キシロースイソメラーゼとも呼ばれる。
【0123】
グルコースイソメラーゼは、微生物、動物および植物に存在する。グルコースイソメラーゼを産生する微生物の例としては、Streptomyces rubiginosus、Streptomyces olivochromogenes、Streptomyces murinus、Streptomyces violaceo niger、Streptomyces diastaticus、Streptomyces albus、Streptomyces sp.、Escherichia coli、Bacteroides xylanolyticus、Arthrobacter sp.、Candida boidinii、Clostridium thermosulfurogenes、Clostridium thermohydrosulfuricum、Thermoanaerobacterium saccharolyticum、Thermoanaerobacter sp.、Thermotoga neapolitana、Thermus aquaticus Lactobacillus brevis、Lactobacillus xylosus、Agrobacterium tumefaciens、Bacillus sp.、Actinoplanes missouriensisおよびParacolobacterium aerogenoidesが挙げられる。グルコースイソメラーゼを産生する動物の例としては、Trypanosoma bruceiが挙げられる。グルコースイソメラーゼは、植物由来であってもよい。グルコースイソメラーゼを産生する生物はこれらに限定されない。
【0124】
本発明で用いられ得るグルコースイソメラーゼは、Streptomyces rubiginosusまたはBacillus sp.に由来することが好ましく、Streptomyces rubiginosusに由来することがより好ましい。本発明で用いられるグルコースイソメラーゼは、反応至適温度が高いことが好ましい。反応至適温度が高いグルコースイソメラーゼは、例えば、高度好熱細菌に由来し得る。
【0125】
本発明で用いられ得るグルコースイソメラーゼは、上記のような自然界に存在する、グルコースイソメラーゼを産生する生物から直接単離され得る。
【0126】
本発明で用いられ得るグルコースイソメラーゼは、これらの生物から単離したグルコースイソメラーゼをコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物(例えば、細菌、真菌など)から単離してもよい。
【0127】
グルコースイソメラーゼは、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に、遺伝子組換えされた微生物から得られ得る。
【0128】
遺伝子組換えに用いる微生物(例えば、細菌、真菌など)は、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に、グルコースイソメラーゼの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。グルコースイソメラーゼは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えに用いることが好ましい。グルコースイソメラーゼの遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を用いて産生されるグルコースイソメラーゼは、アミラーゼを実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。
【0129】
遺伝子組換えによるグルコースイソメラーゼの生産および精製は、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に行われ得る。
【0130】
反応開始時の溶液中に含まれるグルコースイソメラーゼの量は、反応開始時の溶液中のβ−1,4−グルカンに対して、代表的には約0.01〜500U/g β−1,4−グルカン、好ましくは約0.05〜100U/g β−1,4−グルカン、より好ましくは約0.1〜50U/g β−1,4−グルカンであり,特に好ましくは約0.5〜10U/g β−1,4−グルカンであり、最も好ましくは約1〜5U/g β−1,4−グルカンである。グルコースイソメラーゼの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、反応自体は起こるものの、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0131】
グルコースイソメラーゼは、精製されていても未精製であってもよい。グルコースイソメラーゼは、固定化されていても固定化されていなくともよい。グルコースイソメラーゼは、固定化されることが好ましい。固定化の方法としては、担体結合法(たとえば、共有結合法、イオン結合法、または物理的吸着法)、架橋法または包括法(格子型またはマイクロカプセル型)など、当業者に周知の方法が使用され得る。グルコースイソメラーゼは、担体上に固定化されていることが好ましい。グルコースイソメラーゼはまた、β−1,4−グルカンホスホリラーゼおよびα−1,4−グルカンホスホリラーゼの少なくとも一方と同じ担体上に固定化されていてもよいし、別の担体上に固定化されていてもよい。β−1,4−グルカンホスホリラーゼおよびα−1,4−グルカンホスホリラーゼの両方と同じ担体上に固定化されていることが好ましい。
【0132】
(7.グルコースオキシダーゼ)
本発明の製造方法においては、溶液中にグルコースオキシダーゼをさらに含むことが好ましい。反応液中にグルコースオキシダーゼを含むことにより、セロビオースの加リン酸分解によって生じたα−グルコースから自然変換されたβ−グルコースをβ−グルコノ−δラクトンへと変換できる。α−グルコースはセロビオースの加リン酸分解方向の反応を阻害するので、溶液中にグルコースオキシダーゼを含むことにより、セロビオースの加リン酸分解をより一層促進することができ、最終的に得られるα−グルカンの収率を向上させることができる。
【0133】
本発明の製造方法で用いられ得るグルコースオキシダーゼは、以下の反応を触媒し得る酵素である:
【0134】
【化4】

グルコースオキシダーゼは、微生物および植物に存在する。グルコースオキシダーゼを産生する微生物の例としては、Aspergillus niger、Penicillium amagasakiense、Penicillium notatumおよびPhanerochaete chrysosporiumが挙げられる。グルコースオキシダーゼは植物由来であってもよい。グルコースオキシダーゼを産生する生物はこれらに限定されない。
【0135】
本発明で用いられ得るグルコースオキシダーゼは、Aspergillus nigerまたはPenicillium amagasakienseに由来することが好ましく、Aspergillus nigerに由来することがより好ましい。本発明で用いられるグルコースオキシダーゼは、反応至適温度が高いことが好ましい。反応至適温度が高いグルコースオキシダーゼは、例えば、高度好熱細菌に由来し得る。
【0136】
本発明で用いられ得るグルコースオキシダーゼは、上記のような自然界に存在する、グルコースオキシダーゼを産生する生物から直接単離され得る。
【0137】
本発明で用いられ得るグルコースオキシダーゼは、これらの生物から単離したグルコースオキシダーゼをコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物(例えば、細菌、真菌など)から単離してもよい。
【0138】
グルコースオキシダーゼは、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に、遺伝子組換えされた微生物から得られ得る。
【0139】
遺伝子組換えに用いる微生物(例えば、細菌、真菌など)は、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に、グルコースオキシダーゼの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。グルコースオキシダーゼは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えに用いることが好ましい。グルコースオキシダーゼの遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を用いて産生されるグルコースオキシダーゼは、アミラーゼを実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。
【0140】
遺伝子組換えによるグルコースオキシダーゼの生産および精製は、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に行われ得る。
【0141】
反応開始時の溶液中に含まれるグルコースオキシダーゼの量は、反応開始時の溶液中のβ−1,4−グルカンに対して、代表的には約0.5〜1,000U/g β−1,4−グルカン、好ましくは約1〜500U/g β−1,4−グルカン、より好ましくは約5〜400U/g β−1,4−グルカンであり,特に好ましくは約10〜300U/g β−1,4−グルカンであり、最も好ましくは約20〜200U/g β−1,4−グルカンである。グルコースオキシダーゼの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、反応自体は起こるものの、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0142】
グルコースオキシダーゼは、精製されていても未精製であってもよい。グルコースオキシダーゼは、固定化されていても固定化されていなくともよい。グルコースオキシダーゼは、固定化されることが好ましい。固定化の方法としては、担体結合法(たとえば、共有結合法、イオン結合法、または物理的吸着法)、架橋法または包括法(格子型またはマイクロカプセル型)など、当業者に周知の方法が使用され得る。グルコースオキシダーゼは、担体上に固定化されていることが好ましい。グルコースオキシダーゼはまた、β−1,4−グルカンホスホリラーゼおよびα−1,4−グルカンホスホリラーゼの少なくとも一方と同じ担体上に固定化されていてもよいし、別の担体上に固定化されていてもよい。β−1,4−グルカンホスホリラーゼおよびα−1,4−グルカンホスホリラーゼの両方と同じ担体上に固定化されていることが好ましい。
【0143】
(8.ムタロターゼ)
本発明の製造方法において溶液中にグルコースオキシダーゼを含む場合、溶液中にムタロターゼをさらに含むことが好ましい。溶液中にムタロターゼを含むことにより、セロビオースの加リン酸分解によって生じたα−グルコースとβ−グルコースとを相互変換し得る。α−グルコースとβ−グルコースとは、ムタロターゼを加えなくとも自然に相互変換されるとはいえ、ムタロターゼを加えることによって相互変換が促進されるので、反応によって生じたα−グルコースを溶液から減らす効率をより向上させ得る。それゆえ、反応液中にグルコースオキシダーゼおよびムタロターゼを含むことにより、反応液中のα−グルコース濃度を低下させ、その結果、セロビオースの加リン酸分解をより一層促進することができ、最終的に得られるα−グルカンの収率を向上させることができる。
【0144】
本発明の製造方法で用いられ得るムタロターゼは、α−グルコースとβ−グルコースとの相互変換を触媒し得る酵素である。
【0145】
ムタロターゼは、微生物、動物および植物に存在する。ムタロターゼを産生する微生物の例としては、Penicillium notatumおよびEscherichia coliが挙げられる。ムタロターゼを産生する動物の例としては、ブタおよびBos taurusが挙げられる。ムタロターゼを産生する植物の例としては、Capsicum frutescensが挙げられる。ムタロターゼを産生する生物はこれらに限定されない。
【0146】
本発明で用いられ得るムタロターゼは、ブタまたはBos taurusに由来することが好ましく、ブタに由来することがより好ましい。本発明で用いられるムタロターゼは、反応至適温度が高いことが好ましい。反応至適温度が高いムタロターゼは、例えば、高度好熱細菌に由来し得る。
【0147】
本発明で用いられ得るムタロターゼは、上記のような自然界に存在する、ムタロターゼを産生する生物から直接単離され得る。
【0148】
本発明で用いられ得るムタロターゼは、これらの生物から単離したムタロターゼをコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物(例えば、細菌、真菌など)から単離してもよい。
【0149】
ムタロターゼは、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に、遺伝子組換えされた微生物から得られ得る。
【0150】
遺伝子組換えに用いる微生物(例えば、細菌、真菌など)は、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に、ムタロターゼの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。ムタロターゼは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えに用いることが好ましい。ムタロターゼの遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を用いて産生されるムタロターゼは、アミラーゼを実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。
【0151】
遺伝子組換えによるムタロターゼの生産および精製は、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に行われ得る。
【0152】
反応開始時の溶液中に含まれるムタロターゼの量は、反応開始時の溶液中のβ−1,4−グルカンに対して、代表的には約0.01〜500U/g β−1,4−グルカン、好ましくは約0.01〜100U/g β−1,4−グルカン、より好ましくは約0.01〜50U/g β−1,4−グルカンであり,特に好ましくは約0.05〜10U/g β−1,4−グルカンであり、最も好ましくは約0.1〜5U/g β−1,4−グルカンである。ムタロターゼの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、反応自体は起こるものの、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0153】
ムタロターゼは、精製されていても未精製であってもよい。ムタロターゼは、固定化されていても固定化されていなくともよい。ムタロターゼは、固定化されることが好ましい。固定化の方法としては、担体結合法(たとえば、共有結合法、イオン結合法、または物理的吸着法)、架橋法または包括法(格子型またはマイクロカプセル型)など、当業者に周知の方法が使用され得る。ムタロターゼは、担体上に固定化されていることが好ましい。ムタロターゼはまた、β−1,4−グルカンホスホリラーゼおよびα−1,4−グルカンホスホリラーゼの少なくとも一方と同じ担体上に固定化されていてもよいし、別の担体上に固定化されていてもよい。β−1,4−グルカンホスホリラーゼおよびα−1,4−グルカンホスホリラーゼの両方と同じ担体上に固定化されていることが好ましい。
【0154】
(9.カタラーゼおよびペルオキシダーゼ)
本発明の製造方法において溶液中にグルコースオキシダーゼを含む場合、溶液中にカタラーゼまたはペルオキシダーゼをさらに含むことが好ましい。溶液中にカタラーゼまたはペルオキシダーゼを含むことにより、グルコースオキシダーゼによって触媒される反応によって生じる過酸化水素を酸素に変換し、酸素をリサイクルさせることができる。それゆえ、反応液中にグルコースオキシダーゼと、カタラーゼまたはペルオキシダーゼとを含むことにより、反応液中のα−グルコース濃度を低下させ、その結果、セロビオースの加リン酸分解をより一層促進することができ、最終的に得られるα−グルカンの収率を向上させることができる。
【0155】
本発明の製造方法で用いられ得るカタラーゼは、過酸化水素を酸素と水とに分解する反応を触媒する酵素である。
【0156】
カタラーゼは、微生物、動物および植物に存在する。カタラーゼを産生する微生物の例としては、Acetobacter peroxydans、Acholeplasma equifetale、Acholeplasma hippikon、Acholeplasma laidlawii、Aspergillus niger、Penicillium janthinellum、Halobacterium halobium、Haloarcula marismortui、Escherichia coli、Mycoplasma arthritidis、Mycoplasma capricolum、Mycobacterium smegmatis、Mycobacterium tuberculosis、Mycoplasma pulmonis、Mycoplasma sp.、Bacillus stearothermophilus、Rhodobacter sphaeroides,Lactobacillus plantarum、Thermoleophilum album、Phanerochaete chrysosporium、Saccharomyces cerevisiae、Candida rugosa、Kloeckera sp、Klebsiella pneumoniae、Psudomonas stutzeriおよびParacoccus denitrificansが挙げられる。カタラーゼを産生する動物の例としては、Capra aegagrus hircus、Bos taurus、Homo sapiens、Rattus norvegicusおよびNotomastus lobatus(多毛類)が挙げられる。カタラーゼを産生する植物の例としては、Gossypium hirsutum、Sinapis alba、Spinacia oleracea、Nicotiana tabacum L.、Nicotiana sylvestris、Euglena gracilis(藻類)およびPisum sativumが挙げられる。カタラーゼを産生する生物はこれらに限定されない。
【0157】
本発明で用いられ得るカタラーゼは、Aspergillus niger、Bovine Liver(牛肝臓)またはHuman Erythrocyte(ヒト赤血球)に由来することが好ましく、Aspergillus nigerに由来することがより好ましい。本発明で用いられるカタラーゼは、反応至適温度が高いことが好ましい。反応至適温度が高いカタラーゼは、例えば、高度好熱細菌に由来し得る。
【0158】
本発明の製造方法で用いられ得るペルオキシダーゼは、過酸化水素を水素受容体として種々の有機物の酸化を触媒する酵素である。
【0159】
ペルオキシダーゼは、微生物、動物および植物に存在する。ペルオキシダーゼを産生する微生物の例としては、Pleurotus ostreatus、Halobacterium halobium、Haloarcula marismortui、Coprinus friesii、Phanerochaete chrysosporium、Mycobacterium smegmatis、Mycobacterium tuberculosis、Flavobacterium meningosepticum、Arthromyces ramosus、Phellinus igniarius、Escherichia coli、Thermoleophilum album、Kloeckera sp.、Bacillus stearothermophilus、Coprinus cinereusおよびCoprinus macrorhizusが挙げられる。なお、本明細書中では、微生物は、細菌および真菌を含む。ペルオキシダーゼを産生する動物の例としては、Homo sapiens、Canis familiaris、Rattus norvegicus、Sus scrofa、Ovis ariesが挙げられる。ペルオキシダーゼを産生する植物の例としては、西洋ワサビ(horseradish)、Armoracia rusticana、Armoracia lapathifolia、Actinidia chinensis、Citrus sinensis、Populus trichocarpa、Nicotiana sylvestris、Picea sitchensis Carr.、Picea abies L.,Karsten、Petunia hybrida、Carica papaya、Vitis Pseudoreticulata、Hordeum vulgare、Brassica rapa、Prunus persica、Vicia faba、Oryza sativa L.が挙げられる。ペルオキシダーゼを産生する生物はこれらに限定されない。
【0160】
本発明で用いられ得るペルオキシダーゼは、西洋ワサビおよびBacillus stearot hermophilusに由来することが好ましく、西洋ワサビに由来することがより好ましい。本発明で用いられるペルオキシダーゼは、反応至適温度が高いことが好ましい。反応至適温度が高いペルオキシダーゼは、例えば、高度好熱細菌に由来し得る。
【0161】
本発明で用いられ得るカタラーゼまたはペルオキシダーゼは、上記のような自然界に存在する、カタラーゼまたはペルオキシダーゼを産生する生物から直接単離され得る。
【0162】
本発明で用いられ得るカタラーゼまたはペルオキシダーゼは、これらの生物から単離したカタラーゼまたはペルオキシダーゼをコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物(例えば、細菌、真菌など)から単離してもよい。
【0163】
カタラーゼまたはペルオキシダーゼは、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に、遺伝子組換えされた微生物から得られ得る。
【0164】
遺伝子組換えに用いる微生物(例えば、細菌、真菌など)は、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に、カタラーゼまたはペルオキシダーゼの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。カタラーゼまたはペルオキシダーゼは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えに用いることが好ましい。カタラーゼまたはペルオキシダーゼの遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を用いて産生されるカタラーゼまたはペルオキシダーゼは、アミラーゼを実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。
【0165】
遺伝子組換えによるカタラーゼまたはペルオキシダーゼの生産および精製は、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に行われ得る。
【0166】
反応開始時の溶液中に含まれるカタラーゼまたはペルオキシダーゼの量は、反応開始時の溶液中のβ−1,4−グルカンに対して、代表的には約0.05〜1,000U/g β−1,4−グルカン、好ましくは約0.1〜500U/g β−1,4−グルカン、より好ましくは約1.0〜200U/g β−1,4−グルカンである。カタラーゼまたはペルオキシダーゼの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、反応自体は起こるものの、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0167】
カタラーゼまたはペルオキシダーゼは、精製されていても未精製であってもよい。カタラーゼまたはペルオキシダーゼは、固定化されていても固定化されていなくともよい。カタラーゼまたはペルオキシダーゼは、固定化されることが好ましい。固定化の方法としては、担体結合法(たとえば、共有結合法、イオン結合法、または物理的吸着法)、架橋法または包括法(格子型またはマイクロカプセル型)など、当業者に周知の方法が使用され得る。カタラーゼまたはペルオキシダーゼは、担体上に固定化されていることが好ましい。カタラーゼまたはペルオキシダーゼはまた、β−1,4−グルカンホスホリラーゼおよびα−1,4−グルカンホスホリラーゼの少なくとも一方と同じ担体上に固定化されていてもよいし、別の担体上に固定化されていてもよい。β−1,4−グルカンホスホリラーゼおよびα−1,4−グルカンホスホリラーゼの両方と同じ担体上に固定化されていることが好ましい。
【0168】
(10.枝切り酵素)
本発明の方法において、α−1,6−グルコシド結合を含有する出発材料を用いる場合などの、生成物に分岐が生じる場合には、必要に応じて、枝切り酵素を用いることができる。
【0169】
本発明で用いられ得る枝切り酵素は、α−1,6−グルコシド結合を切断し得る酵素である。枝切り酵素は、アミロペクチンおよびグリコーゲンにともによく作用するイソアミラーゼ(EC 3.2.1.68)と、アミロペクチン、グリコーゲンおよびプルランに作用するα−デキストリンエンド−1,6−α−グルコシダーゼ(プルラナーゼともいう)(EC 3.2.1.41)との2つに分類される。
【0170】
枝切り酵素は、微生物および植物に存在する。枝切り酵素を産生する微生物の例としては、Saccharomyces cerevisiae、Chlamydomonas sp.、Bacillus brevis、Bacillus acidopullulyticus、Bacillus macerans、Bacillus stearothermophilus、Bacillus circulans、Thermus aquaticus、Klebsiella pneumoniae、Thermoactinomyces thalpophilus、Thermoanaerobacter ethanolicus、Pseudomonas amyloderamosaなどが挙げられる。枝切り酵素を産生する植物の例としては、ジャガイモ、サツマイモ、トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、オートムギ、サトウダイコンなどが挙げられる。枝切り酵素を産生する生物はこれらに限定されない。
【0171】
本発明で用いられ得る枝切り酵素は、Klebsiella pneumoniae、Bacillus brevis、Bacillus acidopullulyticus、Pseudomonas amyloderamosaに由来することが好ましく、Klebsiella pneumoniae、Pseudomonas amyloderamosaに由来することがより好ましい。本発明で用いられる枝切り酵素は、反応至適温度が高いことが好ましい。反応至適温度が高い枝切り酵素は、例えば、高度好熱細菌に由来し得る。
【0172】
本発明で用いられ得る枝切り酵素は、上記のような自然界に存在する、枝切り酵素を産生する微生物および植物から直接単離され得る。
【0173】
本発明で用いられ得る枝切り酵素は、これらの微生物および植物から単離した枝切り酵素をコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物(例えば、細菌、真菌など)から単離してもよい。
【0174】
枝切り酵素は、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に、遺伝子組換えされた微生物から得られ得る。
【0175】
遺伝子組換えに用いる微生物(例えば、細菌、真菌など)は、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に、枝切り酵素の発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。枝切り酵素は、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えに用いることが好ましい。枝切り酵素の遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を用いて産生される枝切り酵素は、アミラーゼを実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。
【0176】
遺伝子組換えによる枝切り酵素の生産および精製は、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に行われ得る。
【0177】
反応開始時の溶液中に含まれる枝切り酵素の量は、反応開始時の溶液中のβ−1,4−グルカンに対して、代表的には約0.05〜1,000U/g β−1,4−グルカン、好ましくは約0.1〜500U/g β−1,4−グルカン、より好ましくは約0.5〜100U/g β−1,4−グルカンである。枝切り酵素の重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、反応自体は起こるものの、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0178】
枝切り酵素は、精製されていても未精製であってもよい。枝切り酵素は、固定化されていても固定化されていなくともよい。枝切り酵素は、固定化されることが好ましい。固定化の方法としては、担体結合法(たとえば、共有結合法、イオン結合法、または物理的吸着法)、架橋法または包括法(格子型またはマイクロカプセル型)など、当業者に周知の方法が使用され得る。枝切り酵素は、担体上に固定化されていることが好ましい。枝切り酵素はまた、β−1,4−グルカンホスホリラーゼおよびα−1,4−グルカンホスホリラーゼの少なくとも一方と同じ担体上に固定化されていてもよいし、別の担体上に固定化されていてもよい。β−1,4−グルカンホスホリラーゼおよびα−1,4−グルカンホスホリラーゼの両方と同じ担体上に固定化されていることが好ましい。
【0179】
(11.ブランチングエンザイム(EC.2.4.1.18))
本発明の方法において、生成物に分岐を生じさせることが所望される場合には、必要に応じて、ブランチングエンザイムを用いることができる。
【0180】
本発明で用いられ得るブランチングエンザイムは、α−1,4−グルカン鎖の一部をこのα−1,4−グルカン鎖のうちのあるグルコース残基の6位に転移して分枝を作り得る酵素である。ブランチングエンザイムは、1,4−α−グルカン分枝酵素、枝つくり酵素またはQ酵素とも呼ばれる。
【0181】
ブランチングエンザイムは、微生物、動物、および植物に存在する。ブランチングエンザイムを産生する微生物の例としては、Bacillus stearothermophilus、Bacillus subtilis、Bacillus caldolyticus、Bacillus licheniformis、Bacillus amyloliquefaciens、Bacillus coagulans、Bacillus caldovelox、Bacillus thermocatenulatus、Bacillus smithii、Bacillus megaterium、Bacillus brevis、Alkalophillic Bacillus sp.、Streptomyces coelicolor、Aquifex aeolicus、Synechosystis sp.、E.coli、Agrobacteirum tumefaciens、Thermus aquaticus、Rhodothermus obamensis、Neurospora crassa、酵母などが挙げられる。ブランチングエンザイムを産生する動物の例としてはヒト、ウサギ、ラット、ブタなどの哺乳類が挙げられる。ブランチングエンザイムを産生する植物の例としては、藻類、ジャガイモ、サツマイモ、ヤマイモ、キャッサバなどの芋類、ホウレンソウなどの野菜類、トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、アワなどの穀類、えんどう豆、大豆、小豆、うずら豆などの豆類などが挙げられる。ブランチングエンザイムを産生する生物はこれらに限定されない。
【0182】
本発明で用いられ得るブランチングエンザイムは、ジャガイモ、Bacillus stearothermophilus、Aquifex aeolicusに由来することが好ましく、Bacillus stearothermophilus、Aquifex aeolicusに由来することがより好ましい。本発明で用いられるブランチングエンザイムは、反応至適温度が高いことが好ましい。反応至適温度が高いブランチングエンザイムは、例えば、高度好熱細菌に由来し得る。
【0183】
本発明で用いられ得るブランチングエンザイムは、上記のような自然界に存在する、ブランチングエンザイムを産生する微生物、動物、および植物から直接単離され得る。
【0184】
本発明で用いられ得るブランチングエンザイムは、これらの微生物、動物、および植物から単離したブランチングエンザイムをコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物(例えば、細菌、真菌など)から単離してもよい。
【0185】
ブランチングエンザイムは、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に、遺伝子組換えされた微生物から得られ得る。
【0186】
遺伝子組換えに用いる微生物(例えば、細菌、真菌など)は、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に、ブランチングエンザイムの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。ブランチングエンザイムは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えに用いることが好ましい。ブランチングエンザイムの遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を用いて産生されるブランチングエンザイムは、アミラーゼを実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。
【0187】
遺伝子組換えによるブランチングエンザイムの生産および精製は、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に行われ得る。
【0188】
反応開始時の溶液中に含まれるブランチングエンザイムの量は、反応開始時の溶液中のβ−1,4−グルカンに対して、代表的には約10〜100,000U/g β−1,4−グルカン、好ましくは約100〜50,000U/g β−1,4−グルカン、より好ましくは約1,000〜10,000U/g β−1,4−グルカンである。ブランチングエンザイムの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、反応自体は起こるものの、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0189】
ブランチングエンザイムは、精製されていても未精製であってもよい。ブランチングエンザイムは、固定化されていても固定化されていなくともよい。ブランチングエンザイムは、固定化されることが好ましい。固定化の方法としては、担体結合法(たとえば、共有結合法、イオン結合法、または物理的吸着法)、架橋法または包括法(格子型またはマイクロカプセル型)など、当業者に周知の方法が使用され得る。ブランチングエンザイムは、担体上に固定化されていることが好ましい。ブランチングエンザイムはまた、β−1,4−グルカンホスホリラーゼおよびα−1,4−グルカンホスホリラーゼの少なくとも一方と同じ担体上に固定化されていてもよいし、別の担体上に固定化されていてもよい。β−1,4−グルカンホスホリラーゼおよびα−1,4−グルカンホスホリラーゼの両方と同じ担体上に固定化されていることが好ましい。
【0190】
(12.4−α−グルカノトランスフェラーゼ(EC.2.4.1.25))
本発明の方法において、生成物に環状構造を生じさせる場合には、必要に応じて、4−α−グルカノトランスフェラーゼを用いることができる。
【0191】
本発明で用いられ得る4−α−グルカノトランスフェラーゼは、ディスプロポーショネーティングエンザイム、D−酵素、アミロマルターゼ、不均化酵素などとも呼ばれ、マルトオリゴ糖の糖転移反応(不均一化反応)を触媒し得る酵素である。4−α−グルカノトランスフェラーゼは、供与体分子の非還元末端からグルコシル基あるいは、マルトシルもしくはマルトオリゴシルユニットを受容体分子の非還元末端に転移する酵素である。従って、酵素反応は、最初に与えられたマルトオリゴ糖の重合度の不均一化をもたらす。供与体分子と受容体分子とが同一の場合は、分子内転移が生じ、その結果、環状構造をもつ生成物が得られる。
【0192】
4−α−グルカノトランスフェラーゼは、微生物および植物に存在する。4−α−グルカノトランスフェラーゼを産生する微生物の例としては、Aquifex aeolicus、Streptococcus pneumoniae、Clostridium butylicum、Deinococcus radiodurans、Haemophilus influenzae、Mycobacterium tuberculosis、Thermococcus litralis、Thermotoga maritima、Thermotoga neapolitana、Chlamydia psittaci、Pyrococcus sp.、Dictyoglomus thermophilum、Borrelia burgdorferi、Synechosystis sp.、E.coli、Thermus aquaticusなどが挙げられる。4−α−グルカノトランスフェラーゼを産生する植物の例としては、ジャガイモ、サツマイモ、ヤマイモ、キャッサバなどの芋類、トウモロコシ、イネ、コムギ、などの穀類、えんどう豆、大豆、などの豆類などが挙げられる。4−α−グルカノトランスフェラーゼを産生する生物はこれらに限定されない。
【0193】
本発明で用いられ得る4−α−グルカノトランスフェラーゼは、ジャガイモ、Thermus aquaticus、Thermococcus、litralisに由来することが好ましく、ジャガイモ、Thermus aquaticusに由来することがより好ましい。本発明で用いられる4−α−グルカノトランスフェラーゼは、反応至適温度が高いことが好ましい。反応至適温度が高い4−α−グルカノトランスフェラーゼは、例えば、高度好熱細菌に由来し得る。
【0194】
本発明で用いられ得る4−α−グルカノトランスフェラーゼは、上記のような自然界に存在する、4−α−グルカノトランスフェラーゼを産生する微生物および植物から直接単離され得る。
【0195】
本発明で用いられ得る4−α−グルカノトランスフェラーゼは、これらの微生物および植物から単離した4−α−グルカノトランスフェラーゼをコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物(例えば、細菌、真菌など)から単離してもよい。
【0196】
4−α−グルカノトランスフェラーゼは、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に、遺伝子組換えされた微生物から得られ得る。
【0197】
遺伝子組換えに用いる微生物(例えば、細菌、真菌など)は、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に、4−α−グルカノトランスフェラーゼの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。4−α−グルカノトランスフェラーゼは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えに用いることが好ましい。4−α−グルカノトランスフェラーゼの遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を用いて産生される4−α−グルカノトランスフェラーゼは、アミラーゼを実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。
【0198】
遺伝子組換えによる4−α−グルカノトランスフェラーゼの生産および精製は、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に行われ得る。
【0199】
反応開始時の溶液中に含まれる4−α−グルカノトランスフェラーゼの量は、反応開始時の溶液中のβ−1,4−グルカンに対して、代表的には約0.05〜1,000U/g β−1,4−グルカン、好ましくは約0.1〜500U/g β−1,4−グルカン、より好ましくは約0.5〜100U/g β−1,4−グルカンである。4−α−グルカノトランスフェラーゼの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、反応自体は起こるものの、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0200】
4−α−グルカノトランスフェラーゼは、精製されていても未精製であってもよい。4−α−グルカノトランスフェラーゼは、固定化されていても固定化されていなくともよい。4−α−グルカノトランスフェラーゼは、固定化されることが好ましい。固定化の方法としては、担体結合法(たとえば、共有結合法、イオン結合法、または物理的吸着法)、架橋法または包括法(格子型またはマイクロカプセル型)など、当業者に周知の方法が使用され得る。4−α−グルカノトランスフェラーゼは、担体上に固定化されていることが好ましい。4−α−グルカノトランスフェラーゼはまた、β−1,4−グルカンホスホリラーゼおよびα−1,4−グルカンホスホリラーゼの少なくとも一方と同じ担体上に固定化されていてもよいし、別の担体上に固定化されていてもよい。β−1,4−グルカンホスホリラーゼおよびα−1,4−グルカンホスホリラーゼの両方と同じ担体上に固定化されていることが好ましい。
【0201】
(13.グリコーゲンデブランチングエンザイム(EC.2.4.1.25/EC.3.2.1.33))
本発明の方法において、生成物に環状構造を生じさせる場合には、必要に応じて、グリコーゲンデブランチングエンザイムを用いることができる。
【0202】
本発明で用いられ得るグリコーゲンデブランチングエンザイムは、α−1,6−グルコシダーゼ活性と、4−α−グルカノトランスフェラーゼ活性との2種類の活性をもつ酵素である。グリコーゲンデブランチングエンザイムが持つ、4−α−グルカノトランスフェラーゼ活性により、環状構造を持つ生成物が得られる。
【0203】
グリコーゲンデブランチングエンザイムは、微生物および動物に存在する。グリコーゲンデブランチングエンザイムを産生する微生物の例としては、酵母などが挙げられる。グリコーゲンデブランチングエンザイムを産生する動物の例としては、ヒト、ウサギ、ラット、ブタなどの哺乳類が挙げられる。グリコーゲンデブランチングエンザイムを産生する生物はこれらに限定されない。
【0204】
本発明で用いられ得るグリコーゲンデブランチングエンザイムは、酵母に由来することが好ましい。本発明で用いられるグリコーゲンデブランチングエンザイムは、反応至適温度が高いことが好ましい。反応至適温度が高いグリコーゲンデブランチングエンザイムは、例えば、タンパク質工学的手法により、中温で作用し得る酵素に改変を加えることで得られる。
【0205】
本発明で用いられ得るグリコーゲンデブランチングエンザイムは、上記のような自然界に存在する、グリコーゲンデブランチングエンザイムを産生する微生物および動物から直接単離され得る。
【0206】
本発明で用いられ得るグリコーゲンデブランチングエンザイムは、これらの微生物および動物から単離したグリコーゲンデブランチングエンザイムをコードする遺伝子を用いて遺伝子組換えされた微生物(例えば、細菌、真菌など)から単離してもよい。
【0207】
グリコーゲンデブランチングエンザイムは、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に、遺伝子組換えされた微生物から得られ得る。
【0208】
遺伝子組換えに用いる微生物(例えば、細菌、真菌など)は、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に、グリコーゲンデブランチングエンザイムの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。グリコーゲンデブランチングエンザイムは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えに用いることが好ましい。グリコーゲンデブランチングエンザイムの遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を用いて産生されるグリコーゲンデブランチングエンザイムは、アミラーゼを実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。
【0209】
遺伝子組換えによるグリコーゲンデブランチングエンザイムの生産および精製は、上記のβ−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様に行われ得る。
【0210】
反応開始時の溶液中に含まれるグリコーゲンデブランチングエンザイムの量は、反応開始時の溶液中のβ−1,4−グルカンに対して、代表的には約0.01〜5,000U/g β−1,4−グルカン、好ましくは約0.1〜1,000U/g β−1,4−グルカン、より好ましくは約1〜500U/g β−1,4−グルカンである。グリコーゲンデブランチングエンザイムの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、反応自体は起こるものの、グルカンの収率が低下する場合がある。
【0211】
グリコーゲンデブランチングエンザイムは、精製されていても未精製であってもよい。グリコーゲンデブランチングエンザイムは、固定化されていても固定化されていなくともよい。グリコーゲンデブランチングエンザイムは、固定化されることが好ましい。固定化の方法としては、担体結合法(たとえば、共有結合法、イオン結合法、または物理的吸着法)、架橋法または包括法(格子型またはマイクロカプセル型)など、当業者に周知の方法が使用され得る。グリコーゲンデブランチングエンザイムは、担体上に固定化されていることが好ましい。グリコーゲンデブランチングエンザイムはまた、β−1,4−グルカンホスホリラーゼおよびα−1,4−グルカンホスホリラーゼの少なくとも一方と同じ担体上に固定化されていてもよいし、別の担体上に固定化されていてもよい。β−1,4−グルカンホスホリラーゼおよびα−1,4−グルカンホスホリラーゼの両方と同じ担体上に固定化されていることが好ましい。
【0212】
(14.溶媒)
本発明の方法に用いる溶媒は、β−1,4−グルカンホスホリラーゼおよびα−1,4−グルカンホスホリラーゼの酵素活性を損なわない溶媒であれば任意の溶媒であり得る。
【0213】
なお、グルカンを生成する反応が進行し得る限り、溶媒が本発明の方法に用いる材料を完全に溶解する必要はない。例えば、酵素が固体の担体上に担持されている場合には、酵素が溶媒中に溶解する必要はない。さらに、β−1,4−グルカンなどの反応材料も全てが溶解している必要はなく、反応が進行し得る程度の材料の一部が溶解していればよい。
【0214】
代表的な溶媒は、水である。溶媒は、上記β−1,4−グルカンホスホリラーゼまたはα−1,4−グルカンホスホリラーゼを調製する際にβ−1,4−グルカンホスホリラーゼまたはα−1,4−グルカンホスホリラーゼに付随して得られる細胞破砕液のうちの水分であってもよい。
【0215】
水は、軟水、中間水および硬水のいずれであってもよい。硬水とは、硬度20°以上の水をいい、中間水とは、硬度10°以上20°未満の水をいい、軟水とは、硬度10°未満の水をいう。水は、好ましくは軟水または中間水であり、より好ましくは軟水である。
【0216】
(15.他の成分)
β−1,4−グルカン、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、β−1,4−グルカンホスホリラーゼおよびα−1,4−グルカンホスホリラーゼを含む溶液中には、β−1,4−グルカンホスホリラーゼとβ−1,4−グルカンとの間の相互作用およびα−1,4−グルカンホスホリラーゼとプライマーとの間の相互作用を妨害しない限り、任意の他の物質を含み得る。このような物質の例としては、緩衝剤、β−1,4−グルカンホスホリラーゼを産生する微生物(例えば、細菌、真菌など)の成分、α−1,4−グルカンホスホリラーゼを産生する微生物(例えば、細菌、真菌など)の成分、塩類、培地成分などが挙げられる。
【0217】
<α−グルカンの製造>
本発明のα−グルカンは、β−1,4−グルカン、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、β−1,4−グルカンホスホリラーゼ、およびα−1,4−グルカンホスホリラーゼを含む溶液を反応させる工程により製造される。
【0218】
図2に、本願発明の製造方法において生じる反応の概略を示す。β−1,4−グルカン(重合度n)と無機リン酸から、β−1,4−グルカンホスホリラーゼを用いて、グルコース−1−リン酸およびβ−1,4−グルカン(重合度n−1)が生成される。生成されたグルコース−1−リン酸(および溶液に加えたグルコース−1−リン酸)は、直ちにα−1,4−グルカンホスホリラーゼにより、適切なプライマー(重合度m)にα−1,4−結合で転移され、α−グルカン鎖(重合度m+1)として伸長される。また、その際に生成される無機リン酸は、再度β−1,4−グルカンホスホリラーゼの反応にリサイクルされる仕組みになっている。
【0219】
なお、初発のβ−1,4−グルカンがセロビオースであって、β−1,4−グルカンホスホリラーゼがセロビオースホスホリラーゼである場合の、本願発明の製造方法において生じる反応の概略を図2に示す。セロビオース(重合度2)と無機リン酸から、セロビオースホスホリラーゼを用いて、グルコース−1−リン酸およびグルコースが生成される。生成されたグルコース−1−リン酸(および溶液に加えたグルコース−1−リン酸)は、直ちにα−1,4−グルカンホスホリラーゼにより、適切なプライマー(重合度m)にα−1,4−結合で転移され、α−グルカン鎖(重合度m+1)が伸長される。また、その際に生成される無機リン酸は、再度β−1,4−グルカンホスホリラーゼの反応にリサイクルされる。
【0220】
本発明の製造方法においては例えば、まず、溶液を調製する。溶液は、例えば、適切な溶媒に、固体状のβ−1,4−グルカン、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸、β−1,4−グルカンホスホリラーゼ、およびα−1,4−グルカンホスホリラーゼを添加することにより調製され得る。あるいは、溶液は、β−1,4−グルカン、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸のようなリン酸源、β−1,4−グルカンホスホリラーゼ、またはα−1,4−グルカンホスホリラーゼをそれぞれ含む溶液を混合することによって調製してもよい。あるいは、溶液は、β−1,4−グルカン、プライマー、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸のようなリン酸源、β−1,4−グルカンホスホリラーゼ、およびα−1,4−グルカンホスホリラーゼのうちのいくつかの成分を含む溶液に固体状の他の成分を混合することによって調製してもよい。本発明の製造方法で用いられる溶液には、酵素反応を阻害しない限り、必要に応じて、pHを調整する目的で任意の緩衝剤を加えてもよい。この溶液のpHは、酵素反応を過度に阻害しない限り、任意のpHであり得る。pH値は、好ましくは約6〜約8であり、より好ましくは約6.5〜約7.5である。pHは、反応に用いる酵素の至適pHに合わせて適切に設定され得る。溶液の塩濃度もまた、酵素反応を過度に阻害しない限り、任意の塩濃度であり得る。塩濃度は、好ましくは1.0mM〜50mMであり、より好ましくは5mM〜30mMである。
【0221】
β−1,4−グルカンが、セロビオースであり、β−1,4−グルカンホスホリラーゼが、セロビオースホスホリラーゼである場合、この溶液には、α−グルカンの生成の際に生成するグルコースを溶液から除去するために、例えば、グルコースイソメラーゼまたはグルコースオキシダーゼ(およびムタロターゼ)をさらに添加してもよい。さらに、溶液中にカタラーゼまたはペルオキシダーゼを添加してもよい。あるいは、酵母のような、グルコースを資化することによってグルコースを溶液中から除去する微生物を添加してもよい。あるいは、グルコース特異的吸着樹脂を添加してもよい。酵素または微生物を添加する方法は、反応を連続して進行させながらグルコースを同時に除去し得るので好ましい。なお、本明細書中では、「除去する」とは、反応液中のグルコースの量を低減させることおよびグルコースを存在させなくすることを包含する。
【0222】
また、この溶液には、必要に応じて枝切り酵素、ブランチングエンザイム、4−α−グルカノトランスフェラーゼおよびグリコーゲンデブランチングエンザイムからなる群より選択される酵素を添加してもよい。これらの酵素は、α−グルカン合成反応の開始時に添加されてもよく、反応の途中に添加されてもよく、また、反応が終了した後に添加されてもよい。
【0223】
次いで、溶液を、当該分野で公知の方法によって必要に応じて加熱することにより、反応させる。溶液の温度は、本発明の効果が得られる限り、任意の温度であり、添加した酵素がその活性を示す温度である。例えば、耐熱性酵素を用い、反応温度をその耐熱酵素に最適な温度にすることによって、添加した耐熱性酵素以外の混入した酵素の活性を抑え得る。この反応工程における溶液の温度は、所定の反応時間後に反応前のこの溶液に含まれるβ−1,4−グルカンホスホリラーゼおよびグルカンホスホリラーゼの少なくとも一方、好ましくは両方の活性の約50%以上、より好ましくは約80%以上の活性が残る温度であることが好ましい。この温度は、好ましくは約30℃〜約70℃の温度であり、より好ましくは約35℃〜約60℃である。
【0224】
反応時間は、反応温度、反応により生産されるグルカンの分子量および酵素の残存活性を考慮して、任意の時間で設定され得る。反応時間は、代表的には約1時間〜約100時間、より好ましくは約1時間〜約72時間、さらにより好ましくは約2時間〜約36時間、最も好ましくは約2時間〜約24時間である。
【0225】
加熱は、どのような手段を用いて行ってもよいが、溶液全体に均質に熱が伝わるように、攪拌を行いながら加熱することが好ましい。溶液は、例えば、温水ジャケットと攪拌装置を備えたステンレス製反応タンクの中に入れられて攪拌される。
【0226】
本発明の方法ではまた、反応がある程度進んだ段階で、β−1,4−グルカン、β−1,4−グルカンホスホリラーゼおよびα−1,4−グルカンホスホリラーゼのうちの少なくとも1つを反応溶液に追加してもよい。
【0227】
β−1,4−グルカンが、セロビオースであり、β−1,4−グルカンホスホリラーゼが、セロビオースホスホリラーゼである場合、上述したように、グルコースイソメラーゼなどの酵素を添加して、α−グルカンの生産と同時に副生するグルコースを除去する工程を、生産工程と同時に行うことが好ましい。他方、グルコースを除去する工程は、α−グルカン生産工程とタイミングをずらして行ってもよい。例えば、本発明の方法ではまた、反応がある程度進んだ段階で、反応によって生成されたグルコースを除去するために、溶液をクロマト分画、膜分画法などの物理的グルコース除去方法で処理し、その後再度、反応を進行させてもよい。物理的グルコース除去方法は、1回実施されても、2回以上実施されてもよい。2回以上実施する場合、例えば、反応を2時間進行させた後、グルコース除去を行い、次いで再度反応を2時間進行させた後、グルコース除去を行い、次いで再度反応を2時間行うこととし得る。
【0228】
このようにして、α−グルカンを含有する溶液が生産される。
【0229】
反応終了後、溶液は、必要に応じて例えば、100℃にて10分間加熱することによって溶液中の酵素を失活させ得る。あるいは、酵素を失活させる処理を行うことなく後の工程を行ってもよい。溶液は、そのまま保存されてもよいし、生産されたグルカンを単離するために処理されてもよい。
【0230】
<精製方法>
生産されたα−グルカンは、必要に応じて精製され得る。精製することにより除去される不純物の例は、グルコースである。α−グルカンの精製法の例としては、有機溶媒を用いる方法(T.J.Schochら、J.American Chemical Society,64,2957(1942))および有機溶媒を用いない方法がある。
【0231】
有機溶媒を用いる精製に使用され得る有機溶媒の例としては、アセトン、n−アミルアルコール、ペンタゾール、n−プロピルアルコール、n−ヘキシルアルコール、2−エチル−1−ブタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、ラウリルアルコール、シクロヘキサノール、n−ブチルアルコール、3−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、d,l−ボルネオール、α−テルピネオール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、2−メチル−1−ブタノール、イソアミルアルコール、tert−アミルアルコール、メントール、メタノール、エタノールおよびエーテルが挙げられる。
【0232】
有機溶媒を用いない精製方法の例を、以下に示す。
【0233】
(1)α−グルカン生産反応後、反応溶液を冷却することによりα−グルカンを沈澱させ、そして沈澱したα−グルカンを、膜分画、濾過、遠心分離などの一般的な固液分離方法により精製する方法;
(2)α−グルカン生産反応の間もしくはα−グルカン生産反応後に反応溶液を冷却してα−グルカンをゲル化し、ゲル化したα−グルカンを回収し、そしてゲル化したα−グルカンから、グルコースを、水による洗浄、凍結融解、ろ過などの操作によって除去する方法;ならびに
(3)α−グルカン生産反応後、水に溶解しているα−グルカンを沈澱させずに、限外ろ過膜を用いた膜分画もしくはクロマトグラフィーに供してグルコースを除去する方法。
【0234】
精製に使用され得る限外濾過膜の例としては、分画分子量約1,000〜約100,000、好ましくは約5,000〜約50,000、より好ましくは約10,000〜約30,000の限外濾過膜(ダイセル製UF膜ユニット)が挙げられる。
【0235】
クロマトグラフィーに使用され得る担体の例としては、ゲル濾過クロマトグラフィー用担体、配位子交換クロマトグラフィー用担体、イオン交換クロマトグラフィー用担体および疎水クロマトグラフィー用担体が挙げられる。
【実施例1】
【0236】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明は以下の実施例のみに限定されない。
【0237】
(1.測定方法および計算方法)
本発明における各種酵素の活性および得られるα−グルカンの収率を、以下の測定方法によって測定した。
【0238】
(1.1 セロビオースホスホリラーゼの活性測定法)
30μlの40mMセロビオース水溶液と30μlの40mMリン酸ナトリウム水溶液(pH7.5)とを混合し、さらに適切に希釈した酵素液(試料)60μlを加えて120μlの混合物として反応を開始させる。この混合物を37℃で10分間インキュベートすることにより反応を進行させた後、100℃で10分間保持することによって酵素を失活させる。続いて780μlの1M Tris−塩酸緩衝液(pH7.0)および120μlの発色試薬(グルコースAR−II発色試薬(和光純薬社製))をこの混合液に添加して混合し、505nmでの吸光度を測定する。濃度既知のグルコース水溶液を用いて同様に吸光度を測定し、標準曲線を作成する。この標準曲線に試料で得られた吸光度を当てはめ、試料中のグルコース量を求める。セロビオースホスホリラーゼ1単位とは、上記方法により20mMセロビオースから1分間に1μmolのグルコースを生成する酵素量と定義する。
【0239】
(1.2 α−1,4−グルカンホスホリラーゼの活性測定法)
50μlの4%クラスターデキストリン水溶液と50μlの50mMグルコース−1−リン酸ナトリウム水溶液とを混合し、さらに適切に希釈した酵素液100μlを加えて200μlの混合物として反応を開始させる。この混合物を37℃で15分間インキュベートして反応を進行させた後、800μlのモリブデン試薬(15mM モリブデン酸アンモニウム、100mM 酢酸亜鉛)を混合し、反応を停止させる。続いて200μlの568mMアスコルビン酸(pH5.0)を加えて攪拌し、反応系を得る。この反応系を、30℃で20分間保持した後、分光光度計を用いて850nmでの吸光度を測定する。濃度既知の無機リン酸を用いて同様に吸光度を測定し、標準曲線を作成する。この標準曲線に試料で得られた吸光度を当てはめ、試料中の無機リン酸を求める。この方法により、1分間に1μmolの無機リン酸を生成する活性を、α−1,4−グルカンホスホリラーゼ1単位とする。
【0240】
(1.3 得られるα−グルカンの収率の計算方法)
本発明の製造方法によるα−グルカンの収率を、得られたα−グルカン中に取り込まれたグルコース残基のモル数が、最初に添加された初発セロビオースのモル数の何%にあたるかによって計算した。反応終了後の溶液にエタノールを終濃度50%になるよう加えてα−グルカンを沈殿させて上清を捨て、更に適量の50%エタノールでα−グルカンを2度洗浄した後、乾燥し、適量の水に溶解後、フェノール−硫酸法によりグルコース濃度を測定することにより、α−グルカンの収量(モル数)を計算した。この収量(モル数)をセロビオースのモル数で除算して100倍することにより、収率を計算した。この計算式を次式に示す。
【0241】
【数2】

(1.4 α−グルカンの重量平均分子量の測定法)
本発明で合成したα−グルカンを1N水酸化ナトリウムで完全に溶解し、適当量の塩酸で中和した後、α−グルカン約300μg分を、示差屈折計および多角度光散乱検出器を併用したゲル濾過クロマトグラフィーに供することにより平均分子量を求めた。
【0242】
詳しくは、カラムとしてShodex SB806M−HQ(昭和電工製)を用い、検出器としては多角度光散乱検出器(DAWN−DSP、Wyatt Technology社製)および示差屈折計(Shodex RI−71、昭和電工製)をこの順序で連結して用いた。カラムを40℃に保ち、溶離液としては0.1M硝酸ナトリウム溶液を流速1mL/分で用いた。得られたシグナルを、データ解析ソフトウェア(商品名ASTRA、Wyatt Technlogy社製)を用いて収集し、同ソフトを用いて解析することにより、重量平均分子量を求めた。
【0243】
(2.酵素の調製)
本発明の実施例で用いた各種酵素を、以下の方法によって調製した。
【0244】
(2.1 組換えセロビオースホスホリラーゼの調製方法)
Clostridium thermocellumの染色体遺伝子を抽出し、これをテンプレートとした。以下の2種の合成DNAプライマー:
合成DNAプライマー1:5’ aaactctagaaataattttgtttaactttaagaaggagatataccatggagttcggtttttttgatgat 3’(配列番号1)および
合成DNAプライマー2:5’ aaactcgagaattacttcaactttgtgagtcttt 3’(配列番号2)
を用い、
98℃で1分間、55℃で1分間、68℃で3分間の順で30サイクル加熱の条件下でPCRを行うことにより、CBP遺伝子を含む領域を増幅させた。増幅した遺伝子を選択マーカー遺伝子Kmとともに発現ベクターpET28a(STRATAGENE社製)に組み込み、プラスミドpET28a−CBP1を得た。このプラスミドでは、セロビオースホスホリラーゼ遺伝子を、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)誘導性プロモーターの制御下に作動可能に連結した。
【0245】
このプラスミドを、大腸菌BL21(DE3)pLysS(STRATAGENE社製)に、コンピテントセル法により導入した。この大腸菌を、抗生物質カナマイシンを含むLB培地(1%トリプトン(Difco社製)、0.5%酵母エキス(Difco社製)、1%塩化ナトリウム、1.5%寒天))を含むプレートにプレーティングして、37℃で一晩培養した。このプレート上で増殖した大腸菌を選択することにより、Clostridium thermocellum由来セロビオースホスホリラーゼ遺伝子が導入された大腸菌を得た。
【0246】
得られた大腸菌がセロビオースホスホリラーゼ遺伝子を含むことを、導入された遺伝子の配列を解析することによって確認した。また、得られた大腸菌がセロビオースホスホリラーゼを発現していることを、活性測定によって確認した。
【0247】
この大腸菌を、抗生物質カナマイシンを含むLB培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス(ともにDifco社製)、1%塩化ナトリウム)1リットルに接種し、120rpmで振盪させながら37℃で3時間振盪培養した。その後、IPTGを1.0mMになるようにこの培地に添加し、37℃でさらに8時間振盪培養した。次いで、この培養液を5,000rpmにて5分間遠心分離して、大腸菌の菌体を収集した。得られた菌体を、50mlの1.4mMの2−メルカプトエタノールを含む50mMリン酸緩衝液(pH7.5)中に懸濁し、次いで超音波処理により破砕し、菌体破砕液50mlを得た。この破砕液中には、132U/mlのセロビオースホスホリラーゼが含まれていた。
【0248】
この菌体破砕液を、55℃で20分間加熱した。加熱後、8,500rpmにて20分間遠心分離し、不溶性のタンパク質などを除去して上清を得た。得られた上清を、あらかじめ平衡化しておいたHis−Tag吸着樹脂Ni−NTA agarose(QIAGEN社製)に流してセロビオースホスホリラーゼをこの樹脂に吸着させた。この樹脂を、300mM塩化ナトリウムと20mMイミダゾールおよび1.4mM2−メルカプトエタノール含む緩衝液で洗浄して不純物を除去した。続いて、タンパク質を300mM塩化ナトリウムと150mMイミダゾールおよび1.4mM 2−メルカプトエタノールを含む緩衝液で溶出させ、組換えセロビオースホスホリラーゼ酵素溶液とした。
【0249】
(2.2 組換え馬鈴薯α−1,4−グルカンホスホリラーゼの調製方法)
馬鈴薯α−1,4−グルカンホスホリラーゼ遺伝子(Nakanoら、Journal of Biochemistry(Tokyo)106(1989)691)を選択マーカー遺伝子Ampとともに発現ベクターpET3d(STRATAGENE社製)に組み込み、プラスミドpET−PGP113を得た。このプラスミドでは、グルカンホスホリラーゼ遺伝子を、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)誘導性プロモーターの制御下に作動可能に連結した。このプラスミドを、大腸菌BL21(DE3)(STRATAGENE社製)に、コンピテントセル法により導入した。この大腸菌を、抗生物質アンピシリンを含むLB培地(1%トリプトン(Difco社製)、0.5%酵母エキス(Difco社製)、1%塩化ナトリウム、1.5%寒天))を含むプレートにプレーティングして、37℃で一晩培養した。このプレート上で増殖した大腸菌を選択することにより、馬鈴薯由来α−1,4−グルカンホスホリラーゼ遺伝子が導入された大腸菌を得た。得られた大腸菌がグルカンホスホリラーゼ遺伝子を含むことを、導入された遺伝子の配列を解析することによって確認した。また、得られた大腸菌がα−1,4−グルカンホスホリラーゼを発現していることを、活性測定によって確認した。
【0250】
この大腸菌を、抗生物質アンピシリンを含むLB培地(1%トリプトン(Difco社製)、0.5%酵母エキス(Difco社製)、1%塩化ナトリウム)1リットルに接種し、120rpmで振盪させながら37℃で3時間振盪培養した。その後、IPTGを0.1mM、ピリドキシンを1mMになるようにそれぞれこの培地に添加し、22℃でさらに20時間振盪培養した。次いで、この培養液を5,000rpmにて5分間遠心分離して、大腸菌の菌体を収集した。得られた菌体を、50mlの0.05%のTritonX−100を含む20mM Tris−塩酸緩衝液(pH7.0)中に懸濁し、次いで超音波処理により破砕し、菌体破砕液50mlを得た。この破砕液中には、4.7U/mgのグルカンホスホリラーゼが含まれていた。
【0251】
この菌体破砕液を、55℃で30分間加熱した。加熱後、8,500rpmにて20分間遠心分離し、不溶性のタンパク質などを除去して上清を得た。得られた上清(タンパク質125mgを含む)を、平衡化緩衝液(20mMリン酸緩衝液pH7.0)を用いてあらかじめ平衡化しておいた陰イオン交換樹脂Q−Sepharoseに流してグルカンホスホリラーゼを樹脂に吸着させた。樹脂を、200mM塩化ナトリウムを含む緩衝液で洗浄して不純物を除去した。続いて、タンパク質を300mM塩化ナトリウムを含む緩衝液で溶出させ、組換えグルカンホスホリラーゼ酵素溶液とした。
【0252】
(実施例1−1〜1−6:種々のプライマー濃度でのアミロース合成)
以下の表1に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いて、45℃で16時間にわたってインキュベートすることによってアミロース合成を行った。
【0253】
【表1】

反応後、合成されたアミロースの重量平均分子量を上記1.4に従って決定した。結果を表1に示す。
【0254】
この結果、セロビオースに、リン酸の存在下でセロビオースホスホリラーゼ(CBP)を作用させてグルコース−1−リン酸およびグルコースを生じる反応と、グルコース−1−リン酸に、プライマー存在下でグルカンホスホリラーゼ(GP)を作用させてプライマーにグルコース残基を転移させる反応とを同一の溶液中で行うことにより、アミロースを製造することができた。また、反応液のプライマー濃度を変化させることで、合成されるアミロースの重合度を自在にコントロールできる、すなわち、高分子量のアミロースを合成したい場合、少ない量のプライマーを用いればよく、低分子量のアミロースを合成したい場合、多量のプライマーを用いればよいことが確認された。
【0255】
(実施例2−1〜2−5:種々のセロビオースホスホリラーゼ濃度でのアミロース合成)
以下の表2に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いて、45℃で16時間にわたってインキュベートすることによってアミロース合成を行った。
【0256】
【表2】

反応後、合成されたアミロースの重量平均分子量および収率を上記1.3および1.4に従って決定した。結果を表2および図3に示す。
【0257】
この結果、6.60U/gセロビオースまでは、セロビオースホスホリラーゼの量を増やすほど、アミロースの収率が高くなるが、6.60U/gセロビオースを超えると、セロビオースホスホリラーゼの量を増やしても、得られるアミロースの収率はそれほど増えないことがわかった。それゆえ、6.60U/gセロビオースのセロビオースホスホリラーゼ濃度が好適な濃度であることがわかった。また、アミロース合成反応収率は最大で33.8%であるので、これらの結果から、工業レベルでのアミロース生産が可能であることが確認された。
【0258】
(実施例3−1〜3−5:種々のリン酸濃度でのアミロース合成)
以下の表3に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いて、45℃で16時間にわたってインキュベートすることによってアミロース合成を行った。
【0259】
【表3】

反応後、合成されたアミロースの重量平均分子量および収率を上記1.3および1.4に従って決定した。結果を表3および図4に示す。
【0260】
この結果、リン酸濃度が15mM〜30mMのときにアミロースの収率が最も高いが、5mM〜45mMの範囲では、アミロースの収率はそれほど大きく変わらないため、5mM〜45mMの範囲で効率的なアミロース合成を行えることがわかった。
【0261】
(実施例4−1〜4−3:種々のセロビオース濃度でのアミロース合成)
以下の表4に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いて、45℃で16時間にわたってインキュベートすることによってアミロース合成を行った。
【0262】
【表4】

反応後、合成されたアミロースの重量平均分子量および収率を上記1.3および1.4に従って決定した。結果を表4および図5に示す。
【0263】
この結果、セロビオースとプライマーとリン酸との濃度比を変化させずにセロビオースの濃度を上昇させた場合、セロビオースの濃度の上昇によるアミロース合成の阻害は生じなかった。そのため、アミロースを大量に合成するために、セロビオースの濃度を上昇させることができることがわかった。
【0264】
(実施例5−1〜5−4:グルコースイソメラーゼ、またはグルコースオキシダーゼ、ムタロターゼおよびペルオキシダーゼを用いたアミロース合成)
以下の表5に示す組成(反応開始時)の反応混合物を用いて、45℃で16時間にわたってインキュベートすることによってアミロース合成を行った。
【0265】
【表5】

反応後、合成されたアミロースの重量平均分子量および収率を上記1.3および1.4に従って決定した。結果を表5および図6に示す。
【0266】
この結果、反応系にグルコースイソメラーゼ(GI)またはグルコースオキシダーゼ(GOx)+ムタロターゼ(MT)+ペルオキシダーゼ(POx)を添加することによって、アミロースの収率が飛躍的に向上することがわかった。特に、グルコースオキシダーゼ(GOx)+ムタロターゼ(MT)+ペルオキシダーゼ(POx)を添加した場合には、アミロースの収率は64.8%と、これらの酵素を添加しない場合(32.8%)の約2倍であった。
【0267】
この収率の向上は、セロビオースの加リン酸分解で生じるグルコースがCBPおよびGPの反応を阻害するため、GIまたはGOxにより反応液中のグルコースを分解してその相対濃度を下げることにより、CBPおよびGPに対する反応阻害の問題を回避できたためであると考えられる。
【0268】
(実施例6:α−1,6分岐を含むグルカンの合成)
セロビオース0.3g、プライマー(G4)0.75マイクロモルを、30mMリン酸緩衝液(pH7.0)10mlに溶解させ、ここに上記の2.1の調製方法に従って得られた組換えセロビオースホスホリラーゼ1.98U、上記の2.2の調製方法に従って得られた組換え馬鈴薯α−1,4−グルカンホスホリラーゼ15U、さらに特開2000−316581号の実施例1に記載の方法に従って調製したAquifex aeolicus由来ブランチングエンザイム1,500Uを加えて反応液を調製し、この反応液を45℃で16時間インキュベートした。インキュベート終了後、反応液に等量の100%エタノールを加えてグルカンを沈澱させた。遠心分離を行い、沈澱を回収し、この沈澱を凍結乾燥することによって、分岐構造を有するグルカン0.048gを得た(収率約32%)。
【0269】
(実施例6で得られたグルカンの分析)
実施例6で合成されたグルカンが分岐構造を有するか否か、および合成されたグルカンの平均単位鎖長を、H.Takataら、Carbohydr.Res.,295,91−101(1996)に記載の方法に従って決定した。その結果、合成されたグルカンが分岐構造を有することおよび平均単位鎖長が11であることが確認された。このように、反応液中にCBPおよびGPに加えてブランチングエンザイムをさらに含むことにより、セロビオースから、分岐構造を有するグルカンを合成し得ることがわかった。
【0270】
(実施例7:環状構造を有するグルカンの合成)
セロビオース0.3g、プライマー(G4)0.75マイクロモルを、30mMリン酸緩衝液(pH7.0)10mlに溶解させ、ここに上記の2.1の調製方法に従って得られた組換えセロビオースホスホリラーゼ1.98U、上記の2.2の調製方法に従って得られた組換え馬鈴薯α−1,4−グルカンホスホリラーゼ15U、さらにThermus aquaticus由来4−α−グルカノトランスフェラーゼ1.5Uを加えて反応液を調製し、この反応液を45℃で16時間インキュベートした。なお、Thermus aquaticus由来4−α−グルカノトランスフェラーゼとしては、Thermus aquaticus由来4−α−グルカノトランスフェラーゼの唯一公知のDNA配列を使用して、上記2.2のα−1,4−グルカンホスホリラーゼと同様の方法で調製したものを使用した。
【0271】
インキュベート終了後、反応液に等量の100%エタノールを加えてグルカンを沈澱させた。遠心分離を行い、沈澱を回収し、この沈澱を凍結乾燥することによって、環状構造を有するグルカン(環状グルカン)と直鎖状グルカン(アミロース)との混合物を0.05g得た(収率約33%)。
【0272】
(実施例7で得られたグルカンの分析)
4−α−グルカノトランスフェラーゼがアミロースに作用すると、アミロースから完全に環状のグルカンが切り出されて合成され、そしてその環状グルカンの鎖長分短くなったアミロースが残る。そこで、合成された環状グルカンの量を、T.Takaha,M.Yanase,H.Takata,S.Okada and S.M.Smith:J.Biol.Chem.,271,2902−2908(1996)に記載の方法に従って測定した。この方法では、溶液中のアミロースをグルコース単位に分解し、残存する環状グルカンの量が測定される。この測定の結果、環状グルカンが形成されたことが確認された。また、測定された環状グルカンの量を出発原料のセロビオースの量と比較し、環状グルカンの収率を算出したところ、9.6%であった。従って、実施例7で得られたグルカンのうちの約29%が環状グルカンであり、残りの約71%が直鎖状のアミロースであることがわかった。このように、反応液中にCBPおよびGPに加えて4−α−グルカノトランスフェラーゼをさらに含むことにより、セロビオースから、環状構造を有するグルカンを合成し得ることがわかった。
【0273】
(参考例1:スクロースホスホリラーゼの平衡収率)
スクロースホスホリラーゼ(SP)の平衡収率を調べるために、G−1−Pを出発原料にした場合の平衡収率を求めた。
【0274】
まず、
終濃度50mMのG−1−P;
終濃度50U/mlの酵素(SP);
終濃度50mMのアクセプター(フルクトース);および
終濃度50mMのTris−HCl(pH7.0)
を混合し、45℃で6時間または16時間インキュベート後、遊離したリン濃度をモリブデン法により測定した。得られたリン濃度から、この酵素についての平衡収率を次式に従って求めた:
平衡収率(%)=リン濃度(mM)/50×100。
【0275】
結果を以下の表6に示す:
【0276】
【表6】

(参考例2:リン酸の存在下で2つのホスホリラーゼをカップリングさせた場合の生産物の収率)
以下の2つの場合の反応収率を求めた:
(2−1)セロビオースからのスクロース生産(CBP+SP+Fru);
(2−2)GOx+MT+POx共存下での、セロビオースからのスクロース生産(CBP+SP+Fru+GOx+MT+POx)。
【0277】
まず、終濃度50mMの出発原料(セロビオース)、終濃度10、30または100mMのリン酸緩衝液(pH7.0)、および終濃度50U/mlのそれぞれの酵素を混合し、45℃で16時間反応させた。反応終了後、反応液をインベルターゼで分解し、遊離するグルコース濃度を測定することでスクロース濃度を求めた。これらの2つの反応系のいずれにおいてもスクロースが生産物である。得られたスクロース濃度から、それぞれの反応系についての平衡収率を次式に従って求めた:
平衡収率(%)=スクロース濃度(mM)/50(mM)×100。
【0278】
結果を以下の表7に示す:
【0279】
【表7】

この結果、セロビオースからスクロースを合成する反応の収率は、リン酸濃度を変えても、きわめて低かった。また、グルコースオキシダーゼ、ムタロターゼおよびペルオキシダーゼを用いて反応系からグルコースを消去することによってスクロースの収率アップを図ったが、ほとんど収率は上がらなかった。
【産業上の利用可能性】
【0280】
本発明の方法により、非消化性のβ−1,4−グルカン(特に、セルロースおよびその部分分解物)を可食性の食品へと変換できる。本発明の方法により、地球上に大量に存在するバイオマスであるβ−1,4−グルカンを、安価で効率的にα−1,4−グルカンに変換することができるので、食糧危機問題、ゴミ問題の解決にも大きく貢献する。
【0281】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−1,4−グルカンからα−グルカンを製造する方法であって、
β−1,4−グルカンと、プライマーと、リン酸源と、β−1,4−グルカンホスホリラーゼと、α−1,4−グルカンホスホリラーゼを含む溶液を反応させて、α−グルカンを生産する工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記β−1,4−グルカンが、セロビオースであり、前記β−1,4−グルカンホスホリラーゼが、セロビオースホスホリラーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記β−1,4−グルカンが、重合度3以上のセロオリゴ糖であり、前記β−1,4−グルカンホスホリラーゼが、セロデキストリンホスホリラーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記β−1,4−グルカンが、重合度3以上のセロオリゴ糖であり、前記β−1,4−グルカンホスホリラーゼが、セロビオースホスホリラーゼおよびセロデキストリンホスホリラーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記生産工程において、前記α−グルカンの生産と同時に副生するグルコースを、前記溶液から除去する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記溶液が、グルコースイソメラーゼまたはグルコースオキシダーゼをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記溶液が、グルコースオキシダーゼおよびムタロターゼをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記溶液が、カタラーゼまたはペルオキシダーゼをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記リン酸源が、無機リン酸、グルコース−1−リン酸、または無機リン酸とグルコース−1−リン酸との混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記リン酸源の濃度が、1mM〜50mMである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記α−グルカンが、アミロースである、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【国際公開番号】WO2005/056811
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【発行日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516181(P2005−516181)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018416
【国際出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【出願人】(591173213)三和澱粉工業株式会社 (33)
【Fターム(参考)】