説明

みりん類、みりん類の製造方法

【課題】麹由来の好ましい風味を残しつつ、色沢が淡麗で色沢安定性が良好なみりん類を提供する。
【解決手段】アミノ酸含量(mg/l)に対する、ミネラル含量(mg/l)の比率(ミネラル含量/アミノ酸含量)が0.3以上、ミネラル含量が80mg/l以上、かつ、アミノ酸度が1.0以下の本みりん。ミネラル含量が300mg/l以上、かつ、アミノ酸度が1.0以下の純米本みりん。このようなみりん類を得るための方法として、熱失活等の手段により麹中のプロテアーゼおよびペプチダーゼを全部または一部失活させる。
【効果】ミネラル含量およびアミノ酸含量を上記範囲内とすることにより、麹由来の好ましい風味を有するとともに、その色沢が淡麗で、色沢安定性が良好な高品質のみりん類が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料米や麹由来の良好な風味を残しつつ、色沢が淡麗で、色沢安定性が良好なみりん類、具体的には、ミネラル含量およびアミノ酸含量が特定濃度範囲内であるみりん類およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の調理に広く用いられる調味料の1種であるみりん類は、従来、蒸しもち米等の原料米を米麹および焼酎等のアルコールと混合し、麹菌の作用で原料米を糖化し、原料米中の成分を分解溶出させ、さらに熟成を経た「醪」を圧搾、滓下げ、ろ過、火入れ等の処理に供することにより製造される。
【0003】
みりん類は、通常、淡黄褐色の色沢を有するが、清酒等と比べると経日的に褐変増色しやすい傾向を有し、こうした経日的な褐変増色がみりん類の品質として好まれない場合があることから、褐変増色しにくい、すなわち色沢安定性が良好な製品が求められている。
【0004】
みりん類の色沢安定性を向上させるためには、従来、例えば、活性炭処理が知られている。その他にも、柿渋を添加して火入れを行い、凝集物を沈殿清澄化する方法(例えば、特許文献1参照)や、乳酸菌を添加した水に糯米を浸漬する方法(例えば、特許文献2参照)が知られている。また、滓下げ工程終了後の製品充てん工程までの間のみりん類にプロテアーゼを作用させる方法(例えば、特許文献3参照)も知られている。しかしながら、これらの方法はいずれも、本来のみりん類の製造工程に対して付加的な投入物の調製およびその添加工程を要し、そのための設備等を必要とする。従って、付加的な作業負担を極力要しない簡単な方法でありながら、みりん類の色沢安定性をさらに向上させることができる方法が依然として望まれている。
【0005】
みりん類における経日的な褐変増色は、製品中に含まれる糖類(アルデヒド基を潜在的に有する単糖及びその誘導体)と、蛋白質やペプチド、アミノ酸に由来するアミノ基とが非酵素的に共有結合する、いわゆるメイラード反応によるものと考えられる。みりん類は、その中に糖類を多量に含むと共に、原料米から麹菌の酵素の作用により分解溶出されるアミノ酸を含む。従って、メイラード反応の抑制という観点からは、分解溶出されるアミノ酸の量を低減する目的で、使用する麹菌の量を減らすことによって麹菌の酵素の作用を弱めるという方策が考えられ得る。しかし、麹の使用量を減らした場合には、麹菌の作用によって、あるいは麹菌自体によってもたらされるアミノ酸以外の各種成分まで少なくなってしまうことにより、みりん類に特有の重厚な香りや風味が保持されなくなるという問題を有している。この問題は、糖液等を用いてみりん類を希釈することで色を薄くし、アミノ酸含量を減らすという方法においても同様にあてはまり、糖液等で希釈する方法により製造されたみりん類は、確かに色は薄く、褐変増色も一定度合で抑制されているものの、みりん類特有の重厚な香りや風味が十分とはいえない。
【0006】
【特許文献1】特公昭52−4638号公報
【特許文献2】特開平11−113555号公報
【特許文献3】特開2002−345449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、比較的簡便な操作により、麹由来の好ましい風味を残しつつ、色沢が淡麗で色沢安定性が良好なみりん類を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ミネラル含量およびアミノ酸含量が特定濃度範囲内であるみりん類は、色沢が淡麗で色沢安定性が良好なものとなることを知った。また、このようなみりん類を得るための方法としては、熱失活等の手段により麹中のプロテアーゼ、ペプチダーゼを全部または一部失活させることが好ましいことを知り、これらの知見に基づいて本発明を完成した。
すなわち本発明は、以下に関する。
(1)アミノ酸含量(mg/l)に対する、ミネラル含量(mg/l)の比率(ミネラル含量/アミノ酸含量)が0.3以上、ミネラル含量が80mg/l以上、かつ、アミノ酸度が1.0以下の本みりん。
(2)ミネラル含量が300mg/l以上、かつ、アミノ酸度が1.0以下の純米本みりん。
(3)原料米と麹とを混合して仕込む前に麹を蒸煮処理することにより、麹中のプロテアーゼおよびペプチダーゼが全部または一部失活されていることを特徴とする、みりん類の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、原料米や麹由来の好ましい風味を残しつつ、色沢が淡麗で色沢安定性が良好なみりん類を比較的簡便な操作によって得ることができる。本発明のみりん類を用いることにより、原料米や麹由来の好ましい風味を残しつつ、色沢が淡麗で色沢安定性が良好な調味料、酒類、食品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を具体的に説明する。
(みりん類)
本発明のみりん類とは、純米本みりん、および、本みりんをいう。純米本みりんは、みりん類中の糖分が全て原料の米由来であるみりん類である。本みりんは、みりん類中の糖分として、米以外にぶどう糖や水あめ、液糖などが加えられているみりん類をいう。
【0011】
(ミネラル含量)
本発明のミネラル含量とは、みりん類中に含まれるミネラルの総量をいう。ミネラルとしては、カルシウム、鉄、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、リン、セリン、ケイ素、亜鉛等が挙げられる。これらのミネラルは、仕込み水からもいくらかは持ち込まれるが、大部分は、原料米や米麹を由来としている。すなわち、このように原料米や麹由来のミネラル含量が多いみりんは、同時に、原料米や麹由来の良好な風味成分を多く含むみりんである。
【0012】
特に、米、米麹およびしょうちゅう又はアルコールを主原料とし、ぶどう糖や水あめ、液糖などを添加しないで製造される、いわゆる「純米本みりん」の場合、製品中のミネラル含量の高さは、その大部分を原料米や麹に由来するため、ミネラル含量の高さは同時に、原料米や麹由来の風味成分を豊富に含むという品質を示す指標ともなる。また、純米本みりんをぶどう糖及び水あめで所定の倍率範囲(通常約1.1〜3.5倍程度まで)に希釈することが認められている「本みりん」においても、その原料として人為的にミネラル成分を補充・強化することが認められないために、製品中のミネラル含量は、原料米と麹由来の風味成分の含量を間接的に示唆する指標となり得る。一方、純米本みりんや本みりんのような製法上の制約を受けないみりん風調味料においては、塩化ナトリウムその他の成分を任意に添加することにより、製品中のミネラルを補充・強化することも可能であり、このようにミネラルが補充・強化された製品に関しては、必ずしもミネラル含量の高さと麹由来の風味成分は連動するものではない。
【0013】
色沢安定性との関係においては、ミネラル含量が高いほど、色沢安定性が低下しやすい傾向が認められる。ただし、ミネラル含量自体の色沢安定性への寄与はアミノ酸度ほどには大きくなく、むしろ上述のように風味への貢献が大きいため、アミノ酸度とのバランスを保ちつつ、特定濃度範囲でミネラルが存在することが好ましい。
ミネラル含量の測定は、例えば、ICP−発光分析により行うことができる。具体的には、希釈または硝酸分解した試料溶液について、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置(パーキンエルマージャパン社製OPTIMA3300XL)等の装置を用いた定量分析によって、ミネラル含量の測定を行うことができる。
【0014】
(アミノ酸度)
本発明のアミノ酸度とは、国税庁所定分析法により得られる値であり、検体10mlをホルモール滴定した場合のN/10水酸化ナトリウム溶液の滴定値(ml)をいう。アミノ酸度が高いとアミノ酸含量は高くなり、アミノ酸度が低いとアミノ酸含量は低くなることを意味する。なお、アミノ酸度からアミノ酸含量(g/100ml)を求める場合には、次式により算出できることが、第四回改正国税庁所定分析法注解(注解編集委員会編)に示されている:
アミノ酸(g/100ml)=アミノ酸度×(係数)×10
上記の係数は、アミノ酸の種類によって変動する。みりんの場合、アミノ酸(g/100ml)とアミノ酸度の関係を調べた結果、係数はほぼ0.01であることが分かっているため、ここでは、係数を0.01とする。
【0015】
(ミネラル含量およびアミノ酸含量の比率、およびアミノ酸度)
本発明のみりん類は、原料米や麹由来の良好な風味を残しつつ、色沢が淡麗で色沢安定性が良好であるという効果を発揮するために、ミネラル含量およびアミノ酸含量が特定濃度範囲内であることを特徴とする。具体的には、本発明のみりん類は、アミノ酸含量(mg/l)に対するミネラル含量(mg/l)の比率(ミネラル含量/アミノ酸含量)が0.3以上、かつ、アミノ酸度が1.0以下であることを特徴とする。アミノ酸度は低いほど良く、0.9以下であればより好ましく、0.5以下であればさらに好ましい。このような成分組成を有するみりん類であれば、原料米や麹由来の良好な風味を残しつつ、色沢が淡麗で色沢安定性が良好であるという効果を発揮することができる。
【0016】
例えば、アミノ酸含量(mg/l)に対するミネラル含量(mg/l)の比率(ミネラル含量/アミノ酸含量)が0.3未満になる場合としては、本発明のみりん類と比較して、分子であるミネラル含量が低い場合と、分母であるアミノ酸含量が高い場合が考えられる。一般的な純米本みりんの場合、ミネラル含量は300mg/l以上となる。この数値は、米原料に玄米や糠を使用して純米みりんを製造した場合は、さらに高い値となる。しかし、同時に、アミノ酸含量も高くなってしまう傾向を有するため、結果としてミネラル含量/アミノ酸含量の比率が0.3を下回り、このようなみりん類は、原料米や米麹由来の風味に富んではいるが、反面、色択安定性が悪いみりん類となる。一方、色択安定性の向上を目的として、麹を減らす方法で製造されるみりん類では、色択安定性は良いものの、原料米や米麹由来のミネラル含量が低い結果として、ミネラル含量/アミノ酸含量の比率が0.3を下回り、原料米や米麹由来の風味が乏しいみりん類となる。また、公知の純米みりんを糖液で希釈する方法によって得られる本みりんの場合、色択安定性は良いものの、希釈によりミネラル含量が減少するため、原料米や米麹由来の風味も希釈されてしまう。したがって、原料米や米麹由来の風味が豊かで、かつ、色択安定性が良いみりん類を実現させるためには、アミノ酸度が小さいという絶対量の指標に加えて、ミネラル含量/アミノ酸含量の比率が0.3以上であるということが重要な指標となる。この指標を満たす本発明のみりん類の具体例として、ミネラル含量が300mg/l以上、かつ、アミノ酸度が1.0以下の純米本みりんが挙げられる。一般的な本みりんの場合、アミノ酸度は1.5を上回り、純米本みりんの場合にはさらに高く、2.0を上回ることが通常である。アミノ酸度が1.0以下の本みりんを得ること、特に、純米本みりんを得ることは公知の方法では極めて困難であった。
【0017】
本発明のみりん類には、前記の純米本みりんにぶどう糖及び水あめを添加して得られる本みりんを含む。本みりんは、純米本みりんにぶどう糖及び水あめが添加されることにより、純米本みりんと比較して、アミノ酸度が低下する。したがって、従来の純米本みりんよりも顕著にアミノ酸度が低い本発明の純米本みりんを用いて製造される本みりんは、公知の本みりんと同様、またはそれ以上の原料米や米麹由来の風味やミネラル分を有しながら、色沢が一層淡麗で、色択安定性が良いという利点を有する高品質の本みりんである。本発明の本みりんは、本発明の純米本みりんを配合してなり、ミネラル含量が80mg/l以上、かつ、アミノ酸度が1.0以下であることを特徴とする。
【0018】
(本発明のみりん類の製造法)
本発明のみりん類を製造するためのひとつの方法としては、アミノ酸度を下げるために、例えば、麹を「仕込み」前に予め熱処理する方法が挙げられる。熱処理の方法は任意であるが、例えば、掛米と同時に蒸煮する方法、焙煎する方法、高温のインキュベーター内で一定期間放置する方法などが挙げられる。掛米と同時に蒸煮する方法であれば、大変容易に熱処理を行うことができ、処理条件は、例えば、通常の掛米蒸煮の処理条件である100〜121℃で30分程度、掛米と一緒に蒸煮すればよく、この熱処理によって麹由来の酵素(プロテアーゼ、ペプチダーゼ類)の全部または一部が失活し、その結果としてアミノ酸度1.0以下のみりん類を得ることができる。
【0019】
麹中のプロテアーゼ、ペプチダーゼ類の失活程度は任意であり、本発明の成分組成で規定されるみりん類を製造できる条件であれば、原料の種類、成分組成、麹の種類、または目的とする醪の品質等によって、適当な失活条件を選択することができる。すなわち、麹由来のプロテアーゼ、ペプチダーゼ類をわずかに失活させてもよく、あるいは大部分を失活させてもよい。さらに、場合によっては、麹中のプロテアーゼ、ペプチダーゼ類は完全に失活させた上で、別途好適な酵素剤を添加することにより、それらを補うこともできる。また、失活処理した麹を仕込む場合に、何ら失活処理に供していない麹を任意の割合で混合して仕込むこともできる。
「仕込み」前に麹を熱処理に供するという方法は、処理操作としては非常に簡単であるが、従来のみりん類の製造方法としては行われていなかった。麹を用いて原料米を糖化するにあたっては、麹の酵素活性を十分に発揮させて原料米を糖化するように仕込むのが常であって、特定の酵素活性に着目し、かつそれを失活させるために処理するという着想は新規なものであり、本発明のみりん類を効率よく製造するための非常に有効な方法である。
【0020】
上記の熱処理を、麹由来の酵素を失活させるための公知の方法と任意に組み合わせて用いることもできる。麹由来の酵素の全部または一部を失活させる方法の例としては、例えば、麹を「仕込み」前に麹をアルコールと一定期間接触させて処理する方法等が挙げられる。例えば、アルコールを入れた容器中に麹を投入して一定時間浸漬する方法等により、麹と接触させる際のアルコール濃度を20〜100%(v/v)、処理温度を0〜80℃、1時間〜10日間、処理することにより、麹由来のプロテアーゼ、ペプチダーゼ類を部分的に失活させることができる。
【0021】
本発明のみりん類を製造する際に併用可能な別の方法としては、原料および/または製造工程の一部を変更することにより、醸造の結果として得られるみりん類中のミネラル濃度を高める方法が挙げられる。
みりん類中のミネラル濃度を高めるための具体的な手段の例として、例えば、従来使用される精白度80〜90%の蒸しモチ米に代えて、玄米、モチ玄米を用いることができる。あるいは、従来使用される蒸しモチ米に一定量の糠(モチ米糠、ウルチ米糠等、各種の糠)、赤糠等を配合することができる。このように原料を変更することにより、糠部分に含有されているミネラルが、みりん類中に持ち込まれやすくなり、含有濃度を高めることができるようになる。
【0022】
上記原料の配合割合は、得られるみりん類中のミネラル含量が一定以上となるように調整することが好ましい。具体的には、例えば、使用する糠の成分、味や香り等の風味とのバランスを考慮しながら、配合比を決定することが可能である。例えば、糠由来の成分には、ミネラル以外にも抗酸化成分等の機能性成分、重厚な香味成分などを各種含有することから、糠等の原料を使用することによって、抗酸化機能成分濃度が高い、コクがある等の付加的効果を有するみりん類を得ることもできる。一方で、糠の配合量が多すぎれば、糠特有の臭いが強く感じられる傾向もあり、これらのバランスを考慮して製造を行うことが好ましい。
【0023】
原料の水浸漬、蒸きょう等の工程は特に限定されず、従来のみりん類の製造法に準じて行えばよい。単に原料を置き換えたのみでは、得られるみりん類中のミネラルの含有量を十分に高め、かつ、アミノ酸含量を一定以下にすることは困難である場合、得られるみりん類における両方の含有量を好適な条件範囲内にできるよう、処理条件を設定することが好ましい。仕込みに使用する麹や、糖化熟成条件等も特に限定されず、従来のみりん類の製造に用いられているものを任意に用いることができ、適宜選択することができる。
【0024】
本発明のみりん類の製造に使用される、αアミラーゼ等の酵素は、公知のみりん類の製造に用いるものを任意に使用することができる。こうした酵素は、みりん類製造中の任意の工程で添加することができるが、例えば、好ましくは、仕込時に他の原料と同時に添加するか、原料処理工程中に添加することもできる。あるいは、糖化熟成工程中で、任意の時期に添加することもできる。酵素は単一のものを添加してもよく、複数の酵素を併用してもよい。複数の酵素を併用する場合には、その添加順序や添加量には特に制限がなく、適宜選択することができる。
上記のような方法の組み合わせを利用して得られたみりん類は、ミネラル含量とアミノ酸含量の良好なバランスを有し、かつ、アミノ酸度が一定以下に抑えられていることによって、色沢が淡麗で経日的褐変増色の少ないという特徴を有し、高い付加価値を有し得る。
【0025】
(本発明のみりん類を用いた食品の調理および飲食品の製造)
上述の方法により製造した本発明のみりん類は、従来のみりん類同様、任意の方法で各種食品の調理に使用することができる。本発明のみりん類は、従来のみりん類と同様に甘味や調理特性を設計することが可能であり、調理済み食品に原料米や米麹由来の豊かな風味やミネラル分を付与することができ、かつ、優れた色沢安定性を発揮することが期待できる。
【0026】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、それらの例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
(みりん類の製造)
以下の方法により、本発明のみりん類を製造し、得られたみりん中のミネラル含量及びアミノ酸度を、市販のみりん類および各種の方法で製造したみりん類と比較した。
1)比較例1:市販のみりん類(区分1)
市販の純米タイプ(液糖が添加されていないもの)のみりん類を購入した。
2)比較例2:市販のみりん類(区分2)
市販の液糖が添加されたタイプのみりん類を購入した。
3)比較例3:麹を減らす方法により製造されたみりん類(区分3)
国産精白もち米1,000gを常法により洗浄、浸漬、水切りした後、121℃で40分間蒸煮した。放冷後、市販の米麹50gと40%(v/v)アルコール740ml、アミラーゼ100mg(αアミラーゼ800:エイチビィアイ社製)およびアミラーゼ400mg(ユニアーゼS:ヤクルト薬品工業社製)を加え、定法にて、30日間糖化熟成後、圧搾、精製して、みりん類を得た。
4)比較例4:従来の方法により製造されたみりん類(区分4)
国産精白もち米1,000gを常法により洗浄、浸漬、水切りした後、121℃で40分間蒸煮した。放冷後、市販の米麹100gと40%(v/v)アルコール740ml、アミラーゼ100mg(αアミラーゼ800:エイチビィアイ社製)およびアミラーゼ400mg(ユニアーゼS:ヤクルト薬品工業社製)を加え、定法にて、30日間糖化熟成後、圧搾、精製して、みりん類を得た。
5)本発明1:熱処理した麹(100g)を用いて製造したみりん類(区分5)
国産精白もち米1,000gを常法により洗浄、浸漬、水切りした後、121℃で40分間蒸煮した。この際、常法により製麹した米麹100gも同時に蒸煮した。これらに40%(v/v)アルコール740ml、アミラーゼ100mg(αアミラーゼ800:エイチビィアイ社製)およびアミラーゼ400mg(ユニアーゼS:ヤクルト薬品工業社製)を加え、定法にて、30日間糖化熟成後、圧搾、精製して、みりん類を得た。
6)本発明2:アルコール処理した麹(100g)を用いて製造したみりん類(区分6)
国産精白もち米1,000gを常法により洗浄、浸漬、水切りした後、121℃で40分間蒸煮した。放冷後、市販の米麹100gを50℃に温めた40%(v/v)アルコール740mlで4時間浸漬したものを、アルコール、アミラーゼ100mg(αアミラーゼ800:エイチビィアイ社製)およびアミラーゼ400mg(ユニアーゼS:ヤクルト薬品工業社製)と共に加え、定法にて、30日間糖化熟成後、圧搾、精製してみりん類を得た。
7)本発明3:蒸煮処理を行った麹(150g)を用いて製造したみりん類(区分7)
国産精白もち米1,000gを常法により洗浄、浸漬、水切りした後、121℃で40分間蒸煮した。この際、常法により製麹した米麹150gも同時に蒸煮した。これらに40%(v/v)アルコール740ml、アミラーゼ100mg(αアミラーゼ800:エイチビィアイ社製)およびアミラーゼ400mg(ユニアーゼS:ヤクルト薬品工業社製)を加え、定法にて、30日間糖化熟成後、圧搾、精製して、みりん類を得た。

8)本発明3:蒸煮処理を行った麹(150g)を用いて製造したみりん類を配合してなるみりん類(区分8)
本発明3のみりん類に市販の液状ぶどう糖および醸造アルコール、水を添加して2倍に希釈し、みりん類を得た。
【0028】
(増色度および官能評価)
得られた8種類のみりん類の分析値、色沢安定性および官能評価の結果を表1に示す。50℃で7日間保存した際の、430nmにおける吸光度増加量(「吸光度増加量(430mn)」)を色沢安定性の指標とした。評価基準は以下の通りである。
色沢安定性評価基準
1:吸光度増加量が大きく、色沢安定性が悪い
2:吸光度増加量が小〜中程度であり、色沢安定性が良い
3:吸光度増加量が非常に小さく、色沢安定性が非常に良い
官能評価基準
1:標準的な本みりんの風味を感じる
2:甘く濃厚な、純米本みりんらしい風味を感じる
総合評価
◎:甘く濃厚な風味を有するとともに、色沢安定性が良い
○:本みりんの風味を感じるとともに、色沢安定性が良い
:甘く濃厚な風味を有するが、色沢安定性が悪い
:本みりんの風味を感じるが、色沢安定性が悪い
【0029】
【表1】

【0030】
比較例1の市販の純米本みりんは、純米本みりんの特徴である甘く濃厚な風味を有していたが、色沢安定性が悪く、増色しやすいものであった。また、この傾向は、比較例4の従来製法による純米本みりんと共通であった。これらにおいては、みりん類中のミネラル量が高く、風味成分が多いことが示唆される半面、アミノ酸度もまた高い傾向にあり、そのことに起因して色沢安定性が悪くなっていることがわかる。また、比較例3のみりん類は、アミノ酸度を下げることを意図して、仕込みに用いる麹の使用割合を1/2量に減らしたものであるが、そのことにより、麹由来のミネラル含量が低下し、製法上は純米本みりんであるものの、風味の点ではやや弱く、比較例2のような、いわゆる本みりんに近い風味となる傾向を示した。一方で、麹の使用割合を減らした分、アミノ酸度はある程度低下したものの、同程度の風味を有する市販の本みりん(比較例2)と比較しても、ミネラル含量がやや高い反面、色沢安定性がやや悪く、総合評価としての顕著な改善はみられなかった。比較例2は糖類で希釈されているため、アミノ酸度は低く、その分、純米本みりんと比較して色沢安定性は良好であったが、純米本みりん自体が有する、みりんらしい甘く濃厚な風味という点では弱い傾向がみられた。これらの比較例のみりん類は、いずれも、ミネラル含量/アミノ酸含量比率が0.3未満であり、また、アミノ酸度が1.0を上回っており、本発明のみりん類の成分組成とは異なるものであった。
【0031】
一方、本発明1、本発明2、および本発明3では、比較例1、比較例4の純米本みりんと比較的近いミネラル含量を有しつつ、アミノ酸度が非常に低い純米みりんが得られた。これらにおけるミネラル含量/アミノ酸含量比率は0.775、0.373および0.595、また、アミノ酸度は0.4、0.9および0.6であった。これらの純米本みりんは、純米本みりんの特徴である甘く濃厚な風味を有しつつ、色沢安定性はいわゆる本みりん並みに良好であることがわかった。本発明1および本発明3では、熱処理によって、また、本発明2では、アルコール処理によって、麹を処理しているが、いずれの方法においても、本発明の成分組成範囲を満たすみりん類を製造することができた。
【0032】
また、本発明3の純米本みりんを糖液等で希釈して得られた本みりんにおいても、本発明の成分組成範囲を満たす本みりんを製造することができた(本発明4)。この本みりんは、公知の本みりんと同様の風味を有するとともに、公知の本みりんと比較してアミノ酸度が顕著に低いという特徴を有し、そのことにより、色沢安定性が非常に良好であるというものであった。
【0033】
以上のように、本発明により、原料米や麹由来の良好な風味を残しつつ、色沢が淡麗で、色沢安定性が良好な、みりん類を製造することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸含量(mg/l)に対する、ミネラル含量(mg/l)の比率(ミネラル含量/アミノ酸含量)が0.3以上、ミネラル含量が80mg/l以上、かつ、アミノ酸度が1.0以下の本みりん。
【請求項2】
ミネラル含量が300mg/l以上、かつ、アミノ酸度が1.0以下の純米本みりん。
【請求項3】
原料米と麹とを混合して仕込む前に麹を蒸煮処理することにより、麹中のプロテアーゼおよびペプチダーゼが全部または一部失活されていることを特徴とする、みりん類の製造方法。

【公開番号】特開2010−148436(P2010−148436A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330209(P2008−330209)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)