説明

りん酸エステル架橋難燃性ポリオレフインフオーム

【目的】重合可能なりん酸エステルの合成。表面及び内部にりん酸エステルの重合物を生ぜしめることで難燃性を付与されたポリオレフィンフォーム及びその調製法。
【構成】重合可能な新規りん酸エステルを合成する。そのりん酸エステルをふくむ各種のりん酸エステルの少なくとも一種に、必要なら少なくとも一種の架橋剤を配合した混合物を、ポリオレフィンフォーム100重量部に対し10〜200重量部を含浸させ、ついで電離性放射線を照射し、ポリオレフィンフォームの表面及び微細孔内表面に該りん酸エステルを架橋剤を介して重合されてなることを特徴とする難燃性ポリオレフィンフォーム及びその製造法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は難燃性を有するポリオレフィンフォームに関するものである。より詳細に述べると、本発明は、表面及び内部に難燃性の重合物を生ぜしめることで難燃性を付与されたポリオレフィンフォームに関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年ポリオレフィンフォームは、その断熱性、クッション性から多くの用途に用いられている。しかし、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂は極めて燃えやすくかつ燃焼熱が高いという欠点があるため、ポリオレフィンフォームを建材等の分野に用いる場合、不都合な点が生じる事がある。例えばポリオレフィンフォームを鋼板に張り合わせて断熱鋼板として使用する場合は、準不燃剤として認定されるにはポリオレフィンフォームの厚さが制限されるため、ポリオレフィンフォームを厚くして断熱性を向上させることができない。
【0003】この欠点を改善するため、従来様々な方法が行われてきたが、一般にポリオレフィンフォームに難燃性を付与する方法としては、多量の無機粉体を添加する方法や芳香族臭素系難燃剤を添加する方法が用いられている。しかし無機粉体を添加する方法では優れた難燃性が得られる反面、発泡倍率やフォームの強伸度が低下する等の欠点があり、芳香族臭素系難燃剤を添加する方法は、燃焼時の毒性に問題がある。そのため、発泡後のポリオレフィンフォームの内部及び表面にビニルホスフォネート系オリゴマーを電子線グラフト重合しポリオレフィンフォームに難燃性を付与する方法が、近年考案されている(特開平2−22317号)。しかしこの方法では、オリゴマー(商品名ファイロール76;明正化学製)の単位電子線量による重合率が低いため、電子線照射後の洗浄工程で未重合のオリゴマーが溶出される結果、相対的にりん含量が低下しポリオレフィンフォームの難燃性が充分でないという欠点があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記欠点を解消せしめ、優れた難燃性を持つポリオレフィンフォームを提供せんとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、化1、化1〜化4で示されるりん酸エステルの少なくとも一種のりん酸エステルを、ポリオレフィンフォーム100重量部に対し10〜200重量部を含浸させ、ついで電離性放射線を照射し、ポリオレフィンフォームの表面及び微細孔内表面に該りん酸エステルの重合物を生じせしめることを特徴とする難燃性ポリオレフィンフォーム及びこの製造法である。
【0006】本発明の対象となるポリオレフィンフォームの材質としては、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリビニルクロライド、ポリビニリデンクロライド等を挙げることができる。
【0007】本発明の難燃性ポリオレフィンフォームは次のようにして得ることができる。本ポリオレフィンフォームにりん酸エステルを含有させる方法としては、まず、りん酸エステルを10〜100wt%となるように後述の溶媒に溶解せしめ、ついでポリオレフィンフォームを該溶液に浸漬する。
【0008】次にとりだした該ポリオレフィンフォームから余分な溶液を絞りとり、特に溶媒を加えた場合は充分に風乾もしくは減圧乾燥して溶媒を蒸発させる。
【0009】ここで用いる溶媒としてはメタノール、エタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、水等を挙げることができる。
【0010】乾燥後、該ポリオレフィンフォームに不活性ガス雰囲気下あるいは真空下あるいは空気雰囲気下で電離性放射線を照射する。電離性放射線としてはガンマ線、電子線が便利に用いられる。例えば該フォームに好ましくは10〜50℃で1.〜1.0X10rad/秒の線量率で1〜10Mradの線量を照射することにより該フォームの表面及び微細孔内表面上に難燃性の重合物を生じせしめ、ついで必要があれば未硬化の該誘導体を水洗して除去することで本発明を得ることができる。りん酸エステルの配合量は10%以下では高い難燃性が得られず、200%以上では、フォームの物性上及び採算上で問題があるため好ましくない。また、架橋剤の配合量は、りん酸エステル100重量部に対し5重量部以下では高い難燃性が得られず、300重量部以上では、フォームの物性上及び採算上で問題があるため好ましくない。
【0011】
【作用】本発明の難燃性ポリオレフィンフォームは上記のように発泡後に難燃性の重合物を表面及び微細孔内表面上に形成せしめる事で難燃性を付与しているため、発泡度・強伸度の低下を引き起こさずに難燃性を得ることができる。また使用する含りん化合物の反応性が高いため、低加速電圧の電子線照射装置でも効率よく難燃性重合物をポリオレフィンフォームに含有させることができ、容易に難燃化理されたポリオレフィンフォームを得ることができる。
【0012】難燃成分の残存率測定法実施例開始前に測定しておいた原フォームの重量と各実施例により得られた難燃性ポリオレフィンフォームの重量を測定し、数1よりフォームの重量増加率を測定した。
【数1】


【0013】難燃成分残存率は数2から求めた。
【数2】


【0014】燃焼試験JISA9415に準拠した。開始時の試験片長さ15cm。
【0015】
【実施例1】170×130×5mmのシート状にしたエチレン酢酸ビニル共重合体フォーム(三和化工株式会社製,オブセルLC−300n3,みかけ密度0.027g/cm)にN−(ジメチルホスホノメチル)アクリルアミドを含浸させ、これに電子線を照射した。照射は室温で行い、175KeVの電子線を10Mrad照射した。照射後、該フォームを水洗し、未反応物及び低分子量重合物を除去した。以下各種試験に供した。測定方法は難燃成分の残存率を測定し、ついで、JIS A9514に基づく燃焼試験を行い難燃性を評価した。結果を表1に示す。
【0016】
【実施例2】りん含有化合物としてN,Nビス(ホスホノメチル)アクリルアミドを用いたことを除けば実施例1と同様な方法で難燃性フォームを得た。 洗浄後の難燃成分残存率と、JIS A9415に基づいた燃焼試験結果を表1に示す。
【0017】
【実施例3】りん含有化合物としてモノ(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェートとジ(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェートの1:1混合物を用いたことを除けば実施例1と同様な方法で難燃性フォームを得た。 洗浄後の難燃成分残存率と,JIS A9415に基づいた燃焼試験結果を表1に示す。
【0018】
【実施例4】りん含有化合物としてモノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェートとジ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェートの1:1混合物を用いたことを除けば実施例1と同様な方法で難燃性フォームを得た。洗浄後の難燃成分残存率と、JIS A9415に基づいた燃焼試験結果を表1に示す。
【0019】
【実施例5】りん含有化合物としてジメチル(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェートを用いたことを除けば実施例1と同様な方法で難燃性フォームを得た。 洗浄後の難燃成分残存率と,JIS A9415に基づいた燃焼試験結果を表1に示す。
【0020】
【実施例6】りん含有化合物としてN−(ジヒドロキシホスホノメチル)アクリルアミドを用いたことを除けば実施例1と同様な方法で難燃性フォームを得た。洗浄後の難燃成分残存率と、JIS A9415に基づいた燃焼試験結果を表1に示す。
【0021】
【実施例7】りん含有化合物としてN−(ジエチルホスホノメチル)アクリルアミドを用いたことを除けば実施例1と同様な方法で難燃性フォームを得た。 洗浄後の難燃成分残存率と、JIS A9415に基づいた燃焼試験結果を表1に示す。
【0022】
【実施例8】りん含有化合物としてN−(ジメチルホスホノメチル)アクリルアミドと下記化6で表される化合物の6:4混合物を用いたことを除けば実施例1と同様な方法で難燃性フォームを得た。 洗浄後の難燃成分残存率と、JIS A9415に基づいた燃焼試験結果を表1に示す。
【0023】
【実施例9】りん含有化合物としてN−(ジメチルホスホノメチル)アクリルアミドと下記化6で表される化合物の8:2混合物を用いたことを除けば実施例1と同様な方法で難燃性フォームを得た。 洗浄後の難燃成分残存率と、JIS A9415に基づいた燃焼試験結果を表1に示す。
【0024】
【実施例10】りん含有化合物としてN−(ジエチルホスホノメチル)アクリルアミドと下記化6で表される化合物の8:2混合物を用いたことを除けば実施例1と同様な方法で難燃性フォームを得た。 洗浄後の難燃成分残存率と、JISA9415に基づいた燃焼試験結果を表1に示す。
【0025】
【実施例11】りん含有化合物としてN−(ジメチルホスホノメチル)アクリルアミドとN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドの9:1混合物を用いたことを除けば実施例1と同様な方法で難燃性フォームを得た。 洗浄後の難燃成分残存率と、JIS A9415に基づいた燃焼試験結果を表1に示す。
【0026】
【実施例12】りん含有化合物としてN−(ジメチルホスホノメチル)アクリルアミドとテトラエチレングリコールジアクリレートの9:1混合物を用いたことを除けば実施例1と同様な方法で難燃性フォームを得た。 洗浄後の難燃成分残存率と、JIS A9415に基づいた燃焼試験結果を表1に示す。
【0027】
【実施例13】りん含有化合物としてN−(ジメチルホスホノメチル)アクリルアミドと1、6−ヘキサンジオールジアクリレートの8:2混合物を用いたことを除けば実施例1と同様な方法で難燃性フォームを得た。 洗浄後の難燃成分残存率と、JIS A9415に基づいた燃焼試験結果を表1に示す。
【0028】
【実施例14】りん含有化合物としてモノ(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェートと下記化7で表される化合物の1:1混合物を用いたことを除けば実施例1と同様な方法で難燃性フォームを得た。 洗浄後の難燃成分残存率と、JISA9415に基づいた燃焼試験結果を表1に示す。
【0029】
【実施例15】りん含有化合物としてモノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェートと下記化8で表される化合物の1:1混合物を用いたことを除けば実施例1と同様な方法で難燃性フォームを得た。 洗浄後の難燃成分残存率と、JIS A9415に基づいた燃焼試験結果を表1に示す。
【0030】
【実施例16】りん含有化合物としてモノ(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェートと下記化7で表される化合物と下記化6で表される化合物の9:9:2の混合物を用いたことを除けば実施例1と同様な方法で難燃性フォームを得た。洗浄後の難燃成分残存率と、JIS A9415に基づいた燃焼試験結果を表1に示す。
【0031】
【実施例17】りん含有化合物としてモノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェートと下記化8で表される化合物と下記化6で表される化合物の9:9:2の混合物を用いたことを除けば実施例1と同様な方法で難燃性フォームを得た。洗浄後の難燃成分残存率と、JIS A9415に基づいた燃焼試験結果を表1に示す。
【0032】
【実施例18】りん含有化合物としてモノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェートと下記化8で表される化合物とN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドの9:9:2の混合物を用いたことを除けば実施例1と同様な方法で難燃性フォームを得た。洗浄後の難燃成分残存率と、JIS A9415に基づいた燃焼試験結果を表1に示す。
【0033】
【実施例19】りん含有化合物としてモノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェートと下記化8で表される化合物とテトラエチレングリコールジアクリレートの9:9:2の混合物を用いたことを除けば実施例1と同様な方法で難燃性フォームを得た。 洗浄後の難燃成分残存率と、JIS A9415に基づいた燃焼試験結果を表1に示す。
【0034】
【実施例20】りん含有化合物としてモノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェートと下記化8で表される化合物と1,6−ヘキサンジオールジアクリレートの9:9:2の混合物を用いたことを除けば実施例1と同様な方法で難燃性フォームを得た。 洗浄後の難燃成分残存率と、JIS A9415に基づいた燃焼試験結果を表1に示す。
【0035】
【比較例1】りん含有化合物としてファイロール76を用いたことを除けば実施例1と同様な方法で難燃性フォームを得た。 洗浄後の難燃成分残存率と、JIS A9415に基づいた燃焼試験結果を表1に示す。
【0036】燃焼試験の結果、比較例1に較べ実施例1〜20はいずれも難燃成分残存率が高く、そのため処理後のフォームの難燃性が向上し、燃焼長さが短くなっていた。
【表1】


【化6】


【化7】


【化8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】 化1で示される酸性りん酸エステル
【化1】


[R1,R3は水素またはメチル基、R2は(a)ハロゲンもしくはアルキル基で置換されることあるアルキレンオキシ基または(b)ハロゲンもしくはアルキル基で置換されることある(CHCHO)基(nは2〜4の整数)または(c)ハロゲンもしくはアルキル基で置換されることあるアルキレン基、Xは−O−または−NH−を表す。]
【請求項2】100重量部のポリオレフィンフォームの表面及びその微細孔内表面に化1〜化4で示されるりん酸エステル10〜200重量部をグラフト重合させてなる難燃性ポリオレフィンフォーム
【請求項3】化1〜化4で示されるりん酸エステルの少なくとも一種を、ポリオレフィンフォーム100重量部に対し10〜200重量部を含浸させ、ついで電離性放射線を照射し、ポリオレフィンフォームの表面及び微細孔内表面に該誘導体の重合物を生じせしめることを特徴とする難燃性ポリオレフィンフォームの製造法。
【化2】


[ただし、R1は水素またはメチル基、R2,R3は(1)ハロゲンで置換されることある炭素数1〜5のアルキル基または(2)水素を表す。nは、n=0,1の整数を表す。]
【化3】


[ただし、R1は水素またはメチル基、R2,R3は(1)ハロゲンで置換されることある炭素数1〜5のアルキル基、または(2)水素を表す。nは、n=0,1の整数を表す。]
【化4】


[ただし、m=1〜3の整数、R1は水素またはメチル基、R2は(a)ハロゲンもしくはアルキル基で置換されることあるアルキレンオキシ基または(b)ハロゲンもしくはアルキル基で置換されることある(CHCHO)基(nは2〜4の整数)または(c)ハロゲンもしくはアルキル基で置換されることあるアルキレン基、R3は(1)ハロゲンで置換されることあるアルキル基、または(2)水素を表す。]
【請求項4】ポリオレフィンフォームの表面及び微細孔内表面に少なくとも一種の化1〜化4で示される該りん酸エステルを少なくとも一種の化5で示される架橋剤を介して重合されてなることを特徴とする難燃性ポリオレフィンフォームの製造法。
【化5】


[R1,R4,R5は水素またはメチル基、R3は(1)ハロゲンで置換されることあるアルキル基または(2)水素を表す。R2は(a)ハロゲンもしくはアルキル基もしくは水酸基で置換されることあるアルキレン基または(b)ハロゲンもしくはアルキル基もしくは水酸基で置換されることある(CH2CH2O)nCH2CH2基(nは1〜3の整数)を表す。X,Y,Zは、−O−もしくは−NH−を表す。l,m,nは、l,m,n≧0かつl+m+n≧1の整数を表す。]
【請求項5】少なくとも一種の化5で示される架橋剤を少なくとも一種の化1〜化4のりん酸エステル100重量部に対し5〜300重量部を配合した混合物を、ポリオレフィンフォーム100重量部に対し10〜200重量部を含浸させ、ついで電離性放射線を照射し、ポリオレフィンフォームの表面及び微細孔内表面に該りん酸エステルを架橋剤を介して重合されてなることを特徴とする難燃性ポリオレフィンフォーム。
【化5】


[R1,R4, R5は水素またはメチル基、R3は(1)ハロゲンで置換されることあるアルキル基または(2)水素を表す。R2は(a)ハロゲンもしくはアルキル基もしくは水酸基で置換されることあるアルキレン基または(b)ハロゲンもしくはアルキル基もしくは水酸基で置換されることある(CH2CH2O)nCH2CH2基(nは1〜3の整数)を表す。X,Y,Zは、−O−もしくは−NH−を表す。l,m,nは、l,m,n≧0かつl+m+n≧1の整数を表す。]