説明

りん酸肥料、及びその製造方法

【課題】本発明は、りん酸のく溶性やけい酸の可溶性が高く、リンの省資源や、肥料の製造における省エネルギーに寄与することができるりん肥料を提供する。
【解決手段】本発明は、下水汚泥及び/又はその由来物と、カルシウム源とを含む原料を焼成してなるりん酸肥料であって、CaOの含有率が35〜60質量%であるりん酸肥料等を提供する。また、本発明は、下水汚泥及び/又はその由来物に、カルシウム源を混合して、りん酸肥料中のCaOの含有率が35〜60質量%となる原料を得る混合工程と、該原料を焼成炉を用いて1150〜1350℃で焼成して、焼成物を得る焼成工程とを含む、りん酸肥料の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水汚泥及び/又はその由来物を含む原料を用いて焼成してなる、りん酸肥料、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、我が国では、リンは天然資源として産出されないため、そのほぼ全てを輸入に頼っていた。しかし、近年、天然のリン資源は世界的にも枯渇しつつあり、リンの価格が高騰しているため、リンの確保が難しくなっている。そこで、りん酸肥料の製造分野では、天然のリン資源に代わるものとして、リン鉱石とほぼ同じ20〜30質量%のリンを含む下水汚泥焼却灰が考えられている。
また、我が国において、下水汚泥及びその焼却灰は、それぞれ、年間220万トン及び30万トンと大量に発生するため、下水汚泥等の処理は社会的要請でもあった。
したがって、肥料の原料として下水汚泥焼却灰を活用する技術は、前記天然リン資源の枯渇問題を解決する手段や、前記社会的要請に応え得る手段として、極めて重要である。
【0003】
現在、下水汚泥焼却灰を原料として用いたりん肥料の一つに、熔成汚泥灰複合肥料がある。該肥料は、下水汚泥焼却灰に、肥料又は肥料原料を混合して溶融したものである。しかし、該肥料は溶融法で製造されるため、溶融によるエネルギー消費が大きく、また、連続生産ができず生産効率が低いという問題がある。
また、特許文献1には、汚泥の焼却灰に対して、20〜50質量%の硫酸カルシウムを添加したことを特徴とする肥料が提案されている。しかし、該肥料は、焼却灰を単に混合したものにすぎず、焼却灰に含まれるリンは溶解性が低いため、りん酸のく溶率は低く、リンが肥料の有効成分として活用されているとはいい難い(表2の参考例を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09−328385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は、りん酸のく溶率が高く、リンの省資源やりん肥料の製造における省エネルギーに寄与することができる、りん肥料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意検討した結果、下水汚泥及び/又はその由来物と、カルシウム源とを含む原料を焼成してなるりん酸肥料であって、CaOの含有率が特定の範囲にあるりん酸肥料は、前記目的を達成できることを見い出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[5]を提供する。
[1]下水汚泥及び/又はその由来物と、カルシウム源とを含む原料を焼成してなるりん酸肥料であって、CaOの含有率が35〜60質量%であるりん酸肥料。
[2]前記りん酸肥料中の、(A)CaOとPとを除く成分、(B)CaO、及び、(C)Pの質量比が、図1に示す三角線図の、
点(ア)〔(A)/(B)/(C)=56/35/9〕、
点(イ)〔(A)/(B)/(C)=35/60/5〕、
点(ウ)〔(A)/(B)/(C)=22/60/18〕、及び、
点(エ)〔(A)/(B)/(C)=36/35/29〕
で囲まれる範囲内にある、前記[1]に記載のりん酸肥料。
ここで、前記の(A)CaOとPとを除く成分として、例えば、SiO、Al、MgO、Fe、Na2O、及び、KOなどが挙げられる。また、該成分の含有率(質量比の値)は、下記式により与えられる。
該成分の含有率(質量%)=100−CaOの含有率(質量%)−Pの含有率(質量%)
[3]りん酸のく溶率が60%以上、及び、けい酸の可溶率が40%以上である、前記[1]又は[2]に記載のりん酸肥料。
【0008】
[4]前記[1]〜[3]のいずれか1項に記載のりん酸肥料の製造方法であって、
(1)下水汚泥及び/又はその由来物に、カルシウム源を混合して、りん酸肥料中のCaOの含有率が35〜60質量%となる原料を得る混合工程と、
(2)該原料を、焼成炉を用いて1150〜1350℃で焼成して、焼成物を得る焼成工程と
を含む、りん酸肥料の製造方法。
[5]前記焼成炉がロータリーキルンである、前記[4]に記載のりん酸肥料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のりん酸肥料は、(i)りん酸のく溶率や、けい酸の可溶率が高く、(ii)重金属等の有害成分の含有量(溶出量)が少なく、(iii)下水汚泥等の再資源化により、リンの省資源に寄与することができる。
また、本発明のりん酸肥料の製造方法は、(i)溶融肥料の製造と比べて、焼成におけるエネルギー消費が少ないため、省エネルギーに寄与することができるとともに、(ii)ロータリーキルンを用いた場合、連続生産が可能で生産効率が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(A)CaOとPとを除く成分、(B)CaO、及び(C)Pの質量比を示す三角線図である。
【図2】前記(A)、(B)、及び(C)の質量比が、より好ましい範囲に限定された三角線図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、前記のとおり、下水汚泥及び/又はその由来物と、カルシウム源とを含む原料を焼成してなるりん酸肥料であって、CaOの含有率が35〜60質量%であるりん酸肥料とその製造方法である。
以下に、本発明について、りん酸肥料と、その製造方法に分けて説明する。なお、%は特に示さない限り質量%である。
【0012】
1.りん酸肥料
(1)原料
本発明のりん酸肥料の原料は、下水汚泥及び/又はその由来物と、カルシウム源とを含むものである。そして、下水汚泥及び/又はその由来物とは、下水汚泥、下水汚泥乾燥物、下水汚泥炭化物、下水汚泥焼却灰、及び、下水汚泥溶融スラグから選ばれる、少なくとも1種以上である。
(i)下水汚泥、その由来物
該下水汚泥は、下水道の終末処理場における下水処理や排水処理の過程において、下水や排水から、沈殿やろ過等により分離して得た、有機物や無機物を含む泥状物であり、さらに、該下水汚泥は、該泥状物を遠心分離等で脱水して得られる脱水汚泥も含む。
また、前記下水汚泥乾燥物は、前記下水汚泥を天日干し又は乾燥機により乾燥して、含水率を概ね50%以下にしたものである。
また、前記下水汚泥炭化物は、下水汚泥を加熱して下水汚泥に含まれる有機物の一部又は全部を炭化物としたものである。該加熱温度は300〜800℃が好ましく、500〜700℃がより好ましい。加熱温度が300℃未満では炭化に時間がかかり、800℃を超えると炭化物が燃焼するおそれがある。該燃焼を抑制するために、無酸素又は低酸素状態で加熱するのが好ましい。該炭化物は、本発明のりん酸肥料の製造(焼成)において燃料の一部にもなるため、その分、焼成に要するエネルギーを節約できる。
また、前記下水汚泥焼却灰は、下水汚泥を焼却して得られる残渣である。該焼却灰の化学組成(単位は%)は、一例として、SiO;28、P;25、Al;15、CaO;11、Fe;7、Cr;0.02、Ni;0.02、Pb;0.009、As;0.001、Cd;0.001等である。該焼却灰は、一般に、リン鉱石と比べSiOが多く重金属を含むという違いがある。
また、前記下水汚泥溶融スラグは、前記下水汚泥焼却灰を1350℃以上で溶融したものである。
【0013】
(ii)カルシウム源
該カルシウム源は、りん酸肥料の化学組成比が、前記範囲内になるように調整するため、下水汚泥及び/又はその由来物に添加するものである。該カルシウム源としては、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、リン酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、石灰石、生石灰、消石灰、セメント、鉄鋼スラグ、石膏、及び、畜糞焼却灰等から選ばれる、少なくとも1種以上である。
一般に、下水汚泥等はSiOを多く含むため、通常、シリカ源を添加する場合は少ないが、SiOが少ない場合は、適宜、珪石やケイ酸カルシウムなどのシリカ源を添加してもよい。
【0014】
(2)化学組成
本発明のりん酸肥料のCaOの含有率は35〜60%である。該値が35〜60%の範囲であれば、後掲の表2や表3に示すように、りん酸肥料中のりん酸のく溶率は60%以上及びけい酸の可溶率は40%以上と高くなる。また、CaOの含有率が60%を超えるとりん酸肥料中の全りん酸が相対的に低くなって施肥効果が低下したり、農地に施肥した場合に土壌のpHが高くなり植物の生育を阻害するおそれがある。
また、前記CaOの含有率の下限は、好ましくは38%であり、より好ましくは40%であり、その上限はこの好ましくは52%であり、より好ましくは51%である。
ここで、りん酸のく溶率とは、りん酸肥料中の全りん酸に対するく溶性りん酸の質量比(%)であり、けい酸の可溶率とは、りん酸肥料中の全けい酸に対する可溶性けい酸の質量比(%)である。また、く溶性りん酸量は肥料分析法(農林水産省農業環境技術研究所法)に規定されているバナドモリブデン酸アンモニウム法により、可溶性けい酸量は同法に規定されている過塩素酸法により測定することができる。
なお、原料やりん酸肥料中の酸化物の定量は、蛍光エックス線装置を用いてファンダメンタルパラメーター法により行うことができる。
【0015】
また、本発明のりん酸肥料は、三角線図上で示すと、好ましくは、(A)CaOとPとを除く成分、(B)CaO、及び、(C)Pの質量比が、図1に示す三角線図の、
点(ア)〔(A)/(B)/(C)=56/35/9〕、
点(イ)〔(A)/(B)/(C)=35/60/5〕、
点(ウ)〔(A)/(B)/(C)=22/60/18〕、及び、
点(エ)〔(A)/(B)/(C)=36/35/29〕
で囲まれる範囲内にある。前記重量比が、前記範囲内にあれば、りん酸のく溶率、けい酸の可溶率ともに高くなる。
また、本発明のりん酸肥料は、より好ましくは、(A)CaOとPとを除く成分、(B)CaO、及び、(C)Pの質量比が、図2に示す三角線図の、
点(ア)〔(A)/(B)/(C)=49/41/10〕、
点(イ)〔(A)/(B)/(C)=41/50/9〕、
点(ウ)〔(A)/(B)/(C)=28/58/14〕、及び、
点(エ)〔(A)/(B)/(C)=34/40/26〕
で囲まれる範囲内にある。前記重量比が、前記範囲内にあれば、りん酸のく溶率およびけい酸の可溶率はより高くなる。
なお、前記(A)、(B)及び(C)の合計は100である。また、前記「囲まれる範囲内」には、境界線上も含まれる。
【0016】
本発明のりん酸肥料は、より好ましくは、SiO/Alのモル比が2.5以上である。該モル比が2.5以上であれば、焼成がより容易になる。
また、本発明のりん酸肥料は、さらに好ましくは、前記(A)、(B)及び(C)の質量比が、前記範囲内にあって、かつ、りん酸肥料中のCaO/Pが質量比で、2.3以下、及び/又は、4.0以上である。前記重量比がこれらの範囲内にあれば、りん酸のく溶性がより高まる。
【0017】
2.りん酸肥料の製造方法
該製造方法は、(1)下水汚泥及び/又はその由来物に、カルシウム源を混合して、りん酸肥料中のCaOの含有率が35〜60%となる原料を得る混合工程と、(2)前記肥料の原料を、焼成炉を用いて1150〜1350℃で焼成して、焼成物を得る焼成工程を含む。また、肥料の粉末度等を調整する必要がある場合は、さらに、(3)該焼成物を粉砕して造粒する、粉砕および造粒工程を含むものである。以下に、各工程について説明する。
【0018】
(1)混合工程
該工程は、下水汚泥及び/又はその由来物に、りん酸肥料中のCaOの含有率が35〜60%となるように、カルシウム源を混合して原料を得る必須の工程である。下水汚泥等やカルシウム源は、混合し易い粒度になるように、必要に応じてボールミル、ローラミル又はロッドミル等で粉砕する。
また、各原料の混合方法として、例えば、各原料の一部を電気炉等で焼成した後、該焼成灰中の酸化物を定量し、該定量値と所定の配合に基づき、各原料を混合する方法が挙げられる。該酸化物の定量は、蛍光エックス線装置を用いてファンダメンタルパラメーター法により行うことができる。後記するように、焼成前の原料の化学組成は、焼成後のりん酸肥料の化学組成と、焼成による揮発成分を除きほぼ同一であるから、CaOの含有率が35〜60%のりん酸肥料を得るためには、通常、CaOの含有率が該範囲を満たす原料を用いれば十分である。ただし、正確を期すためには、該原料の一部を電気炉等で焼成して、該原料中のCaOの含有率と、該焼成物中のCaOの含有率との相関を事前に把握しておき、該相関に基づき、原料の混合割合を、目的とするりん酸肥料中のCaOの含有率になるように修正することが好ましい。
【0019】
(2)焼成工程
該工程は、前記原料を、焼成炉を用いて焼成する必須の工程である。前記原料は、粉末のままで、該粉末に水を添加してスラリーにした状態で、若しくは、脱水ケーキの状態で焼成するか、又は、該粉末、若しくは、該粉末のセメント固化物等を、パンペレタイザー等の造粒機や、ブリケットマシン、ロールプレス等の成形機で、それぞれ造粒や成形してから焼成する。
該焼成温度は、通常、1150〜1350℃であり、好ましくは、1200〜1300℃である。1150〜1350℃の温度範囲内で焼成したりん酸肥料は、りん酸のく溶率やけい酸の可溶率が高い。また、焼成時間は10〜60分が好ましく、20〜40分がより好ましい。該時間が10分未満では焼成が不十分であり、60分を超えると生産効率が低下する。
【0020】
(3)粉砕および造粒工程
該工程は、前記焼成物の粒度を調整する工程であり、粉塵の発生を抑制して、肥料の取り扱いを容易にするためや、肥料効果を十分に発揮させるため、肥料の粒度を調整する必要がある場合に選択される任意の工程である。該粒度は0.1〜10mmが好ましく、0.5〜5mmがより好ましい。
粉砕手段として、例えば、ジョークラッシャー、ローラーミル、ボールミル、又はロッドミル等を用いることができる。また、粉砕手段として、例えば、パン型ミキサー、パンペレタイザー、ブリケットマシン、ロールプレス、押出成型機等を用いることができる。
また、該工程において、肥料の用途に応じて、適宜、ケイ酸やリン酸の成分を追加したり、窒素、加里、苦土等のその他の肥料成分を、新たに添加することができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.りん酸肥料の製造
(1)電気炉による焼成
表1に示す化学組成を有する下水汚泥焼却灰(a1)、及び(a2)と、カルシウム源として、工業用試薬のりん酸三カルシウム(c1)と純度99%の炭酸カルシウム(c2)を用い、表2に示す実施例1〜30、及び、比較例1〜6の配合に従い混合して原料を調製した。次に、該原料を用いて、一軸加圧成形機により成形し、直径15mm、高さ20mmの円柱状の原料を作製した。さらに、該円柱状の原料を、電気炉内に載置した後、昇温速度20℃/分で、表2に示す温度まで昇温し、該温度の下で10分間焼成して焼成物を得た。さらに、該焼成物を、鉄製乳鉢を用いて目開き212μmのふるいを全通するまで粉砕して、粉末状のりん酸肥料(実施例1〜30、比較例1〜6)を製造した。また、参考例として、下水汚泥焼却灰(a1)のみを原料に用いて、前記と同様の方法により、りん酸肥料を製造した。
なお、焼成後のりん酸肥料の化学組成は、焼成前の原料の化学組成と、焼成による揮発成分を除きほぼ同一であった。
【0022】
(2)ロータリーキルンによる焼成
表1に示す化学組成を有する下水汚泥焼却灰(a3)〜(a8)と、カルシウム源として石灰石粉末(c3)を用い、表2と表3に示す実施例31〜53、及び、比較例7〜11の配合に従い、気流混合機により混合して原料を調製した。
次に、該原料を用いて、ロールプレス機により乾式で成形し、フレーク状の原料を調整した。次に、該フレーク状の原料を、内径450mm、長さ8.34mのロータリーキルンにより、焼成温度1300℃、キルン内の平均滞留時間40分で焼成して焼成物を得た。さらに、該焼成物を、鉄製乳鉢を用いて、目開き212μmのふるいを全通するまで粉砕して、粉末状のりん酸肥料(実施例31〜53、比較例7〜11)を製造した。
なお、焼成後のりん酸肥料の化学組成は、焼成前の原料の化学組成と、焼成による揮発成分を除きほぼ同一であった。
【0023】
【表1】

【0024】
2.く溶性りん酸と可溶性けい酸の測定
りん酸肥料中のく溶性りん酸の測定は、肥料分析法(農林水産省農業環境技術研究所法)に規定されているバナドモリブデン酸アンモニウム法により、また、可溶性けい酸は、同法に規定されている過塩素酸法により測定した。また、これらの測定値から、りん酸のく溶率やけい酸の可溶率を算出した。その結果を表2と表3に示す。なお、表中の酸化物の質量比のA、B、及びCは、それぞれ、CaOとPとを除く成分、CaO、及びPを表わす。
【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
表2に示すように、本発明のりん酸肥料(実施例1〜53)は、りん酸のく溶率が60%(実施例16)〜100%(実施例12等)で、けい酸の可溶率は42%(実施例37)〜100(実施例3等)といずれも高かった。
これに対し、比較例1〜11のりん酸肥料は、りん酸のく溶率が44%(比較例4)〜75%(比較例1)で、けい酸の可溶率は8%(比較例5)〜30%(比較例11)であり、特に、けい酸の可溶率が低かった。
また、りん酸肥料中のSiO/Alのモル比が2.5以上であれば、より低い温度で焼成することができ焼成がより容易になった。
【0028】
3.有害成分の含有量
実施例31のりん酸肥料を用いて、肥料分析法に定める方法により、クロム、ニッケル、ヒ素、カドミウム、鉛、及び水銀の分析を行った。その結果を表4に示す。
【0029】
【表4】

【0030】
表4に示すように、本発明のりん酸肥料の有害成分の含有量は、すべて、熔成汚泥灰複合肥料の規格の換算値未満であった。
なお、現在、焼成したりん酸肥料の規格がないため、ここでは、暫定的に、下水汚泥焼却灰を原料とした熔成汚泥灰複合肥料の規格を用いた。また、該肥料の規格値は、く溶性りん酸と、く溶性加里の合計量が1%の場合を基準にして定められているため、く溶性りん酸が11.2%で、く溶性加里が1.2%である実施例31の場合では、表4の下段に記載の各規格値を12.1倍して得られた中段に記載の値を、実施例31における規格の換算値とした。
【0031】
以上の結果から、本発明のりん酸肥料は、りん酸のく溶率や、けい酸の可溶率が高く、有害成分の含有量が少なく、下水汚泥等の再資源化により、リンの省資源に寄与することができる。また、本発明のりん酸肥料の製造方法は、溶融肥料の製造と比べて、焼成におけるエネルギー消費が少ないため、省エネルギーに寄与することができるとともに、ロータリーキルンを用いた場合、連続生産が可能で生産効率が高くなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水汚泥及び/又はその由来物と、カルシウム源とを含む原料を焼成してなるりん酸肥料であって、CaOの含有率が35〜60質量%であるりん酸肥料。
【請求項2】
前記りん酸肥料中の、(A)CaOとPとを除く成分、(B)CaO、及び、(C)Pの質量比が、図1に示す三角線図の、
点(ア)〔(A)/(B)/(C)=56/35/9〕、
点(イ)〔(A)/(B)/(C)=35/60/5〕、
点(ウ)〔(A)/(B)/(C)=22/60/18〕、及び、
点(エ)〔(A)/(B)/(C)=36/35/29〕
で囲まれる範囲内にある、請求項1に記載のりん酸肥料。
【請求項3】
りん酸のく溶率が60%以上、及び、けい酸の可溶率が40%以上である、請求項1又は2に記載のりん酸肥料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のりん酸肥料の製造方法であって、
(1)下水汚泥及び/又はその由来物に、カルシウム源を混合して、りん酸肥料中のCaOの含有率が35〜60質量%となる原料を得る混合工程と、
(2)該原料を、焼成炉を用いて1150〜1350℃で焼成して、焼成物を得る焼成工程と
を含む、りん酸肥料の製造方法。
【請求項5】
前記焼成炉がロータリーキルンである、請求項4に記載のりん酸肥料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−32269(P2013−32269A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−141483(P2012−141483)
【出願日】平成24年6月22日(2012.6.22)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(592012384)小野田化学工業株式会社 (20)
【Fターム(参考)】