説明

ろう付け後の強度及び耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材

【解決課題】ろう付け性及びろう付け後の強度に優れ、耐粒界腐食性にも優れた熱交換器用アルミニウム合金製フィン材を提供すること。
【解決手段】1.0〜2.0質量%のMn、0.5〜1.3質量%のSi、0.1〜0.8質量%のFe、0.20質量%超え0.4質量%以下のCu、1.1質量%以上2.0質量%未満のZnを含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金フィン材であり、アルミニウム合金フィン材のマトリックスが再結晶組織であることを特徴とするろう付け後の強度と耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろう付け後の強度及び耐粒界腐食感受性に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材に関するものであり、特にラジエータやカーエアコン等のように、作動流体通路の構成材料を、フッ化物系フラックスを用いた不活性ガス雰囲気中ろう付けにより接合するアルミニウム合金製熱交換器用のフィン材として用いるにことに適した、ろう付け後の強度が高く、耐粒界腐食感受性、ろう付け性に優れたアルミニウム合金フィン材に関するものである。特に薄肉で使用されるフィン材に適する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金製の熱交換器は、ラジエータ、ヒータ、オイルクーラ、インタークーラ及びエアコンのエバポレータやコンデンサ等の自動車用熱交換器あるいは油圧機器や産業機械のオイルクーラ等の熱交換器として、広く使用されている。このアルミニウム合金製熱交換器のフィン材には、内面が作動流体(冷媒)の通路となるチューブ材を防食するための犠牲陽極効果が要求されると共に、コアを製造するろう付け加熱時における、高温時の座屈変形やろうの侵食を抑えるなどのろう付け接合性が要求されている。このような要求を満たすために、従来、アルミニウム合金フィン材としてはJIS−A3003、JIS−A3203等のAl−Mn系、Al−Mn−Si系、Al−Mn−Si−Cu系等のMnを含有するアルミニウム合金フィン材が用いられている。更に当該アルミニウム合金製フィン材に犠牲陽極効果を付与するために、Zn、Sn、In等を添加して電気化学的に卑にする手法が用いられている。
【0003】
近年、自動車の軽量化の要請に伴い、自動車熱交換器においても省エネルギー、省資源の観点から構成材料の薄肉化が要請され、フィン材についても薄肉化が期待されている。フィン材の薄肉化は熱交換器の剛性に影響することから、ろう付け後の強度に優れたフィン材が求められており、JIS−A3003合金にFe、Cu、Znを添加したアルミニウム合金が提案されており(特許文献1:特開平14−161323号)、ある程度の薄肉化は可能であった。しかし、一層の薄肉化を図るためには、熱交換器使用中のフィン倒れや変形を生じないために、ろう付け性やろう付け後強度、耐食性について一層の改善が必要である。特許文献1に示されているフィン材では、Cuの含有量が少ないため、強度向上には限界があった。
【0004】
ここで強度を向上させるため、フィン材用合金にCuを添加することは、強度の向上に寄与するものの、電位が貴化してしまうため、犠牲防食電位を確保するために、併せて電位を卑化するZnを多く含有したフィン用アルミニウム合金が開発されていた(特許文献2:特開平10−81932号、特許文献3:特開平06−108195号)。しかし、特許文献2や特許文献3に示されているフィン用アルミニウム合金ではZn含有量が多いため、Cu含有量が多い場合には粒界腐食が発生し易いという問題が生じていた。また、Cu、Znの添加範囲によっては、固相線温度の低下や自己腐食、粒界腐食の発生を引き起こすことがわかっており、Cu及びZnが多く添加されたアルミニウム合金においては、粒界腐食感受性が高くなり、使用中にフィンが脱落して熱交換性能の低下に影響する。
【0005】
熱交換器の製造工程では、いろいろな寸法の熱交換器が同じラインでろう付け加熱される場合が多く、昇温しにくい大型の熱交換器と同じ加熱を行うと、小型の熱交換器は昇温速度が速くなり、特にフィン部が高温にさらされることもある。このため、強度の高い材を用いた場合は、材料の固相線温度が低くなり、ろう付け加熱中にフィンが溶融してしまう問題も生じるため、ろう付け性や耐食性の確保が難しい。
【0006】
また、特許文献4:特開平14−161324号に示されるフィン材では、繊維状組織であるため、ろう付け加熱により微細な再結晶粒組織になりやすく、ろう付け時にフィンが座屈しやすいという問題や粒界腐食が生じやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−161323号公報
【特許文献2】特開平10−81932号公報
【特許文献3】特開平06−108195号公報
【特許文献4】特開2002−161324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、熱交換器用アルミニウム合金フィン材の薄肉化に伴う上記の問題点を改善し改善要求を満足するために、ろう付け性及びろう付け後の強度に優れ、耐粒界腐食性にも優れた熱交換器用アルミニウム合金製フィン材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決すべく、ろう付け性、強度特性、犠牲陽極効果、粒界腐食感受性と、合金成分、合金成分の組合せ、材料の強度特性、内部組織等との関連に検討を加えた結果としてなされたものであり、Cu添加量とZn添加量を適正にし、フィン材のマトリックスの組織を制御することにより、フィン材としての強度を向上させながら、良好なろう付け性と犠牲陽極効果を確保するとともに、粒界腐食感受性を低減させることが実現できたものである。
【0010】
すなわち、本発明(1)は、1.0〜2.0質量%のMn、0.5〜1.3質量%のSi、0.1〜0.8質量%のFe、0.20質量%超え0.4質量%以下のCu、1.1質量%以上2.0質量%未満のZnを含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金フィン材であり、アルミニウム合金フィン材のマトリックスが再結晶組織であることを特徴とするろう付け後の強度と耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材を提供するものである。
【0011】
また、本発明(2)は、前記熱交換器用アルミニウム合金フィン材が、更に、0.05〜0.3質量%のZr、0.05〜0.3質量%のCr及び0.06〜0.35質量%のTiのうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする(1)のろう付け後の強度と耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材を提供するものである。
【0012】
また、本発明(3)は、前記熱交換器用アルミニウム合金フィン材が、更に、0.05〜0.2質量%のMgを含有することを特徴とする(1)又は(2)いずれかのろう付け後の強度と耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ろう付け性及びろう付け後の強度に優れ、耐粒界腐食性にも優れた熱交換器用アルミニウム合金製フィン材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、1.0〜2.0質量%のMn、0.5〜1.3質量%のSi、0.1〜0.8質量%のFe、0.20質量%超え0.4質量%以下のCu、1.1質量%以上2.0質量%未満のZnを含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金フィン材であり、アルミニウム合金フィン材のマトリックスが再結晶組織であることを特徴とするろう付け後の強度と耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材である。
【0015】
本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、Mnを含有する。Mnは、Siと共存することによりAl−Mn−Si系の化合物を生成して、ろう付け前及びろう付け後のフィン材の強度を向上させると共に、耐高温座屈性及び成形加工性を良好にする。本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金フィン材のMn含有量は、1.0〜2.0質量%、好ましくは1.3〜1.8質量%である。Mnの含有量が、上記範囲未満だと、Mnの効果が小さくなり過ぎ、また、上記範囲を超えると、鋳造時に粗大な化合物が生成し、圧延加工性が害される結果、健全な板材が得難い。
【0016】
本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、Siを含有する。Siは、Mnと共存してAl−Mn−Si系化合物を生成し、フィン材の強度を向上させる。本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金フィン材のSiの含有量は、0.5〜1.3質量%、好ましくは0.7〜1.1質量%である。Siの含有量が、上記範囲未満だと、Siの効果が小さくなり過ぎ、また、上記範囲を超えると、フィン材の融点を下げ、ろう付け時に局部溶融が生じ易くなる。
【0017】
本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、Feを含有する。Feは、ろう付け前及びろう付け後のフィン材の強度を向上させると共に成形加工性を良好にする。本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金フィン材のFeの含有量は、0.1〜0.8質量%、好ましくは0.1〜0.4質量%である。Feの含有量が、上記範囲未満だと、Feの効果が小さくなり過ぎ、また、上記範囲を超えると、アルミニウム母材に対してカソードとなり耐食性が低くなる。
【0018】
本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、Cuを含有する。Cuは、ろう付け前及びろう付け後の強度を向上させると共に、成形加工性を良好にする。本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金フィン材のCuの含有量は、0.20質量%を超え0.4質量%以下、好ましくは0.25〜0.35質量%である。Cuの含有量が、上記範囲未満だと、Cuの効果が小さくなり過ぎる。また、Cuの含有量が、上記範囲を超えると、フィン材の電位を貴にし、犠牲陽極効果が低くなり、また、融点が低下して、ろう付け時に局部的な溶融が生じ易くなる。
【0019】
本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、Znを含有する。Znは、フィン材中の電位を卑にし、犠牲陽極効果を与える。本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金フィン材のZnの含有量は、1.1質量%以上2.0質量%未満、好ましくは1.5〜1.9質量%である。Znの含有量が、上記範囲未満だと、Znの効果が小さくなり過ぎる。また、Znの含有量が、上記範囲を超えると、粒界腐食感受性が高くなり、また、融点が低下して、ろう付け時に局部的な溶融が生じ易くなる。
【0020】
本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、更に、0.05〜0.3質量%のZr、0.05〜0.3質量%のCr及び0.06〜0.35質量%のTiのうちの1種又は2種以上を含有することができる。
【0021】
Zrは、ろう付け後の結晶粒径を粗大化し、耐高温座屈性及びろう付け性を向上させる。Zrの含有量が、0.05質量%未満だと、Zrの効果が無く、また、0.3質量%を超えると、粗大化合物を生じ、正常な板材の製造が困難になる。
【0022】
Crは、ろう付け後の結晶粒径を粗大化し、耐高温座屈性及びろう付け性を向上させる。Crの含有量が、0.05質量%未満だと、Crの効果が無く、また、0.3質量%を超えると、粗大化合物を生じ、正常な板材の製造が困難になる。
【0023】
Tiは、フィン材の板厚方向に濃度の高い領域と低い領域とに分かれ、それらが交互に分布する層状となり、フィン材の防食寿命を高める。Tiの含有量が、0.06質量%未満だと、Tiの効果が無く、また、0.35質量%を超えると、粗大化合物を生じ、正常な板材の製造が困難になる。
【0024】
本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、更に、0.2質量%以下のMgを含有することができる。Mgは、ろう付け前及びろう付け後のフィン材の強度を向上させる効果を有し、0.05質量%未満ではその効果が小さいが、ろう付け性低下の観点から、含有量を0.2質量%以下に制限する。フッ化物系のフラックスを使用する不活性ガス雰囲気ろう付けの場合、Mgの含有量が0.2質量%を超えると、Mgがフッ化物系フラックスと反応してフィン材とのろう付け性が阻害され、また、Mgのフッ化物が生成してろう付け部の外観が悪くなる。
【0025】
本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金フィン材のマトリックスは、再結晶組織である。本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金フィン材のマトリックスが、再結晶組織であることにより、ろう付け後の結晶粒径が大きくなるため、粒界に沿ってろう材が浸透し難くなり、耐高温座屈性が向上する。一方、マトリックスが繊維組織の場合は、ろう付け後の結晶粒径が小さくなり、エロージョンの発生により耐高温座屈性が低くなる。本発明の熱交換器用アルミニウム合金フィン材を製造する方法であるが、鋳塊を均質化処理した後、熱間圧延、冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延を行い、所定の厚さの熱交換器用アルミニウム合金フィン材を得ることができる。均質化処理後はそのまま熱間圧延を行ってもよいし、いったん常温まで冷却し、再加熱して熱間圧延を行うこともできる。なお、鋳塊の均質化処理温度及び均質化処理時間、均質化処理後の冷却速度、熱間圧延開始温度及び熱間圧延終了温度、熱間圧延後の冷間圧延における加工度、中間焼鈍温度および中間焼鈍時間と中間焼鈍後の冷却速度、中間焼鈍後の冷間加工度等、適宜選択することにより、フィン材のマトリックスを、再結晶組織とすることができる。ただし、フィン材のマトリックスを再結晶組織とするためには、熱間圧延に続く冷間圧延後のフィン材の再結晶完了温度より中間焼鈍温度を高くする必要がある。フィン材の再結晶完了温度は、フィン材の成分、均質化処理温度及び均質化処理時間、均質化処理後の冷却速度、熱間圧延開始温度及び熱間圧延終了温度、熱間圧延後の冷間圧延における加工度により変化するため、それに応じた中間焼鈍温度にする。
【0026】
フィン材の組織の判別であるが、結晶粒界が観察できるような研磨及びエッチング処理を行い、光学顕微鏡で観察することで、再結晶組織か繊維組織かどうかを判別することができる。結晶粒界が明瞭に観察でき、組織が繊維状に延ばされた圧延組織が観察されない場合は、再結晶組織であり、一方、結晶粒界が明瞭に観察されず、圧延組織が観察される場合は、繊維組織と判別される。再結晶組織と繊維組織が混在する場合もあるが、再結晶組織と繊維組織が混在する場合は、繊維組織領域でのろう付け後の結晶粒径が小さくなるため好ましくない。組織観察は中間焼鈍後に行うと判別しやすいが、中間焼鈍後の冷間圧延後でも判別することはできる。
【0027】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金フィン材を、チューブ材やプレート材など他の熱交換器を構成する部材と組み合わせ、ろう付け接合することにより熱交換器を製造することができる。チューブ材としては、芯材にろう材及び犠牲陽極材をクラッドしたブレージングシート条を、ろう材が外側、犠牲陽極材が内側になるように成形し、側端面を高周波溶接して円管とし、ロール成形により偏平なチューブ形状としたものが用いられる。また、チューブ材としては、板の端側の一部を重ね合わせたり、板の一部をチューブの内柱になるように折り曲げることにより、溶接することなく、ろう付け加熱により偏平チューブ形状としたものも用いられる。更には、押出偏平多穴チューブの外表面にSi粉末などのろう材粉末を塗装し、フィン材とろう付け接合することもできる。ろう材粉末にはフラックス成分を有する粉末や犠牲陽極効果を有する粉末、バインダーを混合させることができる。プレート材としては、芯材に必要に応じてろう材や犠牲陽極材がクラッドされた板が用いられ、所望の形状に成形加工されて用いられる。
【0028】
上記チューブ材として用いられるブレージングシートの芯材は、熱交換器用として用いられるものであれば、特に限定されるものではないが、純Al、Al−Cu系合金、Al−Mn系合金、Al−Mn−Cu系合金、Al−Cu−Mn−Mg系合金等が挙げられる。
【0029】
また、上記ろう材成分は、上記チューブ材やプレート材よりも低い融点を有していれば、いずれの合金を用いてもよく、例えば、Al−Si系合金、Al−Si−Zn系合金、Al−Si−Cu系合金等のSiを含むアルミニウム合金粉末等、KSiFなどのSiを含有しろう付け時にろう材を生成するフラックス等が、挙げられる。
【0030】
ろう付け後の冷却速度であるが、550℃から450℃までの冷却速度を50〜80℃/分とすることが好ましい。遅くなり過ぎるとCu系析出物が粒界にそって析出しやすくなり、粒界腐食が生じ易くなる。
【0031】
本発明の熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、Cu含有量とZn含有量が適正な範囲であり、且つ、フィン材のマトリックス組織が、再結晶組織であるので、ろう付け後の強度が高く且つ耐食性が高い。
【実施例】
【0032】
連続鋳造によって、表1及び表2に示す組成の鋳魂を鋳造した。これらの合金を常法に従って均質化処理した後、熱間圧延、その後、冷間圧延、中間焼鈍及び仕上げ冷間圧延を経て厚さ0.06mmの板(H14)を作製した。このとき、中間焼鈍温度及び冷間加工度の調整により、アルミニウム合金フィン材の組織を調整した。
【0033】
上記によって得られたアルミニウム合金フィン材について、以下の方法に従って、(1)組織、(2)融点を評価した。また、フィン材を窒素ガス中で、605 ℃に加熱した後、550℃から450℃まで60℃/分の冷却速度で冷却し、得られた試験片について、(3)ろう付け後の引張強さ、(4)ろう付け性、(5)自己耐食性、(6)粒界腐食感受性を評価した。
【0034】
(1)組織状況
H14素材の表面を研磨した後エッチングし、ミクロ組織を顕微鏡で観察することにより、組織状況を観察した。結晶粒が判別できる場合は再結晶組織と判定し、結晶粒が明確に観察されず圧延組織が観察される場合は繊維状組織と判定した。
(2)融点
H14素材を示差熱分析によって固相線温度を測定した。昇温速度は10℃/分とし、溶融するまで加熱した。
(3)ろう付け後の引張強さ
JIS5号試験片に成型した後、常温で引張試験を行い、引張強さを測定した。
(4)ろう付け性
フィン材をコルゲート成形し、JIS−A3003合金を心材とし、JIS−A4045合金をろう材とする厚さ0.20mmの板材を偏平形状に成形したチューブとを組付けて、チューブ材のろう材側表面に濃度3%のフッ化物系フラックスを塗布した後、窒素ガス雰囲気中605℃で3分間ろう付け加熱を行い、熱交換器のミニコアを作製した。このミニコアについて、フィン材とチューブ材との接合部を目視で観察して、フィンの座屈及び溶融の有無からろう付け性を評価した。座屈も溶融も無かった場合を○、座屈又は溶融が有った場合を×とした。
(5)耐食性
ろう付け性を評価用ミニコアと同様に作製したミニコアについて、JIS−H8681のキャス試験法に準拠した腐蝕試験を2週間行った。試験後のチューブのろう材側の腐食状況及びフィンの腐食状態を評価した。チューブに貫通孔が発生しなかったものを○、チューブに貫通孔が発生したものを×とした。また、フィンの自己腐食が少ないものを○、フィンの自己腐食が大きいものを×とした。また、ISO/DIS11846に基づいて2時間浸漬試験を実施し、フィン断面のミクロ組織観察を行って、フィンの粒界腐食状況を調査した。粒界腐食が発生していないもの、あるいは軽微なものを○、粒界腐食が顕著なものを×とした。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

*R:再結晶組織、F:繊維状組織
【0038】
【表4】

*R:再結晶組織、F:繊維状組織
【0039】
表3に示すように、本条件を満たすNo.1〜26、42はいずれも、605℃の高温加熱時でもフィン溶融、座屈は認められずろう付け性は良好であった。ろう付け後の引張強さはいずれも155MPa以上の優れた強度を示した。また耐食性においてもCASS試験でチューブ材に貫通は発生しておらず、フィン材の犠牲陽極効果が作用していることを示した。またISO−B法においても粒界腐食は発生せず、粒界腐食感受性が低いことを示した。
【0040】
これに対し、No.27は素材が繊維状組織のため、ろう付け時の加熱によって座屈が生じた。No.28はSiの含有量が多過ぎるため、ろう付け時の加熱によって局部溶融が生じた。No.29はSiの含有量が少な過ぎるため、引張強度が十分でない。No.30はFeの含有量が多過ぎるため、自己腐食が大きくフィンの自己消耗が顕著となり、犠牲陽極効果が持続できなかった。No.31はFeの含有量が少な過ぎるため、引張強度が十分でない。No.32はCuの含有量が多過ぎるため、ろう付け時の加熱によって局部溶融が生じた。No.33はCuの含有量が少な過ぎるため、引張強度が十分でない。No.34はMnの含有量が多過ぎるため、熱間圧延が困難であり。健全な材料が製造できなかった。No.35はMnの含有量が少な過ぎるため、引張強度が十分でない。No.36はZnの含有量が多過ぎるため、粒界腐食が発生した。No.37はZnの含有量が少な過ぎるため、犠牲陽極効果が劣り、CASS試験でチューブ材に貫通孔が発生した。No.38、39はCr、Zrの含有量が多過ぎるため、熱間圧延が困難であり。健全な材料が製造できなかった。No.40、Tiの含有量が多過ぎるため、熱間圧延が困難であり。健全な材料が製造できなかった。No.41はMgの含有量が多過ぎるため、ろう付け接合されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.0〜2.0質量%のMn、0.5〜1.3質量%のSi、0.1〜0.8質量%のFe、0.20質量%超え0.4質量%以下のCu、1.1質量%以上2.0質量%未満のZnを含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金フィン材であり、アルミニウム合金フィン材のマトリックスが再結晶組織であることを特徴とするろう付け後の強度と耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材。
【請求項2】
前記熱交換器用アルミニウム合金フィン材が、更に、0.05〜0.3質量%のZr、0.05〜0.3質量%のCr及び0.06〜0.35質量%のTiのうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載のろう付け後の強度と耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材。
【請求項3】
前記熱交換器用アルミニウム合金フィン材が、更に、0.05〜0.2質量%のMgを含有することを特徴とする請求項1又は2いずれか1項記載のろう付け後の強度と耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材。

【公開番号】特開2013−40367(P2013−40367A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177060(P2011−177060)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)