説明

アイリス装置

【課題】 絞り開口の設定制御を可能にする一方で、高速動作が可能で、しかも小型化、低消費電力化を可能にしたアイリス装置を提供する。
【解決手段】 光軸上に対向配置された一対の平板状の透明板21,22と、この透明板21,22の間に配設された圧電素子23と、前記透明板22の内面に取着され、かつ透明板21に対向される側の表面部26aが球面状に形成された透明弾性体26と、前記透明弾性体26を包囲する環状の弾性膜27と、前記弾性膜27内に充填された光遮光性のある遮光液28とを備える。圧電素子23に対する印加電圧を変化して一対の透明板21,22の間隔を狭めると、透明板21は透明弾性体26の球面状の表面部26aを弾性変形させながら密接されるため、透明板21と表面部26aとの間に介在されていた遮光液28が周辺部に向けて除かれ、この密接領域において光透過性が生じ、密接領域が絞り開口として機能される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はカメラのシャッターや絞りに用いて好適なアイリス(瞳)装置に関し、特に小型化、低消費電力化を図ったアイリス装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来のカメラの絞り装置は、円形の固定環と可動環との間に複数枚の絞り羽根を円周方向に配列支持し、可動環を円周方向に回動させることで各絞り羽根の重なり程度を変化させ、絞り羽根間に形成される開口径を変化させる構成がとられている。このため、複数枚の絞り羽根、固定及び可動の環状部材、各絞り羽根を支持するための部材、絞りを機械的に動作させるための部材等、構成部品が多く、しかも小型化が難しいという問題がある。特に、近年のCCD撮像素子を用いたデジタルカメラでは、カメラ本体の小型化もさることながら、微小寸法のCCD撮像素子に対応して撮像レンズ系の小型化が要求され、これに伴って絞り装置やシャッター装置の小型化の要求も高められている。また、機械的な動作であるために動作速度の高速化には限界があり、例えば絞りとシャッタを兼用した絞りシャッタとして利用するような場合に、高速撮影が難しいという問題がある。さらに、前記した従来の絞り装置では、複数枚の絞り羽根で絞り開口を画成するために、開口は絞り羽根の枚数に対応した多角形の形状となり、このためカメラで撮像した際の被写体像における点像のボケが多角形となり、撮像画の品質上の問題が生じる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】前記したように従来の絞り装置では、機構の面では構成部品数が多く、かつ小型化が難しいと共に、機械的な動作であるため高速動作が難しいという問題がある。また、撮影の面からはボケ像が多角形になり、高品質な撮像画を得ることが難しいという問題もある。さらに、絞り装置を電池等を電源とする駆動源によって駆動させる場合には、複数枚の絞り羽根を同時に動作させるための機械的な負荷が大きいため、消費電力が大きくなり、電池寿命の点でも問題が生じることがある。特に、この消費電力の問題は、カメラの小型化による電池の低容量化に対しては深刻な問題となる。
【0004】本発明の目的は、絞り羽根を用いることなく、高速動作が可能で、しかも小型でかつ低消費電力の絞り装置、あるいはシャッタ装置としての利用が可能なアイリス装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明のアイリス装置は、光軸上に配置されて光軸を頂点とする凸面形状の表面部を有する透明弾性体と、前記透明弾性体の前記表面部に対して光軸方向に対向配置される透明板と、前記透明弾性体の前記表面部と前記透明板との対向間に形成される間隙を包囲する弾性膜と、前記弾性膜で包囲された前記間隙内に充填される光遮光性のある遮光液と、前記透明弾性体と前記透明板とを光軸方向に相対移動させる手段とを備える。例えば、本発明の一つの形態としては、光軸上に対向配置された一対の平板状の透明板と、前記透明板の周辺部において前記両透明板の間に配設された圧電素子と、前記透明板の一方の内面に取着され、かつ前記他方の透明板に対向される側の表面部が光軸を頂点とする凸面形状に形成された透明弾性体と、前記両透明板の対向間隔内において前記透明弾性体を密封状態に包囲する環状の弾性膜と、前記弾性膜内に充填された光遮光性のある遮光液とを備え、前記圧電素子に対する印加電圧を制御して前記一対の透明板の間隔を変化制御可能に構成する。
【0006】この構成では、一対の透明板の間隔が大きい場合には、前記他方の透明板と透明弾性体との間に遮光液が介在されて光を遮光する状態とされる。また、圧電素子に印加する電圧を変化して一対の透明板の間隔を狭めると、前記他方の透明板は透明弾性体の球面状の表面部に当接し、これを弾性変形させながら表面部に密接される。このため、透明板と表面部との間に介在されていた遮光液が周辺部に向けて除かれ、この密接領域において光透過性が生じ、密接領域が絞り開口として機能される。
【0007】
【発明の実施の形態】次に、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図1は本発明を薄型のデジタルスチルカメラに適用した実施形態の概略構成を示す斜視図である。撮影レンズ2はカメラボディ1のほぼ中央に配置されており、その後部の光軸上にはCCD撮像素子3が配置され、前記撮影レンズ2で結像した被写体像を電気信号に変換して撮像信号として出力する。前記撮影レンズ2は、レンズ鏡筒の内筒4内に光学レンズ5が組み込まれており、前記内筒4はその外周に同軸配置される外筒6に対してヘリコイドで結合されている。また、前記外筒6は円周の一部に部分歯車7が一体に形成され、この部分歯車7にはステップモータ9の回転軸に取着された小歯車8が噛合されている。また、前記撮影レンズ2には、前記光学レンズ5の光軸上に絞りシャッタ装置としてアイリス装置10が内装されており、前記撮影レンズ2を透過して前記CCD撮像素子3に到達される光量の調整を行ない、かつ撮像時に閉じるシャッタとして構成されている。そして、前記CCD撮像素子3、ステップモータ9、アイリス装置10はそれぞれ自動露出制御及び自動焦点制御が可能なコントロール回路11に接続されている。また、このコントロール回路11には、前記カメラボディ1に設けられたレリーズボタン12が接続されている。
【0008】このデジタルスチルカメラでは、レリーズボタン12の操作により、CCD撮像素子3で撮像される被写体像の撮像信号に基づいてコントロール回路11がステップモータ9を駆動して小歯車8を回転駆動し、かつこれに噛合される部分歯車7を回転駆動し、部分歯車7と一体の外筒6を回転させ、ヘリコイド機構により内筒4を光軸方向に移動させ、自動焦点合わせを行う。また、前記コントロール回路11は前記撮像信号を利用して露出演算を行い、前記アイリス装置10の絞り制御を行う。さらに、前記アイリス装置10を閉動作させ、閉じる直前の被写体像の撮像信号をCCD撮像素子3から取り込んで撮像を実行する。
【0009】前記アイリス装置10は、図2に一部を破断した斜視図を、また図3(a),(b)に光軸方向から見た図とそのAA線断面図をそれぞれ示すように、それぞれ光透過性のある円形平板状をした前側平板ガラス21と後側平板ガラス22が前記撮影レンズ2の光軸に沿って所要の間隔で対向配置されており、これら平板ガラス21,22はその周辺部において円環状をした圧電素子23により一体的に保持されている。前記圧電素子23は電圧が印加されたときにその厚さ方向に寸法が変化される素子であり、ここでは円環状をした複数枚の圧電素子23が前記した所要の間隔となるように厚さ方向に、換言すれば前記撮影レンズ2の光軸方向に積層されている。また、前記圧電素子23及び両平板ガラス21,22の周縁部を保護するために、円環状をした保護板24,25が前記圧電素子23と各平板ガラス21,22の両面位置にそれぞれ配設されている。
【0010】また、前記一対の平板ガラス21,22の対向間の間隙内には、その中心位置に短円柱状をした透明弾性体26が配設されており、その底面が前記後側平板ガラス22の内面に接着されている。また、前記前側平板ガラス21に対向される前記透明弾性体26の表面部26aは、その中心が前記光軸上に位置されて前側平板ガラス21に向けて突出された球面として形成されている。前記透明弾性体26は、例えば透明シリコン樹脂等のように、光透過性がある弾性材料で形成される。さらに、前記一対の平板ガラス21,22の対向間の間隙内には、前記透明弾性体26の周囲を包囲し、かつ前記保護板24,25の内径寸法に略等しい径位置に筒状の弾性膜27が配設されており、この弾性膜27はその両端部がそれぞれ前記各平板ガラス21,22の内面に密接状態に接続されている。そして、前記弾性膜27と前記一対の平板ガラス21,22で囲まれる空間内には遮光性あるいは減光性のある液体あるいはゾル状の物質からなる遮光液28が充填されている。この遮光液28としては、光を透過しない金属等の微粒子を懸濁状態で含むコロイド液、例えばFeコロイド液が用いられる。
【0011】このように構成されたアイリス装置10では、圧電素子23に通電を行わない状態では、図3(b)に示すように、圧電素子23は光軸方向の寸法が長い状態とされており、両平板ガラス21,22の間隔が大きくされ、前側平板ガラス21は透明弾性体26の表面部26aから離された位置にある。このため、前側平板ガラス21と透明弾性体26の表面部26aとの間には隙間が生じており、この隙間内に遮光液28が存在されることにより前側平板ガラス21の光透過面のうち弾性膜27で囲まれた領域は光が透過されない状態とされる。これにより、図3(a)に示すように、アイリス装置10は全く光が透過されることがなく、絞り及びシャッタが閉じた状態とされる。
【0012】一方、圧電素子23に通電を行うと、図4(b)に示すように、圧電素子23は光軸方向に収縮し、両平板ガラス21,22の間隔が縮小され、前側平板ガラス21は透明弾性体26の表面部26aに接触され、さらにこの表面部26aを光軸方向に弾性変形してこの表面部に密接された状態となる。このとき、この透明弾性体26の表面部26aは光軸位置を中心とした球面として形成されているため、図4(a)に示すように、前側平板ガラス21と表面部26aが密接された領域は円形領域となり、この円形領域では前側平板ガラス21と透明弾性体26との間に遮光液28が存在されることがないため、この円形領域は光が透過される領域となる。これにより、この円形領域が絞り開口Iとなり、前記撮影レンズ2における光量調整を可能とする。そして、前記圧電素子23は印加電圧の変化に対応して光軸方向の伸縮寸法が変化されるので、印加電圧を任意に制御することにより、前側平板ガラス21による透明弾性体26の表面部26aの弾性変形量も変化され、前側平板ガラス21と透明弾性体26との密接による形成される光透過性の円形領域の径寸法も変化される。これにより、印加電圧を任意に設定することで、任意の絞り開口径に設定することが可能となる。
【0013】このように、このアイリス装置10では、圧電素子23に印加する電圧を制御するだけで、任意の絞り開口に設定することが可能となる。また、この実施形態では圧電素子23に対する印加電圧を停止することにより絞りを全閉状態にすることも可能であり、シャッタとして利用することも可能となる。一方、このアイリス装置10における絞り開口の制御に際しては、単に圧電素子23の伸縮動作と、これに伴う前側平板ガラス21の厚さ方向の移動が行われるのみであるため、従来の絞り羽根のような機械的な動作が行われることはなく、高速動作が実現できるとともに、消費電力の低減に有効となる。さらに、透明弾性体26の表面部26aが球面であり、前側平板ガラス21との密接領域が円形領域として構成されるため、絞り開口が真円状となり、開口量の自由度も増し、ボケ像も真円形となって撮像画の品質が向上される。
【0014】ここで、前記実施形態では、前側平板ガラスを厚さ方向に駆動するために圧電素子を用いているが、本発明ではソレノイドやその他のアクチュエータを利用することも可能である。また、電圧の印加を解除したときに、平板ガラスを元の位置に復帰させるための付勢力を付与するスプリング等を介在させるようにしてもよい。ただし、前記実施形態のように絞り動作の高速化や消費電力の低減効果を得るためには、機械的な動作部分が存在しない手段を用いることが好ましい。また、前記実施形態では、アイリス装置の外形を円形としているが、勿論矩形のガラスを用いた構成としてもよい。また、透明弾性体の表面部は、球面に限られるものではなく、回転放物面等のように光軸を頂点とする曲面あるいは多角錐状の面形状であってもよい。ただし、撮像画における真円形のボケ画像を得るために真円形の絞り開口を形成しようとする場合には、透明弾性体の表面部は球面として形成することは必要である。さらに、平板ガラスに代えて平板透明樹脂板で構成することも可能である。
【0015】また、前記実施形態は、本発明のアイリス装置をデジタルスチルカメラの絞りシャッタ装置として利用した例を示しているが、感光フィルムを用いるカメラの絞り装置あるいはシャッタ装置として利用できることも言うまでもない。例えば、一眼レフカメラの絞り装置あるいはシャッタ装置として利用することができる。ただし、この場合には、消費電力との関係上、レリーズ動作に伴って圧電素子に電圧を印加することが好ましく、したがって、圧電素子は、電圧が印加されたときに透明弾性体に対して透明板が接近される方向に変位するように構成することが必要となる。一般に、圧電素子は電圧を印加して一方向に収縮したときには、これと直交する方向には伸長される特性を有しているため、前記実施形態の圧電素子を実施形態とは直交する方向に積層した構成とすれば、一眼レフカメラのレリーズ時に透明板が透明弾性体側に変位して所望の絞り開口に設定され、かつシャッタ動作を行う構成が実現できる。
【0016】
【発明の効果】以上説明したように本発明は、透明板と透明弾性体との対向間隔を変化させることにより、透明弾性体の表面部と透明板との密接領域を変化させ、この密接領域を絞り開口として機能させることが可能となるので、絞り開口の制御に際しては、単に透明板の光軸方向の移動が行われるのみであるため、従来の絞り羽根のような機械的な動作が行われることはなく、高速動作が実現できるとともに、消費電力の低減に有効となる。さらに、透明弾性体の表面部が球面であり、透明板との密接領域が円形領域として構成されるため、絞り開口が真円状となり、ボケ像も真円形となって撮像画の品質が向上されるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のアイリス装置をデジタルスチルカメラに適用した実施形態の概略構成を示す図である。
【図2】本発明のアイリス装置の一部を破断した斜視図である。
【図3】アイリス装置が閉じた状態の光軸方向から見た図とそのAA線断面図である。
【図4】アイリス装置が開口した状態の図3と同様の図である。
【符号の説明】
1 カメラボディ
2 撮影レンズ
3 CCD撮像素子
10 アイリス装置
11 コントロール回路
12 レリーズボタン
21 前側平板ガラス
22 後側平板ガラス
23 圧電素子
26 透明弾性体
27 弾性膜
28 遮光液

【特許請求の範囲】
【請求項1】 光軸上に配置されかつ前記光軸位置を頂点とする凸面形状の表面部を有する透明弾性体と、前記透明弾性体の前記表面部に対して光軸方向に対向配置される透明板と、前記透明弾性体の前記表面部と前記透明板との対向間に形成される間隙を包囲する弾性膜と、前記弾性膜で包囲された前記間隙内に充填される光遮光性のある遮光液と、前記透明弾性体と前記透明板とを光軸方向に相対移動させる手段とを備えることを特徴とするアイリス装置。
【請求項2】 光軸上に対向配置された一対の平板状の透明板と、前記透明板の周辺部において前記両透明板の間に配設された圧電素子と、前記透明板の一方の内面に取着され、かつ前記他方の透明板に対向される側の表面部が前記光軸位置を頂点とする凸面形状とされた透明弾性体と、前記両透明板の対向間隔内において前記透明弾性体を密封状態に包囲する環状の弾性膜と、前記弾性膜内に充填された光遮光性のある遮光液とを備え、前記圧電素子に対する印加電圧を制御して前記一対の透明板の間隔を変化制御可能に構成したことを特徴とするアイリス装置。
【請求項3】 前記透明板は円形平板ガラスで構成され、前記透明弾性体は前記光軸に中心が一致された円柱状に形成され、前記表面部は前記光軸上に中心を有する球面状に形成されている請求項1または2に記載のアイリス装置。
【請求項4】 前記遮光液は光遮光性のある粒子を含むコロイド液で構成される請求項2または3に記載のアイリス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開平11−174522
【公開日】平成11年(1999)7月2日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−344601
【出願日】平成9年(1997)12月15日
【出願人】(000000527)旭光学工業株式会社 (1,878)