説明

アオコの増殖抑制方法

【課題】栄養塩を含んだ水がアオコの生息可能域に供給されるのを防いでアオコの増殖を防ぐようにする。
【解決手段】ダム貯水池等の貯水域1における密度の高い水が存在する領域30から汲み上げた水を当該貯水域1の流入水路40を流れる水に混合し、流入水路40から供給される水50が沈み込むように貯水域1に流入させるようにする。また貯水域1における低温の水が存在する領域30から汲み上げた水を当該貯水域1の流入水路40を流れる水に混合するようにする。また流入水路40から供給される水50を貯水域1のアオコ20の生息可能域よりも低い位置に流入させるようにする。さらに貯水域1の水面から少なくともアオコ20の生息可能域よりも低い位置まで延出するフェンス100を設け、流入水路40から供給される水50をフェンス100の下方から貯水域1に流入させるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アオコの増殖抑制方法に関し、特に貯水域におけるアオコの増殖を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、湖沼やダム貯水池等の貯水域の水質を改善する技術に関し、ダム湖の上流端に設けられた副ダムの上端部の下方に位置し、かつ副ダムの下流面に連続して隔壁を設け、副ダムより落下した流入水路水の流動エネルギーを減衰させる減勢池を形成するとともに、隔壁の下部に減勢池の水をダム湖の所定水位より深層に流入させるオリフィスを設け、ダム湖に流入してくる流入水を調節し、藍藻類の栄養物質を高い濃度で含む水温の低い流入河川水と水温の高いダム湖の表層水とが容易に混合しないようにすることが記載されている。
【0003】
また特許文献2には、ダム湖に流入してくる河川水をダム湖の深層に導き、有光層に生息する浮遊藻類の増殖を抑制すべく、水温上昇手段によってダム湖内の所定標高より上側の湖水の水温を上昇させるとともに、水温低下手段によってダム湖に流入する河川水の水温を低下させることが記載されている。
【0004】
また特許文献3には、ダム湖や湖沼等の水質を改善する技術に関し、水底において開口させた吸引管の吸引口から水とともに土砂を吸引し、吸引した土砂から濁水を分離し、土砂から分離した濁水を冷却し、冷却した濁水を水底近傍において開口させた戻水管の放流口からゆっくりと放出して濁水を水底に沈滞させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−128028号公報
【特許文献2】特開平07−251160号公報
【特許文献3】特開2006−9386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
昨今、湖沼やダム貯水池等の貯水域においては、ケイ酸塩、リン酸塩等の栄養塩を多く含んだ廃水(生活廃水、農業廃水、工場廃水等)の流入によるアオコの大量発生が問題になっている。そのため、廃水の貯水域への流入を防ぐための効果的な対策が求められている。
【0007】
本発明はこのような背景に鑑みてなされたもので、貯水域におけるアオコの増殖を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の一つは、アオコの増殖抑制方法であって、貯水域における密度の高い水が存在する領域から汲み上げた水を当該貯水域の流入水路を流れる水に混合することとする。
【0009】
このようにすれば、流入水路の水の水度が高まり、その結果、流入水路から貯水域に供給される水は貯水域の底層に沈み込むように流れ込む。そのため、栄養塩を含んだ水がアオコの生息可能域である貯水域の表層付近に供給されるのを防ぐことができ、よってアオコの増殖を抑制することができる。また流入水路に供給する水として貯水域から汲み上げた水を用いているので、特別な取水源を必要としない上、もともと貯水域にあった水を環流させているので、周囲の環境に与える影響も少なくて済む。
【0010】
本発明の他の一つは、上記アオコの増殖抑制方法であって、貯水域における低温の水が存在する領域から汲み上げた水を当該貯水域の流入水路を流れる水に混合することとする。
【0011】
このように貯水域における低温の水が存在する領域から汲み上げた水を当該貯水域の流入水路を流れる水に混合するようにすれば、流入水路から貯水域に供給される水の密度を容易かつ確実に増大させることができる。
【0012】
本発明の他の一つは、上記アオコの増殖抑制方法であって、前記流入水路から供給される水を前記貯水域のアオコの生息可能域よりも低い位置に流入させることとする。
【0013】
このように流入水路から供給される水を貯水域のアオコの生息可能域よりも低い領域に流入させるようにすれば、栄養塩を含んだ流入水路からの水がアオコの生息可能域に供給されるのを確実に防ぐことができる。
【0014】
本発明の他の一つは、上記アオコの増殖抑制方法であって、前記貯水域の水面から少なくとも前記生息可能域よりも低い位置まで延出するフェンスを設け、前記流入水路から供給される水を前記フェンスの下方から前記貯水域に流入させることとする。
【0015】
このように流入水路からの水を生息可能域よりも低い位置まで延出するフェンスを設け、流入水路から供給される水をフェンスの下方から貯水域に流入させるようにすれば、栄養塩を含んだ流入水路からの水がアオコの生息可能域に供給されるのをより確実に防ぐことができる。
【0016】
その他、本願が開示する課題、及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、貯水域におけるアオコの増殖を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態として説明するアオコの増殖抑制方法が適用される貯水域1の断面図である。
【図2】ポンプ機構65による汲み上げの様子を説明する模式図である。
【図3】フェンス100を設けた貯水域1の断面図である。
【図4】実在するダム貯水池について行った水温調査の結果を示す図である。
【図5】シミュレーションに用いたダム貯水地の外観形状である。
【図6】シミュレーションに用いたダム貯水地の形状を特定するパラメータである。
【図7】フェンス100を設けない場合におけるシミュレーションの結果を示す図である。
【図8】フェンス100を設けた場合におけるシミュレーションの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、一実施形態として説明するアオコの増殖抑制方法が適用される貯水域1の断面図である。貯水域1は、例えば、ダム貯水池、湖、沼、池、河川、港湾である。貯水域1には、流入河川や下水道等の流入水路40から水が供給されている。流入水路40から供給される水50には、ケイ酸塩、リン酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩などの栄養塩が含まれている。
【0020】
同図に示すように、貯水域1には、貯水域1の底層領域30に存在する密度の高い水(例えば低温の水)を汲み上げて流入水路40に供給するためのポンプ機構65が設けられている。図2はポンプ機構65による汲み上げの様子を説明する模式図である。同図に示すように、ポンプ機構65の吸引口651は、他の領域に比べて温度の低い水(密度の高い水)が存在する貯水域1の底層領域30に設けられており、ポンプ機構65は、貯水域1の底層領域30から底層領域30の水を汲み上げて流入水路40に供給する。
【0021】
このように、流入水路40を流れる水に底層領域30の水を供給(混合)することで、流入水路40の水の密度が高くなり、その結果、流入水路40から貯水域1に供給される水50の密度が高くなる。そのため、流入水路40から貯水域1に供給される水50は貯水域1の底層に沈み込むように貯水域1に流れ込む(図1の符号70)。
【0022】
ここでアオコ20の生息可能域は太陽光が到達可能な貯水域1の表層付近に限られているので、上記のように流入水路40から供給される栄養塩を含んだ水50が貯水域1の底層に沈み込むように貯水域1に流入することで、貯水域1の表層付近のアオコ20の生息可能域には栄養塩を含んだ水50がほとんど供給されなくなり、その結果、貯水域1におけるアオコ20の増殖が抑制される。
【0023】
尚、上記の方法においては、流入水路40に供給する水として貯水域1から汲み上げた水を用いているので、上記の方法を実施するにあたり特別な水源を確保する必要はない。またもともと貯水域1にあった水を環流させているので環境に与える影響も少なくて済む。
【0024】
ところで、以上の方法において、例えば、図3に示すように貯水域1の水面から少なくともアオコ20の生息可能域よりも低い位置まで延出するフェンス100(例えば分画フェンス)をさらに設け、流入水路40からの水をフェンス100の下方から貯水域1に流入させるようにしてもよい。そのようにすれば、栄養塩を含んだ水50がアオコ20の生息可能域に流入するのをより確実に防ぐことができる。
【0025】
以上の方法を検証すべく、まず実在するダム貯水池(貯水域1)の水温調査を行った。図4は、水温調査の結果として示す、上記ダム貯水池における5月、7月、8月、9月の夫々の時点における水温の鉛直方向の分布である。同図から把握されるように、5月から9月にかけての時期は、ダム貯水池の深層にダム貯水池の表層付近よりも5℃〜15℃程度水温が低い領域が豊富に存在している。従って、そのような領域にポンプ機構65の吸引口651を設けることで低温の水(密度の高い水)を容易に汲み上げることができる。
【0026】
また前述したフェンス100の効果を検証すべく、貯水域1にフェンス100を設けない場合とフェンス100を設けた場合の夫々について、貯水域1の水流及び温度分布についてシミュレーションを行った。
【0027】
図5はシミュレーションに用いたダム貯水地(貯水域1)の外観形状であり、図6はシミュレーションに用いたダム貯水地の形状を特定するパラメータである。これらの図に示すように、ダムの高さは103.00(m)、ダムの堤頂長は289.00(m)、集水面積は625.20(km)、総貯水量は127,500,000(m)、ダム貯水地の最大幅は300(m)である。また流入水路40の川幅は10(m)、流入水路40の流量は0.03(m/s)である。
【0028】
図7はフェンス100を設けない場合におけるシミュレーションの結果である。同図に示すように、底層領域30の水が混合された流入水路40の水(水温18℃、流速0.05m/s)が、ダム貯水地(表面付近の水温は20℃)の底層に沈み込むように流入していることがわかる。
【0029】
図8はフェンス100を設けた場合におけるシミュレーションの結果である。同図に示すように、この場合も底層領域30の水が混合された流入水路40の水(水温18℃、流速0.05m/s)がダム貯水地(表面付近の水温は20℃)の底層に沈み込むように流入していることがわかる。また同図から明らかなように、フェンス100を設けた場合はフェンス100を設けない場合に比べて流入水路40の水のダム貯水地の表面付近への拡散が抑えられていることがわかる。
【0030】
尚、以上に説明した実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0031】
1 貯水域
20 アオコ
30 底層領域
40 流入水路
50 栄養塩を含んだ水
65 ポンプ機構
651 吸引口
100 フェンス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯水域における密度の高い水が存在する領域から汲み上げた水を当該貯水域の流入水路を流れる水に混合するようにしたことを特徴とするアオコの増殖抑制方法。
【請求項2】
貯水域における低温の水が存在する領域から汲み上げた水を当該貯水域の流入水路を流れる水に混合するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のアオコの増殖抑制方法。
【請求項3】
前記流入水路から供給される水を前記貯水域のアオコの生息可能域よりも低い位置に流入させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載のアオコの増殖抑制方法。
【請求項4】
前記貯水域の水面から少なくとも前記生息可能域よりも低い位置まで延出するフェンスを設け、前記流入水路から供給される水を前記フェンスの下方から前記貯水域に流入させるようにしたことを特徴とする請求項3に記載のアオコの増殖抑制方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図2】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−154152(P2012−154152A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16705(P2011−16705)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】