説明

アクティブマトリクス液晶表示素子及び投射型アクティブマトリクス液晶表示装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、画素電極毎に能動素子を配置したアクティブマトリクス液晶表示素子及び投射型アクティブマトリクス液晶表示装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】液晶ディスプレイは、近年その低消費電力、低電圧駆動等の特長を生かしてパーソナルワードプロセッサー、ハンドヘルドコンピューター、ポケットTV等に広く利用されている。中でも注目され、盛んに開発されているのが、画素電極毎に能動素子を配置したアクティブマトリクス液晶表示素子である。
【0003】このような液晶表示素子は当初は、D動的散乱)型の液晶を用いた液晶表示素子も提案されていたが、DS型では液晶中を流れる電流値が高いため、消費電流が大きいという欠点があり、現在ではTN(ツイストネマチック)型液晶を用いるものが主流となっており、ポケットTVとして市場に現われている。TN型液晶では、漏れ電流は極めて小さく、消費電力が少ないので、電池を電源とする用途には適している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】アクティブマトリクス液晶表示素子をDSモードで使用する場合には、液晶自身の漏れ電流が大きい。このため、各画素と並列に大きな蓄積容量を設ける必要があり、かつ、液晶表示素子自体の消費電力が大きくなるという問題点を有していた。
【0005】TNモードにおいては、液晶自身の漏れ電流は極めて小さいので、大きな蓄積容量を付加する必要はないし、液晶表示素子自体の消費電力は小さくできる。しかし、TNモードでは、2枚の偏光板を必要とするので、光の透過率が小さいという問題点を有している。特に、カラーフィルターを用いてカラー表示を行う場合には、入射する光の数%しか利用できないこととなり、強い光源を必要とし、そのため結果として消費電力を増加させてしまう。
【0006】また、画像の投影を行う際には極めて強い光源を必要とし、投影スクリーン上で高いコントラストが得られにくいことや、光源の発熱による液晶表示素子への影響という問題点を有している。
【0007】そこで、TNモードの課題を解決すべく、ネマチック液晶を樹脂マトリクス中に分散保持した液晶樹脂複合体を使用して、その散乱−透過特性を利用した10V以下の低電圧で駆動できるモードが提案されている。しかし、階調表示を行う際、特に、低電圧領域(暗い表示領域)で応答性が悪く、残像が生じ易いという問題点を有していた。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、前述の課題を解決すべくなされたものであり、画素電極毎に能動素子を設けたアクティブマトリクス基板と、対向電極を設けた対向電極基板との間に、誘電異方性が正のネマチック液晶が樹脂マトリクス中に分散保持され、電圧の印加時または非印加時のいずれかの状態においてその樹脂マトリクスの屈折率が使用する液晶の屈折率とほぼ一致するようにされた液晶樹脂複合体を挟持してなるアクティブマトリクス液晶表示素子において、使用するネマチック液晶の屈折率異方性Δn が0.18以上で、樹脂マトリクス中に分散保持される液晶の平均粒子径R(μm) 、と液晶の比誘電率異方性Δε、弾性定数K33(10-12N) 、粘度η(cSt) とが、Δn2・Δε/(K33・η) > 0.0011 (1)5(K33/η)0.5>R >(K33/Δε)0.5 (2)の関係を満足する、特には、Δn2・Δε/(K33・η) > 0.0014 (1A)4(K33/η)0.5>R >(K33/Δε)0.5 (2A)の関係を満足することを特徴とするアクティブマトリクス液晶表示素子を提供するものである。
【0009】また、さらに液晶の屈折率異方性Δn 、樹脂マトリクス中に分散保持される液晶の平均粒子径R が、0.2 < RΔn < 0.7 (3)の関係を満足する、さらには両電極間隙d(μm) 、液晶樹脂複合体に印加される最大実効印加電圧V(V) が、3R < d < 9R (4)0.6RV < d < 1.2RV (5)の関係を満足することを特徴とするアクティブマトリクス液晶表示素子を提供するものである。
【0010】さらに、それらの樹脂マトリクスの屈折率が使用する液晶の常光屈折率(no)とほぼ一致するようにされたことを特徴とするアクティブマトリクス液晶表示素子、及び、それらの液晶樹脂複合体に用いられる樹脂が、光硬化性化合物であり、液晶と光硬化性化合物とを均一に溶解した溶液に光照射し、光硬化性化合物を硬化させることにより得られる液晶樹脂複合体を使用することを特徴とするアクティブマトリクス液晶表示素子、及び、それらのアクティブマトリクス液晶表示素子に、投射用光源と投射光学系とを組み合わせたことを特徴とする投射型アクティブマトリクス液晶表示装置を提供するものである。
【0011】本発明のアクティブマトリクス液晶表示素子では、アクティブマトリクス基板と対向電極基板との間に挟持される液晶材料として、電気的に散乱状態と透過状態とを制御しうる液晶樹脂複合体を用いているため、偏光板が不要であり、透過時の光の透過率を大幅に向上できる。このため、明るい表示が可能であり、特に投射型表示に用いた場合、明るくコントラストの良い投射型表示が得られる。
【0012】また、TN型液晶表示素子に必須の配向処理や発生する静電気による能動素子の破壊といった問題点も避けられるので、液晶表示素子の製造歩留りを大幅に向上させることができる。
【0013】さらに、この液晶樹脂複合体は、硬化後はフィルム状になっているので、基板の加圧による基板間短絡やスペーサーの移動による能動素子の破壊といった問題点も生じにくい。
【0014】また、この液晶樹脂複合体は、比抵抗が従来のTNモードの場合と同等であり、DSモードのように大きな蓄積容量を画素電極毎に設けなくてもよく、能動素子の設計が容易で、かつ、液晶表示素子の消費電力を少なく保つことができる。従って、TNモードの従来の液晶表示素子の製造工程から、配向膜形成工程を除くだけで製造が可能になるので、生産が容易である。
【0015】液晶樹脂複合体の比抵抗としては、 5×109 Ωcm以上のものが好ましい。さらに、漏れ電流等による電圧降下を最小限にするために、1010Ωcm以上がより好ましく、この場合には大きな蓄積容量を画素電極毎に付与する必要がない。
【0016】画素電極に設けられる能動素子としては、トランジスタ、ダイオード、非線形抵抗素子等があり、必要に応じて1つの画素に2以上の能動素子が配置されていてもよい。このような能動素子とこれに接続された画素電極とを設けたアクティブマトリクス基板と、対向電極を設けた対向電極基板との間に上記液晶樹脂複合体を挟んで液晶表示素子とする。
【0017】本発明の液晶表示素子は、直視型表示素子、投射型表示素子の両方で用いることができる。直視型表示素子として用いる場合、得たい表示特性に応じて、バックライト、レンズ、プリズム、ミラー、拡散板、光吸収体、カラーフィルター等を組み合わせて表示装置を構成すればよい。
【0018】本発明の液晶表示素子は、特に、投射型表示装置に適しており、投射用光源、投射光学系などと組み合わせて、投射型液晶表示装置とすることができる。投射用光源、投射光学系は従来から公知の投射用光源、レンズ等の投射光学系が使用でき、通常は上記液晶表示素子を投射用光源と投射レンズとの間に配置して用いればよい。
【0019】本発明では、液晶表示素子として、画素電極毎に能動素子を設けたアクティブマトリクス基板と、対向電極を設けた対向電極基板との間に、誘電異方性が正のネマチック液晶が樹脂マトリクス中に分散保持され、電圧印加時または非印加時のいずれかにおいてその樹脂マトリクスの屈折率が使用する液晶の屈折率とほぼ一致するようにされた透過−散乱型の液晶樹脂複合体を挟持した液晶表示素子を用いているため、明るく、高いコントラストが容易に得られるという特長を有している。
【0020】具体的には、本発明では、液晶表示素子として細かな孔の多数形成された樹脂マトリクスとその孔の部分に充填されたネマチック液晶とからなる液晶樹脂複合体を、アクティブマトリクス基板と対向電極基板との間に挟持し、その電極間への電圧の印加状態により、その液晶の屈折率が変化し、樹脂マトリクスの屈折率と液晶の屈折率との関係が変化し、両者の屈折率が一致した時には透過状態となり、屈折率が異なった時には散乱状態となるような液晶表示素子が使用できる。
【0021】この細かな孔の多数形成された樹脂マトリクスとその孔の部分に充填された液晶とからなる液晶樹脂複合体は、マイクロカプセルのような液泡内に液晶が封じ込められたような構造であるが、個々のマイクロカプセルが完全に独立していなくてもよく、多孔質体のように個々の液晶の液泡が細隙を介して連通していてもよい。
【0022】本発明の液晶表示素子に用いる液晶樹脂複合体は、ネマチック液晶と、樹脂マトリクスを構成する硬化性化合物とを混ぜ合わせて溶液状またはラテックス状にしておいて、これを光硬化、熱硬化、溶媒除去による硬化、反応硬化等させて硬化物を分離し、樹脂マトリクス中にネマチック液晶が分散した状態をとるようにすればよい。
【0023】この硬化性化合物を、光硬化または熱硬化タイプにすることにより、密閉系内で硬化できるため好ましい。特に、光硬化タイプの硬化性化合物を用いることにより、熱による影響を受けなく、短時間で硬化させることができ好ましい。
【0024】具体的な製法としては、従来の通常のネマチック液晶と同様にシール材を用いてセルを形成し、注入口から、ネマチック液晶と硬化性化合物との未硬化の混合物を注入し、注入口を封止して後、光照射をするか加熱して硬化させることもできる。
【0025】また、本発明の液晶表示素子の場合には、シール材を用いなく、例えば、対向電極としての透明電極を設けた基板上に、ネマチック液晶と硬化性化合物との未硬化の混合物を供給し、その後、画素電極毎に能動素子を設けたアクティブマトリクス基板を重ねて、光照射等により硬化させることもできる。
【0026】もちろん、その後、周辺にシール材を塗布して周辺をシールしてもよい。この製法によれば、単にネマチック液晶と硬化性化合物との未硬化の混合物をロールコート、スピンコート、印刷、ディスペンサーによる塗布等の供給をすればよいため、注入工程が簡便であり、生産性が極めてよい。
【0027】また、これらのネマチック液晶と硬化性化合物との未硬化の混合物には、基板間隙制御用のセラミック粒子、プラスチック粒子、ガラス繊維等のスペーサー、顔料、色素、粘度調整剤、その他本発明の性能に悪影響を与えない添加剤を添加してもよい。
【0028】電圧非印加時に散乱状態である素子に、この硬化工程の際に特定の部分のみに十分高い電圧を印加した状態で硬化させることにより、その部分を常に光透過状態にすることができるので、固定表示したいものがある場合には、そのような常透過部分を形成してもよい。逆に、電圧非印加状態に透過状態である素子の場合には、同様にして常散乱部分を形成できる。
【0029】なお、この液晶樹脂複合体を使用した液晶表示素子の透過状態での透過率は高いほどよく、散乱状態でのヘイズ値は80%以上であることが好ましい。
【0030】本発明では、電圧印加状態または非印加状態のいずれかで、樹脂マトリクス(硬化後の)の屈折率が、使用する液晶の屈折率と一致し、逆の状態では樹脂マトリクスの屈折率が、使用する液晶の屈折率と一致しないようにされる。
【0031】これにより、樹脂マトリクスの屈折率と液晶の屈折率とが一致した時に光が透過し、一致しない時に光が散乱(白濁)することになる。この素子の散乱性は、従来のDSモードの液晶表示素子の場合よりも高く、高いコントラスト比の表示が得られる。
【0032】本発明では、特に、電圧を印加している状態で、樹脂マトリクス(硬化後の)の屈折率が、使用する液晶の常光屈折率(no)と一致するようにされることが好ましい。これにより、電圧印加時に透過状態になるので、光透過時の透過率が高くなりかつ均一に透過するので、表示のコントラスト比が向上する。
【0033】本発明の目的は、この液晶樹脂複合体を用いたアクティブマトリクス液晶表示素子の最適な構成を提供することにある。即ち、階調表示の際にも応答が早く残像のない表示が得られ、かつ透過時に高い透過率を有し、散乱時に高い散乱性(遮光性)を有するコントラスト比の大きなアクティブマトリクス液晶表示素子を提供するものである。
【0034】上記液晶樹脂複合体を用いたアクティブマトリクス液晶表示素子の電気光学特性を決める要因としては、使用する液晶の屈折率(常光屈折率no、異常光屈折率ne)、比誘電率(ε//、ε⊥、//及び⊥は夫々液晶分子軸に平行、垂直を示す)、粘性η、弾性定数K33 、並びに使用する樹脂の屈折率np、比誘電率εp 、弾性率、並びに樹脂マトリクス中に分散保持される液晶の平均粒子径R 、体積分布率Φ、両電極基板間隙(液晶樹脂複合体の厚み)d 、能動素子により画素部分の液晶樹脂複合体に印加される最大実効印加電圧V 等が挙げられる。
【0035】ここで液晶平均粒子径R とは、液晶が独立した粒子または一部が連通した粒子である場合には、その粒子の最大直径を意味し、液晶の多くが連通した構造の場合には、液晶のディレクターの向きが互いに相関を持つ領域の最大直径を意味する。
【0036】樹脂マトリクス中に分散保持される液晶は、独立した粒子、または一部が連通した粒子であることが好ましい。これは、低電圧で駆動でき、高い散乱能と高い透過性を両立させるために有効である。散乱は液晶と樹脂の界面の存在により引き起こされる。このため、この界面の面積が大きいほど散乱性は向上する。ある最適な液晶粒子径で、この界面の面積を増大させるためには、独立して樹脂と分離した液晶量を多くする、即ち、液晶粒子密度を多くすることが重要である。
【0037】しかし、樹脂と分離した液晶量を増大していくと、いずれ夫々の液晶粒子が連通するようになり、さらには液晶が全て連通した構造を取るようになり、これは樹脂と分離した液晶界面の喪失につながるため、散乱能の低下につながる。
【0038】また、駆動電圧を低くするためには、樹脂中に保持される夫々の液晶がほぼ等しい駆動電圧を持つことが重要である。このためには、液晶が明確な界面を樹脂との間に持つ方が有利であり、界面の喪失は駆動電圧の分散につながり、コントラスト比の低下と駆動電圧の上昇を生じる傾向がある。このため、樹脂中に分散保持される液晶は、高密度に存在する独立粒子または一部が連通した粒子であることが好ましい。
【0039】本発明の液晶樹脂複合体を用いたアクティブマトリクス液晶表示素子の電気光学特性としては、電圧印加時及び非印加時のいずれか一方で高い散乱性を有し、かつ、他方で高い透過性を有すること、即ち、高い表示コントラスト比を持ち、階調表示時にも速い応答性を有し、残像のない表示が得られることが望まれる。このような液晶表示素子を用いて、投射型の表示を行った場合、高輝度かつ高コントラスト比の表示を得ることができる。このような表示を得るためには、上記の要因が最適な関係を持つことが必要である。
【0040】これらの要因の中でアクティブマトリクス液晶表示素子の電気光学特性を決定する特に重要な要因は、使用する液晶の屈折率(屈折率異方性Δn=異常光屈折率ne−常光屈折率no)、比誘電異方性Δε、粘度η、弾性定数K33 、液晶の平均粒子径R 、粒子径分布、両電極基板間隙d であり、これらを画素に印加される最大の実効印加電圧で最適化する。
【0041】本発明の最も大きな目的は、階調表示の際にも残像のない速い応答性を示す液晶樹脂複合体を用いたアクティブマトリクス液晶表示素子を得ることである。以下の説明では、樹脂マトリクスの屈折率が、使用する液晶の常光屈折率(no)と一致するようにされ、電圧印加時に透過状態になる液晶表示素子を例にして説明する。
【0042】液晶樹脂複合体は、スタティックで駆動する際、オフ状態と十分高い(飽和電圧以上の)オン状態で駆動されるため、数十msec以下の応答性を有しており一般に高速表示に適したものである。しかし、階調表示の際には中間調を表示するために飽和電圧よりも低い電圧も用いられ、スタティック駆動での応答より遅い状態が存在する。階調表示時の応答性は低電圧側での表示(暗い表示)ほど応答が遅くなる傾向があり、特に、オフ状態から低い透過率状態への変化が最も遅く、スタティック駆動時の応答の数十倍以上遅くなることもある。
【0043】階調表示の際の応答性を決定する重要な要因は、樹脂中に保持される液晶の平均粒子径R 、及び、その形状、用いる液晶の比誘電率異方性Δε、弾性定数K33(10-12N) 、粘度η(cSt) 等である。
【0044】階調表示の際にも残像のない表示が得られるのは、樹脂マトリクス中に分散保持される液晶の平均粒径子R(μm) と、用いる液晶の比誘電率異方性Δε、粘度η(cSt) 、弾性定数K33(10-12N) が、Δn2・Δε/(K33・η) > 0.0011 (1)5(K33/η)0.5>R >(K33/Δε)0.5 (2)の関係を満たす時である。
【0045】この範囲においては、階調表示時の各電圧における液晶に働くトルクバランスがとれ、残像のない表示が得られると共に、液晶の駆動に要する電圧が低く抑えられる。なお、ここで用いられる液晶の物性値は室温での値である。
【0046】樹脂マトリクス中に分散保持される液晶の平均粒径R は、応答性に強く依存しR が大きくなると応答速度は急激に遅くなる。一方、R が小さくなると応答速度は早くなるがその駆動に要する電圧が高くなってしまう。
【0047】最適なR の領域は、液晶の静電エネルギー、弾性エネルギー、液晶に働くトルクのバランスにより決定され、表示に支障のない応答性の得られるためのR の上限は5(K33 /η)0.5で、下限は(K33/Δε)0.5で表される。中でも、上限を4(K33 /η)0.5とすることが好ましい。即ち、(2) 式を以下の(2A)式のようにすることが好ましい。
4(K33/η)0.5>R >(K33/Δε)0.5 (2A)
【0048】液晶の弾性定数は液晶に蓄積される弾性エネルギーを決定するが、液晶樹脂複合体においては、とくに弾性定数K33 によるベンドエネルギーが大きな役割を果たし、応答特性、駆動特性即ち、液晶に働く弾性トルクと深く関与する。比誘電率異方性は、液晶に働く電気的トルクすなわち駆動に必要な電圧と関与し、粘度は液晶に働く粘性トルクと関与する。これらのトルクのバランスを最適化したのが、上記した関係であり、この範囲内では階調表示において動画の表示に適した応答特性が、比較的低い電圧で得ることができる。
【0049】特に、中間調において残像がなく、比較的低い電圧で駆動できるためには、前記(1) 式を満たす必要がある。中でも、(1) 式を以下の(1A)式のように、式の値を0.0014より大きくすることが好ましい。
Δn2・Δε/(K33・η) > 0.0014 (1A)
【0050】使用する液晶の屈折率異方性Δn(=ne−no) は、無電圧時における散乱性に寄与し、高い散乱性を得るには、ある程度以上大きいことが好ましく、具体的にはΔn >0.18が好ましい条件である。また、使用する液晶の常光屈折率noは樹脂マトリクスの屈折率npとほぼ一致することが好ましく、この時電圧印加時に高い透明性が得られる。具体的にはno−0.03<np<no+0.05の関係を満たすことが好ましい。
【0051】樹脂マトリクス中に分散保持される液晶の平均粒子径R は非常に重要な要因であり、無電圧時の散乱性、電圧印加時の液晶の動作特性に寄与する。無電圧時の散乱性は、使用する液晶の屈折率異方性Δn 、光の波長λ、液晶の平均粒子径Rの関係により変化するが、λが可視光線域において、単位動作液晶量あたりの散乱性が最大になるのは、平均粒子径R(μm) が、0.2 < RΔn < 0.7 (3)の関係を満たす時である。この範囲内においては、散乱性に波長依存性も少なく、全可視光線域にわたって強い散乱が得られるため、コントラスト比の高い表示が得られる。
【0052】平均粒子径R が (3)式の範囲よりも小さい場合、応答速度は速くなるが、単位動作液晶量当りの散乱能が低下すると共に、駆動に必要な電圧が高くなる。逆に、平均粒子径R が (3)式の範囲よりも大きい場合、低電圧で駆動可能となるが、単位動作液晶量当りの散乱能が低下すると共に、応答速度は遅くなる。
【0053】液晶の粒子径は、均一であることが好ましい。粒子径に分布がある場合、大きな液晶粒子は散乱能の低下に、小さな液晶粒子は駆動電圧の上昇につながり、結果として、駆動電圧の上昇とコントラストの低下を招く。粒子径の分散σは平均粒子径の0.25倍以内が望ましく、0.15倍以内がより望ましい範囲である。なお、平均粒子径、分散は体積で重み付けをした平均、分散である。
【0054】用いる液晶の選定は、(1) 式に示した粘度、弾性定数、比誘電率異方性と粒子径との関係をも考慮して行えばよい。具体的には、Δn は、0.18以上とされるものであり、中でも0.22以上が好ましい。用いる液晶としては、 (1)式の条件下で(2)式と (3)式の範囲の交わりを大きくするような液晶が望ましい。
【0055】電極基板間隙d も重要な要因である。d を大きくすると、無電圧時の散乱性は向上する。しかし、d があまり大きすぎると、電圧印加時の充分な透明性を達成するために高い電圧を必要とし、消費電力の増大や、従来のTN用の能動素子、駆動用ICが使用できないといった問題が生じてくる。また、d を小さくすると、低電圧で高い透明性が得られるが、無電圧時の散乱性は減少していく。
【0056】このため、無電圧時の散乱性と電圧印加時の高透明性を両立させるためには、d(μm) が、3R < d < 9R (4)を満足し、かつ、液晶樹脂複合体に印加される最大実効印加電圧V(V)が0.6RV < d < 1.2RV (5)の関係を満たすことが好ましい。この範囲内では、従来のTN用の能動素子、駆動用ICを用いて高いコントラスト比を有する表示が可能である。
【0057】(4) 式の範囲内におけるd の設定は、用いる液晶の比誘電率異方性Δε(=ε⊥−ε//)、弾性定数との関係により、適当に設定することが可能である。一般には、大きなΔε(Δε>5 )の液晶を用い、最大実効印加電圧で充分な透明性が得られるような範囲で、d を最大にすることが好ましい。
【0058】上記のように、電圧印加時に透明状態、無電圧時に散乱状態となる液晶樹脂複合体を用いたアクティブマトリクス液晶表示素子において、式(1) 〜(4) の条件を全て満足する液晶表示素子は、 (5)式の電圧範囲、即ち、従来のTN用の能動素子や駆動用ICを用いて、高いコントラスト比を持つ明るい表示が可能である。具体的には、コントラスト比 100以上、電圧印加時の透過率が70%以上、階調表示時の応答時間が100msec 以下の表示が可能である。
【0059】上記素子を反射型で用いる場合には、光は2度液晶樹脂複合体を通過するので、散乱時の散乱性が増大する。従って、 (4)式の範囲内で、d を薄くすることが可能で、 (5)式によって決められる最大駆動電圧も低減できる。
【0060】また、無電圧時の散乱性を向上させるには、液晶樹脂複合体の動作可能な液晶の体積分率Φを増加させることが有効であり、Φ>20%が好ましく、より高い散乱性を有するにはΦ>35%が好ましく、さらにはΦ>45%が好ましい。一方Φがあまり大きくなると、液晶樹脂複合体の構造安定性が悪くなるため、Φ<70%が好ましい。
【0061】本発明の液晶表示素子で、樹脂マトリクスの屈折率が、使用する液晶の常光屈折率(no)と一致するようにされた液晶表示素子は、電圧が印加されていない場合は、一定方向に平行に揃って配列していない液晶と、樹脂マトリクスの屈折率の違いにより、散乱状態(つまり白濁状態)を示す。
【0062】このため、本発明のように投射型表示装置として用いる場合には、電極のない部分は光が散乱され、画素部分以外の部分に遮光膜を設けなくても、光が投射スクリーンに到達しないため、黒く見える。このことにより、画素電極以外の部分からの光の漏れを防止するために、画素電極以外の部分を遮光膜等で遮光する必要がないこととなり、遮光膜の形成工程が不要となるという利点も有する。
【0063】これに所望の画素に電圧を印加する。この電圧を印加された画素部分では、液晶が配列し、液晶の常光屈折率(no) と樹脂マトリクスの屈折率(np) とが一致することにより透過状態を示し、当該所望の画素で光が透過することとなり、投射スクリーンに明るく表示される。
【0064】この素子に、この硬化工程の際に特定の部分のみに充分に高い電圧を印加した状態で硬化させることにより、その部分を常に光透過状態とすることができるので、固定表示したいものがある場合には、そのような常透過部分を形成してもよい。
【0065】また、本発明のアクティブマトリクス液晶表示素子は、カラーフィルターを設けることによりカラー表示を行うことができる。このカラーフィルターは、1個の液晶表示素子に3色設けてもよいし、1個の液晶表示素子に1色設けてもこれを3個組み合わせてもよい。このカラーフィルターは、基板の電極面側に設けてもよいし、外側に設けてもよい。また、液晶樹脂複合体中に染料、顔料等を混入しておくことにより、カラー表示を行うようにしてもよい。
【0066】図1は、本発明のアクティブマトリクス液晶表示素子の断面図である。図1において、 1は液晶表示素子、 2はアクティブマトリクス基板用のガラス、プラスチック等の基板、 3はITO(In2O3-SnO2)SnO2等の画素電極、 4はトランジスタ、ダイオード、非線形抵抗素子等の能動素子、 5は対向電極基板用のガラス、プラスチック等の基板、 6はITOSnO2 等の対向電極、 7は両基板間に挟持された液晶樹脂複合体を示している。
【0067】図2は、図1のアクティブマトリクス液晶表示素子を用いた投射型アクティブマトリクス液晶表示装置の模式図である。図2において、11は投射用光源、21は液晶表示素子、13はレンズ、アパーチャー等を含む投射光学系、14は投射する投射スクリーンを示している。なお、投射光学系はこの例では、孔のあいた板であるアパーチャーやスポット15、集光レンズ16、投射レンズ17を含んでいる。
【0068】本発明の能動素子としてTFT(薄膜トランジスタ)等の3端子素子を使用する場合、対向電極基板は全画素共通のベタ電極を設ければよいが、MIM素子、PINダイオード等の2端子素子を用いる場合には、対向電極基板はストライプ状のパターニングをされる。
【0069】また、能動素子として、TFTを用いる場合には、半導体材料としてはシリコンが好適でありる。特に多結晶シリコンは、非結晶シリコンのように感光性がないため、光源からの光を遮光膜により遮光しなくても誤動作しなく、好ましい。この多結晶シリコンは、本発明のように投射型液晶表示装置として用いる場合、強い投射用光源を利用でき、明るい表示が得られる。
【0070】また、従来のTN型液晶表示素子の場合には、画素間からの光の漏れを抑止するために、画素間に遮光膜を形成することが多く、このついでに能動素子部分にも同時遮光膜を形成することができ、能動素子部分に遮光膜を形成することは全体の工程にあまり影響を与えない。即ち、能動素子として多結晶シリコンを用いて、能動素子部分に遮光膜を形成しないことにしても、画素間に遮光膜を形成する必要があれば、工程を減らすことはできない。
【0071】これに対して、本発明では、樹脂マトリクスの屈折率を使用する液晶の常光屈折率(no)とほぼ一致するようにされた液晶樹脂複合体を使用することにより、電圧を印加しない部分では光が散乱して投射された投射スクリーン上では黒くなるため、画素間に遮光膜を形成しなくてよい。
【0072】このため、能動素子として多結晶シリコンを用いた場合、能動素子部分に遮光膜を形成しなくてもよいまたはその遮光性が弱くてもよいので、遮光膜を形成する工程をなくしたり、形成される遮光膜の厳密さを緩めることができ、生産性が向上する。
【0073】また、電極は通常は透明電極とされるが、反射型の液晶表示装置として使用する場合には、クロム、アルミニウム等の反射電極としてもよい。
【0074】本発明の液晶表示素子及び液晶表示装置は、このほか赤外線カットフィルター、紫外線カットフィルター等を積層したり、文字、図形等を印刷したりしてもよいし、複数枚の液晶表示素子を用いたりするようにしてもよい。
【0075】さらに、本発明では、この液晶表示素子の外側にガラス板、プラスチック板等の保護板を積層してもよい。これにより、その表面を加圧しても、破損する危険性が低くなり、安全性が向上する。
【0076】本発明では、前述の液晶樹脂複合体を構成する未硬化の硬化性化合物として光硬化性化合物を用いる場合、光硬化ビニル系化合物の使用が好ましい。具体的には、光硬化性アクリル系化合物が例示され、特に、光照射によって重合硬化するアクリルオリゴマーを含有するものが好ましい。
【0077】本発明で使用される液晶は、正の誘電異方性を有するネマチック液晶であり、樹脂マトリクスの屈折率が、電圧印加時または非印加時のいずれかにおいてその液晶の屈折率と一致するような液晶であり、単独で用いても組成物を用いても良いが、動作温度範囲、動作電圧など種々の要求性能を満たすには組成物を用いた方が有利といえる。特に、樹脂マトリクスの屈折率が、液晶の常光屈折率(no)と一致するような液晶の使用が好ましい。
【0078】また、液晶樹脂複合体に使用される液晶は、光硬化性化合物を用いた場合には、光硬化性化合物を均一に溶解することが好ましく、光露光後の硬化物は溶解しない、もしくは溶解困難なものとされ、組成物を用いる場合は、個々の液晶の溶解度ができるだけ近いものが望ましい。
【0079】液晶樹脂複合体を製造する場合、従来の通常の液晶表示素子のようにアクティブマトリクス基板と対向電極基板とを電極面が対向するように配置して、周辺をシール材でシールして、注入口から未硬化の液晶樹脂複合体用の混合液を注入して、注入口を封止してもよいし、一方の基板上に硬化性化合物と液晶との未硬化混合物を供給し、他方の基板を電極面が相対向するように重ね合わせるようにして製造してもよい。
【0080】本発明の液晶表示素子は、液晶中に2色性色素や単なる色素、顔料を添加したり、硬化性化合物として着色したものを使用したりしてもよい。
【0081】本発明では、液晶樹脂複合体として液晶を溶媒として使用し、光露光により光硬化性化合物を硬化させることにより、硬化時に不要となる単なる溶媒や水を蒸発させる必要がない。このため、密閉系で硬化できるため、従来のセルへの注入という製造法がそのまま採用でき、信頼性が高く、かつ、光硬化性化合物で 2枚の基板を接着する効果も有するため、より信頼性が高くなる。
【0082】このように液晶樹脂複合体とすることにより、上下の透明電極が短絡する危険性が低く、かつ、通常のTN型の表示素子のように配向や基板間隙を厳密に制御する必要もなく、透過状態と散乱状態とを制御しうる液晶表示素子を極めて生産性良く製造できる。
【0083】この液晶表示素子は、基板がプラスチックや薄いガラスの場合にはさらに保護のために、外側にプラスチックやガラス等の保護板を積層することが好ましい。
【0084】本発明の液晶表示装置は、駆動のために電圧を印加する時には、前述の式(5)の最大実効電圧以下、通常は前述の最大実効電圧が画素の電極間の液晶樹脂複合体に印加されるように駆動されればよい。
【0085】投射用光源、投射光学系、投射スクリーン等は従来からの投射用光源、投射光学系、投射スクリーンが使用でき、投射用光源と投射光学系との間に本発明のアクティブマトリクス液晶表示素子を配置すればよい。もちろん、複数のアクティブマトリクス液晶表示素子の像を光学系を用いて合成して表示するようにしてもよい。また、これに冷却系を付加したり、LED等のTVチャンネル表示等を付加したりしてもよい。
【0086】特に、この投射型の表示をする場合、光路上に拡散光を減ずる装置、例えば、図2の15で示されるようなアパーチャーやスポットを設置することにより、表示コントラスト比を大きくすることができる。
【0087】即ち、拡散光を減ずる装置とは、液晶表示素子を通過した光の内、入射光に対して直進する光(画素部分が透過状態の部分を透過する光)を取り出し、直進しない光(液晶樹脂複合体が散乱状態の部分で散乱される光)を減ずるものであればよい。特に、直進する光は減ずることなく、直進しない光である拡散光を減ずることが好ましい。
【0088】具体的な装置としては、図2のように、液晶表示素子と投射光学系とで構成され、液晶表示素子12、集光レンズ16、孔のあいた板であるアパーチャーやスポット15、投射レンズ17を設けたものがある。この例によれば、投射用光源からでて液晶表示素子12を通過した光の内、入射光に対して直進する光は集光レンズ16により集光され、アパーチャーやスポット15に開けられた孔を通過して、投射レンズ17を通し投射される。一方、液晶表示素子12で散乱させられた直進しない光は、集光レンズ16により集光されても、アパーチャーやスポット15に開けられた孔を通過しない。このため、散乱光が投射されないことになり、コントラスト比が向上する。
【0089】また、他の例としては、アパーチャーやスポット15の代りに、小さな面積を有する鏡を同じ位置に斜めに配置し、反射させてその光軸上に配置された投射レンズを通して投射させることもできる。また、このような集光レンズを用いることなく、投射レンズにより光線が絞られる位置にスポット、鏡等を設置してもよい。また、特別なアパーチャー等を用いなくとも、投射用レンズの焦点距離、口径を、散乱光が除去されるように選択してもよい。
【0090】また、マイクロレンズ系なども用いることもできる。具体的には、液晶表示素子の投射光学系側にマイクロレンズアレイと細やかな穴がアレー化されたスポットアレーを配置して、不要な散乱光を除去することができる。この場合、散乱光除去に必要な光路長を非常に短くすることができるため全体の投射型表示装置をコンパクトにできるという利点を持つ。光路長の短縮に関しては、投射光学系の中に散乱除去系を組み込むことも有効である。この場合、独立に投射光学系と散乱除去系を設置するより光学系がシンプルになると共に、サイズを小さく抑えることができる。
【0091】これらの光学系は、ミラー、ダイクロイックミラー、プリズム、ダイクロイックプリズム、レンズなどと組合せ、画像の合成、カラー化ができるとともに、カラーフィルターと組み合わせることによっても画像のカラー化が可能である。
【0092】投射スクリーン上に到達する直進成分と散乱成分との比は、スポット、鏡等の径及びレンズの焦点距離により制御可能で、所望の表示コントラスト、表示輝度を得られるように設定すればい。
【0093】図2のような拡散光を減ずる装置を用いる場合、表示の輝度を上げるためには、投射用光源から液晶表示素子に入射される光はより平行であることが好ましく、そのためには高輝度でかつできるだけ点光源に近い光源と、凹面鏡、コンデンサーレンズ等を組み合わせて投射用光源を構成することが好ましい。
【0094】また、上記の説明では、主として透過型で説明したが、反射型の投射型表示装置であっても例えば、スポットの代わりに小型の鏡を配置する等して必要な光のみを取り出すようにすることができる。
【0095】
【作用】本発明によれば、高いコントラスト比の表示が得られ、投射型表示で用いられた場合には、透過−散乱型の液晶表示素子が透過状態の部分では光が透過し、投射スクリーンは明るく表示され、散乱状態の部分では光が散乱され、投射スクリーンは暗く表示され、所望の高輝度、高コントラスト比の表示が得られる。
【0096】特に、本発明では、前記のような構成を有しているので、液晶樹脂複合体に印加される最大実効印加電圧V を10V以下にすることができるとともに、中間調表示においても高速の応答性が得られるため、従来のTN型のアクティブマトリクス液晶表示素子に使用したような能動素子や駆動用ICを用いて、動画表示が容易にできる。
【0097】
【実施例】以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。
【0098】実施例1ガラス基板(コーニング社製7059基板)上にクロムを60nm蒸着して、パターニングしてゲート電極とした。引き続きシリコンオキシナイトライド膜と非晶質シリコン膜をプラズマCVD装置で堆積した。これをレーザーを用いてアニールした後、パターニングして多結晶シリコンとした。これにリンドープ非晶質シリコン、クロムを夫々プラズマCVD、蒸着装置を用いて堆積し、多結晶シリコンを覆うようにパターニングして、第1層目のソース電極、ドレイン電極とした。
【0099】さらに、ITOを蒸着した後、パターニングして画素電極を形成した。続いて、クロム、アルミニウムを連続蒸着して、パターニングして、第2層目のソース電極、ドレイン電極とした。その際、画素電極と、第1層目のドレイン電極及び第2層目のドレイン電極とを接続するようにした。この後、再び、シリコンオキシナイトライド膜をプラズマCVD装置で堆積し保護膜とし、アクティブマトリクス基板を作成した。
【0100】全面にベタのITO電極を形成した同じガラス基板による対向電極基板と、前に製造したアクティブマトリクス基板とを電極面が対向するように配置して、内部に直径約11.0μmのスペーサーを散布して、その周辺を注入口部分を除き、エポキシ系のシール材でシールして、基板間隙11.0μmの空セルを製造した。
【0101】Δn が約0.24、Δεが約16、K33 が約15(×10-12N)、粘度が約37cSt のネマチック液晶をアクリレートモノマー、2官能ウレタンアクリレートオリゴマー、光硬化開始剤と均一に溶解した溶液をセルに注入し、紫外線露光により液晶樹脂複合体を硬化させ、アクティブマトリクス液晶表示素子を作成した。液晶量は68wt%、電極間間隙は約11μm、液晶の平均粒子径は約 1.6μmであった。
【0102】この素子を従来のTN型液晶表示素子用の駆動ICを用いて液晶樹脂複合体に印加される電圧が実効値で 8Vとなるように駆動したところ、直線光線透過率が、 8Vの電圧印加時に透過率約75%、 0V時に透過率約 0.4%であり、 8V駆動でコントラスト比約 200の表示が得られた。また、これをビデオ信号で駆動したところ、中間調のある残像のない動画表示が得られた。
【0103】応答時間(90%の透過率変化)は、 8V→ 0Vで10msec、 0V→ 8Vで15msecであり、 0V→飽和透過率×0.2 (約16%)では、120msec であった。
【0104】この液晶表示素子用に、投射用光源と投射光学系とを組み合わせて投射型液晶表示装置とした。スポットの直径φと、レンズの焦点距離f とにより定まる集光角をδ(δ=2tan-1( φ/2f))として、この集光角を 6°とした。これにより、残像のない動画表示が得られ、スクリーン上でのコントラスト比は約 130であった。
【0105】比較例1実施例1の液晶樹脂複合体の代りに、通常のネマチック液晶を注入し、TN型液晶表示素子とした投射型アクティブマトリクス液晶表示素子を製造した。この液晶表示素子に実施例1の投射用光源と投射光学系とを組み合わせて用いて投射型液晶表示装置とし、実施例1と同様に駆動したところ、投射スクリーン上の表示輝度は、実施例1の場合の約1/3 と暗く、コントラスト比は 100程度のものが得られた。応答時間(90%の透過率変化)は、 5V→ 0Vで25msec、 0V→ 5Vで30msecであり、 0V→飽和透過率×0.2 (約 6%)では、 160msecであった。
【0106】実施例2、比較例2〜3実施例1とほぼ同様にして、液晶の平均粒子径R 及び基板間隙d を変化させてアクティブマトリクス液晶表示素子を製造した。その液晶表示素子の 8Vの電圧印加時における透過率T8V、投射光学系を用いて投射した時のスクリーン上でのコントラスト比CR、 0V→飽和透過率×0.2 (約16%)での応答時間τを測定した。その結果を表1に示す。
【0107】
【表1】


【0108】実施例3対向電極をアルミニウム製として、反射型の素子とすること、及び、基板間隙を 6.0μm、平均粒子径を 1.6μmとした外は、実施例1とほぼ同様にして、アクティブマトリクス液晶表示素子を作成した。この液晶表示素子を駆動電圧を 5Vで駆動したところ、T5Vは72%、T0Vは 0.6%となり、コントラスト比は約 120になった。なお、基板表面の反射率は 0.4%程度とした。
【0109】これをビデオ信号で駆動したところ、中間調のある残像のない動画表示が得られた。応答時間(90%の透過率変化)は、 5V→ 0Vで 8msec、 0V→ 5Vで12msecであり、 0V→飽和透過率×0.2 (約16%)では、 100msecであった。この液晶表示素子用に、投射用光源と投射光学系とを組み合わせて反射型の投射型液晶表示装置としたところ、残像のない動画表示が得られ、スクリーン上でのコントラスト比は約 100であった。
【0110】実施例4Δn が約0.29、Δεが約16、K33 が約15(×10-12N)、粘度が約52cSt のネマチック液晶をアクリレートモノマー、ウレタンアクリレートオリゴマー、光硬化開始剤と均一に溶解した溶液をセルに注入し、紫外線露光により液晶樹脂複合体を硬化させ、アクティブマトリクス液晶表示素子を作成した。液晶量は68wt%、電極間間隙は約10μm、液晶の平均粒子径は約 1.4μmであった。この液晶表示素子を駆動電圧を 8Vで駆動したところ、T8Vは75%、T0Vは 0.3%となり、CRは約 250になった。
【0111】これをビデオ信号で駆動したところ、中間調のある残像のない動画表示が得られた。応答時間(90%の透過率変化)は、 8V→ 0Vで10msec、 0V→ 8Vで15msecであり、 0V→飽和透過率×0.2 (約16%)では、80msecであった。この液晶表示素子用に、投射用光源と投射光学系とを組み合わせて反射型の投射型液晶表示装置とした。なお、集光角を 6°とした。これにより、残像のない動画表示が得られ、スクリーン上でのコントラスト比は約 120であった。
【0112】比較例4実施例1の液晶を、Δn が約0.24、Δεが約16、K33が約18(×10-12N)、粘度が約54cSt のネマチック液晶(BDH社製「E−8」)に代え、実施例1と同様にしてアクティブマトリクス液晶表示素子を作成した。電極間間隙は約11μm、液晶の平均粒子径は約 1.7μmであった。この液晶表示素子を駆動電圧を 7Vで駆動したところ、T7Vは75%、T0Vは 0.4%となり、CRは約 200になった。
【0113】これをビデオ信号で駆動したところ、中間調のあるほとんど残像のない動画表示が得られたが、暗い中間調表示の際に残像が見られた。応答時間(90%の透過率変化)は、 7V→ 0Vで35msec、0V→ 7Vで30msecであり、 0V→飽和透過率×0.2 (約16%)では、 450msecであった。この液晶表示素子用に、投射用光源と投射光学系とを組み合わせて反射型の投射型液晶表示装置とした。なお、集光角を 6°とした。これにより、スクリーン上でのコントラスト比は約 100であったが、一部残像が見られた。
【0114】
【発明の効果】本発明のアクティブマトリクス液晶表示素子では、アクティブマトリクス基板と対向電極基板との間に挟持される液晶材料として、電気的に散乱状態と透過状態とを制御しうる液晶樹脂複合体を挟持した液晶表示素子を用いているため、偏光板が不要であり、透過時の光の透過率を大幅に向上でき、明るい表示が得られる。
【0115】本発明の液晶表示素子は、透過性と散乱性に優れているため、従来のTN型液晶表示素子用の駆動用ICを用いた駆動においても、高コントラスト比を有し、かつ高輝度の表示が可能になる。特に、樹脂マトリクスの屈折率が使用する液晶の常光屈折率(no)とほぼ一致するようにすることにより、電圧が印加されない状態で高い散乱性を有し、能動素子により電圧を印加した状態で高い透過性を有するものにでき、従来のTN型液晶表示素子用の駆動用ICを用いた駆動において、より高コントラスト比、高輝度の表示が可能になる。
【0116】さらに、階調駆動を行った際にも、残像を生じにくく、中間調がきれいにでた階調表示ができる。このため、本発明の液晶表示素子は、投射型表示に有効であり、明るくコントラストの良い投射型表示が得られる。また、光源も小型化できる。
【0117】また、偏光板を用いなくてもよいため、光学特性の波長依存性が少なく、光源の色補正等がほとんど不要になるという利点も有している。また、TN型液晶表示素子に必須のラビング等の配向処理やそれに伴う静電気の発生による能動素子の破壊といった問題点も避けられるので、液晶表示素子の製造歩留りを大幅に向上させることができる。
【0118】さらに、この液晶樹脂複合体は、硬化後はフィルム状になっているので、基板の加圧による基板間短絡やスペーサーの移動による能動素子の破壊といった問題点も生じにくい。
【0119】また、この液晶樹脂複合体は、比抵抗が従来のTNモードの場合と同等であり、従来のDSモードのように大きな蓄積容量を画素電極毎に設けなくてもよく、能動素子の設計が容易で、有効画素電極面積の割合を大きくしやすく、かつ、液晶表示素子の消費電力を少なく保つことができる。
【0120】さらに、TNモードの従来の液晶表示素子の製造工程から、配向膜形成工程を除くだけで製造が可能になるので、生産が容易である。
【0121】また、この液晶樹脂複合体を用いた液晶表示素子は、応答時間が短いという特長も有しており、動画の表示も容易なものである。さらに、この液晶表示素子の電気光学特性(電圧−透過率)は、TNモードの液晶表示素子に比して比較的なだらかな特性であるので、階調表示への適用も容易である。
【0122】また、本発明の液晶表示素子は、樹脂マトリクスの屈折率が使用する液晶の常光屈折率(no)とほぼ一致するようにすることにより、電圧を印加しない部分では光が散乱されるため、画素以外の部分を遮光膜により遮光しなくても投射時に光の漏れがなく、隣接画素間の間隙を遮光する必要がない。
【0123】このため、特に、能動素子として多結晶シリコンによる能動素子を用いることにより、能動素子部分に遮光膜無しまたは簡略な遮光膜を設けるのみで、高輝度の投射用光源を用いることができ、高輝度の投射型液晶表示装置を容易に得ることができる。さらにこの場合には遮光膜を全く設けなくてもよい、または簡略な遮光膜のみでよいことになり、さらに生産工程を簡便化することができる。
【0124】本発明は、この外、本発明の効果を損しない範囲内で種々の応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のアクティブマトリクス液晶表示素子の基本的な構成を示す断面図
【図2】本発明の投射型アクティブマトリクス液晶表示装置の基本的な構成を示す模式図
【符号の説明】
1 12:液晶表示素子
2 5:基板
3 :画素電極
4 :能動素子
6 :対向電極
7 :液晶樹脂複合体
11 :投射用光源
13 :投射光学系
14 :投射スクリーン
15 :スポット
16 :集光レンズ
17 :投射レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】画素電極毎に能動素子を設けたアクティブマトリクス基板と、対向電極を設けた対向電極基板との間に、誘電異方性が正のネマチック液晶が樹脂マトリクス中に分散保持され、電圧の印加時または非印加時のいずれかの状態においてその樹脂マトリクスの屈折率が使用する液晶の屈折率とほぼ一致するようにされた液晶樹脂複合体を挟持してなるアクティブマトリクス液晶表示素子において、使用するネマチック液晶の屈折率異方性Δn が0.18以上で、樹脂マトリクス中に分散保持される液晶の平均粒子径R(μm) 、と液晶の比誘電率異方性Δε、弾性定数K33(10-12N) 、粘度η(cSt) とが、Δn2・Δε/(K33・η) > 0.0011 (1)5(K33/η)0.5>R >(K33/Δε)0.5 (2)の関係を満足することを特徴とするアクティブマトリクス液晶表示素子。
【請求項2】
Δn2・Δε/(K33・η) > 0.0014 (1A)4(K33/η)0.5>R >(K33/Δε)0.5 (2A)の関係を満足する請求項1記載のアクティブマトリクス液晶表示素子。
【請求項3】
0.2 < RΔn < 0.7 (3)の関係を満足する請求項1または2記載のアクティブマトリクス液晶表示素子。
【請求項4】電極間隙d(μm) 、液晶樹脂複合体に印加される最大実効印加電圧V(V) が、3R < d < 9R (4)0.6RV < d < 1.2RV (5)の関係を満足する請求項1、2または3記載のアクティブマトリクス液晶表示素子。
【請求項5】脂マトリクスの屈折率が使用する液晶の常光屈折率(no)とほぼ一致するようにされた請求項1、2、3または4記載のアクティブマトリクス液晶表示素子。
【請求項6】晶樹脂複合体に用いられる樹脂が光硬化性化合物であり、液晶と光硬化性化合物とを均一に溶解した溶液に光照射し、光硬化性化合物を硬化させることにより得られる液晶樹脂複合体を使用する請求項1〜5のいずれか1項記載のアクティブマトリクス液晶表示素子。
【請求項7】請求項1〜6のいずれか1項記載のアクティブマトリクス液晶表示素子に、投射用光源と投射光学系とを組み合わせたことを特徴とする投射型アクティブマトリクス液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【特許番号】特許第3113325号(P3113325)
【登録日】平成12年9月22日(2000.9.22)
【発行日】平成12年11月27日(2000.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−209896
【出願日】平成3年7月26日(1991.7.26)
【公開番号】特開平5−34727
【公開日】平成5年2月12日(1993.2.12)
【審査請求日】平成10年7月24日(1998.7.24)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【参考文献】
【文献】特開 平3−61922(JP,A)
【文献】特開 平4−55815(JP,A)
【文献】特開 平2−278230(JP,A)
【文献】特開 平1−198725(JP,A)
【文献】特開 平3−58021(JP,A)
【文献】特開 平3−58022(JP,A)
【文献】特開 平3−98022(JP,A)
【文献】特開 平3−126915(JP,A)
【文献】特開 平3−116018(JP,A)