説明

アスファルト合材付着防止剤組成物

【課題】アスファルト合材の付着防止性能が高く、かつ希釈安定性に優れたアスファルト合材付着防止剤組成物の提供。
【解決手段】 融点が0℃以下の油脂(A)、オキシエチレン基の平均付加モル数が1〜10のポリオキシエチレンヒマシ油(B)、および式(1)で示される化合物(C)からなり、(A)、(B)、(C)の各質量比が、(A)70〜92質量%、(B)6〜15質量%、(C)2〜15質量%であるアスファルト合材付着防止剤組成物。
1O−(EO)−R2・・・(1)
(式中R1、R2はそれぞれ独立して炭素数10〜22のアシル基もしくは水素原子、EOはオキシエチレン基、mはオキシエチレン基の平均付加モル数で、4〜15である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト合材の付着防止性能が高く、かつ希釈安定性に優れたアスファルト合材付着防止剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アスファルトと骨材を混ぜたアスファルト合材は、道路の舗装に使用されており、合材工場からトラックの荷台に乗せて道路施工現場まで運ばれる。その際にアスファルト合材は約150〜180℃の高温でトラックの荷台に乗せられているので、運搬している間に冷却され、金属性の荷台とアスファルト合材が付着してしまい、アスファルト合材の一部が施工に使用できないという問題が発生する。また、アスファルト合材の製造工場で使用されるミキサー、ホッパー、ベルトコンベヤにもアスファルト合材が付着する問題がある。
【0003】
そこで軽油そのものをトラックの荷台に撒いたり、合材工場ではミキサー、ホッパー、ベルトコンベヤに噴霧装置を設置して軽油を定期的に吹き付けたりして、アスファルト合材の付着を防止する方法が行われていた。しかしながら、この方法では軽油がアスファルトを溶解させるので、アスファルト含有量が減少し、アスファルト合材の品質が劣化するという問題点があった。さらに、軽油は環境負荷が大きいので環境に優しい薬液が望まれている。
【0004】
これらの問題を解決するために、動植物油脂を水に乳化、分散させて使用するアスファルト合材付着防止剤が報告されている。例えば、動植物油脂とポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル類の組み合わせ(特許文献1)や、テルペン系化合物と非イオン界面活性剤の組み合わせ(特許文献2)、脂肪酸エステルと界面活性剤の組み合わせ(特許文献3)等が報告されており、これらは一般的に水で希釈して使用される。
【0005】
しかしながら、特許文献1では、条件によっては経時変化により油層と水層に分離するなど希釈安定性に問題があった。特に気温が40℃近くになる夏場には1週間程静置すると分層してしまう。実際の作業では使用するたびに希釈すると、作業効率が低下するため、水で希釈した状態で保管することが通常行われているが、分離した場合に再攪拌が必要となる等、作業効率の面で問題があった。さらに分離による不均一化のため、十分な付着防止効果が得られないという問題もあった。また、特許文献2、3では、油性成分に油脂を用いずに希釈安定性を重視しているが、これらは付着防止性能が低く、十分な効果が得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2003/035809号
【特許文献2】特開2006−182859号公報
【特許文献3】特開2004−244548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、その目的は、アスファルト合材の付着防止性能が高く、かつ希釈安定性に優れたアスファルト合材付着防止剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、融点が0℃以下の油脂とHLB(Hydrophile-Lipophile Balance)値が低いポリオキシエチレンヒマシ油、および特定のオキシエチレン誘導体を用いたアスファルト合材付着防止剤組成物が、アスファルト合材の付着防止性能が高く、かつ希釈安定性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、融点が0℃以下の油脂(A)、オキシエチレン基の平均付加モル数が1〜10のポリオキシエチレンヒマシ油(B)、および式(1)で示される化合物(C)からなり、(A)、(B)、(C)の各質量比が、(A)70〜92質量%、(B)6〜15質量%、(C)2〜15質量%であるアスファルト合材付着防止剤組成物である。
【0010】
1O−(EO)−R2・・・(1)
(式中R1、R2はそれぞれ独立して炭素数10〜22のアシル基もしくは水素原子、EOはオキシエチレン基、mはオキシエチレン基の平均付加モル数で、4〜15である。)
【発明の効果】
【0011】
本発明のアスファルト合材付着防止剤は、アスファルト合材の付着防止性能が高く、かつ希釈安定性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明のアスファルト合材付着防止剤は、(A)成分、(B)成分、および(C)成分を含有する。なお、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の各質量比の合計は100質量%である。まず、(A)成分について説明する。
【0013】
〔(A)成分〕
本発明で用いられる(A)成分は、日本薬局方に記載されている融点測定法(第2法)により測定した融点が0℃以下の油脂であり、例えばアマニ油、サフラワー油、ヒマワリ油、大豆油、トウモロコシ油、ゴマ油、ナタネ油、ラッカセイ油、オリーブ油、ヒマシ油等が挙げられる。好ましくは、汎用性が高いナタネ油、大豆油、トウモロコシ油である。これらは融点が0℃以下であり、常温で液状であるので、同じく常温で液状のアスファルトと相溶しやすく、付着防止性能が高い。(A)成分の油脂は1種または2種以上を用いることができる。
【0014】
(A)成分の含有量は、アスファルト合材付着防止剤組成物の全質量中、70〜92質量%の範囲であり、好ましくは76〜87質量%の範囲である。70質量%より少ないと付着防止性能が低くなり、92質量%を超えると希釈安定性が悪くなる。
【0015】
〔(B)成分〕
本発明で用いられる(B)成分はポリオキシエチレンヒマシ油であり、オキシエチレン基の平均付加モル数は1〜1 0であり、好ましくは2〜6である。(B)成分のポリオキシエチレンヒマシ油は1種またはオキシエチレン基の平均付加モル数が異なる2種以上を用いることができる。
【0016】
(B)成分の含有量は、アスファルト合材付着防止剤組成物の全質量中、6〜15質量%の範囲であり、好ましくは8〜14質量%の範囲である。6質量%より少ないか15質量%より多いと希釈安定性が悪くなる。
【0017】
〔(C)成分〕
本発明で用いられる(C)は下記式(1)で示される化合物である。
1O−(EO)−R2・・・(1)
【0018】
式中、R1、R2はそれぞれ独立して炭素数10〜22のアシル基もしくは水素原子である。炭素数10〜22のアシル基は、例えばラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オレオイル基である。炭素数10〜22のアシル基は、脂肪酸の残基でもあり、具体的に脂肪酸名で表記すると、例えばカプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸、オレイン酸などが挙げられる。また、混合脂肪酸由来のアシル基を用いることができ、混合脂肪酸としては、ヤシ油脂肪酸、牛脂脂肪酸、パーム核油脂肪酸などが挙げられる。好ましいアシル基は炭素数16〜18のアシル基であり、更に好ましくはオレイン酸やイソステアリン酸といった炭素数16〜18の不飽和や分岐鎖を有する脂肪酸のアシル基である。また、R1、R2の一方がアシル基であり、もう一方が水素原子の組み合わせが好ましい。
【0019】
式中、EOはオキシエチレン基、mはオキシエチレン基の平均付加モル数を示す。mは4〜15であり、好ましくは10〜14である。(C)成分の化合物は1種または2種以上を用いることができる。
【0020】
(C)成分の含有量は、アスファルト合材付着防止剤組成物の全質量中、2〜15質量%の範囲であり、好ましくは5〜10質量%の範囲である。2質量%より少ないか15質量%より多いと希釈安定性が悪くなる。
【0021】
上記(B)成分と(C)成分の合計含有量に対する(B)成分の含有量の割合は、好ましくは50〜75質量%であり、更に好ましくは65〜75質量%である。
【0022】
〔アスファルト合材付着防止剤組成物〕
本発明のアスファルト合材付着防止剤組成物は、水で乳化(希釈)して、アスファルト合材付着防止剤として使用される。その希釈液は外観が通常は白濁しており、散布した跡が目視で確認しやすく、効率よく散布できる。本発明のアスファルト合材付着防止剤組成物を水で希釈して得られたアスファルト合材付着防止剤における水の含有量は、アスファルト合材付着防止剤の全質量中、67〜99質量%、好ましくは80〜95質量%である。
【0023】
本発明のアスファルト合材付着防止剤組成物は、ホッパー、スキップエレベータ等の合材工場設備や機材、運搬に使用されるダンプトラックの荷台、舗装機器であるフィニッシャー、マカダムローラー、タイヤローラー等に使用される。本発明のアスファルト合材付着防止剤は、刷毛等により塗布して使用しても良く、あるいはスプレイ等により噴霧して使用しても良い。なお、本発明におけるアスファルト合材は、アスファルトを結合材として、骨材(砂利や砂、一部融解スラグ等)やフィラーを混合した混合材料であり、道路等の舗装に使用される。
【0024】
本発明のアスファルト合材付着防止剤組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、色素、防錆剤、防腐剤などのその他の添加剤を組み合わせて用いてもよい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【0026】
〔実施例1〜3〕
表1に示す割合でアスファルト付着防止剤組成物を調製し、以下の試験に供した。なお、表中の%は質量%を表す。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
<アスファルト付着防止剤試験>
(1)付着防止性テスト
各付着防止剤組成物を表1に示すとおり水で10倍に希釈し、1時間静置させた液を、20cm×25cmのSS400鋼材に1gスプレーした後、150℃に加熱したストレートアスファルト合材(密粒度アスファルト合材、ストレートアスファルト:6%、ストレートアスファルト針入度:60〜80:JISK2207)を1kg乗せた。さらにその上に20cm×25cmのSS400鋼材を3kg加重した状態で乗せて1分間常温で放置した後、上のSS400鋼材を剥がし、鋼材を45度の角度に傾斜させ、ストレートアスファルト合材を落とした。付着防止性の評価は、SS400鋼材に付着したアスファルト合材量の質量で判定した。付着量が50g未満の組成物を合格とした。
【0029】
(2)希釈安定性テスト
各付着防止剤組成物を表1に示すとおり水で10倍に希釈し、40℃で1週間保存し、外観を確認した。希釈安定性の評価は、下記の基準に従い行なった。評価結果が「◎」および「○」の評価の組成物を合格とした。
〔評価基準〕
◎:変化なし。
○:わずかに分離している。
△:一部分離している。
×:分離している。
【0030】
表1に示す結果より、本発明に係る実施例1〜3のアスファルト合材付着防止剤組成物は、HLB値の低い(B)成分を用いているので、付着防止性能が高く、さらに(B)成分とともに(C)成分を組み合わせることで希釈安定性が付与されている。
【0031】
〔比較例1〜5〕
表2に示す割合で、アスファルト付着防止剤組成物を調製し、上記の試験に供した。なお、表中の%は質量%を表す。結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
表2に示す比較例1〜5では十分な効果が得られていない。以下、比較例1〜5について具体的に説明する。
比較例1:特許文献1の実施例に相当し、(B)成分が含まれていないため、希釈安定性が悪い。
比較例2:(C)成分のオキシエチレン付加モル数が15を超えているので、付着安定性が悪く、希釈安定性も悪い。
比較例3:(B)成分のオキシエチレン付加モル数が10を超えているので、付着防止性が悪く、希釈安定性も悪い。
比較例4:特許文献3の実施例に相当し、(A)成分の油脂に代えてオレイン酸メチルエステルを用いており、また配合量が70質量%以下なので、付着防止性が悪い。
比較例5:特許文献2の実施例に相当し、(A)成分の油脂に代えてd−リモネンを用いているので、付着防止性が悪い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が0℃以下の油脂(A)、オキシエチレン基の平均付加モル数が1〜10のポリオキシエチレンヒマシ油(B)、および式(1)で示される化合物(C)からなり、(A)、(B)、(C)の各質量比が、(A)70〜92質量%、(B)6〜15質量%、(C)2〜15質量%であるアスファルト合材付着防止剤組成物。
1O−(EO)−R2・・・(1)
(式中R1、R2はそれぞれ独立して炭素数10〜22のアシル基もしくは水素原子、EOはオキシエチレン基、mはオキシエチレン基の平均付加モル数で、4〜15である。)

【公開番号】特開2013−91691(P2013−91691A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233417(P2011−233417)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)