説明

アダマンタノール化合物の製造方法

【課題】アダマンタンカルボン酸化合物を原料として、工業的に有用な水酸基の導入技術を提供する。
【解決手段】水/有機溶媒2相系において、1−アダマンタンカルボン酸化合物に対し、ルテニウム化合物、次亜塩素酸塩及び無機酸を反応させて水酸基を導入する、下式で示されるアダマンタノール化合物の製造方法。


[式中、Rは水素原子、アルキル基、ハロゲン含有アルキル基、アルカリ金属原子を示し、Xは水素原子、アルキル基、ハロゲン含有アルキル基、ヒドロキシル基、ハロゲン基、又は、ヒドロキシル基、ハロゲン基若しくはエーテル基を有するヒドロカルビル基を表し、nは10〜12、nは0〜2の整数を表し、n+n=12とする。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、KrF及びArF(ドライ露光及び液浸露光を含む)、Fエキシマレーザー用レジスト原料や、X線、電子線、極端紫外光(EUV)用化学増幅型レジスト、また光学特性や耐熱性などに優れた、架橋型樹脂、光ファイバーや光導波路、光ディスク基板などの光学材料及びその原料、医薬・農薬中間体、その他各種工業製品の原料として使用することができるアダマンタノール化合物の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
アダマンタンは3次元対称構造を有し、安定な化合物である。アダマンタンに各種の官能基を導入することにより、各種機能性を高めた誘導品が得られる。それらは単独あるいは、アクリル酸誘導体やカーボネートなどに誘導してそれらを含む共重合体などを得ることができる。このようにして得られた共重合体は、光学材料や半導体材料、医薬中間体など一般的に機能性に優れることが知られている。
【0003】
その中でも、半導体レジスト原料として有用な誘導体は、原料となるアダマンタン誘導体に水酸基やカルボキシル基等を導入して、その後に水酸基やカルボキシル基を用いて更なる誘導体化することで製造される。
特に近年は、アダマンタン骨格に水酸基とカルボキシル基又はカルボシキレート基の両方を有したアダマンタン誘導体の効率的な製法の開発が求められている。
【0004】
アダマンタン骨格にカルボキシル基を導入する方法としては、一般的にKoch反応が有用である(非特許文献1)。
しかしながらこの方法では、水酸基やハロゲン基を有したアダマンタン誘導体を原料とした場合、水酸基やハロゲン基自体がカルボキシル基に変換されてしまうという問題がある。
【0005】
次に、カルボキシル基又はカルボキシレート基を有するアダマンタン骨格に水酸基を導入する方法として、例えばクロム酸を用いてアダマンタン骨格の3級炭素を水酸基に酸化する方法がある(特許文献1)。しかし、この方法は収率が低く、かつ有害な廃水が多量に副生する問題がある。
また、カルボキシル基又はカルボキシレート基を有するアダマンタンの臭素化物を加水分解する方法が記載されている(特許文献2)。この方法は一般的な工業的製法として利用されているが、アダマンタンを一度臭素化した後に加水分解することにより合成するため、製造工程が煩雑になるなどの欠点がある。
【0006】
また、特許文献3〜5には、イミド化合物を触媒として、イミド化合物単独又は遷移金属などの助触媒の存在下、温和な条件でカルボキシル基又はカルボキシレート基を有するアダマンタン化合物を酸素酸化する方法が記載されている。
しかし、イミド化合物を用いる酸素酸化反応は、導入する水酸基の数の制御が難しく、その結果、工業的に適した分離が困難となり生成物の取り出し収率が悪くなるという問題がある。また、気液反応であるため、製造に際し特別な工夫が必要となるなどの課題がある。
【0007】
さらに特許文献6、7には、カルボキシル基又はカルボキシレート基を有するアダマンタン化合物をルテニウム化合物及び次亜塩素酸塩化合物を反応させることによるアダマンタン化合物への水酸基導入法が記載されている。
しかしながら該合成法は、反応溶液のpHをコントロールしながら反応するため、酸性基であるカルボキシル基を有する原料に適用することは反応の制御の観点から問題がある。
【0008】
これらの事情から、カルボキシル基又はカルボキシレート基を有するアダマンタン化合物を原料とし、容易にかつ安定に高収で水酸基を導入することのできる方法の開発が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭42−16621号公報
【特許文献2】特開平2−196744号公報
【特許文献3】特開平8−38909号公報
【特許文献4】特開平11−106360号公報
【特許文献5】米国特許第6392104号明細書
【特許文献6】特開2001−335519号公報
【特許文献7】特開2002−167342号公報
【0010】
【非特許文献1】「Organic Syntheses(Vol. 44)1−ADAMANTANECARBOXYLIC ACID」1964年,p1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、カルボキシル基又はカルボキシレート基を有するアダマンタン化合物を原料として、工業的に有用な水酸基の導入技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題について鋭意研究を重ねた結果、水/有機溶媒2相系において、式(1)で示される1−アダマンタンカルボン酸化合物に対し、ルテニウム化合物、次亜塩素酸塩化合物及び無機酸を反応させる工程を導入することにより、式(2)で示されるアダマンタノール化合物を効率的に製造できることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
【化1】

(1)
(式中、Rは水素原子、アルキル基、ハロゲン含有アルキル基、アルカリ金属を示し、Xは水素原子、アルキル基、ハロゲン含有アルキル基、ヒドロキシル基、ハロゲン基、又は、ヒドロキシル基、ハロゲン基若しくはエーテル基を有するヒドロカルビル基を示し、nは13の整数を示す。)
【0014】
【化2】

(2)
(式中、Rは水素原子、アルキル基、ハロゲン含有アルキル基、アルカリ金属を示し、Xは水素原子、アルキル基、ハロゲン含有アルキル基、ヒドロキシル基、ハロゲン基、又は、ヒドロキシル基、ハロゲン基若しくはエーテル基を有するヒドロカルビル基を示す。nは10〜12、nは0〜2の整数を示す、ただし、n+n=12となる。)
【発明の効果】
【0015】
本発明により得られるアダマンタノール化合物は、架橋型樹脂、光ファイバーや光導波路、光ディスク基板、フォトレジストなどの光学材料及びその原料、医薬・農薬中間体、その他各種工業製品などとして有用である。
また、本発明の機能性樹脂組成物は、KrF及びArF、Fエキシマレーザー用レジスト原料や、X線、電子ビーム、EUV(極端紫外光)用化学増幅型レジストの原料として使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明では水/有機溶媒2相系において、式(1)で示される1−アダマンタンカルボン酸化合物に対し、ルテニウム化合物、次亜塩素酸塩化合物及び無機酸を反応させる工程により式(2)で示されるアダマンタノール化合物を製造する方法を提供する。
【0017】
原料として用いられる式(1)で示される1−アダマンタンカルボン酸化合物のRとしては、水素原子、アルキル基、ハロゲン含有アルキル基(以下、ハロアルキル基と称する)、アルカリ金属であるものが用いられる。アルキル基としては炭素数1〜10のものが用いられ、例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、アミル基がある。ハロアルキル基としては、例えばトリフルオロメチル基などが挙げられる。アルカリ金属としては、例えばナトリウムなどが挙げられる。その中でも反応溶液中の安定性の観点からメチル基、t−ブチル基、ナトリウムであることが好ましい。
Xとしては、水素原子、アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、ハロゲン基、ヒドロキシル基、ハロゲン基又はエーテル基を有するヒドロカルビル基であるものが用いられる。アルキル基としては炭素数1〜10のものが用いられ、例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、アミル基がある。ハロアルキル基としては、例えばトリフルオロメチル基などが挙げられる。ハロゲン基としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。ヒドロカルビル基としては、例えば2−ヒドロキシイソプロピル基や1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−ヒドロキシイソプロピル基などが挙げられる。
複数のXが存在する場合、これらは同一でも異なっていてもよい。
その中でも、反応溶液中の安定性の観点から水素原子、ヒドロキシル基、メチル基であることが好ましい。
これらの中でも、Rが水素原子かつXがすべて水素原子である1−アダマンタンカルボン酸及びRがt−ブチル基かつXがすべて水素原子である1−アダマンタンカルボン酸t−ブチルが特に入手容易性の観点から好ましい。
【0018】
本発明で用いられるルテニウム化合物は酸化触媒として用いられ、例えばルテニウム金属、二酸化ルテニウム、四酸化ルテニウム、水酸化ルテニウム、塩化ルテニウム、臭化ルテニウム、ヨウ化ルテニウム、硫酸ルテニウム又はそれらの水和物等が用いられる。
これらは単独又は混合物で用いることができる。
ルテニウム化合物の中でも特に塩化ルテニウム、二酸化ルテニウム又はそれらの水和物が次亜塩素酸塩と容易に反応して高活性な触媒機能を有する高酸化状態のルテニウムを生成する観点から好ましい。
ルテニウム化合物は、原料のアダマンタン1モルに対して0.01〜2.0モル、より好ましくは0.05〜0.4モルの割合で使用する。この範囲で使用すると、高価なルテニウム化合物を多量に使用することなく適度な反応速度が得られ、工業的見地から好ましい。
【0019】
本発明で用いられる次亜塩素酸塩化合物としては、例えば次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウムがあるが、反応速度のコントロールの容易さの観点から次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合は、6〜35質量%の水溶液として使用することが好ましい。次亜塩素酸ナトリウム溶液の濃度が6%より高いと、水相の量を低減でき廃液処理の負担も低減できる。一方、次亜塩素酸又はその塩溶液の濃度が35%以下だと、副反応の抑制に効果的で収率が向上する。
【0020】
本発明では、次亜塩素酸塩化合物の添加量を変化させることによって、生成物である式(2)で示されるアダマンタノール化合物が有する水酸基の数を制御することができる。すなわち、式(2)で示されるアダマンタノール化合物として、水酸基の数が一つであるモノオール体を製造する場合には、式(1)で示される1−アダマンタンカルボン酸化合物1モルに対し、0.5〜3.0モル、好ましくは1.0〜2.0モルの範囲の次亜塩素酸塩化合物が用いられる。また、水酸基の数が二つであるジオール体を製造する場合には、1−アダマンタンカルボン酸化合物1モルに対し、1.5〜10.0モル、好ましくは2.0〜4.0モルの範囲の次亜塩素酸塩化合物が用いられる。これらの範囲にすることによって求めるアダマンタノール化合物を高収率で得ることができる。
【0021】
本発明で用いられる水としては、次亜塩素酸塩化合物の水溶液を添加する前には、有機溶媒に対して0.001〜5重量倍、好ましくは0.01〜0.5重量倍使用することが望ましい。この範囲で使用すると、次亜塩素酸塩化合物を添加した際に、添加初期のpHコントロールが容易になり、またルテニウム化合物を容易に高酸化状態にすることができるからである。
【0022】
本発明で用いられる有機溶媒としては、例えば四酸化ルテニウムなどの高酸化状態のルテニウムの溶解性が高く、本発明の反応に対し不活性な溶媒を選択する。そのような有機溶媒の例としては、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1,2−トリクロロエタン、1,4−ジクロロブタン、1,6−ジクロロヘキサンなどのハロゲン化アルキル化合物、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピルなどの酢酸エステル化合物、ヘキサクロロベンゼン、1,1,1−三フッ化トルエンなどのハロゲン化アリール化合物、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素化合物、アセトニトリルなどのニトリル化合物が挙げられる。
この中で1,2−ジクロロエタン、酢酸エチル、アセトニトリルが高酸化状態のルテニウムに対する安定性の観点から好ましい。
これらの溶媒は、単独又は2種以上を混合して使用することができる。
有機溶媒は、原料として用いるアダマンタン1質量部に対して、0.1〜20質量部、好ましくは1〜10質量部の割合で使用する。この範囲内で反応させると、原料や生成物の溶解度や製造効率が良好だからである。
【0023】
本発明の方法においては、反応溶液のpHは特に制限されないが、反応溶液を反応中常に酸性に維持することで、式(2)で示されるアダマンタノール化合物を高効率かつ高収率で得ることができる。
その理由としては、原料の式(1)で示されるアダマンタンカルボン酸化合物が酸性基であるカルボキシル基を有している場合には、原料が水相側に移動し、反応速度の低下及び副反応の進行を招くためであり、式(1)で示されるアダマンタンカルボン酸化合物がアルカリ分解により酸性基を生成するカルボキシレート基を有する場合には、反応溶液がアルカリ性になると、副反応によりアルカリ分解が進行するためである。反応液のpHとしては、副反応を抑制し、効率的にアダマンタノール化合物を得られることから3〜5の範囲であることが特に好ましい。
【0024】
反応溶液のpHについては、pHコントローラにより直接的に測定するか、直接測定できない場合は、pHが反映される計測値を用いて間接的に調整してもよい。間接的な方法として、酸化還元電位、吸光度等を測定しそれぞれの値を範囲内に調節する。
【0025】
具体的には、(1)pHコントローラに次亜塩素酸塩注入用定量ポンプ及び酸注入用定量ポンプを接続、一定pHを維持するように次亜塩素酸塩溶液及び酸溶液を注入する、(2)ORPコントローラに次亜塩素酸塩注入用定量ポンプを接続、一定電位を維持するよう次亜塩素酸塩溶液を注入する、(3)予め測定した反応速度に基づき時間あたりの消費量を計算し定量ポンプで見合う分を添加する等の方法がある。
【0026】
反応液を酸性に保つため通常無機酸を添加する。無機酸としては、特に限定されず、例えば塩酸、硫酸、硝酸、リン酸が挙げられ、特に副反応による副生成物の生成が少ないことから塩酸又は硫酸が好ましい。
用いる酸の濃度としては、pH制御のし易さから0.1〜50質量%が好ましいが0.5〜10質量%が特にpH制御がしやすいため好ましい。
【0027】
本発明の式(1)で示される1−アダマンタンカルボン酸化合物とルテニウム化合物、次亜塩素酸塩化合物及び無機酸との反応温度は10〜100℃、好ましくは40〜70℃の範囲である。反応温度がこの範囲内であると、適度な反応速度で合成することができ、また次亜塩素酸塩の分解や副反応による目的のアダマンタノール化合物の収率低減を抑制できる。
反応時間は、原料に付加している置換基にも依存するが、30〜1000分が好ましい。
使用する反応器は、特に制限はなく攪拌しながら反応を行うことができれば特に制限はなく、公知の攪拌機付き反応器で行うことができる。
【0028】
次に、前記反応により得られた式(2)で示されるアダマンタノール化合物の精製について述べる。
反応後のルテニウム化合物、次亜塩素酸塩化合物及び無機酸と式(2)で示されるアダマンタノール化合物との混合水溶液にアルカリを添加すると、ルテニウム化合物は酸化物として析出するので、濾過等により容易に目的物とルテニウム酸化物を分離できる。
次に、水相に改めて酸を添加して酸性にすることにより、目的のアダマンタノール化合物を水相側に抽出することができる。この際に用いられる酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸など無機酸が挙げられる。その後、目的のアダマンタノール化合物を含む水相を濃縮して晶析を行い、濾過によって高純度のアダマンタノール化合物を得ることができる。
また、ルテニウム酸化物と分離した後、目的とするアダマンタノール化合物を含む水溶液に水と相溶性の低い有機溶媒を添加して目的のアダマンタノール化合物を該有機溶媒に抽出することができる。この抽出に用いられる有機溶媒としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル化合物、テトラヒドロフランなどのエーテル化合物、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールなどのアルコール化合物が挙げられる。これら目的のアダマンタノール化合物を含む有機溶媒に抽出した後、濃縮して晶析を行い、濾過によって高純度のアダマンタノール化合物を得ることができる。
その他、ルテニウム酸化物と分離した後に蒸留、カラムクロマトグラフィー等の公知の方法を用いることによっても目的とするアダマンタノール化合物を得ることができる。
また、分離により回収されたルテニウム化合物固体は反応に再利用することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0030】
実施例1
攪拌機、温度計、ジムロート冷却器、pH電極をつけた3L5ッ口フラスコに、1−アダマンタンカルボン酸90g、塩化ルテニウム3.3g、酢酸エチル500mL、イオン交換水100gを仕込んだ。溶液温度を50℃にして、pH3.5〜4.5になるように12質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液340g及び5質量%塩酸水溶液24gを3.1時間かけて滴下した。滴下終了後、25質量%水酸化ナトリウム水溶液30gを加え、析出したルテニウム酸化物を5Cろ紙で吸引濾過して分離した。さらに反応溶液に5質量%塩酸水溶液300gを加えた。有機相と水相とを分離し、有機相をイオン交換水300gで洗浄し、洗浄液を水相と合一してガスクロマトグラフィーで分析したところ、3−ヒドロキシ−1−アダマンタンカルボン酸47%が生成していることが確認できた(原料転化率65%)。該水相を濃縮して析出した結晶を5Cろ紙で吸引ろ過したところ、3−ヒドロキシ−1−アダマンタンカルボン酸39gを得た(取り出し収率40%、GC純度98%)。なお、ガスクロマトグラフィー分析には島津製作社製GC−14A装置を使用した。カラムはジーエルサイエンス社製キャピラリーカラムTC−17を用いた。キャリアガス流量を40mL/分(ヘリウム)、オーブン温度は70℃で1分保持後、10℃/分で280℃まで昇温し、4分保持して分析した。
【0031】
実施例2
溶媒として1,2−ジクロロエタン及びイオン交換水100gを用いて、12質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を7.3時間かけて滴下した以外は、実施例1と同様にして実験を行った。合一した水相をガスクロマトグラフィーで分析したところ、3−ヒドロキシ−1−アダマンタンカルボン酸42%が生成していることが確認できた(原料転化率67%)。水相を濃縮して析出した結晶を5Cろ紙で吸引ろ過したところ、3−ヒドロキシ−1−アダマンタンカルボン酸34gを得た(取り出し収率35%、純度98%)。
【0032】
実施例3
溶媒として、アセトニトリル500mL及びイオン交換水100gを用い、12質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を2.6時間かけて滴下した以外は実施例1と同様にして実験を行った。反応溶液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、3−ヒドロキシ−1−アダマンタンカルボン酸48%が得られた(原料転化率94%)。反応溶液を濃縮して析出した結晶をろ過したところ、3−ヒドロキシ−1−アダマンタンカルボン酸41gを得た(取り出し収率42%、純度98%)。
【0033】
実施例4
12質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を2320gに、5質量%塩酸水溶液を123gにして12時間かけて滴下した以外は実施例1と同様に行った。反応溶液をガスクロマトグラフィー分析したところ、3−ヒドロキシ−1−アダマンタンカルボン酸13%、3,5−ジヒドロキシ−1−アダマンタンカルボン酸1%生成していることが確認できた。
【0034】
比較例1
塩酸を添加しないこと以外実施例2と同様に行ったところ、反応溶液のpHは3.5から9まで増加し、GC分析では3−ヒドロキシ−1−アダマンタンカルボン酸はトレース量しか検出されなかった。
【0035】
実施例5
攪拌機、温度計、ジムロート冷却器、pH電極をつけた1L5ッ口フラスコに、1−アダマンタンカルボン酸t−ブチル37.0g、塩化ルテニウム0.98g、1,2−ジクロロエタン250mL、イオン交換水を50g仕込んだ。溶液温度を50℃にして、pH3.5〜4.5になるように12質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液175g及び5質量%塩酸水溶液60gを16.5時間かけて滴下した。滴下終了後、25質量%水酸化ナトリウム水溶液25g加えた。有機相を5Cろ紙で吸引ろ過した後、有機相と水相とを分離した。有機相をガスクロマトグラフィー分析したところ、3−ヒドロキシ−1−アダマンタンカルボン酸t−ブチル45%、3,5−ジヒドロキシ−1−アダマンタンカルボン酸t−ブチル5%が生成していることが確認できた(原料転化率96%)。有機相を濃縮して、ヘキサンを添加し、晶析により3−ヒドロキシ−1−アダマンタンカルボン酸t−ブチル14gを得た(取り出し収率36%、純度95%)。
【0036】
実施例6
溶媒に酢酸エチル250mLを用いて、12質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液330g及び5質量%塩酸水溶液90gを7時間かけて滴下した以外、実施例5と同様の操作を行った。有機相をガスクロマトグラフィー分析したところ、3−ヒドロキシ−1−アダマンタンカルボン酸t−ブチル15%が生成していることが確認できた(原料転化率89%)。
【0037】
実施例7
12質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液379g及び5質量%塩酸水溶液26gを9時間かけて滴下した以外は実施例5と同様に行ったところ、ガスクロマトグラフィー分析では3−ヒドロキシ−1−アダマンタンカルボン酸t−ブチルは6.1%、3,5−ジヒドロキシ−1−アダマンタンカルボン酸t−ブチル3.4%生成していることが確認できた(原料転化率91%)。
【0038】
比較例2
塩酸を添加しないこと以外は実施例5と同様に行ったところ、反応溶液のpHは3.5から9まで増加し、ガスクロマトグラフィー分析では3−ヒドロキシ−1−アダマンタンカルボン酸t−ブチルはトレース量しか検出されなかった。
【0039】
比較例3
攪拌機、温度計、ジムロート冷却器、pH電極をつけた500mL5ッ口フラスコに、1−シクロヘキサンカルボン酸6.4g、塩化ルテニウム0.33g、1,2−ジクロロエタン50mL、イオン交換水10g仕込んだ。溶液温度を50℃にして、pH3.5〜4.5になるように12質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液37g及び5質量%塩酸水溶液2gを6時間かけて滴下した。滴下終了後、25質量%水酸化ナトリウム水溶液3g加え、さらに反応溶液に5質量%塩酸水溶液30g加えた。有機相と水相とを分離し、有機相を5Aろ紙で吸引ろ過した。有機相をイオン交換水30gで洗浄し、洗浄液を水相と合一してガスクロマトグラフィー分析したところ、生成物としてシクロヘキサノン−1−カルボン酸は検出されたものの、ヒドロキシ−1−シクロヘキサンカルボン酸は検出されず、水酸基の導入はできなかった。
【0040】
本発明によると、1−アダマンタンカルボン酸化合物に水酸基を導入して、対応するアダマンタノール化合物を高収率で得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水/有機溶媒2相系において、式(1)で示される1−アダマンタンカルボン酸化合物に対し、ルテニウム化合物、次亜塩素酸塩化合物及び無機酸を反応させる工程を含む、式(2)で示されるアダマンタノール化合物の製造方法。
【化1】

(1)
(式中、Rは水素原子、アルキル基、ハロゲン含有アルキル基、アルカリ金属を示し、Xは水素原子、アルキル基、ハロゲン含有アルキル基、ヒドロキシル基、ハロゲン基、又は、ヒドロキシル基、ハロゲン基若しくはエーテル基を有するヒドロカルビル基を示し、nは13の整数を示す。)
【化2】

(2)
(式中、Rは水素原子、アルキル基、ハロゲン含有アルキル基、アルカリ金属を示し、Xは水素原子、アルキル基、ハロゲン含有アルキル基、ヒドロキシル基、ハロゲン基、又は、ヒドロキシル基、ハロゲン基若しくはエーテル基を有するヒドロカルビル基を示す。nは10〜12、nは0〜2の整数を示す、ただし、n+n=12となる。)
【請求項2】
前記無機酸が塩酸又は硫酸である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
式(1)で示される1−アダマンタンカルボン酸化合物が、1−アダマンタンカルボン酸、1−アダマンタンカルボン酸メチル、1−アダマンタンカルボン酸エチル、1−アダマンタンカルボン酸プロピル、1−アダマンタンカルボン酸t−ブチル、1−アダマンタンカルボン酸n−ブチルから選択される群のうち、いずれか一種以上である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記水/有機溶媒2相系において、式(1)で示される1−アダマンタンカルボン酸化合物に対し、ルテニウム化合物、次亜塩素酸塩化合物及び無機酸を反応させる工程において、反応液が反応中常に酸性を維持される、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記反応液のpHが、反応中常に3〜5の範囲である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記水/有機溶媒2相系における有機溶媒が、ハロゲン化アルキル化合物、酢酸エステル化合物、ハロゲン化アリール化合物、脂肪族炭化水素化合物、ニトリル化合物から選択される群のうち、いずれか一種以上である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記水/有機溶媒2相系における有機溶媒が、1,2−ジクロロエタン、酢酸エチル、アセトニトリルである請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記水/有機溶媒2相系において、式(1)で示される1−アダマンタンカルボン酸化合物に対し、ルテニウム化合物、次亜塩素酸塩化合物及び無機酸を反応させる工程の後、反応液にアルカリを加えて二酸化ルテニウムをろ過して除き、その後ろ液に無機酸を添加し、水相を分離した後、該ろ液を濃縮し、晶析することによる、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記水/有機溶媒2相系において、式(1)で示される1−アダマンタンカルボン酸化合物に対し、ルテニウム化合物、次亜塩素酸塩化合物及び無機酸を反応させる工程の後、反応液にアルカリを加えて二酸化ルテニウムをろ過して除き、その後ろ液に無機酸を添加し、有機溶媒を添加して式(2)で示されるアダマンタノール化合物を該有機溶媒に抽出し、その後該有機溶媒を濃縮し、晶析することによる、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2013−112676(P2013−112676A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263364(P2011−263364)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】