説明

アップライトピアノ

【課題】
ピアノの外観を損ねず、また、ピアノ本体内へのホコリの侵入を防止可能な音抜け構造を有するアップライトピアノを提供する。
【解決手段】
ピアノ1では、響板から発っせられる演奏音は、背面側と正面側(演奏者側)に向かい、このうち正面側に向かった音は、上前板12、下前板13、両側面板14、響板、屋根18等で囲まれた空間にこもることとなる。しかし、このピアノ1では、上前板12の背面側に設置されたスライド板3をスライドさせて第1貫通孔12aを開けておくと、響板からピアノ1の正面に向かった音が第1貫通孔12aを通してピアノ1の正面側に出るので、演奏音がピアノ本体10内にこもることを防止することができる。また、このピアノ1は、第1貫通孔12aが閉じられる位置にスライド板3をスライドさせておけば、ホコリ等のゴミがピアノ本体10内に侵入することを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アップライトピアノに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アップライトピアノにおいては、響板から発っせられる音がケース内にこもることを防止するために、上前板に音抜用の孔を設けたものが知られている。
また、図9に示すように、上前板100に設けた孔101を面棒部品110で覆い、上前板100に設けた孔101と、面棒部品110と上前板100との間に形成された隙間111とを介して、音抜けを行うものも知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−187886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上前板に単に音抜用の孔を開けただけだと、音抜けは確実に行えるが、音抜用の孔からピアノ本体内にホコリが侵入してしまうという問題があった。
また、空中に浮かぶチリ等のゴミは直線的に移動するので、面棒部品110を上前板100上に設置して音抜け用の経路を曲げれば、ゴミの侵入をある程度防止できるものの、そのためには面棒部品110を上前板100に付けなくてはいけないといった外観上の制約を受けるという問題もあった。
【0005】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたもので、ピアノの外観上の制約を受けることなく音抜けを行うことができ、しかも、ピアノ本体内へのホコリの侵入を防止できるアップライトピアノを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる問題を解決するためになされた請求項1に記載のアップライトピアノは、第1貫通孔が設けられた上前板と、この上前板の正面側の板面よりも背面側に設けられ、前記第1貫通孔を開閉する開閉手段と、前記開閉手段を開閉操作する操作手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
このようにすると、ピアノ演奏時には、第1貫通孔を開けることでこもりを防止でき、、また、非演奏時には、第1貫通孔を閉じることで、ピアノ本体内にゴミが侵入することを防止することができる。
【0008】
しかも、このアップライトピアノでは、第1貫通孔を開閉する開閉手段を設けても、この開閉手段が上前板の正面側の面上に凹凸を発生させない位置に設けられているので、ピアノの外観を損ねることもない。
【0009】
従って、このアップライトピアノを用いると、ピアノの外観上の制約を受けることなく音抜けを行うことができ、しかも、ピアノ本体内へのホコリの侵入を防止できる。
尚、正面側とは、アップライトピアノから見て演奏者を向く方向側であり、背面側とは
この反対方向側である。
【0010】
また、操作手段は、開閉手段に取り付けられたつまみでもよいし、ペダルまたはレバーと、このペダルまたはレバーの動作を、開閉手段を開閉するための動作として開閉手段に伝達する機構とで構成してもよい。その他、操作手段は、開閉手段を開閉操作可能な手段であれば、どのような手段であってもよい。
【0011】
また、開閉手段の設置位置は、上前板の正面側の板面よりも背面側であれば、上前板の板中でもよいし、上前板の背面側でもよい。開閉手段を上前板の背面側に設置した場合、請求項2に記載したように、板状に形成した前記開閉手段を、上前板に平行に配置するとともに、上前板の背面側の板面上をスライド可能に配置するとよい。このようにすると、アップライトピアノの内部の限られた空間内でも開閉手段を設置できる。
【0012】
次に、請求項3に記載したように、開閉手段は、第2貫通孔が設けられた板状の部材であり、第1貫通孔を開くときは、第2貫通孔が第1貫通孔に重なる位置に移動し、第1貫通孔を閉じるときは、第2貫通孔が第1貫通孔に重ならない位置に移動するよう構成してもよい。
【0013】
このようにすると、少なくとも上前板の厚み分の深さを有する第1貫通孔に、さらに第2貫通孔が重なることとなって、第1貫通孔と第2貫通孔とを合わせた貫通孔の深さが単に第1貫通孔が設けられた場合に比べて深くなる。一方、ゴミとしてピアノ本体内に侵入するものは、空中に舞うチリが中心であり、このチリが舞う軌道は、第1貫通孔と第2貫通孔とが重なって形成する貫通孔の深さ方向と一致することは少ない。そのため、貫通孔の深さが深いほどチリがピアノ本体内に侵入することが少なくなるので、本発明のように構成すると、第1貫通孔が開いたとき、第1貫通孔のみが音抜け用の貫通孔として設けられていた場合に比べて、チリがピアノ本体内に侵入することをより確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態のアップライトピアノの(a)正面図、及び、(b)側面図である。
【図2】第1実施形態のアップライトピアノの背面図である。
【図3】第1実施形態のアップライトピアノの側面図で、屋根前を屋根後に折り畳んだ様子を示す図である。
【図4】第1実施形態のアップライトピアノを一部透過して示した正面図で、(a)は、スライド板3で第1貫通孔12aを閉じた様子を示す図で、(b)は、スライド板3で第1貫通孔12aを開いた様子を示す図である。
【図5】スライド板周辺の構成を説明するための説明図で、(a)は、第1実施形態のアップライトピアノを構成する上前板のうち、長手方向中央より左側の部分を拡大して示した正面図で、(b)は、同部分の平面図で((a)を矢印Bの方向に見た平面図)、(c)は、(a)のA−A’断面図である。
【図6】第2実施形態のアップライトピアノの正面図である。
【図7】第2実施形態のアップライトピアノを一部透過して示した正面図で、(a)は、スライド板3で第1貫通孔12aを閉じた様子を示す図で、(b)は、スライド板3で第1貫通孔12aを開いた様子を示す図である。
【図8】他の実施形態であるアップライトピアノの正面図である。
【図9】従来のアップライトピアノの(a)正面図、及び、(b)(a)のC−C’断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1実施形態]
以下に、本願発明が適用された第1実施形態について図1〜図5を用いて説明する。
尚、以下では、アップライトピアノから見て演奏者を向く方向側を正面側とよび、この反対方向側を背面側と呼ぶ。
【0016】
(全体構成)
本実施形態のアップライトピアノ1(以下、「ピアノ1」という)は、図1に示すように、複数の鍵からなる図示しない鍵盤を備える筐体であるピアノ本体10を備えている。
【0017】
このピアノ本体10は、図1(a)に示すように、正面側のうち、鍵盤設置部11の上方に上前板12、下方に下前板13が配置され、図1(b)に示すように、演奏者から見て上前板12及び下前板13の左右両端に側面板14が配置されている。また、ピアノ本体10は、図2に示すように、背面側に、左右方向に所定間隔ずつ空けて配置された上下方向に長尺な支柱15と、これら支柱15の上部に配置された桁貼16とを備えている。
【0018】
そして、ピアノ1では、ピアノ本体10を構成する上前板12、下前板13、両側面板14、支柱15及び桁貼16によって、これらに囲まれた空間が形成され、この空間内に、響板17や、図示しないアクションや弦が配置される。
【0019】
また、ピアノ本体10が形成する空間の上部の開口(上前板12、両側面板14、桁貼16で形成する開口)は、図1(b)に示すように、前後2つの屋根18,19で閉じられている。尚、これらの屋根18,19のうち、正面側の屋根を屋根前18、背面側の屋根を屋根後19とよぶ。
【0020】
このうち屋根前18は、図3に示すように、屋根後19上に折畳可能に取り付けられている。そのため、ピアノ本体10は、屋根前18を屋根後19に折り返すことで、ピアノ本体10の内部空間を空けることができるよう構成されている。
【0021】
(特徴的な構成)
本実施形態のピアノ1は、図1(a)に示すように、上前板12の長手方向中央から左右両側に同じ距離だけ離れた位置に、上前板12を貫通する12行9列の複数の第1貫通孔12aがそれぞれ密集して設けられている。
【0022】
そして、本実施形態のピアノ1は、図4に示すように、上前板12の背面側(ピアノ本体10の内部空間側)には、第1貫通孔12aを開閉するためのスライド板3(一点鎖線)が配置されている。
【0023】
また上前板12の背面側には、スライド板3を、すべての第1貫通孔12aを閉じる位置(図4(a))から、この位置に対し、上前板12の長手方向の中央よりの位置であって、すべての第1貫通孔12aを開放する位置(図4(b))まで案内する上下一対のスライドガイドレール30(点線)が設置されている。
【0024】
このスライドガイドレール30は、図5(b)に示すように、スライド板3の上下の各側面が接触する底部30aと、上前板12との間にスライド板3を挟む挟部30bとで略L字状に形成されたレールで、図5(c)に示すように、上側のスライドガイドレール30の底部には、スライド板3の上部側面に設けられたつまみ4を挿通する挿通孔30cが設けられている。この挿通孔30cは、スライドガイドレール30の長手方向に沿って長尺に形成され、つまみ4を操作して、第1貫通孔12aを閉じる位置から開ける位置までスライド板3を操作可能な長さに形成されている。
【0025】
つまみ4は、平板状に形成された金属製の板をL字状に折り曲げて形成したもので、、スライド板3をスライドガイドレール30に対しスライド可能に取り付けた後、L字の一方の辺側を挿通孔30cを通してスライド板3に打ち込んで取り付けられる。このときつまみ4は、他方の辺が、スライドガイドレール30の底部30aの上部側面に重ねられるとともに、演奏者側に向かうように取り付けられる。
【0026】
また、つまみ4は、上前板12の上部側面に重ねられた状態で配置されるので、屋根前18を閉じたとき、屋根前18と上前板12の上部側面との間につまみ4の他方の辺を挟んでも、この間に大きな隙間が開かないような薄い金属製の板で形成される。また、つまみ4の他方の辺は、その先端をつまんで操作することができるように、スライド板3に取り付けたとき、上前板12の演奏者側の面から突出する長さに形成されている。そのため本実施形態のピアノ1では、屋根前18を開けてつまみ4を操作すれば、第1貫通孔12aを開閉することができる。
【0027】
(本実施形態の特徴的な作用・効果)
以上のように構成された本実施形態1のピアノ1では、図示しない鍵盤の何れかの鍵を押鍵すると、この鍵に対応する弦が打弦され、打弦された弦の振動が響板17に伝えられて、演奏音が発せられる。
【0028】
そして演奏音は、ピアノ1の背面側と正面側に向かい、このうちピアノ1の背面側に向かった音は、支柱15の間を通って家屋の壁面等に向かい、家屋の壁面等で反射して、ピアノ1の正面側に向かう。
【0029】
一方、響板17から直接正面側に向かった音は、上前板12、下前板13、両側面板14、響板17、屋根18,19等で囲まれた空間にこもることとなるが、本実施形態のピアノ1では、つまみ4を操作して第1貫通孔12aが開くようにスライド板3をスライドさせておくと、第1貫通孔12aを通してピアノ1の正面側に出るので、演奏音がピアノ本体10内にこもることを防止することができる。
【0030】
また、本実施形態のピアノ1では、こもり防止のために第1貫通孔12aを演奏音が通過するが、このことにより演奏中は、演奏音の衝撃波が、ピアノ本体10内へのホコリの侵入を阻止する。また、本実施形態では、非演奏中は、屋根前18を開けてつまみ4を操作して、第1貫通孔12aが閉じられる位置にスライド板3をスライドさせておけば、ホコリ等のゴミがピアノ本体10内に侵入することを防止することができる。そのため、本実施形態のピアノ1では、演奏時及び非演奏時を問わず、ピアノ本体10内へのゴミの侵入を防止することができる。
【0031】
次に、本実施形態では、つまみ4を操作すると、スライド板3を、上前板12の板面に沿って移動し、第1貫通孔12aを開閉するように取り付けたので、アップライトピアノ1の限られた空間内でもスライド板3を設置できる。
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について図6,図7を用いて説明する。
【0032】
尚、以下では、第1実施形態と異なる点についてのみ説明し、第1実施形態と同様の構成については、同じ符号を付して説明する。
第1実施形態では、図6に示すように、第1貫通孔12aが12行9列設けられているのに対し、本実施形態では、第1貫通孔12aが、第1実施形態の場合と同一間隔で12行18列設けられ、第1貫通孔12aの数が約2倍になっている点が、第1実施形態と異なる。
【0033】
また、本実施形態では、図7に示すように、スライド板3にも、このスライド板3を貫通する第2貫通孔3aが設けられ、この第2貫通孔3aが、第1貫通孔12aと同じ数同じ配列で設けられている点が、第1実施形態と異なる。
【0034】
そして、本実施形態では、図7(a)に示すように、スライド板3が、第1貫通孔12aと第2貫通孔3aとを重ねることができる位置を通過してスライドするように、上前板3に対して配置されている。
【0035】
このように構成された本実施形態のピアノ1では、スライド板3を、第1貫通孔12aと第2貫通孔3aとが重なる位置にスライドさせれば、第1貫通孔12aと第2貫通孔3aとを通して、ピアノ本体10と外部空間とがつながり、ピアノ本体10内に音がこもることが防止される。
【0036】
また、第1実施形態では、スライド板3全体を第1貫通孔12aが設けられている位置から設けられていない位置までスライドさせる必要があるが(図3参照)、本実施形態では、図7(b)に示すように、第1貫通孔12aと第2貫通孔3aとがズレさえすれば第1貫通孔12aが閉じられるので、スライド板3を大きく移動しなくても、第1貫通孔12aを開閉できる。
【0037】
さらに、本実施形態では、少なくとも上前板12の厚み分の深さを有する第1貫通孔12aに、さらに第2貫通孔3aが重ねることとなって、第1貫通孔12aと第2貫通孔3aとを合わせた孔の深さが、第1貫通孔12aのみの場合に比べて深くなる。そのため、ピアノ本体10へのホコリの侵入が第1実施形態の場合に比べ困難なものとなるので、本実施形態のように構成すると、第1実施形態に比べ、ホコリがピアノ本体10内に侵入することをより確実に防止することができる。
(その他の実施形態)
上記実施形態では、各第1貫通孔12aについて点状に形成したものについて説明したが、図8に示すように、第1貫通孔12aを上下方向に長尺に形成してもよく、その他どのような形状に形成してもよい。
【0038】
また、上記実施形態では、12行9列、12行18列の第1貫通孔12aについて説明したが、これらの数・配列に限られるものではなく、一定の大きさの円内に、複数の第1貫通孔12aを配置してもよいし、第1貫通孔12aが密集するポイントを2カ所ではなく、1カ所、あるいは3カ所以上としてもよい。
【0039】
本発明は、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨に合致するものであればよく、上述の実施形態に限定されるものではない。
(対応関係)
本実施形態のスライド板3は本発明の開閉手段に相当し、つまみ4は操作手段に相当する。
【0040】
尚、本発明は、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨に合致するものであればよく、上述の実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0041】
1…アップライトピアノ、3…スライド板、3a…第2貫通孔、4…つまみ、10…ピアノ本体、11…鍵盤設置部、12…上前板、12a…第1貫通孔、13…下前板、14…側面板、15…支柱、16…桁貼、17…響板、18…屋根前、19…屋根後、30…スライドガイドレール、30a…底部、30b…挟部、30c…挿通孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1貫通孔が設けられた上前板と、
この上前板の正面側の板面よりも背面側に設けられ、前記第1貫通孔を開閉する開閉手段と、
前記開閉手段を開閉操作する操作手段と、
を備えることを特徴とするアップライトピアノ。
【請求項2】
請求項1に記載のアップライトピアノにおいて、
板状に形成した前記開閉手段を、前記上前板に平行に配置するとともに、前記上前板の背面側の板面上をスライド可能に配置したことを特徴とするアップライトピアノ。
【請求項3】
請求項1,2のいずれかに記載のアップライトピアノにおいて、
前記開閉手段は、
第2貫通孔が設けられた板状の部材であり、
前記第1貫通孔を開くときは、前記第2貫通孔が前記第1貫通孔に重なる位置に移動し、前記第1貫通孔を閉じるときは、前記第2貫通孔が前記第1貫通孔に重ならない位置に移動することを特徴とするアップライトピアノ。

【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−204454(P2010−204454A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50738(P2009−50738)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)