説明

アディポネクチンの分泌促進剤

【課題】 安全かつ優れたアディポネクチンの分泌促進剤を提供する。
【解決手段】 カロテノイドの一種であるルテインを用いるアディポネクチンの分泌促進剤である。この分泌促進剤は、0.05〜5(w/w)%のルテインを含有するものとすることが好ましく、機能性食品、栄養補助剤、飲食物として使用することができる。必要に応じて、通常用いられる添加剤とともに使用してもよい。また、溶液状、懸濁液状、シロップ状、顆粒状、クリーム状、ペースト状、ゼリー状などの所望の形状で、あるいは必要に応じて成形して使用してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アディポネクチン(adiponectin)の分泌促進剤に関する。より詳細には、カロテノイドの一種であるルテインを用いるアディポネクチンの分泌促進剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アディポネクチンは、主に脂肪細胞から分泌される因子(アディポサイトカイン)である。アディポネクチンはインスリン抵抗性改善作用や抗動脈硬化作用があることが報告されている。また血中アディポネクチン量は肥満度と逆相関を示すことが報告されており、肥満によるインスリン抵抗性、糖尿病、動脈硬化症、循環器疾患の発症、増悪においてアディポネクチンの低下が重要な役割を果たしている。また、脂肪細胞が肥大すると、アディポネクチンの転写は抑制され、アディポネクチンが欠乏して代謝異常が引き起こされ、メタボリックシンドロームへとつながる(門脇孝、山内敏正、窪田直人、「アディポネクチンと糖尿病・心血管病の分子メカニズム」,第128回日本医学会シンポジウム要旨「糖尿病と動脈硬化」2004年34−45頁)。
【0003】
このようにアディポネクチンは糖尿病、肥満などの生活習慣病を予防する重要な生体内因子である。アディポネクチンの分泌を促進する物質の開発はこれらの生活習慣病予防の観点から重要な課題である。しかし現在、糖尿病の原因においてインスリン抵抗性が知られているが、抵抗性改善作用を有するアディポネクチンの分泌を促す薬物はピオグリタゾン(Pioglitazone)などチアゾリジン誘導体のみである。またアディポネクチンの分泌を促進する物質として食品中に含まれる成分の検索が行われ、パプリカ色素(特開2010−189291)やアスタキサンチン(特開2008−179609)が特許出願されているが充分な効果を上げているとは言い難い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
食品成分などの天然物からアディポネクチンを産生する物質をスクリーニングして提供することは糖尿病、肥満などの生活習慣病を予防するうえで極めて重要である。そこで発明者らは、脂肪細胞を用いてアディポネクチンのメッセンジャーRNA(mRNA)発現量を指標としアディポネクチンの分泌を促進する物質をスクリーニングした。
【0005】
本発明の課題は天然物由来の安全なアディポネクチンの分泌促進剤を提供することである。さらに詳しく述べればカロテノイドを用いアディポネクチンの分泌を促進し糖尿病の予防に資する物質を
提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは検討を重ねた結果、野菜など陸上植物に分布するカロテノイドの一種であるルテイン(Lutein)がアディポネクチンの分泌を促進する作用を持つことを見出した。さらにルテインは10マイクロモル(μM)程度の濃度であっても濃度依存的にアディポネクチンの分泌を促進することを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)ルテインを有効成分とするアディポネクチンの分泌促進剤、
(2)0.05〜5重量%のルテインを含有することを特徴とするアディポネクチンの分泌促進剤、
(3)機能性食品、栄養補助剤、又は飲食物である(1)又は(2)のアディポネクチンの分泌促進剤、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の血中アディポネクチン分泌促進剤は、血中のアディポネクチン量を増加させる。そのため、TNFαなどのアディポサイトカインの有害な作用を減弱あるいはそれらの作用からインスリンなどの代謝活性物質の作用を保護し得る。その結果、悪玉のアディポサイトカインによって引き起こされるインスリン抵抗性および高インスリン血症、ならびにメタボリックシンドロームを予防/抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において有効成分として使用されるルテインは、下記化学構造式[化1]を有し、野菜、果物等に含まれる成分である。すなわち、ルテインは、従来から食品として摂取されてきた天然成分の一種であり、人体に対する安全性が確認されている。従って、本発明によれば、安全且つ優れたアディポネクチンの分泌促進剤を提供することができる。
【0010】
【化1】

【0011】
本発明において使用されるルテインは、マリーゴールドの花弁、クロレラ、ホウレンソウ、その他陸上植物の葉、花弁などから抽出することができる。また植物体をそのまま用いることもできる。さらにルテインを含む植物は乾燥、細切、破砕、粉砕等の処理に供されたものであってもよい。ルテインを含む抽出物は、前記する植物を抽出原料として、これを、そのまま或いは必要に応じて、乾燥、細切、破砕、粉砕、圧搾、煮沸或いは発酵処理したものを溶媒で抽出処理することにより取得することができる。
【0012】
ルテインを含む植物の抽出物の抽出処理に使用される溶媒としては、例えば、極性有機溶媒、水と極性有機溶媒の混合液等の極性溶媒を挙げることができる。また、当該極性有溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、エーテルなどの単独あるいは2 種以上の組み合わせを挙げることができる。上記極性溶媒の中で、人体への安全性と取扱性の観点から、好ましくはエタノール、プロパノール、アセトン、ヘキサン又はこれらの混合物が挙げられる。
【0013】
本発明のアディポネクチン分泌促進剤の投与量は、投与の目的や投与対象者の状況(性別、年齢、体重など)に応じて異なる。通常、成人に対して、経口投与の場合、ルテイン量として1日あたり0.1mg〜2g、好ましくは5mg〜50mgである。
【0014】
本発明のアディポネクチン分泌促進剤は機能性食品、栄養補助剤、飲食物などとして使用することができる。医薬部外品として使用する場合、必要に応じて、医薬部外品などの技術分野で通常用いられている種々の補助剤とともに使用され得る。あるいは、機能性食品、栄養補助剤、または飲食物として使用する場合、必要に応じて、例えば、甘味料、香辛料、調味料、防腐剤、保存料、殺菌剤、酸化防止剤などの食品に通常用いられる添加剤とともに使用してもよい。また、溶液状、懸濁液状、シロップ状、顆粒状、クリーム状、ペースト状、ゼリー状などの所望の形状で、あるいは必要に応じて成形して使用してもよい。これらに含まれる割合は、特に限定されず、使用目的、使用形態、および使用量に応じて適宜選択することができる。たとえば、0.05〜5重量%のルテインを含有する機能性食品、栄養補助剤、飲食物などとすることができる。
【0015】
以下、添付の図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ルテインによる脂肪細胞由来アディポネクチンの分泌促進効果を示すグラフである。
【実施例1】
【0017】
ルテインの抽出、分離
ルテインは一例として、次のような手順により抽出、分離される。すなわち、マリーゴールドミール10gをメタノールに浸漬して室温で暗所に静置し、時々浸透して黄色のメタノール抽出物を得た。抽出残渣に再びメタノールを加えて同じ操作をさらに3回繰り返してメタノール抽出液を集めた。この抽出液を減圧で濃縮乾固してメタノールエキスを得た。なお、メタノールのかわりにエタノール、アセトンまたはクロロホルムなどの有機溶媒を用いて抽出することもできる。これらのエキスに5%KOH/メタノール溶液を加え室温で6時間攪拌してケン化を行った。その後不ケン化物をエーテルで抽出、抽出液を水洗した後減圧で濃縮乾固した。これをシリカゲルを吸着剤とするカラムクロマトグラフィーに付し、エーテル−アセトン(8:2)で溶出したフラクションからルテイン500mgを分離した。
【実施例2】
【0018】
アディポネクチンの分泌促進効果測定
3T3-L1脂肪細胞に無血清培地を用いて3~4時間培養を行った後、コントロール区として1%ジメチルスルホキシド(DMSO) 区、ポジティブコントロール区として医薬品のピオグリタゾン(終濃度:10、50μM)、被験試料としてルテインと特開2010−189291に用いられたパプリカ色素の主成分であるカプサンチン(Capsanthin)をそれぞれ終濃度 として10μM、25 μM用いた。それぞれの被検物質を24時間細胞に作用させた。その後、アディポネクチンの発現をリアルタイムPCR法を用いて評価した。
【0019】
細胞はTRIzol(R) あるいは Tripure 試薬によって溶解し、CIAA (Phenol : Chloroform : Isoamyl alcohol = 25:24:1) 及び2-プロパノールを用いてtotal RNA を抽出した。Nano-drop ND-1000, V.3.1.0 (株式会社 スクラム: 東京) によってtotal RNA 濃度を均一化した後、Deoxyribonuclease I, Amplification Gradeキットを用いてDNAase 処理を行う。その後、Primescript(R)II 1st strand cDNA Synthesis Kitを用いて逆転写反応を行う。得られたcDNAを再びNano-drop ND-1000, V.3.1.0 を用いて測定し、DEPC水で濃度を均一化する。その後、インターカレーターであるSYBR Greenと呼ばれる蛍光物質を含んだSYBR(R) Premix Ex TaqTM IIキットあるいはFastStart Universal SYBR Green Master (ROX)キットを用いて、DNA増幅に伴う蛍光を検出し自動的にDNAの定量を行う。増幅および蛍光検出装置としてABI7500 (Applied Biosystem : 東京)を使用した。装置の反応条件は下記の記載通りである。プライマーとしてβ-actin (forward: 5’-GTCAGTGGATCTGACGACACCAA-3’,reverse:5’-ATGCCTGCCATCCAACCTG-3’ )、及びアディポネクチン(forward: 5’-CATCCGTAAAGACCTCTATGCCAAC-3’, reverse: 5’-ATGGAGCCACCGATCCACA-3’)を用いた。
【実施例3】
【0020】
ルテインによる脂肪細胞由来アディポネクチンの分泌促進効果
3T3-L1脂肪細胞において、コントロール区(DMSO 1%)、ポジティブコントロール区としてピオグリタゾン(終濃度:10、50 μM)、被験試料としてルテインもしくはカプサンチン (終濃度 : 10、25 μM)の刺激によりアディポネクチンのmRNA発現をリアルタイムPCR法により評価した。表1および図1に示すごとくルテインによるアディポネクチンのmRNA 発現はコントロールと比較して有意に増加した。ピオグリタゾンにおいても同様に有意な差が現れた。一方カプサンチンにおいては有意な増加はみられなかった。この結果、ルテインは脂肪細胞のアディポネクチンの分泌を促進することが明らかになった。その効果はアディポネクチン分泌促進物質としてすでに特許出願されているパプリカ色素(特開2010−189291)の有効成分であるカプサンチンに比べても有意に優れている。

【表1】

【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の血中アディポネクチン分泌促進剤により、高血圧症、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病を予防することが期待される。また、アディポネクチンの減少により、心血管病・脳血管病へ繋がる動脈硬化が進行するが、この動脈硬化の進行を抑制することも期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開2010−189291
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】門脇孝 山内敏正、窪田直人、「アディポネクチンと糖尿病・心血管病の分子メカニズム」,第128回日本医学会シンポジウム要旨「糖尿病と動脈硬化」2004年34−45頁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテインを有効成分とするアディポネクチンの分泌促進剤。
【請求項2】
0.05〜5重量%のルテインを含有することを特徴とするアディポネクチンの分泌促進剤。
【請求項3】
機能性食品、栄養補助剤、又は飲食物である請求項1又は2記載のアディポネクチンの分泌促進剤。


【図1】
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【公開番号】特開2012−176914(P2012−176914A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40988(P2011−40988)
【出願日】平成23年2月26日(2011.2.26)
【出願人】(000002336)財団法人生産開発科学研究所 (10)
【Fターム(参考)】