説明

アミド化合物の結晶

【課題】抗ヘルペスウイルス剤として有用な化合物を提供する。
【解決手段】抗ヘルペスウイルス剤として有用なN−(2,6−ジメチルフェニル)−N−(2−{[4−(1,2,4−オキサジアゾール−3−イル)フェニル]アミノ}−2−オキソエチル)テトラヒドロ−2H−チオピラン−4−カルボキサミド 1,1−ジオキシド化合物の新規な結晶形を見出した。本発明の結晶は医薬の製造原体、特に固体医薬組成物の製造に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ヘルペスウイルス剤として有用なN-(2,6-ジメチルフェニル)-N-(2-{[4-(1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)フェニル]アミノ}-2-オキソエチル)テトラヒドロ-2H-チオピラン-4-カルボキサミド 1,1-ジオキシドの新規結晶及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
N-(2,6-ジメチルフェニル)-N-(2-{[4-(1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)フェニル]アミノ}-2-オキソエチル)テトラヒドロ-2H-チオピラン-4-カルボキサミド 1,1-ジオキシド(以下、化合物A)は、抗ヘルペスウイルス剤、殊にヘルペスウイルス科のウイルス感染に伴う各種疾患、具体的には、水痘帯状疱疹ウイルス感染に伴う水痘(水疱瘡)、潜伏した水痘帯状疱疹ウイルスの回帰感染に伴う帯状疱疹、HSV-1感染に伴う口唇ヘルペスやヘルペス脳炎、HSV-2感染に伴う性器ヘルペス等の、各種ヘルペスウイルス感染症の予防もしくは治療に有用であることが報告されている(特許文献1〜4)。当該化合物の物理化学的性質として、例えば特許文献2には、エタノール−水より結晶化し、融点220-222℃である旨が記載されているが、その他の結晶形についての報告は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2005/014559号パンフレット
【特許文献2】国際公開WO2006/082820号パンフレット
【特許文献3】国際公開WO2006/082821号パンフレット
【特許文献4】国際公開WO2006/082822号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
化合物Aの公知の結晶は難溶性であるため、溶解性や吸収性などの面から改善が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、溶解性や吸収性、或いは、安定性や取扱いのいずれかの面から改善された化合物Aの結晶について鋭意検討した結果、新たな多形結晶を見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、化合物Aの新たな結晶、並びに、当該結晶の製造法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、溶解性、吸収性、安定性及び/又は取扱い性の面から改善された化合物Aの結晶が提供され、これらは医薬の製造原体、特に固体組成物の製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】化合物Aのβ形結晶の粉末X線回折図である。
【図2】化合物Aのβ形結晶の熱分析図である。
【図3】化合物Aのγ形結晶の粉末X線回折図である。
【図4】化合物Aのγ形結晶の熱分析図である。
【図5】化合物Aのδ形結晶の粉末X線回折図である。
【図6】化合物Aのδ形結晶の熱分析図である。
【図7】化合物Aのε形の粉末X線回折図である。
【図8】化合物Aのε形の熱分析図である。
【図9】化合物Aのα形結晶の粉末X線回折図である。
【図10】化合物Aのα形結晶の熱分析図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
化合物Aは下記式で示される化合物であり、例えば前記特許文献1に開示の方法によって容易に製造できる。
【化1】

【0009】
前記特許文献2に開示の化合物Aの公知の結晶(以下、α形結晶)は、エタノール−水混合溶媒より再結晶することによって得られ、約220-222℃の融点を有する。本発明は当該α形結晶以外の多形結晶に関し、具体的にはβ、γ、δ及びε形結晶に関する。
驚くべきことに、これらの多形結晶はいずれも医薬の製造原体として使用可能な程度に安定な結晶であり、溶解性、吸収性、安定性及び/又は取扱い性の面で好ましい性質を有する。
【0010】
本発明のβ、γ、δ及びε、並びに、公知のα形結晶の物理化学的性質を以下に示す。
1.β形
Cu−Κα線を用いた粉末X線回折 2θ(°):7.2、9.3、12.3、19.3、21.7、22.8及び26.5
DSC 約216.4℃(on set)
2.γ形
Cu−Κα線を用いた粉末X線回折 2θ(°):8.1、9.3、11.1、12.6、14.1、19.6、20.9及び23.9
DSC 約209.3℃(on set)
3.δ形
Cu−Κα線を用いた粉末X線回折 2θ(°):14.4、15.7、16.0、16.4、22.3及び26.1
DSC 約217.6℃
4.ε形
Cu−Κα線を用いた粉末X線回折 2θ(°):7.2、12.0、14.4、16.5、19.3及び26.6
DSC 約217.5℃
5.α形
Cu−Κα線を用いた粉末X線回折 2θ(°):8.1、9.2、10.1、12.2、15.2、16.4、17.7、19.7、20.3、20.6、27.1
DSC 約217.2℃
【0011】
上記分析の測定条件は以下の通りである。
粉末X線回折は、
MAC Science MXP18TAHF22を用い、管球:Cu、管電流:120 mA、管電圧:50 kV、サンプリング幅:0.020°、走査速度:3°/min、波長:1.54056Å、測定回折角範囲(2θ):5〜40°、或いは、
RIGAKU RINT-Ultima IIIを用い、管球:Cu、管電流:40 mA、管電圧:40 kV、サンプリング幅:0.020°、走査速度:3°/min、波長:1.54056Å、測定回折角範囲(2θ):3〜40°の条件で測定した。
熱分析(DSC及びTGA)は、
DSC:TA Instrument TA 5000、室温〜300℃ (10℃/min)、N2 (50 ml/min)、アルミニウム製サンプルパン;TGA:TA Instrument TA 5000、室温〜300℃ (10℃/min)、N2 (100 ml/min)、白金製サンプルパン、或いは、
DSC:TA Instrument Q2000、室温〜300℃ (10℃/min)、N2 (50 ml/min)、アルミニウム製サンプルパン;TGA:TA Instrument Q500、室温〜300℃ (10℃/min)、N2 (50 ml/min)、白金製サンプルパンの条件で測定した。
なお、粉末X線回折はデータの性質上、結晶の同一性認定においては、結晶格子間隔や全体的なパターンが重要であり、相対強度は結晶成長の方向、粒子の大きさ、測定条件によって多少変わりうるものであるから、厳密に解されるべきではない。従って、2θの値も誤差を含みうるものであり、±2°、好適には±1°の誤差が許容される。また、融点における「約」の記載は、測定時の種々の誤差を考慮し、±3℃、好適には±2℃を意味する。
【0012】
(製法)
β形結晶は、化合物Aを含水メタノールから結晶化させる、あるいは、化合物Aのメタノール和物を、冷却下から加温下、好ましくは室温下に、水中、懸濁下攪拌して製造することができる。化合物Aのメタノール和物は、化合物Aを、メタノール及び他の有機溶媒、例えば、エタノール、アセトニトリル、アセトン、ジメチルホルムアミド等の10:1から50:1の混合溶媒に加熱溶解し、冷却下から加温下、好ましくは室温下に、攪拌する、或いは、有機溶媒と10:1から1.5:1となる量の水を加え、冷却下から加温下、好ましくは室温下に、攪拌することで得ることができる。
γ形結晶は、化合物Aをメタノールから再結晶することで製造できる。
δ形結晶は、無晶形の化合物Aを、0℃から加温下、好ましくは室温下に、水中、懸濁下攪拌して製造することができる。なお、無晶形の化合物Aは、クロロホルム、ジクロロメタン、メタノール、アセトニトリル、アセトン、ジメチルホルムアミド等の有機溶媒に溶解後、溶媒を留去して得ることができる。
ε形結晶は、化合物Aをメタノール、エタノール、アセトニトリル、アセトン、ジメチルホルムアミド等の水に可溶な有機溶媒に加熱溶解したものを、冷却下から室温下、好ましくは室温下、水に攪拌下加えることにより製造することができる。使用する水の量は、有機溶媒の量に対して1から10倍量、好ましくは1から5倍量、より好ましくは2から3倍量である。
【0013】
本発明の化合物Aの1種又は2種以上の結晶を有効成分として含有する医薬組成物は、当分野において通常用いられている賦形剤、即ち、薬剤用賦形剤や薬剤用担体等を用いて、通常使用されている方法によって調製することができる。
投与は錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等による経口投与、又は、関節内、静脈内、筋肉内等の注射剤、坐剤、点眼剤、眼軟膏、経皮用液剤、軟膏剤、経皮用貼付剤、経粘膜液剤、経粘膜貼付剤、吸入剤等による非経口投与のいずれの形態であってもよい。
【0014】
経口投与のための固体組成物としては、錠剤、散剤、顆粒剤等が用いられる。このような固体組成物においては、化合物Aの結晶は、少なくとも1種の不活性な賦形剤と混合される。組成物は、常法に従って、不活性な添加剤、例えば滑沢剤や崩壊剤、安定化剤、溶解補助剤を含有していてもよい。錠剤又は丸剤は必要により糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性物質のフィルムで被膜してもよい。
外用剤としては、軟膏剤、硬膏剤、クリーム剤、ゼリー剤、パップ剤、噴霧剤、ローション剤、点眼剤、眼軟膏等を包含する。一般に用いられる軟膏基剤、ローション基剤、水性又は非水性の液剤、懸濁剤、乳剤等を含有する。
【0015】
吸入剤や経鼻剤等の経粘膜剤は固体、液体又は半固体状のものが用いられ、従来公知の方法に従って製造することができる。例えば公知の賦形剤や、更に、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、滑沢剤、安定剤や増粘剤等が適宜添加されていてもよい。投与は、適当な吸入又は吹送のためのデバイスを使用することができる。例えば、計量投与吸入デバイス等の公知のデバイスや噴霧器を使用して、化合物を単独で又は処方された混合物の粉末として、もしくは医薬的に許容し得る担体と組み合わせて溶液又は懸濁液として投与することができる。乾燥粉末吸入器等は、単回又は多数回の投与用のものであってもよく、乾燥粉末又は粉末含有カプセルを利用することができる。あるいは、適当な駆出剤、例えば、クロロフルオロアルカン又は二酸化炭素等の好適な気体を使用した加圧エアゾールスプレー等の形態であってもよい。
【0016】
通常経口投与の場合、1日の投与量は、体重当たり約0.001から50mg/kg、好ましくは0.01〜30mg/kg、更に好ましくは、0.05〜10mg/kgが、静脈投与される場合、1日の投与量は、体重当たり約0.0001から10mg/kg、好ましくは0.001〜1.0mg/kgがそれぞれ適当であり、これを1日1回乃至複数回に分けて投与する。投与量は症状、年令、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。また、外用剤として用いる場合は、化合物(I)を0.0001〜20%、好ましくは0.01〜10%を含む外用剤が好ましい。これを1日1〜数回、症状に応じて局所に投与する。
【実施例】
【0017】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は、下記実施例の記載に限定されるものではない。
実施例1(β形結晶の製造)
化合物A(α形結晶 3.00 g)をアセトニトリル(7.5 ml)及びメタノール(142.5 ml)に加え、撹拌下加熱(65℃)溶解した。この溶液に水(150 ml)を加えた後、3℃に冷却した。析出物を濾取後、40℃で減圧下乾燥した。得られた結晶(0.40 g)を水(20 ml)に加え、マグネティックスターラーを用いて室温で一晩撹拌した。結晶を濾過した後50℃で減圧下乾燥し、化合物Aのβ形結晶(白色結晶)0.35 gを得た。
実施例2(γ形結晶の製造)
{(2,6-ジメチルフェニル)[(1,1-ジオキソテトラヒドロ-2H-チオピラン-4-イル)カルボニル]アミノ}酢酸(1.0 g)のDMF(20 ml)溶液に、4-(1,2,3-オキサジアゾール-3-イル)アニリン(470 mg)、1H-ベンゾトリアゾール-1-オール1水和物(440 mg)、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-N'-エチルカルボジイミド塩酸塩(620 mg)を順次加え室温にて約1時間攪拌した後、湯浴温度60℃にて一晩加熱攪拌した。反応溶液に酢酸エチル、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、有機層を分液後、食塩水で洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール)にて精製後、メタノールより再結晶して、化合物Aのγ形結晶(388 mg)を得た。
【0018】
実施例3(δ形結晶の製造)
化合物A(α形結晶 5.00 g)をクロロホルム、アセトニトリル及びメタノールの混合溶媒に室温で溶解し、溶媒を減圧下留去した。濃縮残渣にアセトンを加え、再び溶媒を減圧下留去し、この濃縮残渣を50℃で乾燥して無晶形の粉末を得た。得られた粉末(0.50 g)に水(10 ml)を加え室温下一晩撹拌した。析出物を濾取後、50℃で減圧下乾燥して、化合物Aのδ形結晶(白色結晶)0.40 gを得た。
実施例4(ε形結晶の製造)
化合物A(α形結晶 3.00 g)をアセトニトリル(7.5 ml)及びメタノール(142.5 ml)に加え、撹拌下加熱(65℃)溶解した。この溶液を室温の水(300 ml)に加え、撹拌した。析出物を濾取後、50℃で減圧下乾燥し化合物Aのε形結晶(白色結晶)2.61 gを得た。
参考例1(α形結晶の製造)
{(2,6-ジメチルフェニル)[(1,1-ジオキソテトラヒドロ-2H-チオピラン-4-イル)カルボニル]アミノ}酢酸(2.0 g)及び4-(1,2,3-オキサジアゾール-3-イル)アニリン(950 mg)のクロロホルム懸濁液にN-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩(1.4 g)を加え、室温にて1時間攪拌した。反応混合物に1M塩酸を加え有機層を分液した後、10%炭酸カリウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮した。得られた粗精製の淡褐色固体(3.1g)にエタノール/水(9/1)(60 ml)混合溶媒を加え、油浴温度130℃にて加熱し、固体を溶解させた後、油浴を除去し、攪拌しながら自然放冷にて2時間かけて室温まで冷却した。析出してきた結晶を濾取し、80℃にて一晩減圧下乾燥して、化合物Aのα形結晶(2.5 g)を得た。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明によれば、溶解性、吸収性、安定性及び/又は取扱い性の面から改善された化合物Aの結晶が提供され、これらは医薬の製造原体、特に固体組成物の製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu−Κα線を用いたX線回折において、2θ(°)値が7.2、9.3、12.3、19.3、21.7、22.8及び26.5にピークを有するN-(2,6-ジメチルフェニル)-N-(2-{[4-(1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)フェニル]アミノ}-2-オキソエチル)テトラヒドロ-2H-チオピラン-4-カルボキサミド 1,1-ジオキシドの結晶。
【請求項2】
Cu−Κα線を用いたX線回折において、2θ(°)値が8.1、9.3、11.1、12.6、14.1、19.6、20.9及び23.9にピークを有するN-(2,6-ジメチルフェニル)-N-(2-{[4-(1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)フェニル]アミノ}-2-オキソエチル)テトラヒドロ-2H-チオピラン-4-カルボキサミド 1,1-ジオキシドの結晶。
【請求項3】
Cu−Κα線を用いたX線回折において、2θ(°)値が14.4、15.7、16.0、16.4、22.3及び26.1にピークを有するN-(2,6-ジメチルフェニル)-N-(2-{[4-(1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)フェニル]アミノ}-2-オキソエチル)テトラヒドロ-2H-チオピラン-4-カルボキサミド 1,1-ジオキシドの結晶。
【請求項4】
Cu−Κα線を用いたX線回折において、2θ(°)値が7.2、12.0、14.4、16.5、19.3及び26.6にピークを有するN-(2,6-ジメチルフェニル)-N-(2-{[4-(1,2,4-オキサジアゾール-3-イル)フェニル]アミノ}-2-オキソエチル)テトラヒドロ-2H-チオピラン-4-カルボキサミド 1,1-ジオキシドの結晶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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