説明

アルキルアルミニウムハイドライドの製造方法

【課題】高い反応収率及び短い反応時間でアルキルアルミニウムハイドライドを製造できる方法を提供する。
【解決手段】アルキルアルミニウムハライドと、金属水素化物(アルカリ金属水素化物、アルカリ土類金属水素化物、水素化アルカリ金属錯体及び水素化アルカリ土類金属錯体からなる群より選ばれる化合物等)を、100℃より高い温度で、所望により脂肪族炭化水素及び/又は芳香族炭化水素からなる溶媒の存在下で反応させる工程を含むアルキルアルミニウムハイドライドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体材料やトリアルキルアルミニウムの製造中間体として使用されるアルキルアルミニウムハイドライドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルキルアルミニウムハイドライドは、例えば半導体材料やトリアルキルアルミニウムの製造中間体として使用されている。アルキルアルミニウムハイドライドの製造方法としては、例えば、アルキルアルミニウムクロライドと金属水素化物や水素化金属錯体を反応させる方法が知られている。金属水素化物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の水素化物、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属の水素化物が知られている。水素化金属錯体としては、水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素ナトリウム等の水素化アルカリ金属錯体、あるいは水素化アルカリ土類金属錯体が知られている。
【0003】
特許文献1には、ジエチルアルミニウムクロライドと水素化ナトリウムをオクタン溶媒中で混合し、加熱熟成し、濾過、蒸留することで67〜82%の収率でジエチルアルミニウムハイドライドを製造したことが記載されている。非特許文献1には、ジエチルアルミニウムクロライドと水素化ナトリウムをヘキサン溶媒中で反応させ、精製することで75%の収率でジエチルアルミニウムハイドライドを製造したことが記載されている。非特許文献2には、ジエチルアルミニウムクロライドと水素化ナトリウムをベンゼン溶媒中で反応させ、精製することで86%の収率でジエチルアルミニウムハイドライドを製造したことが記載されている。
【0004】
特許文献2の比較例1には、ジメチルアルミニウムクロライドと水素化ナトリウムを、ヘキサン溶媒中で混合し、反応温度50℃で12時間反応させたところ、ジメチルアルミニウムハイドライドの収率はわずか35%であったことが記載されている。
【0005】
特許文献3の実施例には、ジメチルアルミニウムクロライドと水素化ナトリウムを、トルエン溶媒中で混合し、100℃で2時間反応させたことが記載されている。しかし、ジメチルアルミニウムハイドライドの収率は不明である。
【0006】
本発明者らは、市販の水素化ナトリウムを鉱油中に懸濁させ、100℃に昇温し、ジエチルアルミニウムクロライドを滴下して、100℃に反応温度を維持しながら1時間の熟成反応を実施した。その結果、原料反応率はわずか18%であった。一方、特許文献1、非特許文献1及び2の反応例における実験条件の記載は不十分であり、追試は困難である。
【0007】
以上の通り、各文献ではアルキルアルミニウムハイドライドの収率が低いか、あるいは収率自体が報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】英国特許第774516号明細書
【特許文献2】特開2000−256367号公報
【特許文献3】特開平1−197489号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Justus liebigs Annalen der Chemie(1954)589,91−121
【非特許文献2】Izvestiya Akademii Nauk SSSR,Seriya Khimicheskaya(1961)1894−5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上説明した従来技術の課題を解決すべく為されたものである。すなわち本発明の目的は、高い反応収率及び短い反応時間でアルキルアルミニウムハイドライドを製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決する為に鋭意検討した結果、特定の条件下での反応が非常に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、アルキルアルミニウムハライドと金属水素化物を、100℃より高い温度で反応させる工程を含むアルキルアルミニウムハイドライドの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特定の条件下でアルキルアルミニウムハライドと金属水素化物を反応させるので、高い収率及び短い反応時間でアルキルアルミニウムハイドライドを製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明により得られるアルキルアルミニウムハイドライドは、下記式(1)で表わされる。
【0015】
mAlHn ・・・(1)
式中、Rは直鎖状又は分岐状のアルキル基を示し、m及びnはm+n=3を満たす数を示す。但し、m>0、かつ、n>0である。
【0016】
このアルキルアルミニウムハイドライドは、m=1の場合はモノアルキルアルミニウムジハイドライド(RAlH2)、m=2場合はジアルキルアルミニウムハイドライド(R2AlH)、m=1.5の場合はアルキルアルミニウムセスキハイドライド(R3Al23)である。中でも、ジアルキルアルミニウムハイドライドが好ましく、ジエチルアルミニウムハイドライドが特に好ましい。
【0017】
本発明においては、このアルキルアルミニウムハイドライド(RmAlHn)を、アルキルアルミニウムハライドと金属水素化物の反応により合成する。例えば、アルミニウム原子1個当たりn個のハロゲン原子を有するアルキルアルミニウムハイドライドに対して、n価の金属水素化物を反応させる場合、その反応は、下記式(2)で表わすことができる。
【0018】
mAlXn + MHn → RmAlHn + MXn ・・・(2)
式(1)中、RmAlXnはアルキルアルミニウムハライドを示し、MHnは金属水素化物を示し、RmAlHnはアルキルアルミニウムハイドライドを示し、MXnは金属ハロゲン化物を示し、Rは直鎖状又は分岐状のアルキル基を示し、Mは金属原子を示し、Xはハロゲン原子を示し、m及びnはm+n=3を満たす数を示す。但し、m>0、かつ、n>0である。
【0019】
アルキル基(R)の炭素原子数は1以上が好ましく、1〜5個がより好ましく、1〜2個が特に好ましい。金属原子(M)の具体例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属が挙げられる。中でも、アルカリ金属が好ましく、ナトリウム、リチウムがより好ましい。ハロゲン原子(X)の具体例としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。中でも、塩素原子が好ましい。
【0020】
本発明に用いるアルキルアルミニウムハライドは、m=1の場合はモノアルキルアルミニウムジハライド(RAlX2)、m=2場合はジアルキルアルミニウムハライド(R2AlX)、m=1.5の場合はアルキルアルミニウムセスキハライド(R3Al23)である。中でも、ジアルキルアルミニウムハライドが好ましく、ジアルキルアルミニウムクロライドがより好ましく、ジエチルアルミニウムクロライドが特に好ましい。
【0021】
本発明に用いる金属水素化物の種類は、特に限定されず、アルキルアルミニウムハイドライド生成反応が進行するものであればよい。その具体例としては、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム等のアルカリ金属水素化物、水素化マグネシウム、水素化カルシウム等のアルカリ土類金属水素化物、水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素ナトリウム等の水素化アルカリ金属錯体、水素化アルカリ土類金属錯体が挙げられる。中でも、アルカリ金属水素化物が好ましく、水素化ナトリウム、水素化リチウムがより好ましい。
【0022】
金属水素化物の使用量は特に限定されず、アルキルアルミニウムハイドライド生成反応が進行する量であればよい。経済的な観点からは、アルキルアルミニウムハライドに対して0.5〜1.5モル当量の金属水素化物を使用することが好ましい。
【0023】
この反応は、溶媒の存在下で行うことが好ましい。溶媒の種類は特に限定されず、原料及び生成物と反応せず沸点が100℃より高い溶媒であればよい。溶媒の具体例としては、デカン、ドデカン、流動パラフィン、灯油、鉱油等の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,3−ジイソプロピルベンゼン等の芳香族炭化水素が挙げられる。また、脂肪族炭化水素と芳香族炭化水素を任意の割合で混合して用いることも可能である。溶媒の使用量は特に限定されないが、通常、アルキルアルミニウムハライドに対して0.5質量倍以上20質量倍以下の溶媒を用いることが好ましい。
【0024】
アルキルアルミニウムハライドと金属水素化物の反応温度は、収率及び反応時間の点から100℃より高い温度であり、好ましくは110℃以上、より好ましくは120℃以上である。反応温度が100℃以下であると、原料であるアルキルアルミニウムハライドの反応率が低下し、収率が悪くなってしまう。反応温度の上限は特に限定されず、原料及び生成物が分解しない温度に設定すればよい。好ましくは200℃以下、もしくは溶媒の沸点以下である。
【0025】
以上のような反応条件により、高い原料反応率及び短時間でアルキルアルミニウムハイドライドが生成する。そして、反応後の反応液に対して濾過、蒸留等の操作を行うことにより、アルキルアルミニウムハイドライドを高収率で得ることができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に示す。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【0027】
[実施例1]
窒素雰囲気下、水素化ナトリウム34.9g(純度65.4質量%)と1,3−ジイソプロピルベンゼン75.2gを反応容器内に装入し、懸濁させた。次にこの懸濁液を110℃まで昇温し、ジエチルアルミニウムクロライド119.8g(純度99.6質量%)を90分かけて滴下して反応させ、その後反応液を110℃で1時間熟成反応させることにより、ジエチルアルミニウムハイドライドを生成した。この反応液を濾過し、濾過液中の塩素濃度を測定することにより、原料であるジエチルアルミニウムクロライドの反応率を算出した。その反応率は99.0%であった。
【0028】
[実施例2]
窒素雰囲気下、水素化ナトリウム19.8g(純度61.6質量%)と鉱油(出光興産株式会社製、商品名ダウニーオイルKP−15)39.5gを反応容器内に装入し、懸濁させた。次にこの懸濁液を120℃まで昇温し、ジエチルアルミニウムクロライド68.1g(純度91.6質量%)を45分かけて滴下して反応させ、その後反応液を120℃で1時間熟成反応させることにより、ジエチルアルミニウムハイドライドを生成した。実施例1と同様にして濾過液から反応率を算出したところ、その反応率は98.8%であった。
【0029】
[実施例3]
窒素雰囲気下、水素化ナトリウム34.9g(純度65.4質量%)と1,3−ジイソプロピルベンゼン76.1gを反応容器内に装入し、懸濁させた。次にこの懸濁液を130℃まで昇温し、ジエチルアルミニウムクロライド121.2g(純度99.6質量%)を90分かけて滴下して反応させ、その後反応液を130℃で1時間熟成反応させることにより、ジエチルアルミニウムハイドライドを生成した。実施例1と同様にして濾過液から反応率を算出したところ、その反応率は99.2%であった。
【0030】
[比較例1]
窒素雰囲気下、水素化ナトリウム34.9g(純度65.4質量%)とn−ドデカン75.0gを反応容器内に装入し、懸濁させた。次にこの懸濁液を100℃まで昇温し、ジエチルアルミニウムクロライド121g(純度99.6質量%)を90分かけて滴下して反応させ、その後反応液を100℃で1時間熟成反応させることにより、ジエチルアルミニウムハイドライドを生成した。実施例1と同様にして濾過液から反応率を算出したところ、その反応率は21.0%であった。
【0031】
[比較例2]
窒素雰囲気下、水素化ナトリウム18.9g(純度61.6質量%)と鉱油(商品名ダウニーオイルKP−15)62.5gを反応容器内に装入し、懸濁させた。次にこの懸濁液を100℃まで昇温し、ジエチルアルミニウムクロライド26.0g(純度91.6質量%)を30分かけて滴下して反応させ、その後反応液を100℃で1時間熟成反応させることにより、ジエチルアルミニウムハイドライドを生成した。実施例1と同様にして濾過液から反応率を算出したところ、その反応率は19.0%であった。
【0032】
[比較例3]
窒素雰囲気下、水素化ナトリウム34.9g(純度65.4質量%)と1,3−ジイソプロピルベンゼン75.0gを反応容器に装入し、懸濁させた。次にこの懸濁液を90℃まで昇温し、ジエチルアルミニウムクロライド120.5g(純度99.6質量%)を90分かけて滴下して反応させ、その後反応液を90℃で1時間熟成反応させることにより、ジエチルアルミニウムハイドライドを生成した。実施例1と同様にして濾過液から反応率を算出したところ、その反応率は1.8%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキルアルミニウムハライドと金属水素化物を、100℃より高い温度で反応させる工程を含むアルキルアルミニウムハイドライドの製造方法。
【請求項2】
反応温度が、110℃以上である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
アルキルアルミニウムハライドと金属水素化物を、脂肪族炭化水素及び/又は芳香族炭化水素からなる溶媒の存在下で反応させる請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
金属水素化物が、アルカリ金属水素化物、アルカリ土類金属水素化物、水素化アルカリ金属錯体及び水素化アルカリ土類金属錯体からなる群より選ばれる化合物である請求項1〜3の何れか一項記載の製造方法。
【請求項5】
金属水素化物が、水素化ナトリウム又は水素化リチウムである請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
アルキルアルミニウムハライドが、ジアルキルアルミニウムクロライドである請求項1〜5の何れか一項記載の製造方法。
【請求項7】
アルキルアルミニウムハライドが、ジエチルアルミニウムクロライドである請求項6記載の製造方法。