説明

アルミニウム合金ブレージングシートおよびろう付け方法

【目的】フラックスを用いて不活性ガス雰囲気中でろう付けするために使用されるアルミニウム合金ブレージングシートであって、フラックスの塗布量を低減することができ、且つ、優れたろう付け性を達成することを可能とするアルミニウム合金ブレージングシートを提供する。
【構成】アルミニウム合金からなる心材の片面または両面に、Si:4〜11%を含み、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなる亜共晶アルミニウム合金ろう材と、Si:13〜20%以下を含み、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなる過共晶アルミニウム合金ろう材とを、過共晶アルミニウム合金ろう材が表面層となるように重ねてクラッドしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金ブレージングシートおよび該ブレージングシートからなる部材のろう付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Al−Si系ろう材をクラッドしたアルミニウム合金ブレージングシートからなる熱交換器などの部材をろう付け接合する方法としては、部材にフッ化物系フラックスを介在させ、窒素ガス炉中で600℃程度に加熱し、溶融したAl−Si系ろうにより接合部を形成させるというフラックスろう付け法と、Mgを含むAl−Si系ろう材を用いて、真空炉中で600℃程度に加熱する真空ろう付け法が一般的に用いられている。
【0003】
フラックスろう付け法においては、9〜11%のSiを含むJIS−BA4045合金や6.8〜8.2%のSiを含むJIS−BA 4343合金がAl−Si系ろう材として用いられ、また、真空ろう付け法においても、Si:9〜10.5%、Mg:1.0〜2.0%を含むJIS−BA4004合金やJIS−BA4004合金にさらにBi:0.02〜0.20%を含むJIS−BA 4104合金などがAl−Si系ろう材として用いられており、いずれも亜共晶組成のAl−Si系ろう材が適用されている。
【0004】
亜共晶組成のAl−Si系ろう材が適用する理由は、短時間で加熱昇温する熱交換器などのろう付けにおいては、板厚の薄いフィンと、板厚の大きいプレートでは昇温速度が異なり、被ろう付け物の部位によって温度差が生じ易く、共晶組成(Si:12.6%)のろう材を用いた場合、共晶温度を越えた部分のろうが局部的に激しく流動し易くなるため、ろうが母材を溶かしてしまったり、板厚の薄い部位が溶断してしまったりすることがあるためであり、ろうの過度な流動を抑制し、接合不良を起き難くするために、温度上昇に伴って徐々に溶融する亜共晶組成のAl−Si系ろう材が用いられている。
【0005】
また、アルミニウム材料をろう付け接合するためには、緻密で強固な酸化皮膜を破壊する必要があり、このため、前記のように、フッ化物系フラックスを用いるろう付け方法や、真空炉中で加熱する真空ろう付け法が適用されている。しかしながら、真空ろう付け法にはコスト上の問題などがあり、フッ化物系フラックスを用いるろう付け方法においては、酸化皮膜を破壊して良好な接合を得るために3g/m以上のフラックスを塗布する必要があり、塗布したフラックスはろう付け後も製品表面に残渣として存在するため、冷媒通路等が非常に微細な構造を有する場合には、フラックス残渣が微細構造部を埋めてしまい、熱交換性能が低下するなどの問題がある。
【0006】
一方、共晶組成(Si:12.6%)を超えるSiを含む過共晶組成のAl−Si系ろう材は、ろう材中に存在するSi粒子の表面にはアルミニウム酸化皮膜が生じ難いため、表面に生成するアルミニウムの酸化皮膜量を低減することができ、従って、酸化皮膜を破壊して良好な接合を得るためのフラックスの塗布量を低減することが可能となる。しかしながら、13%を超えるSiを含む過共晶組成のAl−Si系ろう材を用いた場合、余剰のSiが母材を溶融してしまうため、健全な接合品質を確保することが困難になるという問題が生じる。
【0007】
真空ろう付け用のアルミニウム合金ブレージングシートとして、Al−Mn系合金の芯材に、Si:7〜13%、Mg:0.2〜2%、Zn:0.5〜3%を含有するAl合金ろう材と、Si:1.7〜13%を含有するAl合金のZn蒸発抑制材とを重ねてクラッドしてなるものが提案されているが、フラックスを用いて不活性ガス雰囲気中でろう付けするために使用されるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−290271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明者らは、フラックスを用いて不活性ガス雰囲気中でろう付けするために使用されるアルミニウム合金ブレージングシートにクラッドされるろう材として、前記過共晶組成のAl−Si系ろう材の優位性を生かしたAl−Si系ろう材を得るために、種々の観点から試験、検討を行った結果、アルミニウム合金の心材に、亜共晶ろう材と過共晶ろう材とを重ねてクラッドし、過共晶ろう材が表面層となるようにした場合、ろうの過度な流動、過度の溶解による不具合の発生など、過共晶ろう材における問題点を防ぐことができ、優れたろう付け接合を得ることができることを見出した。
【0010】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、その目的は、フラックスを用いて不活性ガス雰囲気中でろう付けするために使用されるアルミニウム合金ブレージングシートであって、フラックスの塗布量を低減することができ、且つ、優れたろう付け性を達成することを可能とするアルミニウム合金ブレージングシートおよび該ブレージングシートからなる部材のろう付け方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための請求項1によるアルミニウム合金ブレージングシートは、フラックスを用いて不活性ガス雰囲気中でろう付けするために使用されるアルミニウム合金ブレージングシートであって、アルミニウム合金からなる心材の片面または両面に、Si:4〜11%(質量%、以下同じ)を含み、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなる亜共晶アルミニウム合金ろう材と、Si:13〜20%以下を含み、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなる過共晶アルミニウム合金ろう材とを、過共晶アルミニウム合金ろう材が表面層となるように重ねてクラッドしたことを特徴とする。
【0012】
請求項2によるアルミニウム合金ブレージングシートは、請求項1において、前記過共晶アルミニウム合金ろう材層が、Si:13〜20%、Sr:20〜500ppmを含み、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなり、前記亜共晶アルミニウム合金ろう材層が、Si:4〜11%、Sr:20〜500ppmを含み、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0013】
請求項3によるアルミニウム合金ブレージングシートは、請求項1または2において、前記過共晶アルミニウム合金ろう材層がさらに、Zn:0.5〜3.0%、Cu:0.05〜0.6%のうちの1種または2種を含有し、前記亜共晶アルミニウム合金ろう材層がさらに、Zn:0.5〜4.0%、Cu:0.05〜0.8%以下のうちの1種または2種を含有することを特徴とする。
【0014】
請求項4によるろう付け方法は、請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム合金ブレージングシートからなる部材を組み付け、フラックス塗布量を0.5g/m以上として、不活性ガス炉中でろう付けすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ろうの過度な流動、過度の溶解による不具合の発生など、過共晶ろう材における問題点を防ぐことができ、フラックスの塗布量を低減して、優れたろう付け性を達成することを可能とするフラックスを用いる不活性ガス雰囲気ろう付け用のアルミニウム合金ブレージングシートおよび該ブレージングシートからなる部材のろう付け方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例で用いる間隙充填試験片を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のアルミニウム合金ブレージングシートは、アルミニウム合金の心材に、亜共晶Al−Si合金ろう材(以下、亜共晶ろう材)と過共晶Al−Si合金ろう材(以下、過共晶ろう材)とを重ねてクラッドし、過共晶Al−Si合金ろう材が表面層となるようにしたことを特徴とするものであるが、過共晶ろう材の特徴について説明すると、Siを12.6%含有する共晶Al−Si合金ろう材では、Al中にSiが固溶したα相とSi相がデンドライト状に晶出し、共晶組織となっている。Siの含有量が12.6%未満の亜共晶ろう材では、α相とAl−Si共晶組織が混合した組織となっており、Siの含有量が12.6%を越える過共晶ろう材では、Al−Si共晶組織とSi粒が混合した組織となっている。
【0018】
過共晶ろう材に存在する粗大なSi粒子がろう材の表面に露出している場合、その粗大なSi粒の表面にはアルミニウムの酸化皮膜(Al)が生じ難く、また、Si粒の熱膨張係数とα相の熱膨張係数が異なるため、ろう材のα相表面に形成されるアルミニウム酸化皮膜は、ろう付け加熱時の熱膨張によってSi粒子の近くで亀裂を生じ易くなる。
【0019】
Si粒の表面では、Al−Si共晶組織の表面に形成された酸化皮膜より、酸化皮膜が破砕され易くなっているため、濡れ性が向上すると共に、継手でフィレットを形成し始める溶融ろうが自身の酸化皮膜を押し上げ易くなるため、フィレット形成能も向上する。この濡れ性の向上とフィレット形成能の向上により、ろう付け接合が可能となる。本発明は、過共晶ろう材を表面層とすることにより、過共晶ろう材が有する上記の特徴を生かすことができることを見出したことに基づいてなあれたものであり、本発明によれば、従来よりも少量のフラックスでろう付けが可能となる。
【0020】
また、過共晶ろう材とSi濃度の低いアルミニウム材が接した状態でAl−Siの共晶温度(577℃)以上に加熱すると、過剰のSiとアルミニウム材が溶融して共晶組成に近づくため、過共晶ろう材とアルミニウム合金の心材をクラッドした材料では、心材が溶融してしまうという問題が生じる。共晶組成に近いAl−Siろう材は、固相線温度と液相線温度の差が小さいために、ろう付け加熱においてろうが急激に溶融し、溶融したろうは流れ易くなって、ろうが流れる部位において過度な溶解を引き起こす。このことが、過共晶ろう材が実用化されない原因となっていた。
【0021】
本発明においては、上記の問題を解決するために、過共晶ろう材の内側に亜共晶ろう材を配置する。過共晶ろう材は、クラッド圧延によって亜共晶ろう材と金属的に結合されているから、過共晶ろう材は母材と反応する前に亜共晶ろう材と反応し、亜共晶ろう材は過共晶ろう材と同時に(Al−Siの共晶温度の577℃で)溶融を開始するため、過共晶ろう材から生じた溶融ろうは亜共晶ろう材の溶融ろうと直ちに融合する。例えば、Si14%を含む過共晶ろう材とSi6%を含む亜共晶ろう材が等量に金属接合されておれば、実質的に10%Siのろう材と同じ性質を示す。本発明によれば、過共晶ろう材が有する前記の特徴を失わせることなく、問題点を克服することができる。
【0022】
過共晶ろう材と亜共晶ろう材の各成分元素の意義およびその限定理由について説明する。
(過共晶ろう材)
Si:13〜20%
ろう材中のSi粒子が多くなると、ろう材表面のSi粒の面積が大きくなり、材料製造時およびろう付け加熱時にろう材表面に形成されるアルミニウムの酸化皮膜(Al)が生じ難くなる。また、ろう付け加熱時のSi粒子とアルミニウムマトリックスとの熱膨張差によってアルミニウムの酸化皮膜に亀裂が発生し易くなる。Siの好ましい含有量は13〜20%の範囲であり、13%未満ではその効果が小さく、20%を超えると、ろう材およびろう材をクラッドした板材が製造し難くなる。
【0023】
Sr:20〜500ppm
Srは、ろう材中のSi粒子を微細化するよう機能する。Srの好ましい含有量は20〜500ppmの範囲であり、20ppm未満ではその効果が小さく、500ppmを超えて含有させても効果が飽和し効率的でない。
【0024】
Zn:0.5〜3.0%
Znは、ろう材の融点を低下させるよう機能する。Znの好ましい含有量は0.5〜3.0%の範囲であり、0.5%未満ではその効果が小さく、3.0%を超えるとフィレットの電位が卑になり過ぎ、場合によっては接合部に貫通腐食が発生したり、接合強度が低下したりする。
【0025】
Cu:0.05〜0.6%
Cuは、ろう材の融点を低下させるよう機能する。Cuの好ましい含有量は0.05〜0.6%の範囲であり、0.05%未満ではその効果が小さく、0.6%を超えると腐食環境に曝された場合、カソードとして作用するため、他の部位に腐食が発生し易くなる。
【0026】
(亜共晶ろう材)
Si:4〜11%
亜共晶ろう材は、過共晶ろう材と同様にろう付け加熱時に溶融ろうを生成し、接合フィレットを形成する。亜共晶ろう材が無い場合には、過共晶ろう材のSi量が多いため、ろうの溶融に伴って心材の一部が溶融し、共晶組成を形成しようとする。亜共晶ろう材は、過共晶ろう材のSi量を薄め、心材を溶融させないよう機能する。過共晶ろう材のSi量が多く、過共晶ろう材層の厚さが大きい場合には、亜共晶ろう材のSi量を低くすると効果的である。亜共晶ろう材中のSiの好ましい含有量は4〜11%の範囲であり、4%未満ではろうを形成し難くなり、11%を超えると過共晶ろう材のSi量を薄める効果が少なくなり、心材の一部を溶融させてしまうおそれが生じる。
【0027】
Sr:20〜500ppm
Srは、ろう材中のSi粒子を微細化するよう機能する。Srの好ましい含有量は20〜500ppmの範囲であり、20ppm未満ではその効果が小さく、500ppmを超えて含有させても効果が飽和し効率的でない。
【0028】
Zn:0.5〜4.0%
Znは、ろう材の融点を低下させるよう機能する。Znの好ましい含有量は0.5〜4.0%の範囲であり、0.5%未満ではその効果が小さく、4.0%を超えるとフィレットの電位が卑になり過ぎ、場合によっては接合部に貫通腐食が発生したり、接合強度が低下したりする。
【0029】
Cu:0.05〜0.8%
Cuは、ろう材の融点を低下させるよう機能する。Cuの好ましい含有量は0.05〜0.8%の範囲であり、0.05%未満ではその効果が小さく、0.8%を超えると腐食環境に曝された場合、カソードとして作用するため、他の部位に腐食が発生し易くなる。
【0030】
(心材)
本発明のブレージングシートの心材としては、熱交換器用材料として通常用いられているものであればよく、特に限定されないが、強度を向上させるためにMn、Cu、Si、Feを含有させることができ、組織を制御するためにCr、Ti、Zrなどの元素を添加することができる。また、犠牲陽極効果を持たせた部材として使用する場合は、Zn、In、Snなどの元素を添加することもできる。
【0031】
(クラッドされる過共晶ろう材および亜共晶ろう材の層厚、クラッド率)
クラッドされる過共晶ろう材および亜共晶ろう材の層厚、クラッド率は適宜設定することができる。過共晶ろう材と亜共晶ろう材の平均Si濃度は6〜11%が好ましく、過共晶ろう材と亜共晶ろう材の合計のクラッド率は5〜25%が好ましい。
【0032】
(平均Si濃度)
前記平均Si濃度は、(過共晶ろう材のSi濃度×過共晶ろう材の層厚+亜共晶ろう材のSi濃度×亜共晶ろう材の層厚)/(過共晶ろう材の層厚+亜共晶ろう材の層厚)を計算することにより求められる。
【0033】
本発明において、アルミニウム合金からなる心材の片面に、亜共晶ろう材と過共晶ろう材をクラッドした場合には、心材の反対面には、一般的なAl−Si合金ろう材、犠牲陽極材、あるいは純アルミニウムなど、公知の皮材をクラッドすることができ、心材と皮材の間に中間材をクラッドすることもできる。
【0034】
本発明のブレージングシートの製造は、公知の技術を用いて行うことができる。すなわち、ブレージングシートの製造は、所定の組成を有する過共晶ろう材と亜共晶ろう材、心材、必要に応じて皮材、中間材を連続鋳造によって造塊し、得られたスラブを切断して所定の厚さに調整して重ね合わせ、あるいは必要に応じて均質化処理、熱間圧延して重ね合わせ、熱間圧延によりクラッド圧延し、その後、冷間圧延し、必要に応じて中間焼鈍を加えることにより行われる。
【0035】
本発明のアルミニウム合金ブレージングシートからなる部材を組み付け、不活性ガス炉中でろう付けする場合のフラックスとその塗布量について説明すると、通常のフラックスの機能を得るために用いるフラックスとしては、KAlF、KAlF、KAlF・HO、KAlF、AlF、KZnF、KSiFなどのフッ化物系フラックスや、CsAlF、CsAlF・2HO、CsAlF・HOなどのセシウム系フラックス等が挙げられる。
【0036】
塗装方法としては、チューブやヘッダなど、ろう材を有する部材の表面にフラックスとバインダの混合物を塗装する方法や、チューブ、ヘッダ、フィン、サイドサポートなどを組み付けて熱交換器に組み立てた後、フラックス粉末をふりかける方法やフラックス粉末を水などに懸濁させた液をスプレーで吹き付ける方法などが用いられる。
【0037】
フラックスの塗布量は0.5g/mが以上が好ましい。塗装量はフラックスの質量を、チューブ、フィン、ヘッダ、サイドサポートなど熱交換器としてろう付け加熱される全ての部材の総表面積を被塗装面積とし、フラックスの質量を被塗装面積で除して算出する。0.5g/m未満ではろう付け性が不十分となる。望ましくは3.0g/m以下とするのがよく、3.0g/mを超えると、ろう付け後の製品表面に残存するフラックスの残渣量が多くなり、表面処理が難しくなる場合がある。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、本発明の効果を実証する。なお、これらの実施例は本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されない。
【0039】
実施例1、比較例1
表1に示す組成を有する過共晶ろう材(A1〜A10、A11〜A14)、表2に示す組成を有する亜共晶ろう材(B1〜B10、B11〜B14)、表3に示す組成を有する心材(C1)(JIS3003合金相当材)を表4に示すように組み合わせ、前記常法に従って、片面ブレージングシート(厚さ0.4mm)1〜24、31〜39を作製した。
【0040】
過共晶ろう材および亜共晶ろう材の層厚は、それぞれ0.012mmおよび0.028mmとし、ろう材の合計厚さは0.04mm(クラッド率10%)とした。比較用として、心材(C1)の片面にAl−10%Siろう材(A11)(厚さ0.04mm)をクラッドした片面ブレージングシート(厚さ0.4mm)26〜30、および、心材(C1)の片面にAl−14%Siろう材(A1)(厚さ0.04mm)をクラッドした片面ブレージングシート(厚さ0.4mm)25を準備した。
【0041】
得られた片面ブレージングシート1〜24、25〜39を脱脂処理し、ノコロックフラックス(KFとAlFを基本組成とするフッ化物系フラックス)、CsFを主成分とするフラックスを、アセトンでスラリー状に希釈し、自然乾燥させることにより塗布した。塗布量は、塗布前後の試験片の質量を電子天秤で測定し、質量差を塗布面積で除した値とした。なお、ブレージングシート25〜26、31〜32についてはフラックス無塗布とした。これらのブレージングシート1〜24、25〜39について、以下の方法により間隙充填試験および耐食性試験を行った。
【0042】
間隙充填試験:図1に示すように、脱脂処理し、フラックスを塗布したブレージングシートを水平材とし、3003合金板(厚さ1mm)を垂直材として組み付けて間隙充填試験片を構成した。内容積0.4mの予熱室とろう付け室を備えた二室型炉からなる窒素ガス炉を使用し、間隙充填試験片をろう付け室に装入し、到達温度595℃でろう付け接合した。ろう付け条件は、窒素ガス炉の各室に20m/hの窒素ガスを送り込み、450℃から595℃までを約4分で昇温した。加熱終了時のろう付け室の酸素濃度は16〜24ppmであった。ろう付け室にて間隙充填試験片の温度が595℃に到達したら間隙充填試験片を予熱室に移し、予熱室にて550℃まで冷却後、間隙充填試験片を取り出して大気中で冷却した。冷却後の間隙充填試験片より間隙充填長さを測定してフィレット形成能を評価し、間隙充填長さが25mm以上のものをフィレット形成能が良好と評価した。
【0043】
耐食性試験:間隙充填試験片と同じく、ブレージングシートを水平材、3003合金板を垂直材として逆T字試験片を作製し、SWAAT試験をASTM G85に基づいて1か月間実施して、フィレットの腐食状況を観察することにより耐食性を評価し、耐食性試験において、フィレットの腐食により水平材と垂直材が分離してしまったものを耐食性不良(×)と評価した。評価結果を表4および表5に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

【0048】
【表5】

【0049】
表4にみられるように、本発明に従うブレージングシート1〜24はいずれも、フラックス塗布量が0.5g/mの少量でも.間隙充填試験において、間隙充填長さ26〜34mmのフィレットが形成され、良好なフィレット形成能を示した。腐食試験においても、フィレットの接合状態に異常は認められず、耐食性は良好であった。
【0050】
これに対して、表5に示すように、Al−14%Siろう材をクラッドしただけのブレージングシート25、Al−10%Siろう材をクラッドしただけのブレージングシート26は、フラックス無塗布では間隙充填試験においてフィレットを全く形成せず、フラックス塗布量0.3g/m(ブレージングシート27)、フラックス塗布量1.0g/m(ブレージングシート28)でもフィレット形成が僅かであり、フラックス塗布量3.0g/m以上(ブレージングシート29、30)の場合に良好な接合状態が得られた。なお、ブレージングシート25では、間隙充填試験において心材の一部に溶融が生じた。
【0051】
接合部の断面を観察したところ、前記本発明に従うブレージングシート1〜24の接合部は、従来のように、Al−10%Siろう材のみを40μmの厚さでクラッドし、フラックス塗布量を5.0g/mとして良好な接合状態が得られているブレージングシート30の接合部と同様な組織状態となっており、ろう材による母材の溶解量もほぼ同等であった。
【0052】
フラックスを塗布しないブレージングシート31、32はフィレット形成が僅かであり、過共晶ろう材において、Si含有量の多いブレージングシート33は製造が困難であった。Zn含有量の多いブレージングシート34、Cu含有量の多いブレージングシート35は、いずれも耐食性が劣っていた。
【0053】
亜共晶ろう材において、Si含有量の少ないブレージングシート36は、フラックス塗布量1.0g/mでは間隙充填試験において十分なフィレットが形成されなかった。Si含有量の多いブレージングシート37は、間隙充填試験において垂直材を一部溶融させた。Zn含有量の多いブレージングシート38、Cu含有量の多いブレージングシート39は、いずれも耐食性が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラックスを用いて不活性ガス雰囲気中でろう付けするために使用されるアルミニウム合金ブレージングシートであって、アルミニウム合金からなる心材の片面または両面に、Si:4〜11%(質量%、以下同じ)を含み、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなる亜共晶アルミニウム合金ろう材と、Si:13〜20%以下を含み、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなる過共晶アルミニウム合金ろう材とを、過共晶アルミニウム合金ろう材が表面層となるように重ねてクラッドしたことを特徴とするアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項2】
前記過共晶アルミニウム合金ろう材層が、Si:13〜20%、Sr:20〜500ppmを含み、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなり、前記亜共晶アルミニウム合金ろう材層が、Si:4〜11%、Sr:20〜500ppmを含み、残部アルミニウムおよび不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項3】
前記過共晶アルミニウム合金ろう材層がさらに、Zn:0.5〜3.0%、Cu:0.05〜0.6%のうちの1種または2種を含有し、前記亜共晶アルミニウム合金ろう材層がさらに、Zn:0.5〜4.0%、Cu:0.05〜0.8%以下のうちの1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または2記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム合金ブレージングシートからなる部材を組み付け、フラックス塗布量を0.5g/m以上として、不活性ガス炉中でろう付けすることを特徴とするろう付け方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−103265(P2013−103265A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250312(P2011−250312)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)