説明

アルミニウム合金板およびその製造方法

【課題】硫酸浴による陽極酸化処理しても黄色味発色を極力抑えることができ、かつ紅色味を帯びない淡緑白色系に発色するアルミニウム合金板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、Mg2.0〜3.0%、Cr0.15〜0.25%、Ti0.005〜0.20%、またはTi0.005〜0.20%およびB0.0005〜0.05%を含有し、残部Alおよび不可避不純物からなり、該不純物中のSiを0.15%以下、Feを0.4%以下、Mnを0.06%以下とし、前記Crの含有量をTCR%、Crの固溶量をSCR%としたとき、PCR=TCR−SCR≦0.065%であるアルミニウム合金板。上記の組成からなる鋳塊を均質化処理後に熱間圧延し、その後の冷間圧延で昇温および降温速度を100℃/秒以上で中間焼鈍し、冷間圧延後に昇温および降温速度を100℃/秒以上で安定化焼鈍を施すアルミニウム合金板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽極酸化皮膜が淡緑白のアルミニウム合金板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Al−Mg系合金板は、その製板過程で中間焼鈍され、所要の機械的特性を付与するために冷間圧延および焼鈍処理される。しかし、冷間加工後この系の合金は自然軟化して強度が安定しないので、必要に応じて冷間圧延後に安定化焼鈍が施される場合もある。
【0003】
アルミニウム合金板は硫酸浴による陽極酸化処理することで、表面が合金特有の色調を有し、建築用の内外装パネル、器物、家電製品、デジタルカメラやPC等の電機電子機器等に使用されている。例えば非熱処理合金で残留歪少なく加工精度の良いJIS5052合金板は硫酸浴による陽極酸化処理で黄色味を帯びた色調を発色する。この色調は再結晶粒微細化等のために添加される合金中のCrが原因と考えられ、黄色味を嫌う場合はCr無添加のアルミニウム合金板が上梓されている。
【0004】
特開平9−143602号公報は、不純物としてのCrを0.02%以下としたMnを0.10〜0.30%含有するAl−Mg系の合金板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−143602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はAl−Mg系の合金板であって、再結晶粒微細化等のためにCrが添加含有されている。しかしながら、Crを含有すると硫酸浴による陽極酸化処理で強い黄色味を帯びてしまい、白色系に発色するアルミニウム合金板が得られず、板の用途に制限がある。
【0007】
即ち、本発明は、硫酸浴による陽極酸化処理しても黄色味発色を極力抑えることができ、かつ紅色味を帯びない淡緑白色系に発色するアルミニウム合金板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、Crを含有するAl−Mg系合金板における黄色味の発色は、鋳造を含む製板過程において生成されるCr含有の金属間化合物によるものであるという知見を得て、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は下記(1)〜(4)のとおりである。
【0010】
(1)Mg2.0〜3.0質量%、Cr0.15〜0.25質量%、Ti0.005〜0.20質量%、またはTi0.005〜0.20質量%およびB0.0005〜0.05質量%を含有し、残部Alおよび不可避不純物からなり、該不純物中のSiを0.15質量%以下、Feを0.4質量%以下、Mnを0.06質量%以下とし、前記Crの含有量をTCR質量%、Crの固溶量をSCR質量%としたとき、TCR−SCRの値PCRが、PCR≦0.065質量%であることを特徴とするアルミニウム合金板。
【0011】
(2)上記(1)記載のアルミニウム合金板に硫酸陽極酸化皮膜が3〜12μm被覆されていることを特徴とする陽極酸化皮膜を備えたアルミニウム合金板。
【0012】
(3)上記(1)記載の組成からなる鋳塊を均質化処理後に熱間圧延し、その後の冷間圧延後の全ての焼鈍処理において、昇温および降温速度を100℃/秒以上とすることを特徴とするアルミニウム合金板の製造方法。
【0013】
(4)上記(3)記載の方法により得られたアルミニウム合金板に硫酸陽極酸化皮膜を3〜12μm被覆することを特徴とする陽極酸化皮膜を備えたアルミニウム合金板の製造方法。
【0014】
すなわち、本発明は、(1)硫酸陽極酸化処理に適したアルミニウム合金板、(2)硫酸陽極酸化皮膜を備えたアルミニウム合金板、(3)硫酸陽極酸化処理に適したアルミニウム合金板の製造方法、(4)硫酸陽極酸化皮膜を備えたアルミニウム合金板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のCrを含有するAl−Mg系合金板は、Cr含有の金属間化合物量を所定値以下とすることにより、硫酸浴による陽極酸化皮膜を被覆しても黄色味を極力抑えた淡緑白色に発色するアルミニウム合金板であるので、色調の選択範囲が拡がり、白色系が好まれる建築用の内外装パネルや器物、家電製品、デジタルカメラやPC等の電機電子機器等の筺体等に使用できる効果を有する。また、該合金板の製造方法は製板時の昇温降温速度を急速にする程度の技術応用で、前記効果を有する板を容易に提供できる効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、化学組成を限定する理由を説明する。
【0017】
<Mg:2.0〜3.0質量%>
MgはJISA5xxx系合金の主元素で、加工硬化のみで十分に強度付与するための元素であり、下限値未満ではパネル、器物に加工した場合強度不足となり、また上限値を超えると成形性に欠ける。
【0018】
Mgのみを含有するAl−Mg合金では硫酸電解浴系陽極酸化処理で表面の色調が淡灰色に発色する。
【0019】
<Cr:0.15〜0.25質量%>
CrはJISA5xxx系合金の中間焼鈍に際して再結晶粒を微細化するための元素で、下限値未満ではその効果が不足となり、また上限値を超えると本発明の製造方法であっても陽極酸化処理で黄色味を強く帯び不適当である。
【0020】
<Ti:0.005〜0.20質量%>または
<Ti:0.005〜0.20質量%およびB:0.0005〜0.05質量%>
TiまたはTiおよびBは、鋳造組織を微細化し、鋳造時に鋳塊の割れを有効に防止するための元素で、Ti単独添加でもいいが、TiとBを複合添加すると鋳造組織の微細化性能が向上し、鋳造時の鋳塊割れ防止性能が向上する。それぞれ含有量が下限値未満では微細化効果少なく鋳塊の割れ防止性能が低下する。上限値を超えるとAl−TiあるいはTi−Bの粗大な金属間化合物が晶出し、板の加工性・成形性を損ねる。Ti、またはTiおよびBの含有量は、返り材の選択、およびTi金属、Al−Ti母合金またはAl−Ti−Bの一種または二種以上を適宜選択添加して調整することができる。
【0021】
<不可避不純物>
不可避不純物は、意図的に添加する合金元素Mg,Cr,Ti(またはMg,Cr,TiおよびB)以外の元素を指し、通常の溶製方法では地金、返り材、母合金および治工具等から混入してしまう避けがたいものをいう。しかしながら、本発明においては、不可避不純物の混入量が多くなると、その元素特有の色を発色して本発明の特徴ある黄色味を抑えた淡緑白色の発色を損ねるので限定する必要がある。即ち影響の大きいSiは0.15質量%以下、Feは0.4質量%以下、Mnは0.06質量%以下である。その他の不可避不純物はZnは0.25質量%以下、Cuは各0.1質量%以下、好ましくは各0.05質量%以下である。その他の元素は各々0.05質量%以下に規制することが好ましい。
【0022】
<TCR−SCR=PCR≦0.065質量%>
ここで、TCRはCrの含有量(質量%)、SCRはCrの固溶量(質量%)、PCRは金属間化合物中のCrの量(質量%)であり、PCR=TCR−SCRで表わされる。
【0023】
黄色味はCr含有金属間化合物、例えばAl7Cr,Al11Cr,Al18Cr2Mg3等で表される化合物であって、入射光がこれらの化合物に反射し、黄色波長が優先され黄色味を強く呈するものと考えられる。
【0024】
《固溶Crの分析》
熱フェノールでAl分を溶解し、溶液中のCrをIPC発光分析法で分析して固溶Cr(SCR)を定量する。この方法でSCRの値が得られるので、Cr含有量(TCR)からTCR−SCR=PCRの値、即ち金属間化合物中のCr量(PCR質量%)の値が計算できる。
【0025】
《黄色味発色抑制のメカニズム》
このPCRの値は化合物として存在するCrの量であって、PCRの値が大きいということは、Cr含有化合物の量が多いということであり、したがって、入射光の内優先される黄色波長を呈する光線量が多く黄色味を強く呈するものと考えられる。このPCR値が0.065質量%以下であれば、Cr含有化合物の量も少なく、よって、黄色波長を呈する光線量が少なく黄色味を抑制できるものと考察できる。
【0026】
次に、本発明のアルミニウム合金板の好ましい製造方法を説明する。
発明の好ましい製造方法は次の工程を含む。
<1>鋳塊を均質化処理後熱間圧延し、その後の冷間圧延後に最終焼鈍処理する。
<2>鋳塊を均質化処理後熱間圧延し、その後の冷間圧延後に中間焼鈍処理し、次いで 冷間圧延し、最終焼鈍する。中間焼鈍処理は複数回可能。
<3>鋳塊を均質化処理後熱間圧延し、その後の冷間圧延後に中間焼鈍処理し、次いで 冷間圧延する。中間焼鈍処理は複数回可能。
<4>鋳塊を均質化処理後熱間圧延し、その後の冷間圧延後に中間焼鈍処理し、次いで 冷間圧延し、安定化焼鈍処理する。中間焼鈍処理は複数回可能。
<5>鋳塊を均質化処理後熱間圧延し、その後の冷間圧延後に調質焼鈍処理する。
<6>鋳塊を均質化処理後熱間圧延し、その後の冷間圧延後に中間焼鈍処理し、次いで 冷間圧延し、冷間圧延後調質焼鈍処理する。中間焼鈍処理は複数回可能。
【0027】
本発明に係るアルミニウム合金板は、本発明組成のもとで陽極酸化皮膜の色調がL値が75〜95、a値が−0.8〜0、b値が0〜2.0であることは新規なものであって、その製造条件は限定するものではないが、技術的関係の理解を深めるために、その最も好ましい製造法の例を示すと以下のとおりである。
【0028】
<1>の工程を更に説明する。
本発明組成の合金溶湯を溶製後半連続鋳造法(DC鋳造)等によって、好ましくはフィルターを通して鋳造し、圧延用鋳塊を得る。該鋳塊は表面を好ましくは5以上20mm程度まで面削して鋳塊表層部の不均一層を除去し、440〜560℃に1〜24時間程度またはそれ以上加熱保持して均質化熱処理をする。多段の均質化処理の場合は、少なくとも高温の段階が該温度条件を満たせばよい。この処理でβ相(Mg2Al3)の偏析、その他Crなどの局部的ミクロ偏析を軽減乃至解消する。
【0029】
次に熱間圧延で2〜10mm程度の厚さまで圧延を行う。この熱間圧延の過程で合金元素を微細な金属間化合物として析出させ、最終焼鈍処理で再結晶粒が微細化し、爾後の陽極酸化処理で色相を均整なものとする。
【0030】
<2>の工程を更に説明する。
<1>の工程と同様に熱間圧延を終了した圧延板は、常法による冷間圧延をし、中間焼鈍を施して軟化させO材とした後、圧延率を定めて冷間圧延して所要の厚さの板とし、次いで最終焼鈍を施す。中間焼鈍処理は複数回施してもよい。
【0031】
<3>の工程を更に説明する。
<1>の工程と同様に熱間圧延を終了した圧延板は、常法による冷間圧延をし、中間焼鈍を施して軟化させO材とした後、次いで圧延率を定めて冷間圧延して所要の機械的特性を付与する。中間焼鈍処理は複数回施してもよい。
【0032】
<4>の工程を更に説明する。
Al−Mg系合金は、冷間加工後自然軟化して強度が安定しないので、安定した材料を求められる場合は最終冷間圧延後に安定化処理を行う。即ち、<1>の工程と同様に熱間圧延を終了した圧延板は、常法による冷間圧延をし、中間焼鈍を施して軟化させO材とした後、最終冷間圧延し、安定化焼鈍を行う。中間焼鈍処理は複数回施してもよい。
<5>の工程を更に説明する。
Al−Mg系合金は、組成および冷間圧延率が既知であれば、冷間圧延後の加熱条件を定めることで機械的性質を予測できるので、<1>の工程と同様に熱間圧延を終了した板は、常法による冷間圧延で冷間圧延率を定めて圧延し、該圧延後調質焼鈍処理する。
<6>の工程を更に説明する。
Al−Mg系合金は、組成および冷間圧延率が既知であれば、冷間圧延後の加熱条件を定めることで機械的性質を予測できるので、<1>の工程と同様に熱間圧延を終了した板は、常法による冷間圧延をし、中間焼鈍を施して軟化させO材とした後、冷間圧延率を定めて圧延し、該圧延後調質焼鈍処理する。中間焼鈍処理は複数回実施してもよい。
【0033】
この中間焼鈍、最終焼鈍、安定化焼鈍および調質焼鈍の昇温および降温速度条件が本発明の色調を得るために重要である。即ちCrを含む金属間化合物の析出を極力抑制することにある。この中間焼鈍または最終焼鈍の条件は370〜500℃の温度に1〜100秒保持してO材とする。中間焼鈍後安定化焼鈍処理する場合は、付与強度の程度によって異なり、冷間圧延後、150〜250℃の温度に1〜100秒保持して安定化焼鈍を行う。
冷間圧延率を定めて冷間圧延し、該圧延後に調質焼鈍処理する場合は、最終的に求められる機械的性質によって条件が異なり、冷間圧延後、250〜370℃の温度に1〜100秒保持して調質焼鈍処理を行う。
【0034】
ここで、本発明の製造方法は、下記必ず施される(A)または必要に応じて施される(B)または(C)を特徴とする。
【0035】
<中間焼鈍、最終焼鈍、安定化焼鈍および調質焼鈍時の急速昇温・急速降温>
(A)上記の中間焼鈍、最終焼鈍もしくは両焼鈍の温度域への昇温および100℃までの降温速度を100℃/秒以上として、昇温および降温過程で生じるCrを含む金属間化合物の析出の抑制とその粗大化を防ぐ。
【0036】
(B)上記の必要に応じて施される安定化焼鈍温度域への昇温および100℃までの降温速度を100℃/秒以上として、前記の(A)と同じく昇温および降温過程で生じるCrを含む金属間化合物の析出の抑制とその粗大化を防ぐ。
(C)上記の調質焼鈍処理温度域への昇温および100℃までの降温速度を100℃/秒以上として、前記の(A)と同じく、昇温および降温過程で生じるCrを含む金属間化合物の析出の抑制とその粗大化を防ぐ。
これらの焼鈍処理は、例えば、電磁誘導式加熱炉を用いて昇温し、水冷により降温すれば可能である。
【0037】
上記(A)または必要に応じて施される(B)または(C)の条件を共に満たす急速昇温・急速降温により焼鈍を行なって得られたアルミニウム合金板は、爾後の陽極酸化処理でCrを含む金属間化合物による黄色味発色を抑制でき、黄色味を帯びない淡緑白色に発色させることができる。
【0038】
なお、熱間圧延と冷間圧延とを上記のように別個の工程として行なってもよいし、熱間圧延温度域から冷間圧延温度域まで連続して一貫工程として行なってもよい。後者の熱間・冷間一貫工程の場合、冷間圧延温度域においては、上記冷間圧延に関する事項は全て適用される。
【0039】
<陽極酸化処理の条件>
本発明によるアルミニウム合金板は硫酸浴による陽極酸化処理に供される。その条件は限定するものではないが、最も好ましい条件を示せば以下のとおりである。即ち製板に際して圧延工程で圧延油を使用するので板表面の付着油分を除去するために通常、硝酸を3〜20質量%程度含有した酸性水溶液中に浸漬する。油分の除去された圧延板は、表面の酸化物を除去し、爾後の硫酸浴による陽極酸化処理で陽極酸化皮膜を均一に形成させるために、水洗後苛性ソーダを5〜30質量%程度含有するアルカリ性水溶液中に浸漬し、エッチングして表層数μmを除去する。このアルカリ処理でエッチングされた圧延板は、水洗後硫酸を10〜30質量%含有する硫酸浴中で、圧延板を陽極として、陽極電流密度0.5〜5A/dm2、好ましくは1〜3A/dm2とし、電解浴温5〜30℃、好ましくは10〜30℃、電解時間10〜120分で電解処理を施し、皮膜厚さとして3〜12μm生成させる。この皮膜厚さ範囲で、UCSによる表示方法に従って示すと、皮膜色調がL値75〜95、a値−0.8〜0、b値0〜2.0である明るい黄味の抑制された淡緑白に発色した自然発色皮膜が得られる。
【0040】
<陽極酸化皮膜の厚さ:3〜12μm>
陽極酸化皮膜の厚さは、3μm未満であると耐食性、耐引っ掻き疵性が不十分であり、逆に12μmを超えると黄色味が強くなり、好ましい淡緑白が得られない。したがって、陽極酸化皮膜の厚さは3〜12μmの範囲内に限定する。
【0041】
<陽極酸化処理後の色調>
陽極酸化処理後の色調の表示方法はUCSによるもので、このUCSは、JISZ8729とJISZ8730で規定される。即ち、JISZ8729はL表色系及びLuv表色系による物体色の表示方法、JISZ8730は色差表示方法で解説されている。
【0042】
JISZ8730に示されるL値は明度を示し、数値が高いほど明るい色調となる。a値、b値は色相を示し、赤味を帯びるとa値が高くなり、0より小さくなるほど緑色味を帯びる。これに対して黄味を帯びるとb値が高くなり、0より小さくなるほど青色味を帯びる。本発明のアルミニウム合金板の硫酸浴によって得られる色調は、L値が75〜95、a値が−0.8〜0、b値が0〜2.0であって、黄色味を極力抑えた淡緑白である。
【実施例1】
【0043】
前記<2>の工程で製造される板を用いて更に説明する。
表1に示す組成の合金溶湯を溶製後、フィルターを通過させてDC鋳造法で厚さ560mmの圧延用鋳塊を得た。この鋳塊の表面を10mm面削し、440℃の温度に2時間保持し、さらに加熱して540℃の温度に4時間保持して均質化処理した。
次いで各鋳塊の熱間圧延は530℃の温度で開始し、厚さ8mmまで圧延した。熱間圧延終了時の熱延板の温度は360℃であった。
該8mmの圧延板を冷間で3mmまで圧延した。この3mm板を昇温および100℃までの降温速度を変動させて425℃の温度に10秒保持して中間焼鈍しO材とした。
次に厚さ1mm(圧延率67%)まで冷間圧延した。この1mm板を昇温および100℃までの降温速度を変動させて425℃の温度に10秒保持して最終焼鈍した。
次にテンションレベラをとおして平坦度を出し、100mm×100mmに切断して次の陽極酸化皮膜処理の試料とした。
【0044】
陽極酸化皮膜処理工程は以下のとおりである。
【0045】
各試料の表面を有機溶剤で洗浄して脱脂し、液温50℃、8%苛性ソーダ水溶液に2分浸漬して苛性処理し、水洗後液温20℃、10質量%硝酸水溶液に1分浸漬して中和した。このようにして前処理した各試料を、次に浴温18℃、15質量%硫酸浴、電流密度1A/dm2、処理時間を振らせて種々厚さの酸化皮膜を生成させた。水洗後95℃の温水で封孔処理し乾燥させた。次いでMINOLTA CM508i装置で色調を測定した。結果を表2に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
表2の結果より、Al−Mg合金でCrが規定範囲内であれば含有していても、中間焼鈍および最終焼鈍処理の昇温および降温速度が共に規定速度以上である本発明例(試料番号2−1,2−2,2−3の内の本発明例)は、陽極酸化皮膜の色調が黄色味の抑制された淡緑白色であることが判る。一方、Cr量が規定範囲より大きく外れている比較例(試料番号2−4)は、昇温および降温速度が共に規定速度以上であってもPCR値も高く黄色味の強い灰色になっていることが判る。
また、皮膜厚さを規定範囲を超える15μmとした比較例(試料番号2−1,2−2,2−3の皮膜厚さ15μm)は緑色味と黄色味が強く発色してしまうことが判る。
更に、化学組成が本発明例であっても、昇温および降温速度のいずれかが規定範囲より遅い場合(試料番号2−5,2−6)は、PCR値も高く黄色味の強い灰色になっていることが判る。
【実施例2】
【0049】
前記<4>の工程で製造される板を用いて更に説明する。
表1に示す組成の合金溶湯を溶製後、フィルターを通してDC鋳造法を行い厚さ560mmの圧延用鋳塊を得た。この鋳塊の表面を10mm面削し、440℃の温度に2時間保持し、さらに加熱して540℃の温度に4時間保持して均質化処理した。
【0050】
次いで各鋳塊の熱間圧延を530℃の温度で開始し、厚さ6mmまで圧延した。熱間圧延終了時の熱延板の温度は360℃であった。
【0051】
該6mmの圧延板を冷間で1.5mmまで圧延した。この1.5mm板を昇温速度および100℃までの降温速度をそれぞれ変えて425℃の温度に10秒保持して中間焼鈍しO材とした。
【0052】
次に厚さ1mm(圧延率33%)まで冷間圧延した。この1mm板を昇温および100℃までの降温速度を変動させて220℃の温度に10秒保持して安定化焼鈍した。
【0053】
次にテンションレベラをとおして平坦度を出し、100mm×100mmに切断して、実施例1と同様に陽極酸化皮膜処理した。その後、実施例1と同様に色調を測定した。結果を表3に示す
【0054】
【表3】

【0055】
表3の結果より、Al−Mg合金でCrが規定範囲内であれば含有していても、中間焼鈍および安定化焼鈍処理の昇温および降温速度が共に規定速度以上である本発明例(試料番号3−1,3−2,3−3の内の本発明例)は、陽極酸化皮膜の色調が黄色味の抑制された淡緑白色であることが判る。
【0056】
一方、Cr量が規定範囲より大きく外れている比較例(試料番号3−4)は、昇温および降温速度が共に規定速度以上であってもPCR値も高く黄色味の強い灰色になっていることが判る。
【0057】
また、皮膜厚さを規定範囲を超える15μmとした比較例(試料番号3−1,3−2,3−3の皮膜厚さ15μm)は、緑色味と黄色味が強く発色してしまうことが判る。
【0058】
更に、化学組成が本発明例であっても、昇温および降温速度のいずれかが規定範囲より遅い場合(試料番号3−5,3−6)は、PCR値も高く黄色味の強い灰色になっていることが判る。
なお、実施例1および2で実証した<2>および<4>以外の前記<1>、<3>、<5>および<6>で説明される工程で製造された規定範囲内の組成のアルミニウム合金板に関しては、冷延圧延後の全ての焼鈍処理に際して、昇温および降温速度を100℃/秒以上とすることで、規定範囲内の陽極酸化後の色調が規定内のL値、a値、b値が得られ、目視で黄色味のない淡緑白色が得られたことが確認されている。
【実施例3】
【0059】
実施例2の条件で製板した試料番号3−2の冷間圧延後1mmの板において、冷間圧延後の安定化焼鈍を施さない冷間圧延後1日目の板と10日目の板の機械的性質、および冷間圧延後の安定化焼鈍を施した安定化焼鈍後1日目の板と、10日目の板の機械的性質を測定した。結果を表4に示す。
【0060】
【表4】

【0061】
表4の結果より、安定化焼鈍を施した板(試料番号4−2)の機械的性質は10日経ても安定しているのに対して、安定化焼鈍を施していない板(試料番号4−1)の機械的性質は10日も経ると大きく変動していることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、硫酸浴による陽極酸化処理しても黄色味発色を極力抑えることができ、かつ紅色味を帯びない淡緑白色系に発色するアルミニウム合金板およびその製造方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg2.0〜3.0質量%、Cr0.15〜0.25質量%、Ti0.005〜0.20質量%、またはTi0.005〜0.20質量%およびB0.0005〜0.05質量%を含有し、残部Alおよび不可避不純物からなり、該不純物中のSiを0.15質量%以下、Feを0.4質量%以下、Mnを0.06質量%以下とし、前記Crの含有量をTCR質量%、Crの固溶量をSCR質量%としたとき、TCR−SCRの値PCRが、PCR≦0.065質量%であることを特徴とするアルミニウム合金板。
【請求項2】
請求項1記載のアルミニウム合金板に硫酸陽極酸化皮膜が3〜12μm被覆されていることを特徴とする陽極酸化皮膜を備えたアルミニウム合金板。
【請求項3】
請求項1記載の組成からなる鋳塊を均質化処理後に熱間圧延し、その後の冷間圧延後の全ての焼鈍処理において、昇温および降温速度を100℃/秒以上とすることを特徴とするアルミニウム合金板の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の方法により得られたアルミニウム合金板に硫酸陽極酸化皮膜を3〜12μm被覆することを特徴とする陽極酸化皮膜を備えたアルミニウム合金板の製造方法。

【公開番号】特開2011−179094(P2011−179094A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46723(P2010−46723)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)