説明

アルミニウム押出材

【課題】ムシレ欠陥を有利に軽減したアルミニウム押出材を提供することを目的とする。
【解決手段】シルバーアルマイト処理後に艶有り電着塗装を施されたアルミニウム押出形材の表面を、押出方向と直交する方向で測定した45°−0°拡散反射率が1.5以上3.0以下、かつ押出方向と平行する方向で測定した45°−0°拡散反射率が0.3以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばトラック用アオリやスパンドレルなど、表面品質が重視される製品で、アルミニウム押出形材をアルマイト、特にシルバーアルマイト処理される製品に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、トラックのアオリは、アルミニウム押出形材をシルバーアルマイト処理した後、複数の部材を組み合わせて構成される。特に表面外観品質が重視されるため、表面に微小な欠陥が目に付くものはユーザーから敬遠され、例えば1mmにも満たない微小なムシレ状の欠陥についても実用上の有害性は無いが表面重視の観点から不良品として取り扱われ、アルマイトまでの処理費用ならびに再製作費用によるコスト増大が問題になっている。
【0003】
特許文献1では、ダイスマークやムシレ等の表面欠陥がなく、優れた表面品質をもつ押出形材の製造に適したアルミニウム押出加工用ダイスに関して、そのベアリング部の表面粗さや形状等の条件が開示されている。
【0004】
また、特許文献2においては、ダイスマークやムシレ等の欠陥を生じさせることなく、従来より高速の押出を実現するため、雌型に冷却媒体通路を形成する溝を設けて、効果的にベアリング部を冷却する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−237816号公報
【特許文献2】特開平8−267121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記ムシレ状欠陥については、押出材の状態では判別することができず、アルマイト後に初めて発見されるものである。これは押出材に巻込まれたビレット中の介在物がアルマイト処理におけるエッチング工程で脱落し、微小なピットができるためである。そして、ビレット中の介在物を除去するフィルタによりある程度欠陥を抑制できるものの完全ではなく欠陥をゼロにすることはできない。したがって、前記のように、特許文献1あるいは特許文献2に記載されたような方法によっては、ムシレ状欠陥を軽減することはできなかったのである。
【0007】
また、介在物が脱落しないようにアルマイトのエッチングを極めて短時間にすることでムシレ状欠陥を減少させることもできるが、表面のスリキズを除去するため、一定時間エッチングする必要があるため、エッチングの短縮化は効果的ではない。一方、ヘアライン加工やブラスト処理など表面を荒らすことによりムシレを除去または隠蔽することは可能であるが、そのための製造コストが高くなる。
ここにおいて、本発明は上記のような課題を解決するためになされたものであって、ムシレ
欠陥を有利に軽減したアルミニウム押出材を提供することを目的とする。
なお、ここではアルミニウムは、アルミニウム及びアルミニウム合金を総称するものとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、シルバーアルマイト処理されたアルミニウム押出形材であって、該押出形材の表面において押出方向と直交する方向で測定した45°−0°拡散反射率が1.5以上3.0以下であり、かつ押出方向と平行する方向で測定した45°−0°拡散反射率が0.3以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアルミニウム押出材は、該押出形材の表面において押出方向と直交する方向で測定した45°−0°拡散反射率が1.5以上3.0以下であり、かつ押出方向と平行する方向で測定した45°−0°拡散反射率が0.3以上とすることにより、ムシレ欠陥等を軽減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】押出方向と直交する方向における45°-0°拡散反射率を測定する方法を示す図である。
【図2】押出方向と平行方向における45°−0°拡散反射率を測定する方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
アオリを例に説明すると、通常アオリはホロー形材からなり、ポートホールダイスを用いて製造される。オス型及びメス型が一対で構成されるポートホールダイスでは、コンテナ内に装填されたビレットと呼ばれる円柱状のアルミニウム鋳塊がプレス機により加圧され、ダイスに押し付けられる。該ビレットは約500℃に加熱されているため変形して、複数あるポートにメタルとして流入し、チャンバー内で溶着して、製品形状をなすオリフィスを通過して所定形状が得られる。このとき、押出ダイスのメス型のベアリングによって押出材の外形が形成され、オス型マンドレルにあるベアリングによって押出材の内形が形成されるのである。
【0012】
該押出材の表面はベアリング面で形成されるため、その仕上げ状態が押出材表面性状を支配する。アルミニウムがベアリングを通過する際、ベアリング面との摺動痕が発生し、これがダイラインと呼ばれ押出方向に沿う連続的な引っ掻き傷のような外観を呈する。一般的に表面品質が要求される形材では表面粗さを小さくするため、ベアリング面粗さが研磨などにより極力小さくなるように仕上げられる。しかし表面が平滑になるほど、アルマイト処理後に、ムシレ状欠陥が目立つ結果となる。
【0013】
そこで本発明では、押出後の状態で所定のダイラインを付与して、アルマイト処理後にもそのダイラインが残存することにより、ヘアライン加工を施したような方向性を有する表面外観にしてムシレ状欠陥を目立たなくするものである。
【0014】
しかしアルマイト処理においては、アルマイト処理の後で電着塗装されることが多く、アルマイト処理後の表面粗さを直接測定することは困難であるが、押出方向と直交する方向において測定した拡散反射率によってダイラインの評価が可能であることが判明した。前記拡散反射率が1.5以上である場合、ダイラインの残存が明確に認められるが、前記拡散反射率が1.5未満の場合はダイラインの残存が明確には認められない。一方、ダイラインの残存が顕著な場合は逆に筋っぽい表面となって表面品質を低下させ、前記拡散反射率が3.0より大きい場合、ダイラインによる筋目が美観を低下させ、商品価値がないため不良品となる。かつ、アルマイト処理におけるエッチングの度合いはエッチングピットの程度で評価することが有効であり、押出方向と平行する方向において測定した拡散反射率が0.3以上あることが必要で、0.3を下回る場合はエッチングが不足しており、ムシレやスリキズを完全には消滅することができない恐れがある。
【0015】
したがって、押出形材の表面において押出方向と直交する方向で測定した45°−0°拡散反射率が1.5以上3.0以下であり、かつ押出方向と平行する方向で測定した45°−0°拡散反射率が0.3以上とすることにより、ダイラインを抑制すると共にムシレやスリキズを消滅させることができるのである。
【0016】
上記の45°−0°拡散反射率を得る方法を具体的に説明する。
前述の通り、押出ダイスのベアリング面の仕上げ状態が押出材の表面性状を支配する。そのため、該ベアリング面の表面粗さRy(最大高さ)を5μm超え7μm以下とすることが好ましい。該ベアリング面の表面粗さRyが5μm以下の場合は、ダイラインを軽減することができるもののムシレやスリキズを軽減することができない。なお、上記の表面粗さRyは、例えば、ワイヤ放電加工機の電流値を調整することによって所定の表面粗さとするか、ダイヤモンドヤスリ等を用いて押出ダイスのベアリング面を周方向に研磨することに得ることができる。
【0017】
また、アルマイト処理時のエッチング条件を次のように調節することが好ましい。
水酸化ナトリウム水溶液の濃度:45〜55g/リットル
水酸化ナトリウム水溶液の温度:50〜55℃
水酸化ナトリウム水溶液中の浸漬時間:5〜20分浸漬
【0018】
押出材の表面の反射率測定方法について説明する。図1に、押出方向と直交する方向における45°-0°拡散反射率を測定する方法を示す。押出材を、その押出方向に対して光沢度計からの入射光が直交するように置き、かつ、入射光の入射角を45°とし、該入射光が押出材の表面で反射した光を、押出材の表面に対して90°の方向で受光する。そして、受光量/入射光量から、押出方向と直交する方向で測定した45°−0°拡散反射率が得られる。図2に、押出方向と平行方向における45°−0°拡散反射率を測定する方法を示す。押出材を、その押出方向に対して光沢度計からの入射光が平行に成るように置き、かつ、入射光の入射角を45°とし、該入射光が押出材の表面で反射した光を、押出材の表面に対して90°の方向で受光する。そして、受光量/入射光量から、押出方向と平行方向で測定した45°−0°拡散反射率が得られる。
【0019】
なお、アルマイト処理によって付与される皮膜の厚さは、5μm以上15μm以下であることが望ましい。また、艶有り電着塗装による塗膜厚さは、5μm以上20μm以下であることが望ましい。
【実施例】
【0020】
押出ダイスのベアリング部の表面粗さをダイヤモンドヤスリを用いて研磨して調節することによって押出材の表面粗さを変更し、また、アルマイト処理におけるエッチング条件を変更して、表面状態の異なる試験材を作製した。得られた試験材についてその表面の反射率を測定し、外観目視検査によって試験材の表面の良否を判定した。アルミニウム押出材は、組成がA6063、直径が254mmに鋳造したビレットを直接押出法によって、押出機の出側における押出材の表面温度としての押出温度が500℃、押出速度が8m/minとなるように押出すことにより、幅180mm、高さが25mm、肉厚が1.5mmの角パイプ形状とした。ダイスは4つのポートを有するポートホールダイスとし、ここでベアリング面の粗さは、押出と直角方向に測定した最大表面粗さが3、5、7あるいは10μmとした。このようにして得られたアルミニウム押出材を、アルマイト処理の前処理として水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬することによりエッチングしたが、ここで水酸化ナトリウム水溶液の濃度は50g/リットル、水酸化ナトリウム水溶液の温度は50℃、浸漬時間を2、6、10分とした。その後に厚さ6μmのアルマイト皮膜を付与し、さらに厚さ7μmの艶あり電着塗装を施した。
【0021】
上記艶あり電着塗装を施した試験材の評価結果を表1に示す。拡散反射率は光沢度計を用いて測定した。ただし、押出材の表面粗さは、押出後に測定したものである。本発明の範囲内である試験材では、目視によるムシレ状欠陥は発見されず。他の不具合も認められなかった。
【0022】
一方、押出方向と平行方向に測定した反射率が0.3を下回るとダイラインが残存しておりエッチングが不十分でスリキズを消滅することができず不良品が多く発生した。また押出方向と直交する方向に測定した反射率が1.5より小さい場合、表面が非常に滑らかであるが、エッチングによるムシレ状欠陥が目視で発見された。さらに押出方向と直交する方向の反射率が3.0を上回るとダイラインが強調された表面で筋目が強いことにより商品として採用することができなかった。
【0023】
【表1】

【符号の説明】
【0024】
1 押出材
2 押出方向
3 光源
4 受光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シルバーアルマイト処理後に艶有り電着塗装を施されたアルミニウム押出形材であって、該押出形材の表面において押出方向と直交する方向で測定した45°−0°拡散反射率が1.5以上3.0以下であり、かつ押出方向と平行する方向で測定した45°−0°拡散反射率が0.3以上であることを特徴とするアルミ押出形材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−166223(P2012−166223A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28257(P2011−28257)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】