説明

アンテナ・ダイバーシチ装置及びアンテナ・ダイバーシチ方法

【課題】アンテナ・ダイバーシチ装置において、同一フレームにおいて複数のアンテナの受信電界強度比較を行うことで、受信に最適なアンテナを選択できる構成を得る。
【解決手段】送受信電波が入力される複数のアンテナを選択的に切り換えるアンテナ切換スイッチと、切り換え動作を制御するアンテナ切換制御部と、各アンテナから受信した受信電界情報信号を出力する受信機と、前記各受信電界情報信号から受信を行うアンテナを決定する演算処理を行う受信電界強度処理部とを備えた装置において、受信電界強度処理部10は、前記受信電界情報信号のプリアンブル部で各アンテナあたり複数の受信電界情報をサンプルすることで各受信電界情報信号の傾きを演算処理により検出する電界強度演算部13を有し、前記アンテナ切換制御部4が前記電界強度演算部の演算処理結果に基づいてアンテナ切換を行うことで、プリアンブル部に続く有効な受信データを受信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数系統のアンテナを備えたTDMA/TDD方式におけるダイバーシチ制御機能を有した無線通信システムに関し、特に、常に受信状態が良好なアンテナを選択することが可能なアンテナ・ダイバーシチ装置、及び、アンテナ・ダイバーシチ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムの携帯局と基地局との通信においては、電波伝搬環境により受信信号レベルが変動するいわゆるフェージングが発生する。フェージングによる電界強度の深い落ち込みを救済するために、アンテナ選択ダイバーシチ方式が一般的に用いられている。アンテナ選択ダイバーシチ方式では、複数のアンテナと複数の受信機を備えて受信状態が良いほうのアンテナを選択して受信する。
【0003】
アンテナ選択ダイバーシチ方式の具体例としては、二つのアンテナ及び受信機を有する無線通信システムにおいて、主幹系及び補助系のアンテナに対する受信電界強度情報(RSSI)を同時に測定し、その比較結果で、次の1フレーム分の送受信系を選択していた。
【0004】
この種のアンテナ選択ダイバーシチ方式においては、複数個の受信機を備えて構成することが必要であり、コストアップを招くという課題があった。これを改善するために、特許文献1では、TDMA/TDDの無線通信方式において、受信フレームのプリアンブル部で、前フレームと異なるアンテナで受信電界強度を測定し、前フレームの測定結果と比較し、レベルの高い方でフレーム同期以降の有効データ受信する方式が提案されている。
【0005】
すなわち、特許文献1に記載されたダイバーシチ方式は、送信機と、送信データを変調する変調器と、信号を受信する受信機と、受信データを復調する復調器と、送受信電波をキャッチする複数のアンテナと、複数のアンテナのそれぞれを送信機または受信機に選択的に切り替え接続するアンテナ切換スイッチと、送受信動作およびアンテナ切換動作をコントロールする制御部とを有し、前記制御部により受信時のアンテナ選択を行なうTDMA/TDD無線通信装置のアンテナ・ダイバーシチ方法において、前記複数のアンテナを、受信TDMAスロットの受信電界強度測定開始の都度、受信フレームの直前スロットにおいて前フレームの受信TDMAスロットと異なるアンテナに切り替え、前記受信フレームのうちのプリアンブル部で電界レベルを測定し、前フレームでの測定結果と比較し、その結果により今回の受信レベルが低い時のみ、同じ受信フレームのうちのフレーム同期部で再度切り替えて、以後有効データの受信を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3081076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、複数のアンテナを受信TDMAスロットの受信電界強度測定開始の都度、受信フレームの直前スロットにおいて前フレームの受信TDMAスロットと異なるアンテナに切り替え、前記受信フレームのうちのプリアンブル部で電界レベルを測定し、前フレームでの測定結果と比較し、その結果により今回の受信電界レベルが低い時のみ、同じ受信フレームのうちのフレーム同期部で再度切り替えて、以後有効データの受信を行うという特許文献1に記載の方式においては、受信電界強度の比較は現在のフレームと、5ミリ秒前のフレームとの測定結果の比較を行うので完全に同時刻の受信電界強度の比較を行うわけではない。
そのため、フェージングの速度が速いとき等は、1〜2m秒の期間で発生するフェージングの深い落ち込みを正確に検出することができずに、必ずしも受信電界強度の高いアンテナが選択されない場合があるという問題点があった。
【0008】
例えば、図10に示すように、第1アンテナ及び第2アンテナによる受信状態が受信電界強度(RSSI信号)でフェージングによって変動している場合を例に説明する。
フェージングの周期は電波の周波数と移動速度によって異なるが、PHSシステムにおいて時速10km程度の速度で移動した場合においてもフェージング周波数は20Hz程度になり、フェージングの深い谷間は1〜2msになる。
【0009】
このような受信状態の場合、時刻Aにおいてはアンテナ2の受信電界強度がアンテナ1の受信電界強度よりも高い値なので、アンテナ2が選択され、好適なアンテナ選択ダイバーシチが実現される。
その一方、時刻Bにおいてはアンテナ2の受信電界強度がアンテナ1の受信電界強度よりも高い値なのでアンテナ2が選択されるが、1フレーム後には受信電界強度がフェージングによって大きく落ち込んでいるので、1フレーム前の受信電界強度情報との比較によるアンテナ選択では、受信電界強度が低いほうのアンテナを選択してしまうという結果になる。
図10のような受信電界強度の深い落ち込みがある受信状態においても、複数の受信系統を備えることなく、受信電界強度が高いほうのアンテナを正確に選択可能な方式の実現が望まれていた。
【0010】
本発明は上記実情に鑑みて提案されたもので、TDMA/TDD方式の受信機において複数の受信系統を具備することなく、同一フレームにおいて複数のアンテナの受信電界強度比較を行うことを可能とすることで、受信に最適なシステムを構成することができるアンテナ・ダイバーシチ装置及びその方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため本発明は、受信バーストの先頭期間(プリアンブル部の期間は16μ秒)に、スイッチにより二つのアンテナを交互に選択し、それぞれのアンテナに対する電界レベルを測定する。
一般的には受信バーストの先頭期間(PHSにおいては16μ秒)は両方のアンテナの電界レベルを測定するには短すぎる。その結果、真の受信レベルが測定できず、誤ったアンテナが選択される可能性がある。
そこで、本発明においては、受信バースト先頭期間内に真のRSSIの値を推測するために、1アンテナあたり少なくとも2点の電界情報をサンプルすることで傾きを検出して真の受信電界情報を推測し、どちらのアンテナの受信レベルが高いかを判断することによって、受信電界レベルの大きいほうのアンテナを選択するものである。
【0012】
すなわち、本発明のアンテナ・ダイバーシチ装置(請求項1)は、送受信電波が入力される複数のアンテナと、該複数のアンテナを選択的に切り換えるアンテナ切換スイッチと、前記切り換え動作を制御するアンテナ切換制御部と、前記各アンテナから受信した受信電界情報信号を出力する受信機と、前記各受信電界情報信号から受信を行うアンテナを決定する演算処理を行う受信電界強度処理部とを備えた装置において、
前記受信電界強度処理部は、
前記受信電界情報信号のプリアンブル部で各アンテナあたり複数の受信電界情報をサンプルすることで各受信電界情報信号の傾きを演算処理により検出する電界強度演算部を有し、
前記アンテナ切換制御部が前記電界強度演算部の演算処理結果に基づいてアンテナ切換スイッチを動作させてアンテナ切換を行うことで、選択されたアンテナで受信電界情報信号のプリアンブル部に続く有効な受信データを受信する
ことを特徴としている。
【0013】
請求項2は、請求項1のアンテナ・ダイバーシチ装置において、
前記受信電界強度処理部は、
検出された各受信電界情報信号の傾きを基に、各受信電界情報信号の収束値を推定する演算処理を行うことを特徴としている。
【0014】
本発明のアンテナ・ダイバーシチ方法(請求項3)は、送受信電波が入力される複数のアンテナと、該複数のアンテナを選択的に切り換えるアンテナ切換スイッチと、前記切り換え動作を制御するアンテナ切換制御部と、前記各アンテナから受信した受信電界情報信号を出力する受信機と、前記各受信電界情報信号から受信を行うアンテナを決定する演算処理を行う受信電界強度処理部とを有し、前記アンテナ切換制御部により受信時のアンテナ選択を行う方法において、
前記受信電界情報信号のプリアンブル部で各アンテナあたり複数の受信電界情報をサンプルし、
これらの受信電界情報から各受信電界情報信号の傾きを演算処理により検出し、
前記傾きを比較し傾きが大きい受信電界情報信号のアンテナを選択し、
選択されたアンテナで受信電界情報信号のプリアンブル部に続く有効な受信データを受信する
ことを特徴としている。
【0015】
請求項4は、請求項3のアンテナ・ダイバーシチ方法において、
前記演算処理は、検出された各受信電界情報信号の傾きを基に、各受信電界情報信号の収束値を推定し、前記収束値を比較することでアンテナを選択することを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複数のアンテナと一系統の受信機を持つ簡単な構成で、有効受信データの受信動作を行う前に、当該受信フレームの先頭部分で複数アンテナの受信電界強度をサンプルすることで、各受信電界情報信号の傾き又は収束値を演算処理により検出して比較を行うことで、アンテナ選択ミスを生じることなく、複数受信機を有して受信電界情報を常に比較して良好な受信状態のアンテナを選択する従来の無線機と同等の受信感度のアンテナ・ダイバーシチ方式を提供することができる。
すなわち、複数系統のアンテナを含持つTDMA/TDD方式の無線通信システムにおいて、受信機の数を増やすことなく同一受信フレーム内で複数のアンテナの電界レベルを比較し、その判定結果に従って常に受信状態が良好なアンテナを選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のアンテナ・ダイバーシチ装置を備えた無線通信装置の受信系統の概略構成を示すブロック図である。
【図2】TDMA/TDD無線方式の送受信タイミングチャート図である。
【図3】(a)はTDMA/TDD無線方式のフレーム構成、(b)はフレーム構成に対応する選択アンテナを説明するモデル図である。
【図4】(a)(b)はアンテナ・ダイバーシチ装置の受信電界強度処理部による受信電界強度推定の仕組みを説明するグラフ図である。
【図5】(a)(b)はアンテナ・ダイバーシチ装置の受信電界強度処理部での収束値を演算するためのグラフ図である。
【図6】アンテナ・ダイバーシチ装置の受信電界強度処理部で測定されるRSSI信号実測波形図である。
【図7】(a)(b)は受信電界強度処理部で測定される実波形による受信電界強度推定を説明するグラフ図である。
【図8】アンテナ・ダイバーシチ装置の受信電界強度処理部における処理手順を示すフローチャート図である。
【図9】アンテナ・ダイバーシチ装置の受信電界強度処理部における処理手順の他の例を示すフローチャート図である。
【図10】複数アンテナにおける受信電界強度の受信状態を説明するためのグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のアンテナ・ダイバーシチ装置の実施形態の一例について、図面を参照しながら説明する。
本発明のアンテナ・ダイバーシチ装置を備えた無線通信装置は、TDMA/TDD(時分割多重アクセス/時分割双方向)無線通信方式を採用している。TDMA/TDD(時分割多重アクセス/時分割双方向)無線通信方式で使用される信号フォーマットは標準化されており、1つの無線キャリヤ(周波数)を1フレーム5msで構成し、これを8分割したスロットと呼ばれる単位が定義されている。1スロットは625μsであり、無線キャリアの1フレームは送信4スロット(送信区間)と受信4スロット(受信区間)で構成され、4通信路とすることができる。
【0019】
例えば、図2のような送信側から無線キャリアの1フレーム中のチャネル1の送信TDMAスロットCH1 TXに乗せて送られた通信データは、受信側では所定のスロットルタイミングで検出されてチャネル1の受信TDMAスロットCH1 RXで受信される、というようなデータ送受信が行われる。この方式で送受信される通信データ(1フレーム)の1スロットは、図3(a)のような、プリアンプル部、フレーム同期部、有効受信データから構成されている。
【0020】
図1は、本発明のアンテナ・ダイバーシチ装置を備えた無線通信装置の受信系統に関する概略構成を示すブロック図である。
本発明のアンテナ・ダイバーシチ装置を備えた無線通信装置は、無線信号を送受信するための第1のアンテナ1及び第2のアンテナ2と、送受信時に選択するアンテナ系を切り換えるアンテナ切換スイッチ3と、アンテナ切換スイッチ3を制御するアンテナ切換制御部4と、第1のアンテナ1及び第2のアンテナ2からの信号を受信する受信機5と、受信信号を復調する復調器6と、TDMA/TDD無線方式の受信タイミングを制御するTDMA処理部7と、復調器6で復調されたディジタル受信信号をアナログ信号に変換するD/A変換部8と、送受信される信号を音声信号処理する音声コーデック部9と、受信機5からの受信電界強度情報(RSSI)を演算処理する受信電界強度処理部10を備えて構成されている。
また、実際の無線通信機器では送信機(図示せず)が配置され、第1アンテナ1及び第2アンテナ2は送受信切換スイッチ(図示せず)を介して、送受信で共用される。
【0021】
本発明のアンテナ・ダイバーシチ装置では、図2(a)のようなスロットに対して、図2(b)のようなタイミングで第1アンテナ1と第2アンテナ2との選択が行われる。すなわち、スロットにおけるプリアンブル部の前半部分では、第1アンテナの選択が行われ、プリアンブル部の後半部分においては第2アンテナ2の選択が行われ、フレーム同期部及び有効受信データ部分においては、受信電界強度処理部10での演算結果に基づいて選択されたアンテナでの受信が行われる。
以下、アンテナからの信号を受信する場合における各部の役割について説明する。
【0022】
第1アンテナ1及び第2アンテナ2は、空間ダイバーシチによってアンテナ相関係数が十分低くなるように十分距離をとって配置される。又は、指向性ダイバーシチによってアンテナ相関係数が十分に異なるように指向性が異なるように配置される。
【0023】
アンテナ切換スイッチ3は、第1アンテナ1又は第2アンテナ2に切り換えることで、選択されたアンテナから信号を送受信する。
アンテナ切換制御部4は、受信電界強度処理部10の演算結果を受けてアンテナ切換スイッチ3を制御する。受信電界強度処理部10における演算処理の詳細については後述する。
【0024】
受信機5は、選択されたアンテナからの信号を受信し、復調に適した振幅に増幅した後に復調器6に出力するとともに、受信電界強度信号(RSSI)を受信電界強度処理部10へ出力する。
復調器6は受信機5で受信した有効受信データの信号を復調するものである。
D/A変換部8は、復調器6で復調されたディジタル受信信号をアナログ信号に変換する。
音声コーデック部9は、D/A変換部8から出力された信号を音声信号処理するものである。
【0025】
TDMA処理部7は、TDMA/TDD無線方式による無線チャネルの受信フレームにおいて必要なタイミングを作成するものであり、TDMA処理部7から出力されたタイミングで、アンテナ切換制御部4におけるアンテナ切り換えと受信電界強度処理部10におけるDIVタイミング制御が行われ、第1のアンテナ1と第2のアンテナ2の電界強度の抽出が行われる。
すなわち、図2で示したTDMA/TDD無線方式による無線チャネルの受信フレームのスロットの先頭部分において、アンテナ切換制御部4が前記第1のアンテナと第2のアンテナを切換えて受信するようにする。
【0026】
アンテナ切換制御部4は、受信フレームの先頭部分で第1のアンテナ1と第2アンテナ2を交互に選択し、このプリアンブル部で第1アンテナ1及び第2アンテナ2の受信電界強度情報(RSSI)を受信電界強度処理部10で測定する。この動作は、受信フレームのプリアンブル部分で完了させることで、プリアンブル部でアンテナの選択が完了し、選択されたアンテナで受信フレームのフレーム同期部及び有効受信データ(図2)が受信される。
【0027】
受信電界強度処理部10は、電界強度データ収集・記憶部11と、αデータ記憶部12と、電界強度演算部13と、電界強度比較部14と、アンテナ制御信号作成部15と、DIVタイミング制御部16を有して構成されることで、受信機5からの受信電界強度情報を演算処理することでアンテナを選択し、アンテナ選択信号をアンテナ切換制御部4に出力することが行われる。
アンテナ選択のための受信電界強度情報に関する演算処理は、各アンテナで受信する電界強度の傾きから推定する収束値Vantを比較することで行われる。
【0028】
DIVタイミング制御部16は、受信電界強度処理部10の電界強度データ収集・記憶部11におけるデータ収集タイミング等の動作タイミングを制御するものである。
【0029】
電界強度データ収集・記憶部11は、DIVタイミング制御部16のタイミングに基づき受信機5からの電界強度情報(RSSI)を収集し記録する。すなわち、DIVタイミング制御部16からの制御信号により、スロット開始から一定期間(例えば開始から10μs)は、TDMA処理部7のタイミングで第1アンテナ1側が選択される。この間、電界強度データ収集・記憶部11で、2か所の電界強度レベル(V1,V2)が測定されそれぞれ記憶される。そして、スロット開始から前記一定期間が経過した後の一定期間(例えば開始から10μsから20μs)は、TDMA処理部7のタイミングで第2アンテナ2側が選択される。この間、電界強度データ収集・記憶部11で、2か所の電界強度レベル(V3,V4)が測定されそれぞれ記憶される。
また、電界強度データ収集・記憶部11では、電界強度レベルが充分安定した時点(例えば、スロット開始後200μs付近)で、実際の電界強度レベルVantが測定され記憶されるようになっている。
【0030】
αデータ記憶部12は、電界強度演算部13が電界強度の収束値Vantを演算するための定数αの初期値を予め記憶させておくものである。
電界強度演算部13は、電界強度データ収集・記憶部11からの第1アンテナ1選択時の測定値である電界強度レベルV1,V2、第2アンテナ2選択時の測定値である電界強度レベルV3,V4及びαデータ記憶部からのαにより、電界強度の収束値Vant1及びVant2が計算される。電界強度の収束値Vantとは、電界強度が安定する値であり、本発明では、2点の電界強度レベルと時定数からその値を演算して推定することが行われる。
すなわち、第1アンテナ1選択時の測定値である電界強度レベルV1,V2から傾きを求め、推定したのが収束値Vant1であり、第2アンテナ2選択時の測定値である電界強度レベルV3,V4から傾きを求め、推定したのが収束値Vant2である。収束値Vantの具体的な算出方法は後述する。
【0031】
また、電界強度演算部13で、電界強度レベル(V1,V2又はV3,V4)のアンテナ選択側の値と、時間が経過した場合の実際の電界強度レベルVantから、αの値が再計算され、αデータ記憶部12のαの値が更新されるようになっており、次回の受信スロットでの電界強度の収束値の計算に用いられる。
電界強度比較部14は、第1アンテナ1選択時の測定値から推定する収束値Vant1と、第2アンテナ2選択時の測定値から推定する収束値Vant2を比較し、電界強度の大きい方のアンテナを選択するように決定する。
【0032】
アンテナ制御信号作成部15は、スロット開始後20μs以降は、電界強度比較部14で選択した収束値(大きい値)に対応するアンテナが選択されるよう制御信号を作成し、アンテナ切換制御部へ出力する。
【0033】
上述したアンテナ・ダイバーシチ装置では、スロットのプリアンブル部において、第1アンテナ1を選択する期間を10μs、第2アンテナ2を選択する期間を10〜20μsとしたが、これらの値は暫定的であり、プリアンブル部期間内で各電界強度レベル(V1,V2又はV3,V4)が測定可能な期間であればよい。
【0034】
電界強度演算部13における電界強度の収束値を算出する原理(計算方法)について説明する。
電界強度の出力特性Vは、オーバーシュートやリンギングが発生しない場合、1次遅れ要素の過渡応答として理解できる。すなわち、初期値が零の場合は、下式で表現される。
V=Vant(1−EXP(-t/T))
ここで、Vantは受信電界強度(収束値)、Tは回路で決定される時定数、tは時間を示す。
電界強度Vの傾きは、dV/dt=(Vant /T)×EXP(-t/T)であり、この傾きdV/dtを用いて受信電界強度Vantを表現すると、下式のようになる。
Vant=V+(dV/dt)×T
従って、ある時刻tの電界強度Vの傾きを外挿し、時定数T後の電圧値を計算することにより、受信電界強度(収束値Vant)を容易に求めることができる。
また、上式は、初期値が零以外の場合でも使用可能とすることができる。
【0035】
次に、上述したアンテナ・ダイバーシチ装置の動作について、図4及び図5を参照しながら説明する。
図4は受信電界強度電圧がRC1次の時定数回路を経由して出力され、第1アンテナ1の選択期間が5μs、第2アンテナ2の選択期間が10μsとした場合のシミュレーション結果(モデル化された波形を使用した測定結果)である。
破線で表したのは期待される受信電界強度であるが、実際の電気回路では受信電界強度信号は一定の積分時定数を持って出力される。
【0036】
先ず、同一受信フレームのプリアンブル期間で第1アンテナ1と第2アンテナ2の受信電界強度情報を比較する。
有効受信データに悪影響を与えないためには、プリアンブル期間で第1アンテナ1側及び第2アンテナ2側の測定を完了して、どちらのアンテナで受信するかを決定し、有効受信データが開始する前に、その選択を終了する必要がある。
【0037】
受信電界強度処理部10では、受信レベルの値を単に比較するのではなく、上述したように第1アンテナ1と第2アンテナ2の受信電界強度(測定値)からその収束値Vant1,収束値Vant2を推定し、その受信レベルが高いほうのアンテナを選択する処理を行うので、実際の値に近い値で判断することができる。
【0038】
例えば、スロット先頭部分で図4(a)のように電界強度が変化する場合、第1アンテナ1の測定値Aが第2アンテナ2の測定値Bよりも低い値が検出される。この場合には、第1アンテナ1の受信電界強度電圧が5μsのうちに十分に立ち上がらない場合にも、第1アンテナ1と第2アンテナ2の受信電界強度の大小関係が逆転することはない(測定値の大小と、収束値Vantの大小が一致する)。
一方、スロット先頭部分で図4(b)のように電界強度が変化する場合、第1アンテナ1の受信レベルCが第2アンテナ2の測定値Dよりも大きい値が検出される。この場合は、第1アンテナ1と第2アンテナ2の測定値と収束値の大小関係が逆転するので、正確なアンテナ選択を行うことができる(単に、受信レベルの値を比較するだけでは正確なアンテナ選択ができない)。
【0039】
受信電界強度処理部10では、受信電界強度は第1アンテナ1および第2アンテナ2のいずれの選択期間においても少なくとも2点のサンプル値が測定される。
例えば、第1アンテナ1選択期間中に2点、第2アンテナ2選択期間中に2点サンプルされた場合に、それぞれのサンプル点の電圧をV1,V2,V3,V4とする。
【0040】
受信電界強度処理部10の電界強度演算部13においては、V1及びV2から次式により第1アンテナ1の実際の受信電界強度Vant1を推定して求める。
Vant1=V1+α(V2−V1)
上式においてαは回路の時定数とサンプル間隔によって決まる定数である。
【0041】
同様にV3およびV4から次式により第2アンテナ2の実際の受信電界強度Vant2を推定して求める。
Vant2=V3+α(V4−V3)
上式においてαは回路の時定数とサンプル間隔によって決まる定数である。
【0042】
すなわち、図4(a)の例では、電圧V1,V2,V3,V4から電位差A,Bを求め、図5(a)のグラフから電位差A,Bに対応する収束値Vant1及びVant2を求めることができる。
また、図4(b)の例では、電圧V1,V2,V3,V4から電位差C,Dを求め、図5(b)のグラフから電位差C,Dに対応する収束値Vant2及びVant1を求めることができる。
【0043】
そして、アンテナ制御信号作成部15において、Vant1の値とVant2の値から受信電界強度が大きいほうのアンテナが選択される制御信号をアンテナ切換制御部4に出力する。
【0044】
αは、通常、第1アンテナ1と第2アンテナ2で共通の値であり、選択した側の受信電界強度(収束値)Vantから、下式のように求めることができる。
α=(Vant−V1)/(V2−V1) :(アンテナ1側を選択した場合)
または、
α=(Vant−V3)/(V4−V3) :(アンテナ2側を選択した場合)
【0045】
図6は実際に受信機5から出力される電界強度(RSSI)信号をオシロスコープで観測した例である。電界強度(RSSI)信号は立ち上がりから安定するまで20μs程度の時間を有し、受信信号振幅はプリアンブルに含まれるシンボルによって時間的に変動するので、RSSI信号にはリップルが含まれている。
RSSI信号の立ち上がりから20μs程度の時間がプリアンブル部分になるが、この期間に第1アンテナ1及び第2アンテナ2を切り換えて受信電界強度を測定した場合でも、各アンテナでの収束値を演算により求めることができる。
【0046】
アンテナ・ダイバーシチ装置の電界強度データ収集・記憶部11(受信電界強度処理部10)で測定される実際の波形について、図7を用いて説明する。
図7の例では、プリアンブル部において第1アンテナ1が10μs、第2アンテナ2が20μsの期間選択されている。
図7(a)は、第1アンテナ1の受信電界強度が第2アンテナ2の受信電界強度よりも大きい場合の例(図4(b)に対応)であり、理想的には図の実線で表したようなRSSI情報になるが、実際の系ではリップル及びアンテナスイッチング時に発生するノイズを取り除くためのフィルタ回路が必要になる。
フィルタ回路を通ったあとのRSSI信号は図中の破線で表されるが、これは図4(b)でモデル化された信号と同様の波形になる。
【0047】
一方、図7(b)は、第2アンテナ2の受信電界強度が第1アンテナ1の受信電界強度よりも大きい場合の例(図4(a)に対応)であり、図7(a)と同じくフィルタ回路を通ったあとのRSSI信号は図中の破線で表されるが、これは図4(a)にてモデル化された信号と同様の波形になる。
【0048】
次に、アンテナ・ダイバーシチ装置の動作手順について、図8のフローチャートを参照しながら説明する。
受信電界強度処理部10で受信機5からスロットのプリアンブル部の先頭部分を受信した時(前スロットが終了した場合)(ステップ201)、アンテナ1の選択を行う(ステップ202)。
受信電界強度処理部10における動作及びタイミングは、DIVタイミング制御部16から各部に制御信号を出力することにより制御されている。スロット開始から10μsの期間は、アンテナ制御信号作成部15で、第1アンテナ1側が選択される制御信号がアンテナ切換制御部4に出力されている。第1アンテナ1側が選択されている間、電界強度データ収集・記憶部11で、電界強度レベルV1,V2を測定・記憶し、αデータ記憶部からのαを参照して電界強演算部13において電界強度の収束値Vant1(第1アンテナ1側)を計算する(ステップ203)。
【0049】
次に、アンテナ2側を選択する(ステップ204)。
スロット開始後10μsから20μsの期間は、アンテナ制御信号作成部15で、第2アンテナ2側が選択される制御信号がアンテナ切換制御部4に出力されている。第2アンテナ2側が選択されている間、電界強度データ収集・記憶部11で、電界強度レベルV3,V4を測定・記憶し、αデータ記憶部からのαを参照して電界強演算部13において電界強度の収束値Vant2(第2アンテナ2側)を計算する(ステップ205)。
【0050】
続いて、電界強度比較部14において、収束値Vant1と収束値Vant2を比較し(ステップ206)、電界強度の大きい方のアンテナ選択を決定する。すなわち、収束値Vant1が収束値Vant2より大きい値である場合は、第1アンテナ1への切り換えを行う(ステップ207)。収束値Vant1が収束値Vant2より小さい値である場合は、第2アンテナ2に選択された状態を維持する。
その結果、スロット開始後20μs以降は、アンテナ制御信号作成部15で、電界強度の大きい方のアンテナが選択される。
【0051】
次に、電界強度レベルが充分安定した時点(例えば、スロット開始後200μs付近)で、実際の電界強度レベルVantを測定し(ステップ209)、この値を電界強度データ収集・記憶部11に記憶する。そして、電界強度演算部13において、再記憶されたVantと電界強度レベル(V1,V2又はV3,V4)のアンテナ選択側から、αの値が再計算され、αデータ記憶部のαの値が更新される(ステップ210)。
精度の良い収束値を推測するために、αの平均化処理やαの校正を実施することで、高精度のαを求めることが可能である。
予め機器ごとにαを校正してαデータ記憶部12に記憶させた場合は、ステップ209およびステップ210を飛ばしても良い。
【0052】
上述したアンテナ・ダイバーシチ装置の電界強度演算部13及び電界強度比較部14によれば、各アンテナから受信する電界強度の傾きから収束値Vantを推定演算し、収束値Vantを比較することでアンテナ選択を行うが、電界強度演算部13において電界強度の傾きのみ算出し、電界強度比較部14でこの傾き同士を比較することでアンテナ選択を行うようにしてもよい。
この場合の動作手順を図9のフローチャートに示す。
【0053】
受信電界強度処理部10で受信機5からスロットのプリアンブル部の先頭部分を受信した時(前スロットが終了した場合)(ステップ101)、アンテナ1の選択を行う(ステップ102)。
スロット開始から10μsの期間は、アンテナ制御信号作成部15で、第1アンテナ1側が選択される制御信号がアンテナ切換制御部4に出力されている。第1アンテナ1側が選択されている間、電界強度データ収集・記憶部11で、電界強度レベルV1,V2を測定・記憶し(ステップ103)、電界強演算部13において電界強度の傾きA1(第1アンテナ1側)を計算する(ステップ104)。
【0054】
次に、アンテナ2側を選択する(ステップ105)。
スロット開始後10μsから20μsの期間は、アンテナ制御信号作成部15で、第2アンテナ2側が選択される制御信号がアンテナ切換制御部4に出力されている。第2アンテナ2側が選択されている間、電界強度データ収集・記憶部11で、電界強度レベルV3,V4を測定・記憶し(ステップ106)、電界強演算部13において電界強度の傾きA2(第2アンテナ2側)を計算する(ステップ107)。
【0055】
続いて、電界強度比較部14において、傾きA1と傾きA2を比較し(ステップ108)、傾きの大きい方のアンテナ選択を決定する。すなわち、傾きA1が傾きA2より大きい値である場合は、第1アンテナ1への切り換えを行う(ステップ109)。傾きA1が傾きA2より小さい値である場合は、第2アンテナ2に選択された状態を維持する。
その結果、スロット開始後20μs以降は、アンテナ制御信号作成部15で、電界強度の傾きが大きい方のアンテナが選択される。
【0056】
この例によれば、収束値Vantの計算が不要となるので演算部の簡略化、及び、演算にαが不要となるのでαデータ記憶部を設ける必要がなく、構成がより簡単な装置とすることができる。
【0057】
上述したアンテナ・ダイバーシチ装置によれば、同一受信フレームのスロットにおけるプリアンブル期間で第1アンテナ1と第2アンテナ2の受信電界強度情報を比較することでアンテナ選択を行う。
この場合、それぞれのアンテナの受信電界強度を測定する時間が短くなるため、受信電界強度の出力特性における時定数がこの測定時間より充分短い場合を除き、正確な受信電界強度が測定できなくなり、結果として、アンテナ選択ダイバーシチにおけるアンテナ選択エラーが発生する可能性があるが、上述の装置構成では、測定されたそれぞれ2点の受信電界強度から傾きを算出し、時定数を考慮した収束値を演算により算出するため、安定化した場合の受信電界強度が推定できるので、正確なアンテナ選択を判断することができる。
【0058】
すなわち、上述した構成によれば、複数系統のアンテナを備えたTDMA/TDD方式の無線通信システムにおいて、電界情報の傾きを検出することで、受信機の数を増やすことなく同一受信フレーム内で複数のアンテナの正確な電界レベルを推定して比較することができ、その判定結果により常に受信状態が良好なアンテナを選択することが可能となる。
【符号の説明】
【0059】
1…第1アンテナ1、 2…第2アンテナ、 3…アンテナ切換スイッチ、 4…アンテナ切換制御部、 5…受信機、 6…復調器、 7…TDMA処理部、 8…D/A変換部、 9…音声コーデック部9、 10…受信電界強度処理部、 11…電界強度データ収集・記憶部、 12…αデータ記憶部、 13…電界強度演算部、 14…電界強度比較部、 15…アンテナ制御信号作成部、 16…DIVタイミング制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送受信電波が入力される複数のアンテナと、該複数のアンテナを選択的に切り換えるアンテナ切換スイッチと、前記切り換え動作を制御するアンテナ切換制御部と、前記各アンテナから受信した受信電界情報信号を出力する受信機と、前記各受信電界情報信号から受信を行うアンテナを決定する演算処理を行う受信電界強度処理部とを備えた装置において、
前記受信電界強度処理部は、
前記受信電界情報信号のプリアンブル部で各アンテナあたり複数の受信電界情報をサンプルすることで各受信電界情報信号の傾きを演算処理により検出する電界強度演算部を有し、
前記アンテナ切換制御部が前記電界強度演算部の演算処理結果に基づいてアンテナ切換スイッチを動作させてアンテナ切換を行うことで、選択されたアンテナで受信電界情報信号のプリアンブル部に続く有効な受信データを受信する
ことを特徴とするアンテナ・ダイバーシチ装置。
【請求項2】
前記受信電界強度処理部は、
検出された各受信電界情報信号の傾きを基に、各受信電界情報信号の収束値を推定する演算処理を行う請求項1に記載のアンテナ・ダイバーシチ装置。
【請求項3】
送受信電波が入力される複数のアンテナと、該複数のアンテナを選択的に切り換えるアンテナ切換スイッチと、前記切り換え動作を制御するアンテナ切換制御部と、前記各アンテナから受信した受信電界情報信号を出力する受信機と、前記各受信電界情報信号から受信を行うアンテナを決定する演算処理を行う受信電界強度処理部とを有し、前記アンテナ切換制御部により受信時のアンテナ選択を行う方法において、
前記受信電界情報信号のプリアンブル部で各アンテナあたり複数の受信電界情報をサンプルし、
これらの受信電界情報から各受信電界情報信号の傾きを演算処理により検出し、
前記傾きを比較し傾きが大きい受信電界情報信号のアンテナを選択し、
選択されたアンテナで受信電界情報信号のプリアンブル部に続く有効な受信データを受信する
ことを特徴とするアンテナ・ダイバーシチ方法。
【請求項4】
前記演算処理は、検出された各受信電界情報信号の傾きを基に、各受信電界情報信号の収束値を推定し、前記収束値を比較することでアンテナを選択する請求項3に記載のアンテナ・ダイバーシチ方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−205344(P2011−205344A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69916(P2010−69916)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000000181)岩崎通信機株式会社 (133)
【Fターム(参考)】