説明

アンモニア型復水脱塩装置の運用方法

【目的】 火力発電所の復水を、イオン交換樹脂の再生処理を実質的に必要とすることなく、アンモニア型復水脱塩処理法で運用する方法を提供する。
【構成】 発電設備の復水脱塩処理法において、中空糸濾過膜装置で濾過してクラッドを除去した濾過処理復水を、混合樹脂層に通し、該混合樹脂層を通った処理水に含まれるアンモニウムイオン以外の不純物イオン濃度が管理基準値以下であることを条件として、該混合樹脂層の再生を行わずにアンモニア型の復水脱塩処理を行なう。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は発電所、特に火力発電所の復水をアンモニア型復水脱塩処理法で運用する方法に関するものである。
【0002】
【従来技術】発電所では発電タービンを駆動させた後の蒸気を冷却して復水とし、当該復水を加熱して再び蒸気とし、この蒸気で再び発電タービンを駆動させるサイクルを繰り返しているが、当該系内を循環する復水は各種の不純物イオンやクラツドで汚染されるので、これらを除去するために復水脱塩装置が設けられる。
【0003】ところで近時の火力発電所設備では、アンモニア形強酸性陽イオン交換樹脂とOH形強塩基性陰イオン交換樹脂の混合イオン交換樹脂を用いて、復水中のアンモニウムイオンを除去せずに他の不純物を除去するアンモニア型の復水脱塩処理が採用されることが多くなっている。これはいわゆるH−OH形復水脱塩法(H形強酸性陽イオン交換樹脂とOH形強塩基性陰イオン交換樹脂の混合イオン交換樹脂を用いる方法)と比較してランニングコストが廉価であることによる。
【0004】このアンモニア型での復水脱塩処理法の一般的運用は、復水を処理するための混合イオン交換樹脂を充填した複数並列の通水塔(復水脱塩塔)と、この通水塔内の混合イオン交換樹脂を再生するための再生系統とからなる装置で行われ、通水塔内のNH4 形陽イオン交換樹脂とOH形陰イオン交換樹脂の混合イオン交換樹脂層により、復水中の不純物イオンをイオン交換作用により除去し、またクラッドをろ過作用あるいは吸着作用で除去し、経時の使用によってクラッドの蓄積で圧力損失が増加したり、定体積処理に達した場合やNaリークが生じた場合に、混合イオン交換樹脂を前記再生系統に送って再生処理を行う運用がされている。
【0005】再生処理は、例えば再生塔に送られた混合イオン交換樹脂を初めに充分にバブリングしてクラッドを逆洗除去し、次ぎに、逆洗沈整して分離した陽イオン交換樹脂層と陰イオン交換樹脂層に対し、陽イオン交換樹脂層には酸再生剤(通常はH2 SO4 )を通薬し、また陰イオン交換樹脂層にはアルカリ再生剤(通常はNaOH)を通薬してそれぞれ不純物イオンを脱離させるようにして行われ、再生後のH形陽イオン交換樹脂は、通水開始後、復水に含まれている水酸化アンモニウムによりNH4 形に変換されて、アンモニア型復水脱塩処理に移行する。
【0006】このようにアンモニウム形復水脱塩処理法は、初期はH形の陽イオン交換樹脂を混合したイオン交換樹脂から、経時の変化で処理水中にリークするアンモニウムイオンが処理原水である復水中のそれと同じ量になっても、更に通水を続行し、復水中のナトリウムイオンや他の不純物を除去することを特徴として運用するものである。
【0007】ここでイオン交換樹脂の薬品再生を定期的に行っている従来のアンモニア型復水脱塩処理法での実際の処理水質の推移を観察すると、これは図4に示す状態であることが知られている。すなわち、H形陽イオン交換樹脂とOH形陰イオン交換樹脂での2〜5日間の運転期間(H/OH運転)、陽イオン交換樹脂がH形からNH4 形への移行期間(1〜2日)、その後NH4 形陽イオン交換樹脂とOH形陰イオン交換樹脂での20〜25日間の運転期間(NH4 /0H運転)に分けられる。ここで復水中の不純物イオンが極微量であるとすると、図4から分かるようにH/OH運転期間はナトリウムイオンのリークはほとんど無く、NH4 ヘの移行期間にナトリウムイオンのリークが最大となり、NH4 /OH運転期間にはナトリウムリークが次第に低下する。なお復水中には陰イオン成分である塩化物イオン、硫酸イオン等は極く微量のため陰イオン交換樹脂のOH形の消費は下記に示す如くほとんど無く、処理水中へのリークも非常に少なく通常時は陰イオン交換樹脂の再生は不要である。
【0008】復水中の陰イオン成分(通常) 1μg CaCO3 /リットル以下陰イオン交換樹脂に対する通水流量 150 l/l-Rhr (全樹脂量に対してSV=50)したがって1年間の R-OH 消費量(=吸着イオン量)は以下の通りである。
【0009】
【数1】


【0010】ところでアンモニア型復水脱塩処理では、H形に再生される陽イオン交換樹脂の再生は厳密に行われる必要があるとされている。それは、再生直後の陽イオン交換樹脂中に規定量以上のNa形陽イオン交換樹脂が含まれていると、通水塔の通水再開時にナトリウムイオンのリークが多くなって当該規定値を越えてしまうからであり、再生後のナトリウム分率(全交換基に対するNa形交換基のモル分率)は一般に0.003以下でなければならないとされている。
【0011】しかしこの再生初期のナトリウム漏出を完全になくすことは理論的には可能であっても実際の工業的規模での実施ではその実現は容易でない。その理由としては、逆洗で分離した上層の陰イオン交換樹脂、下層の陽イオン交換樹脂をそのままの状態で再生するl塔再生法では、分離境界面からコレクターで陰イオン交換樹脂の再生廃液を取り出す際に水酸化ナトリウムを含む再生廃液が陽イオン交換樹脂に接触してしまう問題が挙げられ、また、両イオン交換樹脂を別々の塔で再生する2塔再生法では、移送した陰イオン交換樹脂中に小量の陽イオン交換樹脂が混入してこれに再生剤である水酸化ナトリウム溶液が接触してしまう問題が挙げられる。また、逆洗分離不可能な微細な陽イオン交換樹脂が水酸化ナトリウム溶液と接触する問題も上記両法に共通して挙げられる。
【0012】そこで従来から、上記問題の改善を図る工夫が種々に提案され、例えば、1塔再生法については、前記コレクターの設置位置を分離境界面よりも上側の陰イオン交換樹脂層内に位置させることにより、分離境界面付近の陽イオン交換樹脂に水酸化ナトリウムを含む再生廃液が接触するのを低減させる提案があり、2塔再生法については、逆洗分離した後上層の陰イオン交換樹脂を他の塔に移送する際に、分離境界面の上方に少量の陰イオン交換樹脂を残すことで、他の塔に移送した陰イオン交換樹脂中への陽イオン交換樹脂の混入を防止する提案がある。2塔再生法では、分離境界面上層の少量の陰イオン交換樹脂と分離境界面下層の少量の陽イオン交換樹脂を再生樹脂から除外する方法も提案されている。
【0013】更に、微細な陽イオン交換樹脂が陰イオン交換樹脂中に存在してしまう問題に対しては、陰イオン交換樹脂を再生した後に、水酸化アンモニウム溶液を通薬し、陰イオン交換樹脂中に存在する微細な陽イオン交換樹脂をNa形からNH4 形に変換する方法や、混合樹脂を分離する際に両イオン交換樹脂の中間の比重を有する濃厚な水酸化ナトリウム溶液で比重分離する方法なども提案されている。
【0014】しかし、これらの工夫されたいずれの提案方法も、一部は工業的に実施されているものの、再生廃液の処理の問題や、設備コストの負担が大きい等の種々の理由からいずれも不十分で、より改善された方法,装置の提案が求めれていた。
【0015】以上のように、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂を用いてアンモニア型の復水脱塩処理を行う従来の運用は、それぞれ多くの問題点があり、その改善が求められていた。
【0016】このようなアンモニア型の復水脱塩処理の運用法の一つとして、圧力損失が規定値に達した時点で再生を行う際に、樹脂の一部をサンプリングして陽イオン交換樹脂のNa分率を測定し、Na分率が規定値以下であればクラッドの逆洗除去だけで通水状態に復帰させるという提案もされている(特公平3−10376号)。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】しかし上記のサンプリング方法は、サンプリングした樹脂が通水塔内の樹脂の状態を正確に示しているか否かという点で信頼性に問題がある。すなわち、復水脱塩装置の1塔あたりの樹脂量は通常数千リッターであり、これから取出した例えば数リッターの樹脂によって通水塔内の混合樹脂の状態を再現しようとしても、その取出しのタイミングや樹脂の劣化状況等に影響されて、一定の条件を満足することが現実には極めて困難で、不適切な測定情報に基づいて再生処理を行なってしまう虞れが大きいからである。
【0018】かかる現状の下で本発明者は、アンモニア型復水脱塩装置の運用法につき鋭意研究を重ねた。
【0019】その研究過程で本発明者は、従来のイオン交換樹脂の再生は、不純物イオンに対する吸着能力が未だイオン交換樹脂に保有されているにもかかわらず、逆洗によるクラッド除去操作と平行する形で、本来は再生が不要なイオン交換樹脂の再生を行っていたことになり、この通薬再生によって、むしろ再生初期のナトリウムイオンのリーク原因を作り出していたことに着目した。
【0020】そこで本発明者は、以上のような無駄を除き、またナトリウムイオンのリークが極力少なくできる新規運用方法を提案することを目的として本発明をなしたものである。
【0021】
【課題を解決するための手段】本発明方法の特徴は、発電設備において循環する復水を陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂の混合樹脂層に通し、この混合樹脂層を通って脱塩された処理水中のアンモニウムイオンの存在は無視しながら復水脱塩処理を行うアンモニア型の復水脱塩処理法において、中空糸濾過膜装置で濾過してクラッドを除去した濾過処理復水を上記混合樹脂層に通すことにより、該混合樹脂層を通った処理水に含まれるアンモニウムイオン以外の不純物イオン濃度が管理基準値以下であることを条件として、該混合樹脂層の再生を行わずに復水脱塩処理のための通水を継続するところにある。
【0022】イオン交換樹脂を充填した通水塔に流れる復水中の不純物イオン濃度を測定するには、これらを通水する配管からの分岐管をインラインクロマト装置に接続し、連続的にあるいは必要に応じ一定時間毎にこれらの不純物イオンを測定する方法を用いることができ、測定対象としては、通水塔の入口水、及び出口水を挙げることができる。
【0023】また、通水塔のイオン交換樹脂は、その前段の中空糸濾過膜装置によってクラッドが除去されるので該クラッドの蓄積が殆どなく、したがって圧力損失は実質的に増大する問題は考慮する必要はないが、二重,三重のフェイルセイフの観点からは、従来既知の方法を適宜採用して圧力損失状態を監視するようにすることも好ましい。
【0024】本発明方法に用いられる中空糸濾過膜装置は、発電所の復水中に発生するクラッドを除去するのに適した濾過膜を用いたものであれば特に制限されることなく用いることができる。
【0025】本発明によれば、海水リークが発生した場合等を除き、不純物イオンが管理基準値以下の状況であれば、クラッドは通水塔の前段の中空糸濾過膜装置により除去されてイオン交換樹脂に蓄積されることが実質的にないのでイオン交換樹脂の交換能力に変化がなく、アンモニア型の運転を停止することなく継続できる。なお通水中に海水リーク等によるナトリウムリークが発生した場合には、直ちにその通水塔の通水を止めて、薬剤による再生操作を行なうことは従来と同様であるが、かかる問題は実際上殆どないため、本発明によりイオン交換樹脂の再生を実質的に不要とした連続運転が実現される。なお定期点検(例えば1年に1回程度)時にスクラビング,薬品通薬等の再生処理を行なうことは当然である。
【0026】なお、予備的に準備される再生設備は、従来既知のものを適宜採用することができる。
【0027】
【実施例】以下、本発明方法を図面に基づいて更に説明する。
【0028】図1は本発明方法を適用するアンモニア型復水脱塩装置の構成概要例を示したもので、この図において1,2,3は陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂を充填した通水塔であり、図示しないコンデンサーから送られる復水中のクラッドを除去するための中空糸濾過膜装置71,72を通してクラッドが除去された入口水が、分岐された入口水側配管4の各分岐入口管41,42,43から、各通水塔1,2,3の入り口に送られるように接続されている。また本例では、この入口水側配管4は更に分岐されてイオンクロマト装置5に接続されている。上記中空糸濾過膜装置71,72は、図示しないバルブの切換えにより、クラッドの逆洗除去が必要なものの通水を停止することで、設備全体の通水は継続できるようにしている。
【0029】また上記通水塔1,2,3の出口管61,62,63は、出口側配管6に合流流されて、図示しないボイラーに接続されていると共に、各出口管61,62,63は、それぞれ上記イオンクロマト装置5に接続されている。
【0030】このような構成により、復水入口水、及び各通水塔の出口水の一部の水は図示しない通水切換手段により、適時切換えて上記イオンクロマト装置5に流れることができ、イオンクロマト装置5により復水及び出口水中のナトリウムイオン、塩化物イオン、硫酸イオンを実質的に連続して測定できる。
【0031】なお、各通水塔の混合イオン交換樹脂にクラッドが蓄積することに伴って増大する圧力損失を測定監視出来るようにすることがよいが、本発明とは直接関係がないので図示は省略する。また同様に、通水塔内の混合イオン交換樹脂を再生する再生設備を予備的に設けることがよいがその図示も省略する。
【0032】以上の構成において、混合イオン交換樹脂を充填した通水塔1,2,3を初期のH−OH形で起動した後アンモニア型の運転状態に移行した以降においては、いわゆる海水リークが発生しない限り各通水塔による処理水のNa分率が次第に低下する傾向を示すことは既に述べた通りである。
【0033】また、中空糸濾過膜装置71,72によりクラッドが除去されるので、混合イオン交換樹脂層にはクラッドが蓄積せず、したがって通常時には、再生操作を全く行なうことなく、アンモニア型の復水処理を続行することができる。
【0034】試験例火力発電所において下記表1の条件で図2に示したようにカラムを設置し、No.1のカラムには中空糸濾過膜装置を通してクラッドを除去した復水を流し、No.2のカラムには、中空糸濾過膜装置を通さない復水を流した。またNo.1のカラムに関連して使用した中空糸濾過膜装置の構成を下記表2に示し、No.2のカラムについては、30日毎に混合イオン交換樹脂をカラムから取出して再生カラムに移し、スクラビングを行なってクラッドを除去し、また下記表3の条件でイオン交換樹脂の再生を行なった。
【0035】
【表1】


【0036】
【表2】


【0037】
【表3】


【0038】以上のように、No.1カラムについては再生操作を行なわずにアンモニア型の復水脱塩処理を継続して行ない、No.2カラムについては30日毎の再生処理を行なって、インラインイオンクロマト測定装置により両カラムの処理水のNa,Cl,SO4 を連続的に監視してその結果を図3及び図4に示した。
【0039】また図2に示すようにカラム前後の圧力を測定してカラム内のイオン交換樹脂の差圧上昇を測定し、その結果を図5及び図6に示した。
【0040】これらの結果から分かるように、No.1カラムでは差圧上昇がなく(図5)、また処理水質も30日以降は極めて良好で安定した水質が得られていることが分かる(図3)。他方、No.2カラムでは再生処理毎に水質が悪くなることを繰返し(図4)、また差圧も再生後から次第に上昇する状態を繰返す(図6)ことが分かる。
【0041】
【発明の効果】本発明によれば、アンモニア型復水脱塩装置の通水塔に流れる復水の不純物イオン濃度を監視することで、海水リークが無い通常の場合は、イオン交換樹脂の再生操作を全く行なわずにアンモニア型復水脱塩の運転を継続でき、再生は、万一の場合のみの予備的な操作となるため、再生剤や再生水の使用を実質的に零にできるという効果が得られる。
【0042】また、従来の薬剤通薬を行なわないので、再生時に陽イオン交換樹脂のナトリウム分率が増加していたという問題を解消できるという効果もあり、周辺環境への影響から、排水の窒素規制が厳しくなっている今日において再生排水を実質的になくすことができる本発明の効果は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明方法を実施するのに適した、イオンクロマト装置をインライン接続したアンモニア型復水脱塩装置の構成概要一例を示した図である。
【図2】図2は、本発明方法と従来法の違いを試験した試験例の装置の構成を示した図である。
【図3】図3は、試験例におけるNo.1のカラムによって得られた、アンモニア型復水脱塩装置における通常運転時に現れる復水の処理水質の経時的な推移を示した図である。
【図4】図4は、試験例におけるNo.2のカラムによって得られた、従来の再生処理を定期的に行なった運転時に現れる復水の処理水質の経時的な推移を示した図である。
【図5】図5は、図3の操作を行なった際のカラム内の差圧変化を示した図である。
【図6】図6は、図4の操作を行なった際のカラム内の差圧変化を示した図である。
【符号の説明】
1,2,3:通水塔、4:入口水側配管、5:イオンクロマト装置,6:出口側配管、41,42,43:分岐入口管、61,62,63:出口管、71,72:中空糸濾過膜装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 発電設備において循環する復水を陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂の混合樹脂層に通し、この混合樹脂層を通って脱塩された処理水中のアンモニウムイオンの存在は無視しながら復水脱塩処理を行うアンモニア型の復水脱塩処理法において、中空糸濾過膜装置で濾過してクラッドを除去した濾過処理復水を上記混合樹脂層に通すことにより、該混合樹脂層を通った処理水に含まれるアンモニウムイオン以外の不純物イオン濃度が管理基準値以下であることを条件として、該混合樹脂層の再生を行わずに復水脱塩処理のための通水を継続することを特微とするアンモニア型復水脱塩装置の運用方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開平6−280505
【公開日】平成6年(1994)10月4日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−68311
【出願日】平成5年(1993)3月26日
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)