説明

アーク溶接ロボット

【課題】溶接中の異常監視をロボット制御装置側のみで行っているために、制御装置自体が正常動作しなくなると、異常監視が機能しなくなる。
【解決手段】マニピュレータMと、教示に基づいて溶接指令信号Wsを出力するロボット制御装置RCと、溶接指令信号Wsに基づいて溶接処理を行う溶接電源WPとを備えたアーク溶接ロボットである。ロボット制御装置RCは、溶接処理に関連する処理時間を含む工程計画情報を出力する。また、溶接電源WPから入力される溶接状態信号Wcおよび工程計画情報に基づいて溶接実行状態を監視する。溶接電源WPは、溶接処理の現在状態を示す溶接状態信号Wcを出力する。また、ロボット制御装置RCからの工程計画情報に基づいて溶接実行状態を監視する。相互に各々の状態を監視するようにしたことによって、溶接を継続したままマニピュレータMが停止する等の不測の事態を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接中の異常監視機能を備えたアーク溶接ロボットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図12は、消耗電極アーク溶接を行う従来のアーク溶接ロボットのシステム構成図である。同図において、ロボット制御装置RCは、ティーチペンダントTPによって予め作成された教示データTdに基づいて、マニピュレータMに配置された複数軸のサーボモータを動作制御するための動作制御信号Mcを出力する。また同時に、溶接電源WPとの間で溶接信号St、送給速度設定信号Fr、溶接電圧設定信号Vrおよびアーク確認信号Saを含むインターフェース信号を送受信する。溶接電源WPは、上記インターフェース信号を送受信し、溶接電圧Vwおよび溶接電流Iwを出力すると共に、ワイヤ送給モータWMを制御するための送給制御信号Fcを出力する。マニピュレータMは、ワイヤ送給モータWM、溶接トーチ4等を載置し、溶接トーチ4の先端位置を予め教示された教示データTdに沿って移動させる。溶接ワイヤ1は、ワイヤ送給モータWMによって溶接トーチ4内を通って送給されて、母材2との間でアーク3が発生して溶接が行われる。
【0003】
図13は、従来のアーク溶接ロボットでアーク溶接を行う場合のタイミングチャートである。同図(A)は溶接信号Stの、同図(B)はガス出力信号Gsの、同図(C)はアーク確認信号Saの、同図(D)は送給速度設定信号Frの、同図(E)は溶接電圧Vwの、同図(F)は溶接電流Iwの、同図(G)はマニピュレータMの移動速度Spの時間変化をそれぞれ示している。以下、同図を参照して説明する。
【0004】
(1)時刻t1〜t2(プリフロー処理期間)
時刻t1において、同図(B)に示すように、ロボット制御装置RCからガス出力信号Gsが出力され、いわゆるプリフロー処理が開始される。プリフロー処理は、マニピュレータMによって溶接トーチ4が溶接開始位置に到達して停止してから開始される場合もあるし、到達するまでに先行して開始される場合もある。溶接トーチ4が溶接開始位置に到達してからプリフロー処理を行う場合は、同図(G)に実線に示すように、時刻t1で溶接トーチ4は停止しているので、移動速度Spは「0」である。溶接開始位置に到達する前にプリフロー処理を行う場合は、同図(G)に点線で示すように、この期間中は減速しながら、時刻t2で停止させる。なお、プリフロー処理は、予め定められたプリフロー時間だけ(時刻t1〜t2の期間)行われる。
【0005】
(2)時刻t2〜t3(アークスタート処理期間)
時刻t2において、同図(A)に示すように、ロボット制御装置RCから溶接信号StがHighレベルで出力される(開始を意味する)。このとき、同図(D)に示すように、送給速度設定信号Frはスローダウン送給速度となり、溶接ワイヤ1は遅いスローダウン送給速度Fiで送給される。同時に、同図(E)に示すように、溶接電源WPは出力を開始し、溶接電圧Vwは無負荷電圧となる。時刻t3において、溶接ワイヤ1が母材2に接触すると、アークが発生する。
【0006】
(3)時刻t3〜t4(定常溶接期間)
時刻t3においてアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電源WPからアーク確認信号Saが出力される(Highレベルに変化する)。同時に、同図(D)に示すように、送給速度設定信号Frは定常送給速度Fsとなり、溶接ワイヤ1の定常送給が開始される。また、同図(F)に示すように、定常送給に対応した定常溶接電流Isの通電が開始する。また、同図(G)に示すように、溶接トーチ4は溶接線に沿って、溶接速度Ssで移動を開始する。この定常溶接は、時刻t4までの期間、行われる。
【0007】
(4)時刻t4〜t5(クレータ処理期間)
時刻t4において、マニピュレータMが溶接終了位置に到達すると、同図(D)に示すように、送給速度設定信号Frはクレータ送給速度Feとなり、溶接ワイヤ1の送給がクレータ送給速度に変更される。また、同図(G)に示すように、移動速度Spは0となり、溶接トーチ4は溶接終了位置で停止する。そして、同図(E)および(F)に示すように、時刻t5までの間、クレータ溶接電圧Veおよびクレータ溶接電流Ieを通電することによりクレータ溶接が行われる。
【0008】
(5)時刻t5〜t6(溶接終了処理期間)
時刻t5において、同図(E)に示すように、定常溶接電圧Vsよりも高い溶着解除電圧Vaが印加される。この処理は予め定められた溶着解除時間だけ行われる。この溶着解除処理により、溶接終了位置において溶接部位と溶接ワイヤ1とが溶着することを防止している。また、時刻t6までの期間、同図(B)に示すように、シールドガスの出力を継続するアフターフロー処理を行う。このアフターフロー処理により、溶接終了位置近傍の酸化や溶接割れを防止している。
【0009】
上記のように、従来のアーク溶接ロボットでは、上記した時刻t1〜t5の期間において、教示データに基づく溶接指令信号をロボット制御装置RCが溶接電源WPに出力することによってアーク溶接を行っている。このようなアーク溶接ロボットにおいては、例えば、ロボット制御装置RCからの溶接信号Stによってアークは発生したものの、アーク確認信号Saが断線等によりロボット制御装置RCに返信されなかった場合、アーク確認信号SaがいつまでもHighレベルにならないため、マニピュレータMは移動を開始することができず停止したままとなってしまう。そこで、従来のアーク溶接ロボットは、上記のような異常事態を防止するために、異常監視機能を持たせている。
【0010】
例えば、特許文献1には、信号線の断線等のシステムの物理的な故障等に起因してマニピュレータMの意図せざる停止状態が発生した場合に、それが危険な事態や大きな事故に至ることを未然に防止することができるロボット制御装置が開示されている。より具体的には、モータへの指令パルス値を監視し、予め定められた規定時間以上、指令パルス値が0であれば停止するように構成されている。また、指令パルス値の監視を行うにあたっては、図13で示した区間a(マニピュレータMが停止した状態で溶接開始処理を行う期間)と、区間b(マニピュレータMを実際に移動させながら溶接を実行する期間)とで監視周期を変えている。すなわち、指令パルス値を周期的に監視することによってマニピュレータMの意図しない停止状態を監視しているために、マニピュレータMを停止させた状態である区間bにおいても移動時と同様の短い周期で監視を行うと、本来の正しい処理を行っているにも関わらず停止状態であると判断してしまう。このために、区間bでは、区間aよりも長い監視周期で監視するようにしている。このように構成することによって、危険な事態や大きな事故に至ることを未然に防止することができるという効果を奏している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−334690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述した特許文献1に記載された従来技術では、以下の課題を有している。
(1)監視手段がロボット制御装置RCのみに設けられているために、監視手段がソフトウェアの不完全さにより正常動作しなくなると、異常監視が機能しなくなる恐れがある。
(2)指令パルス値の監視を行うにあたり、実際に溶接を開始するまで区間a(図13参照)においては、監視周期を区間bよりも長く設定している。しかしながら、実際にアーク溶接加工を行う上でよく使われるテクニックとして、溶接開始位置で溶接を開始した後に、アークが安定するのを待ったり溶け込みを確保したりすることを目的として、タイマ命令による待ち時間を入れた停止溶接期間を設けることがある。この停止溶接期間中は、従来技術では区間bに相当するため、マニピュレータMが停止したものとみなされてしまい、異常を誤検知することになる。
(3)図13の時刻t4〜t5の期間に示したように、溶接終了位置においてクレータ溶接を実行することがある。この期間は、従来技術では区間bに相当し、マニピュレータMの停止が短い監視周期で監視されるため、異常を誤検知することになる。
(4)従来技術において上記(2)および(3)の誤検知を回避するためには、監視周期を長く設定する必要がある。しかしながら、監視周期を長く設定すると、意図せずマニピュレータMが停止したままでアーク溶接が継続された場合、溶接を停止させるまでの時間が長くなり、監視機能の本来の目的を達成できない可能性がある。
(5)図13の時刻t5〜t6で示したように、通常、溶接終了時には、溶着解除処理が実行される。これらの処理は、ロボット制御装置RCからの溶接指令信号ではなく、溶接電源WP側が独自に処理を行っている。そして、これらの処理に要する実行時間は、溶接状態に依存して変化するため、異常監視を行うのであれば、状態に応じて適切な監視周期を設定する必要があるが、従来技術では考慮されていない。
【0013】
そこで、本発明は、アーク溶接処理中の異常監視機能を格段に向上させた信頼性の高いアーク溶接ロボットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、
溶接トーチを把持したマニピュレータと、予め作成された教示データに基づいて前記マニピュレータを駆動制御すると共にアーク溶接処理を行うための溶接指令信号を順次出力するロボット制御装置と、前記溶接指令信号に基づいて溶接制御および溶接電力の供給を行う溶接電源装置とを備えたアーク溶接ロボットにおいて、
前記ロボット制御装置は、前記アーク溶接処理に関連する処理時間を含む工程計画情報を出力する溶接指令生成手段と、前記溶接電源装置から入力される信号であって前記アーク溶接処理の現在状態を示す溶接状態信号および前記工程計画情報に基づいて前記アーク溶接処理の実行状態を監視する第1監視手段と、を備え、
前記溶接電源装置は、前記溶接制御を行うと共に前記現在状態に応じて前記溶接状態信号を出力する溶接制御手段と、前記工程計画情報に基づいて前記アーク溶接処理の実行状態を監視する第2監視手段と、を備えたことを特徴とするアーク溶接ロボットである。
【0015】
請求項2の発明は、
前記溶接トーチを停止した状態でのアーク溶接処理に際しては、
前記第1監視手段は、前記溶接指令生成手段によって前記処理時間を含む前記工程計画情報が出力されると、この出力時点からの経過時間である第1経過時間の計測を開始し、前記第1経過時間が前記処理時間に到達するまでの間に前記溶接電源装置から前記溶接指令信号に応じた前記溶接状態信号が入力されるか否かを監視し、入力されない場合は前記溶接電源装置に非常停止信号を出力し、
前記第2監視手段は、前記溶接制御手段によって前記アーク溶接処理が開始されると、この開始時点からの経過時間である第2経過時間の計測を開始し、この第2経過時間が前記処理時間に到達するまでの間に次の溶接指令信号が入力されるか否かを監視し、入力されない場合は、実行中のアーク溶接処理を中止することを特徴とする請求項1記載のアーク溶接ロボットである。
【0016】
請求項3の発明は、
前記溶接指令生成手段は、前記処理時間に加えて、次工程で出力する予定の溶接指令信号を示す次工程指令を前記工程計画情報として出力し、
前記次の溶接指令信号は、前記次工程指令で示される溶接指令信号であることを特徴とする請求項2記載のアーク溶接ロボットである。
【0017】
請求項4の発明は、
前記溶接制御手段は、処理中の前記アーク溶接処理に要する時間である実行完了時間を前記溶接状態信号に付与して出力し、
前記第1監視手段は、前記溶接制御手段から前記実行完了時間を含んだ前記溶接状態信号が入力されると、この入力時点からの経過時間である第3経過時間の計測を開始し、前記第3経過時間が前記実行完了時間に到達するまでの間に前記溶接電源装置から次の溶接状態信号が入力されるか否かを監視し、入力されない場合は前記溶接電源装置に非常停止信号を出力することを特徴とする請求項2または請求項3記載のアーク溶接ロボットである。
【0018】
請求項5の発明は、
前記ロボット制御装置は、前記教示データに基づいて所定周期毎の前記溶接トーチの位置を算出する位置算出手段と、前記算出した位置に前記溶接トーチが到達したときに位置到達信号を出力する到達信号出力手段と、をさらに備えており、
前記溶接トーチを移動させながらの定常溶接中は、前記溶接制御手段は前記溶接状態信号としての溶接中信号を所定周期で出力し、
前記第1監視手段は、前記溶接中信号が前記所定周期毎に入力されるか否かを監視し、入力されない場合は前記溶接電源装置に非常停止信号を出力し、
前記第2監視手段は、前記位置到達信号が予め定めた到達信号待ち時間内に入力されるか否かを監視し、入力されない場合は前記定常溶接を停止することを特徴とする請求項1記載のアーク溶接ロボットである。
【0019】
請求項6の発明は、
シールドガスの出力を予め定めたプリフロー時間だけ先行して開始するプリフロー処理時は、
前記溶接指令生成手段は、前記処理時間としての前記プリフロー時間を含むプリフロー開始信号を出力し、
前記第2監視手段は、前記溶接制御手段によって前記シールドガスの出力が開始されると、この開始時点からの経過時間である前記第2経過時間の計測を開始し、前記第2経過時間が前記プリフロー時間に到達するまでの間に前記ロボット制御装置からアークスタート信号が入力されるか否かを監視し、入力されない場合は、前記シールドガスの出力を停止することを特徴とする請求項1記載のアーク溶接ロボットである。
【0020】
請求項7の発明は、
シールドガスの出力を予め定めたプリフロー時間だけ先行して開始するプリフロー処理時は、
前記溶接指令生成手段は、前記処理時間としての前記プリフロー時間および前記次工程指令としてのアークスタート指令を含むプリフロー開始信号を出力し、
前記第1監視手段は、前記プリフロー開始信号が出力されると、この出力時点からの経過時間である前記第1経過時間の計測を開始し、前記第1経過時間が前記プリフロー時間に到達するまでの間に前記溶接電源装置から前記溶接状態信号としてのプリフロー開始完了信号が入力されるか否かを監視し、前記プリフロー開始完了信号が入力されない場合は、前記溶接電源装置に非常停止信号を出力し、
前記第2監視手段は、前記プリフロー開始信号に基づいて前記シールドガスの出力が開始されると、この開始時点からの経過時間である前記第2経過時間の計測を開始し、前記第2経過時間が前記プリフロー時間に到達するまでの間に前記次工程指令で示されたアークスタート信号が入力されるか否かを監視し、入力されない場合は、前記シールドガスの出力を停止することを特徴とする請求項3記載のアーク溶接ロボットである。
【0021】
請求項8の発明は、
アークを発生させるアークスタート処理時は、
前記溶接指令生成手段は、前記処理時間としてのアークスタート不良検出時間を含むアークスタート信号を出力し、
前記第1監視手段は、前記アークスタート信号が出力されると、この出力時点からの経過時間である前記第1経過時間の計測を開始し、前記第1経過時間が前記アークスタート不良検出時間に到達するまでの間に前記溶接電源装置から前記溶接状態信号が所定周期毎に入力されるか否かを監視し、入力されない場合は前記溶接電源装置に非常停止信号を出力し、
前記第2監視手段は、前記アークスタート信号に基づいて点弧処理が開始されると、前記点弧処理の開始時点からの経過時間である前記第2経過時間の計測を開始し、前記第2経過時間が前記アークスタート不良検出時間に到達するまでの間に前記次の溶接指令信号に代えてアークが発生するか否かを監視し、アークが発生しない場合は前記点弧処理を停止することを特徴とする請求項2記載のアーク溶接ロボットである。
【0022】
請求項9の発明は、
溶接終端部を成形するクレータ処理時は、
前記溶接指令生成手段は、前記処理時間としてのクレータ溶接時間を含むクレータ溶接信号を出力し、
前記第2監視手段は、前記クレータ溶接信号に基づいて前記溶接電力の出力が変更されると、前記溶接電力の出力変更からの経過時間である前記第1経過時間を計測し、前記第1経過時間が前記クレータ溶接時間を越えても前記ロボット制御装置からアークエンド信号が入力されない場合は、前記クレータ溶接を停止することを特徴とする請求項1記載のアーク溶接ロボットである。
【0023】
請求項10の発明は、
溶接終端部を成形するクレータ処理時は、
前記溶接指令生成手段は、前記処理時間としてのクレータ溶接時間および前記次工程指令としてのアークエンド指令を含むクレータ溶接信号を出力し、
前記第1監視手段は、前記クレータ溶接信号が出力されると、この出力時点からの経過時間である前記第1経過時間の計測を開始し、前記第1経過時間が前記クレータ溶接時間に到達するまでの間に前記溶接電源装置から前記溶接状態信号としてのクレータ溶接完了信号が入力されるか否かを監視し、入力されない場合は前記溶接電源装置に非常停止信号を出力し、
前記第2監視手段は、前記クレータ溶接信号に基づいて前記溶接電力の出力が変更されると、前記溶接電力の出力変更からの経過時間である前記第2経過時間を計測し、前記第2経過時間が前記クレータ溶接時間に到達するまでの間に前記次工程指令で示されたアークエンド信号が入力されるか否かを監視し、入力されない場合は前記クレータ溶接を停止することを特徴とする請求項3記載のアーク溶接ロボットである。
【0024】
請求項11の発明は、
アークを停止させるアークエンド処理時は、
前記溶接指令生成手段は、前記処理時間としてのアークエンド待ち時間を含むアークエンド信号を出力し、
前記溶接制御手段は、前記アークエンド信号に基づいて消弧処理を開始したときは前記溶接状態信号としての消弧中信号および前記実行完了時間を出力し、次いで溶着解除処理に移行したときは前記溶接状態信号としての溶着解除中信号および前記実行完了時間を出力し、全てのアークエンド処理が完了したときは前記溶接状態信号としてのアークエンド完了信号を出力し、
前記第1監視手段は、前記アークエンド信号の出力時点からの経過時間である前記第1経過時間を計測し、
前記消弧中信号または前記溶着解除中が入力されないときは、前記第1経過時間が前記アークエンド待ち時間に到達するまでの間に前記アークエンド完了信号が入力されるか否かを監視し、入力されない場合は前記溶接電源装置に非常停止信号を出力し、
前記消弧中信号または前記溶着解除中信号が入力されたときは、前記第1経過時間の計測を中止して前記消弧中信号または前記溶着解除中信号の入力時点からの経過時間を前記第1経過時間として再計測を開始し、この再計測した前記第1経過時間が前記実行完了時間に到達するまでの間に次の溶接状態信号が入力されるか否かを監視し、入力されない場合は前記溶接電源装置に非常停止信号を出力し、
前記第2監視手段は、前記アークエンド信号に基づいて前記消弧処理が開始されると、処理開始時点からの経過時間である前記第2経過時間の計測を開始し、前記第2経過時間が前記アークエンド待ち時間に到達するまでの間に前記ロボット制御装置からシールドガス停止信号が入力されるか否かを監視し、入力されなかった場合は、前記ロボット制御装置に異常信号を出力することを特徴とする請求項4記載のアーク溶接ロボットである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ロボット制御装置と溶接電源装置とが相互に各々の状態を監視しあうようにしたことによって、アーク溶接処理を継続したままマニピュレータが停止する等の不測の事態を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るアーク溶接ロボットのシステム構成図
【図2】ロボット制御装置および溶接電源の機能ブロック図
【図3】本発明に係るアーク溶接ロボットの溶接シーケンスの一例を示すタイミングチャート
【図4】プリフロー処理中に相互異常監視を行う場合のフローチャート
【図5】アークスタート処理時に相互異常監視を行う場合のロボット制御装置の処理の流れを示すフローチャート
【図6】アークスタート処理時に相互異常監視を行う場合の溶接電源の処理の流れを示すフローチャート
【図7】停止溶接中に相互異常監視を行う場合のフローチャート
【図8】TCPを移動させながらの定常溶接中に相互異常監視を行う場合のフローチャート
【図9】クレータ溶接処理中に相互異常監視を行う場合のフローチャート
【図10】アークエンド処理中に相互異常監視を行う場合のロボット制御装置RCの処理の流れを示すフローチャート
【図11】溶接電源WPのみで異常監視を行う場合のフローチャート
【図12】消耗電極アーク溶接を行う従来のアーク溶接ロボットのシステム構成図
【図13】従来のアーク溶接ロボットでアーク溶接を行う場合のタイミングチャート
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の実施の形態を実施例に基づき図面を参照して説明する。
【0028】
[実施の形態1]
図1は、本発明に係るアーク溶接ロボットのシステム構成図である。同図において、ロボット制御装置RCは、ティーチペンダントTPによって予め作成された教示データTdに基づいて、マニピュレータMに配置された複数軸のサーボモータを動作制御するための動作制御信号Mcを出力する。また、溶接電源WPに溶接指令信号Ws(溶接信号St、ガス出力信号Gs、送給速度設定信号Fr、溶接電圧設定信号Vr等)および後述する位置到達信号Rsを出力する。溶接電源WPは、上記した各種信号を入力として、溶接電圧Vwおよび溶接電流Iwを供給したり、図示しないガスボンベを制御してシールドガスを出力したり、送給制御信号Fcを出力してワイヤ送給モータWMを回転駆動したりする。また、応答信号としてのアーク確認信号Saや、アーク溶接処理の現在状態を示す溶接状態信号Wcをロボット制御装置RCに出力する。マニピュレータMは、ワイヤ送給モータWM、溶接トーチ4等を載置し、溶接トーチ4の先端位置(以下、単にTCPと呼ぶ)を予め教示された教示データTdに沿って移動させる。溶接ワイヤ1は、ワイヤ送給モータWMによって溶接トーチ4内を通って送給されて、母材2との間でアーク3が発生して溶接が行われる。
【0029】
図2は、ロボット制御装置RCおよび溶接電源WPの機能ブロック図である。まず、ロボット制御装置RCについて説明する。ロボット制御装置RCは、CPU12、RAM13、通信インターフェース部14、タイマ17、ROM11、駆動指令部15およびハードディスク16を備えており、各部はバス18を介して接続されている。
【0030】
CPU12は、中央演算処理装置であり、ROM11に格納されたソフトウェアプログラムを図示しないオペレーティングシステム上で実行する。RAM13は、一時的な計算領域である。通信インターフェース部14は、溶接電源WPとのデジタル通信を行う。タイマ17は、時間を計測する。ROM11は、CPU12により実行されるソフトウェアプログラムや制御定数を記憶している。ハードディスク16は、教示データTdや後述するプリフロー時間等のユーザ設定定数を記憶している。駆動指令部15は、マニピュレータMの各サーボモータを回転駆動するためのサーボ制御信号を出力する。なお、CPU12は、溶接指令生成手段、第1監視手段、位置算出手段および到達信号出力手段に相当する。
【0031】
上記したROM11は、ソフトウェアプログラムとしての解釈実行部21、動作制御部22、溶接指令生成部23、溶接監視部24および位置監視部25を備えている。
【0032】
解釈実行部21は、教示データTdを解釈して動作制御部22および溶接指令生成部23に解釈結果を通知する。動作制御部22は、解釈結果に基づいて、所定周期毎のTCPを算出する軌道計画演算を行い、演算結果を駆動指令部15に通知する。溶接指令生成部23は、教示データTdの解釈結果に基づき、アーク溶接処理を行うための各種の溶接指令信号Wsを通信インターフェース部14を介して溶接電源WPに送信する。溶接指令信号Wsには、当該アーク溶接処理に関連する処理時間や、次に通知される予定の溶接指令信号Wsの識別情報が工程計画情報として付加されている。溶接監視部24は、アーク溶接処理の現在状態を示す溶接状態信号Wcおよび上記工程計画情報に基づいて、アーク溶接処理の実行状態を監視する。位置監視部25は、溶接トーチ4を移動させながらの定常溶接中に、動作制御部22が算出した軌道計画位置に溶接トーチ4が到達したときに、位置到達信号Rsを出力する。
【0033】
次に、溶接電源WPについて説明する。溶接電源WPは、CPU32、RAM33、通信インターフェース部34、ROM31、電流・電圧検出部35およびハードディスク36の各部を備えている。CPU32は、中央演算処理装置であり、ROM31に格納されたソフトウェアプログラムを図示しないオペレーティングシステム上で実行する。RAM33は、一時的な計算領域である。通信インターフェース部34は、ロボット制御装置RCとのデジタル通信を行う。。ROM31は、CPU32により実行されるソフトウェアプログラムや制御定数を記憶している。ハードディスク36は、例えば、溶接電圧値を調整するための一元調整テーブル、溶着解除時間等を算出するための処理時間算出テーブル、モニタデータ等を記憶している。電流・電圧検出部35は、図示しない電流・電圧検出線が検出した溶接電流値や溶接電圧値をデジタル変換する。なお、CPU32は、溶接制御手段および第2監視手段に相当する。
【0034】
上記したROM31は、ソフトウェアプログラムとしての溶接制御部43および溶接監視部44を備えている。溶接制御部43は、溶接指令信号Wsに基づいてアーク溶接処理および電力供給のための制御を行う。また、現在のアーク溶接処理の状態を示すための溶接状態信号Wcを生成し、通信インターフェース部34を介してロボット制御装置RCに出力する。溶接監視部44は、ロボット制御装置RCからの工程計画情報に基づいて、アーク溶接処理の実行状態を監視する。
【0035】
なお、図示していないが、ロボット制御装置RCと溶接電源WPとは、緊急停止が可能なように、いわゆる非常停止線で接続されている。
【0036】
以下、上記のように構成されたアーク溶接ロボットの作用について説明する。まず、溶接を開始してから終了するまでの一般的な溶接処理について、順を追って説明する。その後に、各溶接処理に適用した本発明の作用を具体的に説明する。
【0037】
図3は、本発明に係るアーク溶接ロボットの溶接シーケンスの一例を示すタイミングチャートである。同図(A)は溶接信号Stの、同図(B)はガス出力信号Gsの、同図(C)はアーク確認信号Saの、同図(D)は送給速度設定信号Frの、同図(E)は溶接電圧Vwの、同図(F)は溶接電流Iwの、同図(G)はマニピュレータMの移動速度Spの時間変化をそれぞれ示している。以下、同図を参照して、従来技術として説明した図13との相違部分を中心に説明する。
【0038】
(1)時刻t1〜t2(プリフロー処理期間)
時刻t1において、TCPが溶接開始位置に到達すると、同図(B)に示すように、ロボット制御装置RCからガス出力信号Gsが出力され、プリフロー処理が開始される。ガス出力信号Gsには、工程計画情報としてのプリフロー時間が含まれている。工程計画情報には、次の溶接処理で出力する予定の溶接指令信号を示す情報(次工程指令)を含めるようにすると、さらに良い。この処理段階での次工程指令とは、プリフロー処理の完了後に出力する予定の溶接信号Stのことである。なお、図13でも説明したように、プリフロー処理は、TCPが溶接開始位置で停止してから開始される場合もあるし、到達するまでに先行して開始される場合もある。本実施例では、TCPが溶接開始位置に到達してからプリフロー処理を行う場合を選択している。このため、同図(G)に示すように、時刻t1以降はTCPは停止している。
【0039】
(2)時刻t2〜t3(アークスタート処理期間)
時刻t2において、同図(A)に示すように、ロボット制御装置RCから溶接信号StがHighレベルで出力される。溶接信号Stには、工程計画情報としてのアークスタート不良検出時間が含まれている。このとき、同図(D)に示すように、溶接ワイヤ1は遅いスローダウン送給速度Fiで送給され、時刻t3において溶接ワイヤ1が母材2に接触すると、アークが発生する。アークスタート不良検出時間内にアークが発生しなかった場合は、処理を停止する。
【0040】
(3)時刻t3〜t4(TCPを停止したままの停止溶接期間)
この期間は、溶接開始直後にアークを安定させるためにTCPをしばらく停止させる停止溶接期間として、溶接開始位置においてTCPを停止させるためのタイマ命令が教示されているものとする。時刻t3においてアークが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電源WPからアーク確認信号Saが出力される(Highレベルに変化する)。同時に、同図(D)に示すように、溶接ワイヤ1は定常送給速度Fsで送給が開始される。そして、停止溶接は時刻t4までの期間、行われる。なお、図示していないが、時刻t3のタイミングでロボット制御装置RCから溶接電源WPへタイマ命令に付与されている停止時間が出力されている。停止時間の出力タイミングは、先行解釈により時刻t2のタイミングとしても良い。
【0041】
(4)時刻t4〜t5(TCPを移動させながらの定常溶接期間)
時刻t4においてタイマ命令が解除されると、ロボット制御装置RCからの動作制御信号Mcにより、同図(G)に示すように、TCPは溶接速度Ssで移動を開始する。この定常溶接は、時刻t5までの期間、行われるものとする。
【0042】
(5)時刻t5〜t6(クレータ処理期間)
時刻t5において、TCPが溶接終了位置に到達すると、ロボット制御装置RCはクレータ溶接信号を出力する。クレータ溶接信号には、工程計画情報としてのクレータ溶接時間が含まれている。工程計画情報に、次工程指令としてのアークエンド信号を示す情報を含めるようにしても良い。このとき、同図(G)に示すようにTCPは溶接終了位置で停止する。また、同図(D)に示すように、溶接ワイヤ1の送給速度はクレータ送給速度Feとなる。そして、同図(E)および(F)に示すように、クレータ溶接電圧Veおよびクレータ溶接電流Ieを通電して、クレータ溶接が行われる。
【0043】
(6)時刻t6〜t7(溶接終了処理期間)
時刻t6において、ロボット制御装置RCは、アークエンド信号を出力する(溶接信号StをLowレベルで出力する)。このとき、同図(D)に示すように、溶接ワイヤ1の送給が停止される。また、同図(E)および(F)に示すように、クレータ溶接電圧Veおよびクレータ溶接電流Ieについては、通電が所定時間だけ継続される。この処理は消弧処理(バーンバック)と呼ばれるものであり、溶接電源WPが自動的に処理を行う。消弧処理が終了した後は、同図(E)に示すように、定常溶接電圧Vsよりも高い溶着解除電圧Vaを印加する溶着解除処理を行う。これらの一連の溶接終了処理は、時刻t7まで行われる。
【0044】
(7)時刻t7〜t8(アフターフロー処理期間)
時刻t7において、ロボット制御装置RCは、アフターフロー時間を出力する。このことにより、同図(B)に示すように、時刻t8までの期間、シールドガスの出力を継続するアフターフロー処理が行われる。
【0045】
なお、同図に示している区間aは、TCPを停止させた状態でアーク溶接処理を行う期間を示している。本発明では、TCPを停止させた状態でアーク溶接処理を行う際は、以下のように監視を行っている。
【0046】
(A)ロボット制御装置RC側の処理
まず、各溶接処理に先立ち、溶接指令生成部23が溶接指令信号Wsを出力する。このとき、工程計画情報としての溶接処理時間および次工程指令も合わせて出力される。溶接処理時間とは、上記したプリフロー時間やアークスタート不良検出時間である。また、次工程指令とは、次の溶接処理で出力する予定の溶接指令信号を示す情報である。次に、溶接監視部24が、溶接指令信号Wsの出力時点からの経過時間である第1経過時間の計測を開始する。そして、第1経過時間が上記溶接処理時間に到達するまでの間に溶接電源WPから溶接指令信号Wsに応じた溶接状態信号Wcが入力されるか否かを監視し、入力されない場合は溶接電源WPに非常停止信号を出力する。
【0047】
(B)溶接電源WP側の処理
一方、溶接電源WP側においては、溶接制御部43がロボット制御装置RCからの溶接指令信号Wsに基づいてアーク溶接処理を開始する。溶接監視部44は、アーク溶接処理の開始時点からの経過時間である第2経過時間の計測を開始し、この第2経過時間が上記溶接処理時間に到達するまでの間に次の溶接指令信号が入力されるか否かを監視し、入力されない場合は、実行中のアーク溶接処理を中止する。ここで、次の溶接指令信号とは、予め定められた溶接指令信号Wsでも良いし、ロボット制御装置RCから通知される次工程指令で示された溶接指令信号Wsでも良い。
【0048】
以下、プリフロー処理(図3の時刻t1〜t2の期間)を行う場合を例に、ロボット制御装置RCおよび溶接電源WPで相互異常監視を行う場合の作用を具体的に説明する。以下では、説明を容易にするために、ロボット制御装置RCおよび溶接電源WPの各部の処理を1つの流れで記載している。
【0049】
図4は、プリフロー処理中に相互異常監視を行う場合のフローチャートである。同図(a)はロボット制御装置RC側の処理を、同図(b)は溶接電源WP側の処理をそれぞれ示している。
【0050】
(A)ロボット制御装置RC側の処理
ステップS11において、溶接指令生成部23はガス出力信号Gsを出力する。
ステップS12において、溶接監視部24は、ガス出力信号Gsに付与されているプリフロー時間を監視時間として設定する。同時に、ガス出力信号Gsの出力時点からの経過時間(第1経過時間)を計測開始する。
【0051】
ステップS13において、溶接監視部24は、溶接電源WPからガス出力開始完了信号が入力されたか否かを判定する。入力されない場合は、ステップ14に移行する。入力された場合は、正常時処理に移行する。正常時処理とは、例えばプリフロー処理の場合は、プリフロー時間が経過するまで待機し、プリフロー時間が経過したときに次の溶接指令信号Ws(溶接開始指令)を出力する処理を指す。すなわち、異常が検出されなかった場合の処理であり、従来技術と同一の処理が行われるものと理解されたい(以降の説明でも同じである)。
【0052】
ステップS14において、溶接監視部24は、ステップS12で計測を開始した第1経過時間が、監視時間(プリフロー時間)を越えたか否かを判定する。越えていない場合は、ステップ13に戻る。越えた場合は、ステップS15に移行する。そして、ステップS15において、溶接電源WPに非常停止信号を出力して溶接処理を緊急停止させる。
【0053】
(B)溶接電源WP側の処理
ステップS21において、溶接制御部43は、ロボット制御装置RCから通知された信号がガス出力信号Gsであるか否かを判定する。ガス出力信号Gsである場合は、ステップS22に移行する。ステップS22において、溶接制御部43は、ガスボンベのガス電磁弁を開制御して、シールドガスを噴出するプリフロー処理を開始する。ステップS23において、溶接制御部43は、溶接状態信号Wcとして、ガス出力開始完了信号を出力する。
【0054】
ステップS24において、溶接監視部44は、ロボット制御装置RCから通知されたガス出力信号Gsに付与されているプリフロー時間を、監視時間として設定する。同時に、プリフロー処理の開始時点からの経過時間(第2経過時間)を計測開始する。
【0055】
ステップS25において、溶接監視部44は、次の溶接指令信号である溶接信号Stを受信したか否かを判定する。ここで、プリフロー処理の開始時に通知された溶接指令信号Wsに次工程指令が付与されている場合は、付与されている次工程指令が入力されたか否かを判定すると良い。入力された場合は、正常時処理へ移行する。入力されない場合は、ステップS26に移行する。
【0056】
ステップS26において、溶接監視部44は、ステップS24で計測を開始した第2経過時間が、監視時間(プリフロー時間)を越えたか否かを判定する。越えていない場合は、ステップ25に戻る。越えた場合は、ステップS27に移行する。ステップS27において、溶接制御部43は、ガスボンベのガス電磁弁を閉制御してシールドガスの噴出を停止する。
【0057】
上述したように、実施の形態1では、プリフロー処理時にロボット制御装置RCと溶接電源WPとで相互異常監視を行うようにしている。
【0058】
上記では、TCPを停止させた状態での相互異常監視方法について、プリフロー処理を行う場合を例にして説明したが、TCPを停止させた状態でのアーク溶接処理中であれば、少なくとも図3で示した以下の期間であれば、全く同一の手法で相互異常監視を行うことができる。
・時刻t2〜t3の期間(アークスタート処理期間)
・時刻t3〜t4の期間(停止溶接処理期間)
・時刻t5〜t6の期間(クレータ処理期間)
・時刻t7〜t8の期間(アフターフロー処理期間)
【0059】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。実施の形態2では、アークスタート処理時(図3の時刻t2〜t3の期間)に、ロボット制御装置RCと溶接電源WPとで相互異常監視を行う。実施の形態1との相違は、溶接電源WPから溶接状態信号Wcを、アークスタート処理中における状態遷移(アーク未発生、ワイヤスローダウン中、アーク発生等)に応じて細分化して通知するようにし、この細分化された溶接状態信号Wcが所定周期毎に通知されるか否かを判定しつつ、通知されない場合は、溶接電源WPを非常停止させる点である。
【0060】
図5は、アークスタート処理時に相互異常監視を行う場合のロボット制御装置RCの処理の流れを示すフローチャートである。
【0061】
ステップS11において、溶接指令生成部23は溶接開始指令を出力する(溶接信号StをHighレベルにする)。ステップS12において、溶接監視部24は、溶接信号Stに付与されているアークスタート不良検出時間を監視時間として設定する。同時に、溶接信号Stの出力時点からの経過時間(第1経過時間)を計測開始する。
【0062】
ステップS13において、溶接監視部24は、受信間隔時間を設定する。同時に、最新の受信時点からの受信経過時間を計測開始する。なお、受信間隔時間は、例えば0.1秒等、ロボット制御装置RCと溶接電源WPとの通信周期よりも長い間隔時間としながらも、異常事態の発生時に損害を与えない程度の時間間隔を任意に定めておくと良い。
【0063】
ステップS14において、溶接監視部24は、溶接電源WPから溶接状態信号Wcとしてのアーク発生信号が入力されたか否かを判定する。入力されない場合は、ステップ15に移行する。入力された場合は、正常時処理に移行する。
【0064】
ステップS15において、溶接監視部24は、ステップS12で計測を開始した第1経過時間が、監視時間(アークスタート不良検出時間)を越えたか否かを判定する。越えていない場合は、ステップS16に移行する。越えた場合は、ステップS19に移行し、溶接電源WPに停止信号を出力するとともに、アークスタートが失敗した旨の異常信号を外部に出力する。
【0065】
ステップS16において、溶接電源WPから溶接状態信号Wcとしてのアーク未発生信号やワイヤスローダウン中信号等が通知されるか否かを判定する。通知された場合は、ステップS13に戻る。通知されない場合は、ステップS17に移行する。ステップS17において、ステップS13で計測を開始した受信経過時間が、設定した受信間隔時間を超えたか否かを判定する。越えていない場合は、ステップS14に戻る。越えた場合は、ステップS18に移行する。そして、ステップS18において、溶接電源WPに非常停止信号を出力して溶接処理を緊急停止させる。
【0066】
図6は、アークスタート処理時に相互異常監視を行う場合の溶接電源WPの処理の流れを示すフローチャートである。
【0067】
ステップS21において、溶接制御部43は、ロボット制御装置RCから通知された溶接信号Stに基づいて、溶接電源WPのインバータを駆動すると共に溶接ワイヤ1のスローダウンを開始して母材2に接近させる、いわゆる点弧処理を開始する。ステップS22において、溶接監視部44は、ロボット制御装置RCから通知された溶接信号Stに付与されているアークスタート不良検出時間を、監視時間として設定する。同時に、点弧処理の開始時点からの経過時間(第2経過時間)を計測開始する。
【0068】
ステップS23において、溶接制御部43は、ロボット制御装置RCに対し、現在の状態に応じた溶接状態信号Wcを出力する。ここでの溶接状態信号Wcとは、例えば、アーク未発生、ワイヤスローダウン中、アーク発生等の各種状態遷移を知らしめる信号を指す。
【0069】
ステップS24において、溶接監視部44は、送信間隔時間を設定する。同時に、最新の送信時点からの送信経過時間を計測開始する。なお、送信間隔時間は、例えば0.1秒等、ロボット制御装置RCと溶接電源WPとの通信周期よりも長い間隔時間としながらも、異常事態の発生時に損害を与えない程度の時間間隔を任意に定めておくと良い。
【0070】
ステップS25において、溶接監視部44は、アークが発生したか否かを判定する。アークが発生した場合は、ステップS26に移行し、その旨をロボット制御装置RCに通知する。その後は、正常処理が行われる。アークが発生しなかった場合は、ステップS27に移行する。ステップS27において、ロボット制御装置RCからの停止信号入力があるか否かを判定する。停止信号入力がある場合はステップS31に移行し、停止信号入力がない場合はステップS28に移行する。
【0071】
ステップS28において、溶接監視部44は、ステップS22で計測を開始した第2経過時間が、監視時間(アークスタート不良検出時間)を越えたか否かを判定する。越えていない場合は、ステップ29に移行する。越えた場合は、ステップS30に移行し、ロボット制御装置RCにアークスタート失敗を通知する。その後、ステップS31において、実行中の溶接処理を全て停止する。ステップS29において、ステップS24で計測を開始した送信経過時間が、設定した送信間隔時間を超えたか否かを判定する。越えていない場合は、ステップS23に戻り、監視処理を継続する。
【0072】
上述したように、実施の形態2では、アークスタート処理時にロボット制御装置RCと溶接電源WPとで相互異常監視を行うようにしている。
【0073】
[実施の形態3]
次に、本発明の実施の形態3について説明する。実施の形態3では、停止溶接期間(図3の時刻t3〜t4の期間)に、ロボット制御装置RCと溶接電源WPとで相互異常監視を行う。実施の形態1との相違は、停止溶接期間では、停止溶接に先駆けてロボット制御装置RCから溶接電源WPに停止時間を通知し、溶接電源WPで停止時間を計時すると共に、停止時間を過ぎても次の溶接指令信号を受信しない場合は、溶接処理を停止する点である。
【0074】
図7は、停止溶接中に相互異常監視を行う場合のフローチャートである。同図(a)はロボット制御装置RC側の処理を、同図(b)は溶接電源WP側の処理をそれぞれ示している。
【0075】
(A)ロボット制御装置RC側の処理
解釈実行部21によってタイマ命令が解釈された場合は、ステップS11において、溶接指令生成部23は、タイマ命令で定められている停止時間を溶接電源WPに出力する。このとき、停止時間に加えて、次の溶接指令信号Wsを示す次工程指令を同時に出力しても良い。
【0076】
(B)溶接電源WP側の処理
ステップS21において、溶接制御部43は、ロボット制御装置RCから通知された信号がタイマ命令に付与された停止時間であるか否かを判定する。停止時間である場合は、ステップS22に移行する。
【0077】
ステップS22において、溶接監視部44は、ロボット制御装置RCから通知された停止時間を、監視時間として設定する。同時に、停止時間の受信時点からの経過時間を計測開始する。
【0078】
ステップS23において、溶接監視部44は、次の溶接指令信号を受信したか否かを判定する。ここで、通知された停止時間に次工程指令が付与されている場合は、付与されている次工程指令が入力されたか否かを判定すると良い。入力された場合は、正常時処理へ移行する。入力されない場合は、ステップS24に移行する。
【0079】
ステップS24において、溶接監視部44は、ステップS22で計測を開始した経過時間が、監視時間(停止時間)を越えたか否かを判定する。越えていない場合は、ステップ23に戻る。越えた場合は、ステップS25に移行し、ロボット制御装置RCに何らかの異常が発生したものと見なして実行中の溶接処理を全て停止する。
【0080】
上述したように、実施の形態3では、停止溶接時にロボット制御装置RCと溶接電源WPとで相互異常監視を行うようにしている。上記では、一例としてタイマ命令を使用した停止溶接の場合を示したが、これに限定されるものではなく、例えば、脚長を取るためのウィービング命令が教示されており、ウィービングの各端点で停止時間が設定されている場合においても、上記した処理により異常監視を行うことができる。
【0081】
[実施の形態4]
次に、本発明の実施の形態4について説明する。実施の形態4では、TCPの移動中(図3の時刻t4〜t5の期間)に、ロボット制御装置RCと溶接電源WPとで相互異常監視を行う。
【0082】
図3の区間bは、TCPを移動させながら定常溶接を行う期間を示している。この期間中は、溶接電源WPの溶接制御部43は、溶接状態信号Wcとしての溶接中信号を所定周期で出力する。また、ロボット制御装置RCの動作制御部22は、教示データTdに基づいて所定周期毎のTCPを算出する。また、位置監視部25は、TCPの位置を常に監視しており、TCPが動作制御部22によって算出した位置に到達すると、到達したことを通知するための位置到達信号を溶接電源WPに出力する。そして、以下のように監視を行っている。
【0083】
図8は、TCPを移動させながらの定常溶接中に相互異常監視を行う場合のフローチャートである。同図(a)はロボット制御装置RC側の溶接監視部24の処理を、同図(b)は溶接電源WP側の溶接監視部44の処理をそれぞれ示している。両処理共に、アークが発生して移動を開始した後の処理(図3の時刻t4以降の処理)を示している。
【0084】
(1)ロボット制御装置RC側の処理
ステップS11において、溶接電源WPから通知される溶接状態信号Wcとしての溶接中信号を監視する周期である第1監視時間(例えば、0.1m秒等)を設定する。ステップS12において、前回受信からの経過時間を計測開始する。
【0085】
ステップS13において、溶接電源WPから溶接中信号が入力されたか否かを判定する。入力された場合は、正常に溶接が行われているものと見なして、ステップS12に戻る。入力されない場合は、ステップS14に移行する。ステップS14において、ステップS12で計測を開始した第1経過時間が、第1監視時間を越えたか否かを判定する。越えていない場合は、ステップS13に戻る。越えた場合は、ステップS15に移行し、溶接電源WPに非常停止信号を出力して溶接処理を緊急停止させる。
【0086】
(2)溶接電源WP側の処理
ステップS21において、ロボット制御装置RCから通知される位置到達信号Rsを監視する周期である第2監視時間(例えば、0.1m秒等)を設定する。ステップS22において、前回受信からの経過時間を計測開始する。ステップS23において、ロボット制御装置RCから位置到達信号Rsが入力されたか否かを判定する。入力された場合は、正常にTCPが移動しているものと見なして、ステップS22に戻る。入力されない場合は、ステップ24に移行する。
【0087】
ステップS24において、ステップS22で計測を開始した第2経過時間が、第2監視時間を越えたか否かを判定する。越えていない場合は、ステップS23に戻る。越えた場合は、ステップS25に移行し、実行中の溶接処理を全て停止する。
【0088】
上述したように、TCPを移動させながら定常溶接中に、ロボット制御装置RCと溶接電源WPとで相互異常監視を行うようにしている。
【0089】
[実施の形態5]
次に、本発明の実施の形態5について説明する。実施の形態5では、クレータ溶接期間(図3の時刻t5〜t6の期間)に、ロボット制御装置RCと溶接電源WPとで相互異常監視を行う。
【0090】
図9は、クレータ溶接処理中に相互異常監視を行う場合のフローチャートである。同図(a)はロボット制御装置RC側の処理を、同図(b)は溶接電源WP側の処理をそれぞれ示している。
【0091】
(A)ロボット制御装置RC側の処理
ステップS11において、溶接指令生成部23は、クレータ溶接信号を出力する。
ステップS12において、溶接監視部24は、クレータ溶接信号に付与されているクレータ溶接時間を監視時間として設定する。同時に、クレータ溶接信号の出力時点からの経過時間(第1経過時間)を計測開始する。
【0092】
ステップS13において、溶接監視部24は、溶接電源WPからクレータ溶接中信号が入力されたか否かを判定する。入力されない場合は、ステップ14に移行する。入力された場合は、正常時処理に移行する。
【0093】
ステップS14において、溶接監視部24は、ステップS12で計測を開始した第1経過時間が、監視時間(クレータ溶接時間)を越えたか否かを判定する。越えていない場合は、ステップ13に戻る。越えた場合は、ステップS15に移行する。そして、ステップS15において、溶接電源WPに非常停止信号を出力して溶接処理を緊急停止させる。
【0094】
(B)溶接電源WP側の処理
ステップS21において、溶接制御部43は、ロボット制御装置RCから通知された信号がクレータ溶接信号であるか否かを判定する。クレータ溶接信号である場合は、ステップS22に移行する。ステップS22において、溶接制御部43は、設定されているクレータ溶接条件値になるよう、溶接電流値および溶接電圧値を調整する。ステップS23において、溶接制御部43は、溶接状態信号Wcとして、クレータ溶接中信号を出力する。
【0095】
ステップS24において、溶接監視部44は、ロボット制御装置RCから通知されたクレータ溶接時間を、監視時間として設定する。同時に、クレータ溶接処理の開始時点からの経過時間(第2経過時間)を計測開始する。
【0096】
ステップS25において、溶接監視部44は、次の溶接指令信号であるアークエンド信号を受信したか否かを判定する。ここで、クレータ溶接処理の開始時に通知された溶接指令信号Wsに次工程指令が付与されている場合は、付与されている次工程指令が入力されたか否かを判定すると良い。入力された場合は、正常時処理へ移行する。入力されない場合は、ステップS26に移行する。
【0097】
ステップS26において、溶接監視部44は、ステップS24で計測を開始した第2経過時間が、監視時間(クレータ溶接時間)を越えたか否かを判定する。越えていない場合は、ステップ25に戻る。越えた場合は、ステップS27に移行する。ステップS27において、溶接制御部43は、実行中の溶接処理を全て停止する。
【0098】
上述したように、実施の形態5では、クレータ溶接処理時にロボット制御装置RCと溶接電源WPとで相互異常監視を行うようにしている。
【0099】
[実施の形態6]
次に、本発明の実施の形態6について説明する。実施の形態6では、アークエンド処理期間(図3の時刻t6〜t7の期間)に、ロボット制御装置RCと溶接電源WPとで相互異常監視を行う。アークエンド処理時の相互異常監視は、実施の形態1と同様の処理を適用しても良いが、この処理に加えて、溶接電源WPが溶接状態信号Wcを出力する際に、処理中のアークエンド処理(消弧処理および溶着解除処理)に要する時間である実行完了時間を出力するようにする。そして、ロボット制御装置RCは、実行完了時間を含んだ溶接状態信号Wcが入力されると、この入力時点からの経過時間である経過時間の計測を開始し、経過時間が実行完了時間に到達するまでの間に溶接電源WPから次の溶接状態信号Wcが入力されるか否かを監視し、入力されない場合は溶接電源WPに非常停止信号を出力するようにする。なお、上記した実行完了時間は、溶接電源WPの溶接制御部43において、溶接状態に応じた変数(状態依存変数)として自動的に算出される時間である。
【0100】
図10は、アークエンド処理中に相互異常監視を行う場合のロボット制御装置RCの処理の流れを示すフローチャートである。以下、ロボット制御装置RC側の処理について説明する。溶接電源WPの処理は、上述した実施の形態1で示した処理をアークエンド処理に置き換えて、溶接状態信号Wc(消弧中信号、溶着解除中信号、溶接完了信号)を状態に応じて出力する際に処理中のアーク溶接処理に要する時間である実行完了時間を出力するようにしただけであるので、説明を省略する。
【0101】
ステップS11において、溶接指令生成部23はアークエンド信号を出力する(溶接信号StをLowレベルにする)。この結果、溶接電源WPでは、消弧処理が開始され、溶接状態信号Wcとしての消弧中信号および消弧完了時間が出力される。消弧処理の後は、溶着の有無が確認され、溶着していると判断された場合は、溶着解除処理が開始され、溶接状態信号Wcとしての溶着解除中信号および溶着解除完了時間が出力される。溶着がないと判断された場合は、溶接状態信号Wcとしての溶接完了信号が出力される。
【0102】
ステップS12において、溶接監視部24は、アークエンド信号に付与されているアークエンド待ち時間を監視時間として設定する。同時に、アークエンド信号の出力時点からの経過時間を計測開始する。
【0103】
ステップS13において、溶接監視部24は、溶接電源WPから消弧中信号および消弧完了時間が入力されたか否かを判定する。入力されない場合は、ステップ14に移行する。入力された場合は、上記経過時間の計測を中止してステップS16に移行する。
【0104】
ステップS14において、溶接監視部24は、ステップS12で計測を開始した経過時間が、監視時間(アークエンド待ち時間)を越えたか否かを判定する。越えていない場合は、ステップS13に戻る。越えた場合は、ステップS15に移行し、溶接電源WPに停止信号を出力するとともに、アークエンド処理が正常に完了しなかった旨の異常信号を外部に出力する。
【0105】
ステップS16において、溶接監視部24は、消弧中信号に付与されていた消弧完了時間を監視時間として設定する。同時に、消弧中信号の入力時点からの経過時間を計測開始する。
【0106】
ステップS17において、溶接監視部24は、溶接電源WPから溶接状態信号Wcとしての溶着解除中信号および溶着解除完了時間が入力されたか否かを判定する。入力されない場合は、ステップ18に移行する。入力された場合は、ステップ20に移行する。
【0107】
ステップS18において、溶接電源WPから溶接状態信号Wcとしての溶接完了信号が入力されたか否かを判定する。ここで溶接完了信号の入力を判定する理由は、溶着が確認されない場合は、溶着解除処理を行わないために溶着解除中信号が入力されることなく、溶接完了信号が入力されるためである。溶接完了信号が入力されない場合は、ステップ19に移行する。入力された場合は、問題なく溶接が完了したものと見なして、このフローを終了する。
【0108】
ステップS19において、溶接監視部24は、ステップS16で計測を開始した経過時間が、監視時間(消弧完了時間)を越えたか否かを判定する。越えていない場合は、ステップS17に戻る。越えた場合は、ステップS15に移行し、溶接電源WPに停止信号を出力するとともに、アークエンド処理が正常に完了しなかった旨の異常信号を外部に出力する。
【0109】
ステップS20において、溶接監視部24は、溶着解除中信号に付与されていた溶着解除完了時間を監視時間として設定する。同時に、溶着解除中信号の入力時点からの経過時間を計測開始する。
【0110】
ステップS21において、溶接電源WPから溶接完了信号が入力されたか否かを判定する。溶接完了信号が入力されない場合は、ステップ22に移行する。入力された場合は、問題なく溶接が完了したものと見なして、このフローを終了する。
【0111】
ステップS22において、溶接監視部24は、ステップS20で計測を開始した経過時間が、監視時間(溶着解除完了時間)を越えたか否かを判定する。越えていない場合は、ステップS21に戻る。越えた場合は、ステップS15に移行し、溶接電源WPに停止信号を出力するとともに、アークエンド処理が正常に完了しなかった旨の異常信号を外部に出力する。
【0112】
上述したように、実施の形態6では、アークエンド処理時にロボット制御装置RCと溶接電源WPとで相互異常監視を行うようにしている。
【0113】
以上説明したように、ロボット制御装置RCと溶接電源WPとが相互に各々の状態を監視しあうようにしたことによって、アーク溶接処理を継続したままマニピュレータMが停止することを防止することができる。
【0114】
さらに、ロボット制御装置RCから次に出力される予定の溶接指令信号である次工程指令を出力するようにしたと共に、溶接電源WPでは、この次工程指令と、実際に入力された溶接指令信号とを比較するようにしたことによって、ロボット制御装置RCの異常等で誤った溶接指令信号が入力されて意図しない溶接処理が行われるのを防止することができる。さらに、マニピュレータMが停止しながらの溶接をしていても、異常を確実に検出することができる。
【0115】
また、溶接電源WPから溶接状態信号を出力する際に、処理に要する予定の実行完了時間を同時に出力するようにしたことによって、ロボット制御装置RC側の監視により、溶接電源WP側の異常を早期に発見することができる。また、本発明をアーク溶接処理の各溶接シーケンスに適用したことによって、アーク溶接処理中であれば、いついかなる処理をしていても、異常監視を行うことができる。
【0116】
なお、上述したアーク溶接処理のうち、プリフロー処理(実施の形態1)、停止溶接処理(実施の形態3)、クレータ処理(実施の形態5)およびアフターフロー処理は、溶接電源WPの溶接監視部44のみで異常監視を行ってもよい。
【0117】
図11は、溶接電源WPのみで異常監視を行う場合のフローチャートである。
ステップS21において、溶接制御部43は、ロボット制御装置RCから通知された溶接指令信号Wsおよび工程計画情報を受信したか否かを判定する。受信した場合は、ステップS22に移行する。ステップS22において、溶接制御部43は、必要なアーク溶接処理を行う(プリフロー開始信号であればプリフロー処理を開始する)。
【0118】
ステップS23において、溶接監視部44は、溶接指令信号Wsに付与されている処理時間を、監視時間として設定する。同時に、溶接処理の開始時点からの経過時間を計測開始する。この経過時間の計測開始は、溶接指令信号の受信時点としてもよい。
【0119】
ステップS24において、溶接監視部44は、次の溶接指令信号Wsが入力されたか否かを判定する。入力された場合は、正常時処理へ移行する。入力されない場合は、ステップS25に移行する。
【0120】
ステップS25において、溶接監視部44は、ステップS23で計測を開始した経過時間が、監視時間を越えたか否かを判定する。越えていない場合は、ステップ24に戻る。越えた場合は、ステップS26に移行する。ステップS26において、溶接制御部43は、実行中の全ての溶接処理を停止する。
【0121】
以上述べたように、溶接電源WPの溶接監視部44のみで異常監視を行ってもよい。この場合は、ロボット制御装置RCおよび溶接電源WP間の通信負荷を低減することができる。
【符号の説明】
【0122】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
11 ROM
12 CPU
13 RAM
14 通信インターフェース部
15 駆動指令部
16 ハードディスク
17 タイマ
18 バス
21 解釈実行部
22 動作制御部
23 溶接指令生成部
24 溶接監視部
25 位置監視部
31 ROM
32 CPU
33 RAM
34 通信インターフェース部
35 電流・電圧検出部
36 ハードディスク
43 溶接制御部
44 溶接監視部
Fc 送給制御信号
Fe クレータ送給速度
Fi スローダウン送給速度
Fr 送給速度設定信号
Fs 定常送給速度
Gs ガス出力信号
Ie クレータ溶接電流
Is 定常溶接電流
Iw 溶接電流
M マニピュレータ
Mc 動作制御信号
RC ロボット制御装置
Rs 位置到達信号
Sa アーク確認信号
Sp 移動速度
Ss 溶接速度
St 溶接信号
Td 教示データ
TP ティーチペンダント
Va 溶着解除電圧
Ve クレータ溶接電圧
Vr 溶接電圧設定信号
Vs 定常溶接電圧
Vw 溶接電圧
Wc 溶接状態信号
WM ワイヤ送給モータ
WP 溶接電源
Ws 溶接指令信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチを把持したマニピュレータと、予め作成された教示データに基づいて前記マニピュレータを駆動制御すると共にアーク溶接処理を行うための溶接指令信号を順次出力するロボット制御装置と、前記溶接指令信号に基づいて溶接制御および溶接電力の供給を行う溶接電源装置とを備えたアーク溶接ロボットにおいて、
前記ロボット制御装置は、前記アーク溶接処理に関連する処理時間を含む工程計画情報を出力する溶接指令生成手段と、前記溶接電源装置から入力される信号であって前記アーク溶接処理の現在状態を示す溶接状態信号および前記工程計画情報に基づいて前記アーク溶接処理の実行状態を監視する第1監視手段と、を備え、
前記溶接電源装置は、前記溶接制御を行うと共に前記現在状態に応じて前記溶接状態信号を出力する溶接制御手段と、前記工程計画情報に基づいて前記アーク溶接処理の実行状態を監視する第2監視手段と、を備えたことを特徴とするアーク溶接ロボット。
【請求項2】
前記溶接トーチを停止した状態でのアーク溶接処理に際しては、
前記第1監視手段は、前記溶接指令生成手段によって前記処理時間を含む前記工程計画情報が出力されると、この出力時点からの経過時間である第1経過時間の計測を開始し、前記第1経過時間が前記処理時間に到達するまでの間に前記溶接電源装置から前記溶接指令信号に応じた前記溶接状態信号が入力されるか否かを監視し、入力されない場合は前記溶接電源装置に非常停止信号を出力し、
前記第2監視手段は、前記溶接制御手段によって前記アーク溶接処理が開始されると、この開始時点からの経過時間である第2経過時間の計測を開始し、この第2経過時間が前記処理時間に到達するまでの間に次の溶接指令信号が入力されるか否かを監視し、入力されない場合は、実行中のアーク溶接処理を中止することを特徴とする請求項1記載のアーク溶接ロボット。
【請求項3】
前記溶接指令生成手段は、前記処理時間に加えて、次工程で出力する予定の溶接指令信号を示す次工程指令を前記工程計画情報として出力し、
前記次の溶接指令信号は、前記次工程指令で示される溶接指令信号であることを特徴とする請求項2記載のアーク溶接ロボット。
【請求項4】
前記溶接制御手段は、処理中の前記アーク溶接処理に要する時間である実行完了時間を前記溶接状態信号に付与して出力し、
前記第1監視手段は、前記溶接制御手段から前記実行完了時間を含んだ前記溶接状態信号が入力されると、この入力時点からの経過時間である第3経過時間の計測を開始し、前記第3経過時間が前記実行完了時間に到達するまでの間に前記溶接電源装置から次の溶接状態信号が入力されるか否かを監視し、入力されない場合は前記溶接電源装置に非常停止信号を出力することを特徴とする請求項2または請求項3記載のアーク溶接ロボット。
【請求項5】
前記ロボット制御装置は、前記教示データに基づいて所定周期毎の前記溶接トーチの位置を算出する位置算出手段と、前記算出した位置に前記溶接トーチが到達したときに位置到達信号を出力する到達信号出力手段と、をさらに備えており、
前記溶接トーチを移動させながらの定常溶接中は、前記溶接制御手段は前記溶接状態信号としての溶接中信号を所定周期で出力し、
前記第1監視手段は、前記溶接中信号が前記所定周期毎に入力されるか否かを監視し、入力されない場合は前記溶接電源装置に非常停止信号を出力し、
前記第2監視手段は、前記位置到達信号が予め定めた到達信号待ち時間内に入力されるか否かを監視し、入力されない場合は前記定常溶接を停止することを特徴とする請求項1記載のアーク溶接ロボット。
【請求項6】
シールドガスの出力を予め定めたプリフロー時間だけ先行して開始するプリフロー処理時は、
前記溶接指令生成手段は、前記処理時間としての前記プリフロー時間を含むプリフロー開始信号を出力し、
前記第2監視手段は、前記溶接制御手段によって前記シールドガスの出力が開始されると、この開始時点からの経過時間である前記第2経過時間の計測を開始し、前記第2経過時間が前記プリフロー時間に到達するまでの間に前記ロボット制御装置からアークスタート信号が入力されるか否かを監視し、入力されない場合は、前記シールドガスの出力を停止することを特徴とする請求項1記載のアーク溶接ロボット。
【請求項7】
シールドガスの出力を予め定めたプリフロー時間だけ先行して開始するプリフロー処理時は、
前記溶接指令生成手段は、前記処理時間としての前記プリフロー時間および前記次工程指令としてのアークスタート指令を含むプリフロー開始信号を出力し、
前記第1監視手段は、前記プリフロー開始信号が出力されると、この出力時点からの経過時間である前記第1経過時間の計測を開始し、前記第1経過時間が前記プリフロー時間に到達するまでの間に前記溶接電源装置から前記溶接状態信号としてのプリフロー開始完了信号が入力されるか否かを監視し、前記プリフロー開始完了信号が入力されない場合は、前記溶接電源装置に非常停止信号を出力し、
前記第2監視手段は、前記プリフロー開始信号に基づいて前記シールドガスの出力が開始されると、この開始時点からの経過時間である前記第2経過時間の計測を開始し、前記第2経過時間が前記プリフロー時間に到達するまでの間に前記次工程指令で示されたアークスタート信号が入力されるか否かを監視し、入力されない場合は、前記シールドガスの出力を停止することを特徴とする請求項3記載のアーク溶接ロボット。
【請求項8】
アークを発生させるアークスタート処理時は、
前記溶接指令生成手段は、前記処理時間としてのアークスタート不良検出時間を含むアークスタート信号を出力し、
前記第1監視手段は、前記アークスタート信号が出力されると、この出力時点からの経過時間である前記第1経過時間の計測を開始し、前記第1経過時間が前記アークスタート不良検出時間に到達するまでの間に前記溶接電源装置から前記溶接状態信号が所定周期毎に入力されるか否かを監視し、入力されない場合は前記溶接電源装置に非常停止信号を出力し、
前記第2監視手段は、前記アークスタート信号に基づいて点弧処理が開始されると、前記点弧処理の開始時点からの経過時間である前記第2経過時間の計測を開始し、前記第2経過時間が前記アークスタート不良検出時間に到達するまでの間に前記次の溶接指令信号に代えてアークが発生するか否かを監視し、アークが発生しない場合は前記点弧処理を停止することを特徴とする請求項2記載のアーク溶接ロボット。
【請求項9】
溶接終端部を成形するクレータ処理時は、
前記溶接指令生成手段は、前記処理時間としてのクレータ溶接時間を含むクレータ溶接信号を出力し、
前記第2監視手段は、前記クレータ溶接信号に基づいて前記溶接電力の出力が変更されると、前記溶接電力の出力変更からの経過時間である前記第1経過時間を計測し、前記第1経過時間が前記クレータ溶接時間を越えても前記ロボット制御装置からアークエンド信号が入力されない場合は、前記クレータ溶接を停止することを特徴とする請求項1記載のアーク溶接ロボット。
【請求項10】
溶接終端部を成形するクレータ処理時は、
前記溶接指令生成手段は、前記処理時間としてのクレータ溶接時間および前記次工程指令としてのアークエンド指令を含むクレータ溶接信号を出力し、
前記第1監視手段は、前記クレータ溶接信号が出力されると、この出力時点からの経過時間である前記第1経過時間の計測を開始し、前記第1経過時間が前記クレータ溶接時間に到達するまでの間に前記溶接電源装置から前記溶接状態信号としてのクレータ溶接開始信号が入力されるか否かを監視し、入力されない場合は前記溶接電源装置に非常停止信号を出力し、
前記第2監視手段は、前記クレータ溶接信号に基づいて前記溶接電力の出力が変更されると、前記溶接電力の出力変更からの経過時間である前記第2経過時間を計測し、前記第2経過時間が前記クレータ溶接時間に到達するまでの間に前記次工程指令で示されたアークエンド信号が入力されるか否かを監視し、入力されない場合は前記クレータ溶接を停止することを特徴とする請求項3記載のアーク溶接ロボット。
【請求項11】
アークを停止させるアークエンド処理時は、
前記溶接指令生成手段は、前記処理時間としてのアークエンド待ち時間を含むアークエンド信号を出力し、
前記溶接制御手段は、前記アークエンド信号に基づいて消弧処理を開始したときは前記溶接状態信号としての消弧中信号および前記実行完了時間を出力し、次いで溶着解除処理に移行したときは前記溶接状態信号としての溶着解除中信号および前記実行完了時間を出力し、全てのアークエンド処理が完了したときは前記溶接状態信号としてのアークエンド完了信号を出力し、
前記第1監視手段は、前記アークエンド信号の出力時点からの経過時間である前記第1経過時間を計測し、
前記消弧中信号または前記溶着解除中が入力されないときは、前記第1経過時間が前記アークエンド待ち時間に到達するまでの間に前記アークエンド完了信号が入力されるか否かを監視し、入力されない場合は前記溶接電源装置に非常停止信号を出力し、
前記消弧中信号または前記溶着解除中信号が入力されたときは、前記第1経過時間の計測を中止して前記消弧中信号または前記溶着解除中信号の入力時点からの経過時間を前記第1経過時間として再計測を開始し、この再計測した前記第1経過時間が前記実行完了時間に到達するまでの間に次の溶接状態信号が入力されるか否かを監視し、入力されない場合は前記溶接電源装置に非常停止信号を出力し、
前記第2監視手段は、前記アークエンド信号に基づいて前記消弧処理が開始されると、処理開始時点からの経過時間である前記第2経過時間の計測を開始し、前記第2経過時間が前記アークエンド待ち時間に到達するまでの間に前記ロボット制御装置からシールドガス停止信号が入力されるか否かを監視し、入力されなかった場合は、前記ロボット制御装置に異常信号を出力することを特徴とする請求項4記載のアーク溶接ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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