説明

イオン吸着剤及びその製造方法

【課題】 陽イオン及び陰イオンの双方のイオンを吸着可能なイオン吸着剤を提供する。
【解決手段】 本発明のイオン吸着剤は、下記(A)成分の焼成物、下記(B)成分の焼成物、及び前記(A)成分と前記(B)成分との混合物の焼成物の少なくとも一つを含むことを特徴とする。

(A)成分:Ca(OH)2、CaCO3、CaCl2、及びCa(NO3)2からなる群から選択される少なくとも一つ
(B)成分:Al(OH)3及びAl2(SO4)3の少なくとも一方

本発明のイオン吸着剤によれば、例えば、陽イオンに加え、工業排水中のホウ素及びクロムが形成する陰イオンを吸着除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン吸着剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水域環境保全のために、工業排水等の排水に重金属イオン等の規制対象のイオンが含まれる場合には、規制対象のイオンを除去した後、排水を外部環境に放出する必要がある。鉄(Fe)及び銅(Cu)等のように、陽イオンを形成する重金属は、排水にアルカリ物質を添加すれば凝集沈殿させて除去することが可能である(例えば、特許文献1参照)。一方、ホウ素(B)及びクロム(Cr)等のような物質は、B(OH)又はCrO2−のように陰イオンを形成するため、アルカリ物質の添加では、凝集沈殿することができない。したがって、陰イオンを吸着することが可能な吸着剤が開発できれば、排水からのホウ素及びクロムの除去が容易になる。前記吸着剤が、陽イオンも吸着して除去可能であれば、一つの吸着剤で、陽イオン及び陰イオンを除去できるため、規制対象イオンを効率的に除去できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−141741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、陽イオン及び陰イオンを形成する物質であっても吸着して除去することが可能なイオン吸着剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明のイオン吸着剤は、下記(A)成分の焼成物、下記(B)成分の焼成物、及び前記(A)成分と前記(B)成分との混合物の焼成物の少なくとも一つを含むことを特徴とする。

(A)成分:Ca(OH)2、CaCO3、CaCl2、及びCa(NO3)2からなる群から選択される少なくとも一つ
(B)成分:Al(OH)3及びAl2(SO4)3の少なくとも一方

【0006】
また、本発明のイオン吸着剤の製造方法は、下記(A)成分、下記(B)成分、及び前記(A)成分と前記(B)成分との混合物の少なくとも一つを焼成することを特徴とする。

(A)成分:Ca(OH)2、CaCO3、CaCl2、及びCa(NO3)2からなる群から選択される少なくとも一つ
(B)成分:Al(OH)3及びAl2(SO4)3の少なくとも一方

【発明の効果】
【0007】
本発明のイオン吸着剤によれば、陽イオン及び陰イオンの双方を吸着して除去することが可能である。このため、本発明のイオン吸着剤を、例えば、排水処理に適用すれば、陽イオン及び陰イオンを効率的に除去することが可能となる。また、本発明のイオン吸着剤は、例えば、本発明の製造方法により製造可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、Ca(OH)2とAl(OH)3の混合物のTGのグラフの一例である。
【図2】図2は、Ca(OH)2とAl(OH)3の混合物のXRDのパターンの一例である。
【図3】図3は、Ca(OH)2とAl(OH)3の混合物のXRDのパターンのその他の例である。
【図4】図4は、CaCO3とAl(OH)3の混合物のTGのグラフの一例である。
【図5】図5は、CaCO3とAl(OH)3の混合物のXRDのパターンの一例である。
【図6】図6は、CaCO3とAl(OH)3の混合物のXRDのパターンのその他の例である。
【図7】図7は、本発明のイオン吸着剤のホウ素吸着量の一例を示すグラフである。
【図8】図8は、本発明のイオン吸着剤のホウ素吸着量のその他の例を示すグラフである。
【図9】図9は、本発明のイオン吸着剤のCr6+の吸着量の一例を示すグラフである。
【図10】図10は、本発明のイオン吸着剤のCr6+の吸着量のその他の例を示すグラフである。
【図11】図11は、本発明のイオン吸着剤のCr3+の吸着量の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のイオン吸着剤及びその製造方法において、前記(A)成分と前記(B)成分との混合物が、Ca(OH)2とAl(OH)3の混合物、又は、CaCO3とAl(OH)3の混合物であってもよい。また、前記混合物は、Ca(OH)2、CaCO3及びAl(OH)3の三者の混合物であってもよい。
【0010】
本発明のイオン吸着剤及びその製造方法では、前記(A)成分と前記(B)成分との混合物の焼成物において、CaとAlのモル比(Ca/Al)が、2〜5の範囲であることが好ましい。
【0011】
本発明のイオン吸着剤及びその製造方法において、前記焼成物の焼成温度が、600℃以上であることが好ましい。
【0012】
本発明の排水処理方法は、排水中に排水処理剤を添加してイオンを除去する排水処理方法であって、前記排水処理剤が、前記本発明のイオン吸着剤を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の排水処理剤は、本発明の排水処理方法に使用する排水処理剤であって、前記本発明のイオン吸着剤を含むことを特徴とする。
【0014】
次に、本発明について、例をあげて詳細に説明する。但し、本発明は、以下の説明によって限定及び制限されない。
【0015】
前述のように、本発明のイオン吸着剤は、前記(A)成分の焼成物、前記(B)成分の焼成物、及び前記(A)成分と前記(B)成分との混合物の焼成物の少なくとも一つを含む。前述のように、前記(A)成分と前記(B)成分との混合物は、Ca(OH)2とAl(OH)3の混合物、CaCO3とAl(OH)3の混合物、又は、Ca(OH)2、CaCO3及びAl(OH)3の三者の混合物であってもよい。
【0016】
前記(A)成分と前記(B)成分との混合物の焼成物において、CaとAlのモル比(Ca/Al)は、特に制限されず、例えば、0.5〜15の範囲、好ましくは、2〜5の範囲である。前記モル比が、2〜5の範囲では、例えば、ホウ素及びCr6+を効果的に吸着することができる。
【0017】
前記焼成物の焼成温度は、特に制限されず、例えば、600℃以上であり、好ましくは、800℃以上であり、より好ましくは1000℃以上である。前記焼成温度の具体的範囲は、例えば、600〜1000℃の範囲であり、好ましくは、800〜1000℃の範囲であり、より好ましくは、1000℃である。
【0018】
本発明のイオン吸着剤は、例えば、CaO,Ca12Al14O33,Ca5Al6O14,CaAl4O33,Ca12Al14O7及びCaAl2O4等の結晶性化合物を含んでいる。これらの結晶性化合物の割合は、CaとAlのモル比及び焼成温度等によって変化する。
【0019】
本発明のイオン吸着剤は、前記混合物を焼成することにより製造することができる。本発明のイオン吸着剤は、前記焼成物以外の物質を含んでいてもよく、例えば、他のイオン吸着剤を含んでいてもよい。
【0020】
本発明において、吸着対象となるイオンは特に制限されないが、例えば、前述した、ホウ素が形成する陰イオン(B(OH)4-)、クロムが形成する陰イオン(CrO42-)があげられ、これら以外のオキシアニオンがある。前記オキシアニオンとしては、AsO33-,AsO43-,SeO42-,MoO42-,WO42-,Pb(OH)62-等があげられる。また、本発明において、吸着対象となる陽イオンとしては、Cr3+,Mn2+,Cu2+,Fe2+,Fe3+,Cd2+等があげられる。
【実施例】
【0021】
つぎに、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例により限定及び制限されない。
【0022】
(1) Ca(OH)2/Al(OH)3混合物の熱重量(TG)分析
Ca(OH)2/Al(OH)3モル比=5の混合物を10℃/minの昇温速度で100℃〜1000℃まで昇温し、熱重量分析装置(製品名TG 8101D、リガク社製)を用いて重量変化を測定した。その結果を図1に示す。図示のように、100〜250℃付近まではほぼ一定の重量を示し、その後、250〜270℃の間で急激に重量が減少した後、270〜390℃の間でほぼ一定の重量を示した。さらに、390〜440℃の間で急激に重量が減少した後、440〜660℃の間でゆるやかに重量が減少した。その後、660〜1000℃の間ではほぼ一定の重量を示した。
【0023】
(2) 焼成温度の異なるCa(OH)2/Al(OH)3混合物のX線回折(XRD)分析
前記TG分析で重量がほぼ一定となった温度(350℃、500℃、800℃及び1000℃)でCa(OH)2/Al(OH)3混合物を焼成し、そのXRD分析により生成する結晶性化合物を同定した。その結果を図2に示す。図示のように、焼成温度350℃ではCa(OH)2に由来するシャープなピークが検出され、500℃ではCa(OH)2に由来するがブロードなピークが検出された。したがって、350℃では結晶性のCa(OH)2が存在し、加熱に伴い500℃では結晶性Ca(OH)2が非晶質化したことになる。さらに、焼成温度800℃では 非晶性Ca(OH)2の他に、わずかではあるがCaO由来のピークが検出された。さらに高い焼成温度1000℃ではCaO由来のピーク強度が大きくなると同時にCa12Al14O33に由来するピークが明瞭に検出された。
【0024】
(3) Ca(OH)2/Al(OH)3モル比の異なる混合物の1000℃焼成物のXRD分析
Ca/Alモル比を0.5〜15の間で変化させたCa(OH)2/Al(OH)3混合物を1000℃で焼成したものについてX線回折装置(製品名D8 ADVANCE TXS、BRUKER axs社製)を用いてXRD分析を行った。その結果を、図3に示す。図示のように、Ca/Alモル比=0.5および1.0では、結晶性化合物としてCaOの他に、Ca12Al14O33が検出され、さらに、低濃度ながらCaAl4O7およびCaAl2O4も検出された。Ca/Alモル比2以上では、CaOおよびCa12Al14O33に帰属されるピークが検出されたが、Ca/Alモル比の増加に伴いCaOのピーク強度は増加し、Ca12Al14O33のピーク強度は低下した。このことから、Ca/Alモル比の増加に伴いCaOの生成量が増加し、Ca12Al14O33の生成量は低下したと考えられる。
【0025】
(4) CaCO3/Al(OH)3混合物のTG分析
CaCO3/Al(OH)3モル比=5の混合物を10℃/minの昇温速度で100℃〜1000℃まで昇温し、前述と同じ装置で重量変化を測定した。その結果を図4に示す。図示のように、100〜250℃付近まではほぼ一定の重量を示し、その後、250〜270℃の間で急激に重量が減少した後、270〜600℃の間で徐々に重量が減少し、600〜770℃の間で急激に重量が減少し、それ以降(770〜1000℃)ではほぼ一定の重量を示した。
【0026】
(5) 焼成温度の異なるCaCO3/Al(OH)3混合物のXRD分析
前述したTG分析結果をもとに、重量がほぼ一定となった温度でCaCO3/Al(OH)3混合物を焼成し、前述の装置を用い、XRD分析を行った。その結果を図5に示す。図示のように、焼成温度350℃では原料中に存在するCaCO3に由来するシャープなピークが検出され、800℃ではシャープなCaOのピークと、ピーク強度が低くブロードなCa(OH)2に由来するピークが検出された。このことから、少なくとも350〜800℃の間で、CaCO3の熱分解(CaCO3→CaO+CO2)が起きたことが推定される。Ca(OH)2はCaOが空気中の湿分を吸収して生成したと推定される(CaO+H2O→Ca(OH)2)。さらに、高い焼成温度1000℃ではCaOに由来するシャープなピークのほかにCa9Al6O18やCa5Al6O14に由来する強度の低いピークが観測された。この場合、結晶性化合物としてCaOが主成分で、Ca5Al6O14およびCa9Al6O18が低濃度で含まれることになる。なお、前記推定は、本発明を制限及び限定しない。
【0027】
(6) CaCO3/Al(OH)3モル比の異なる混合物の1000℃焼成物のXRD分析
Ca/Alモル比を変化させたCaCO3/Al(OH)3混合物を1000℃で焼成したものについて、前述の装置を用いて、XRD分析した。その結果を図6に示す。図示のように、Ca/Alモル比=0.5では、結晶性化合物としてCaOに加え、微量の Ca5Al6O14,CaAl4O7およびCaAl2O4が検出された。Ca/Alモル比=1.0では、CaOに加え、微量の Ca5Al6O14およびCaAl2O4が検出された。Ca/Alモル比 1.5以上では、 CaOとCa9Al6O18に加え、微量のCa5Al6O14が検出された。Ca/Alモル比の増加に伴いCaOに由来するピークの強度は増加の傾向を示したが、Ca9Al6O18に由来するピークの強度はCa/Alモル比の増加により増加し、Ca/Alモル比=3で最も高くなり、さらにCa/Alモル比が増加するとピーク強度は低下し、Ca/Alモル比=10以上ではCa9Al6O18に由来するピークは観測されなかった。これらのことから、Ca/Alモル比の増加に伴いCaO生成量は増加し、Ca9Al6O18生成量はCa/Alモル比=3で最大となり、さらにCa/Alモル比を増加させるとCa9Al6O18生成量は低下し、Ca/Alモル比=10以上では消失したと推定される。ただし、本発明は前記推定により限定及び制限されない。
【0028】
(7) 各種焼成物によるホウ素の吸着
ホウ酸(H3BO3)水溶液(B濃度=11mg/L) 50mLに各種焼成物0.5gを添加し、よく混合したのち、1日間、室温で放置した。その後、溶液中の沈殿物をろ過し、ろ液中に残存するホウ素濃度をICPプラズマ発光法により測定した。初期ホウ素濃度(=11mg/L)と各種焼成物添加後の残存ホウ素濃度の差を各種焼成物のホウ素吸着量(mg/g-焼成物)とした。
【0029】
Ca(OH)2/Al(OH)3混合物(Ca/Al=2および5)およびCaCO3/Al(OH)3混合物(Ca/Al=2および5)の焼成物に対するホウ素吸着量の焼成温度依存性を図7に示す。図示のように、Ca/Alモル比に拘わらず、1273K付近で最も高いホウ素吸着量を示した。また、Ca(OH)2/Al(OH)3混合物およびCaCO3/Al(OH)3混合物を1273Kで焼成したもののホウ素吸着量のCa/Alモル比依存性を図8に示す。図示のように、Ca/Alモル比=2〜5付近で最大のホウ素吸着量を示した。これらのことから、これらの焼成物ではCa/Alモル比=2〜5付近で高いホウ素吸着量を示し、焼成温度はより高い方が高いホウ素吸着量を示すと言える。
【0030】
(8) 各種焼成物によるクロムイオン(6価クロム)の吸着
酸化クロム(CrO3)を溶解した水溶液(Cr濃度=51mg/L)50mLに各種焼成物0.5gを添加し、よく混合したのち、1日間、室温で放置した。その後、溶液中の沈殿物をろ過し、ろ液中に残存するCr濃度をICPプラズマ発光法により測定した。初期Cr濃度(=51mg/L)と各種焼成物添加後の残存Cr濃度の差を、各種焼成物のCr6+吸着量(mg/g-焼成物)とした。
【0031】
Ca(OH)2/Al(OH)3混合物(Ca/Al=2および5)およびCaCO3/Al(OH)3混合物(Ca/Al=2および5)の焼成物に対するCr6+吸着量の焼成温度依存性を、図9に示す。図示のように、Ca/Alモル比に拘わらず、1273 K付近で最も高いCr6+吸着量を示した。また、Ca(OH)2/Al(OH)3混合物およびCaCO3/Al(OH)3混合物を1273Kで焼成したもののCr6+吸着量のCa/Alモル比依存性を、図10に示す。同図には吸着条件として、焼成物/水溶液=0.5g/50mL=10g/Lの場合のほか、焼成物/水溶液=0.1g/50mL=2g/Lの場合の結果も併せて示す。図示のように、Ca/Alモル比=2〜5付近で最大のCr6+吸着量=25.5mg/g-焼成物を示した。これらのことから、これらの焼成物ではCa/Alモル比=2〜5付近で高いCr6+吸着量を示し、焼成温度はより高い方が高いCr6+吸着量を示すことがわかった。
【0032】
(9) 各種焼成物によるクロムイオン(3価クロム)の吸着
塩化クロム(CrCl3)を溶解した水溶液(Cr濃度=52mg/L)50mLに各種焼成物0.5gを添加し、よく混合したのち、1日間、室温で放置した。その後、溶液中の沈殿物をろ過し、ろ液中に残存するCr濃度をICPプラズマ発光法により測定した。初期Cr濃度(=52mg/L)と各種焼成物添加後の残存Cr濃度の差を、各種焼成物のCr3+吸着量(mg/g-焼成物)とした。各種焼成物作成時の原料中のCa/Alモル比がCr3+吸着量に及ぼす影響を図11に示す。
【0033】
図示のように、Ca(OH)2/Al(OH)3混合物の焼成物のうち、焼成温度600、800および1000℃で焼成したものは、いずれもCa/Alモル比=0.5〜15の間で、Ca/Alモル比によらず溶液中に添加したCr3+の全量を吸着し、最大のCr3+吸着量=5.2mg/g-焼成物を示した。CaCO3/Al(OH)3混合物の焼成物においても、高いCr3+吸着量を示すと推定される。ただし、前記推定は、本発明を制限及び限定しない。
【0034】
(10) Ca(OH)2/Al(OH)3混合物(Ca/Al=5)の焼成物によるホウ素及びクロム以外のイオンの吸着
表1に示すように、所定量の1mmol/Lの各種化合物(吸着対象イオンの発生源)の水溶液にCa(OH)2/Al(OH)3混合物(Ca/Al=5)の焼成物(焼成温度:1000℃)を所定量添加し、よく混合した後、1日間、室温で放置した。その後、溶液中の沈殿物をろ過し、ろ液中に残存する各種化合物由来の各種イオンの濃度をICPプラズマ発光法により測定した。各種イオンの初期濃度とCa(OH)2/Al(OH)3混合物(Ca/Al=5)の焼成物添加後に残存した各種イオンの濃度の差を、Ca(OH)2/Al(OH)3混合物(Ca/Al=5)の焼成物の各種イオン吸着量(mg/g-焼成物)とした。表1に示すとおり、Ca(OH)2/Al(OH)3混合物(Ca/Al=5)の焼成物は、ホウ素及びクロム以外のイオンも吸着することがわかった。なお、表1において、最大吸着量は、溶液中の各種イオンが全て吸着したと仮定した場合の理論計算値である。
【表1】

【0035】
(11) CaCO3/Al(OH)3混合物(Ca/Al=5)の焼成物によるホウ素及びクロム以外のイオンの吸着
表2に示すように、所定量の1mmol/Lの各種化合物(吸着対象イオンの発生源)の水溶液にCaCO3/Al(OH)3混合物(Ca/Al=5)の焼成物(焼成温度:1000℃)を所定量添加し、よく混合した後、1日間、室温で放置した。その後、溶液中の沈殿物をろ過し、ろ液中に残存する各種化合物由来の各種イオンの濃度をICPプラズマ発光法により測定した。各種イオンの初期濃度とCaCO3/Al(OH)3混合物(Ca/Al=5)の焼成物添加後に残存した各種イオンの濃度の差を、CaCO3/Al(OH)3混合物(Ca/Al=5)の焼成物の各種イオン吸着量(mg/g-焼成物)とした。表2に示すとおり、CaCO3/Al(OH)3混合物(Ca/Al=5)の焼成物は、ホウ素及びクロム以外のイオンも吸着することがわかった。なお、表2において、最大吸着量は、溶液中の各種イオンが全て吸着したと仮定した場合の理論計算値である。
【表2】

【0036】
(12) Ca(OH)2/Al2(SO4)3混合物(Ca/Al=1〜3)の焼成物によるクロムイオン(3価クロム)の吸着
1mmol/Lの塩化クロム(CrCl3)を溶解した水溶液(Cr濃度=52mg/L)50mLにCa(OH)2/Al2(SO4)3混合物(Ca/Al=1〜3)の焼成物(焼成温度:1000℃)を0.1g添加し、よく混合した後、1日間、室温で放置した。その後、溶液中の沈殿物をろ過し、ろ液中に残存するCr濃度をICPプラズマ発光法により測定した。初期Cr濃度(=52mg/L)とCa(OH)2/Al2(SO4)3混合物(Ca/Al=1〜3)の焼成物添加後の残存Cr濃度の差を、Ca(OH)2/Al2(SO4)3混合物(Ca/Al=1〜3)の焼成物のCr3+吸着量(mg/g-焼成物)とした。
【0037】
Ca(OH)2/Al2(SO4)3混合物(Ca/Al=1〜3)の焼成物(焼成温度:1000℃)におけるCr3+吸着量のモル比依存性を、表3に示す。表3に示すとおり、Ca/Alモル比=2以上で高いCr3+吸着量を示した。なお、表3において、最大吸着量は、溶液中のCr3+が全て吸着したと仮定した場合の理論計算値である。
【表3】

【0038】
(13) CaCl2/Al(OH)3混合物(Ca/Al=5)の焼成物によるクロムイオン(3価クロム)の吸着
表4に示すように、1mmol/Lの塩化クロム(CrCl3)を溶解した水溶液(Cr濃度=52mg/L)50mLにCaCl2/Al(OH)3混合物(Ca/Al=5)の焼成物(焼成温度:1000℃)を0.5g添加し、よく混合した後、1日間、室温で放置した。その後、溶液中の沈殿物をろ過し、ろ液中に残存するCr濃度をICPプラズマ発光法により測定した。初期Cr濃度(=52mg/L)とCaCl2/Al(OH)3混合物(Ca/Al=5)の焼成物添加後の残存Cr濃度の差を、CaCl2/Al(OH)3混合物(Ca/Al=5)の焼成物のCr3+吸着量(mg/g-焼成物)とした。表4に示すとおり、CaCl2/Al(OH)3混合物(Ca/Al=5)の焼成物は、Cr3+を吸着した。なお、表4において、最大吸着量は、溶液中のCr3+が全て吸着したと仮定した場合の理論計算値である。
【表4】

【0039】
(14) Ca(NO3)2/Al(OH)3混合物(Ca/Al=5)の焼成物によるホウ素、クロムイオン(6価クロム)及びクロムイオン(3価クロム)の吸着
表5に示すように、1mmol/Lのホウ酸(H3BO4)水溶液(B濃度=11mg/L)50mL、1mmol/Lの酸化クロム(CrO3)を溶解した水溶液(Cr濃度=52mg/L)50mL又は1mmol/Lの塩化クロム(CrCl3)を溶解した水溶液(Cr濃度=52mg/L)50mLにCa(NO3)2/Al(OH)3混合物(Ca/Al=5)の焼成物(焼成温度:1000℃)を0.5g添加し、よく混合した後、1日間、室温で放置した。その後、溶液中の沈殿物をろ過し、ろ液中に残存するホウ素濃度又はCr濃度をICPプラズマ発光法により測定した。初期ホウ素濃度(=11mg/L)又は初期Cr濃度(=52mg/L)とCa(NO3)2/Al(OH)3混合物(Ca/Al=5)の焼成物添加後の残存ホウ素濃度又は残存Cr濃度の差を、Ca(NO3)2/Al(OH)3混合物(Ca/Al=5)の焼成物のホウ素吸着量(mg/g-焼成物)、Cr6+吸着量(mg/g-焼成物)又はCr3+吸着量(mg/g-焼成物)とした。表5に示すとおり、Ca(NO3)2/Al(OH)3混合物(Ca/Al=5)の焼成物は、ホウ素、Cr6+及びCr3+を吸着した。なお、表5において、最大吸着量は、溶液中のホウ素、Cr6+又はCr3+が全て吸着したと仮定した場合の理論計算値である。
【表5】

【0040】
(15) Ca(OH)2の焼成物によるクロムイオン(6価クロム)及びクロムイオン(3価クロム)の吸着
表6に示すように、1mmol/Lの酸化クロム(CrO3)を溶解した水溶液(Cr濃度=52mg/L)50mL又は10mmol/Lの塩化クロム(CrCl3)を溶解した水溶液(Cr濃度=520mg/L)50mLにCa(OH)2の焼成物(焼成温度:1000℃)を所定量添加し、よく混合した後、1日間、室温で放置した。その後、溶液中の沈殿物をろ過し、ろ液中に残存するCr濃度をICPプラズマ発光法により測定した。初期Cr濃度とCa(OH)2の焼成物添加後の残存Cr濃度の差を、Ca(OH)2の焼成物のCr6+吸着量(mg/g-焼成物)又はCr3+吸着量(mg/g-焼成物)とした。表6に示すとおり、Ca(OH)2の焼成物は、Cr6+及びCr3+を吸着した。なお、表6において、最大吸着量は、溶液中のCr6+又はCr3+が全て吸着したと仮定した場合の理論計算値である。
【表6】

【0041】
(16) Al(OH)3の焼成物によるクロムイオン(6価クロム)の吸着
表7に示すように、1mmol/Lの酸化クロム(CrO3)を溶解した水溶液(Cr濃度=52mg/L)50mLにAl(OH)3の焼成物(焼成温度:1000℃)を0.5g添加し、よく混合した後、1日間、室温で放置した。その後、溶液中の沈殿物をろ過し、ろ液中に残存するCr濃度をICPプラズマ発光法により測定した。初期Cr濃度(=52mg/L)とAl(OH)3の焼成物添加後の残存Cr濃度の差を、Al(OH)3の焼成物のCr6+吸着量(mg/g-焼成物)とした。表7に示すとおり、Al(OH)3の焼成物は、Cr6+を吸着した。なお、表7において、最大吸着量は、溶液中のCr6+が全て吸着したと仮定した場合の理論計算値である。
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のイオン吸着剤は、例えば、工業排水中のイオンを効果的に吸着除去することが可能であり、その用途は、工業排水処理に限定されず、各種分野でのイオン吸着に使用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分の焼成物、下記(B)成分の焼成物、及び前記(A)成分と前記(B)成分との混合物の焼成物の少なくとも一つを含むことを特徴とするイオン吸着剤。

(A)成分:Ca(OH)2、CaCO3、CaCl2、及びCa(NO3)2からなる群から選択される少なくとも一つ
(B)成分:Al(OH)3及びAl2(SO4)3の少なくとも一方

【請求項2】
前記イオン吸着剤が、前記(A)成分と前記(B)成分との混合物の焼成物であり、前記(A)成分が、Ca(OH)2及びCaCO3の少なくとも一方であり、前記(B)成分が、Al(OH)3である請求項1記載のイオン吸着剤。
【請求項3】
前記イオン吸着剤が、前記(A)成分と前記(B)成分との混合物の焼成物であり、前記(A)成分がCa(OH)2であり、かつ、前記(B)成分が、Al(OH)3であるか、又は、前記(A)成分がCaCO3であり、かつ、前記(B)成分が、Al(OH)3である請求項1又は2記載のイオン吸着剤。
【請求項4】
前記(A)成分と前記(B)成分との混合物の焼成物において、CaとAlのモル比(Ca/Al)が、2〜5の範囲である請求項1から3のいずれか一項に記載のイオン吸着剤。
【請求項5】
前記焼成物の焼成温度が、600℃以上である請求項1から4のいずれか一項に記載のイオン吸着剤。
【請求項6】
下記(A)成分、下記(B)成分、及び前記(A)成分と前記(B)成分との混合物の少なくとも一つを焼成することを特徴とするイオン吸着剤の製造方法。

(A)成分:Ca(OH)2、CaCO3、CaCl2、及びCa(NO3)2からなる群から選択される少なくとも一つ
(B)成分:Al(OH)3及びAl2(SO4)3の少なくとも一方

【請求項7】
前記焼成が、前記(A)成分と前記(B)成分との混合物の焼成であり、前記(A)成分がCa(OH)2であり、かつ、前記(B)成分が、Al(OH)3であるか、又は、前記(A)成分がCaCO3であり、かつ、前記(B)成分が、Al(OH)3である請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
前記(A)成分と前記(B)成分との混合物の焼成物において、CaとAlのモル比(Ca/Al)が、2〜5の範囲である請求項6又は7記載の製造方法。
【請求項9】
前記焼成物の焼成温度が、600℃以上である請求項6から8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
排水中に排水処理剤を添加してイオンを除去する排水処理方法であって、前記排水処理剤が、請求項1から5のいずれか一項に記載のイオン吸着剤を含むことを特徴とする排水処理方法。
【請求項11】
請求項10記載の排水処理方法に使用する排水処理剤であって、請求項1から5のいずれか一項に記載のイオン吸着剤を含むことを特徴とする排水処理剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−200688(P2012−200688A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68759(P2011−68759)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】