説明

イオン導電体材料

【目的】 本発明の目的は、従来よりも低温で燃料電池を高効率に作動させることができ、更に熱に対して安定かつ耐熱衝撃性が高いイオン導電体材料を提供することにある。
【構成】 本発明のイオン導電体材料は、[(1-y){xCe(1−x)ZrO2}−ySrO](ただし、0.5≦x≦0.9、0.02≦y≦0.1)からなる組成の固溶体粉末と、安定化ジルコニア粉末とを重量比で1:9ないし1:1の比率で混合した混合物の焼結体よりなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、酸素センサー、固体電解質型燃料電池、水蒸気分解装置等に使用されるイオン導電体材料に関する。
【0002】
【従来の技術】イオン導電体に一般に求められている物性は、■イオン導電率が高く、電子伝導の寄与率が低い;
■使用環境の影響を受けにくいなどが挙げられるが、燃料電池や水蒸気分解装置などの高温で使用される材料では、繰り返し昇降温にさらされるため、■熱に対して安定である;
■熱衝撃に十分耐え得るなどが更に要求される。
【0003】酸化ジルコニウムの立方晶を酸化イットリウムで安定化させた安定化ジルコニアがこれらの条件を比較的良く満足することは、広く知られている。しかし、固体電解質燃料電池(SOFC)の実用化に向けては、更に高効率化を計ることが要求されており、薄膜化を初めとした手法により、電解質板の抵抗値を下げるなどの試みがなされている。
【0004】電解質板を薄膜化することにより、従来以上に高効率に電力を発生することが可能となる一方、電極材料であるペロブスカイト型化合物との高温での反応や、昇降温の繰り返しによる素子の劣化等の影響を無視し得なくなることが考えられ、これらの問題の解決が必要となっている。
【0005】この問題の解決法として、燃料電池の作動温度を下げ、電極材料との反応を防ぐため、電解質に陰極での反応性の高い、酸化セリウムに酸化カルシウム等を添加した材料を使用する研究も行われている(特開昭61−198569号公報)が、一般に酸化セリウムは電子伝導性が高く、従って、高い陰極特性を示した場合でも、素子全体の効率の向上はさほど見込めないという欠点があった。
【0006】更に、両者の利点を有効に活用する方法として、安定化ジルコニア電解質の陰極側に酸化セリウム系電解質を取り付ける方法(特開昭61−198568号公報)、陽極側の安定化ジルコニアから、陰極側に向かって徐々に酸化セリウムの濃度を高めた複合酸化物を重ねていった傾斜材料を使用する方法(特開昭62−40172号公報)などが考えられているが、これらの方法は電解質板の作製、即ち素子の複合化のプロセスが複雑になる、あるいは組成が均一でないために生じる熱膨張係数の差による破壊の可能性などの問題を抱えていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、前述のような技術的課題を解決するためのものであって、その目的とするところは、前記主旨からも明らかな通り、従来よりも低温で燃料電池を高効率に作動させることができ、更に熱に対して安定かつ耐熱衝撃性が高いイオン導電体材料を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記要求を満足するイオン導電体材料の開発を目指し、種々研究を重ねた結果、[(1-y){xCe(1−x)ZrO2}−ySrO](ただし、0.5≦x≦0.9、0.02≦y≦0.1)からなる組成の粉末と、安定化ジルコニア粉末とを1:9ないし1:1の比率で混合した混合物を焼成して得られた焼結体が、イオン導電性を損なうことなく電極での高い反応性を示し、従来よりも低温で燃料電池を高効率に作動させ得て、熱に対して安定かつ耐熱衝撃性が高いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】即ち、本発明に係るイオン導電体材料は、[(1-y){xCe(1−x)ZrO2}−ySrO](ただし、0.5≦x≦0.9、0.02≦y≦0.1)からなる組成の固溶体粉末と、安定化ジルコニア粉末とを重量比で1:9ないし1:1の比率で混合した混合物の焼結体よりなるものである。
【0010】
【作用】本発明において、[(1-y){xCe(1−x)ZrO2}−ySrO](ただし、0.5≦x≦0.9、0.02≦y≦0.1)からなる組成の固溶体粉末のx及びyの数値限定並びに固溶体粉末と、安定化ジルコニア粉末との混合比を限定した理由を以下に述べる。
【0011】本発明のイオン導電体材料とは、高いイオン導電率を示す安定化ジルコニア、及び耐熱衝撃性に優れた酸化ジルコニウム−酸化セリウム固溶体に電子伝導性を抑えるべく酸化ストロンチウムを添加した固溶体の複合酸化物である点に特徴を有している。更に、そのそれぞれが電解質板中で独立して存在する点が大きな特徴であり、これらが独立して存在し、個々の特性が発揮されるため高いイオン導電率と、高い陰極特性とを同時に達成できたのである。即ち、電解質板中では、酸化ジルコニウム−酸化セリウム固溶体粒子と安定化ジルコニア粒子とは独立して存在し、微視的には不均一な状態を成し、更に電極界面では、酸化セリウムと電極材料とが直接接する界面が存在するため、高い陰極特性を示す。一方、電解質板全体を巨視的に見れば、各部位における見掛け上の組成は一定となり、従って、熱膨張に異方性がないため、昇降温に伴う破壊の可能性も皆無となっている。
【0012】更に、酸化ジルコニウム−酸化セリウム固溶体相には、電子伝導の影響を防止すべく、酸化ストロンチウムを適当量固溶させたために、酸化セリウム系材料を使用した場合の欠点であるイオン導電率の低下を防ぐことができるものである。
【0013】ここで、x<0.5のとき、酸化ジルコニウム−酸化セリウム固溶体の性質は、安定化シルコニアのそれに近く、CeO2系のもつ高い陰極特性を十分に発揮し得ない。また、0.9<xのとき、立方晶CeO2のもつ特性に近く、イオン導電性が極端に低いため好ましくない。また、0.1<yのとき、過剰に添加されたSrOが固溶体を生成できずに粒界等に析出し、電子伝導ばかりでなく、イオン伝導までも阻害してしまう。逆に、0.02>yの時は、SrOの添加による電子伝導の阻害効果がほとんど見られず好ましくない。更に、[(1−y){xCe(1−x)ZrO2}−ySrO]の固溶体が安定化ジルコニアに対し、当重量比以上の場合、安定化ジルコニウム相の高いイオン導電性を十分に発揮できず、むしろ電子伝導性が主となってしまう。一方、固溶体1重量に対し、安定化ジルコニアが9重量を超える時は、電極材料と、酸化セリウム相との接触面を十分に確保できず、高い陰極特性を示さないために好ましくない。
【0014】以下に本発明のイオン導電体材料の製造方法の一例を詳しく述べるが、これによって本発明のイオン導電体材料の製造方法が制限を受けるものではない。まず、市販のCeO2粉末とZrO2粉末とをモル比で1:1ないし9:1の割合で混合する。混合は、湿式混合、乾式混合のいずれを用いても良く、ボールミルによる粉砕混合をはじめ、一般に行われている混合方法で行うことができる。次に、この混合粉末に対してSrCO3粉末を混合粉末:SrCO3=98:2ないし90:10となるように混合したのち、1500℃〜1680℃の温度で1〜10時間焼成し、酸化ジルコニウム−酸化セリウム固溶体[(1−y){xCe(1−x)ZrO2}−ySrO]粉末を得る。ここで用いるSrCO3には市販の高純度原料粉末を用いることができるが、不純物が0.5%以下のものであることが好ましい。また、SrO源としてはSrCO3に限らず、(CH3COO)2Sr、Sr(NO3)2などを用いることもできる。
【0015】この酸化ジルコニウム−酸化セリウム固溶体粉末に対して、市販の安定化ジルコニア粉末を重量比で1:9ないし1:1の割合で混合し、原料粉末とする。安定化ジルコニア粉末としてはイットリア安定化ジルコニア、カルシア安定化ジルコニアなどを用いることができるが、Y23を6モル%以上含むイットリア安定化ジルコニア粉末が最も好ましい。混合方法は、湿式、乾式のいずれでも良いが、混合時に粉砕を伴うような工程は避けることが好ましい。
【0016】上記工程で得られた原料粉末を、1軸加圧、等方加圧、ドクターブレード法など、一般的手法によって成形して成形体を作製し、1550℃ないし1680℃で5時間以上焼成することによって、本発明のイオン導電体材料の焼結体を得ることができる。
【0017】
【実施例】
実施例1市販のZrO2粉末246gと市販のCeO2粉末1376gとを用い、モル比で2:8にし、これをボールミルを用いてエタノール中で湿式粉砕混合してZrO2−CeO2混合粉末1622gを得た。この混合粉末に市販のSrCO3粉末77.8gを加え、モル比を95:5とし、再度エタノール中で湿式混合したのち、乾燥した混合粉末を白金容器に入れ、電気炉中1600℃で3時間焼成し、[0.95{0.2Zr0.8CeO2}−0.05SrO]固溶体粉末を得た。この固溶体粉末と市販のイットリア8モル%安定化ジルコニア粉末とを重量比で2:8となるように秤量し、粉砕を受けないため樹脂コートしたボールを用い、ボールミルにより混合して目的組成の粉末を得た。この粉末を1軸加圧成形した後、電気炉中1650℃で5時間焼結し、径12mm×厚さ1mmの焼結体を得た。得られた焼結体は、X線回折の結果から、酸化ジルコニウム−酸化セシウム固溶体相と安定化ジルコニア相とわずかに生成したSrZrO3などの不純物相とからなっており、焼成によって固溶体相と安定化ジルコニア相とが完全に固溶化した状態とはなっていなかった。この焼結体を隔壁とし、水素ガスと酸素ガスとを隔てた燃料電池に、図2の回路を接続し、900℃で抵抗値を5Ωから10MΩまで変化させたときに発生した電流、電圧を記録したところ、図1に示す電流−電圧曲線が得られた。同寸法の安定化ジルコニア(0.08Y2O30.92ZrO2)を用いた時と比較すると、高い電流を取り出しても、電圧降下が生じることはなく、限界電流値は約100mVと、約2.5倍であった。
【0018】実施例2市販のZrO2粉末246gと市販のCeO2粉末1376gとを用い、モル比で2:8にし、これをボールミルを用いてエタノール中で湿式粉砕混合してZrO2−CeO2混合粉末1622gを得た。この混合粉末に市販のSrCO3粉末45.8gを加え、モル比を97:3とし、再度エタノール中で湿式混合したのち、乾燥した混合粉末を白金容器に入れ、電気炉中1600℃で3時間焼成し、[0.97{0.2Zr0.8CeO2}−0.03SrO]固溶体粉末を得た。この固溶体粉末と市販のイットリア8モル%安定化ジルコニア粉末とを重量比で4:6となるように秤量し、粉砕を受けないため樹脂コートしたボールを用い、ボールミルにより混合して目的組成の粉末を得た。この粉末を1軸加圧成形した後、電気炉中1650℃で5時間焼結し、径12mm×厚さ1mmの焼結体を得た。得られた焼結体は、X線回折の結果から酸化ジルコニウム−酸化セリウム固溶体相と安定化ジルコニア相とわずかに生成したSrZrO3などの不純物相からなっており、焼成によって固溶体相と安定化ジルコニア相とが完全に固溶化した状態とはなっていなかった。この焼結体を隔壁とし、水素ガスと酸素ガスとを隔てた燃料電池に、図2の回路を接続し、900℃で抵抗値を5Ωから10MΩまで変化させたときに発生した電流、電圧を記録したところ、図1に示す電流−電圧曲線が得られた。同寸法の安定化ジルコニア(0.08Y2O30.92ZrO2)を用いた例と比較すると、高い電流を取り出しても、電圧降下が生じることはなく、限界電流値は約70mVと、約1.7倍であった。
【0019】比較例1径12mm×厚さ1mmのイットリウム安定化ジルコニアの焼結体を隔壁とし、水素ガスと酸素ガスとを隔てた燃料電池に、図2の回路を接続し、900℃で、抵抗値を5Ωから10MΩまで変化させた時に発生した電流、電圧を記録したところ、図1に示す電流−電圧曲線が得られた。開回路の端子電圧はほぼ理論値と同じ(約900mV)であったが、出力電流が30mAを超えると急激に電圧降下を起こし、限界電流値は約40mAであった。
【0020】比較例2実施例2と同様の方法で作製した[0.97{0.2Zr0.8CeO2}−0.03SrO]固溶体粉末を1軸加圧成形し、電気炉中1650℃で5時間焼結し、径12mm×厚さ1mmの焼結体を得た。この焼結体を隔壁とし、水素ガスと酸素ガスとを隔てた燃料電池に、図2の回路を接続し、900℃で、抵抗値を5Ωから10MΩまで変化させた時に発生した電流、電圧を記録したところ、図1に示す電流−電圧曲線が得られた。開回路の端子電圧は約100mVと理論値の約10分の1と低く、可変抵抗の値に拘わらず、極めて低い電流値しか観測することができなかった。
【0021】
【発明の効果】本発明のイオン導電体材料は、従来のイオン導電体材料よりも低温で燃料電池を高効率に作動させることができ、更に熱に対して安定かつ耐熱衝撃性が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1及び2並びに比較例1及び2の焼結体をそれぞれ隔壁とし、水素−酸素燃料電池を形成し、900℃で作動させた場合の電流−電圧曲線である。
【図2】電流−電圧曲線を測定するために用いた装置の回路図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 [(1-y){xCe(1−x)ZrO2}−ySrO](ただし、0.5≦x≦0.9、0.02≦y≦0.1)からなる組成の固溶体粉末と、安定化ジルコニア粉末とを重量比で1:9ないし1:1の比率で混合した混合物の焼結体よりなることを特徴とするイオン導電体材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平6−183740
【公開日】平成6年(1994)7月5日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−333186
【出願日】平成4年(1992)12月14日
【出願人】(000000240)小野田セメント株式会社 (1,449)