説明

イオン液体を用いた非水系電解液およびリチウム二次電池

【課題】従来の電池よりも優れた電池性能と高い安全性を持ち合わせたリチウム二次電池が得られる難燃性の非水系電解液及びそのリチウム二次電池を提供する。
【解決手段】リチウム塩とリチウム塩を溶解させる非水溶媒とからなる非水系電解液であって、非水溶媒がビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンをアニオン成分として含むイオン液体であり、かつリチウムビスオキサレートボラートを添加剤として含有する非水系電解液を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体を用いた非水系電解液及びリチウム二次電池に関し、より詳しくはFSIアニオンを有するイオン液体を用いた難燃性の非水系電解液及びリチウム二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、小型軽量の充電可能な電池で、単位容積あるいは単位重量あたり蓄電容量が大きく、携帯電話、ノートパソコン、携帯情報端末(PDA)、ビデオカメラ、デジタルカメラなどに広く利用され、小型軽量で比較的電力消費の大きな各携帯型機器には必要不可欠なものとなっている。また、近年では電動自転車や電動自動車に搭載する中型・もしくは大型のリチウム電池の開発が進められており、環境負荷を低減させる手段としてもその開発に期待が寄せられている。
【0003】
従来、リチウム二次電池の非水系電解液に使用される非水溶媒としては、リチウム塩を溶解しやすく、かつ電気分解しにくい極性非プロトン性の有機溶媒が使用されているが、これらは引火点が非常に低いために、過充電時や短絡時の発熱により、引火や爆発などの電池の安全性について大きな問題を抱えている。特に近年では電子機器の小型・軽量化や電動自動車の開発に伴って、大容量、高出力のリチウム二次電池の開発が急務となり、安全性の問題はますます重要な解決課題となっている。このため、リチウム二次電池の非水系電解液に難燃性の化合物としてイオン液体を使用することが種々検討されている(例えば特許文献1)。
【0004】
その中でビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンをアニオン成分として含むイオン液体は、他のイオン液体と比較して粘度が低く、高率の充放電時においても高い性能を持ち、高エネルギー密度、高電圧である上に、イオン液体が不燃性であるので、これを非水系電解液の溶媒に用いることにより安全性に優れるリチウム電池を提供することが可能である(特許文献2)。
【0005】
しかしながら、通常の黒鉛化性炭素電極とイオン液体との組み合わせを用いたリチウム電池は、有機溶媒系の電池と比較すると内部抵抗が高く、出力特性や低温特性に劣る場合があり、さらなる出力特性や低温特性の向上が望まれる。
【0006】
このため、難燃性のイオン液体を使用したリチウム二次電池において、上記のような電池性能の向上が求められている。
【特許文献1】特開2008−108460号公報
【特許文献2】特開2007−207675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、従来の電池よりも優れた電池性能と高い安全性を持ち合わせた難燃性の非水系電解液及びリチウム二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記問題点を解決するため鋭意研究を重ねた結果、支持電解質であるリチウム塩を溶解する溶媒として、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンをアニオン成分として含むイオン液体を用い、かつ添加剤としてリチウムビスオキサレートボラート(以下、LiBOBと表記する場合もある)を用いることで、出力特性や低温特性を向上させ得ることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、本発明の非水系電解液は、リチウム塩とリチウム塩を溶解させる非水溶媒とからなる非水系電解液であって、非水溶媒がビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンをアニオン成分として含むイオン液体であり、かつリチウムビスオキサレートボラートを添加剤として含有するものとする。
【0010】
上記リチウムビスオキサレートボラートの含有量は、これを含有している前記イオン液体中の濃度として0.01重量%以上であることが好ましい。
【0011】
上記イオン液体は、窒素原子を含むカチオンをカチオン成分として含むことが好ましい。
【0012】
窒素原子を含むカチオンとしては、アルキルアンモニウム、イミダゾリウム、ピロリジニウム、及びピペリジニウムからなる群から選択された1種又は2種以上が好適に用いられる。
【0013】
本発明のリチウム二次電池は、上記本発明の非水系電解液と、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極と、負極と、これら正極と負極との間に設けたセパレータとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、電池の使用環境の悪さや事故の際の内部温度上昇によってもたらされる電池の短絡、発火、爆発といった問題に対して、難燃性のイオン液体を用いることにより、過充電時や短絡時の発熱時においても引火や爆発の危険性を排除することができるのみならず、難燃性のイオン液体中に添加剤としてLiBOBを加えることにより、電池の内部抵抗を減少させることができる。従って、出力特性や低温特性といった電池特性と安全性とが共に従来よりも向上した非水系電解液及び電池を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
本発明に係る非水系電解液は、リチウムイオンを伝導するための溶媒にリチウム塩を溶解した非水系電解液と、添加剤から構成される。
【0017】
本発明の非水系電解液には、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(以下、FSIアニオンと表記する場合がある)をアニオン成分として含むイオン液体を用いる。このようなイオン液体を用いた電解液は不燃性であるため、得られるリチウム二次電池は安全性に優れるものとなる。また、高率の充放電時においても高い性能を持ち、高エネルギー密度、高電圧の電池が得られる。
【0018】
上記FSIアニオンの製造方法は特に限定されるものではないが、ビス(クロロスルホニル)イミドアニオン化合物を窒素含有化合物(例えばトリエチルアミン)などの塩基触媒を使用してフッ素置換することによりFSI化合物を得ることができる。また、ビス(クロロスルホニル)イミドの製造方法としては、例えば、クロロスルホニルイソシアネートとクロロスルホン酸とを反応させる方法、スルファミン酸、クロロスルホン酸および塩化チオニルとを反応させる方法などが挙げられる。なお、必要に応じて、水、有機溶媒などによる再沈殿、再結晶などの精製を行い、用いてもよい。
【0019】
上記イオン液体に含まれるアニオン成分には、本発明の目的を離れない範囲で、このFSIアニオン以外のアニオンを含んでいてもよい。その例としては、BF、PF、SbF、NO、CFSO、(CFSO(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、以下、TFSIと表記する場合がある)、(CSO、(CFSO、CFCO、CCO、CHCO、(CN)等が挙げられる。これらのアニオンは2種類以上を含んでいてもよい。
【0020】
本発明に含まれるイオン液体において、上記FSIアニオンと組み合されるカチオンには特に制限はないが、融点50℃以下のイオン液体を形成するカチオンとの組み合わせが好ましい。融点が50℃を超えると非水系電解液の粘度が上昇し、リチウム二次電池のサイクル特性に問題が生じたり、放電容量が低下する傾向があるためである。
【0021】
そのようなカチオンとしては、N、P、S、O、C、Siのいずれか1種、もしくは2種類以上の元素を構造中に含み、鎖状、又は5員環、6員環などの環状構造を骨格に有する化合物が用いられる。
【0022】
5員環、6員環などの環状構造の具体例としては、フラン、チオフェン、ピロール、ピリジン、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、フラザン、イミダゾール、ピラゾール、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、ピロリジン、ピペリジンなどの複素単環化合物、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、インドール、イソインドール、インドリジン、カルバゾールなどの縮合複素環化合物が挙げられる。
【0023】
上記カチオンとしては、窒素元素を含む鎖状または環状の化合物である、アンモニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオンが、工業的に安価であり、化学的、電気化学的に安定であるため、特に好ましい。
【0024】
上記アンモニウムカチオンの具体例としては、テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラブチルアンモニウムカチオン、テトラヘキシルアンモニウムカチオン、トリエチルメチルアンモニウムカチオン、トリブチルエチルアンモニウムカチオン、トリメチルデシルアンモニウムカチオン、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムカチオン、グリシジルトリメチルアンモニウムカチオン、N,N−ジメチル−N,N−ジプロピルアンモニウムカチオン、N,N−ジメチル−N,N−ジヘキシルアンモニウムカチオン、N,N−ジプロピル−N,N−ジヘキシルアンモニウムカチオン、N,N−ジメチル−N−エチル−N−プロピルアンモニウムカチオン、N,N−ジメチル−N−エチル−N−ブチルアンモニウムカチオン、N,N−ジメチル−N−エチル−N−ペンチルアンモニウムカチオン、N,N−ジメチル−N−エチル−N−ヘキシルアンモニウムカチオン、N,N−ジメチル−N−エチル−N−ヘプチルアンモニウムカチオン、N,N−ジメチル−N−エチル−N−ノニルアンモニウムカチオン、N,N−ジメチル−N−プロピル−N−ブチルアンモニウムカチオン、N,N−ジメチル−N−プロピル−N−ペンチルアンモニウムカチオン、N,N−ジメチル−N−プロピル−N−ヘキシルアンモニウムカチオン、N,N−ジメチル−N−プロピル−N−ヘプチルアンモニウムカチオン、N,N−ジメチル−N−ブチル−N−ヘキシルアンモニウムカチオン、N,N−ジメチル−N−ブチル−N−ヘプチルアンモニウムカチオン、N,N−ジメチル−N−ペンチル−N−ヘキシルアンモニウムカチオン、トリメチルヘプチルアンモニウムカチオン、N,N−ジエチル−N−メチル−N−プロピルアンモニウムカチオン、N,N−ジエチル−N−メチル−N−ペンチルアンモニウムカチオン、N,N−ジエチル−N−メチル−N−ヘプチルアンモニウムカチオン、N,N−ジエチル−N−プロピル−N−ペンチルアンモニウムカチオン、トリエチルメチルアンモニウムカチオン、トリエチルプロピルアンモニウムカチオン、トリエチルペンチルアンモニウムカチオン、トリエチルヘプチルアンモニウムカチオン、N,N−ジプロピル−N−メチル−N−エチルアンモニウムカチオン、N,N−ジプロピル−N−メチル−N−ペンチルアンモニウムカチオン、N,N−ジプロピル−N−ブチル−N−ヘキシルアンモニウムカチオン、N,N−ジブチル−N−メチル−N−ペンチルアンモニウムカチオン、N,N−ジブチル−N−メチル−N−ヘキシルアンモニウムカチオン、トリオクチルメチルアンモニウムカチオン、N−メチル−N−エチル−N−プロピル−N−ペンチルアンモニウムカチオン、トリメチルトリフルオロエチルアンモニウムカチオン、トリメチルトリフルオロブチルアンモニウムカチオン、トリエチルトリフルオロエチルアンモニウムカチオン、トリエチルトリフルオロブチルアンモニウムカチオン、トリブチルトリフルオロエチルアンモニウムカチオン、トリブチルトリフルオロブチルアンモニウムカチオン、トリヘキシルトリフルオロエチルアンモニウムカチオン、トリヘキシルトリフルオロブチルアンモニウムカチオン、アリルトリメチルアンモニウムカチオン、アリルトリメチルアンモニウムカチオン、アリルトリエチルアンモニウムカチオン、アリルトリエチルアンモニウムカチオン、アリルトリブチルアンモニウムカチオン、アリルトリブチルアンモニウムカチオン、アリルトリヘキシルアンモニウムカチオン、アリルトリヘキシルアンモニウムカチオンなどが挙げられる。
【0025】
上記イミダゾリウムカチオンの具体例としては、1,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、1,3−ジエチルイミダゾリウムカチオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−へキシル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−テトラデシル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムカチオン、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、1−へキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、1,3−ジアリルイミダゾリウムカチオン、1−アリル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−アリル−3−エチルイミダゾリムカチオン、1−メチル−3−トリフルオロエチルイミダゾリウムカチオン、1−メチル−3−トリフルオロブチルイミドゾリウムカチオン、1−メチル−3−(2−メトキシエチル)イミダゾリウムカチオンなどが挙げられる。
【0026】
中でも1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−アリル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−アリル−3−エチルイミダゾリムカチオンが好ましく用いられる。
【0027】
上記ピロリジニウムカチオンの具体例としては、1,1−ジメチルピロリジニウムカチオン、1−エチル−1−メチルピロリジニウムカチオン、1−メチル−1−プロピルピロリジニウムカチオン、1−アリル−1−メチルピロリジニウムカチオン、1−メチル−1−トリフルオロエチルピロリジニウムカチオン、1−メチル−1−トリフルオロブチルピロリジニウムカチオン、1−メチル−1−(2−メトキシエチル)ピロリジニウムカチオンなどが挙げられる。
【0028】
中でも、1−メチル−1−プロピルピロリジニウムカチオン、1−アリル−1−メチルピロリジニウムカチオンが好ましく用いられる。
【0029】
上記ピペリジニウムカチオンの具体例としては、1,1−ジメチルピペリジニウムカチオン、1−エチル−1−メチルピペリジニウムカチオン、1−メチル−1−プロピルピペリジニウムカチオン、1−アリル−1−メチルピペリジニウムカチオン、1−メチル−1−トリフルオロエチルピペリジニウムカチオン、1−メチル−1−トリフルオロブチルピペリジニウムカチオン、1−メチル−1−(2−メトキシエチル)ピペリジニウムカチオンなどが挙げられる。
【0030】
中でも、1−メチル−1−プロピルピペリジニウムカチオン、1−アリル−1−メチルピペリジニウムカチオンが好ましく用いられる。
【0031】
本発明の非電解液の支持電解質として上記イオン液体に溶解されるリチウム塩としては、非水系電解液用電解質として通常使用されているリチウム塩であれば、特に限定されることなく使用することができる。そのようなリチウム塩の例としては、LiPF,LiBF,LiClO,LiAsF,LiCFSO,LiC(CFSO,LiN(CFSO(LiTFSI),LiN(FSO(LiFSI)等が挙げられる。これらのリチウム塩は、2種類以上を混合して使用することができる。中でも、LiFSI、LiTFSIが好ましい。
【0032】
このようなリチウム塩は、通常、0.1〜2.0モル/リットル、好ましくは0.3〜1.5モル/リットルの濃度で、イオン液体中に含まれていることが望ましい。
【0033】
本発明で添加剤として使用するLiBOBの添加量としては、LiBOBと使用するリチウム塩を溶解させる溶媒(イオン液体)との溶解性により変わるため、一概に決めることはできないが、通常は、LiBOBを含有しているイオン液体中の濃度として0.01〜10重量%が好ましく、0.03〜5重量%がより好ましい。0.01重量%未満であると十分な電池性能が得られにくく、10重量%を超えると溶解性の問題が発生する傾向がある。
【0034】
なお、本発明の非水系電解液には、発明の趣旨を離れない範囲であれば、必要に応じて、LiBOB以外の添加剤として、溶媒、安定剤、又は難燃剤をさらに使用することもできる。
【0035】
次に、本発明に係るリチウム二次電池について説明する。本発明のリチウム二次電池は、正極と負極と、この正極と負極との間に設けられた両者を隔離するセパレータと、上記した本発明の非水系電解液とで構成される。
【0036】
本発明で用いられる正極の活物質としては、リチウムイオンの挿入、脱離が可能であるものであれば、特に制限されることはない。例えば、正極活物質としては、CuO、CuO、MnO、MoO、V、CrO、MoO、Fe、Ni、CoO等の金属酸化物、LiCoO、LiNiO、LiMn等のリチウムと遷移金属との複合酸化物や、TiS、MoS、NbSe等の金属カルコゲン化物、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子化合物等が挙げられる。
【0037】
特に、本発明においては、一般に高電圧系と呼ばれる、コバルト、ニッケル、マンガン等の遷移金属から選ばれる1種以上とリチウムとの複合酸化物が、リチウムイオンの放出性、高電圧が得られやすい点で好ましい。そのようなコバルト、ニッケル、マンガンとリチウムとの複合酸化物の具体例としては、LiCoO、LiMnO、LiMn、LiNiO、LiNiCo(1−x)、LiMnNiCo(a+b+c=1)などが挙げられる。
【0038】
また、これらのリチウム複合酸化物に、少量のフッ素、ホウ素、アルミニウム、クロム、ジルコニウム、モリブデン、鉄などの元素をドープしたものも使用可能である。
【0039】
また、リチウム複合酸化物の粒子表面を、炭素、MgO、Al、SiO等で表面処理したものも使用できる。
【0040】
本発明の正極の活物質としては、上記のリチウムと遷移金属酸化物の他に、LiFePO(0<x≦1.2、通常は1である)で表されるリン酸鉄リチウムが好ましく挙げられる。リン酸鉄リチウムは3.1〜3.5V/Li付近に平坦なリチウムの挿入、脱離電位を有し、かつ、全ての酸素がリンと共有結合で結びつき、ポリアニオンを形成しているために、温度上昇に伴い正極中の酸素が放出されて電解液を燃焼させることがない。このため、高温充電状態での安全性はLiCoOなどより良好である。また、化学的、機械的安定性も極めて優れた性質を持ち、長期保存性能にも優れている。
【0041】
これらの正極活物質は2種類以上を併用することも可能である。
【0042】
負極の活物質には、リチウムイオンの挿入、脱離が可能な活物質が使用される。このような活物質としては、上記正極に用いられる金属化合物や導電性高分子化合物を同様に使用することができるが、本発明においては、金属リチウム、LiAlなどのリチウム系合金、アモルファスカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、グラファイト、天然黒鉛等の炭素材料、これらの炭素材料の表面修飾物、酸化スズ、SiOなどのSi系負極等が好適であり、さらに炭素材料としては、活性炭、炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。そのなかで、金属リチウム、リチウム系合金、炭素材料、Si系負極が特に好ましい。これらの活物質は2種類以上を併用してもよい。
【0043】
これらの負極活物質は、金属リチウムの酸化還元電位になるべく近いものを選択することにより、本発明の高電位、高エネルギー密度が実現される。このためには上記正極との組み合わせが重要となる。
【0044】
上記正極及び負極には導電剤が用いられる。導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば、特に限定なく使用することができる。通常、アセチレンブラックやケッチンブラック等のカーボンブラックが使用されるが、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛など)、人造黒鉛、カーボンウイスカー、炭素繊維や金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料でもよい。これらは2種類以上の混合物として含ませることができる。その添加量は活物質量に対して1〜30重量%が好ましく、特に2〜20重量%が好ましい。
【0045】
また、電極活物質の集電体としては、構成された電池において悪影響を及ぼさない電子伝導体であれば特に限定なく用いることができる。例えば、正極用集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス等の他に、接着性、導電性、耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅等の表面を、カーボン、ニッケル、チタンや銀等で処理した物を用いることができる。
【0046】
負極用集電体としては、銅、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、チタン、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金等の他に、接着性、導電性、耐酸化性向上の目的で、銅等の表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀等で処理したものを用いることができる。
【0047】
これらの集電体材料は、表面を酸化処理することも可能である。これらの形状については、フォイル状の他、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされた物、ラス体、多孔質体、発泡体等の成形体も用いられる。厚みは特に限定はないが、1〜100μmのものが用いられる。
【0048】
上記活物質を正極や負極に結着させるバインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、PVDFとヘキサフルオロプロピレン(HFP)やパーフルオロメチルビニルエーテル(PFMV)及びテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体などのPVDF共重合体樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴムなどのフッ素系樹脂や、スチレン―ブタジエンゴム(SBR)、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)スチレン−アクリロニトリル共重合体などのポリマーが挙げられ、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の多糖類、ポリイミド樹脂等の熱可塑性樹脂などを併用することができるが、これに限定されるものではない。また、これらは2種類以上を混合して用いてもよい。その添加量としては、活物質量に対して1〜30重量%が好ましく、特に2〜20重量%が好ましい。
【0049】
また、セパレータとしては、多孔性の膜が使用でき、通常微多孔性ポリマーフィルムや不織布が好適に使用される。特に、ポリオレフィンポリマーからなる多孔性フィルムが好ましい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン製フィルムの微多孔膜、多孔性のポリエチレンフィルムとポリプロピレンとの多層フィルム、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等からなる不織布、及びそれらの表面にシリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたものが挙げられる。
【実施例】
【0050】
以下に実施例によって、本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0051】
[合成例]
(カリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(KFSI)の合成)
四つ口フラスコにアセトニトリル296g、クロロスルホニルイソシアネート1モルを仕込み、クロロスルホン酸1モルを反応させた。反応後、反応物に1モルの塩化カリウムを入れて中和し、反応原料Aを得た。
【0052】
次に、四つ口フラスコにアセトニトリル253g、フッ化カリウム349g、反応原料Aを548g入れ、そこにピリジン12.6gを加え、40℃で8時間攪拌した。反応液をろ過し、ろ液を減圧濃縮して、ビス(フルオロスルホニル)イミドカリウム塩186gを得た。得られた生成物をエタノール溶媒による再結晶精製に供することにより、残留ハロゲン(塩素、臭素、ヨウ素)濃度30ppm以下(誘導プラズマ発光分析(ICP分析))のカリウムビス(フルオロスルホニル)イミドを得た。
【0053】
(1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・エチル硫酸塩の合成)
攪拌機、滴下ロート、冷却管、温度計をつけた1000ml四つ口フラスコに、1−メチルイミダゾール175g(2.13モル)、トルエン141gを仕込み、40℃に加熱した。そこに、ジエチル硫酸345g(2.24モル)を1時間かけてゆっくり滴下した。滴下後、50℃で5時間反応させた後、未反応のジエチル硫酸をトルエンで溶媒洗浄することにより除去した。その後、減圧乾燥を行うことにより1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・エチル硫酸塩を496g得た。
【0054】
(1−メチル−1−プロピルピロリジニウム・臭素塩の合成)
攪拌機、滴下ロート、冷却管、温度計をつけた1000ml四つ口フラスコに、メチルピロリジン150g(1.76モル)、酢酸エチル388gを仕込み、40℃に加熱した。そこに、臭化プロピル238g(1.94モル)を1時間かけてゆっくり滴下した。滴下後、50℃で5時間反応させた後、析出物をろ紙にてろ別し、白色結晶物を得た。この白色結晶物を酢酸エチルにて3回洗浄した後、減圧乾燥により1−メチル−1−プロピルピロリジニウム・臭素塩を261g得た。
【0055】
(1−メチル−1−プロピルピペリジニウム・臭素塩の合成)
攪拌機、滴下ロート、冷却管、温度計をつけた1000ml四つ口フラスコに、メチルピペリジン150g(1.51モル)、酢酸エチル355gを仕込み、40℃に加熱した。そこに、臭化プロピル205g(1.67モル)を1時間かけてゆっくり滴下した。滴下後、50℃で8時間反応させた後、析出物をろ紙にてろ別し、白色結晶物を得た。この白色結晶物を酢酸エチルにて3回洗浄した後、減圧乾燥により1−メチル−1−プロピルピペリジニウム・臭素塩を202g得た。
【0056】
(1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・FSIの合成)
上記で得られた1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・エチル硫酸塩229gを水229gに溶解し、それに上記で得られたKFSI213gを水213gに溶解させた溶液を加え、室温で撹拌した。その後、二層に分離した下層を分液し、50重量%の純水を加え5回水洗することにより副生成物を除去し、真空乾燥することで1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・FSIを209g得た。
【0057】
(1−メチル−1−プロピルピロリジニウム・FSIの合成)
上記で得られた1−メチル−1−プロピルピロリジニウム・臭素塩143gを水143gに溶解し、それに上記で得られたKFSI150gを水150gに溶解させた溶液を加え、室温で撹拌した。その後、二層に分離した下層を分液し、50重量%の純水を加え5回水洗することにより副生成物を除去し、真空乾燥することで1−メチル−1−プロピルピロリジニウム・FSIを163g得た。
【0058】
(1−メチル−1−プロピルピペリジニウム・FSIの合成)
上記で得られた1−メチル−1−プロピルピペリジニウム・臭素塩71gを水71gに溶解し、それに上記で得られたKFSI70gを水70gに溶解させた溶液を加え、室温で撹拌した。その後、二層に分離した下層を分液し、50重量%の純水を加え5回水洗することにより副生成物を除去し、真空乾燥することで1−メチル−1−プロピルピロリジニウム・FSIを76g得た。
【0059】
[実施例1]
[正極の作製]
正極活物質であるLiNi1/3Mn1/3Co1/3を100g、導電剤としてカーボンブラック(ティムカル・グラファイト&カーボン社製、Super−P)を7.8g、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)3.3g、分散媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を38.4g、それぞれを遊星型ミキサーで混合し、固形分51%の正極塗工液を調製した。この塗工液を塗工機で厚み15μmのアルミニウム箔上にコーティングを行い、130℃で乾燥後ロールプレス処理を行い、正極活物質6.5mg/cmの正極を得た。
【0060】
[負極の作製]
負極活物質であるグラファイトを100g、導電剤としてカーボンブラック(同社製、Super−P)を0.55g、バインダーとしてPVDF8.7g、分散媒としてNMPを79.1g、それぞれ遊星型ミキサーで混合し、固形分50%の負極塗工液を調製した。この塗工液を厚み10μmの電解銅箔上にコーティングを行い、130℃で乾燥後ロールプレス処理を行い、負極活物質3.6mg/cmの負極を得た。
【0061】
[リチウム二次電池の作製]
得られた正極と負極との間に、セパレータとして厚み40μmのポリエチレン系セパレータを挟んだ構造の積層体を作成し、端子を取り出すためのタブリードを溶接したのち、折り返したアルミラミネート包材に入れ、正極面積18cm、負極面積19.84cmのリチウム二次電池を作製した。電解液として1−エチル−3−メチルイミダゾリウム−FSI溶媒に0.3重量%のLiBOBを添加し、その電解液に1.5mol/リットルのLiTFSIを溶解した溶液を注入した後、開放部のアルミラミネートをヒートシーラーで封止し、試験用のセル(リチウム二次電池)を作製した。
【0062】
作製したリチウム二次電池について以下の性能試験を行った。結果を表1に示す。
【0063】
[容量保持率]
充放電試験装置を用いて、20℃の条件下で、充電を0.2C時間率、放電を0.2Cから5C時間率の条件で行い、0.2C放電容量に対する5C放電容量の容量保持率(Q5.0C/Q0.2C)を調べた。
【0064】
[0℃の容量保持率]
初めに充放電試験装置を用いて、20℃の条件下で、充電を1.0C時間率、放電を1.0C時間率を用いて、20℃の1.0C放電容量を算出した。次に20℃の条件下で、充電を1.0C時間率の条件で行った後、0℃の条件下で10〜20時間電池を放置し、放電を1.0C時間率の条件で行い、20℃の1.0C放電容量に対する0℃の1.0C放電容量の容量保持率(Q0℃/Q20℃)を調べた。
【0065】
[実施例2〜15,比較例1〜14]
正極活物質の種類と厚み、負極活物質、電解質、リチウム塩の濃度、LiBOBの添加量を表1に示した通りに変更した以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を作成し、上記と同様にして性能試験を行った。結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示された結果から分かるように、本発明の非水系電解液では、イオン液体に添加剤としてLiBOBを加えることにより、チウム二次電池の出力特性や低温特性を顕著に向上させ得ることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の非水系電解液を用いたリチウム電池は、携帯電話、ノートパソコン、携帯情報端末(PDA)、ビデオカメラ、デジタルカメラなどの各種の携帯型機器に使用することができる。さらに、電動自転車や電動自動車に搭載する中型や大型の電池にも有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム塩とリチウム塩を溶解させる非水溶媒とからなる非水系電解液であって、
前記非水溶媒がビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンをアニオン成分として含むイオン液体であり、かつリチウムビスオキサレートボラートを添加剤として含有する
ことを特徴とする非水系電解液。
【請求項2】
前記リチウムビスオキサレートボラートの含有量が、これを含有している前記イオン液体中の濃度として0.01重量%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の非水系電解液。
【請求項3】
前記イオン液体が窒素原子を含むカチオンをカチオン成分として含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の非水系電解液。
【請求項4】
前記窒素原子を含むカチオンが、アルキルアンモニウム、イミダゾリウム、ピロリジニウム、及びピペリジニウムからなる群から選択された1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項3の非水系電解液。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水系電解液と、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極と、負極と、前記正極と負極との間に設けたセパレータとを備えることを特徴とするリチウム二次電池。

【公開番号】特開2013−89365(P2013−89365A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227086(P2011−227086)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(504338977)エレクセル株式会社 (9)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】