説明

イソチアゾール誘導体を製造する方法

【課題】収率が高く効率的で毒性の強い原料を使用せず工業的規模で簡便に実施可能な、3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールを製造する方法の提供。
【解決手段】一般式(1)


で表されるスクシノニトリルと、一般式SmCl(2)で表される塩化硫黄とを、非プロトン性極性溶媒中で反応させる事を特徴とする、一般式(3)


で表される3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬の中間体として有用なイソチアゾール誘導体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イソチアゾール誘導体は医農薬中間体及び、機能性色素、電子材料等の中間体として広く知られており、種々合成検討が行われてきた(非特許文献1、非特許文献2参照)。中でも容易に官能基変換可能な5−シアノイソチアゾールは重要な医農薬中間体として用いられている。従来、5−シアノイソチアゾールを得る方法として、二硫化炭素(CS)、シアン化ナトリウム(NaCN)、塩素(Cl)を用いる方法が知られている(特許文献1参照)。しかし、この方法は、収率が低く非効率的であると共に、使用する原料として特殊引火物であるCSや毒物であるNaCNを用いることから工業的に好ましい製造方法ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】US3341547号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tetrahedron Lett.42,(1970)3719−3722.
【非特許文献2】Chem.Commun.2002,1872−1873.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術の持つ欠点を解決した、収率が高く効率的で毒性の強い原料を使用せず工業的規模で簡便に実施可能な、3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールを製造する方法が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のような状況に鑑み、本発明者が3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールを製造する方法について鋭意研究を重ねた結果、意外にも、スクシノニトリルと一塩化硫黄を反応させることにより、上記課題を解決できることを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0007】
本発明方法により、3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールの新規な工業的製造法が提供される。本発明方法によれば、原料として、工業的に入手容易なスクシノニトリルを用いて3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールを簡便な操作で製造できる。更に、本発明方法では有害な廃棄物も出ないので廃棄物処理が容易で環境にも優しく、工業的な利用価値が高い。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
本発明は、下記〔1〕乃至〔7〕項に記載の発明を提供する事により前記課題を解決したものである。
〔1〕一般式(1)
【0010】
【化1】

【0011】
で表されるスクシノニトリルと、一般式(2)
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、mは1〜2の整数を示す。)
【0014】
で表される塩化硫黄とを、非プロトン性極性溶媒中で反応させる事を特徴とする、式(3)
【0015】
【化3】

【0016】
で表される3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールの製造方法。
【0017】
〔2〕非プロトン性極性溶媒が、アミド系非プロトン性極性溶媒又はプロピレンカーボネートである、〔1〕記載の3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールの製造方法。
【0018】
〔3〕非プロトン性極性溶媒が、アミド系非プロトン性極性溶媒である、〔1〕記載の3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールの製造方法。
【0019】
〔4〕非プロトン性極性溶媒が、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、テトラメチル尿素、又はヘキサメチルホスホリックトリアミドあるいはこれらの混合溶媒である、〔1〕記載の3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールの製造方法。
【0020】
〔5〕非プロトン性極性溶媒が、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、テトラメチル尿素あるいはこれらの混合溶媒である、〔1〕記載の3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールの製造方法。
【0021】
〔6〕一般式(2)で表される塩化硫黄又はその混合物が、反応系内で調製されたものである、〔1〕乃至〔5〕記載の3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールの製造方法。
【0022】
〔7〕一般式(2)で表される塩化硫黄が、一塩化硫黄である、〔1〕乃至〔6〕記載の3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールの製造方法。
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0024】
本発明方法は、式(1)で表されるスクシノニトリルと、一般式(2)で表される塩化硫黄とを、非プロトン性極性溶媒中で反応させる事を特徴とする、式(3)で表される3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールの製造方法である。
【0025】
まず、本発明方法の原料として用いる、式(1)で表される原料化合物について説明する。
【0026】
式(1)で表されるスクシノニトリル(原料化合物)は現在工業的に比較的に安価に入手可能なものであり、さらに取り扱い、及び、毒性面からも工業的原材料として好ましい公知化合物である。
【0027】
続いて、一般式(2)で表される塩化硫黄について説明する。
【0028】
一般式(2)中のmは1〜2の整数を示す。
【0029】
従って、当反応に使用できる一般式(2)で表される塩化硫黄としては、具体的には例えば、一塩化硫黄、二塩化硫黄を挙げることができ、本発明においてはこれら一塩化硫黄、二塩化硫黄の任意の割合での混合物も使用可能である。一般式(2)で表される塩化硫黄は、これが必要な段階で、硫黄と塩素からin situで(本発明方法の反応系内において)調製したものであってもよく、また、硫黄と塩素から系外で別途調製したものであってもよい。入手性や取り扱いの簡便さ、反応性等の観点からは、一塩化硫黄の使用が好ましい。
【0030】
これらの一般式(2)で表される塩化硫黄は公知化合物である。
【0031】
当反応における、一般式(2)で表される塩化硫黄の使用モル比は、一般式(1)で表される原料化合物に対して如何なるモル比でも反応が進行するが、一般式(1)で表されるスクシノニトリル(原料化合物)に対して当量以上、好ましく一般式(1)で表される原料化合物に対して通常2.0〜20.0当量、好ましくは4.0〜8.0当量の範囲であれば良い。一塩化硫黄の替わりに塩化チオニルを用いることは、反応が進行しない場合があるので望ましくない。
【0032】
当反応においては非プロトン性極性溶媒を用いる。用いうる非プロトン性極性溶媒としては、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミノ、N−メチルピロリドン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等のアミド系非プロトン性極性溶媒や、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン(TMSO4)等の硫黄含有非プロトン性極性溶媒、他にプロピレンカーボネート等の非プロトン性極性溶媒を用いて行うことができる。反応性、後処理の簡便さ等の観点からアミド系非プロトン性極性溶媒の使用が好ましく、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等を用いるのが、より好ましい。溶媒は単独で、又は任意の混合割合の混合溶媒として用いることができる。
【0033】
溶媒量としては、反応系の攪拌が充分にできる量であれば良いが、式(1)で表される原料化合物1モルに対して0.01〜10L、好ましくは0.1〜1.0L、より好ましくは0.1〜0.5Lの範囲を例示できる。
【0034】
当反応の反応温度は、70℃〜溶媒の還流温度の範囲を例示できるが、好ましくは80℃〜130℃の範囲が良い。
【0035】
当反応の反応時間は特に制限されないが、副生物抑制の観点等から、好ましくは5時間〜20時間がよい。
【0036】
当反応によれば、特別な反応装置を用いることなく、穏やかな条件下で高収率に一般式(3)で表される3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールが生成する。得られる一般式(3)で表される3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールは、医農薬等の中間原料として有用な化合物である。
【実施例】
【0037】
次に、実施例を挙げて本発明化合物の製造方法を具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0038】
実施例1:3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールの製造
攪拌器、還流冷却器、温度計、滴下ロートを備えた300mlの四口フラスコに、スクシノニトリル1.30g(16.0mmol)、N−メチルピロリドン8.10ml(84.0mmol)、一塩化硫黄10.4ml(130mmol)を攪拌しながら20〜25℃で加えた。その後100℃に昇温し、6時間攪拌した。反応液を25℃まで放冷したのち、氷水にあけ、トルエンにて反応生成物を抽出した。このトルエン溶液をHPLC絶対検量線法で分析した結果、3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールの収率は70%であった。尚、トルエン溶液で得られた3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールは、一部を単離しスペクトル測定により構造確認した。
13C−NMR 75MHz(CHCl-d,δ):108.2,130.9,131.0,149.8. GC−MS(m/z):178[M−1],180[M+1]
【0039】
実施例2:3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールの製造
攪拌器、還流冷却器、温度計を備えた300mlの四口フラスコに、スクシノニトリル5.70g(71.0mmol)、N、N−ジメチルホルムアミド35.5ml(0.460mol)、硫黄36.5g(1.14mol)を加え、攪拌しながら25℃以下で塩素40.4g(0.570mol)を吹き込んだ。その後100℃に昇温し、6時間攪拌した。反応液を25℃まで放冷したのち、氷水にあけ、トルエンにて反応生成物を抽出した。このトルエン溶液をHPLC絶対検量線法で分析した結果、3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールの収率は64%であった。
【0040】
比較例1:3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールの製造(非プロトン性極性溶媒を用いない方法)
攪拌器、還流冷却器、温度計、滴下ロートを備えた300mlの四口フラスコに、スクシノニトリル1.30g(16.0mmol)、一塩化硫黄10.4ml(130mmol)を攪拌しながら20〜25℃で加えた。その後100℃に昇温し、6時間攪拌したが3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールは得られなかった。
【0041】
比較例2:3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールの合成(非特許文献2記載の方法)
50mlのフラスコにスクシノニトリル1.76g(22mmol)、テトラブチルアンモニウムクロライド0.428g(1.5mmol)を入れ、ジクロロメタン20mlに溶解し、攪拌しながら20〜30℃でニ塩化硫黄29.3g(220mmol)を滴下した。その後、室温で24時間攪拌したが、3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールは得られなかった。
【0042】
比較例3:3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールの合成(非特許文献2記載の方法)
50mlのフラスコにスクシノニトリル1.76g(22mmol)、テトラブチルアンモニウムクロライド0.428g(1.5mmol)を入れ、ジクロロメタン20mlに溶解し、攪拌しながら20〜30℃でニ塩化硫黄29.3g(220mmol)を滴下した。その後、24時間還流しながら攪拌したが、3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールは得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールの新規な工業的製造法が提供される。本発明方法によれば、原料として工業的入手可能な一般式(1)で表されるスクシノニトリルを用いることが可能で、毒性の高い原料や高価な触媒あるいは遷移金属、または特殊な反応装置を用いることなく、穏やかな条件下、工業的規模で目的とする3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールを高収率、且つ簡便な操作で製造できる。さらに、触媒もしくは遷移金属に由来する有害な廃棄物も出ないので廃棄物処理が容易で環境にも優しく工業的な利用価値が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

で表されるスクシノニトリルと、一般式(2)
【化2】

(式中、mは1〜2の整数を示す。)
で表される塩化硫黄とを、非プロトン性極性溶媒中で反応させる事を特徴とする、式(3)
【化3】

で表される3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールの製造方法。
【請求項2】
非プロトン性極性溶媒が、アミド系非プロトン性極性溶媒又はプロピレンカーボネートである、請求項1記載の3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールの製造方法。
【請求項3】
非プロトン性極性溶媒が、アミド系非プロトン性極性溶媒である、請求項1記載の3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールの製造方法。
【請求項4】
非プロトン性極性溶媒が、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、テトラメチル尿素、又はヘキサメチルホスホリックトリアミドあるいはこれらの混合溶媒である、請求項1記載の3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールの製造方法。
【請求項5】
非プロトン性極性溶媒が、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、テトラメチル尿素あるいはこれらの混合溶媒である、請求項1記載の3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールの製造方法。
【請求項6】
一般式(2)で表される塩化硫黄又はその混合物が、反応系内で調製されたものである、請求項1乃至5記載の3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールの製造方法。
【請求項7】
一般式(2)で表される塩化硫黄が、一塩化硫黄である、請求項1乃至6記載の3,4−ジクロロ−5−シアノイソチアゾールの製造方法。

【公開番号】特開2010−260805(P2010−260805A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111842(P2009−111842)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【出願人】(000102049)イハラケミカル工業株式会社 (48)
【Fターム(参考)】