説明

イチゴの栽培方法

【課題】 日本国内において春季から秋季にいたる期間であっても、秋季から春季にいたる期間と同等の品質と収量を上げるイチゴの栽培方法を提供すること。
【解決手段】 穀類穀皮を原料とする炭化物を含有する植物栽培用培地で栽培することを特徴とするイチゴの栽培方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、春季から秋季にいたる期間であっても、糖酸比の高いイチゴを効率的に栽培するイチゴの栽培方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イチゴは1年中旺盛な需要があるが、我が国においては秋季から春季にかけての出荷が通例であり、春季から秋季にいたる期間にはイチゴを経済的に出荷する体制は未だ万全とはいえない。春季から秋季にいたる期間に栽培されるイチゴ(以下、「夏イチゴ」と総称することがある)は、酸度が高く、糖酸比が低いため酸っぱい食味を有しており、品質的に問題がある。従って、夏イチゴを経済的に出荷できる体制にはなっていないのが現状である。
【0003】
そのため、夏イチゴを出荷するためには、オーストラリアやアメリカからの輸入に頼らざるを得ない状況である。しかしながら、イチゴの果皮は柔らかいため、輸送中に劣化しやすく、輸入品のおよそ50%が傷んでおり、輸入品のイチゴは出荷できる品質にはないのが現状である。
【0004】
近年、食品や飲料等の製造工程から生じるビール粕等の植物由来の廃棄物を炭化処理して再利用することが知られている(特許文献1、特許文献2)。また、これらの炭化物をロックウールや水苔の代替物として利用する植物栽培用培地が知られている(特許文献3)。
【0005】
しかしながら特許文献1〜3の何れにおいても、糖酸度の高い夏イチゴを効率的に栽培する技術に関しては何等記載されていない。
【特許文献1】特開1996−9954号公報
【特許文献2】特開2000−33496号公報
【特許文献3】特開2003−325044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、日本国内において春季から秋季にいたる期間であっても、秋季から春季にいたる期間と同等の品質と収量を上げるイチゴの栽培方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、栽培用培地を工夫することにより、春季から秋季の期間であっても、高糖度で低酸度のイチゴを効率的に栽培できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記の(1)〜(4)に関するものである。
(1) 穀類穀皮を原料とする炭化物を含有する植物栽培用培地でイチゴを栽培することを特徴とするイチゴの栽培方法。
(2) 前記穀類穀皮が大麦穀皮であることを特徴とする(1)に記載のイチゴの栽培方法。
(3) 前記栽培用培地が、砂、れき、土、セラミックボール、ピートモス、ロックウール、バーク、バーミキュライト、パーライト、フェノール発泡樹脂、樹皮、水苔及びヤシガラからなる群より選ばれる少なくとも1種と穀類穀皮を原料とする炭化物との混合物であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のイチゴの栽培方法。
(4) 高設栽培でイチゴを栽培することを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかに記載のイチゴの栽培方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、春季から秋季にいたる期間であっても、糖酸比の高いイチゴを効率的に栽培することができる。無論、秋季から春季に至る期間であっても、本発明方法により、糖酸比の高いイチゴを効率的に栽培することができる。
【0010】
また、ビール製造工程で発生する大麦等の穀物穀皮は従来飼料として再利用されてきたが、輸送コストが販売価格以上にかかるため問題となってきた。本発明により、これらの穀類穀皮を加工して出荷してもコストを回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明における穀類穀皮とは、大麦、小麦、米、ヒエ、アワ等の穀類の穀皮であり、ビール、発泡酒、清酒、焼酎等のアルコール飲料製造工程や精米、精麦等の食品製造工程で廃棄物として発生するものを用いることができる。特に、ビールや発泡酒の製造工程で大量に発生する大麦穀皮を原料とする炭化物が、低コストの点で好ましい。
【0012】
穀類穀皮を原料として炭化物を製造する方法は、特に限定されないが、例えば穀類穀皮を乾燥させ、成形し、炭化処理すればよい。穀類穀皮を原料とする炭化物の製造方法の一例としては、例えば特開2000-051782公報に示された「熱風循環式炭化法」と呼ばれる方法を挙げることができる。「熱風循環式炭化法」の詳細な工程については、化学工学論文集,28, 2, pp.137-142 (2002)に示されている。
【0013】
上記従来技術を利用して原料を粒状、棒状等の適当な形状に成形した後、炭化処理をすれば目的とする炭化物を得ることができる。得られた炭化物から適当な大きさのものを選択するか、もしくは炭化物を破砕、粉砕し篩分けすることにより、夏イチゴ栽培に適した培地とすることができる。このようにして得られる炭化物は、以下の様な物性を有するが、これらの物性値に限定されることはない。
(穀類穀皮を原料とする炭化物の物性値)
・比表面積: 30 〜 85 m/g
・灰分: 12 〜 14 wt%
・密度: 1.96 g/cm
例えば、イチゴ栽培用培地としては、得られた炭化物を粉砕して2mm篩下になったものを用いればよい。一般的に木炭等の炭化物は水に浸漬させた場合強アルカリ性を示すため、そのままでは植物栽培用培地として適さない。しかしながら、大麦等の穀類穀皮を原料とする炭化物は水に浸漬させた場合弱アルカリ性を示すため、軽く水で洗うだけで植物用培地として使用可能である。
【0014】
本発明で用いる穀類穀皮を原料とする炭化物は、リン、マグネシウム、カルシウム等の各種ミネラルを含み、多孔質かつ保水性に優れ、イチゴ栽培用の培地として好適である。
【0015】
本発明方法のイチゴ栽培用の植物栽培培地としては、穀類穀皮を原料とする炭化物そのものを用いてもよいが、公知の培地を混合して用いてもよい。
【0016】
混合して用いる公知の培地としては、砂、れき、土、セラミックボール、ピートモス、ロックウール、バーク、バーミキュライト、パーライト、フェノール発泡樹脂、樹皮、水苔及びヤシガラからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0017】
本発明方法に使用する培地の場合であれば、大麦穀皮等の穀類穀皮を原料とする炭化物の混合割合は3〜60Vol%が望ましい。
【0018】
本発明方法において、糖酸比の高いイチゴを栽培するには、上記栽培培地を用いればよく、その栽培形式は限定されない。例えば、上記培地をポットに充填して、イチゴの苗を栽培するポット栽培法や、上記培地を樋形の栽培槽に充填し、該栽培槽を地面より高位置に課題で仮設した装置で栽培する高設栽培法が挙げられる。高設栽培方法は、立ったまま作業ができるので農業従事者の負担が少なく、従来の露地栽培のように土作りが不要で、養液栽培が可能で潅水と施肥を同時に行うことができる等の利点があるので好ましい。
【0019】
本発明方法により、春季から秋季であっても、収量を下げることなく、糖酸比の高いイチゴを効率的に栽培することができる。また、本発明方法によるイチゴの栽培に要する手間は、従来のイチゴの栽培方法と変わらず、生産農家に過度の負担を強いることはない。
【0020】
本発明方法により、春季から秋季にいたる期間であっても、糖酸比の高いイチゴを栽培できる詳細な理由は不明であるが、培地内の適切な水分状態を保つことができる、炭化物が有用微生物の繁殖を促進する、などが考えられる。
【0021】
以下に、製造例、実施例をもって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されることはない。
【0022】
(製造例1)
ビール製造工程で発生する大麦穀皮(含水率約80wt%)を、スクリュー式脱水機で脱水し、含水率を65wt%に下げ、特開2000-051568公報に記載の方法で熱風乾燥させ、ビール粕乾燥物を得た。これを特開平10-205451号公報に示した方法で塊状に成形し、ビール粕成形品を得た。これを特開2000-051782公報、あるいは特開2002-154909公報に示した方法で熱風により炭化して均一な品質の炭化物を得た。
【0023】
得られた炭化物を粉砕し、2mm篩下のものを回収して、水洗し、以下の実施例に用いた。実施例に用いた炭化物の物性値は以下の通りである。
・比表面積: 84.8 m/g
・密度: 1.96 g/cm
【実施例1】
【0024】
製造例1で調製した大麦穀皮を原料とする炭化物とピートモス(北海道農材工業(株)製)を混合した培地でイチゴ(品種 ペチカ)を夏季に栽培した。大麦穀皮を原料とする炭化物の混合比率を20Vol%、40vol%に設定した。また、同時に比較としてピートモス((有)高橋ピートモス工業・高級園芸用A級(1号))80Vol%とロックウール粒状綿(日東紡の栽培用ロックファイバー・55R粒状綿(中粒))20Vol%を混合した培地でイチゴ(品種 ペチカ)を夏季に栽培する実験も実施した。
【0025】
栽培実験期間はいずれも当該培地への定植後14週間とした。比較した測定項目は、草丈、葉柄長、花房数、総収量、糖度、酸度とした。その結果を図1〜図6に示す。図中、「MC」は大麦穀皮を原料とする炭化物の略称である。
【0026】
図1、図2に示すように草丈、葉柄長には差がなかった。図3、図4より大麦穀皮を原料とする炭化物の混合区で花房数、総収量は栽培実験途中でやや多い傾向を示したが、栽培実験終期にはみな同レベルとなった。こうしたことから、大麦穀皮を原料とする炭化物を培地に混合しても、栽培に関しては特段の悪影響もなく、同等以上の収量が得られるものと判明した。図5より、大麦穀皮を原料とする炭化物を培地に混合しても、糖度に差はないが、図6より酸度は低下傾向が認められた。
【0027】
従って本発明方法により、春季から秋季にいたる期間であっても、糖酸比の高い食味に優れたイチゴを栽培することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のイチゴの栽培方法は、春季から秋季にいたる期間においても、従来の栽培方法と同等以上の収量をあげながら糖酸比の高いイチゴを栽培できるため、夏イチゴを経済的に出荷でき、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】イチゴの栽培期間と草丈の関係を示すグラフ。
【図2】イチゴの栽培期間と葉柄長の関係を示すグラフ。
【図3】イチゴの栽培期間と花房数の関係を示すグラフ。
【図4】イチゴの栽培期間と総収量の関係を示すグラフ。
【図5】イチゴの栽培期間と糖度の関係を示すグラフ。
【図6】イチゴの栽培期間と酸度の関係を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀類穀皮を原料とする炭化物を含有する植物栽培用培地でイチゴを栽培することを特徴とするイチゴの栽培方法。
【請求項2】
穀類穀皮が大麦穀皮であることを特徴とする請求項1に記載のイチゴの栽培方法。
【請求項3】
植物栽培用培地が、砂、れき、土、セラミックボール、ピートモス、ロックウール、バーク、バーミキュライト、パーライト、フェノール発泡樹脂、樹皮、水苔及びヤシガラからなる群より選ばれる少なくとも1種と穀類穀皮を原料とする炭化物との混合物であることを特徴とする請求項1または2に記載のイチゴの栽培方法。
【請求項4】
高設栽培でイチゴを栽培することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のイチゴの栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−166827(P2006−166827A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−365393(P2004−365393)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】