説明

インクジェット描画用平版印刷版原版の積載体および裁断方法

【課題】インクジェット描画用平版印刷版原版を裁断する際に、裁断刃へのアルミニウム粉の凝着を抑制し、繰返し裁断性を向上させることのできる、インクジェット描画用平版印刷版原版の積載体および裁断方法を提供する。
【解決手段】アルミニウムプレートからなるインクジェット描画用平版印刷版原版の積載体であって、前記インクジェット描画用平版印刷版原版が、前記インクジェット描画されるアルミニウムプレート面に樹脂層あるいは樹脂混合層を有する合紙を介して積載されていることを特徴とするインクジェット描画用平版印刷版原版の積載体。該積載体を裁断する裁断方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット描画用平版印刷版原版の積載体および裁断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像データ信号に基づき、記録媒体に画像を形成する記録方式として、電子写真方式、熱転写方式、インクジェット方式などがある。電子写真方式は、感光体ドラム上に帯電及び露光により静電潜像を形成するプロセスを必要とし、システムが複雑となり高価な装置となる。熱転写方式は、装置は安価であるが、インクリボンを用いるため、転写に使用されなかったインクリボンが廃材となり、ランニングコストも高い。一方、インクジェット方式は、安価な装置で、必要とされる画像部のみにインクを吐出し記録媒体上へ直接画像形成するため、廃材が無く、ランニングコストも安いので、記録方式として優れている。
【0003】
インクジェット記録方式に用いられる記録媒体は、紙、プラスチック、金属など多岐に渡り、使用目的に応じて選択される。例えば、上質紙や再生紙などの普通紙に記録すれば直接印刷物を得ることができる。しかし、インクジェット記録方式は、記録速度が遅いため、多数枚の印刷物を得るためには、多くの時間を要することになる。そこで、インクジェット記録方式により印刷版を作製し、作製した印刷版により多数枚の印刷物を得る試みが成されている。例えば、インクジェット記録方式を用いて画像を描画するための直描型平版印刷版として、アルミニウムプレートを親水化処理した支持体に、インクを付与する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−108537公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のようなアルミニウムプレートからなるインクジェット描画用平版印刷版原版は、通常の感光性平版印刷版のように画像形成層が塗布されていない、あるいは塗布されていたとしても塗布量が少ないため、プレートを裁断する際に、裁断刃にアルミニウム粉が凝着しやすくなり、裁断性が悪くなり、さらに裁断を繰り返すことができないという問題点がある。
したがって本発明の目的は、インクジェット描画用平版印刷版原版を裁断する際に、裁断刃へのアルミニウム粉の凝着を抑制し、繰返し裁断性を向上させることのできる、インクジェット描画用平版印刷版原版の積載体および裁断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討の結果、インクジェット描画用平版印刷版原版のインクジェット描画面に、樹脂層あるいは樹脂混合層を有する合紙を重ねることにより、裁断刃へのアルミニウム粉の凝着が抑制され、繰返し裁断性が改善されることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
1)アルミニウムプレートからなるインクジェット描画用平版印刷版原版の積載体であって、前記インクジェット描画用平版印刷版原版が、前記インクジェット描画されるアルミニウムプレート面に樹脂層あるいは樹脂混合層を有する合紙を介して積載されていることを特徴とするインクジェット描画用平版印刷版原版の積載体。
2)アルミニウムプレートおよびインク受容層からなるインクジェット描画用平版印刷版原版の積載体であって、前記インクジェット描画用平版印刷版原版が、前記インク受容層面に樹脂層あるいは樹脂混合層を有する合紙を介して積載されていることを特徴とするインクジェット描画用平版印刷版原版の積載体。
3)前記樹脂層あるいは樹脂混合層における樹脂のガラス転移点が、25℃以下であることを特徴とする上記1)または2)に記載の積載体。
4)アルミニウムプレートからなるインクジェット描画用平版印刷版原版の裁断方法であって、前記インクジェット描画されるアルミニウムプレート面に樹脂層あるいは樹脂混合層を有する合紙を重ねた後、前記インクジェット描画用平版印刷版原版を裁断することを特徴とするインクジェット描画用平版印刷版原版の裁断方法。
5)アルミニウムプレートおよびインク受容層からなるインクジェット描画用平版印刷版原版の裁断方法であって、前記インク受容層に樹脂層あるいは樹脂混合層を有する合紙を重ねた後、前記インクジェット描画用平版印刷版原版を裁断することを特徴とするインクジェット描画用平版印刷版原版の裁断方法。
6)アルミニウムプレートからなるインクジェット描画用平版印刷版原版の積載体の裁断方法であって、前記インクジェット描画用平版印刷版原版を、前記インクジェット描画されるアルミニウムプレート面に樹脂層あるいは樹脂混合層を有する合紙を介して積載し、その後、前記インクジェット描画用平版印刷版原版の積載体を裁断することを特徴とするインクジェット描画用平版印刷版原版の積載体の裁断方法。
7)アルミニウムプレートおよびインク受容層からなるインクジェット描画用平版印刷版原版の積載体の裁断方法であって、前記インクジェット描画用平版印刷版原版を、前記インク受容層面に樹脂層あるいは樹脂混合層を有する合紙を介して積載し、その後、前記インクジェット描画用平版印刷版原版の積載体を裁断することを特徴とするインクジェット描画用平版印刷版原版の積載体の裁断方法。
8)前記樹脂層あるいは樹脂混合層における樹脂のガラス転移点が、25℃以下であることを特徴とする上記4)〜7)のいずれかに記載の裁断方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、インクジェット描画用平版印刷版原版を裁断する際に、裁断刃へのアルミニウム粉の凝着を抑制し、繰返し裁断性を向上させることのできる、インクジェット描画用平版印刷版原版の積載体および裁断方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
〔アルミニウムプレート〕
アルミニウムプレートは、寸度的に安定なアルミニウムを主成分とする金属板であり、純アルミニウム板の他、アルミニウムを主成分とし、微量の異元素を含む合金板、またはアルミニウム(合金)がラミネートもしくは蒸着されたプラスチックフィルムまたは紙の中から選ばれる。
【0009】
以下の説明において、上記に挙げたアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基板をアルミニウムプレートと総称して用いる。前記アルミニウム合金に含まれる異元素には、ケイ素、鉄、マンガン、銅、マグネシウム、クロム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、チタンなどがあり、合金中の異元素の含有量は10質量%以下である。本発明では純アルミニウム板が好適であるが、完全に純粋なアルミニウムは精錬技術上製造が困難であるので、僅かに異元素を含有するものでもよい。
このように本発明に適用されるアルミニウムプレートは、その組成が特定されるものではなく、従来公知公用の素材のもの、例えばJIS A 1050、JISA 1100、JISA 3103、JIS A 3005などを適宜利用することが出来る。また、本発明に用いられるアルミニウムプレートの厚みは、およそ0.1mm〜0.6mm程度、好ましくは0.15mmから0.4mm、特に好ましくは0.2mm〜0.3mmである。この厚みは印刷機の大きさ、印刷版の大きさおよびユーザーの希望により適宜変更することができる。アルミニウムプレートには適宜必要に応じて後述の基板表面処理が施されてもよい。もちろん施されなくてもよい。
【0010】
アルミニウムプレートは、通常粗面化処理される。粗面化処理方法は、特開昭56−28893号公報に開示されているような機械的粗面化、化学的エッチング、電解グレインなどがある。さらに塩酸または硝酸電解液中で電気化学的に粗面化する電気化学的粗面化方法、およびアルミニウム表面を金属ワイヤーでひっかくワイヤーブラシグレイン法、研磨球と研磨剤でアルミニウム表面を砂目立てするポールグレイン法、ナイロンブラシと研磨剤で表面を粗面化するブラシグレイン法のような機械的粗面化法を用いることができ、上記粗面化方法を単独あるいは組み合わせて用いることもできる。その中でも粗面化に有用に使用される方法は塩酸または硝酸電解液中で化学的に粗面化する電気化学的方法であり、適する陽極時電気量は50C/dm2〜400C/dm2の範囲である。さらに具体的には、0.1〜50質量%の塩酸または硝酸を含む電解液中、温度20〜80℃、時間1秒〜30分、電流密度100C/dm2〜400C/dm2の条件で交流および/または直流電解を行うことが好ましい。
【0011】
このように粗面化処理したアルミニウムプレートは、酸またはアルカリにより化学的にエッチングされてもよい。好適に用いられるエッチング剤は、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、アルミン酸ソーダ、メタケイ酸ソーダ、リン酸ソーダ、水酸化カリウム、水酸化リチウム等であり、濃度と温度の好ましい範囲はそれぞれ1〜50質量%、20〜100℃である。エッチングのあと表面に残留する汚れ(スマット)を除去するために酸洗いが行われる。用いられる酸は硝酸、硫酸、リン酸、クロム酸、フッ酸、ホウフッ化水素酸等が用いられる。特に電気化学的粗面化処理後のスマット除去処理方法としては、好ましくは特開昭53−12739号公報に記載されているような温度50〜90℃の15〜65質量%の硫酸と接触させる方法および特公昭48−28123号公報に記載されているアルカリエッチングする方法が挙げられる。以上のように処理された後、処理面の中心線平均組さRaが0.2〜0.5μmであれば、特に方法条件は限定しない。
【0012】
以上のようにして粗面化処理されたアルミニウムプレートには、その後に陽極酸化処理がなされ酸化皮膜が形成される。陽極酸化処理は、硫酸、燐酸、シュウ酸もしくは硼酸/硼酸ナトリウムの水溶液が単独もしくは複数種類組み合わせて電解浴の主成分として用いられる。この際、電解液中に少なくともAl合金板、電極、水道水、地下水等に通常含まれる成分はもちろん含まれても構わない。さらには第2、第3成分が添加されていても構わない。ここでいう第2、第3成分とは、例えばNa、K、Mg、Li、Ca、Ti、Al、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn等の金属のイオンやアンモニウムイオン等に陽イオンや、硝酸イオン、炭酸イオン、塩素イオン、リン酸イオン、フッ素イオン、亜硫酸イオン、チタン酸イオン、ケイ酸イオン、硼酸イオン等の陰イオンが挙げられ、その濃度としては0〜10000ppm程度含まれてもよい。陽極酸化処理の条件に特に限定はないが、好ましくは30〜500g/リットル、処理液温10〜70℃で、電流密度0.1〜40A/m2の範囲で直流または交流電解によって処理される。形成される陽極酸化皮膜の厚さは0.5〜1.5μmの範囲である。好ましくは0.5〜1.0μmの範囲である。
【0013】
陽極酸化処理を施した後、必要に応じて、アルミニウムプレートの表面に親水化処理を施す。親水化処理としては、米国特許第2,714,066号、同第3,181,461号、同第3,280,734号および同第3,902,734号の各明細書に記載されているようなアルカリ金属シリケート法がある。この方法においては、アルミニウムプレートをケイ酸ナトリウム等の水溶液で浸漬処理し、または電解処理する。そのほかに、特公昭36−22063号公報に記載されているフッ化ジルコン酸カリウムで処理する方法、米国特許第3,276,868号、同第4,153,461号および同第4,689,272号の各明細書に記載されているようなポリビニルホスホン酸で処理する方法等が挙げられる。
【0014】
アルミニウムプレートは、中心線平均粗さが0.10〜1.2μmであるのが好ましい。
また、アルミニウムプレートの色濃度としては、反射濃度値として0.15〜0.65であるのが好ましい。この範囲で、画像露光時のハレーション防止による良好な画像形成性と現像後の良好な検版性が得られる。
【0015】
〔インク受容層〕
本発明におけるインクジェット描画用平版印刷版原版は、インクジェット描画される面に、インク受容層を有していてもよい。インク受容層は打滴されたインクとの密着性を高めるために200mg/m以下の塗布量であることが好ましく、より好ましくは150mg/m以下である。なお、インク受容層を設ける形態であっても、通常の感光性平版印刷版原版の感光層よりも薄いため、裁断刃にアルミニウム粉の凝着が起こりやすい。
インク受容層としては、例えば特開2000-108537号公報、米国特許第6472045公報、特開2000-43439号公報に記載されているものが挙げられるが、これらの限りではない。
【0016】
〔樹脂層あるいは樹脂混合層を有する合紙〕
本発明において用いられる合紙の構成としては少なくとも一方の面が樹脂層あるいは樹脂混合層からなるものであればいかなるものでもよい。例えば、紙、樹脂フィルム、金属フィルム等からなる基材の一方あるいは両方の面に樹脂が塗設あるいはラミネートされていたり、樹脂フィルムあるいは樹脂の混合された紙が貼り合わされていたりしてもよい。また、同一樹脂一層からなるフィルム状のものであっても、樹脂混合紙一層からなるフィルム状のものであってもよく、また、多層からなるものであってもよい。また、ポリオレフィンを主体とする合成紙でもよい。しかし、実用的には、紙表面に樹脂層が形成された積層紙が好ましい。
なお本発明でいう樹脂混合層とは、樹脂とその他の材料とが同一層中で混合されている層を意味する。樹脂とその他の材料は、好ましくは均一に混合されているのがよい。
【0017】
本発明で用いられる合紙に用いられる樹脂としては、いかなる樹脂も用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、エチレン−ビニルアセテート共重合樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂等の樹脂をあげることができる。本発明において、好ましくはガラス転移点Tgが25℃以下の樹脂、さらに好ましくは0℃以下の樹脂が望ましい。ここでTgは、示差走査熱量測定(DSC)により測定した場合の吸熱ピークが表われる温度をいう。Tgが25℃より高いと粘着性が低下するため、裁断刃に凝着したアルミニウム粉を取除き難くなる。
【0018】
本発明における合紙としては、合紙全体の厚みとして1m2 あたり180g以下、好ましくは3g以上160g以下、特に好ましくは5g以上140g以下、更に好ましくは5g以上80g以下の質量で用いられる。
【0019】
基材上に樹脂層が形成された形態において、該樹脂層は好ましくは1m2 あたり0.1g以上、特に好ましくは0.5g以上、さらに好ましくは1.5g以上の質量で設けて用いられる。上限は特に限定されないが、1m2 あたり140g以下、好ましくは80g以下である。樹脂層以外の基材の厚みは、1m2 あたり通常5g以上160g以下、好ましくは10g以上60g以下である。
また、樹脂および紙が混合された樹脂混合層の形態において、樹脂混合層における樹脂の割合は通常5〜80質量%、好ましくは10〜60質量%である。
【0020】
〔積載体〕
本発明の積載体は、アルミニウムプレートからなるインクジェット描画用平版印刷版原版が、インクジェット描画されるアルミニウムプレート面に樹脂層あるいは樹脂混合層を有する合紙を介して積載されている。
これとは別に本発明の積載体は、アルミニウムプレートおよびインク受容層からなるインクジェット描画用平版印刷版原版が、インク受容層面に樹脂層あるいは樹脂混合層を有する合紙を介して積載されている。
【0021】
なお本発明においては、上記のようにインクジェット描画用平版印刷版原版を積載した場合に、裁断刃へのアルミニウム粉の凝着を抑制し、繰返し裁断性が向上することは上記のとおりであるが、積載していないインクジェット描画用平版印刷版原版であっても、アルミニウムプレート面あるいはインク受容層面に樹脂層あるいは樹脂混合層を有する合紙を載置すれば、裁断刃へのアルミニウム粉の凝着の抑制および繰返し裁断性の向上を達成することができる。この形態は、スリット装置により原版を裁断するときに有利である。
本発明の積載体において、合紙の原版間における存在状態は、上記本発明の条件を満足するのであれば基本的には任意である。例えば、原版間の合紙の枚数、合紙の種類、合紙の表と裏の向き等は基本的に適宜選択し得る。
【0022】
〔裁断方法〕
平版印刷版用原版の版サイズは多岐に渡り、その都度、要求されるサイズに裁断する。裁断する方法としては、スリット裁断する方法およびプレートを重ね合わせて束にし、束裁断機で裁断する方法がある。通常、裁断加工では、印刷版上に形成された有機物層が潤滑油的な役割を果たし、繰返し裁断することが可能となるが、通常のインクジェット描画用平版印刷版原版では、有機物層が存在しないか、あるいは存在したとしても薄いため潤滑作用を持たず、裁断機の刃を短時間で傷めてしまい、生産性が著しく低いという問題がある。しかし本発明ではインクジェット描画されるアルミニウムプレート面あるいはインク受容層面に樹脂層あるいは樹脂混合層を有する合紙を重ねるため、上記のような問題点を解決することができる。
【0023】
図1は、本発明の裁断方法に適用可能なスリッタ装置の裁断部を示す断面図である。図1(a)に示すように、スリッタ装置には、上下一対の裁断刃10、20が左右に配置されている。これらの裁断刃10、20は円板上の丸刃からなり、上側裁断刃10aおよび10bは回転軸11に、下側裁断刃20aおよび20bは回転軸21に、それぞれ同軸上に支持されている。そして、上側裁断刃10aおよび10bと下側裁断刃20aおよび20bとは、相反する方向に回転される。アルミニウムのプレート30は、上側裁断刃10a、10bと下側裁断刃20a,20bとの間を通されて所定の幅に裁断される。また、図1(b)に示すように、下側裁断刃20aには上側裁断刃10aとの間隔を規定するスペーサ41が配置されている。このスペーサ41は外径が下側裁断刃20aと略同径であり、上側裁断刃10aの食い込み分だけ凹状の逃げ溝Aが形成されている。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0025】
実施例1
<アルミニウムプレート>
Si:0.06質量%、Fe:0.30質量%、Cu:0.005質量%、Mn:0.001質量%、Mg:0.001質量%、Zn:0.001質量%、Ti:0.03質量%を含有し、残部はAlと不可避不純物のアルミニウム合金を用いて溶湯を調製し、溶湯処理およびろ過を行った上で、厚さ500mm、幅1200mmの鋳塊をDC鋳造法で作製した。表面を平均10mmの厚さで面削機により削り取った後、550℃で、約5時間均熱保持し、温度400℃に下がったところで、熱間圧延機を用いて厚さ2.7mmの圧延板とした。更に、連続焼鈍機を用いて熱処理を500℃で行った後、冷間圧延で、厚さ0.24mmに仕上げ、JIS 1050材のアルミニウム板を得た。このアルミニウム板を幅800mmにした後、以下に示す表面処理に供した。
【0026】
<表面処理>
表面処理は、以下の(a)〜(j)の各種処理を連続的に行った。なお、各処理および水洗の後にはニップローラで液切りを行った。
(a)機械的粗面化処理
比重1.12の研磨剤(パミス)と水との懸濁液を研磨スラリー液としてアルミニウム板の表面に供給しながら、回転するローラ状ナイロンブラシにより機械的粗面化処理を行った。研磨剤の平均粒径は40μm、最大粒径は100μmであった。ナイロンブラシの材質は6・10ナイロン、毛長は50mm、毛の直径は0.3mmであった。ナイロンブラシはφ300mmのステンレス製の筒に穴をあけて密になるように植毛した。回転ブラシは3本使用した。ブラシ下部の2本の支持ローラ(φ200mm)の距離は300mmであった。ブラシローラはブラシを回転させる駆動モータの負荷が、ブラシローラをアルミニウム板に押さえつける前の負荷に対して7kWプラスになるまで押さえつけた。ブラシの回転方向はアルミニウム板の移動方向と同じであった。ブラシの回転数は200rpmであった。
【0027】
(b)アルカリエッチング処理
上記で得られたアルミニウム板をカセイソーダ濃度2.6質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%、温度70℃の水溶液を用いてスプレーによるエッチング処理を行い、アルミニウム板を6g/m2溶解した。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0028】
(c)デスマット処理
温度30℃の硝酸濃度1質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、スプレーで水洗した。デスマット処理に用いた硝酸水溶液は、硝酸水溶液中で交流を用いて電気化学的粗面化処理を行う工程の廃液を用いた。
【0029】
(d)電気化学的粗面化処理60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、硝酸10.5g/L水溶液(アルミニウムイオンを5g/L、アンモニウムイオンを0.007質量%含む。)、液温50℃であった。電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電流密度は電流のピーク値で30A/dm2、電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で220C/dmm2であった。補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0030】
(e)アルカリエッチング処理
アルミニウム板をカセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%の水溶液を用いてスプレーによるエッチング処理を32℃で行い、アルミニウム板を0.25g/m2溶解し、前段の交流を用いて電気化学的粗面化処理を行ったときに生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分を除去し、また、生成したピットのエッジ部分を溶解してエッジ部分を滑らかにした。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0031】
(f)デスマット処理
温度30℃の硝酸濃度15質量%水溶液(アルミニウムイオンを4.5質量%含む。)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、スプレーで水洗した。デスマット処理に用いた硝酸水溶液は、硝酸水溶液中で交流を用いて電気化学的粗面化処理を行う工程の廃液を用いた。
(g)電気化学的粗面化処理
60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、塩酸7.5g/L水溶液(アルミニウムイオンを5g/L含む。)、温度35℃であった。交流電源波形は図2に示した波形であり、電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。使用した電解槽は図3に示すものを使用した。電流密度は電流のピーク値で25A/dm2、電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で50C/dm2であった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0032】
(h)アルカリエッチング処理
アルミニウム板をカセイソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%の水溶液を用いてスプレーによるエッチング処理を32℃で行い、アルミニウム板を0.10g/m2溶解し、前段の交流を用いて電気化学的粗面化処理を行ったときに生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分を除去し、また、生成したピットのエッジ部分を溶解してエッジ部分を滑らかにした。その後、スプレーによる水洗を行った。
(i)デスマット処理
温度60℃の硫酸濃度25質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後、スプレーによる水洗を行った。
【0033】
(j)陽極酸化処理
陽極酸化装置を用いて陽極酸化処理を行い、実施例1のアルミニウムプレートを得た。第一および第二電解部に供給した電解液としては、硫酸を用いた。電解液は、いずれも、硫酸濃度170g/L(アルミニウムイオンを0.5質量%含む。)、温度38℃であった。その後、スプレーによる水洗を行った。最終的な酸化皮膜量は2.7g/m2であった。
以上により得られたアルミニウムプレートの中心線平均粗さは0.55μm、大波の平均波長は65μm、中波の平均開口径は1.4μm、小波の平均開口径は0.14μm、小波の平均開口径に対する深さの比が0.46であった。
【0034】
(シリケート処理およびインク受容層の形成)
陽極酸化処理により得られたアルミニウム支持体を温度70℃の3号ケイ酸ソーダの2.5質量%水溶液の処理槽中へ、15秒間、浸せきすることでアルカリ金属ケイ酸塩処理(シリケート処理)を行った。その後、井水を用いたスプレーによる水洗を行い、表面シリケート親水化処理されたアルミニウムプレートを得た。シリケート量を蛍光X線により測定したところ8.0mg/m2であった。このようにして得られたアルカリ金属珪酸塩処理後のアルミニウムプレート上に、下記組成のインク受容層塗布液をワイヤーバーにて塗布し、100℃で60秒間乾燥し、塗膜を形成させた。乾燥後の塗膜の被覆量は100.0mg/m2であった。
【0035】
インク受容層塗布液
水 150質量部
ポリスチレンスルホン酸ナトリウム
(質量平均分子量 70000) 1.98質量部
下記フルオロアルキル化合物 0.03質量部
アシッド レッド 52 0.005質量部
【0036】
【化1】

【0037】
30g/m2 の純白紙に1m2 あたり6gの割合でポリエチレン(ガラス転移点−125℃)を塗設し、合紙を作製した。上記のように作成したアルミプレートに、該合紙の樹脂層がインク受容層面に接するようにして重ねあわせた。
【0038】
上記の合紙を有するインクジェット描画用平版印刷版原版を、合紙を介して、原版−合紙−原版−合紙の順番となるように積載し、原版を合計50枚積み重ね積載体を作製し、さらに積載体の上下をボール紙で挟み束を作成した。
束裁断機(シュナイダー製、普通紙裁断機/DLCコーティング刃)で、束を3束(合計150枚)まとめて裁断することを繰り返し、裁断可能な繰返し回数を調べた。
【0039】
これとは別に、上記の合紙を有するインクジェット描画用平版印刷版原版を、積載することなく、幅方向のサイズが800mmから600mmになるように、幅方向のみを裁断した。なお、原版の長手方向は1100mmである。幅方向の裁断は、図1に示すスリッタ装置を用いた。このときの上側裁断刃と下側裁断刃の隙間は50μm及びかみ込み量は250μmであった。このときの繰返し裁断可能な枚数を調べた。
結果を表1に示した。
【0040】
実施例2
36g/m2 のポリプロピレン(ガラス転移点−5℃)を合紙として用いたこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表1に示す。
【0041】
実施例3
36g/m2 のポリメタクリル酸n−ブチル(ガラス転移点20℃)を合紙として用いたこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表1に示す。
【0042】
実施例4
36g/m2 のポリメタクリル酸メチル(ガラス転移点100℃)を合紙として用いたこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表1に示す。
【0043】
実施例5
ポリエチレン(ガラス転移点−120℃)を天然パルプに混合してなる合紙(ポリエチレンを6.0g/m2 、天然パルプを30g/m2 含有)を合紙として用いたこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表1に示す。
【0044】
比較例1
36g/m2 の天然パルプを合紙として用いたこと以外は、実施例1を繰り返した。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1の結果から、インクジェット描画用平版印刷版原版の、インクジェット描画される面に樹脂層あるいは樹脂混合層を有する合紙を介することにより、裁断刃へのアルミニウム粉の凝着が抑制され、繰返し裁断性が向上していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の裁断方法に適用可能なスリッタ装置の裁断部を示す断面図である。
【符号の説明】
【0048】
10,20 裁断刃
10a、10b 上側裁断刃
20a,20b 下側裁断刃
30 アルミニウムのプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムプレートからなるインクジェット描画用平版印刷版原版の積載体であって、前記インクジェット描画用平版印刷版原版が、前記インクジェット描画されるアルミニウムプレート面に樹脂層あるいは樹脂混合層を有する合紙を介して積載されていることを特徴とするインクジェット描画用平版印刷版原版の積載体。
【請求項2】
アルミニウムプレートおよびインク受容層からなるインクジェット描画用平版印刷版原版の積載体であって、前記インクジェット描画用平版印刷版原版が、前記インク受容層面に樹脂層あるいは樹脂混合層を有する合紙を介して積載されていることを特徴とするインクジェット描画用平版印刷版原版の積載体。
【請求項3】
前記樹脂層あるいは樹脂混合層における樹脂のガラス転移点が、25℃以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の積載体。
【請求項4】
アルミニウムプレートからなるインクジェット描画用平版印刷版原版の裁断方法であって、前記インクジェット描画されるアルミニウムプレート面に樹脂層あるいは樹脂混合層を有する合紙を重ねた後、前記インクジェット描画用平版印刷版原版を裁断することを特徴とするインクジェット描画用平版印刷版原版の裁断方法。
【請求項5】
アルミニウムプレートおよびインク受容層からなるインクジェット描画用平版印刷版原版の裁断方法であって、前記インク受容層に樹脂層あるいは樹脂混合層を有する合紙を重ねた後、前記インクジェット描画用平版印刷版原版を裁断することを特徴とするインクジェット描画用平版印刷版原版の裁断方法。
【請求項6】
アルミニウムプレートからなるインクジェット描画用平版印刷版原版の積載体の裁断方法であって、前記インクジェット描画用平版印刷版原版を、前記インクジェット描画されるアルミニウムプレート面に樹脂層あるいは樹脂混合層を有する合紙を介して積載し、その後、前記インクジェット描画用平版印刷版原版の積載体を裁断することを特徴とするインクジェット描画用平版印刷版原版の積載体の裁断方法。
【請求項7】
アルミニウムプレートおよびインク受容層からなるインクジェット描画用平版印刷版原版の積載体の裁断方法であって、前記インクジェット描画用平版印刷版原版を、前記インク受容層面に樹脂層あるいは樹脂混合層を有する合紙を介して積載し、その後、前記インクジェット描画用平版印刷版原版の積載体を裁断することを特徴とするインクジェット描画用平版印刷版原版の積載体の裁断方法。
【請求項8】
前記樹脂層あるいは樹脂混合層における樹脂のガラス転移点が、25℃以下であることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の裁断方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−68573(P2008−68573A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−250933(P2006−250933)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】