説明

ウィルス感染細胞処置装置

【課題】 新たな疾病を招来させることなく、患者に対する負担を可及的に小さくすることができ、ウィルスが感染した免疫細胞を有効に処置することができるウィルス感染細胞処置装置を提供する。
【解決手段】 定電圧電源器3による印加電圧及び印加周期を予め設定しておき、両パッド1,2を患者100の体表面の適宜位置に距離を隔てて当接させ、定電圧電源器3を作動させて、パッド1,2から患者100に、所定周期の矩形波状の直流電圧を30分程度から1時間程度印加する。これによって、HIVが感染してプロウィルスを有するT細胞については、当該感染細胞をアポトーシスに導くことができ、また、HIVが感染してプロウィルスを有する単球については、当該感染細胞の転写活性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウィルスに感染された細胞を処置する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エイズ(AIDS:後天性免疫不全症候群)は、HIV(ヒト免疫不全ウィルス)が免疫細胞に感染し、当該免疫細胞が破壊されることにより発症する免疫不全症であり、エイズを治療する方法として、核酸系逆転写酵素阻害剤及び/又は非核酸系逆転写酵素阻害剤とプロテアーゼ阻害剤とを組み合わせて投薬するHAART(Highly Active Anti-Retrovirus therapy)療法が開発されている。かかるHAART療法は、細胞外の体液中に浮遊しているHIVが細胞に結合するのを阻止し、また細胞内に進入したHIVのRNAが逆転写酵素によってDNAに逆転写されることを阻止することによってHIVの細胞への感染を防止するものである。
しかし、HAART療法は、HIVが感染した細胞を直接的に処置するものではないため、次のような問題があった。
【0003】
すなわち、HIVは逆転写酵素によって感染細胞のDNA内に組み込まれるレトロウィルスであるので、DNA内に組み込まれたHIVのプロウィルスが休止状態の場合、当該プロウィルスは、HIVとして感染細胞の外へ放出されることなく、当該感染細胞の細胞分裂に伴って娘細胞に受け継がれて行く。前述したようにHAART療法では感染細胞を直接的に処置することができないため、HIVはプロウィルスとして娘細胞中に存在し続け、何らかの刺激によってプロウィルスからHIVが生成される。従って、患者はその生涯に亘ってHAART療法を受け続けなければならないのである。
【0004】
そのため、後記する特許文献1には、HIVを感染させたHeLa細胞(P6 HeLa細胞)について、当該感染細胞を直接的に処置する装置が開示されている。すなわち、該装置は、患者の体液を体外へ循環させる循環器と、この循環器の循環経路に介装してあり、その内部に参照極及び対極電位を対向配置してなる電位印加用セルとを備えてなり、前記電位印加用セル内に導入した患者の体液に、−10.0〜10.0Vの電圧を30分程度印加することによって、前記体液中の感染細胞に対して選択的に障害を与えるのである。
【特許文献1】特開2003−290364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来の装置は、感染細胞に対して直接障害を与えることができるので、患者の体内に存在するプロウィルスの総数を減少させることができ、エイズの根治が期待される。
【0006】
しかしながら、このような従来の装置にあっては、HIVを感染させたHeLa細胞を用いた実験に基づいて設計してあり、かかるHeLa細胞は、HIVの感染対象細胞である免疫系の細胞ではないため、免疫系細胞に対する有効性が不明である。
【0007】
また、循環器によってHIVに感染した患者の体液を電位印加用セルへ循環させなければならないため、患者に対する負担が大きく、雑菌の混入等、新たな疾病を招来する虞があった。
【0008】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、新たな疾病を招来させることなく、患者に対する負担を可及的に小さくすることができ、ウィルスが感染した免疫細胞を有効に処置することができるウィルス感染細胞処置装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係るウィルス感染細胞処置装置は、対象者に当接すべく形成してなり、対をなす複数の電極部と、各電極部に所定電流値であり矩形波状の直流電圧を印加する電源部とを備え、対象者に当接させた各電極に、前記電源部から所定値の直流電圧を所定周期で印加することによって、前記対象者が有するウィルス感染免疫細胞を処置するようになしてあることを特徴とする。
【0010】
本発明のウィルス感染細胞処置装置にあっては、対をなす複数の電極部を対象者に当接させ、所定電流値であり矩形波状の直流電圧を出力する電源部から各電極部に、所定値の直流電圧を所定周期で印加することによって、前記対象者が有するウィルス感染免疫細胞を処置する。
【0011】
これによって、ウィルス感染免疫細胞はその免疫細胞の種類に応じて、当該ウィルスへの転写が活性化される。或いは、ウィルス感染免疫細胞は当該ウィルスへの転写が抑制されるとともに、細胞の誘導死であるアポトーシスに導かれる。
【0012】
ウィルス感染免疫細胞の当該ウィルスへの転写が活性化された場合、当該ウィルスの発芽・放出が招来されることによって、感染免疫細胞の免疫原性が増大するため、自己の免疫力によって当該感染免疫細胞が排除される。また、感染免疫細胞内に多量のウィルスが生成された場合、当該感染免疫細胞の破裂が招来されるので、娘細胞にウィルスが受け継がれることが防止される。
【0013】
一方、ウィルス感染免疫細胞においてウィルスへの転写が抑制されされるとともに、アポトーシスに導かれた場合、当該感染免疫細胞からウィルスの拡散を防止しつつ、当該感染免疫細胞がアポトーシスに導かれるので、当該感染免疫細胞に係るウィルスの除去について相乗効果が奏される。
【0014】
また、電極部を対象者に当接させ、この電極に直流電圧を印加することによって、対象者が有するウィルス感染免疫細胞を処置するようになしてあるため、新たな疾病を招来させることなく、対象者に対する負担を可及的に小さくすることができる。
なお、電源部は、好ましくは1μA前後の微弱電流を出力するようになしてある。
【0015】
(2)本発明に係るウィルス感染細胞処置装置は必要に応じて、前記ウィルス感染免疫細胞はヒト免疫不全ウィルスが感染した免疫細胞であることを特徴とする。
本発明のウィルス感染細胞処置装置にあっては、前記ウィルス感染免疫細胞はヒト免疫不全ウィルスが感染した免疫細胞であり、ヒト免疫不全ウィルスの感染対象細胞である免疫細胞を効果的に処置することができる。
【0016】
(3)本発明に係るウィルス感染細胞処置装置は必要に応じて、前記電源部は、2.5Vから20Vまでの間の所定の値の直流電圧を出力するようになしてあることを特徴とする。
本発明のウィルス感染細胞処置装置にあっては、電源部は、2.5Vから20Vまでの間の所定の値の直流電圧を出力し、該直流電圧が電極部に印加される。こによって、感染免疫細胞は効率的に、プロウィルスの転写活性化、又は、プロウィルスの転写活性化及びアポトーシスの誘導がなされる。なお、後者の場合、プロウィルスの転写が抑制される。
【0017】
具体的には、免疫細胞である単球については、少なくとも5V以上の値の直流電圧を電極部に印加することによってプロウィルスの転写が活性化される。また、免疫細胞であるT細胞については、少なくとも2.5V以上の値の直流電圧を電極部に印加することによってアポトーシスに導かれる。
従って、より好ましい直流電圧の値は、5Vから20Vである。これによって、単球及びT細胞の両免疫細胞を同時的に処置することができる。
一方、20V程度を超える値の直流電圧を印加した場合は、対象者に不快感を与え易い。
【0018】
(4)本発明に係るウィルス感染細胞処置装置は必要に応じて、前記電源部は、30Hzから100Hzまでの間の適宜の周波数の直流電圧を出力するようになしてある。
本発明のウィルス感染細胞処置装置にあっては、電源部は、30Hzから100Hzまでの間の適宜の周波数の直流電圧を出力するようになしてあるため、対象者に不快感を与えることなく、ウィルス感染免疫細胞を処置することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(本発明の実施形態)
図1は、本発明に係るウィルス感染細胞処置装置の構成を示す模式図であり、図中、1,2は患者100の体表面に当接させる電極部たるパッドである。また、図2は、図1に示したパッド1(2)の拡大平面であり、図3は、図2に示したパッド1(2)のIII−III線による断面図である。
【0020】
図2及び図3に示したように、パッド1(2)は、例えば弾性を有するシート状の電導性材料を用いてなるパッド本体11b(21b)の内部に棒状の電極11a(21a)が埋設してあり、パッド本体11b(21b)の一面には絶縁シートを貼着してなる被覆部12(22)が設けてある。前記電極11a(21a)にはリード6(6)の一端が固定してあり、該リード6(6)の他端はパッド本体11b(21b)の縁部から延出させてある。
【0021】
また、図1に示したように、対をなすパッド1,2の縁部から延出させたリード6,6の他端は絶縁材で被覆してあり、両リード6,6の他端は定電圧電源器3に一端が接続してあるケーブル5,5の他端に連結してある。
そして、定電圧電源器3は、ケーブル5,5及びリード6,6を介して両パッド1,2に、後述する矩形波状の直流電圧を適宜の周期で印加するようになしてある。
【0022】
このようなウィルス感染細胞処置装置にあっては、定電圧電源器3による印加電圧及び印加周期を予め設定しておき、両パッド1,2を患者100の体表面の適宜位置に距離を隔てて当接させ、定電圧電源器3を作動させて、パッド1,2から患者100に、所定周期の矩形波状の直流電圧を30分程度から1時間程度印加する。これによって、患者の体内に後述するような微弱電流が通流される。
【0023】
このような処置を行うことによって、HIVが感染してプロウィルスを有するT細胞については、当該感染細胞をアポトーシスに導くことができ、また、HIVが感染してプロウィルスを有する単球については、当該感染細胞の転写活性を向上させることができる。
このように、HIVが感染したT細胞がアポトーシスに導かれることによって、当該感染細胞の総数が減少するため、T細胞に係るプロウィルスの総数も減少する。
【0024】
一方、HIVが感染した単球の転写活性が向上されることによって、当該感染細胞のDNAに組み込まれたプロウィルスの領域からHIVに係るRNA及びコートタンパク質に係るmRNAが生成され、コートタンパク質の合成、HIV粒子の生成、当該感染細胞からのHIVの発芽・放出が招来される。これによって、感染細胞の免疫原性が増大するので、自己の免疫力によって当該感染細胞が排除され、単球に係るプロウィルスの総数が減少する。
【0025】
また、感染細胞内に多量のHIV粒子が生成された場合、当該感染細胞の破裂が招来されるので、プロウィルスが娘細胞に受け継がれることが防止されるため、単球に係るプロウィルスの総数も減少する。
なお、感染細胞が破裂及び感染細胞からの発芽によって体液中に放出されたHIVは、前述したHAART療法により除去することができる。
【0026】
ここで、両パッド1,2に印加される定電圧電源器3の出力電圧は、2.5V程度以上20V程度以下である。定電圧電源器3の出力電圧が2.5V程度未満の場合、前述したプロウィルスの総数を減少させる効果を殆ど得ることができない。一方、定電圧電源器3の出力電圧が20V程度を超える場合、患者に不快感を与え易いという不都合を招来する。
【0027】
また、定電圧電源器3の出力電圧のより好ましい出力電圧は、10V程度以上20V程度以下である。定電圧電源器3の出力電圧が10V程度以上の場合、所要の処置効果を得ることができる。
【0028】
ここで、定電圧電源器3から前述した出力電圧がパッド1,2に印加された場合、出力された直流電圧の周波数の値に拘らず、人体に有用な0.1μA〜10μA、好ましくは1μA前後の微弱電流が患者に通流される。
【0029】
次に、かかる直流電圧を印加する周期について検討したところ、前述した直流電圧値の範囲内において、30Hz(pps(pulse per seconds))程度から100Hz程度が適当であった。30Hz程度未満である場合、被験者が電気的刺激を表面的にしか感じ取ることができなく刺激が深部まで浸透していくような感覚はない。一方、100Hz程度を超えた場合、被験者がひきつり感又は違和感といった不快感を与え、また、刺激に対する感覚が時間とともに減弱していった。
【0030】
より適切な周期は、55Hz程度から100Hz程度であった。この値の領域内にあっては、被験者に快適感を与えることができ、その感覚が時間が経過しても減弱することはなかった。
【0031】
なお、本実施の形態にあっては、定電圧電源器3に一対のパッド1,2を接続した場合について示したが、本発明はこれに限らず、対をなす複数のパッドを定電圧電源器3に接続してもよいことはいうまでもない。
【実施例】
【0032】
(実施例1)
本発明に係る装置によって、HIVのプロウィルスを有する単球又はT細胞を処置した結果について説明する。
本発明者らは、本発明に係る装置によって、HIVのプロウィルスを有する単球を処置した場合、当該プロウィルスのHIVへの転写が活性化される一方、HIVのプロウィルスを有するT細胞を処置した場合、当該プロウィルスのHIVへの転写が抑制されるという知見を得た。以下に詳述する。
【0033】
1.転写活性の測定方法
ここで、かかる転写活性化の測定方法としては、従来、対象細胞の外へ放出されたHIVの逆転写酵素の活性を測定する方法、又は対象細胞の外へ放出されたHIVのコアタンパク質の1つであるp24を定量する方法が用いられていたが、これらの方法ではHIVが対象細胞の外へ放出されるまでに3日間程度要するため、転写活性化を効率的に測定することができなかった。
【0034】
そこで、対象細胞内における転写活性を直接検出する次のような測定方法を開発した。
すなわち、洗浄用培地で洗浄した対象細胞群を、1質量%のパラホルムアルデヒド溶液(pH7.6)に懸濁し、10分間静置することによって対照細胞群内の蛋白質を固定した後、遠心分離機を用いて固定した対象細胞群を回収した。回収した対象細胞群を0.1質量%のサポニン溶液(シグマ社製)に懸濁し、10分間静置させることによって浸透させた後、遠心分離によって対象細胞群を分離回収し、これにフルオレセインイソチオシアネートを結合させた抗p24抗体(ベックマン・カルチャー社製)を溶解させた染色溶液を注入して、氷上で30分静置することによってp24に抗p24抗体を結合させて、固定細胞内のp24を蛍光染色した。
【0035】
この対象細胞郡に対して、洗浄用培地での洗浄、遠心分離機による回収を2回繰り返し、当該対象細胞群を洗浄用培地に懸濁させることによって細胞懸濁液を調整し、該細胞懸濁液を蛍光標示式細胞分取器に注入して固定細胞の蛍光強度を検出することによって、対象細胞内のp24の発現量を求めた。
【0036】
なお、検出した蛍光強度の解析は、セルクエスト(ベックマン ダイキンソン社製)のソフトウェアを用いて行った。
また、前述した洗浄用培地は、10質量%非働化ウシ胎児血清(FBS)を含むRPMI1640液体培地(日本製薬株式会社製)にペニシリン及びストレプトマイシンをそれぞれ100U/mL及び0.1mg/mLとなるように添加したものを用いた。
【0037】
2.HIVのプロウィルスを有する単球における転写活性化の検討
図4は、HIVのプロウィルスを有する単球における転写活性化を検討した結果を示すヒストグラムであり、縦軸は相対的なp24の発現量を、横軸は印加電圧及び印加時間をそれぞれ示している。
【0038】
対象細胞としては、HIV潜伏感染型ヒトびまん性組織球性リンパ腫細胞(以後、U1細胞という。)を用いた。このU1細胞は、米国のAIDS Research and Reference Reagent Program,Division of AIDS,National Institute of Healthから入手した。
【0039】
直径が60mmの複数のシャーレにU1細胞を、それぞれ2×106個となるように播種し、各シャーレのU1細胞に、ピーク値が5Vから20Vの矩形波状の直流電圧を55Hzの周期で30分から1時間印加した後、前述した測定方法により転写活性をそれぞれ検出した。なお、直流電圧を印加しない以外は同様の操作を行ったものをコントロール(Cont.)とした
【0040】
図4から明らかなように、5Vの直流電圧を30分間印加した場合、相対的なp24の発現量は、コントロールと略同程度であったが、5Vの直流電圧であっても1時間印加すると、相対的なp24の発現量は、コントロールより略1.5倍増加しており、単球においてプロウィルスの転写が活性化されていた。
また、10Vの直流電圧を印加した場合、いずれの印加時間であっても、相対的なp24の発現量は、コントロールより1.5倍以上増加していた。
更に、20Vの直流電圧を1時間印加した場合、相対的なp24の発現量は、コントロールより略2.5倍増加していた。
【0041】
このように、試験を行ったいずれの印加時間であってもHIVのプロウィルスを有する単球における転写が活性化されており、これによって、当該単球のDNAに組み込まれたプロウィルスの領域からHIVに係るRNA及びコートタンパク質に係るmRNAが生成され、コートタンパク質の合成、HIV粒子の生成、当該感染細胞からのHIVの発芽・放出が招来される。
【0042】
これによって、感染細胞の免疫原性が増大するので、自己の免疫力によって当該感染細胞が排除され、単球に係るプロウィルスの総数が減少する。また、感染細胞内に多量のHIV粒子が生成された場合、当該感染細胞の破裂が招来されるので、プロウィルスが娘細胞に受け継がれることが防止されるため、単球に係るプロウィルスの総数も減少する。
なお、感染細胞が破裂及び感染細胞からの発芽によって体液中に放出されたHIVは、前述したHAART療法により除去することができる。
【0043】
3.HIVのプロウィルスを有するT細胞における転写活性化の検出
図5は、HIVのプロウィルスを有するT細胞における転写活性化を検討した結果を示すヒストグラムであり、縦軸は相対的なp24の発現量を、横軸は印加電圧及び印加時間をそれぞれ示している。
【0044】
対象細胞としては、HIV潜伏感染型ヒトCD4+T細胞(以後、ACH2細胞という。)を用いた。このACH2細胞も、前同様、米国のAIDS Research and Reference Reagent Program,Division of AIDS,National Institute of Healthから入手した。
U1細胞に代えてACH2細胞を用いた以外は前同様の操作を行って、転写活性をそれぞれ検出した。
【0045】
図5から明らかなように、ACH2細胞にあっては、いずれの場合も、相対的なp24の発現量は、コントロールより抑制されおり、20Vの直流電圧を1時間印加した場合、他の印加条件より抑制されていた。
【0046】
T細胞は、HIVが感染可能な免疫系細胞の大部分の割合を占めているが、前述したように、ACH2細胞にあっては、矩形波状の直電圧を印加することにより、プロウィルスの転写が抑制されるため、HIVの拡散が飛躍的に防止される。
【0047】
(実施例2)
次に、本発明に係る装置によって、HIVのプロウィルスを有するT細胞を処置した結果について説明する。
図6は、HIVのプロウィルスを有するT細胞のアポトーシスを検出した結果を示すヒストグラムであり、縦軸は生存細胞の割合を、横軸は印加電圧及び印加時間をそれぞれ示している。
対象細胞としては、前述したACH2細胞を用いた。
【0048】
前同様、直径が60mmの複数のシャーレにACH2細胞を、それぞれ2×106個となるように播種し、各シャーレのACH2細胞に、ピーク値が2.5Vから10Vの矩形波状の直流電圧を55Hzの周期で30分間印加した後、CO2雰囲気中で、37℃で24時間静置培養した後、後述するMTT法により生存細胞の割合を求めた。なお、直流電圧を印加しない以外は同様の操作を行ったものをコントロール(Cont.)とした。
【0049】
MTT法は、テトラゾリウム塩の一つであるMTT(3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide)が、代謝的に活性な細胞のミトコンドリア内で切断され、フォルマザン色素を形成するという原理に基づいている。
【0050】
すなわち、前述した如く処置を施した細胞を回収し、例えば96穴のプレートに細胞を1×104細胞/穴となるように播種した後、各穴にMTT標識試薬(ローチェ社製)を播種容量の1/10の容量となるように添加し、播種細胞を37℃で4時間、CO2培養装置で培養する。その後、各穴に、イソプロパノールに0.01Mとなるように塩酸を添加してなる細胞可溶化溶液を100μLずつ添加してフォルマザン色素を可溶化させ、各穴の570nmの吸光度をプレートリーダによって測定した。そして、前述したコントロールの穴の吸光度を100%として、生存細胞の割合を算定した。
【0051】
図6から明らかなように、直流電圧を30分間印加した場合、いずれの電圧であっても生存細胞の割合がコントロールより低くなっており、低くなる程度は、印加した電圧の値が高くなるに従って、大きくなっていた。そして、ピーク値が10Vの場合、生存細胞の割合は20%未満であった。
【0052】
なお、図6には示していないが、20Vの直流電圧を印加した場合も、生存細胞の割合は20%未満であった。
このようにHIVが感染したT細胞がアポトーシスに導かれることによって、当該感染細胞の総数が減少するため、T細胞に係るプロウィルスの総数も減少する。
【0053】
このとき、T細胞であるACH2細胞は、矩形波状の直電圧を印加することにより、前述したようにプロウィルスの転写が抑制される。従って、T細胞については、当該感染細胞からHIVの拡散を防止しつつ、当該感染細胞がアポトーシスに導かれるので、T細胞に係るHIVの除去について相乗効果が奏される。
【0054】
一方、HIV非感染T細胞であるJurkat T細胞について、前同様に矩形波状の直流電圧を印加する試験を行ったが、当該細胞にアポトーシスの誘導は検出されなかった。
【0055】
従って、このようなアポトーシスの誘導は、HIVが感染したT細胞に特異的に現れるものであり、HIV非感染T細胞には現れないので、本発明装置による免疫細胞に対する処置の安全性は高い。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係るウィルス感染細胞処置装置の構成を示す模式図である。
【図2】図1に示したパッドの拡大平面である。
【図3】図2に示したパッドのIII−III線による断面図である。
【図4】HIVのプロウィルスを有する単球における転写活性化を検討した結果を示すグラフである。
【図5】HIVのプロウィルスを有するT細胞における転写活性化を検討した結果を示すグラフである。
【図6】HIVのプロウィルスを有するT細胞のアポトーシスを検出した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0057】
1 パッド(電極部)
2 パッド(電極部)
3 定電圧電源器
5 ケーブル
11a 電極
11b 電極
12 被覆部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者に当接すべく形成してなり、対をなす複数の電極部と、各電極部に所定電流値であり矩形波状の直流電圧を印加する電源部とを備え、
対象者に当接させた各電極に、前記電源部から所定値の直流電圧を所定周期で印加することによって、前記対象者が有するウィルス感染免疫細胞を処置するようになしてある
ことを特徴とするウィルス感染細胞処置装置。
【請求項2】
前記ウィルス感染免疫細胞はヒト免疫不全ウィルスが感染した免疫細胞である請求項1に記載のウィルス感染細胞処置装置。
【請求項3】
前記電源部は、2.5Vから20Vまでの間の所定の値の直流電圧を出力するようになしてある請求項2記載のウィルス感染細胞処置装置。
【請求項4】
前記電源部は、30Hzから100Hzまでの間の適宜の周波数の直流電圧を出力するようになしてある請求項3記載のウィルス感染細胞処置装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−291230(P2009−291230A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144502(P2008−144502)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000100399)つちやゴム株式会社 (10)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】