説明

ウイルスワクチンを生産する方法

本発明は、a) 液体中において感染性ウイルスを細胞に接種する工程、b) 該細胞において該ウイルスを増殖させる工程、c) 該増殖したウイルスを回収する工程、d) 該回収したウイルスを不活化する工程、および e) 該不活化したウイルスを洗浄剤で処理し、それによりウイルス抗原を含む調製物を得る工程を含む、ウイルス抗原を含む調製物の製造のための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ウイルスワクチンを生産するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
ワクチンは、抗原性物質の免疫原性の構成成分(composition)であり、例えば(非感染性の)病原体、例えばウイルス、そのエンベロープ、粒子またはそのタンパク質抗原である。投与またはワクチン接種(vaccination)は、対象、例えば哺乳類、例えばヒトまたはトリにおいて免疫化をもたらす。ワクチン接種は、該ワクチンに対する特異的応答およびいくらかの軽度の炎症を引き起こし得るが、これは一般的にワクチンがそれを阻止するよう設計される完全に生存能力のあるウイルスの感染よりもずっと害が少ない。対象の免疫系は、ワクチンの抗原を特異的に認識するよう自らを適合させ、対象が病原体へさらに曝露された後に、該病原体を速やかに不活化する。こうして、病原体に対する耐性の増大がワクチン接種を通して達成される。
【0003】
ワクチンを目的とする場合、ウイルスは適切な細胞培養上または一般的には細胞基質上で、従来法で(conventionally)培養される。インフルエンザの場合、正常に胚形成したニワトリの卵が用いられる。感染性のウイルスが回収され、望まない非ウイルス性細胞成分を除去するために精製される。特に、ニワトリの基質から得られるワクチンの場合、特定の感受性個体においてニワトリ/卵タンパク質に対するアレルギー反応が生じる可能性がある。
【0004】
ウイルスワクチンの生産において必須の工程は、感染性ウイルスの不活化である。ホルマリン(ホルムアルデヒドの水溶液)は、ワクチンの製造において最も頻繁に用いられる不活化剤である。それは通常、37 % 前後のホルムアルデヒドの濃度を有する飽和水溶液として用いられる。ホルムアルデヒドは、表面タンパク質中の一級アミン基と、タンパク質または DNA 中の他の近くの窒素原子とを -CH2- 結合を介して非可逆的に架橋(cross-link)することによって、ウイルスを不活化する。特にこれらの架橋は非ウイルス性物質との結合をもたらし得、そのため、感染性の生(live)ウイルスに対していくらかの前精製(previous purification)を行う必要がある。なぜなら、精製前の不活化は、精製操作の効率および生産物の品質にとって有害な、ウイルスタンパク質と不純物との間の非可逆的な化学的架橋を大量に生じさせるからである。かかる理由により、感染性の生ウイルスは最初に、従来技術、例えばゾーン超遠心分離によって少なくとも部分的に精製され、次いで不活化される(US 6,048,537)。ホルマリン不活化工程は、確立された分析手法を用いて検証されてきた。
【0005】
ホルマリン処理を補って、UV 不活化を製造工程に組み込むことが検討されてきた。ヒトワクチンについての紫外線照射による不活化の使用が、エンベロープの無い(unenveloped)ウイルスおよびエンベロープを有する(enveloped)ウイルスに関して以前に実証されている(US 2006/0270017)。ウイルスゲノムはウイルス表面抗原よりも UV-障害に対して感受性であり、UV-不活化は生産物の生化学的特徴または免疫原性に対してほとんど負の影響を与えないことが示された。ホルマリンによって標的とされるタンパク質とは対照的に、UV 不活化の標的は主として核酸である。
【0006】
特に回復力のある(resilient)ウイルスファミリーを不活化する場合に、ホルマリンと UV-不活化とを組み合わせることによって、科学者はそれぞれ単独での UV-不活化またはホルマリン-不活化の制限を乗り越えようとした。
【0007】
また、多くの製造者は、生ウイルスを不活化し、且つ該ウイルスを修飾するために洗浄剤に基づく工程を用いる。これらの洗浄剤に基づく工程は、インフルエンザウイルスの脂質エンベロープを破壊し、スプリット(split)(部分的に破壊された)ワクチン抗原またはサブユニット(sub-unit)(完全に破壊された)ワクチン抗原を生み出す。洗浄剤処理は多くの場合、ウイルス抗原の反応性を減少させ、その結果、ワクチン接種の間の望まれない副作用を減少させる。洗浄剤で処理されたウイルスは、例えばホルマリン処理によってさらに不活化され得る。これらの方法の例は、US 6,048,573、US 4,522,809、および WO 02/09702 において見出すことができる。このアプローチにおいて不利な点は、ウイルスが破壊工程の前に様々な精製工程を経ること、およびその結果、感染性の生ウイルスがいくつもの段階において製造にあたる人員に取り扱われることである。この事は、特に病原性形態(virulent form)のインフルエンザ、例えば H5N1 株に対するワクチンを生産する場合に特に懸念される。
【発明の概要】
【0008】
発明の要旨
感染性の物質を扱う必要のある工程の数が少なく、反応性の減少したウイルス抗原を生産する、ウイルスワクチンを生産する方法を提供することが本発明の目的である。
【0009】
したがって本発明は、以下の工程を含む、ウイルス抗原を含む調製物(preparation)の製造のための方法を提供する:
a) 液体(fluid)中において細胞に感染性ウイルスを接種する工程、
b) 該細胞中において該ウイルスを増殖(propagation)させる工程、
c) 該細胞培養上清中の該増殖したウイルスを回収する工程、
d) 該回収したウイルスを不活化する工程、および
e) 該不活化したウイルスを洗浄剤(detergent)で処理し、それによりウイルス抗原を含む調製物を得る工程。
【0010】
第2の側面において、以下の工程を含む、ウイルス抗原を含む調製物の製造のための方法が提供される:
a) 感染性ウイルスを含む液体を得る工程、
b) 該回収したウイルスを完全に不活化する工程、
c) 該不活化したウイルスを洗浄剤で処理する工程、および
d) 該不活化したウイルスを精製し、それによりウイルス抗原を含む調製物を得る工程。
【0011】
本発明の他の側面は、本発明の方法によって生産されるウイルス抗原から調製されるワクチン調製物を提供する。
【0012】
別の側面において、本発明は、ウイルス抗原を含む調製物を製造することおよび該調製物を対象へ投与することを含む、対象においてウイルス感染に対する耐性を増大させる方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図面の簡単な説明
【図1】図 1a は、増殖後のウイルス回収から不活化された収集物(harvest)までの、発明の手順のフローチャートを示す。図 1b は、不活化された収集物から一価の(monvalent)バルク調製物までの、発明の手順のフローチャートの続きを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な説明
以下の工程を含む、ウイルス抗原を含む調製物の製造のための方法が提供される:
a) 液体中において細胞に感染性ウイルスを接種する工程、
b) 該細胞中において該ウイルスを増殖させる工程、
c) 該細胞培養上清中の該増殖したウイルスを回収する工程
d) 該回収したウイルスを完全に不活化する工程、および
e) 該不活化したウイルスを洗浄剤で処理し、それによりウイルス抗原を含む調製物を得る工程。この手順の中心となるのは、活性なウイルスに対して行われる工程の数を減らすことが可能である事であり、該ウイルスは最初の収穫物(primary harvest)の回収の後、洗浄剤処理および/または任意の精製工程の前に不活化される。
【0015】
本発明による“ウイルス抗原”は、対象において該抗原に対する免疫応答を誘導することができる、ウイルスまたはウイルスの部分である。対象を完全に免疫化するという意味における絶対的な成功は必要ないが、これは、さらなる曝露の後に、該ウイルスに関連する疾患を発症する機会を減少させる該ウイルスに対する免疫防御または免疫応答を増大させるという意味に理解される。かかるウイルス抗原は、例えば、不活化された全(whole)ウイルス、スプリット(split)ウイルス、改変ウイルス、ウイルスタンパク質、特にヘマグルチニンまたはノイラミニダーゼのような表面タンパク質であり得る。“ワクチン”とは、投与、例えば注入、経鼻または経皮投与のための形態における該ウイルス抗原の調製物である。本発明による“精製”とは、収穫液(harvest fluid)の非ウイルス性成分を除去する工程に関する。回収工程後に得られ得る収穫液は、好ましくは、固体のまたは大きな不純物、例えば残っているインタクトな細胞、またはウイルスが増殖する間に崩壊する感染細胞の細胞片(cell debris)が、沈殿によって、例えば遠心分離を介して除去されている、清澄化された(clarified)上清である。したがって、“回収”とは、液体、特に清澄な(clear)液体中における感染性の全ウイルスを得るあらゆる工程をいう。細胞片を除去する事とは別に、回収工程は、細胞増殖培地または基質、例えば細胞がその上で培養されるあらゆる種類の基質の他の固体成分を除去する工程をも含み得る。増殖した全ウイルスは、該細胞培養上清中に放出され、そこから回収され得る。したがって、本発明の特定の態様において、増殖したウイルスを回収する工程は、感染後に細胞および/または細胞の細胞片から該ウイルスを分離することを含む。この分離は、例えば、目に見える粒子を液体から分離する約 2000 g から 3000 g、上限 5000 g、10000 g、15000 g または 20000 g までの低速遠心分離によって促進することができる。あるいは、分離は濾過によって行っても良い。特に好ましい態様において、該液体は、例えば、胚性卵(embryonal egg)の代わりにウイルス増殖のために用いられる細胞、例えば哺乳類、鳥類または昆虫の細胞培養を選択することによって、アラントイン、コラーゲンおよび/またはアルブミン、例えば卵白アルブミンを実質的に含まない。本発明の特定の態様において、アフリカミドリザル腎臓(VERO)細胞が、ウイルス増殖のために用いられる。
【0016】
回収工程の後、ウイルスは、ウイルス不活化のためのいずれかの既知の手段によって、例えば引用により本明細書に取り込まれる米国公開番号第2006/0270017 A1 に開示される通りに、不活化される。特に、不活化は、ホルムアルデヒド処理および/または UV 照射によって、単独でまたは組み合わせて行うことができる。本出願において用いる場合、“完全な不活化”または“完全に不活化された”とは、ウイルス調製物をいう場合には、ウイルス調製物がニワトリ胚線維芽細胞(CEF)または VERO 細胞上でのウイルス調製物の培養によって決定されるプラーク形成単位(pfu,)を含有しないことを意味する。
【0017】
本発明の方法の有益な効果の一つは、特定の安全対策(safety precaution)が必要とされる感染性ウイルス培地について行われる工程が減少することである。技術常識においては、ホルマリン処理の間にウイルスと架橋し得る非ウイルス性のタンパク質または核酸を除去するためまたは実質的に減少させるために、最初の収穫物について精製工程を行うことが必要であると考えられていた。この先入観は、ウイルスの回収の直後に、精製に先だって不活化を行うことが実際に可能であり、あるいは有利でさえあることを示した本発明によって打破された。不活化の間のかかる有害な反応を避けるため、ウイルスを含有する液体またはその非ウイルス性成分は、回収工程の間または後において、好ましくはそれ以上濃縮されないかまたは濃縮される程度が 10、9、8、7、6、5、4、3 または 2 倍よりも小さい。好ましくは、細胞培養からのそのままの(native)上清の非ウイルス性タンパク質および/または DNA の濃度が、不活化工程の前に維持される。特定の態様において、全タンパク質または非ウイルス性タンパク質の濃度は、不活化の間またはウイルスを回収した後、液体中において、μg/ml の範囲で、例えば 950 μg/ml、900 μg/ml、850 μg/ml、800 μg/ml、700 μg/ml、650 μg/ml、600 μg/ml、550 μg/ml、500 μg/ml、450 μg/ml、400 μg/ml、350 μg/ml、300 μg/ml、250 μg/ml、200 μg/ml、150 μg/ml、100 μg/ml、80 μg/ml、60 μg/ml、40 μg/ml、30 μg/ml、20 μg/ml、10 μg/ml、8 μg/ml、6 μg/ml、4 μg/ml、3 μg/ml、2 μg/ml 未満であるか、または 1 μg/ml 未満である。
【0018】
不活化のために、ウイルスを不活化するのに有効なあらゆる量のホルムアルデヒドまたは UV 照射の量を単独でまたは組み合わせて選択することができる。本出願の好ましい態様において、サンプル中におけるウイルスの不活化に起因するウイルス力価の減少は、少なくとも約 1x105 であり、より好ましい態様においては少なくとも約 1x107 であり、さらに好ましい態様においては少なくとも約 1x1010 であり、最も好ましい態様においては少なくとも約 1x1014 である。
【0019】
本発明の好ましい態様において、サンプルは、有効濃度のホルマリンで約 12 から約 96 時間の間処理される。より好ましい態様において、サンプルは、有効濃度のホルマリンで約 24 から約 48 時間、より好ましくは約 24 から 約 30 時間の間処理される。本発明の特に好ましい態様において、サンプルは、有効濃度のホルマリンで約 24 から約 24.5 時間の間処理される。ワクチンの分野の当業者は、完全な不活化をもたらすために、単独でまたは UV 光と組み合わせて、処理されるウイルスの特定の株に対してホルマリン濃度および処理時間を最適化する必要があり得ることを理解するであろう。さらなる態様において、サンプルを有効濃度のホルマリンで処理する工程は、約 10 から約 40 ℃において行われる。本出願の特に好ましい態様において、サンプルを有効濃度のホルマリンで処理する工程は、約 32 ℃において行われる。
【0020】
本発明の好ましい態様は、有効濃度のホルマリンを用いるサンプルの処理を含み、ここで、有効濃度のホルマリンは、有効濃度を調整するために 37% ホルマリン溶液を用いる場合、好ましくは約 0.01% から約 1% (w/w)の範囲であり、好ましくは約 0.01% から約 0.1% の範囲であり、より好ましくはそれぞれ約 92 mg/l と約 368 mg/l のホルマリンに相当する約 0.025% と約 0.1% の間である。
【0021】
本出願において、“UV 光”との用語は、100 から 400 nm の波長を有する紫外線放射(ultraviolet radiation)を意味する。UV 光は、UV C (100 から 280 nm)、UV B (280 から 320 nm) および UV A (320 から 400 nm) からなる群から選択し得る。DNA 中にインターカレートし、UV 光によって活性化されるもののような光感作剤(photosensitizing agent) 、例えばソラレンを、UV 放射の不活化効果を増強するために用いることができる。本発明の好ましい態様において、UV 光は、約 100 から約 280 nm の波長を有する UV C である。本発明のより好ましい態様において、UV 光は、約 240 から約 290 nm の波長を有する。本発明の特に好ましい態様において、UV 光の約 85% 以上が約 254 nm の波長を有する。
【0022】
UV 光の放出は、連続的形態の UV 光放出、例えば水銀灯技術、またはパルス UV 光、例えば単色レーザー技術であり得る。所望の UV 強度は、2以上のランプを組み合わせることによって生み出され得る。本発明の対象は、あらゆる有効な量の UV 光、すなわち、好ましくはホルマリン処理と組み合わせた場合に、所与のウイルスを安全に不活化するあらゆる量の UV 光を包含する。ワクチンの分野の当業者は、完全な不活化をもたらすために、単独でまたはホルマリン処理と組み合わせて、処理されるウイルスの特定の株に対して UV 光の波長および曝露を最適化する必要があり得ることを理解するであろう。有効な量は、当該分野において一般に知られている様々な要因、例えば UV 不活化チャンバーの物理的パラメーター、例えばランプおよびチャンバーのサイズおよび直径、ウイルスを含有する培地と UV 光源との距離、チャンバーの素材の光吸収および光反射特性に依存し得る。同様に、UV C 光の波長および強度ならびにウイルスが UV 光に曝露される接触時間も、有効な量にとって非常に重要である。さらに、有効な量は、ウイルスそのもの、ウイルスを含有する培地およびそれらの光吸収特性によっても影響を受ける。好ましくは、有効な量は、サンプル中に含まれるウイルスの少なくとも 99.99% を不活化するのに十分であり、より好ましくは哺乳類または鳥類の細胞培養試験において活性なウイルスが検出されないかまたは完全に不活化されるレベルにまでウイルスを不活化するのに十分である。UV C 光を用いる好ましい態様において、ウイルスを含有するサンプルは、約 5 から 約 200 mJ/cm2 の範囲の有効な量に曝露される。好ましい態様において、有効な量は約 20 から 約 100 mJ/cm2 の範囲であり、他の好ましい態様においては、有効な量は約 40 から 約 90 mJ/cm2 の範囲である。好ましい態様において、有効な量は、初期のウイルス力価を 1x105 減少させる。バルクの(bulk)ワクチン不活化において、有効な量は、化学的(ホルマリン)不活化工程の後に存在し得るあらゆる残りの生ウイルスを除去するのに十分なものであるべきである。実施例において示される通り、これは非常に感度の高い哺乳類細胞培養感染試験、例えば実施例 1.3 に記載される Vero 細胞培養試験によって決定され得る。
【0023】
不活化の後、ウイルス抗原は精製される。精製は、例えば約 100000 g、例えば少なくとも 50000 g、60000 g、70000 g、80000 g または 90000 g、または 200000 g、180000 g、160000 g、140000、g 120000 g または 110000 g までの範囲において、好ましくは超遠心分離によって行われる。超遠心分離方法は、当該技術分野において一般に知られており、ウイルスワクチンの通例の製造において、例えば引用により本明細書に取り込まれる US 6,048,537 に記載されるように用いられる。好ましくは、超遠心分離は、遠心分離の間に確立するスクロース密度勾配において行われる。特に好ましい態様において、スクロース勾配は、約 42% から 55% (w/w-%) のスクロース(または当該技術分野において公知の他のいずれかの適切な炭水化物もしくは糖)の溶液を用いることによって形成される。超遠心分離のために、連続フロー(continuous flow)遠心機を用い得る。超遠心分離後の分画のためのパラメーターは、使用するウイルス株の特徴に依存する。ピークのプール画分の回収のためのパラメーターは、各々のウイルス株について個々に評価および決定され、約 46-50% から 34-38% スクロースの範囲である。好ましくは、非ウイルス性物質(例えば、この段階においては全不活化ウイルス)は密度分離によって除去される。細胞膜断片はリポソームおよびタンパク質を含み、各々が特有の特定の密度を有する。タンパク質および核酸の特徴的な組成、およびエンベロープを有するウイルスの場合には膜も含めた特徴的な組成であるウイルスは、それらの特定の密度によって非ウイルス性物質から精製することができる。特に、全ウイルス抗原は、不完全なウイルス部分から精製することができ、あるいは逆も同様である。
【0024】
不活化されたウイルスを精製するこの工程は、ウイルスから可溶性の非ウイルス性物質を少なくとも部分的に除去することを含む。特に、可溶性の非ウイルス性物質は、元の細胞培地もしくは培養物の細胞からの細胞タンパク質または細胞核酸を含む。非ウイルス性物質は、不完全なウイルス部分を包含し、好ましくは、少なくとも 20% の量、好ましくは少なくとも 25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85% または少なくとも 90% の量、精製の間に減少させられる。
【0025】
特に好ましい態様において、回収された液体は、宿主細胞の核酸を分解するためにヌクレアーゼで処理される。かかるヌクレアーゼは、例えばベンゾナーゼ(benzonase)であり得る。
【0026】
本発明のさらなる態様において、細胞培養およびウイルス増殖のために用いられる細胞は、初代細胞であり得、またはウイルスを生産するのに適するいかなる培養細胞株であってもよい。用い得る細胞の例は、哺乳類細胞(例えば、CHO、BHK、VERO、HELA、perC6 細胞)、鳥類細胞(例えば、ニワトリ胚線維芽細胞、または鳥類からの継続的な細胞株) および昆虫細胞(例えば、Sf9 細胞)を包含する。特に好ましい態様において、細胞は、細胞培養物の形態である。本発明の方法は、これまでの不活化試薬の潜在的な架橋特性にもかかわらず、物質を分割(split)することを含む効果的な精製を可能にする。卵で増殖させた(egg grown)ウイルスとは対照的に、細胞培養物由来のウイルスは、初期純度がより高いものであり、且つ、アルブミンおよびコラーゲンを含まず、これはホルマリン処理された収穫物の精製にとって重要な利点を表す。得られる生産物の革新的な製剤(formulation)は、安定剤、例えばトコフェロールまたはラウレス(laureth)-9 を必要とすることなく、凝集(flocculation)が無い。
【0027】
本発明において、不活化されるウイルスは、センスまたはアンチセンスの、連続したまたは分節した、一本または二本(DNA)鎖のゲノムを有する、エンベロープを有する DNA または RNA ウイルスから選択される。本発明の好ましい態様において、ウイルスは、フラビウイルス、トガウイルス、レトロウイルス、コロナウイルス、フィロウイルス、ラブドウイルス、ブニヤウイルス、オルソミクソウイルス、パラミクソウイルス、アレナウイルス、ヘパドナウイルス、ヘルペスウイルスおよびポックスウイルスを含むエンベロープを有するウイルスの群から選択される。他の好ましい態様において、ウイルスは、フラウイルス(flavirus)、コロナウイルス、オルソミクソウイルスまたはトガウイルスである。特に好ましいものは、エンベロープを有するウイルス、例えばインフルエンザ A、B または C 株を含むインフルエンザ、西ナイル、およびロスリバーウイルス(RRV)である。本発明の他の好ましい態様において、ウイルスは、フラビウイルス、トガウイルス、レトロウイルス、コロナウイルス、フィロウイルス、ラブドウイルス、ブニヤウイルス、オルソミクソウイルス、パラミクソウイルスおよびアレナウイルスを含むエンベロープを有する RNA ウイルスの群から選択される。一つの特に好ましい態様において、ウイルスは、オルソミクソウイルス、例えばインフルエンザウイルス株から選択される: インフルエンザウイルス株は、ヘマグルチニン(hemaglutianin)およびノイラミニダーゼ表面タンパク質の様々な組み合わせを有し得る。別の特に好ましい例において、ウイルスは、トガウイルス、例えばアルファウイルス、例えば RRV から選択される。バルクのウイルス溶液として使用するためのウイルスの別の好ましい群は、重症急性呼吸器症候群(SARS)に関連するウイルスを含むコロナウイルスである。好ましいウイルスの別の群は、日本脳炎、ダニ媒介脳炎(TBE)、デング熱ウイルス、黄熱病ウイルス、西ナイルウイルスおよび出血熱ウイルスを含むフラビウイルスである。別の好ましいウイルスの群は、オルソポックスウイルス(例えばワクシニアまたは改変ワクシニアアンカラ(Ankara)ウイルス)およびアビポックスウイルスを含むポックスウイルスである。
【0028】
さらなる態様において、精製されたウイルスはさらに加工(process)される。精製の後、さらなる工程は、約 40% のスクロースを含有すると期待される粘稠なピークのプール画分を希釈するために、特にスクロース超遠心分離の後に、精製されたウイルスの希釈を含み得る。精製されたウイルスは、ホモジナイズされ得、さらにヌクレアーゼ処理され得、圧力および/または限外濾過/ダイアフィルトレーションに供され得る。
【0029】
本発明の態様において、ウイルスは、改変された全ウイルスまたはスプリットウイルスワクチンを生産するため、洗浄剤処理によって改変される。ウイルスの脂質エンベロープの改変は、ウイルス、特にウイルスの脂質エンベロープ膜を不安定化または崩壊させるのに適した濃度の洗浄剤、例えば Triton X100 を用いる可溶化によって行われる。洗浄剤処理は、少なくとも部分的に該ウイルスの膜を除去する。好ましくは、洗浄剤の濃度(concentration)は、例えばダイアフィルトレーションまたはクロマトグラフィーの過程によって除去される。洗浄剤処理工程において使用するための洗浄剤は、イオン性(カチオン性、アニオン性、双性イオン性)洗浄剤または非イオン性洗浄剤を包含する。適切な洗浄剤は、Tween グループの洗浄剤(例えば Tween 80)、および Triton グループの洗浄剤(例えば Triton 100)を包含する。
【0030】
所望により、ウイルス抗原調製物は、さらなるホルムアルデヒド処理または安定剤の添加によって、例えば引用により本明細書に取り込まれる WO 02/097072 A2 に開示される洗浄剤の使用によって、さらに安定化される。かかる洗浄剤は、例えば HA タンパク質を安定化するのに適した洗浄剤であり、例えば Tween 80、Triton X100、デオキシコレート、ラウレス-9 およびトコフェロールである。表面タンパク質は、膜成分と洗浄剤とのコンプレックスミセルによって可溶化された状態に維持されると考えられる。
【0031】
特に好ましい態様において、ウイルスは、以下の工程のいずれか1つを含む工程によって、スプリットウイルスへとさらに加工される:希釈、ホモジナイゼーション、ヌクレアーゼ処理、圧力濾過、限外濾過/ダイアフィルトレーション、可溶化、ダイアフィルトレーション、ホルムアルデヒド処理による安定化、希釈、限外濾過/ダイアフィルトレーション、(洗浄剤)安定剤の添加、第2のホモジナイゼーションおよび無菌濾過。
【0032】
他の特に好ましい態様において、ウイルスは、以下の工程のいずれか1つを含む工程によって、改変ウイルス調製物へとさらに加工される:希釈、ホモジナイゼーション、ヌクレアーゼ処理、圧力濾過、洗浄剤処理、限外濾過/ダイアフィルトレーション、安定剤の添加、第2のホモジナイゼーションおよび無菌濾過。特に、洗浄剤による安定化は、洗浄剤をウイルスの膜中へ導入するために、エンベロープを有するウイルスの場合には完全なウイルスの安定性を増大させるために行われ、その結果ウイルスは改変される。
【0033】
さらなる態様において、ウイルスは、単一のウイルスサブユニットまたはウイルスタンパク質、特にヘマグルチニン(heamaggutinin)またはノイラミニダーゼ等の表面タンパク質を単離することを含む工程によって、サブユニットワクチンへと加工される。該単離は、例えばアフィニティー精製および/またはクロマトグラフィー方法、例えばイオン交換クロマトグラフィーによって行うことができる。
【0034】
驚くべき事に、本発明の方法は、ウイルス抗原ワクチンの工業規模での生産に適する。したがって、好ましくは、不活化または他のあらゆる工程、例えば接種、増殖、回収または精製は、少なくとも 0.5l、1l、2l、3l、4l、5l 6l、7l、8l、9l、10l、12l、14l、16l、18l、20l、25l、30l、35l、40l、60l、80l、100l、120l、140l、160l、180l、200l のウイルスまたはウイルス抗原を含む液体の量または収量において行われる。
【0035】
さらなる側面において、本発明はまた、以下の工程を含む、ウイルス抗原を含む調製物の製造のための方法を提供する:
a) 感染性ウイルスを含む液体を得る工程、
b) 該回収したウイルスを完全に不活化する工程、
c) 該不活化したウイルスを洗浄剤で処理する工程、
d) 該不活化したウイルスを精製し、それによりウイルス抗原を含む調製物を得る工程。当然、上記のいずれかの細胞上清からのものであり得る感染性ウイルスを含有する液体自体を、不活化、洗浄剤処理および精製に用いることも可能である。好ましくは、該感染性ウイルスを含む液体は、細胞培養物から得られる。
【0036】
特に好ましい態様において、ウイルス抗原、特にスプリットウイルスまたは改変ウイルス抗原は、有効量の Tween 80 を、特に好ましくは約 0.125% の濃度において、例えば 0.01%、0.05% または 0.4% より高い濃度、および 0.6%、0.5%、0.4%、0.3% または 0.2% より低い濃度において添加する事によって安定化される。したがって本発明は、さらなる側面において、Tween 80 の添加によってウイルス抗原を安定化する方法をも提供する。本発明により、洗浄剤として、Tween 80 は Triton X100 と同様にウイルスの膜を可溶化する力が弱いが、はるかに生体適合性が高く、ワクチン調製物中に存在することができることが見出された。スプリットウイルスの可溶化手順においては例えば 0.5% の高濃度の Triton X100 を用いるが、ウイルス抗原を安定化するために有効な量は、好ましくは、ウイルスの膜を可溶化する量よりも少ない。他の態様において、ウイルス抗原は安定剤を含まない。特定の態様において、スプリットワクチンの生産は、分断(splitting)および精製過程の前にウイルス収穫物が完全に不活化される工程によってもたらされる。驚くべき事に、ホルマリン処理および UV 処理を伴う不活化工程は、その後の洗浄剤処理および精製工程を妨げない。
【0037】
さらなる態様において、1以上のウイルス抗原を含むワクチンまたは医薬組成物が提供される。かかる医薬組成物は、医薬担体および/またはアジュバント(adjuvant)をさらに含み得る。かかる医薬担体は、例えば安定化塩(stabilising salt)、エマルゲーター(emulgator)、可溶化剤または浸透圧調節剤(osmo-regulator)、懸濁剤、増粘剤(thickening agent)、生理学的酸化還元能を維持する酸化還元(redox)成分である。好ましいアジュバントは、免疫応答を増大させるために用いられるアルミニウム塩、マイクロエマルション、脂質粒子および/またはオリゴヌクレオチドを包含する。本発明のさらなる側面は、抗原を含む医薬組成物またはワクチンとしての調製物である。ワクチンは、例えば、ウイルスに関連する疾患に対する予防的な手段として注入のために用いることができる。特に好ましい態様において、組成物またはワクチンは、1より多い抗原、例えば 2、3、4、5、6、7 または 8 つの、特に、異なるウイルス株、サブタイプまたはタイプ、例えばインフルエンザ A およびインフルエンザ B、特に、ヒト H1N1、H2N2、H3N2、H5N1、H7N7、H1N2、H9N2、H7N2、H7N3、H10N7 サブタイプのうちの1以上、ブタインフルエンザ H1N1、H1N2、H3N1 および H3N2 サブタイプのうちの1以上、イヌまたはウマのインフルエンザ H7N7、H3N8 サブタイプのうちの1以上、またはトリ H5N1、H7N2、H1N7、H7N3、H13N6、H5N9、H11N6、H3N8、H9N2、H5N2、H4N8、H10N7、H2N2、H8N4、H14N5、H6N5、H12N5 サブタイプのうちの1以上から選択される、ウイルス株、サブタイプまたはタイプを含む。
【0038】
適切なアジュバントは、鉱物ゲル(mineral gel)、水酸化アルミニウム、界面活性剤、リゾレシチン、プルロニック(pluronic)ポリオール、ポリアニオンまたはオイルエマルション(oil emulsion)、例えば油中水または水中油、またはこれらの組み合わせから選択することができる。当然、アジュバントの選択は目的とする用途に依存する。例えば、毒性は、目的とする対象生物に依存し得、無毒性から高毒性まで異なり得る。
【0039】
本発明の組成物またはワクチンの別の好ましい態様は、緩衝物質をさらに含む。緩衝物質は、本発明の組成物の溶液における生理学的状態を確立するために、当業者によって選択され得る。pH およびイオン強度ならびにイオン含有量などの特性は、所望通りに選択することができる。
【0040】
本発明のさらなる好ましい組成物またはワクチンは、医薬上許容される担体を含む。
【0041】
“担体”の用語は、それと共に組成物を投与し得る希釈剤、例えば水、生理食塩水、賦形剤または媒体をいう。固体の組成物に関しては、医薬組成物中における担体は、結合剤、例えば微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン(ポリビドン(polyvidone)またはポビドン)、トラガカントゴム、ゼラチン、デンプン、ラクトースまたはラクトース一水和物; 崩壊剤、例えば アルギン酸、トウモロコシデンプン等; 潤滑剤または界面活性剤、例えばステアリン酸マグネシウムまたはラウリル硫酸ナトリウム; 流動促進剤、例えば コロイド状二酸化ケイ素; 甘味剤、例えばスクロースまたはサッカリンを含み得る。
【0042】
1以上の異なるウイルス抗原を含む調製物を製造することおよび上記の1以上のウイルス抗原を含む該調製物を対象へ投与することを含む、対象におけるウイルス感染に対する耐性を増大させる方法もまた提供される。調製物は、好ましくはワクチンである。本発明によって調製されるウイルス抗原を、ワクチンとして、または該ウイルス抗原を投与することによって対象におけるウイルス感染に対する耐性を増大させるために提供することもまた考慮される。
【実施例】
【0043】
実施例
実施例 1: 感染性ウイルスの不活化
3つの異なるインフルエンザ株、2つの A-株 Hiroshima (HR、H3N2)、New Caledonia (NC、H1N1) および B-株、Malaysia (MA) を、Vero 細胞培養において生産した。ウイルスの増殖後、図 1a のフローチャートに示される通りに、感染性ウイルス収穫物を精製の前に不活化する。
【0044】
1.1. ホルマリン不活化
ホルマリンを用いる最初の不活化工程を、細胞を含まない、感染性の一価のウイルス収穫物、すなわち遠心分離を介した清澄化(clarification)後のバイオリアクター収穫物について行う。30 から 34 ℃における回収の後、一価のウイルス収穫物を 30 から 34 ℃において、4 から 8 時間、約 0.9 から 約 1.1 U/ml のベンゾナーゼで処理する。次いでそれを、24 から 24.5 時間、32+/-2 ℃において <=92 mg/l ホルマリンで処理する。
【0045】
1.2. UV 不活化
65 W UV ランプおよび薄層チャンバーを備える不活化チャンバーを用いて、ホルマリンで不活化されたウイルスを用いる多数の不活化実験を行う。一価のウイルス収穫物の完全な不活化は、時間あたり 100 リットルの流速を3サイクルの間用いる場合に実証され得るが、この工程は稼働中の(on-line) UV シグナルの測定を許容しなかった。インフルエンザ生産のために用いられる Vero 細胞培養の培地は、UV シグナルの吸収の原因となる様々な有機化合物を含有している。そのため、該系は、一価のウイルス収穫物の処理の間に UV シグナルの連続的モニタリングを可能にする 110 W ランプを備えている。
【0046】
ホルマリン処理された一価のインフルエンザ パナマ(Panama)の収穫物を、不活化のモデル基質として用いる。薄層 UV 技術を用いる連続的な不活化のために、VISAランプ(110 W)を備える WEDECO VISA システム (Germany) を用いる。UV 薄層チャンバーは、30 mm 直径の石英管を有するステンレス鋼 1.4435 の装置である。較正された UV センサーは、稼働中の UV シグナルの制御を可能にする。UV 薄層チャンバーを、周囲温度(ambient temperature)において、時間あたり 240+/-10 リットルの流速で作動させる。流速条件は、較正された流量計によって制御される。一価の収穫物を、10 UV サイクルに曝露する。各サイクルの後、20 リットルの UV 処理された一価の収穫物を除去し、連続的な超遠心分離を用いるスクロース勾配精製によってさらに精製する。
【0047】
1.3. 安全性試験
標準的な Vero 安全性試験は、不活化されたインフルエンザ株の残存する感染性についての高度に厳密な品質試験である。該試験は、他のウイルスにも適用できる。一価のバルク産物、すなわちスクロース勾配遠心分離および超-ダイアフィルトレーション(ultra-diafiltration)後の精製されたウイルス抗原を、5 つのルー(Roux)フラスコへ添加する(4 ml/フラスコ)。Vero 培地中において 32 ℃で 7 日間インキュベートした後、細胞培養物を収穫し、プールし、5 つのルーフラスコへ添加する(10 ml/フラスコ)。32 ℃におけるさらなる 7 日間のインキュベーション工程の後、細胞培養物を収穫し、プールし、ヘマグルチニン(HA)について試験する。
【0048】
HA-試験は、インフルエンザウイルスがその表面タンパク質であるヘマグルチニンを用いて赤血球と結合し得るという事実に基づいている。試験は、無菌の環境において行われる。規定の HA 力価を有するインフルエンザウイルス懸濁液は陽性対照の役割を果たし、0.9% NaCl 溶液は陰性対照の役割を果たす。50 μl の、試験するサンプルの 0.9% NaCl における 1:2 希釈を、96-ウェルプレートの1つのウェル中へ入れる。各ウェルへ、50 μl のニワトリ赤血球を含有する溶液を添加する。その後、プレートを室温にて 30 から 45 分間インキュベートする。次いで、赤血球凝集を視覚的に決定し、ここで、同じサンプルを含有する5つのウェルが全く赤血球凝集を示さなければ、該サンプルは HA 試験を通過する。
【0049】
実施例 2: 超遠心分離による精製
インフルエンザウイルス抗原の精製の間、一価の収穫物(MVH)を遠心分離によって濃縮する。連続フロー遠心分離の手法を、スクロース水溶液を用いて形成されるスクロース勾配に基づき、Vero 細胞培養で増殖させたウイルスワクチンの製造に適用することができる。用いた遠心機モデルは、前清澄機(preclarifier)を備えていた。20mM トリスバッファー中のおよそ 42% および 55% (w/w) のスクロース溶液を用いて形成された密度勾配を用いる小スケール実験を、異なる遠心分離条件下で行った。さらに、前清澄機を伴わないが、増大した重力加速度(g-force)を伴う超遠心分離は、収量の改善にとって有益なツールであることが判明した。
【0050】
一価のインフルエンザウイルス収穫物(MVH)を、比較研究のために用いた。MVH を、研究用遠心機モデル RK-6 を用いて 35.000 rpm での連続的な超遠心分離によって精製した。
【0051】
実施例 3: 精製/加工(Processing)
インフルエンザ候補ワクチンとして、3つの異なるインフルエンザ株を、実施例 2 に記載される通りに超遠心分離から精製し、回収した。抗原の収量は、ピークプールによって異なっていた。インフルエンザ株 New Caledonia が最も低い抗原収量を有し、Hiroshima 株がそれに次ぎ、最後が Malaysia 株であった。タンパク質含量は、Malaysia において最も高く、Hiroshima において最も低かった。SRD (一元放射免疫拡散アッセイ(HA-定量化)) 対総タンパク質の比は、Malaysia および New Caledonia からのピークプールにおいては同程度であったが、Hiroshima においてはより高かった(表 1)。
【表1】

【0052】
さらなる加工は、以下の概要に従った:
【0053】
3.1. ピークプールの希釈
粘性の低減のために、ピークプールを TBS バッファーで 3 倍希釈し、スクロース濃度を減少させる。
【0054】
3.2. ピークプールの最初のホモジナイゼーション
希釈されたピークプールを、高圧力のホモジナイザー“NS 1001L Panda”(Niro Soavi S.p.A.)を用いて処理する。ウイルス懸濁液に、800 bar で 3 回、ホモジナイザーを通過させる。この圧力は、ウイルス凝集物(aggregate)を破壊することによってその後の加工工程を改善するのに十分である。
【0055】
3.3. ベンゾナーゼの添加
細胞由来の DNA を分解するため、大腸菌(E. coli)において生産される組換えヌクレアーゼであるベンゾナーゼを、3U/ml の終濃度においてウイルス懸濁液へ添加する。
【0056】
3.4. 圧力濾過
ベンゾナーゼの添加後、その後のインキュベーション期間の間、ウイルス懸濁液を外来性の(adventitious)生物、例えば細菌を含まない状態に維持するために、0.22 μm 圧力濾過を行う。インキュベーションは、終夜、32℃にて行う。
【0057】
3.5. 限外濾過/ダイアフィルトレーション
ベンゾナーゼインキュベーションが終了した後、小スケールにおいては 0.1 m2 、試験スケールにおいては 0,5 m2 の濾過面積を有する 30 kD の停止チャンネル(suspended channel)限外濾過膜(Pall)を用いて限外濾過/ダイアフィルトレーションを行う。限外残余物(Ultraretentate)を、10 残余物(Retentate)容量の TBS (トリス緩衝生理食塩水) + 0.008% TritonX100 (w/w) を用いてダイアフィルトレートする。
【0058】
3.6. 可溶化のための Triton X100 添加およびインキュベーション
ウイルス分断(splitting)のために、0.5% (w/w) の終濃度まで TritonX100 を添加し、室温にて終夜インキュベートする。
【0059】
3.7. ダイアフィルトレーション II
高い Triton X100 濃度を除去するために、30 kD の停止チャンネル限外濾過膜(Pall)を用いてダイアフィルトレーションを行う。限外残余物を、15 残余物容量の TBS (トリス緩衝生理食塩水)を用いてダイアフィルトレートする。
【0060】
3.8. ホルムアルデヒド添加およびインキュベーション
抗原の安定化のため、限外濾過/ダイアフィルトレーション残余物(Ultra/Diaretentate)中へ、0.025% の終濃度までホルマリンを添加する。室温にて 18-24 時間、インキュベーションを行う。ホルマリンは、〜36-37% のホルムアルデヒドガスの飽和水溶液である。
【0061】
3.9. HPLC による Triton X100 濃度の決定
その後の加工工程は、希釈工程およびさらなる限外濾過/ダイアフィルトレーションからなる。UDR を Triton X 100 (TX 100、〜0.015%、250μM、水溶液の状態)についての CMC 未満へ希釈することを可能にするために、分析的 TX 100 決定工程を導入して TX 100 の濃度を定義した。希釈係数は、この TX 100 濃度に依存する。
【0062】
3.10. TX 100 についての臨界ミセル濃度未満への UDR の希釈
(HPLC によって決定される)約0.1-0.2%の残余の TX 100 を含有する限外濾過/ダイアフィルトレーション残余物を、明らかに CMC (臨界ミセル濃度)未満の濃度である 0.008 % の最終 TX 100 濃度まで TBS で希釈する。
【0063】
3.11. 限外濾過/ダイアフィルトレーション III
同一の 30 kD 停止チャンネル限外濾過膜を用いて、限外濾過/ダイアフィルトレーションを行う。限外残余物を、5 残余物容量の TBS (トリス緩衝生理食塩水) + 5 VC TBS + 0.008 % TritonX100 (w/w) を用いてダイアフィルトレートする。
【0064】
3.12. 洗浄剤 安定化
TX 100 濃度を標的レベルまで減少させた後、さらなるウイルス抗原安定化のために、Tween 80 を 0.125% ± 0,025% の終濃度まで、懸濁液に添加する。これは、低すぎる TX 100 濃度による抗原の再凝集を回避する。
【0065】
3.13. 第2のホモジナイゼーション
0.22 μm 濾過工程における抗原の損失を低く保つため、第2の高圧力ホモジナイゼーション工程を行う。セクション 3.2 に記載されるものと同じホモジナイザーを、同一の設定で用いる。
【0066】
3.14. 無菌濾過
2nd ホモジナイゼーション工程に続いて、0.22 μm フィルター(Millipore)を用いて無菌濾過を行う。無菌濾過されたバルク物質を、一価のバルク(MVB)と称する。
【0067】
実施例 4: 結果
表 2: スプリットウイルス(Hiroshima)について例証された超遠心分離後の精製の結果:
【表2】

【0068】
MVB 中の総 SRD は 73 mg であった。総 Vero タンパク質レベルは、5.2 mg から 1 mg まで減少し、80.8% の減少であった。総 Vero DNA は、MVB 中において 0.28 μg まで減少した。総タンパク質は、487 mg から 212 mg まで減少し、56.5% の減少であった。
【0069】
Malaysia 株について同様の結果が得られた: 総 Vero タンパク質を 8.3 mg から 2.4 mg まで減少させることができ、これはピークプールから MVB までおよそ 67.5% の減少であった。MVB 中の Vero DNA 含量は、1.8 μg であった。精製の間における総タンパク質の減少は、748 mg から 310 mg まで、58.6 % であった。
【0070】
精製の終了時において、New Caledonia 株については、総 Vero タンパク質をピークプールにおける 8 mg から MVB における 2 mg まで減少させることができ、これは 75% の減少であった。MVB 中の総 Vero DNA 含量は、0.27 μg であった。総タンパク質は、ピークプールにおける 382 mg から MVB における 162 mg まで減少し、これは 57.6 % の減少であった。
【0071】
精製過程は非常に一貫性があり、かつ頑強である。宿主細胞のタンパク質および DNA を成功裏に減少させること、ならびにベンゾナーゼ、スクロース、ホルムアルデヒドおよび Triton X100 などの化学物質の過程、ならびにエンドトキシンの欠如により、高度に精製されたウイルス調製物が得られた。生産の後、全ての調製物は無菌であった。3つ全ての MVB において、SRD 対タンパク質の比は、明細書に従った(complied with specifications)。
【図1a】

【図1b】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、ウイルス抗原を含む調製物を製造するための方法:
a) 液体中において細胞に感染性ウイルスを接種する工程、
b) 該細胞中において該ウイルスを増殖させる工程、
c) 該増殖したウイルスを回収する工程、
d) 該回収したウイルスを完全に不活化する工程、および
e) 該不活化したウイルスを洗浄剤で処理し、それによりウイルス抗原を含む調製物を得る工程。
【請求項2】
該増殖したウイルスを回収する工程が、感染後に該細胞の該細胞および/または細胞片からウイルスを分離することを含む、請求項1の方法。
【請求項3】
該不活化を、ホルムアルデヒドの添加によって行う、請求項1の方法。
【請求項4】
該不活化を、UV 照射によって行う、請求項1の方法。
【請求項5】
該増殖したウイルスが、該液体中に放出される、請求項1の方法。
【請求項6】
回収の後、回収した液体をヌクレアーゼで処理する、請求項1の方法。
【請求項7】
該ヌクレアーゼが、ベンゾナーゼである、請求項6の方法。
【請求項8】
該ウイルスの増殖の間、該細胞が細胞培養物の形態である、請求項1の方法。
【請求項9】
該細胞が、哺乳類または鳥類の細胞である、請求項1の方法。
【請求項10】
該細胞が、上皮細胞である、請求項1の方法。
【請求項11】
該細胞が、Vero 細胞である、請求項8の方法。
【請求項12】
該ウイルスが、エンベロープを有するウイルスである、請求項1の方法。
【請求項13】
該ウイルスが、オルソミクソウイルスである、請求項12の方法。
【請求項14】
該ウイルスが、インフルエンザウイルスである、請求項13の方法。
【請求項15】
該不活化の間における非ウイルス性タンパク質の濃度が、350 μg/ml 未満である、請求項1の方法。
【請求項16】
該製造が、工業規模の量のものである、請求項1の方法。
【請求項17】
該不活化を、少なくとも 1l のウイルスを含有する液体について行う、請求項16の方法。
【請求項18】
以下の工程を含む、ウイルス抗原を含む調製物を製造するための方法:
a) 感染性ウイルスを含む液体を得る工程、
b) 該回収したウイルスを不活化する工程、
c) 該不活化したウイルスを洗浄剤で処理する工程、および
d) 該不活化したウイルスを精製し、それによりウイルス抗原を含む調製物を得る工程。
【請求項19】
該液体が、細胞培養物から得られる、請求項18の方法。
【請求項20】
該ウイルス抗原を安定化する工程をさらに含む、請求項19の方法。
【請求項21】
該ウイルス抗原を、有効量の Tween 80 の添加によって安定化する、請求項20の方法。
【請求項22】
Tween 80 が、約 0.125 % の量である、請求項21の方法。
【請求項23】
ウイルス抗原を含む調製物を製造することを含む、請求項1−22のいずれかの方法によって得られる調製物を対象へ投与することによって、対象においてウイルス感染に対する耐性を増大させる方法。

【公表番号】特表2010−537641(P2010−537641A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523124(P2010−523124)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際出願番号】PCT/US2008/074559
【国際公開番号】WO2009/029695
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(301043225)バクスター・ヘルスケア・ソシエテ・アノニム (9)
【氏名又は名称原語表記】Baxter Healthcare S.A.
【Fターム(参考)】