説明

ウエハ加工用テープ

【課題】ダイシング時の切削屑の発生と隣接する半導体チップ同士の固着を抑制し、ピッ
クアップミスを抑制することが可能な半導体ウエハ加工用テープを提供する。
【解決手段】基材フィルム12a上に粘着剤層12bが積層されたウエハ加工用粘着テー
プ10であって、粘着剤層12bの厚みが1um以上10um未満であり、80℃におけ
る粘着剤層12bのtanδ(A)が、0.05以上0.20以下であり、かつピックア
ップ工程に供される状態での25℃における粘着剤層12bのtanδ(B)が0.15
以上0.25以下あり、さらに、tanδ(A)とtanδ(B)との比であるtanδ
(A)/tanδ(B)が0.30以上0.77以下とであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハのダイシング工程、ピックアップ工程、ダイボンディング工程
等において使用されるウエハ加工用テープに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程では、半導体ウエハを半導体チップ単位に切断分離(ダイシング
)する工程、分離された半導体チップをピックアップする工程、さらにピックアップされ
たチップをリードフレームやパッケージ基板等に接着するダイボンディング(マウント)
工程が実施される。
【0003】
近年、上記半導体装置の製造工程に使用されるウエハ加工用テープとして、例えば、基
材フィルム上に粘着剤層が設けられたウエハ加工用テープや、粘着剤層の上にさらに接着
剤層が積層された構造を有するウエハ加工用テープ(ダイシングダイボンドフィルム:D
DF)が提案され、既に実用化されている。
【0004】
上記ダイシングダイボンドフィルムを使用した場合、ダイシング工程において、ダイシ
ングダイボンドフィルムから糸状屑が発生し、半導体チップやダイシングダイボンドフィ
ルムに付着し、ダイボンディング工程、ワイヤーボンド工程に於いて、パッケージ基板や
リードフレーム、又は半導体チップ上に付着し、作業性を著しく低下させるだけでなく、
半導体チップの信頼性も低下させる等の問題があった。このような問題を解決するため、
粘着剤層の厚みを大きくし、ダイシング時の切込み深さを粘着剤層で止め、基材フィルム
を切断しないことにより糸状屑の発生を防止するようにしたウエハ加工用テープが提案さ
れている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−35852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、半導体装置の製造工程に上述したようなウエハ加工用テープを使用した
場合、粘着剤層の厚みが大きいことから、ダイシング時に隣接する半導体チップの間に、
粘着剤層を多く含む切削屑が発生してしまい、この切削屑を介して隣接するチップ同士が
くっつき、半導体チップのピックアップ工程において半導体チップをピックアップできな
いという不具合や、隣接した複数の半導体チップを一緒にピックアップしてしまうという
不具合(ダブルダイ)が発生するという問題があった。特に、粘着剤層として放射線硬化
型粘着剤層を用いた場合、次工程の放射線照射工程において、半導体チップ同士がくっつ
いたまま、粘着剤の硬化が起こり、切断分離した半導体チップ同士が固着するため、より
ピックアップミスが発生していた。また特に、接着剤層の厚さが40μm以上のウエハ加
工用テープを使用したときに上述の不具合が多く発生していた。
【0007】
そこで、本発明は、以上のような問題点を解決するためになされたもので、ダイシング
時の切削屑の発生と隣接する半導体チップ同士の固着を抑制し、ピックアップ工程におけ
るダブルダイの発生や半導体チップをピックアップできないという不具合の発生を抑制す
ることが可能なウエハ加工用テープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係るウエハ加工用テープは、基材フィルム上に粘着
剤層が積層されたウエハ加工用粘着テープであって、前記粘着剤層の厚みが1um以上1
0um未満であり、80℃における粘着剤層のtanδ(A)が、0.05以上0.20
以下であり、かつピックアップ工程に供される状態での25℃における粘着剤層のtan
δ(B)が0.15以上0.25以下あり、さらに、前記tanδ(A)とtanδ(B
)との比であるtanδ(A)/tanδ(B)が0.30以上0.77以下とであるこ
とを特徴とする。
【0009】
上記ウエハ加工用テープにおいて、前記粘着剤層の前記基材フィルムとは反対側には、
接着剤層がさらに積層されていてもよい。
【0010】
上記ウエハ加工用テープにおいて、粘着剤層は、アルキル基の炭素数が2以上の(メタ
)アクリル酸アルキルエステルモノマーから導かれる構成単位と、2−ヒドロキシプロピ
ルアクリレートおよび/または2−ヒドロキシブチルアクリレートから導かれる構成単位
とを含み、該(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーから導かれる構成単位が5質
量%以上99.5質量%以下含まれる共重合体が、イソシアネート化合物により架橋され
たものとするとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のウエハ加工用テープを使用することにより、ダイシング時の切削屑の発生と隣
接する半導体チップ同士の固着を抑制し、ピックアップ工程におけるダブルダイの発生や
半導体チップをピックアップできないという不具合の発生を抑制することができる。特に
、上述の不具合が発生し易い、接着剤層の厚さが40μm以上の場合において、ダイシン
グ時の切削屑の発生と隣接する半導体チップ同士の固着を抑制し、ピックアップ工程にお
けるダブルダイの発生や半導体チップをピックアップできないという不具合の発生を抑制
することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係るウエハ加工用テープの構成を模式的に示す断面図である。
【図2】ウエハ加工用テープ上に半導体ウエハおよびウエハリングを貼り合せた状態を模式的に示す説明図である。
【図3】ダイシング工程を模式的に説明するための説明図である。
【図4】エキスパンド工程を模式的に説明するための説明図である。
【図5】ピックアップ工程を模式的に説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るウエハ加工用テープ10は、フィルム状の基材フ
ィルム12aとその上に形成された粘着剤層12bとからなる粘着フィルム12と、この
粘着フィルム12上に積層された接着剤層13とを有する。このように、ウエハ加工用テ
ープ10では、基材フィルム12aと粘着剤層12bと接着剤層13とがこの順に形成さ
れている。
【0014】
なお、粘着剤層12bは一層の粘着剤層により構成されていてもよいし、二層以上の粘
着剤層が積層されたもので構成されていてもよい。また、図1においては、接着剤層13
を保護するため、剥離ライナー11がウエハ加工用テープ10に設けられている様子が示
されている。
【0015】
粘着フィルム12及び接着剤層13は、使用工程や装置にあわせて予め所定形状に切断
(プリカット)されていてもよい。本発明のウエハ加工用テープ10は、半導体ウエハ1
枚分ごとに切断された形態と、これが複数形成された長尺のフィルムをロール状に巻き取
った形態とを含む。
【0016】
以下、本実施形態のウエハ加工用テープ10の各構成要素について詳細に説明する。
(接着剤層)
接着剤層13は、半導体ウエハ1等が貼り合わされてダイシングされた後、半導体チッ
プ2をピックアップする際に、粘着フィルム12から剥離して半導体チップ2に付着し、
半導体チップ2を基板やリードフレームに固定する際の接着剤として使用されるものであ
る。従って、接着剤層13は、ピックアップ工程において、個片化された半導体チップ2
に付着したままの状態で、粘着フィルム12から剥離することができる剥離性を有し、さ
らに、ダイボンディング工程において、半導体チップ2を基板やリードフレームに接着固
定するために、十分な接着信頼性を有するものである。
【0017】
接着剤層13は、接着剤を予めフィルム化したものであり、例えば、接着剤に使用され
る公知のポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド
樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリスルホン樹脂
、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルケトン樹
脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリ
アクリルアミド樹脂、メラミン樹脂等やその混合物を使用することができる。また、チッ
プやリードフレームに対する接着力を強化するために、シランカップリング剤もしくはチ
タンカップリング剤を添加剤として前記材料やその混合物に加えることが望ましい。
【0018】
接着剤層13の厚さは特に制限されるものではないが、通常5〜100μm程度が好ま
しい。また、接着剤層13は粘着フィルム12の粘着剤層12bの全面に積層してもよい
が、予め貼り合わされる半導体ウエハ1に応じた形状に切断された(プリカットされた)
接着剤層13を粘着剤層12bの一部に積層してもよい。半導体ウエハ1に応じた形状に
切断された接着剤層13を積層した場合、図2に示すように、半導体ウエハ1が貼り合わ
される部分には接着剤層13があり、ダイシング用のリングフレーム20が貼り合わされ
る部分には接着剤層13がなく粘着フィルム12の粘着剤層12bのみが存在する。一般
に、接着剤層13は被着体と剥離しにくいため、プリカットされた接着剤層13を使用す
ることで、リングフレーム20は粘着フィルム12に貼り合わすことができ、使用後のフ
ィルム剥離時にリングフレーム20への糊残りを生じにくいという効果が得られる。
【0019】
(粘着フィルム)
粘着フィルム12は、半導体ウエハ1をダイシングする際には半導体ウエハ1が剥離し
ないように十分な粘着力を有し、ダイシング後に半導体チップ2をピックアップする際に
は容易に接着剤層13から剥離できるよう低い粘着力を有するものである。本実施形態に
おいて、粘着フィルム12は、図1に示すように、基材フィルム12aに粘着剤層12b
を設けたものを使用した。
【0020】
粘着フィルム12のフィルム状の基材フィルム12aとしては、従来公知のものであれ
ば特に制限することなく使用することができる。尚、粘着剤層2が放射線硬化型の場合に
はX線、紫外線、電子線等の放射線を少なくとも一部透過するものを用いる。
【0021】
例えば、基材フィルム12aの材料として、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン
−プロピレン共重合体、ポリブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1、エチレン−酢
酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル
共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、アイオノマーなどのα−オレフィンの単独重
合体または共重合体あるいはこれらの混合物、ポリウレタン、スチレン−エチレン−ブテ
ン共重合体もしくはペンテン系共重合体、ポリアミド−ポリオール共重合体等の熱可塑性
エラストマー、およびこれらの混合物を列挙することができる。また、基材フィルム12
aはこれらの群から選ばれる2種以上の材料が混合されたものでもよく、これらが単層又
は複層化されたものでもよい。基材フィルム12aの厚さは、特に限定されるものではな
く、適宜に設定してよいが、50〜200μmが好ましい。
【0022】
粘着剤層には、放射線硬化型もしくは感圧型の粘着剤を用いる。熱硬化性の接着剤層を
積層するため、熱硬化型の粘着剤は用いない。
【0023】
粘着剤層12bの樹脂には、アルキル基の炭素数が2以上の(メタ)アクリル酸アルキ
ルエステルモノマーから導かれる構成単位と、2−ヒドロキシプロピルアクリレートおよ
び/または2−ヒドロキシブチルアクリレートから導かれる構成単位とを含み、該(メタ
)アクリル酸アルキルエステルモノマーから導かれる構成単位が5質量%以上99.5質
量%以下、好ましくは30質量%以上〜97質量%以下含まれる共重合体が、イソシアネ
ート化合物により架橋されたものを使用する。(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノ
マーから導かれる構成単位が多すぎると粘着剤の架橋点が少なくなり、十分な特性を得る
ことができず、少なすぎると粘着剤組成物を混合し、基材フィルムに塗布するまでのポッ
トライフが短くなり、本発明のウエハ加工用粘着テープを製造する場合に支障が生じる。
ここで、アルキル基の炭素数が2以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー
としては、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル
酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリ
ル酸2−メチルプロピル、(メタ)アクリル酸2−メチルブチル、(メタ)アクリル酸2
−エチルブチル、(メタ)アクリル酸2−メチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチ
ルヘキシル、(メタ)アクリル酸1,2−ジメチルブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル
などが挙げられ、その中でも特にアルキル基の炭素数が8以上のものが好ましい。
【0024】
また、架橋性の官能基含有モノマーとして、2−ヒドロキシプロピルアクリレートおよ
び/または2−ヒドロキシブチルアクリレートが用いられる。粘着剤を構成する共重合体
において、2−ヒドロキシプロピルアクリレートおよび/または2−ヒドロキシブチルア
クリレートから導かれる構成単位が、3質量%以上30質量%以下含まれていることが好
ましい。
【0025】
また、上記粘着剤を構成する共重合体の水酸基価は、10〜150mgKOH/gが好
ましく、15〜100mgKOH/gがさらに好ましい。
【0026】
本実施の形態においては、粘着剤を構成する共重合体は、イソシアネート化合物により
架橋されている。
イソシアネート化合物としては、特に制限がなく、例えば、4,4′−ジフェニルメタ
ンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4
′−ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4′−〔2,2−ビス(4−フェノキシ
フェニル)プロパン〕ジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、ヘキサメチレンジイ
ソシアネート、2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソフォロ
ンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4′−
ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシ
アネート等が挙げられる。具体的には、市販品として、コロネートL(商品名、日本ポリ
ウレタン社製)等を用いることができる。
【0027】
本発明において、粘着剤層12b中、イソシアネート化合物の含有量は、共重合体10
0質量部に対して、0.1〜12質量部が好ましく、さらに好ましくは0.5〜12質量
部である。
【0028】
粘着剤層12bは、上記ものに限定されることはなく、通常、粘着剤に使用される公
知の塩素化ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、
エポキシ樹脂、付加反応型オルガノポリシロキサン系樹脂、シリコンアクリレート樹脂、
エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アク
リル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、ポリイソプレンやスチレン・ブ
タジエン共重合体やその水素添加物等の各種エラストマー等やその混合物に、放射線重合
性化合物を適宜配合して粘着剤を調製してよい。また、各種界面活性剤や表面平滑化剤を
加えてもよい。
【0029】
放射線重合性化合物は、例えば光照射によって三次元網状化しうる分子内に光重合性炭
素−炭素二重結合を少なくとも2個以上有する低分子量化合物や、光重合性炭素−炭素二
重結合基を置換基に持つポリマーやオリゴマーが用いられる。具体的には、トリメチロー
ルプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリ
トールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート
、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレ
ート、1,6ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート
や、オリゴエステルアクリレート等、シリコンアクリレート等、アクリル酸や各種アクリ
ル酸エステル類の共重合体等が適用可能である。
【0030】
また、上記のようなアクリレート系化合物のほかに、ウレタンアクリレート系オリゴマ
ーを用いることもできる。ウレタンアクリレート系オリゴマーは、ポリエステル型または
ポリエーテル型などのポリオール化合物と、多価イソシアナート化合物(例えば、2,4
−トリレンジイソシアナート、2,6−トリレンジイソシアナート、1,3−キシリレン
ジイソシアナート、1,4−キシリレンジイソシアナート、ジフェニルメタン4,4−ジ
イソシアナートなど)を反応させて得られる末端イソシアナートウレタンプレポリマーに
、ヒドロキシル基を有するアクリレートあるいはメタクリレート(例えば、2−ヒドロキ
シエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピル
アクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリ
レート、ポリエチレングリコールメタクリレートなど)を反応させて得られる。なお、粘
着剤層12bには、上記の樹脂から選ばれる2種以上が混合されたものでもよい。
【0031】
なお、粘着剤層12bの樹脂には、放射線を粘着フィルム12に照射して粘着剤層12
bを硬化させる放射線重合性化合物の他、アクリル系粘着剤、光重合開始剤、硬化剤等を
適宜配合して粘着剤層12bを調製することもできる。
【0032】
光重合開始剤を使用する場合、例えばイソプロピルベンゾインエーテル、イソブチルベ
ンゾインエーテル、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、クロロチオキサントン、ドデシ
ルチオキサントン、ジメチルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチ
ルケタール、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシメチルフェ
ニルプロパン等を使用することができる。
【0033】
前記粘着剤層12bの樹脂は、その厚さが1μm以上10μm未満、好ましくは5μm
以上9μm以下である。また、80℃における粘着剤層12bのtanδ(A)が、0.
05以上0.20以下であり、かつピックアップ工程に供される状態での25℃における
粘着剤層12bのtanδ(B)が0.15以上0.25以下であり、さらに、tanδ
(A)とtanδ(B)との比であるtanδ(A)/tanδ(B)が0.30以上0
.77以下である。ここで、「ピックアップ工程に供される状態での」とは、放射線硬化
型の粘着フィルム12を用いる場合、放射線の照射により硬化した後の状態であることを
意味する。
【0034】
ダイシングブレードを使用して半導体ウエハを半導体チップ単位に切断するブレードダ
イシングでは、通常、ダイシングブレードによる切り込みは、粘着フィルム12まで達す
る。その為、粘着剤層の厚みが10μm以上になると、ダイシング工程において粘着剤を
含む切削屑多く発生する。また、80℃における粘着剤層のtanδ(A)が0.05未
満であると、粘着力が高すぎ、ダイシングブレードに粘着剤が絡みダイシング不良が起こ
りやすくなる。tanδ(A)が0.20を超えると、ダイシング工程においてチップ飛
びが生じてしまう。また、ピックアップ工程に供される状態での25℃における粘着剤層
12bのtanδ(B)が0.15未満であると、ピックアップ工程において、粘着剤層
12bと接着剤層13との間で剥離ができず、ピックアップミスが生じる。tanδ(B
)が0.25を超えると、ピックアップ時に粘着剤が硬すぎ、ピン突上げ時のピン応答性
が悪く、ピックアップミスが生じる。また、tanδ(A)/tanδ(B)が0.30
未満であると、ダイシング工程で生じた粘着剤を含む切削屑が、隣接するチップ間で固ま
ってしまうため、ピックアップミスが生じる。tanδ(A)/tanδ(B)が0.7
7を超えると、発生した切削屑が隣接するチップ間で融着してしまい、ピックアップミス
が生じる。
【0035】
tanδ(A)およびtanδ(B)について、その値を上記範囲とするとともに、t
anδ(A)/tanδ(B)が上記範囲に含まれるように調整するためには、下記のよ
うにするとよい。tanδ(A)を上げるためには、例えば、共重合体組成物中のブチル
アクリレートから導かれる構成単位を増やし、2−ヒドロキシプロピルアクリレートから
導かれる構成単位を減らすとよく、tanδ(A)を下げるためには、その逆を行うとよ
い。また、放射線硬化型の場合には、ブチルアクリレートから導かれる構成単位とアクリ
ル酸から導かれる構成単位を増やし、2−ヒドロキシプロピルアクリレートから導かれる
構成単位を減らすとよく、tanδ(A)を下げるためには、その逆を行うとよい。ta
nδ(B)を上げるためには、例えば、架橋剤を増やす、あるいはアクリル酸から導かれ
る構成単位を減らすとよく、tanδ(B)を下げるためには、その逆を行うとよい。ま
た、放射線硬化型の場合は、光開始剤等の反応剤を増やすとtanδ(B)は上がる。さ
らには、放射線を照射する際に、照度を大きく、時間を長くすることによりtanδ(B
)を上げることもできる。
【0036】
(ウエハ加工用テープの使用方法)
半導体装置の製造工程の中で、ウエハ加工用テープ10は、以下のように使用される。
図2においては、ウエハ加工用テープ10に、半導体ウエハ1とリングフレーム20とが
貼り合わされた様子が示されている。まず、図2に示すように、粘着フィルム12の粘着
剤層12bをリングフレーム20に貼り付け、半導体ウエハ1を接着剤層13に貼り合わ
せる。これらの貼り付け順序に制限はなく、半導体ウエハ1を接着剤層13に貼り合わせ
た後に粘着フィルム12の粘着剤層12bをリングフレーム20に貼り付けてもよい。ま
た、粘着フィルム12のリングフレーム20への貼り付けと、半導体ウエハ1の接着剤層
13への貼り合わせとを、同時に行っても良い。
【0037】
そして、図3に示すように、半導体ウエハ1のダイシング工程を実施し、次いで、粘着
フィルム12が放射線線硬化型である場合には、粘着フィルム12に放射線を照射する工
程を実施する。具体的には、ダイシングブレード21によって半導体ウエハ1と接着剤層
13とをダイシングするため、吸着ステージ22により、ウエハ加工用テープ10を粘着
フィルム12の下面側から吸着支持する。そして、ダイシングブレード21によって半導
体ウエハ1と接着剤層13を半導体チップ2単位に切断して個片化する。その後、粘着フ
ィルム12が放射線硬化型である場合には、粘着フィルム12の下面側から放射線を照射
して、粘着剤層12bを硬化させてその粘着力を低下させる。粘着剤層12bが二層以上
の粘着剤層により積層されて構成されている場合、各粘着剤層の内の一層又は全層を放射
線照射によって硬化させて、各粘着剤層の内の一層又は全層の粘着力を低下させても良い

【0038】
その後、図4に示すように、ダイシングされた半導体チップ2及び接着剤層13を保持
した粘着フィルム12をリングフレーム20の径方向と周方向に引き伸ばすエキスパンド
工程を実施する。具体的には、ダイシングされた複数の半導体チップ2及び接着剤層13
を保持した状態の粘着フィルム12に対して、中空円柱形状の突き上げ部材30を、粘着
フィルム12の下面側から上昇させ、粘着フィルム12をリングフレーム20の径方向と
周方向に引き伸ばす。エキスパンド工程により、半導体チップ2同士の間隔を広げ、CC
Dカメラ等による半導体チップ2の認識性を高めるとともに、ピックアップの際に隣接す
る半導体チップ2同士が接触することによって生じる半導体チップ2同士の再接着を防止
することができる。
【0039】
エキスパンド工程を実施した後、図5に示すように、粘着フィルム12をエキスパンド
した状態のままで、半導体チップ2をピックアップするピックアップ工程を実施する。具
体的には、粘着フィルム12の下面側から半導体チップ2をピン31によって突き上げる
とともに、粘着フィルム12の上面側から吸着冶具32で半導体チップ2を吸着すること
で、個片化された半導体チップ2を接着剤層13とともにピックアップする。
【0040】
そして、ピックアップ工程を実施した後、ダイボンディング工程を実施する。具体的に
は、ピックアップ工程で半導体チップ2とともにピックアップされた接着剤層13により
、半導体チップ2をリードフレームやパッケージ基板等に接着する。
(実施例)
【0041】
次に、本発明の実施例について説明する。尚、本発明はこれら実施例に限定されるもの
ではない。
【0042】
[実施例1〜3および比較例1〜3]
下記のように、表3に示すような実施例1〜3、比較例1〜3の各ウエハ加工用テープ
を作製し、評価試験をおこなった。
【0043】
(基材フィルム)
基材フィルム1A〜1Bとして、下記の表1に示す厚さ70〜100μmのフィルム状
の基材フィルムを使用した。
【0044】
【表1】

【0045】
(粘着剤層組成物の調製)
<粘着剤組成物2A>
アクリル酸2−エチルヘキシルから導かれる構成単位が77質量%、2−ヒドロキシプ
ロピルアクリレートから導かれる構成単位を23質量%含む共重合体100質量部に対し
て、架橋剤としてコロネートL(日本ポリウレタン社製)を10質量部含む粘着剤組成物
2Aを調製した。
【0046】
<粘着剤組成物2B>
粘着剤組成物2Aの組成において、架橋剤コロネートLを12質量部とし、粘着剤組成物
2Bを得た。
【0047】
<粘着剤組成物2C>
ブチルアクリレートから導かれる構成単位が65質量%、2−ヒドロキシプロピルアク
リレートから導かれる構成単位を25質量%、アクリル酸から導かれる構成単位としてト
リメチロールプロパントリアクリレート10質量%を含む共重合体100質量部に対して
、架橋剤としてコロネートL(日本ポリウレタン社製)を6質量部含む粘着剤組成物2C
を調製し、光重合開始剤としてα−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを1質量部
含む、粘着剤組成物2Cを得た。
【0048】
<粘着剤組成物2D>
ブチルアクリレートから導かれる構成単位が65質量%、2−ヒドロキシエチルアクリ
レートから導かれる構成単位を25質量%、アクリル酸から導かれる構成単位としてトリ
メチロールプロパントリアクリレートを10質量%を含む共重合体100質量部に対して
、架橋剤としてコロネートL(日本ポリウレタン社製)を3質量部含む粘着剤組成物2C
を調製し、光重合開始剤としてα−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを1質量部
含む、粘着剤組成物2Dを得た。
【0049】
<粘着剤組成物2E>
粘着剤組成物2Dの組成において、架橋剤コロネートLを2質量部とし、粘着剤組成物
2Eを得た。
【0050】
上記粘着剤層組成物2A〜2Eを、基材フィルム1A〜1Bに、乾燥膜厚が6〜10μ
mとなるように塗布し、110℃で3分間乾燥させ、粘着フィルム12を作製した。
【0051】
(接着剤層組成物の調製)
<接着剤層組成物3A>
接着剤層組成物3Aは、エポキシーアクリル系接着剤組成物である。エポキシ樹脂55
質量部、フェノール樹脂45質量部、シランカップリング剤(1)1.7質量部、シラン
カップリング剤(2)3.2質量部、フィラー32質量部からなる組成物に、シクロヘキ
サノンを加えて攪拌混合し、更にビーズミルを用いて90分混練した。これにグリシジル
アクリレート又はグリシジルメタクリレート3重量%を含むアクリルゴムHTR−860
P−3(ナガセケムテックス(株)製商品名、重量平均分子量80万)を280質量部、
及び硬化促進剤0.5質量部加え、攪拌混合し、真空脱気し、接着剤層組成物3Aを得た
。尚、エポキシ樹脂としてYDCN−703(東都化成(株)製商品名、クレゾールノボ
ラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量210、分子量1200、軟化点80℃)を用い、
フェノール樹脂としてミレックスXLC−LL(三井化学(株)製商品名、下記式(1)
で表されるフェノール樹脂、水酸基当量175、吸水率1.8%、350℃における加熱
重量減少率4%)を用いた。また、シランカップリング剤(1)としてNUC A−18
9(日本ユニカー(株)製商品名、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン)を用い
、シランカップリング剤(2)としてNUC A−1160(日本ユニカー(株)製商品
名、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン)を用いた。また、フィラーとしてアエロ
ジルR972(シリカ表面にジメチルジクロロシランを被覆し、400℃の反応器中で加
水分解させた、メチル基などの有機基を表面に有するフィラー、日本アエロジル(株)製
商品名、シリカ、平均粒径0.016μm)を用いた。また、硬化促進剤としてキュアゾ
ール2PZ−CN(四国化成(株)製商品名、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾ
ール)を用いた。
【0052】
【化1】

【0053】
上記接着剤層組成物3Aを、厚さ25μmの離型処理したポリエチレンテレフタレート
(PET)フィルム上に塗布し、140℃で5分間乾燥して、膜厚が60μmのBステー
ジ状態の塗膜を形成し、接着フィルムを作製した。
【0054】
作製した粘着フィルム12及び接着フィルムを、それぞれ直径370mm、320mm
の円形にカットし、粘着フィルム12の粘着剤層12bと接着フィルムの接着剤層13と
を貼り合わせた。最後に、接着フィルムのPETフィルムを接着剤層13から剥離し、下
記の表2に示す実施例1〜3に係るウエハ加工用テープ10、比較例1〜3に係るウエハ
加工用テープを得た。
【0055】
【表2】

【0056】
(特性試験)
上記のようにして作成した粘着フィルム12について、それぞれ以下に記載のとおり試
験を行った。試験結果を合わせて表2に示した。
<tanδ>
作成した実施例、比較例に係るウエハ加工用テープの粘着剤層12bについて、粘弾性
計(レオメトリックサイエンス社製、商品名:ARES)を用いて、0℃から測定を開始
し昇温速度5℃/分、周波数1Hzで損失正接を測定し、80℃に達した時点での損失正
接をそれぞれの80℃におけるtanδ(A)とした。また、作成した実施例、比較例に
係るウエハ加工用テープの粘着剤層12bについて、紫外線硬化型の粘着フィルムの場合
はこれに紫外線を照射したものを試験片とし、粘弾性計(レオメトリックサイエンス社製
、商品名:ARES)を用いて、0℃から測定を開始し昇温速度5℃/分、周波数1Hz
で、損失正接を測定し、25℃に達した時点での損失正接をそれぞれピックアップ工程に
供される状態での25℃におけるtanδ(B)とした。さらにtanδ(A)とtan
δ(B)の比A/Bを算出した。
【0057】
<ピックアップ成功率>
作成したウエハ加工用テープを80℃×10秒でウエハへ加熱貼合した後、10mm×
10mmにダイシングした。その後、の粘着フィルムの場合はそのまま、紫外線硬化型の
粘着フィルムの場合は粘着剤層に紫外線を空冷式高圧水銀灯(80W/cm、照射距離1
0cm)により50〜100mJ/cm 2となるよう 照射した後、ダイボンダー装置(
NECマシナリー製、商品名CPS−100FM)によるピックアップ試験を行い、ピッ
クアップチップ100個でのピックアップ成功率を求めた。
【0058】
表2からわかるように、本発明の実施例1〜3では、ピックアップ成功率が100%で
あった。これらの結果から、本発明のウエハ貼着用粘着テープは、ダイシングの際にはダ
イシングテープとして使用でき、マウントの際には接着剤層を容易に剥離して使用でき、
ダイシング時の切削屑の発生と隣接する半導体チップ同士の固着を抑制し、ピックアップ
工程におけるダブルダイの発生や半導体チップをピックアップできないという不具合の発
生を抑制できることがわかる。
【0059】
比較例1をみると、80℃におけるtanδ(A)が0.26、ピックアップ工程時の
tanδ(B)が0.32、tanδ比が0.8であり、ピックアップ工程に供される状
態での25℃における0%である。ダイシング時、ピックアップ時のtanδが大きく切
削性を悪化させ、ダイシング時に発生した切削屑が隣接する半導体チップ同士を固着させ
たため、ピックアップ性を低下させた。
【0060】
比較例2をみると、80℃におけるtanδが0.21、ピックアップ工程に供される
状態での25℃におけるtanδが0.25、tanδ比が0.8であり、ピックアップ
性は35%である。ピックアップ時のtanδが大きく、ダイシング時に発生した切削屑
が隣接する半導体チップ同士を固着させたため、ピックアップ性を低下させた。
【0061】
比較例3をみると、80℃におけるtanδが0.02、ピックアップ工程に供される
状態での25℃におけるtanδが0.22、tanδ比が0.1であり、ピックアップ
性は35%である。ダイシング時のtanδが小さく切削性を悪化させ、ダイシング時に
発生した切削屑が隣接する半導体チップ同士を固着させたため、ピックアップ性を低下さ
せた。
【0062】
以上のことより、本実施形態に係るウエハ加工用テープ10を使用することにより、ピ
ックアップ工程におけるダブルダイの発生や半導体チップをピックアップできないという
不具合の発生を抑制できる。
【符号の説明】
【0063】
1:半導体ウエハ
2:半導体チップ
10:ウエハ加工用テープ
12a:基材フィルム
12b:粘着剤層
12:粘着フィルム
13:接着剤層
20:リングフレーム
21:ダイシングブレード
22:吸着ステージ
30:突き上げ部材
31:ピン
32:吸着冶具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム上に粘着剤層が積層されたウエハ加工用粘着テープであって、前記粘着剤
層の厚みが1um以上10um未満であり、80℃における前記粘着剤層のtanδ(A
)が、0.05以上0.20以下であり、かつピックアップ工程に供される状態での25
℃における前記粘着剤層のtanδ(B)が0.15以上0.25以下あり、さらに、前
記tanδ(A)とtanδ(B)との比であるtanδ(A)/tanδ(B)が0.
30以上0.77以下とであることを特徴とするウエハ加工用粘着テープ。
【請求項2】
前記粘着剤層の前記基材フィルムとは反対側には、接着剤層がさらに積層されているこ
とを特徴とする請求項1に記載のウエハ加工用粘着テープ。
【請求項3】
前記粘着剤層は、アルキル基の炭素数が2以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステル
モノマーから導かれる構成単位と、2−ヒドロキシプロピルアクリレートおよび/または
2−ヒドロキシブチルアクリレートから導かれる構成単位とを含み、前記(メタ)アクリ
ル酸アルキルエステルモノマーから導かれる構成単位が5質量%以上99.5質量%以下
含まれる共重合体が、イソシアネート化合物により架橋されたものであることを特徴とす
る、請求項1または請求項2のいずれか1項に記載のウエハ加工用粘着テープ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−211129(P2011−211129A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80024(P2010−80024)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】