説明

ウッド型ゴルフクラブヘッドおよびウッド型ゴルフクラブ

【課題】打球音への悪影響を抑制しつつ重心位置を変更可能なウッド型ゴルフクラブヘッドおよびウッド型ゴルフクラブを提供する。
【解決手段】ヘッド1は、打球面を有するフェース部11と、フェース部11に接続されたソール・サイド部14と、フェース部11に接続され、ソール・サイド部14の上部を覆うクラウン部と、ソール・サイド部14に形成された案内溝20と、案内溝20に沿って移動可能なように案内溝20に取り付けられた重量体とを備えている。そして、ヘッド1の内部には、ソール・サイド部14を構成する壁面から突出し、案内溝20を構成する壁面に接続されたフロントリブ71、トゥリブ72、バックリブ73、ソールリブ74およびヒールリブ75が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウッド型ゴルフクラブヘッドおよびウッド型ゴルフクラブに関し、より特定的には、打球音への悪影響を抑制しつつ重心位置を変更可能なウッド型ゴルフクラブヘッドおよびウッド型ゴルフクラブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、ウッド型のゴルフクラブは、使用者のプレースタイル等に合わせて種々の特性を有するものが提供されている。しかし、これらの一般的なゴルフクラブが備えるゴルフクラブヘッドにおいては、購入後においてその特性を調整することが困難であり、購入後に使用者が所望の特性に調整可能なゴルフクラブヘッドが求められていた。
【0003】
これに対し、ゴルフクラブヘッドのソール部やサイド部(以下、本願においては、ソール部とサイド部との境界が不明瞭なものを含めて「ソール・サイド部」と称する)に円弧状の溝を形成し、当該溝に沿って移動可能なように重量体を設置したゴルフクラブヘッドが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。このようなゴルフクラブヘッドによれば、使用者は当該重量体の位置を変更することにより、購入後においてもゴルフクラブヘッドの重心位置を変更し、ゴルフクラブヘッドの特性を所望の特性に調整することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−194454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者による検討の結果、上述のようなソール・サイド部への溝の形成は、打球音の心地よさに悪影響を与えることが明らかとなった。そこで、本発明の目的は、打球音への悪影響を抑制しつつ重心位置を変更可能なウッド型ゴルフクラブヘッドおよびウッド型ゴルフクラブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に従ったウッド型ゴルフクラブヘッドは、打球面を有するフェース部と、フェース部に接続されたソール・サイド部と、フェース部に接続され、ソール・サイド部の上部を覆うクラウン部と、ソール・サイド部に形成された案内溝と、案内溝に沿って移動可能なように案内溝に取り付けられた重量体とを備えた中空形状のウッド型ゴルフクラブヘッドである。そして、当該ウッド型ゴルフクラブヘッドの内部には、ソール・サイド部を構成する壁面から突出し、案内溝を構成する壁面に接続されたリブが形成されている。
【0007】
上記ウッド型ゴルフクラブヘッドにおいては、上記リブは、案内溝を構成する壁面と、フェース部を構成する壁面、またはソール・サイド部とクラウン部との境界を構成する壁面とを接続するように形成されていてもよい。
【0008】
また、上記ウッド型ゴルフクラブヘッドにおいては、上記リブは、延在方向において凹形状を有していてもよい。
【0009】
また、上記ウッド型ゴルフクラブヘッドにおいては、上記リブは、案内溝を構成する壁面との接続部において、案内溝を構成する壁面と同じ高さを有していてもよい。
【0010】
また、上記ウッド型ゴルフクラブヘッドにおいては、上記リブは、案内溝の長手方向の端部を構成する壁面に接続されていてもよい。
【0011】
また、上記ウッド型ゴルフクラブヘッドにおいては、上記リブは複数個形成されていてもよい。
【0012】
本発明に従ったウッド型ゴルフクラブは、上記本発明のウッド型ゴルフクラブヘッドを備えている。
【発明の効果】
【0013】
上記本発明のウッド型ゴルフクラブヘッドにおいては、ソール・サイド部に案内溝が形成されるとともに、当該案内溝に沿って移動可能なように重量体が取り付けられていることにより、重心位置が変更可能となっている。そして、当該ゴルフクラブヘッドの内部において、ソール・サイド部を構成する壁面から突出し、案内溝を構成する壁面に接続されたリブが形成されていることにより、案内溝の形成に伴う打球音への悪影響を抑制することができる。その結果、本発明のウッド型ゴルフクラブヘッドによれば、打球音への悪影響を抑制しつつ重心位置を変更可能なウッド型ゴルフクラブヘッドを提供することができる。
【0014】
また、本発明のウッド型ゴルフクラブは、上述のようなウッド型ゴルフクラブヘッドを備えている。そのため、本発明のウッド型ゴルフクラブによれば、打球音への悪影響を抑制しつつ重心位置を変更可能なウッド型ゴルフクラブを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ウッド型ゴルフクラブの構成を示す概略図である。
【図2】図1のウッド型ゴルフクラブのヘッドをクラウン部側から見た概略平面図である。
【図3】図1のウッド型ゴルフクラブのヘッドをフェース部側から見た概略平面図である。
【図4】図1のウッド型ゴルフクラブのヘッドをソール部側から見た概略平面図である。
【図5】図1のウッド型ゴルフクラブのヘッドの内部の構造を示す概略図である。
【図6】図1のウッド型ゴルフクラブのヘッドの内部の構造を示す概略図である。
【図7】トゥリブの形状を示す概略図である。
【図8】バックリブの形状を示す概略図である。
【図9】トゥリブ付近においてヘッドを切断した状態を示す概略図である。
【図10】実施の形態2におけるウッド型ゴルフクラブのヘッドの内部の構造を示す概略図である。
【図11】実施の形態2におけるウッド型ゴルフクラブのヘッドの内部の構造を示す概略図である。
【図12】比較例Aの打球音の分析結果を示す図である。
【図13】実施例Dの打球音の分析結果を示す図である。
【図14】実施例Cの打球音の分析結果を示す図である。
【図15】実施例Bの打球音の分析結果を示す図である。
【図16】実施例Aの打球音の分析結果を示す図である。
【図17】実施例2における解析の対象としたウッド型ゴルフクラブのヘッドの内部の構造を示す概略図である。
【図18】実施例2における解析結果を示す図である。
【図19】好ましいリブの形状を示す図である。
【図20】第1の変形例におけるヘッドの構造を示す概略図である。
【図21】第2の変形例におけるヘッドの構造を示す概略図である。
【図22】第3の変形例におけるヘッドの構造を示す概略図である。
【図23】第4の変形例におけるヘッドの構造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0017】
(実施の形態1)
まず、本発明の一実施の形態である実施の形態1について説明する。図1を参照して、本実施の形態におけるウッド型ゴルフクラブであるゴルフクラブ9は、ウッド型ゴルフクラブヘッドとしてのヘッド1と、ヘッド1のホーゼル部13に接続されたシャフト2と、シャフト2においてヘッド1に接続された側とは反対側の端部に配置されたグリップ部3とを備えている。そして、ゴルフクラブ9は、以下に説明する本実施の形態におけるヘッド1を備えていることにより、打球音への悪影響を抑制しつつ重心位置の変更による弾道の調整が可能なウッド型ゴルフクラブとなっている。
【0018】
図2〜図4を参照して、ヘッド1は、打球面11Aを有するフェース部11と、フェース部11に接続され、案内溝20が形成されたソール・サイド部14と、フェース部11に接続され、ソール・サイド部14の上部を覆うように配置されたクラウン部12と、シャフト2(図1参照)に接続されるべきホーゼル部13と、案内溝20に沿って移動可能なように案内溝20に取り付けられた重量体41とを備えている。さらに、案内溝20は、バック側からフェース側に向けて延在する1対の主溝21と、当該1対の主溝21を接続する接続溝22とを含んでいる。接続溝22には、バック側に向けた開口であるスロット23が形成されており、当該スロット23から重量体41を案内溝20に入れることが可能となっている。また、スロット23には、スロット23を閉じるスロットキャップ31が取り付けられている。さらに、接続溝22は、1対の主溝21が配置される側とは反対側に向けて凸形状を有している。そして、1対の主溝21のそれぞれの長手方向における曲率は、接続溝22の曲率よりも小さくなっている。
【0019】
また、重量体41は、ねじ42により案内溝20に取り付けられている。そして、ねじ42を緩めることにより、重量体41を案内溝20に沿って移動させることが可能となっている。より具体的には、重量体41には、重量体41を貫通する貫通穴が形成されており、かつ当該貫通穴にはねじ42に螺合可能なねじ溝が形成されている。そして、ねじ42を締め付けることにより、ねじ42の一部が案内溝20の壁面に接触し、重量体41が案内溝20に対して固定されている。一方、ねじ42を緩め、ねじ42と案内溝20の壁面とが離れることにより、重量体41は案内溝20に対して移動可能となる。そして、重量体41を案内溝20に沿って所望の位置にまで移動させ、再度ねじ42を締め付けることにより、当該位置に重量体41を固定することができる。このような構成により、本実施の形態におけるヘッド1の重心位置を調整することができる。
【0020】
次に、本実施の形態におけるヘッド1の内部の構造について、図5および図6を参照して説明する。なお、図5および図6は、ヘッド1のクラウン部12を除去することにより、ヘッド1の内部構造を表した図である。また、図5はバック側上方のヒール側寄りからヘッド1の内部を見た状態を示す図であり、図6はクラウン部の直上からヘッド1の内部を見た状態を示す図である。
【0021】
図5および図6を参照して、ヘッド1の内部には、ソール・サイド部14を構成する壁面から突出し、案内溝20を構成する壁面に接続されたリブが形成されている。より具体的には、ヘッド1の内部には、フロントリブ71と、トゥリブ72と、バックリブ73と、ソールリブ74と、ヒールリブ75とが配置されている。フロントリブ71は、案内溝20の長手方向の端部(主溝21の、接続溝22に接続される側とは反対側の端部)を構成する壁面のそれぞれと、フェース部11を構成する壁面とを接続するように、一対形成されている。また、トゥリブ72は、案内溝20のトゥ側の領域(トゥ側に配置された主溝21)と、当該領域に対向するソール・サイド部14とクラウン部12との境界とを接続するように配置されている。さらに、バックリブ73は、案内溝20のバック側の領域(接続溝22)と、当該領域に対向するソール・サイド部14とクラウン部12との境界とを接続するように配置されている。また、ヒールリブ75は、案内溝20のヒール側の領域(ヒール側に配置された主溝21)と、当該領域に対向するソール・サイド部14とクラウン部12との境界とを接続するように配置されている。そして、ソールリブ74は、案内溝20のトゥ側の領域(トゥ側に配置された主溝21)とヒール側の領域(ヒール側に配置された主溝21)とを接続するように形成されている。
【0022】
本実施の形態のヘッド1においては、ソール・サイド部14に案内溝20が形成されるとともに、案内溝20に沿って移動可能なように重量体41が取り付けられていることにより、重心位置が変更可能となっている。そして、ヘッド1の内部において、ソール・サイド部14を構成する壁面から突出し、案内溝20を構成する壁面に接続されたリブが形成されていることにより、案内溝20の形成に伴う打球音への悪影響が抑制されている。その結果、本実施の形態におけるヘッド1は、打球音への悪影響を抑制しつつ重心位置を変更可能なウッド型ゴルフクラブヘッドとなっている。
【0023】
ここで、フロントリブ71、トゥリブ72、バックリブ73およびヒールリブ75のそれぞれは、ソール・サイド部14を構成する壁面から突出し、案内溝20を構成する壁面に接続されるように形成されることにより、案内溝20の形成に伴う打球音への悪影響の抑制について一定の効果が得られるが、上述のように案内溝20を構成する壁面と、フェース部11を構成する壁面、またはソール・サイド部14とクラウン部12との境界を構成する壁面とを接続するように形成されていることが好ましい。これにより、案内溝20の形成に伴う打球音への悪影響を一層有効に抑制することができる。
【0024】
また、フロントリブ71、トゥリブ72、バックリブ73、ソールリブ74およびヒールリブ75のそれぞれは、ソール・サイド部14を構成する壁面から、当該壁面に交差する方向に突出する板状の形状を有していることにより、リブの形成に伴うヘッド1の質量の増加を抑制することができるが、上記リブは、図5に示すように、延在方向において凹形状を有していることが好ましい。より具体的には、図7に示すトゥリブ72やおよび図8に示すバックリブ73のように、リブにおいてヘッド1の内壁に沿って形成される縁部(たとえばトゥリブ縁部72Cやバックリブ縁部73C)の両端を結ぶ直線αを想定すると、リブにおいて縁部を接続するように形成される稜線部(たとえばトゥリブ稜線部72Dやバックリブ稜線部73D)は、直線αに対して縁部側に入り込むように湾曲して形成されている。これにより、案内溝20の形成に伴う打球音への悪影響を抑制するという機能を十分に維持しつつ、一層の軽量化を図ることが可能となる。また、このようにすることにより、リブ自身が振動することによる打球音への悪影響を抑制することができる。
【0025】
また、フロントリブ71、トゥリブ72、ソールリブ74およびヒールリブ75のそれぞれは、案内溝20を構成する壁面と接続されていれば、案内溝20の形成に伴う打球音への悪影響の抑制について一定の効果が得られるが、図5および図9に示すように、案内溝20を構成する壁面との接続部において、案内溝20を構成する壁面と同じ高さを有していることが好ましい。これにより、案内溝20の形成に伴う打球音への悪影響を一層有効に抑制するとともに、リブの形成に伴うヘッド1の質量の増加を抑制することができる。
【0026】
一方、上述のように、接続溝22には、バック側に向けた開口であるスロット23が形成されている。このスロット23には、スロット23を閉じるスロットキャップ31が取り付けられているものの、スロットキャップ31の着脱を容易にする観点から、スロットキャップ31を構成する材料としては樹脂などの素材が採用され、スロットキャップ31の剛性はヘッド1に比べて大幅に小さくなる場合が多い。この場合、スロット23が形成された領域は、実質的に空間として機能するため、当該領域の剛性を著しく低下させる。そのため、図5および図6に示すように、スロット23が形成された領域に対応する壁面に沿って上記バックリブ73が形成されるとともに、当該バックリブ73は、案内溝20を幅方向に横断するように配置されることが好ましい。これにより、案内溝20およびスロット23の形成に伴う打球音への悪影響を一層有効に抑制することができる。
【0027】
(実施の形態2)
次に、本発明の他の実施の形態である実施の形態2について説明する。実施の形態2におけるウッド型ゴルフクラブおよびウッド型ゴルフクラブヘッドは、基本的には実施の形態1の場合と同様の構成を有し、同様の効果を奏する。しかし、実施の形態2におけるウッド型ゴルフクラブおよびウッド型ゴルフクラブヘッドは、トゥリブ72およびヒールリブ75の構成において、実施の形態1の場合とは異なっている。
【0028】
具体的には、図10および図11を参照して、実施の形態2におけるヘッド1の内部には、複数の(本実施の形態では2つの)トゥリブ72と、複数の(本実施の形態では2つの)ヒールリブ75とが形成されている。すなわち、トゥリブ72は、第1トゥリブ72Aと、第1トゥリブ72Aから見てバック側に配置された第2トゥリブ72Bとを含んでいる。また、ヒールリブ75は、第1ヒールリブ75Aと、第1ヒールリブ75Aから見てバック側に配置された第2ヒールリブ75Bとを含んでいる。このように、トゥリブ72およびヒールリブ75を、案内溝20の延在方向において複数配置することにより、重量体41の位置によらず、案内溝20の形成に伴う打球音への悪影響を有効に抑制することができる。
【実施例1】
【0029】
リブの配置による打球音への影響を調査する実験を行なった。実験の手順は以下の通りである。まず、図5〜図9に基づいて説明した上記実施の形態1と同様のヘッド1において、フロントリブ71、トゥリブ72、バックリブ73、ソールリブ74およびヒールリブ75をいずれも形成しないヘッドを準備した(比較例A)。一方、本発明のヘッドの一例として、比較例Aのヘッドにバックリブ73を形成したもの(実施例D)、実施例Dのヘッドにソールリブ74を追加したもの(実施例C)、実施例Cのヘッドにトゥリブ72およびヒールリブ75を追加したもの(実施例B)および実施例Bのヘッドにフロントリブ71を追加することにより上記実施の形態1と同様の構造としたもの(実施例A)についても準備した。そして、上記実施例A〜Dおよび比較例Aのヘッド1の打球音を実測した。なお、本実験においては、案内溝20に重量体41を取り付けることなく打球音の測定を行なった。
【0030】
次に、図12〜図16を参照して実験結果を説明する。ここで、図12〜図16においては、横軸は打球音の周波数、縦軸は音圧を示している。また、図12〜図16において、周波数2000〜3000Hzの領域、特に低周波数側に、他の領域に比べて突出したピークが存在する場合、打球音が良好ではないことが分かっている。
【0031】
図12を参照して、リブが形成されなかった比較例Aの場合、周波数2000〜3000Hzの低周波側の領域に、他の領域に比べて突出したピークが確認される。すなわち、比較例Aの打球音は好ましいとはいえない。これに対し、図13〜図15を参照して、比較例Aのヘッドにリブを追加した実施例B、CおよびDの場合、周波数2000〜3000Hzの領域に、他の領域に比べて突出したピークが確認されるものの、当該ピークの位置が高周波側にシフトしている。このことから、ソール・サイド部を構成する壁面から突出し、案内溝を構成する壁面に接続されたリブを形成することにより、案内溝の形成に伴う打球音への悪影響を抑制できるといえる。また、図16を参照して、さらにリブを追加することにより実施の形態1と同様にリブが配置された実施例Aでは、実施例B〜Dと比較して、周波数2000〜3000Hzの領域におけるピークが抑制されており、案内溝の形成に伴う打球音への悪影響を抑制する効果が特に高いといえる。
【0032】
また、上記実施例A〜Dおよび比較例Aのヘッドについて、複数の試打者による試打を実施し、当該試打者による打球音の評価を確認する実験を行なった。実験結果を表1および表2に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
表1は日本において実施した日本人による打球音の評価結果を示している。また、表2は、米国において実施した米国人による打球音の評価結果を示している。表1および表2において、打球音が特に良好であると評価された場合をA、打球音が良好であると評価された場合をB、打球音が良好ではないと評価された場合をC、打球音が明らかに悪いと評価された場合をDと表示している。
【0036】
表1および表2を参照して、リブを形成しなかった比較例A(本発明の範囲外)については、全ての試打者が、打球音が明らかに悪いと評価している。これに対し、比較例Aのヘッドにリブを追加した実施例B、CおよびDについては、全ての試打者が比較例Aに比べて打球音が改善したと判断している。特に、日本人に比べてヘッドスピードの速い米国人の評価においては、打球音の改善がより明確に体感されている。さらに、実施の形態1と同様にリブを配置した実施例Aについては、全ての試打者が、打球音が特に良好であると評価している。以上の結果より、ソール・サイド部を構成する壁面から突出し、案内溝を構成する壁面に接続されたリブを形成することにより、案内溝の形成に伴う打球音への悪影響を抑制されること、および実施の形態1と同様にリブを配置することにより、さらに打球音が改善することが確認される。また、本発明の効果は、ヘッドスピードの高い使用者において、より明確に体感されるといえる。
【実施例2】
【0037】
リブの最適な形状を調査する実験を行なった。実験の手順は以下の通りである。図17に示すように、上記実施の形態1の場合と同様の位置に配置されたバックリブが形成されたヘッドにおいて、当該リブの一部を除去して軽量化する場合を想定し、打球音の改善に重要な部分を残存させる観点から好ましいリブの形状を導出するシミュレーションを実施した。
【0038】
具体的には、図17の形状を有するリブにおいて、打球音の1次モード(周波数2000〜3000Hzの領域)の音圧低減に対する寄与の小さい領域から順に除去していき、それぞれ40%、60%および80%の質量に相当する領域を除去する場合に、残存させるべき領域を算出した。
【0039】
次に、図18および図19を参照して実験結果を説明する。図18および図19において、第1領域90は上記音圧低減への寄与が最も小さい領域であり、40%の質量に相当する領域を除去する場合に除去されるべき領域である。そして、第2領域91、第3領域92および第4領域93の順に上記音圧低減への寄与度が上昇し、それぞれ40%、60%および80%の質量に相当する領域を除去する場合(すなわち、除去率40%、60%および80%の場合)において残存させるべき領域を示している。
【0040】
図18を参照して、バックリブ73において、ソール・サイド部およびクラウン部を構成する壁面に接触する縁部に沿った領域は、上記音圧低減への寄与が大きいことが分かる。一方、上記縁部の両端部に挟まれる領域の中央部は、上記音圧低減への寄与が小さい。このことから、打球音への悪影響を抑制するという機能を十分に維持しつつ、リブの形成に伴うヘッドの質量増加を抑制するためには、リブは図19の破線94で囲まれた形状、すなわち延在方向において凹形状(三日月状の形状)を有していることが好ましいといえる。なお、上記傾向は、バックリブに限られず、フロントリブなど他のリブにおいても同様であることが確認されている。また、上記シミュレーションにおいては除去率が80%を超える場合については取り扱っていない。これは、発明者による検討の結果、除去率が80%を超える場合、案内溝と案内溝以外の領域とを強固に接続するはたらきが小さくなり、案内溝の形成に伴う打球音への悪影響を抑制する効果が小さくなることが分かっているためである。したがって、リブの形成による効果を確実に得るためには、除去率は80%以下とすることが好ましい。さらに、リブの形成による効果をより明確に得るためには、除去率は60%以下とすることが好ましい。一方、リブの一部を除去することによる軽量化の効果を十分に得るためには、除去率は40%以上とすることが好ましい。すなわち、上記除去率は40%以上60%以下とすることが最も好ましい。
【0041】
上記実施の形態および実施例においては、ソール・サイド部に形成される案内溝の形状が平面的に見てV字形状(U字形状あるいは馬蹄形状ともいえる)である場合について説明したが、本発明のゴルフクラブヘッドおよびゴルフクラブはこれに限られない。たとえば、本発明のゴルフクラブヘッドに形成される案内溝20の平面形状としては、フェース−バック方向に延びる直線状(図20参照)、トゥ−ヒール方向に延びる直線状(図21参照)、2つの直線が交差して形成されるX字状(図22参照)、円環状(図23参照)など、様々な形状を採用することができる。そして、形成された案内溝20のソール・サイド部14を構成する壁面から突出し、案内溝20を構成する壁面に接続されたフロントリブ71、トゥリブ72、バックリブ73、ソールリブ74、ヒールリブ75などのリブを形成することにより、当該案内溝20の形成に伴う打球音への悪影響を抑制することができる。ここで、リブの形成に関する技術思想は概略以下の通りである。
【0042】
ソール・サイド部14に案内溝20が形成された場合、ヘッド1の内部に、ソール・サイド部14を構成する壁面から突出し、案内溝20を構成する壁面に接続されたリブを形成することにより、案内溝20の形成に伴う打球音への悪影響を抑制することができる。このとき、当該リブは、案内溝20を構成する壁面と、一般に最も剛性の高い領域であるフェース部11を構成する壁面とを接続するように、あるいは案内溝20を構成する壁面と、ソール・サイド部14とクラウン部12との境界を構成する壁面とを接続するように形成することが好ましい。また、当該リブは、案内溝20の長手方向の端部を構成する壁面に接続されることにより、有効に打球音への悪影響を抑制することができる。したがって、図6および図20〜図23を参照して、案内溝20の長手方向の端部と、フェース部11とを接続するフロントリブ71、案内溝20のトゥ側の領域と、当該領域に対向するソール・サイド部14とクラウン部12との境界とを接続するトゥリブ72、および案内溝20のヒール側の領域と、当該領域に対向するソール・サイド部14とクラウン部12との境界とを接続するヒールリブ75を形成することが好ましい。
【0043】
また、案内溝20の平面形状が湾曲している場合や、枝分かれしている場合のように、案内溝20によって挟まれる領域や案内溝20によって囲まれる領域が形成される場合、当該領域を横断するように当該領域を挟む案内溝20を接続するソールリブ74を形成することが好ましい。さらに、案内溝20のバック側の領域と、当該領域に対向するソール・サイド部14とクラウン部12との境界とを接続するバックリブ73を形成することにより、打球音が一層改善される。以上のような観点と、リブの形成に伴うヘッド1の質量の増加とのバランスとを考慮し、リブの配置を決定することができる。
【0044】
さらに、リブの形状については、ヘッド1の質量の増加を抑制する観点から、板状の形状が採用されることが好ましい。そして、更なるヘッド1の軽量化を達成するため、リブは、延在方向において凹形状を有していることが好ましい。以上のような技術思想に基づき、ヘッド1の質量の増加を抑制しつつ、案内溝20の形成に伴う打球音への悪影響を有効に抑制することができる。
【0045】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のウッド型ゴルフクラブヘッドおよびウッド型ゴルフクラブは、打球音への悪影響を抑制しつつ重心位置を変更することが求められるウッド型ゴルフクラブヘッドおよびウッド型ゴルフクラブに、特に有利に適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 ヘッド、2 シャフト、3 グリップ部、9 ゴルフクラブ、11 フェース部、11A 打球面、12 クラウン部、13 ホーゼル部、14 ソール・サイド部、20 案内溝、21 主溝、22 接続溝、23 スロット、31 スロットキャップ、41 重量体、42 ねじ、71 フロントリブ、72 トゥリブ、72A 第1トゥリブ、72B 第2トゥリブ、72C 縁部、72D 稜線部、73 バックリブ、73C 縁部、73D 稜線部、74 ソールリブ、75 ヒールリブ、75A 第1ヒールリブ、75B 第2ヒールリブ、90 第1領域、91 第2領域、92 第3領域、93 第4領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
打球面を有するフェース部と、
前記フェース部に接続されたソール・サイド部と、
前記フェース部に接続され、前記ソール・サイド部の上部を覆うクラウン部と、
前記ソール・サイド部に形成された案内溝と、
前記案内溝に沿って移動可能なように前記案内溝に取り付けられた重量体とを備えた中空形状のウッド型ゴルフクラブヘッドであって、
前記ウッド型ゴルフクラブヘッドの内部には、前記ソール・サイド部を構成する壁面から突出し、前記案内溝を構成する壁面に接続されたリブが形成されている、ウッド型ゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記リブは、前記案内溝を構成する壁面と、前記フェース部を構成する壁面、または前記ソール・サイド部と前記クラウン部との境界を構成する壁面とを接続するように形成されている、請求項1に記載のウッド型ゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記リブは、延在方向において凹形状を有している、請求項1または2に記載のウッド型ゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記リブは、前記案内溝を構成する壁面との接続部において、前記案内溝を構成する壁面と同じ高さを有している、請求項1〜3のいずれか1項に記載のウッド型ゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記リブは、前記案内溝の長手方向の端部を構成する壁面に接続されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載のウッド型ゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
前記リブは複数個形成されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載のウッド型ゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のウッド型ゴルフクラブヘッドを備えた、ウッド型ゴルフクラブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2011−10722(P2011−10722A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155403(P2009−155403)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】