説明

エアバッグ装置

【課題】肩部及び胸部の少なくとも一部と頭部の衝撃を、それぞれに適した態様で膨張させた部分で安定して受止めることができるようにすることを目的とする。
【解決手段】膨張展開動作により乗員を受止めるエアバッグ装置10であって、ガス供給口を有するエアバッグ本体20と、インフレータとを備える。エアバッグ本体20は、その膨張展開状態において、乗員の肩部及び胸部の左半側の少なくとも一部を受止める左側当接部32Lと、乗員の肩部及び胸部の右半側の少なくとも一部を受止める右側当接部32Rと、乗員の頭部の少なくとも一部を受止める頭部当接部40とを含む。左側当接部32Lと右側当接部32Rとがそれらよりも凹んだ状態の上下方向境界部36を介して幅方向に隣合い、左側当接部32L及び右側当接部32Rと、頭部当接部40とが、それらよりも凹んだ状態の幅方向境界部38を介して上下方向に隣合う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両乗員を保護するためのエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のエアバッグ装置として、特許文献1に開示のものがある。特許文献1に開示のエアバッグ装置は、左半側エアバッグと右半側エアバッグとを備えている。また、左半側エアバッグと右半側エアバッグとの左右の側面同士が吊紐により連結され、これにより、両エアバッグの膨張時におけるそれぞれの幅員が規制されている。このエアバッグ装置では、左半側エアバッグと右半側エアバッグとが胸部を受止める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−244005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記エアバッグ装置では、頭部の受止めは特に考慮されていない。頭部が左半側エアバッグ及び右半側エアバッグの間に進入したとしても、頭部の衝撃を適切に吸収できるかどうか不明である。また、頭部の進入軌跡のずれ或はばらつきにより、頭部が左半側エアバッグ或は右半側エアバッグに当接してしまう恐れがある。
【0005】
そこで、本発明は、肩部及び胸部の少なくとも一部と頭部の衝撃を、それぞれに適した態様で膨張させた部分で安定して受止めることができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、第1の態様は、膨張展開動作により乗員を受止めるエアバッグ装置であって、ガス供給口を有するエアバッグ本体と、前記ガス供給口を通じて前記エアバッグ本体内にガスを供給するインフレータとを備え、前記エアバッグ本体は、その膨張展開状態において、前記乗員の肩部及び胸部の左半側の少なくとも一部を受止める左側当接部と、前記乗員の前記肩部及び前記胸部の右半側の少なくとも一部を受止める右側当接部と、前記乗員の頭部の少なくとも一部を受止める頭部当接部とを含み、前記左側当接部と前記右側当接部とがそれらよりも凹んだ状態の上下方向境界部を介して幅方向に隣合い、前記左側当接部及び前記右側当接部と、前記頭部当接部とが、それらよりも凹んだ状態の幅方向境界部を介して上下方向に隣合う。
【0007】
第2の態様は、第1の態様に係るエアバッグ装置であって、前記エアバッグ本体は、全体として単一の気室を形成する袋状部材に形成され、前記袋状部材のうち一様な湾曲態様で膨張すべき仮想膨張部分において、前記上下方向境界部及び前記幅方向境界部に相当するライン状の部分の長さ寸法を短くして当該ラインにおいて膨張を抑制することで、前記上下方向境界部及び前記幅方向境界部が形成されている。
【0008】
第3の態様は、第1又は第2の態様に係るエアバッグ装置であって、前記上下方向境界部と前記幅方向境界部とが全体としてY字状を描くように形成されている。
【0009】
第4の態様は、第1〜第3のいずれか1つの態様に係るエアバッグ装置であって、前記エアバッグ本体の膨張展開状態において、前記頭部当接部よりも前記左側当接部及び前記右側当接部が前記乗員側に向けて大きく膨らむ。
【0010】
第5の態様は、第1〜第4のいずれか1つの態様に係るエアバッグ装置であって、前記頭部当接部に、上下方向に沿って延在し、外方に膨らむ上下方向小膨張部が形成されている。
【発明の効果】
【0011】
第1の態様によると、前記左側当接部と前記右側当接部とがそれらよりも凹んだ状態の上下方向境界部を介して幅方向に隣合い、前記左側当接部及び前記右側当接部と、前記頭部当接部とが、それらよりも凹んだ状態の幅方向境界部を介して上下方向に隣合うため、上下方向境界部及び幅方向境界部のライン、凹み量等を調整することで、左側当接部、右側当接部及び頭部当接部のテンションを調整することができる。これにより、肩部及び胸部、頭部の衝撃を、それぞれに適した態様で膨張させた部分で安定して受止めることができる。
【0012】
第2の態様によると、前記エアバッグ本体は、全体として単一の気室を形成する袋状部材に形成され、前記袋状部材のうち一様な湾曲態様で膨張すべき仮想膨張部分において、前記上下方向境界部及び前記幅方向境界部に相当するライン状の部分の長さ寸法を短くして当該ラインにおいて膨張を抑制することで、前記上下方向境界部及び前記幅方向境界部が形成されることで、頭部当接部、左側当接部及び右側当接部が形成されているため、当該エアバッグ本体を容易に製造できる。
【0013】
第3の態様によると、前記上下方向境界部と前記幅方向境界部とが全体としてY字状を描くように形成されているため、頭部当接部をそれらの交点から離して、なるべく柔らかくすることができる。
【0014】
第4の態様によると、乗員の肩部及び胸部の少なくとも一部を左側当接部及び右側当接部で受止めた後、頭部を頭部当接部で受止めることができる。
【0015】
第5の態様によると、上下方向小膨張部でよりテンションを小さくできる。この上下方向小膨張部で頭部を受止めることで、頭部が上下に位置ずれして頭部当接部に当接したとしても、頭部を徐々に受止めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態に係るエアバッグ装置の膨張展開完了後の状態を示す概略斜視図である。
【図2】エアバッグ本体の膨張形状を多面体によって模式的に表した斜視図である。
【図3】エアバッグ本体の膨張形状を多面体によって模式的に表した斜視図である。
【図4】エアバッグ本体の膨張形状を多面体によって模式的に表した斜視図である。
【図5】エアバッグ本体の膨張形状を多面体によって模式的に表した斜視図である。
【図6】エアバッグ本体を形成するための基布の形状例を示す図である。
【図7】エアバッグ装置の動作を示す説明図である。
【図8】エアバッグ装置の動作を示す説明図である。
【図9】エアバッグ装置の動作を示す説明図である。
【図10】エアバッグ装置の動作を示す説明図である。
【図11】変形例に係るエアバッグ装置の膨張展開完了後の状態を示す概略斜視図である。
【図12】エアバッグ本体の膨張形状を多面体によって模式的に表した斜視図である。
【図13】エアバッグ本体の膨張形状を多面体によって模式的に表した斜視図である。
【図14】エアバッグ本体の膨張形状を多面体によって模式的に表した斜視図である。
【図15】エアバッグ本体の膨張形状を多面体によって模式的に表した斜視図である。
【図16】エアバッグ本体を形成するための基布の形状例を示す図である。
【図17】エアバッグ装置の動作を示す説明図である。
【図18】エアバッグ装置の動作を示す説明図である。
【図19】エアバッグ装置の動作を示す説明図である。
【図20】エアバッグ装置の動作を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施形態に係るエアバッグ装置について説明する。図1はエアバッグ装置10の膨張展開完了後の状態を示す概略斜視図であり、図2〜図5はエアバッグ本体20の膨張形状を多面体によって模式的に表した斜視図であり、図3は図2のA方向からの矢視図であり、図4は図2のB方向からの矢視図であり、図5は図2のC方向からの矢視図である。
【0018】
このエアバッグ装置10は、車両の助手席前方にあるダッシュボードに組込まれ、車両の衝突時等に助手席乗員前方に膨張展開して、助手席乗員を受止めて衝撃を吸収する装置である。もちろん、本エアバッグ装置10は、助手席用のエアバッグ装置に限らず、ステアリング装置に組込まれる運転席用のエアバッグ等にも適用可能である。
【0019】
本エアバッグ装置10は、エアバッグ本体20と、インフレータ12(図2参照)とを備える。
【0020】
エアバッグ本体20は、膨張展開可能な袋状に形成されている。このエアバッグ本体20にガス供給口22hが形成されている(図2参照)。
【0021】
ガス供給口22hは、エアバッグ本体20のうち膨張展開状態でダッシュボードに対向する部分に形成されている。ここでは、エアバッグ本体20の後方(車両を基準にすると車両前方、図1及び図2では左側)の下向き面にガス供給口22hが形成されている。
【0022】
このガス供給口22h部分にインフレータ12が取付けられる。インフレータ12は、点火装置及びガス発生剤等を有しており、点火装置によりガス発生剤を点火、燃焼させることでガスを発生可能に構成されている。そして、車両の衝撃検知部等からの点火命令信号等を受けて前記点火装置によりガス発生剤を点火燃焼させ、これにより発生したガスが、上記ガス供給口22hを通じてエアバッグ本体20内に供給されて、エアバッグ本体20が膨張展開するようになっている。
【0023】
膨張展開状態において、エアバッグ本体20が乗員を受止めるための形状について説明する。
【0024】
すなわち、エアバッグ本体20は全体として袋状に膨張展開するものであり、エアバッグ本体20の膨張展開形態において、エアバッグ本体20のうち乗員側に向く部分は、左側当接部32Lと、右側当接部32Rと、頭部当接部40とを含む。
【0025】
ここでは、エアバッグ本体20は、側面視において、インフレータ12の上方から乗員側(車両後方、図1及び図2の右側)に向けて膨らみ、乗員側部分で下方に向けて膨らむ形状に形成されている。エアバッグ本体20のうち乗員側を向く部分(乗員を受止める部分)は上下方向に長く広がる形状に形成されており、正規姿勢の乗員の上半身を受止める領域に広がるようになっている。
【0026】
左側当接部32Lは、前記乗員の肩部及び胸部の左半側の少なくとも一部を受止める部分であり、右側当接部32Rは乗員の肩部及び胸部の右半側の少なくとも一部を受止める部分である。換言すれば、エアバッグ本体20の膨張展開状態において、左側当接部32Lは、正規姿勢の乗員の肩部及び胸部の左半側の少なくとも一部の前方に広がり、右側当接部32Rは正規姿勢の乗員の肩部及び胸部の右半側の少なくとも一部の前方に広がる。ここでは、左側当接部32L及び右側当接部32Rは、エアバッグ本体20のうち乗員側を向く部分の下半部において、左右に分れて上下方向に長く延びるように延在している。
【0027】
これらの左側当接部32L及び右側当接部32Rは、上下方向に沿って細長いドーム状に膨張展開し、これらの間に上下方向境界部36が介在している。上下方向境界部36は、左側当接部32L及び右側当接部32Rよりも凹み、上下方向に沿って延びる溝上に形成されている。左側当接部32L及び右側当接部32Rは、上下方向境界部36を介して幅方向に隣合っていることになる。
【0028】
もっとも、左側当接部32L及び右側当接部32Rは、より小さな領域に形成され、それぞれ乗員の肩部の半分の一部或は胸部の半分の一部を受止めることを想定した形状等であってもよい。
【0029】
頭部当接部40は、乗員の頭部の少なくとも一部を受止める部分である。換言すれば、エアバッグ本体20の膨張展開状態において、頭部当接部40は、正規姿勢の乗員の頭部の前方に広がる。ここでは、頭部当接部40は、エアバッグ本体20のうち乗員側を向く部分の上半部に広がるように設けられている。
【0030】
頭部当接部40は、上記左側当接部32L及び右側当接部32Rの上方で、ドーム状に膨張展開する。従って、頭部当接部40と左側当接部32L及び右側当接部32Rとの間には、幅方向に沿って延びる幅方向境界部38が介在している。幅方向境界部38は、頭部当接部40と左側当接部32L及び右側当接部32Rよりも凹んでいる。頭部当接部40と左側当接部32L及び右側当接部32Rとは、この幅方向境界部38を介して上下方向に隣合っていることになる。
【0031】
エアバッグ本体20の膨張展開状態において、上下方向境界部36は、幅方向境界部38の中央で当該幅方向境界部38に接している。つまり、1つの点周りに3つのドーム状の左側当接部32L、右側当接部32R及び頭部当接部40が形成されていることになる。そして、エアバッグ本体20の膨張展開状態において、幅方向境界部38と上下方向境界部36とが全体としてY字状又はT字状を描くようになっている。幅方向境界部38と上下方向境界部36とが全体としてY字状を描く場合、幅方向境界部38は上下方向境界部36との交点で曲ってV字状を描く。幅方向境界部38が直線状を描くか、V字状を描くかは、膨張展開前の幅方向境界部38の位置だけでなく、左側当接部32L及び右側当接部32Rが膨張する大きさ、頭部当接部40が膨張する大きさ等によっても左右される。エアバッグ本体20の膨張展開状態において、幅方向境界部38と上下方向境界部36とが全体としてY字状を描くようにすると、頭部当接部40をなるべく柔らかくすることができる。すなわち、エアバッグ本体20の膨張展開状態では、絞られた上下方向境界部36及び幅方向境界部38に強いテンションが作用するため、それらの交点を中心として大きなテンションが作用すると考えられる。そこで、頭部当接部40のうち頭部が当接すると予測される箇所を前記交点から離すことで、当該予想箇所を柔らかくすることができる。もっとも、幅方向境界部38と上下方向境界部36とが全体としてT字状を描く形態で、それらの交点を下げると、左側当接部32L及び右側当接部32Rの位置も下がってしまう。そこで、幅方向境界部38と上下方向境界部36とが全体としてY字状を描くようにすることで、左側当接部32L及び右側当接部32Rを、肩部を受止めるのに適切な位置に設けつつ、頭部当接部40(特に頭部が当接すると予測される箇所)を前記交点から離して柔らかくすることができる。つまり、幅方向境界部38の形状によっても、頭部当接部40の柔らかさを調整することができる。
【0032】
上記エアバッグ本体20は、例えば、全体として単一の気室を形成するように形成された袋状部材を、上記上下方向境界部36及び幅方向境界部38に相当するラインで絞ることで形成することができる。換言すれば、袋状部材のうち一様な湾曲態様で膨張すべき仮想膨張部分において、あるラインに沿った部分の長さ寸法を短くして当該ラインにおいて膨張を抑制することで、ライン状に凹む上下方向境界部36及び幅方向境界部38を形成することができる。袋状部材を縫製して製造する際に、縫い合せる布の形状、縫合線等を設定することで、前記ラインの長さを局所的に短くして絞り(ラインを短くする)を設ける構成を採用することができる。
【0033】
また、エアバッグ本体20の膨張展開状態において、左側当接部32L及び右側当接部32Rは、頭部当接部40よりも乗員側に向けて大きく膨らむようになっている。換言すれば、エアバッグ本体20の膨張展開状態において、左側当接部32L及び右側当接部32Rと乗員の肩部及び胸部との距離は、頭部当接部40と乗員の頭部との距離よりも小さくなるように設定されている(図7参照)。これにより、膨張展開状態のエアバッグ本体20に対して、左側当接部32L及び右側当接部32Rが、頭部当接部40よりも先に乗員に当接するようになっている。
【0034】
また、膨張展開状態のエアバッグ本体20の頭部当接部40に乗員の頭部が当接すると、外側に膨らんだ状態から徐々に内側に凹むように設定されている。好ましくは、頭部当接部40は、左側当接部32L及び右側当接部32Rは胸部の中心部を避けて右肩部および左肩部に向けて膨らむように設定されている。左側当接部32L及び右側当接部32Rの突出量を大きく設定すれば右肩部および左肩部が先に当接して、胸部の中心部が上下方向境界部36と幅方向境界部38との交点への初期の当接を避けられる傾向にある。また、例えば、幅方向境界部38の位置、形状、凹み量等を推論的、実験的に適宜設定して、頭部当接部40、左側当接部32L及び右側当接部32Rの形状を適宜調整することで、エアバッグ本体20の膨張展開状態のエアバッグ本体20における頭部当接部40、左側当接部32L及び右側当接部32Rの柔らかさ(硬さ)を調整することができる。
【0035】
上記エアバッグ本体20は、例えば、適宜シート状部材を縫合等によって接合することによって形成することができる。エアバッグ本体20は、頭部当接部40、左側当接部32L及び右側当接部32R、その他の部分とを、それぞれ別々のシート状部材で作成し、これらを縫合することによって形成されていてもよい、それらの一部又は全部が共通するシート状部材を縫合することによって形成されていてもよい。エアバッグ本体20の一製造例について、以下に説明する。
【0036】
まず、図6に示すように、主基布50、一対の第1小基布52、52、第2小基布54を準備する。これらの基布は、それぞれ布或は樹脂シート等のシート状部材を切断等することにより所定形状に形成された部材である。
【0037】
主基布50は、主としてエアバッグ本体20の両側方部分、上方部分及び頭部当接部40を構成する部分であり、当該部分を展開した形状に形成されている。一対の第1小基布52、52は、主として左側当接部32L又は右側当接部32R、エアバッグ本体20の下方の左半部又は右半部を構成する部分であり、当該部分を展開した形状に形成されている。第2小基布54は、主としてエアバッグ本体20のうちインフレータ12の取付箇所近傍の両側方部分及び下方部分を構成する部分であり、当該部分を展開した形状に形成されている。
【0038】
これらの主基布50、一対の第1小基布52、52、第2小基布54のそれぞれの周縁部同士を縫合する。ここでは、図6において、周縁部の各直縁部に付された同じ丸囲み番号部分同士を縫合する。そして、縫合により得られた袋状の部材を、ガス供給口22hを通じて反転させる。すると、図1〜図5に示す形状のエアバッグ本体20が得られる。
【0039】
上記エアバッグ装置10の動作について説明する。
【0040】
まず、図7に示すように、乗員Pが助手席等に正規姿勢で着座し、かつ、シートベルトを着用しているとする。なお、乗員Pが助手席等に正規姿勢で着座している状態とは、乗員Pが、その背部をシートバックに接触させた状態で着座している状態をいう。
【0041】
この状態で、車両が衝突等すると、エアバッグ本体20が膨張展開する。膨張展開したエアバッグ本体20は、頭部当接部40で乗員P側に向けてドーム状に膨張しており、左側当接部32L及び右側当接部32Rで乗員P側に向けてより大きく膨張している。
【0042】
この際、車両の急減速によって、乗員Pを車両前方に動かす力が作用する。もっとも、乗員Pは、シートベルトによって主として腰部を中心として拘束されている。結果、乗員Pの頭部、肩部及び胸部が腰部を中心として前方に移動しようとする。
【0043】
すると、図8に示すように、肩部及び胸部が左側当接部32L及び右側当接部32Rに当接する。これにより、左側当接部32L及び右側当接部32Rは肩部及び胸部の衝撃を吸収する。また、左側当接部32Lと右側当接部32Rとの間には、凹む上下方向境界部36が存在しているため、肩部及び胸部を、左側当接部32L及び右側当接部32Rとで分散して受止めることができる。
【0044】
さらに、乗員Pが腰部を中心として前方に移動すると、図9に示すように、頭部が頭部当接部40に当接する。
【0045】
頭部がさらに前方に移動すると、図10に示すように、頭部当接部40が内側に凹みつつ頭部を受止める。これにより、頭部の衝撃を徐々に受止めることができる。この際、頭部当接部40は、左側当接部32L及び右側当接部32Rよりも突出していないため、頭部の反り返りが抑制される。また、頭部当接部40が内側に凹みつつ柔らかく頭部を受止めるため、この点からも頭部の反り返りが抑制されている。
【0046】
以上のように構成されたエアバッグ装置10によると、左側当接部32Lと右側当接部32Rとがそれらよりも凹んだ状態の上下方向境界部36を介して隣合い、左側当接部32L及び右側当接部32Rと、頭部当接部40とは、それらよりも凹んだ状態の幅方向境界部38を介して上下方向に隣合う。このため、上下方向境界部36及び幅方向境界部38のライン(つまり、各当接部の大きさ)、凹み量(つまり、各当接部の突出量)等を調整することで、左側当接部32L、右側当接部32R及び頭部当接部40のテンション(つまり、柔らかさ)を調整することができる。これにより、肩部及び胸部、頭部の衝撃を、それぞれに適した態様で膨張させた部分で安定して受止めることができる。
【0047】
また、左側当接部32Lと右側当接部32Rとの間には上下方向境界部36が介在しており、それらが分離する袋として構成されていない。また、左側当接部32Lと右側当接部32Rとは、上方で頭部当接部40によって連結されている。このため、左側当接部32Lと右側当接部32Rとが離れすぎず、両肩の位置に設定し易い。
【0048】
また、エアバッグ本体20は、全体として単一の気室を形成するように袋状に形成され、袋状部材のうち一様な湾曲態様で膨張すべき仮想膨張部分において、上下方向境界部36及び幅方向境界部38に相当するライン状の部分の長さ寸法を短くして当該ラインにおいて膨張を抑制することで、上下方向境界部36及び幅方向境界部38を形成している。これにより、幅方向境界部38の上方に頭部当接部40が形成され、幅方向境界部38の下方であって上下方向境界部36の左側に左側当接部32Lが形成され、幅方向境界部38の下方であって上下方向境界部36の右側に右側当接部32Rが形成されている。例えば、上記したように、複数の基布同士を周縁部同士で直線状に縫合することによってもエアバッグ本体20を形成することができる。このため、複数の独立した袋を組合わせたような構成、袋内にテザーベルト等を設けて所定の膨張形状を形成する場合と比較して、簡易に製造できる。
【0049】
もっとも、頭部当接部40、左側当接部32L及び右側当接部32Rを形成するための補助的な目的、或は、別の目的で、他の袋状の部分、テザーベルト等が組合わされてもよい。
【0050】
また、上下方向境界部36が幅方向境界部38の中央で交わっているため、左右でバランスよく乗員を受止めることができる。
【0051】
特に、上下方向境界部36及び幅方向境界部38が全体としてY字状をなすようにすることで、頭部当接部40を柔らかく設定し易い。
【0052】
また、頭部当接部40は、頭部の当接により、外側に膨らんだ状態から内側に凹む状態に変形するため、頭部を徐々に受止めることができる。
【0053】
さらに、左側当接部32L及び右側当接部32Rが、頭部当接部40よりも大きく突出しているため、乗員の肩部及び胸部を左側当接部32L及び右側当接部32Rで受止めて勢いを緩めた後、頭部を頭部当接部40で受止めることができる。
【0054】
上記実施形態を前提として変形例について説明する。図11はエアバッグ装置110の膨張展開完了後の状態を示す概略斜視図であり、図12〜図15はエアバッグ本体120の膨張形状を多面体によって模式的に表した斜視図であり、図13は図12のA方向からの矢視図であり、図14は図12のB方向からの矢視図であり、図15は図12のC方向からの矢視図である。
【0055】
このエアバッグ装置110は、上記エアバッグ本体20に相当するエアバッグ本体120と、インフレータ12とを備えている。
【0056】
エアバッグ本体120が上記エアバッグ本体20と異なる点は、頭部当接部40に相当する頭部当接部140に、上下方向小膨張部142が形成されていることである。この上下方向小膨張部142は、上下方向に沿って延在して外方向に膨らむ形状に形成されている。上下方向小膨張部142の幅寸法は、頭部当接部140及びエアバッグ本体120の幅よりも小さい(ここでは十分に小さい)。また、上下方向小膨張部142の上下方向の長さ寸法は、幅寸法よりも大きい。もっとも、上下方向小膨張部142は、頭部当接部140の上下方向においてなるべく全体に亘って延在する程度に長く設定されていることが好ましい。なお、図12〜図14では、多面体の組合わせ状態を示す図であるため、上下方向小膨張部142は内側に凹んでいる状態を示しているが、実際の膨張展開時には上下方向小膨張部142は外方に膨らむ。
【0057】
なお、上記と同様の理由から、頭部当接部140に上下方向小膨張部142を合わせた突出寸法は、左側当接部32L及び右側当接部32Rの突出寸法よりも小さく設定されている。
【0058】
このエアバッグ本体120は、上記エアバッグ本体20と同様に適宜シート状部材を縫合等によって接合することによって形成することができる。図16を参照して、エアバッグ本体120を製造するための基布例について説明する。すなわち、上記エアバッグ本体20と同様に、主基布50に相当する主基布150と、一対の第1小基布52、52に相当する一対の第1小基布152、152と、第2小基布54とを準備する。主基布150が上記主基布50と異なる主な点は、その幅方向中央部に、上下方向小膨張部142の幅方向中央部には、細長い三角形状の領域142a及び一対の第1小基布152、152に連結するための延長領域142bが設けられている点である。また、一対の第1小基布152、152が一対の第1小基布52、52と異なる主な点は、延長領域142bに連結される領域152bが設けられている点である。
【0059】
そして、これらの主基布150、一対の第1小基布152、152、第2小基布54のそれぞれの周縁部同士を、図16における同じ丸囲み番号部分同士を接合するように縫合する。これにより、図11〜図15に示す形状のエアバッグ本体20が得られる。
【0060】
このエアバッグ装置110の動作について説明する。
【0061】
まず、図17に示すように、乗員Pが助手席等に正規姿勢で着座し、かつ、シートベルトを着用しているとする。
【0062】
この状態で、車両が衝突等すると、エアバッグ本体120が膨張展開する。膨張展開したエアバッグ本体20は、頭部当接部40で乗員P側に向けてドーム状に膨張しており、上下方向小膨張部142ではさらに乗員P側に向けて上下方向に長いドーム状に膨張している。また、エアバッグ本体20のうち左側当接部32L及び右側当接部32R部分は乗員P側に向けてより大きく膨張している。
【0063】
この際、車両の急減速によって、乗員Pを車両前方に動かす力が作用すると、図18に示すように、肩部及び胸部が左側当接部32L及び右側当接部32Rに当接する。
【0064】
さらに、乗員Pが腰部を中心として前方に移動すると、図19に示すように、頭部が頭部当接部140のうち上下方向小膨張部142に当接する。
【0065】
頭部がさらに前方に移動すると、図20に示すように、頭部当接部140が上下方向小膨張部142を中心にして内側に凹みつつ頭部を受止める。これにより、頭部の衝撃を徐々に受止めることができる。この際、上下方向小膨張部142を含む頭部当接部40は、左側当接部32L及び右側当接部32Rよりも突出していないため、頭部の反り返りが抑制される。
【0066】
また、上下方向小膨張部142は、頭部当接部140よりもさらに小さい領域、より具体的には、細幅の領域で膨らんでいるため、頭部が初期にあたる領域部分をより柔らかくすることができる。これにより、頭部をより柔らかく受止めることができる。しかも、頭部当接部140は、上下方向に沿って長いため、乗員の体格、着座姿勢等の起因して、頭部が想定される位置よりも上又は下にずれて頭部当接部140に当接したとしても、上下方向に沿って長い上下方向小膨張部142により確実に当接させることができる。これにより、頭部が上下方向にずれて頭部当接部140に当接したとしても上下方向小膨張部142により確実に当接させて柔らかく頭部を受止めることができる。
【0067】
また、この上下方向小膨張部142を設けた分、頭部を早めにかつ長い距離で徐々に勢いを止めるように受止めることができる。
【0068】
以上のようにこの発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。
【符号の説明】
【0069】
10、110 エアバッグ装置
12 インフレータ
20、120 エアバッグ本体
22h ガス供給口
32L 左側当接部
32R 右側当接部
36 上下方向境界部
38 幅方向境界部
40、140 頭部当接部
142 上下方向小膨張部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張展開動作により乗員を受止めるエアバッグ装置であって、
ガス供給口を有するエアバッグ本体と、
前記ガス供給口を通じて前記エアバッグ本体内にガスを供給するインフレータと、
を備え、
前記エアバッグ本体は、その膨張展開状態において、前記乗員の肩部及び胸部の左半側の少なくとも一部を受止める左側当接部と、前記乗員の前記肩部及び前記胸部の右半側の少なくとも一部を受止める右側当接部と、前記乗員の頭部の少なくとも一部を受止める頭部当接部とを含み、
前記左側当接部と前記右側当接部とがそれらよりも凹んだ状態の上下方向境界部を介して幅方向に隣合い、
前記左側当接部及び前記右側当接部と、前記頭部当接部とが、それらよりも凹んだ状態の幅方向境界部を介して上下方向に隣合う、エアバッグ装置。
【請求項2】
請求項1記載のエアバッグ装置であって、
前記エアバッグ本体は、全体として単一の気室を形成する袋状部材に形成され、
前記袋状部材のうち一様な湾曲態様で膨張すべき仮想膨張部分において、前記上下方向境界部及び前記幅方向境界部に相当するライン状の部分の長さ寸法を短くして当該ラインにおいて膨張を抑制することで、前記上下方向境界部及び前記幅方向境界部が形成されている、エアバッグ装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のエアバッグ装置であって、
前記上下方向境界部と前記幅方向境界部とが全体としてY字状を描くように形成されている、エアバッグ装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載のエアバッグ装置であって、
前記エアバッグ本体の膨張展開状態において、前記頭部当接部よりも前記左側当接部及び前記右側当接部が前記乗員側に向けて大きく膨らむ、エアバッグ装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載のエアバッグ装置であって、
前記頭部当接部に、上下方向に沿って延在し、外方に膨らむ上下方向小膨張部が形成されている、エアバッグ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2013−112015(P2013−112015A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257214(P2011−257214)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】