説明

エチレンオキサイド製造用触媒及びエチレンオキサイドの製造方法

【課題】銀ナノ粒子が高分散で担持されたエチレンオキサイド製造用触媒を提供する。
【解決手段】担体及びその担体に担持された銀ナノワイヤーを含む触媒であって、エチレンを酸化することによりエチレンオキサイドを製造するために用いるエチレンオキサイド製造用触媒に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なエチレンオキサイド製造用触媒及びエチレンオキサイドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンオキサイド(ethylene oxide)は、3員環の環状エーテルであって、化学式はCO、分子量44.05の最も単純なエポキシドである。IUPAC命名法では、1,2−エポキシエタン(1,2−epoxyethane)というが、別名としてエポキシエタン(epoxyethane)、オキシラン(oxirane)、オキサシクロプロパン(oxacyclopropane)とも呼ばれている。
【0003】
エチレンオキサイドは、水及び有機溶媒のいずれにも良く溶けるという性質を有する。また、立体的なひずみエネルギーにより、特に求核剤に対して反応性が高い。このため、他の有機化合物を合成するときの中間体として有用である。
【0004】
例えば、エチレンオキシドに酸を触媒として水と反応させるとエチレングリコールが得られる。この反応で水の量を減らせば、ポリエチレングリコールを生成させることもできる。さらに、水のない条件で酸を作用させるとカチオン重合によりポリエチレンオキシドとなる。また、グリニャール試薬(RMgX)と反応させると加水分解後に第一級アルコールを得ることもできる。3員環の開環によりひずみエネルギーが解放されるため、このほかにもさまざまな求核剤に対するヒドロキシエチル化剤として高い反応性を示すことが知られている。
【0005】
このように工業的に幅広い用途をもつエチレンオキサイドは、種々の合成法により製造されているが、代表的な製法としてはエチレンの直接気相酸化による合成が挙げられる。エチレンの直接気相酸化は、C+1/2O→CO という反応であるが、この反応で用いる触媒として種々のものが提案されている。
【0006】
例えば、90.0〜98.9質量%のα−アルミナ、(酸化物に換算して)0.01〜1質量%のカリウム及び鉄よりなる群から選ばれた少なくとも1種の金属化合物、(酸化物に換算して)0.1〜5質量%のケイ素化合物及び(酸化物に換算して)1〜5質量%のジルコニウム化合物を含有してなる担体に銀を担持してなる酸化エチレン製造用触媒が知られている(特許文献1)。
【0007】
また例えば、エチレンから酸化エチレンを製造するために使用する酸化エチレン製造用触媒であって、少なくとも、銀(Ag)、リチウム(Li)、セシウム(Cs)、レニウム(Re)及び担体から成り、上記の担体として、比表面積が0.6〜3.0m/gである担体を使用し、Li含有率が担体重量当たり400〜1000ppmであることを特徴とする酸化エチレン製造用触媒が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−144932
【特許文献2】特開2007−301554
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、従来のエチレン酸化用触媒では、担体表面上に担持された銀原子の一部が凝集して大きな粒子となることによって触媒活性が低下するおそれがある。この問題を解決するためには、銀のサイズをナノサイズに保持したまま均一に分散させることが重要であるが、そのような特性を有する触媒は未だ開発されていないのが現状である。
【0010】
従って、本発明の主な目的は、銀ナノ粒子が高分散で担持されたエチレンオキサイド製造用触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、銀ナノワイヤーが担体に担持された触媒をエチレンオキサイドの製造に用いることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記のエチレンオキサイド製造用触媒及びエチレンオキサイドの製造方法に係る。
1. 担体及びその担体に担持された銀ナノワイヤーを含む触媒であって、エチレンを酸化することによりエチレンオキサイドを製造するために用いるエチレンオキサイド製造用触媒。
2. 銀ナノワイヤーの直径が5〜50nmであり、かつ、アスペクト比が10以上である、前記項1に記載のエチレンオキサイド製造用触媒。
3. 担体が、(i)アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、銅、亜鉛、水素及びアンモニウムの少なくとも1種、(ii)3〜5価の金属イオンになりうる金属元素の少なくとも1種を含む化合物である、前記項1に記載のエチレンオキサイド製造用触媒。
4. 担体が、ナトリウム、ジルコニウム、ケイ素及びリンを含む化合物である、前記項1に記載のエチレンオキサイド製造用触媒。
5. 銀イオンを含む担体に電子線を照射することによって得られる、前記項1に記載のエチレンオキサイド製造用触媒。
6. 銀イオンを含む担体が、
一般式(1):AgSif …(1)
(但し、Bは、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、銅、亜鉛、水素及びアンモニウムの少なくとも1種である。Dは、3〜5価の金属イオンになりうる金属元素の少なくとも1種である。a、c、e、f、g及びhは、0<a、0≦c、1<a+c≦4、1≦e≦2、0≦f≦3、0≦g<3、10≦h≦15を満たす数である。)で示される化合物である、前記項5に記載のエチレンオキサイド製造用触媒。
7. 銀イオンを含む担体が、一般式Na1+xZr3−x12(但し、xは、0≦x≦3を満たす。)で示されるリン酸ジルコニウム塩にイオン交換によって銀イオンを導入したものである、前記項5に記載のエチレンオキサイド製造用触媒。
8. 前記項1〜7のいずれかに記載のエチレンオキサイド製造用触媒の存在下においてエチレンを酸化することによってエチレンオキサイドを製造する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエチレンオキサイド製造用触媒によれば、触媒活性成分として銀ナノワイヤーが担体に担持されているので、反応系に露出できる銀成分の割合を十分に確保することができる。その結果、銀ナノ粒子が有する本来の触媒活性をより確実に得ることができる。すなわち、本発明の触媒では、従来技術のような凝集等を効果的に抑制ないしは防止されており、銀ナノワイヤーが高分散化されていることから、触媒性能(活性、選択率)及び寿命に優れた酸化エチレン製造用触媒を提供することが可能である。
【0014】
特に、銀イオンを含む担体に電子線を照射することによって製造された本発明の触媒にあっては、担体内部から直接に銀ナノワイヤーを成長させることができるので、その一端が担体に固定された銀ナノワイヤーを得ることができる。すなわち、本発明では、より確実に銀ナノワイヤーを高分散化した状態で固定化することができるので、よりいっそう優れた触媒性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1で得られた本発明触媒を透過型電子顕微鏡で観察した結果を示す図である。
【図2】実施例1で用いたエチレンオキサイドを製造するための反応装置の概略図である。
【図3】実施例1でエチレンの直接気相酸化による反応生成物を分析するためのカラムシステムの概略図である。
【図4】実施例1におけるエチレンの直接気相酸化における各成分の選択率を求める式である。
【図5】実施例1におけるエチレンの直接気相酸化における各成分の選択率、転化率及び収率を示す表及びグラフである。
【図6】実施例1と比較例1(Ag(56)−NaCl(1)/NASICON)におけるエチレンの直接気相酸化における各成分の選択率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.エチレンオキサイド製造用触媒(本発明触媒)
(1)本発明触媒
本発明触媒は、担体及びその担体に担持された銀ナノワイヤーを含む触媒であって、エチレンを酸化することによりエチレンオキサイドを製造するために用いるエチレンオキサイド製造用触媒である。
【0017】
担体としては、特に制限されず、公知のエチレンオキサイド製造用触媒で使用されている担体と同様のものも採用することができる。例えば、NASICON構造物、リン酸ジルコニウム、リン酸チタニウム、アルミナ(特にα−アルミナ)、シリカ、ジルコニア、炭化ケイ素、ゼオライト等が挙げられる。本発明では、特にイオン導電性固体が好ましい。イオン導電性固体の中でも、アルカリ金属イオン導電体、プロトン導電体及びこれらの前駆体の少なくとも1種が好ましい。特に、ナトリウムイオン導電体及びその前駆体の少なくとも1種がより好ましい。
【0018】
本発明触媒では、担体(特にイオン導電性固体)として、例えば(i)アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、銅、亜鉛、水素及びアンモニウムの少なくとも1種、(ii)3〜5価の金属イオンになり得る金属元素の少なくとも1種を含む化合物を好適に用いることができる。特に、ナトリウム、ジルコニウム、ケイ素及びリンを含む化合物を好適に用いることができる。より具体的には、リン酸ジルコニウム系化合物(NASICON構造物)を担体として用いることが好ましい。これにより、選択的なイオン交換特性と優れたイオン導電性をより効果的に得ることができる。
【0019】
とりわけ、本発明触媒では、後記(2)の「本発明触媒の製造方法」で示すように、銀イオンを含む担体に電子線を照射することによって得られるものが好ましい。すなわち、銀ナノワイヤーを合成するための出発原料を用い、この出発原料から銀ナノワイヤーを製造した後の支持体を担体として好適に採用することができる。これによって、触媒の調製と銀ナノワイヤーの固定とを同時に行うことができるとともに、より確実に銀ナノワイヤーを高分散で担体に固定(支持)することができる。
【0020】
この場合、前記の銀イオンを含む担体としては、
一般式(1):AgSif …(1)
(但し、Bは、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、銅、亜鉛、水素及びアンモニウムの少なくとも1種である。Dは、3〜5価の金属イオンになりうる金属元素の少なくとも1種である。a、c、e、f、g及びhは、0<a、0≦c、1<a+c≦4、1≦e≦2、0≦f≦3、0≦g<3、10≦h≦15を満たす数である。)で示される化合物がより好ましい。これらの数値の好ましい値は後記(2)の「本発明触媒の製造方法」で示したものと同様である。銀イオンを含む担体として、最も好ましくは、銀イオンを含む担体が、一般式Na1+xZrSi3−x12(但し、xは、0≦x≦3を満たす。)で示されるリン酸ジルコニウム塩にイオン交換によって銀イオンを導入してなるものである。xは、好ましくは0<x≦3であり、より好ましくは0<x≦2.5、最も好ましくは0.5≦x≦2である。
【0021】
本発明触媒の触媒活性成分としての銀ナノワイヤーは、その大きさ、形状(直線状、曲線状、絡合体等)等は特に制限されない。銀ナノワイヤーの直径は、一般的には2〜500nm、好ましくは5〜50nmである。また、金属ナノワイヤーの長さは、例えば金属イオン担持体中に含まれる金属イオンの含有量及び電子線を照射する条件(照射時間、加速電圧、真空度等)により調整可能であるが、通常20nm〜1mm程度とし、特に50nm〜0.5mmとすることが好ましい。また、本発明触媒における銀ナノワイヤーのアスペクト比は限定的ではないが、通常は10以上であり、好ましくは100〜100000とすれば良い。銀ナノワイヤーの形状は、電子線の照射強度、照射角度、金属イオン担持体の形状(細孔構造、結晶構造等)、組成等を適宜組み合わせることにより制御可能である。
【0022】
銀ナノワイヤーは、担体に固定されていることが好ましい。とりわけ、後記(2)の「本発明触媒の製造方法」により得られる銀ナノワイヤーにあっては、担体から銀ナノワイヤーが伸長しており、当該銀ナノワイヤーの一端が担体に支持(固定)されているという点でより好ましい。この場合、伸長した銀ナノワイヤーが担体に接触することがあるが、この接触は前記「支持」に該当しない。
【0023】
担体に対する銀ナノワイヤーの担持量は、所望の触媒活性等に応じて適宜設定することができるが、通常は担体100重量部に対して銀ナノワイヤー0.5〜100重量部、好ましくは1〜80重量部、より好ましくは1〜50重量部に範囲内で調整すれば良い。
【0024】
(2)本発明触媒の製造方法
本発明触媒は、例えば銀イオンを含む担体に電子線を照射することによって好適に製造することができる。
【0025】
本発明における銀イオン含む担体は、本発明触媒の製造方法における出発材料である。この場合、その担体そのものは、電子線の照射により銀ナノワイヤーとして成長する際に、銀ナノワイヤーの支持体としての役割も果たす。
【0026】
銀イオンを含む担体としては、
一般式(1):AgSif …(1)
(但し、Bは、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、銅、亜鉛、水素及びアンモニウムの少なくとも1種である。Dは、3〜5価の金属イオンになりうる金属元素の少なくとも1種である。a、c、e、f、g及びhは、0<a、0≦c、1<a+c≦4、1≦e≦2、0≦f≦3、0≦g<3、10≦h≦15を満たす数である。)で示される化合物を用いることが好ましい。特に、銀イオンを含む担体として、銀イオンを含む担体が、一般式Na1+xZrSi3−x12(但し、xは、0≦x≦3を満たす。)で示されるリン酸ジルコニウム塩にイオン交換によって銀イオンを導入してなるものがより好ましい。xは、好ましくは0<x≦3であり、より好ましくは0<x≦2.5、最も好ましくは0.5≦x≦2である。
【0027】
上記一般式(1)において、aは、0<aである。好ましいaは、一般式(1)で示される化合物中のAgの含有率が0.36モル%以上となる値である。
【0028】
上記一般式(1)において、Bは、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、銅、亜鉛、水素及びアンモニウムから選ばれる少なくとも1種である。例えば、リチウム、ナトリウム及びカリウム等のアルカリ金属元素、マグネシウム又はカルシウム等のアルカリ土類金属元素、銅、亜鉛がある。これらの中では、化合物の安定性及び安価に入手できる点から、銅、亜鉛、リチウム、ナトリウム、カリウム、水素及びアンモニウムの少なくとも1種が好ましい。
【0029】
上記一般式(1)において、1<a+c≦4であるが、好ましくは1.5≦a+c≦4であり、より好ましくは2≦a+c≦4である。
【0030】
上記一般式(1)において、Dは、3〜5価の金属イオンになりうる金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の金属元素であり、2種以上の金属元素を使用するときは、各金属元素の合計量がe(1≦e≦2)となるよう適宜組み合わせて使用することができる。3価金属元素としては、例えばクロム、アルミニウム、鉄等が挙げられる。4価金属元素としては、例えばチタン、ジルコニウム、ゲルマニウム、錫、ハフニウム等が挙げられる。5価金属元素としては、例えばニオブ、タンタル等が挙げられる。好ましい具体例には、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、錫、ニオブ等の少なくとも1種が挙げられ、化合物の安全性を考慮すると、鉄、ジルコニウム及びチタンの少なくとも1種が特に好ましい。
【0031】
上記一般式(1)において、eは、1≦e≦2であるが、好ましくはe=2である。
【0032】
上記一般式(1)において、fは、0≦f≦3であるが、好ましくは0.5≦f≦3であり、より好ましくは1≦f≦2.5である。
【0033】
上記一般式(1)において、gは、0≦g<3であるが、好ましくは0<g≦2.5であり、より好ましくは0.5≦g≦2である。
【0034】
上記一般式(1)において、hは、他のAg、B、D、Si及びPの量に応じて適宜決まる。好ましくは10≦h≦15であり、より好ましくは11≦h≦13である。
【0035】
銀イオンを含む担体(銀イオン担体)に電子線を照射するに際し、電子線を供給するものとしては、金属イオン担持体に電子を供給できるものであれば特に制限されない。例えば、電子銃が挙げられる。電子銃としては、熱電子銃、電界放射型電子銃等をはじめとする種々の型の電子銃が使用できる。本発明では、特に熱電子銃又は電界放射型電子銃が好ましい。
【0036】
電子線は、電子銃から放射された後、必要に応じて電子レンズ、偏向電極又は偏向電磁石、エネルギーをそろえるための速度選別器を通過させた後に標的に衝突させる。加速電圧は、真空度にも左右されるが、一般的には1kV以上であり、好ましくは5kV以上であり、さらに好ましくは30〜300kVである。また、真空度は、加速電圧にも左右されるが、1×10−4Pa以上であり、好ましくは1×10−6〜5×10−5Paであり、より好ましくは1×10−6〜2×10−5Paである。
【0037】
電子線を標的に衝突させるための装置としては、例えば電子顕微鏡、X線マイクロアナライザー(EPMA)、光電子分光装置(ESCA)、サイクロトロン等の公知又は市販の装置を使用することができる。本発明では、特に電子顕微鏡が好ましい。これらの装置を使用する場合にも、上述の加速電圧及び真空度が適用されることが好ましい。電子顕微鏡としては、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、走査型透過電子顕微鏡(STEM)等が使用できる。本発明では、特に透過型電子顕微鏡が好ましい。
【0038】
電子線を照射された銀イオン担体は、表面に亀裂を生じ、その亀裂から銀ナノワイヤー又は銀ナノパーティクルが伸長する。電子線の照射条件、銀イオン担体の組成等を調節することにより、銀ナノワイヤーと銀ナノパーティクルの両者を同時に製造することもできるし、別々に製造することもできる。例えば、銀イオン担体に電子線を照射した場合、銀イオン担体中に含まれる銀イオン含有量が0.36モル%以上とすることにより、銀ナノワイヤーの製造に特に有利である。
【0039】
上記一般式(1)で示される化合物は公知のものも使用することができる。また、その合成方法も、固相法、湿式法、水熱法等の方法を採用することができ、特に限定されるものではないが、例えば以下のようにして製造することができる。
【0040】
固相法により合成する場合は、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を含有する化合物、ケイ素を含有する化合物、3〜5価の金属イオンになりうる金属元素を含有する化合物及びリン酸を含有する化合物を適当な混合比で混合し、これを1000〜1300℃で焼成することにより、下記一般式(2)で示される化合物を製造することができる。
B’a+cSi …(2)
(B’は、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、D、a、c、e、f、g及びhは、上記(前記一般式(1))のとおりである。)
【0041】
固相法による上記一般式(2)の化合物の製造において、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を含有する化合物としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、硝酸塩、窒化物等が例示される。好ましくは炭酸塩、炭酸水素塩及び硝酸塩の少なくとも1種であり、特に炭酸塩及び硝酸塩の少なくとも1種である。より具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム及び硝酸ナトリウムの少なくとも1種である。
【0042】
固相法による上記一般式(2)の化合物の製造において、ケイ素を含有する化合物としては、二酸化ケイ素、ケイ酸塩等が例示される。好ましくは二酸化ケイ素、ケイ酸ナトリウム及びコロイダルシリカの少なくとも1種であり、より好ましくは二酸化ケイ素である。
【0043】
固相法による上記一般式(2)の化合物の製造において、3〜5価の金属イオンになりうる金属元素を含有する化合物としては、3〜5価の金属酸化物、金属水酸化物、炭酸塩等が例示される。好ましくは酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化錫、含水酸化ジルコニウム、含水酸化チタン、酸化ニオブ、酸化クロム、硝酸クロム、酸化アルミニウム等の少なくとも1種であり、より好ましくは酸化ジルコニウム及び酸化チタンの少なくとも1種である。
【0044】
固相法による上記一般式(2)の化合物の製造において、リン酸を含有する化合物としては、リン酸塩、リン酸水素塩等が例示される。好ましくはリン酸ナトリウム、リン酸ジルコニウム、リン酸チタン、リン酸カリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、リン酸水素アンモニウム等の少なくとも1種であり、より好ましくはリン酸ナトリウム、リン酸ジルコニウム、リン酸チタン及びリン酸水素アンモニウムの少なくとも1種である。
【0045】
湿式法により合成する場合は、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を含有する化合物、ケイ素を含有する化合物、3〜5価の金属イオンになりうる金属元素を含有する化合物及びリン酸を含有する化合物を適当な混合比で混合し、混合物と水を耐圧容器に封入し、好ましくは300℃にて10〜30時間、特に19〜21時間水熱条件下で反応させることにより上記一般式(2)で示される化合物を得ることができる。
【0046】
湿式法による上記一般式(2)の化合物の製造において、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を含有する化合物としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、硝酸塩等が例示される。好ましくは炭酸塩及び硝酸塩の少なくとも1種であり、より好ましくは、ケイ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム等の少なくとも1種である。
【0047】
湿式法による上記一般式(2)の化合物の製造において、ケイ素を含有する化合物としては、ケイ酸塩類、二酸化ケイ素等が例示される。好ましくはケイ酸ナトリウム、コロイダルシリカの少なくとも1種であり、より好ましくはケイ酸ナトリウムである。
【0048】
湿式法による上記一般式(2)の化合物の製造において、3〜5価の金属イオンになりうる金属元素を含有する化合物としては、3〜5価の金属塩類、リン酸塩類、塩化物、硝酸塩等が例示される。好ましくはリン酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、塩化チタン、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化錫、塩化タンタル等の少なくとも1種であり、より好ましくα型−リン酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム及び塩化チタンの少なくとも1種である。
【0049】
湿式法による上記一般式(2)の化合物の製造において、リン酸を含有する化合物としては、リン酸、リン酸塩類、リン酸水素塩等が例示される。好ましくはリン酸ジルコニウム、リン酸チタン及びリン酸ナトリウムの少なくとも1種であり、より好ましくはリン酸ジルコニウム及びリン酸ナトリウムの少なくとも1種である。
【0050】
固相法、湿式法等による上記一般式(2)の化合物の製造において、これら化合物の混合比は、目的とする一般式(2)の化合物に従い適宜選択される。例えば、固相法において、炭酸ナトリウム(NaCO)、二酸化ケイ素(SiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)及びα型−リン酸ジルコニウム(Zr(HPO・HO)を1.25:1.5:1.25:0.75のモル比となるよう混合し、これを1000〜1300℃で焼成することにより、好ましくは室温から徐々に加温し、1000〜1300℃で焼成することにより、下記一般式(3)の化合物を得ることができる。
Na2.5ZrSi1.51512 …(3)
【0051】
固相法、湿式法等により得られた一般式(2)で示される化合物を、室温(20℃)〜100℃の温度条件下、所定の酸濃度、例えば0.1〜3Nに調整した酸性溶液で、例えば2〜7日間処理し、プロトン型化合物とした後、続いて所定の銀イオン濃度、例えば0.1〜3Nに調整した銀イオン含有水溶液に例えば2〜7日間浸漬して、イオン交換することにより、一般式)(1)で示される化合物を得ることができる。この際、用いる酸性溶液としては、例えば塩酸、硝酸等が挙げられ、より好ましくは塩酸が挙げられる。また、銀イオン含有水溶液としては硝酸銀水溶液が好適である。
【0052】
また、固相法、湿式法、水熱法等により得られた一般式(2)で示される化合物の酸性溶液処理を省略し、当該化合物を銀イオン含有水溶液に浸漬することによっても一般式(1)で示される化合物を得ることができる。
【0053】
さらに、公知の方法により反応促進剤としてアルカリ金属、アルカリ土類金属、アニオン、オキソ酸、金属酸化物等を添加又は添着しても良い。
【0054】
2.エチレンオキサイドの製造方法
本発明は、本発明触媒(エチレンオキサイド製造用触媒)の存在下においてエチレンを酸化することによってエチレンオキサイドを製造する方法を包含する。
【0055】
エチレンの酸化は、液相反応、気相反応等のいずれであっても良いが、特に気相反応(気相酸化)が好適である。気相反応に際しては、酸化反応のためのガスとしては、酸素又は酸素含有ガスを用いれば良い。酸素含有ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスで希釈されていても良い。また、空気を用いることもできる。
【0056】
酸素又は酸素含有ガスの供給量は、使用するエチレンが酸化するのに十分な量とすれば良く、例えばエチレン1モルに対して酸素(O)が0.5モル以上となるように設定することができる。
【0057】
上記の気相反応の形態としては、例えば連続式、回分式、半回分式等のいずれも採用することができる。連続式の場合は、エチレンと酸素又は酸素含有ガスとが反応できるように適宜その流量を設定すれば良い。また、上記の気相反応において、本発明触媒は、これらの出発原料と接触できるように配置すれば良く、例えば固定床、流動床等のいずれの公知の形態であっても良い。
【0058】
また、本発明触媒の使用量は、出発原料であるエチレン等の供給量等に応じて適宜設定すれば良い。
【0059】
気相反応における温度は、特に限定的ではないが、通常は180〜400℃、特に200〜380℃、さらには320〜360℃とすることが好ましい。また、圧力は、ゲージ圧が0〜4MPaとなるように適宜設定すれば良い。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0061】
実施例1
(1)触媒の調製
出発原料としてリン酸ジルコニウム、炭酸ナトリウム、二酸化ケイ素及び酸化ジルコニウムをモル比がZr(HPO:NaCO:SiO:ZrO=0.75:1.25:1.5:1.25となるように正確に量り取り、よく混合した。これを1200℃(昇温速度:100℃/hr)にて3時間焼成し、NASICON(Na2.5ZrSi1.51.512)を得た。得られたNASICON(3g)を1NのHCl(1000mL)に添加し、室温にて3時間撹拌した。撹拌後、ろ過、洗浄、乾燥により、H型NASICON(H2.5Zr2.0Si1.51.512)を得た。次いで、得られたH型NASICON(3.0g)を0.1Nの硝酸銀溶液300mLに添加し、室温にて3時間撹拌した。撹拌後、ろ過、洗浄、乾燥により、Ag型NASICONを得た。銀含有量は、硝酸銀水溶液の初期濃度とイオン交換後の平衡濃度を原子吸光分析法により測定し、その差からAg型NASICONのAgの含有量を算出したところ、36.2重量%のAgを含むことがわかった。
【0062】
続いて、得られたAg型NASICONをエリアビーム型電子線照射装置にて以下に示す条件で電子線照射し、電子線照射Ag型NASICON(TEM−Ag/NASICON)を調製した。
<電子線照射条件>
使用装置:(株)NHVコーポレーション社製 エリアビーム形電子線照射装置「キュアトロン−300」
電子線量:1000kGy
加速電圧:300kV
電子線電流:30.7mA
コンベア速度:10m/min
酸素濃度:0ppm(窒素雰囲気)
温度:30℃
【0063】
得られたTEM−Ag/NASICONを透過型電子顕微鏡で観察した。その結果を図1に示す。図1の丸い破線枠で示すように、銀のナノワイヤーが担体から伸長していることがわかる。
【0064】
(2)エチレンの直接気相酸化によるエチレンオキサイドの合成
前記(1)で得られたTEM−Ag/NASICONを触媒として用い、エチレンの直接気相酸化によるエチレンオキサイドの合成を実施した。
【0065】
反応装置として図2に示す常圧固定床流通式反応装置を用いた。原料ガスは、エチレン:O=4mL/min:5mL/minとなるように調整し、総流量30mL/minとなるようにヘリウムガスで希釈したものを用いた。反応管(reactor)にTEM−Ag/NASICON(0.5g(担体を含む。))を充填した。反応管は石英製であり、中央部が直径9mm、長さが35mmであり、その両端は直径4mmの管からなる全長250mmのものである。この反応管は、反応の際に非触媒的な均一気相反応の寄与を少なくするために、触媒充填部分の死容積が最小に作られている。
【0066】
反応に先立って、ヘリウムガス流量21mL/minを反応管に通気させながら、電気炉にて触媒の充填させた反応管を1時間×150℃で加熱することで触媒の前処理操作とした。次いで、反応管に前記原料ガスを上記の所定の流量で流通させ、反応温度350℃にてエチレンの直接気相酸化反応を行った。
【0067】
(3)反応生成物の分析
反応生成物の分析は、熱伝導型検出器(TCD)を装備したオンラインガスクロマトグラフ(SHIMAZU GC−8APT)と積分器(SHIMAZU C−R6A)を用いて行い、キャリアガスはヘリウムとした。
【0068】
カラムには HayeSep R(2m×直径3mm,使用温度45−160℃ ( 昇温速度32℃/min))、Molecular Sieve 5A(MS 5A, 0.2cm×直径3mm,使用温度45℃)の2種類のカラムを用いた。このカラムシステムの概略図を図3に示す。MS 5Aで酸素と二酸化炭素の検出を行い、HayeSepRで二酸化炭素とC2化合物の検出を行った。分析は、反応開始から0.75時間後、1.75時間後、3.0時間後、4.5時間後の4点について行った。
【0069】
各成分量は予め作成した検量線により算出した。各変化率、選択率の計算式を図4に示し、炭素原子1個を基準にして計算を行った。その結果を図5に示す。
【0070】
また、比較例1として、米国特許第5625084号に開示された錯体形成法に準拠して調製したAg(56)NaCl(1)/NASICON触媒について同様の試験を行った。この触媒の担体は、NASICON(Na2.5ZrSi1.51.512)をプロトン交換したH型NASICONを用いて製造した。また、この触媒の銀の含有量は56重量%であった。比較例1の触媒について、反応温度を300℃としたほかは前記と同様の条件にてエチレンオキサイドの選択率(EO選択率)を求めた。その結果を図6に示す。
【0071】
図6の結果からも明らかなように、実施例1のTEM−Ag/NASICON触媒では高い反応温度にもかかわらず、比較例1のAg(56)NaCl(1)/NASICON触媒に比べて高いEO選択率を発揮できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体及びその担体に担持された銀ナノワイヤーを含む触媒であって、エチレンを酸化することによりエチレンオキサイドを製造するために用いるエチレンオキサイド製造用触媒。
【請求項2】
銀ナノワイヤーの直径が5〜50nmであり、かつ、アスペクト比が10以上である、請求項1に記載のエチレンオキサイド製造用触媒。
【請求項3】
担体が、(i)アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、銅、亜鉛、水素及びアンモニウムの少なくとも1種、(ii)3〜5価の金属イオンになりうる金属元素の少なくとも1種を含む化合物である、請求項1に記載のエチレンオキサイド製造用触媒。
【請求項4】
担体が、ナトリウム、ジルコニウム、ケイ素及びリンを含む化合物である、請求項1に記載のエチレンオキサイド製造用触媒。
【請求項5】
銀イオンを含む担体に電子線を照射することによって得られる、請求項1に記載のエチレンオキサイド製造用触媒。
【請求項6】
銀イオンを含む担体が、
一般式(1):AgSif …(1)
(但し、Bは、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、銅、亜鉛、水素及びアンモニウムの少なくとも1種である。Dは、3〜5価の金属イオンになりうる金属元素の少なくとも1種である。a、c、e、f、g及びhは、0<a、0≦c、1<a+c≦4、1≦e≦2、0≦f≦3、0≦g<3、10≦h≦15を満たす数である。)で示される化合物である、請求項5に記載のエチレンオキサイド製造用触媒。
【請求項7】
銀イオンを含む担体が、一般式Na1+xZr3−x12(但し、xは、0≦x≦3を満たす。)で示されるリン酸ジルコニウム塩にイオン交換によって銀イオンを導入したものである、請求項5に記載のエチレンオキサイド製造用触媒。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のエチレンオキサイド製造用触媒の存在下においてエチレンを酸化することによってエチレンオキサイドを製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−35187(P2012−35187A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176812(P2010−176812)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【出願人】(000237972)富田製薬株式会社 (30)
【Fターム(参考)】