説明

エッチング液およびブラックマトリックスの製造方法

【課題】エッチングの際に、濡れ性向上の効果および消泡性が優れており、エッチング残りのないBMが得られるエッチング液およびBMの製造方法を提供すること。
【解決手段】少なくとも硝酸第二セリウムアンモニウム(a)を15〜20質量%と、硝酸(b)および過塩素酸(c)のいずれか一方、または両方を1〜8質量%と、一般式(1)で表される化合物(d)を0.01〜0.1質量%とを含有することを特徴とするブラックマトリックスの製造に使用されるエッチング液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶カラーフィルターに使用されるブラックマトリックス(以下「BM」と略称する場合がある)の製造に使用されるエッチング液(以下、単に「エッチング液」という場合がある)に関し、さらに詳しくは、エッチングの際に、濡れ性向上の効果および消泡性が優れており、エッチング残りのないBMが得られるエッチング液およびBMの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶カラーフィルターに使用されるBMは、カラーフィルターのR(赤)、G(緑)、B(青)の各着色画素間に、コントラスト向上のために形成されている金属系薄膜からなる遮光性パターンである。
【0003】
近年、カラー液晶テレビ、パーソナルコンピューター、携帯電話の画面などの大型化、薄型化、および高画質化に伴い、上記のBMは、液晶カラーフィルターのコントラスト、およびR、G、Bなどの色特性や透過率などを阻害せず、よりエッチング残りがなく歩留りがよいBMが要求されている。
【0004】
前記のBMは、ガラスなどの基板に形成された金属系薄膜上のレジストを所望のカラーフィルターに対応した遮光性パターンにて露光してエッチングマスクを形成し、酸性エッチング液を用いてエッチングマスクで覆われていない金属系薄膜をスプレー法あるいは浸漬法などのエッチング方法によりエッチングを行い、ガラス基板から金属系薄膜の一部を除去する。その後、エッチングマスクを剥離液を用いて剥離し、水洗洗浄することにより遮光性パターン層のBMが形成される。
【0005】
上記の酸性エッチング液としては、一般に、硝酸第二セリウムアンモニウムを主体とした酸性の酸化性エッチング液が使用されており、さらに、均一なエッチングを行うために、濡れ性の向上を目的として界面活性剤が配合されている。しかしながら、従来の炭化水素系の界面活性剤は、エッチング液中の強酸化性化合物に対して耐酸化性などの化学的安定性が劣り、本来の界面活性剤としての効果が得られない。また、上記の界面活性剤には、起泡作用を誘因するものがありエッチングには悪影響を及ぼす。
【0006】
前記の酸性エッチング液は、BMの製造に際して、大量に消費されるために、エッチング後、エッチング液中の不溶分を濾過除去して回収され、繰り返して使用するという循環方式が採用されている。この循環方式のエッチング液は、エッチング作業をしながら循環して使用している間に徐々に泡が発生したり、エッチング液が劣化する。
【0007】
上記の泡の発生は、BM製造工程において、酸性エッチング液を用いてエッチングマスクで覆われていない金属系薄膜をスプレー法あるいは浸漬法などのエッチング方法によりエッチングを行う際に、上記金属系薄膜の一部やレジストに発生した泡が付着するために、エッチング液の濡れが阻害されることにより、エッチング残りを発生する。
【0008】
また、上記の泡の発生は、それらを抑制するために、新しいエッチング液を補充しておく必要があり、このために、エッチング液補充タンクを含めてエッチング装置自体の容量がかなり大きくなり、生産性にも悪影響を及ぼす。
【0009】
前記の酸性エッチング液を用いたBMの製造例として、特許文献1、特許文献2、および特許文献3が開示されている。特許文献1、特許文献2、および特許文献3に開示のエッチング液は、ある種のフッ素系界面活性剤を酸性エッチング液中に配合しているために、従来の炭化水素系の界面活性剤を配合した酸性エッチング液に比べて、耐酸化性などの化学的安定性は優れており、被エッチング材やレジストに対する濡れ性は向上している。
【0010】
しかしながら、前記の特許文献1〜3に開示のフッ素系界面活性剤[パーフロロアルキルスルフォン酸塩](ペルフルオロアルキルスルフォン酸塩)を配合したエッチング液は、前記の繰り返して使用するという循環方式を採用して、エッチング作業をしながら循環して使用している間に徐々に泡立つ傾向がある。特に、スプレーエッチングにてBMを製造する場合に泡の発生がより増加するために、必要に応じて新しいエッチング液を補充する必要がある。
【0011】
上述のことから、エッチングの際に、濡れ性向上の効果、および消泡性が優れており、新しいエッチング液を頻繁に補充しなくても泡の発生がなくエッチングができ、エッチング残りのないBMが得られるエッチング液およびBMの製造方法が要望されている。
【0012】
【特許文献1】特許第3415127号公報
【特許文献2】特許第3483878号公報
【特許文献3】特開2008−95148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の目的は、エッチングの際に、濡れ性向上の効果および消泡性が優れており、エッチング残りのないBMが得られるエッチング液およびBMの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記の各々のエッチング成分と一般式(1)で表される化合物を適量の範囲で含有する酸性酸化性エッチング液が、エッチングの際に、被エッチング材(BM用のクロム系金属薄膜)やBM用のレジストパターンに対する濡れ性向上の効果を損なわず、新しいエッチング液を頻繁に補充しなくても泡立ちがなく消泡性が優れており、エッチング残りのないBMが得られるエッチング液であることを見い出した。また、優れた消泡性により、新しいエッチング液を頻繁に補充する必要がないために、従来のエッチング装置をよりコンパクトな装置にすることができる。
【0015】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、少なくとも硝酸第二セリウムアンモニウム(a)を15〜20質量%と、硝酸(b)および過塩素酸(c)のいずれか一方、または両方を1〜8質量%と、下記一般式(1)で表される化合物(d)を0.01〜0.1質量%とを含有することを特徴とするブラックマトリックスの製造に使用されるエッチング液を提供する。

(上記式中のRf1およびRf2は、アルキル基の水素の全部をフッ素で置き換えた炭素数が1〜6の直鎖のフッ化炭素基、または分岐鎖を有するフッ化炭素基であり、Xは、カリウムイオン、リチウムイオン、またはナトリウムイオンである。)
【0016】
また、本発明の好ましい実施形態では、前記Rf1およびRf2のフッ化炭素基の炭素数が、いずれも2、4、および6である化合物から選ばれる少なくとも1種であり、硝酸第二セリウムアンモニウム(a)と、硝酸(b)との合計濃度が19〜27質量%であり、化合物(d)の濃度が0.01〜0.08質量%であり、前記化合物(d)の濃度が0.01〜0.05質量%において、消泡時間が20秒以下であり、前記化合物(d)の濃度が0.01〜0.05質量%において、濁度が2NTU以下であり、および表面張力が、18mN/m〜30mN/mであることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、前記のエッチング液を使用して、ブラックマトリックス用基板上に形成されたクロム系金属薄膜をエッチングすることを特徴とするブラックマトリックスの製造方法を提供する。この製造方法においては、前記クロム系金属薄膜が、クロム金属、クロム窒化物、クロム酸化物、クロム窒化酸化物、およびクロム酸化炭化物の群から選ばれる少なくとも1種の単層および/またはそれらの複合体であること、および前記のブラックマトリックスが液晶カラーフィルター用であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、本発明のエッチング液は、エッチングの際に濡れ性向上効果および消泡性が優れていることから、エッチング残りのないBMを歩留りよく製造するのに有効であり、また、消泡性が優れていることから、新しいエッチング液を頻繁に補充する必要がないために従来のエッチング装置をよりコンパクトな装置に設定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明を主として特徴づける化合物(d)は、下記の一般式(1)で表される化合物である。

(上記式中のRf1およびRf2は、アルキル基の水素の全部をフッ素で置き換えた炭素数が1〜6の直鎖のフッ化炭素基、または分岐鎖を有するフッ化炭素基であり、Xは、カリウムイオン、リチウムイオン、またはナトリウムイオンである。)
上記の化合物(d)は、単体で、あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0020】
上記の化合物(d)は、前記一般式(1)に示されるようにそれらを構成するフッ化炭素基の炭素数が1〜6のものであり、好ましくはRf1およびRf2のフッ化炭素基の炭素数が、いずれも2、4、および6である化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物であり、その内でも、とくに好ましくは上記のフッ化炭素基の炭素数が、いずれも4である化合物が挙げられる。
【0021】
上記の化合物(d)を構成するフッ化炭素基の炭素数が多くなると、得られるエッチング液に対する溶解性が低下し、一方、炭素数が少なくなると、得られるエッチング液に対する溶解性は上昇するが、濡れ性の充分な性能効果が得られない。上記のように、フッ化炭素基の炭素数が多くなっても、または、少なくても、いずれの場合もこれらの化合物を配合して得られるエッチング液は、被エッチング材やレジストに対する濡れ性が充分でないために、精度の良いBMが得られない。
【0022】
また、上記の化合物(d)を構成する金属Xは、カリウムイオン、リチウムイオン、またはナトリウムイオンであり、好ましくはカリウムイオンである。これらは、得られるエッチング液に対する溶解性がよく、また、得られるエッチング液に白濁を生じないために、得られるBMに白シミの発生がない。
【0023】
前記の化合物(d)としては、例えば、前記のフッ化炭素基を有するビスペルフルオロアルキルスルフォンイミドのカリウム塩、リチウム塩、およびナトリウム塩など、好ましくはビスペルフルオロブタンスルフォンイミドのカリウム塩、リチウム塩、およびナトリウム塩など、より好ましくは(C49SO22NKであるビスペルフルオロブタンスルフォンイミドのカリウム塩が挙げられる。上記の化合物(d)は、単独でも、あるいは2種以上を混合した混合物として使用することができる。
【0024】
前記化合物(d)の配合量は、得られるエッチング液総量中に0.01質量%〜0.1質量%であり、好ましくは0.01質量%〜0.08質量%、より好ましくは0.01質量%〜0.05質量%である。上記化合物(d)の配合量が多すぎると、得られるエッチング液の消泡時間が長くなり、一方、その配合量が少なすぎると、得られるエッチング液の消泡時間が短くはなるが、濡れ性の向上効果が低下する。
【0025】
本発明のエッチング液は、必須成分として前記配合範囲内の化合物(d)以外に、エッチング成分として、少なくとも硝酸第二セリウムアンモニウム(a)を15〜20質量%と、硝酸(b)および過塩素酸(c)のいずれか一方、または両方を1〜8質量%、好ましくは硝酸第二セリウムアンモニウム(a)を16〜19質量%と、硝酸(b)を5〜7質量%および過塩素酸(c)を5質量%のいずれか一方、または、硝酸(b)を1〜3質量%と過塩素酸(c)を5質量%の両方を含有する。
【0026】
上記の硝酸第二セリウムアンモニウム(a)の配合量が多すぎると、得られるエッチング液中に硝酸第二セリウムアンモニウムが析出し易くなり、一方、その配合量が少なすぎると、BMを構成するクロム系金属薄膜に対するエッチング速度が遅く、また、エッチング速度の安定性が悪くなる。
【0027】
また、前記の硝酸(b)は、エッチングに伴いエッチング液中に発生する生成物によるエッチング液の劣化によるエッチングスピードの低下を抑制する効果がある。上記の硝酸(b)の配合量が多すぎると、BMを構成するクロム系金属薄膜に対するエッチングスピードが遅くなるばかりでなく、硝酸第二セリウムアンモニウム(a)の飽和濃度が低下して、得られるエッチング液納入仕様書液温が低下すると硝酸第二セリウムアンモニウム(a)が析出する。一方、硝酸(b)の配合量が少なすぎると、硝酸第二セリウムアンモニウム(a)の加水分解に対する安定性が悪くなる。
【0028】
また、前記の過塩素酸(c)の配合量が多すぎると、硝酸第二セリウムアンモニウム(a)の溶解度が低下して、得られるエッチング液中に硝酸第二セリウムアンモニウム(a)が析出する。一方、過塩素酸(c)の配合量が少なすぎると、得られるエッチング液が経時的に不安定となる。
【0029】
本発明のエッチング液は、前記の硝酸第二セリウムアンモニウム(a)と、硝酸(b)または過塩素酸(c)のいずれか一方、あるいは、または両方と、前記化合物(d)とを水中に前記配合数値内になるように配合して公知の方法で均一に混合溶解して調製する。上記の水としては、イオン交換水、軟水、蒸留水など、好ましくはイオン交換水が挙げられる。
【0030】
前記本発明のエッチング液において、前記の硝酸第二セリウムアンモニウム(a)と、硝酸(b)との合計濃度が19〜27質量%であり、化合物(d)の濃度が0.01〜0.08質量%であるものが、BM用エッチング液としてより優れた効果を発揮する。
【0031】
また、本発明のエッチング液は、好ましくは消泡性を示すその消泡時間が、前記各々のエッチング材成分の配合範囲において、前記化合物(d)の濃度が0.01質量%〜0.05質量%において、20秒以下である。上記の消泡時間が上記範囲を超えると、消泡性が低下してエッチングの際に、被エッチング材およびレジストに発生した泡が付着してエッチング残りが発生する頻度が高くなる。
【0032】
[消泡時間の測定]
なお、本発明における消泡時間は、下記の測定方法により求めた値である。すなわち、得られたエッチング液を、50mlの試験瓶(スクリューバイアル)に20ml入れ、50回振とうして起泡させ、上記試験瓶の上部に発生した泡の消泡するまでの時間を測定した値である。
【0033】
また、本発明のエッチング液は、好ましくはその濁度が、前記各のエッチング材成分の配合範囲において、前記化合物(d)の濃度が0.01質量%〜0.05質量%において2NTU以下である。上記濁度の値が上記上限を超えると、得られるBMの開口部のガラスなどのBM用の透明基板面に白シミが発生する危険性がある。上記の白シミの発生は、これらのBMを使用して得られるカラーフィルターの色特性や透過率(輝度)などに悪影響を及ぼす。
【0034】
[濁度の測定]
なお、本発明における濁度は、下記の測定方法により求めた値である。すなわち、得られたエッチング液を80℃に加熱し、加熱後および加熱放置後(室温にて)生成した析出物をセントラル科学(株)製(ハック社)の濁度計2100Pを使用して、室温にて比濁法による濁度の測定値である。
【0035】
また、本発明のエッチング液は、その表面張力が18mN/m〜30mN/mであるのが好ましい。上記表面張力が30mN/mを超えると、エッチング液の湿潤濡れ性が劣り、被エッチング材やレジストパターンに対する濡れ性が著しく低下して、エッチング残りのないBMが得られない。一方、表面張力が18mN/m未満であると、エッチングに対してそれ以上の有効な効果が得られない。なお、本発明における表面張力は、下記の測定方法により求めた値である。
[表面張力測定]:エレクトロ平衡式法(白金板吊下げ法)による25℃条件下にて測定した値である。
【0036】
本発明のエッチング液は、BM用基板上に形成されたクロム系金属薄膜を使用したBMの製造に使用することができる。上記のBMの製造方法としては、例えば、次の工程(1)〜(5)からなっている。まず工程(1)では、BM用基板上に形成されたクロム系金属薄膜上に公知のポジ型紫外線感光性樹脂組成物を公知の塗布機を用いて塗布し、乾燥して0.5μm〜1.2μmのレジスト膜を形成する。上記のBM用基板としては、公知のBM用基板であればいずれのものも使用することができ、例えば、液晶ディスプレイパネル用の無アルカリガラス、ソーダーライムガラス、フロートガラスなどのガラス基板、その他、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリメタアクリル、ポリエステルなどの高分子樹脂などの基板が挙げられる。
【0037】
また、上記のクロム系金属薄膜としては、金属クロムを酸素雰囲気、窒素ガス雰囲気、あるいは脱ガス状態中で、公知のスパッタリング法、真空蒸着法などにより上記BM用基板上に薄膜化して150nm〜170nmの厚みの単層、あるいは複合体の薄膜を形成したものである。一般的には、BM用基板上に鏡面反射防止層のクロム系金属薄膜と、該反射防止層以外の遮光層のクロム系金属薄膜を形成する。
【0038】
前記のクロム系金属薄膜としては、好ましくは、クロム金属、クロム窒化物、クロム酸化物、クロム窒化酸化物、およびクロム酸化炭化物の群から選ばれる少なくとも1種の単層および/またはそれらの複合体からなる薄膜が挙げられる。具体的には、クロム酸化物などを主体とした鏡面反射防止層と、クロム金属などを主体とした遮光層の順序で順次複合されたものであり、例えば、基板側からクロム酸化物/クロム金属、クロム酸化物/クロム窒化酸化物/クロム金属、クロム酸化物/クロム窒化物/クロム金属、およびクロム酸化物/クロム窒化物/クロム酸化炭化物/クロム金属が挙げられる。
【0039】
また、前記のポジ型紫外線感光性樹脂組成物は、BMの製造に使用される公知のポジ型紫外線感光性樹脂組成物であればいずれのものも使用することができ、例えば、ナフトキノンジアジドタイプのポジ型紫外線感光性樹脂組成物(ロームアンドハース社製、AZ−TFP−210KまたはAZ−1350)などが挙げられる。
【0040】
前記工程(2)では、前記ポジ型紫外線感光性樹脂組成物より形成されたレジスト膜に、例えば、線幅8〜20μm、開口部50〜200μmのBM用のフォトマスクを介して紫外線にてBMパターンを露光描画させる。
【0041】
前記工程(3)では、露光描画後、アルカリ現像液を使用してスプレー法、あるいは浸漬法などの公知の現像方法により現像を行い、エッチングに使用するエッチングマスクを形成する。必要に応じて、ベーキング硬化して、さらに、クロム系金属薄膜とレジストとの密着性を強固にし、エッチングマスクを形成する。上記のアルカリ現像液としては、例えば、炭酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどのアルカリ剤を適宜に水に溶解したアルカリ水溶液である。
【0042】
前記工程(4)では、エッチングマスク形成後、クリーンルーム温度雰囲気下にて本発明のエッチング液(液温20℃〜30℃)を使用して、エッチング液を循環濾過しながらスプレー法、浸漬法などの公知のエッチング法により、エッチングマスクで覆われていない領域の前記クロム系金属薄膜をエッチングし、該薄膜を除去してガラスなどのBM用基板を露出させる。上記のスプレー法のエッチング条件は、スプレー圧0.1〜0.2MPa、エッチング時間はエッチングされるクロム系金属薄膜の種類、あるいは膜厚により異なるが、通常、30秒〜130秒間である。
【0043】
前記工程(5)では、エッチング後、前記のエッチングマスクが剥離できる公知のアルカリ性剥離液を使用してエッチングマスクを剥離、および水洗除去して、所望のBMパターンを有するクロム系金属薄膜からなるBMが形成される。
【0044】
本発明のBMは、液晶表示装置の液晶カラーフィルター用に使用することができる。本発明のBMを使用した事例としては、例えば、BMが形成されたガラス基板に、公知のカラーフィルター用の感光性着色組成物を塗布し、加熱乾燥して1〜3μm(乾燥厚み)の塗膜を得る。得られた塗膜に所望の画素を形成するため、その設計図面の通りに作成されたマスクを介して露光ギャップ150μm、高圧水銀灯あるいは超高圧水銀灯などにより紫外線を照射して露光描画する。露光後、光硬化した塗膜をアルカリ現像液を使用してスプレー法や浸漬法にて現像し、未露光部分を溶解除去して所望の着色画素を得る。上記の着色画素を得る工程をカラーフィルターに必要とされる色の数だけ繰り返すことによって所望とするカラーフィルターが得られる。上記のカラーフィルターは、通常R(赤)、G(緑)、およびB(青)の各画素をBMが形成されたガラス基板上に配置したものである。
【実施例】
【0045】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。文中「部」または「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0046】
[実施例1〜5](エッチング液K1〜K5)
表1に示すように各々の成分を配合し、均一に撹拌混合して本発明のエッチング液K1〜K5を調製した。なお、表1中の化合物(d)は下記の通りである。
・化合物(d):(C49SO22NK(ビスペルフルオロブタンスルフォンイミドのカリウム塩)
【0047】
[比較例1〜3](エッチング液M1〜M3)
表1に示すように各々の成分を配合し、均一に撹拌混合してエッチング液M1〜M3を調製した。なお、表1中の界面活性剤は下記の通りである。
・界面活性剤z(ペルフルオロアルキルスルフォン酸塩)
z1:直鎖のフッ化炭素基を有するC817SO3
z2:直鎖のフッ化炭素基を有するC817SO3Kの70部と分岐鎖のフッ化炭素基を有するC817SO3Kの30部との混合物。
z3:直鎖のフッ化炭素基を有するC817SO3Naの70部と分岐鎖のフッ化炭素基を有するC817SO3Naの30部との混合物。
【0048】

上記表中の数値は配合部数を表し、硝酸(b)および過塩素酸(c)の配合部数は100%成分に換算した値である。
【0049】
[実施例6〜10および比較例4〜6](BMの製造方法)
前記実施例のK1〜K5のエッチング液と、比較例のM1〜M3のエッチング液を使用して、実施例のBM(a1〜a5)、および比較例のBM(b1〜b3)を製造した。液晶ガラス基板上に形成されたクロム酸化物/クロム窒化物/クロム金属からなる170nmのクロム系金属薄膜面に、ロームアンドハース社製、AZ−TFP−210K(ナフトキノンジアジドタイプのポジ型感光性組成物)を0.6μm(乾燥厚み)になるようにスプレーコーティングし、乾燥後、超高圧水銀灯によりBM用のフォトマスクを介して露光描画し、露光後、公知のアルカリ現像液を用いてスプレー現像し、レジスト線幅10μm、膜厚0.6μm、縦150μm×横100μmの矩形の開口部(ピッチ縦160μm×横110μm)のエッチングマスクを形成した。上記のエッチングマスクを、上記の各々のエッチング液(液温25℃)を使用して、エッチング液を循環濾過しながらエッチング装置(滝沢産業(株)製のNE−7000)を使用してスプレーエッチングを行いBMを製造した。
【0050】
前記の実施例および比較例のエッチング液を使用したBM製造における、エッチング液の泡の発生状態、BMのエッチング残り、濡れ性、および濁度について下記の測定方法により評価した。評価結果を表2に示す。
【0051】
(エッチング液の泡の発生状態)(消泡性)
前記[消泡時間の測定]の方法により各々のエッチング液の発生した泡の消泡時間を測定することにより、その消泡時間が短いほど消泡性がよく、エッチング液の泡の発生が少ない、一方、その消泡時間が長いほど消泡性が劣り、エッチング液の泡の発生が多いことを表す。
【0052】
(BMのエッチング残り)
得られたBMを1000倍の顕微鏡で目視し、BMパターン以外の液晶ガラス基板上に残った不要のクロム系金属薄膜を測定し、下記の方法で評価した。
○:BMのエッチング残りが、全く認められない。
△:BMのエッチング残りが、一部認められる。
×:BMのエッチング残りが、全面に認められる。
【0053】
(濡れ性)
前記[表面張力の測定]の方法により各々のエッチング液の表面張力を測定することにより、その表面張力の値が小さいほど濡れ性がよく、一方、その表面張力が大きいほど濡れ性が低下することを表す。
【0054】
(濁度)
前記[濁度の測定]の方法により各々のエッチング液の濁度を測定する。上記の濁度の値が大きいほど、BMの開口部のガラス面に白シミが発生し易く、また、その濁度の値が小さいほど、白シミの発生が少ないことを表す。
【0055】

【0056】
上記の評価結果により、本発明のエッチング液は、濡れ性を損なわず泡の発生がほとんどないために、エッチング残りのないBMが製造できることが実証された。また、カラーフィルターの色特性や透明性(輝度)に悪影響を及ぼす白シミの発生も従来のエッチング液と同様にほとんど認められなかった。一方、比較例4〜6に見られる従来のエッチング液は、消泡時間が長く泡の発生が認められ、エッチング条件によっては、BMにエッチング残りが発生する傾向が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、本発明のエッチング液は、エッチング残りのない歩留りのよい高性能の液晶カラーフィルター用のBMを製造するエッチング液として有効に使用することができる。また、泡の発生が抑制されていることから、新しいエッチング液を頻繁に補充する必要がないために従来のエッチング装置よりコンパクトなエッチング装置で経済的にBMが製造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも硝酸第二セリウムアンモニウム(a)を15〜20質量%と、硝酸(b)および過塩素酸(c)のいずれか一方、または両方を1〜8質量%と、下記一般式(1)で表される化合物(d)を0.01〜0.1質量%とを含有することを特徴とするブラックマトリックスの製造に使用されるエッチング液。

(上記式中のRf1およびRf2は、アルキル基の水素の全部をフッ素で置き換えた炭素数が1〜6の直鎖のフッ化炭素基、または分岐鎖を有するフッ化炭素基であり、Xは、カリウムイオン、リチウムイオン、またはナトリウムイオンである。)
【請求項2】
前記Rf1およびRf2のフッ化炭素基の炭素数が、いずれも2、4、および6である化合物から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のエッチング液。
【請求項3】
硝酸第二セリウムアンモニウム(a)と、硝酸(b)との合計濃度が19〜27質量%であり、化合物(d)の濃度が0.01〜0.08質量%である請求項1または2に記載のエッチング液。
【請求項4】
前記化合物(d)の濃度が0.01〜0.05質量%において、消泡時間が20秒以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載のエッチング液。
【請求項5】
前記化合物(d)の濃度が0.01〜0.05質量%において、濁度が2NTU以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載のエッチング液。
【請求項6】
表面張力が、18mN/m〜30mN/mである請求項1〜5のいずれか1項に記載のエッチング液。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のエッチング液を使用して、ブラックマトリックス用基板上に形成されたクロム系金属薄膜をエッチングすることを特徴とするブラックマトリックスの製造方法。
【請求項8】
前記クロム系金属薄膜が、クロム金属、クロム窒化物、クロム酸化物、クロム窒化酸化物、およびクロム酸化炭化物の群から選ばれる少なくとも1種の単層および/またはそれらの複合体である請求項7に記載のブラックマトリックスの製造方法。
【請求項9】
ブラックマトリックスが液晶カラーフィルター用である請求項7または8に記載のブラックマトリックスの製造方法。

【公開番号】特開2010−139623(P2010−139623A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314305(P2008−314305)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000183923)株式会社DNPファインケミカル (268)
【Fターム(参考)】