説明

エネルギー量、水分量および食塩換算量を調整できる栄養組成物

【課題】本発明の課題は、多様な人の状態に応じた最適なエネルギー量、水分量およびナトリウム量などを有する栄養組成物を、簡便かつ迅速に調製できる手段を開発することにより、栄養組成物に水および塩化ナトリウムなどを添加する作業を省略でき、かつ調製時の汚染の問題を解消できる手段を提供することにある。
【解決手段】本発明は、エネルギー源となる栄養素、水およびナトリウムを含み、互いに略同一の成分であるが該成分の含量が異なる栄養組成物を、2種以上で組み合わせることにより、組み合わせ後の栄養組成物のエネルギー量、水分量およびナトリウム量などを自由に配合設計して、最適な配合の栄養組成物を簡便かつ迅速に調製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー量、水分量および食塩換算量を調整できる、経腸栄養法に用いる栄養組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
栄養療法は、消化器機能が低下している、患者、乳幼児、高齢者および要介護者などにおいて、食事摂取が不十分もしくは不可能な場合の栄養素補給のために用いられており、なかでも経腸栄養療法は、経静脈栄養法より安全かつ低コストな栄養療法として広く用いられている。これは、中心静脈栄養法では、消化管を経由しないことから、糖代謝異常等の代謝性合併症、消化管粘膜の萎縮等の消化器合併症およびカテーテルに起因する感染症などの問題があるためである。そのため、近年、消化器が機能していれば、中心静脈栄養法ではなく経腸栄養法を選択するという原則が確立しつつある。
【0003】
上記のとおり、経腸栄養法は安全かつ低コストな栄養療法として、多くの患者、乳幼児、高齢者および要介護者などに幅広く用いられており、食品または医薬品として各種の経腸栄養法用の流動性栄養組成物(以下、「流動食」ともいう)が市販されている。また、種々の栄養成分を配合した流動食が提案されている。流動食の配合例が開示されている代表的な特許文献を以下に例示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−142720号公報
【特許文献2】特開2004−051494号公報
【特許文献3】特開2004−075664号公報
【0005】
ここで、従来の市販されている経腸栄養法用の流動食や上記特許文献の流動食は、主にエネルギー量や各種栄養成分の濃度の観点から配合を設計しているため、摂取する人の状態に応じて、一食分のエネルギー量、水分量、およびナトリウム量を塩化ナトリウム(食塩)量に換算した食塩換算量などを調節する必要があり、通常は、市販の流動食のエネルギー量を基準にして、水およびナトリウムなどの含量を計算し、不足分を流動食に添加して調整した後に投与する必要があった。
【0006】
このとき、とくに病院などの医療機関、保育施設や介護施設などの福祉施設においては、流動食を摂取する人は、患者、乳幼児、高齢者および要介護者など多様であり、その人毎の必要なエネルギー量、水分量および食塩換算量は異なっている。さらに、同じカテゴリーの人の間、例えば、同じ疾患の患者の間でも、それぞれの人が必要とするエネルギー量、水分量および食塩換算量は異なっている。
【0007】
しかし、従来の市販されている経腸栄養法用の流動食では、ある種の疾患の患者、乳幼児、高齢者、要介護者などを夫々一括りにして、標準となるエネルギー量および栄養成分の濃度になるように配合されたものが市販されているのが現状である。
そのため、患者などの多様な人の状態に応じて、市販の流動食に、水や塩化ナトリウムなどを添加して調整することになるため、その人毎の必要量に合わせた水や塩化ナトリウムなどの添加作業が必要となり、臨床現場などにおける作業は極めて煩雑となっている。
【0008】
例えば、一般に臨床現場などにおいては、水分の添加は、流動食の容器に湯冷ましを直接加えて混合する方法や、流動食の容器とは別の容器に流動食と湯冷ましを入れて混合する方法などにより行われており、また、塩化ナトリウムの添加は、湯冷ましに塩化ナトリウムを溶かした後に、この溶液を流動食に加えて混合する方法や、溶液をシリンジで経管栄養チューブへ投与する方法などにより行われている。そして、介護や看護に携わる人は、これらの作業を1日に3回、しかも例え同一人物に対する同一処方の流動食であっても食事毎に行う必要があり、作業者は同じ作業を繰り返し行うという、極めて非効率な現状がある。
【0009】
また、従来の市販されている経腸栄養法用の流動食では、上記のとおりエネルギー量や各栄養成分の濃度の観点から配合を設計しており、水分量や食塩換算量が端数であるため、計算がしづらく計算を間違える可能性も生じる。
さらに、一般に流動食の投与は、連続して数時間行われるものであり、上記の水および塩化ナトリウムの添加作業により一度開封された流動食は、微生物などによる汚染の可能性があり衛生的な問題も生じる。
【0010】
したがって、このような状況下では、介護や看護に携わる人の日常業務の中において、市販の流動食の水分量や食塩換算量などを調整するための作業負担は少なくないという問題が、潜在的に存在しているといえる。また、流動食の汚染の可能性も大きな問題となり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者は、このような意外にも、これまで看過されてきた問題にあえて着目し、患者などの多様な人の状態に応じた最適なエネルギー量、水分量および食塩換算量などを有する流動食を、簡便かつ迅速に調製できる手段を開発することにより、流動食に水および塩化ナトリウムなどを添加する作業を省略でき、かつ調製時の汚染の問題を解消できる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、エネルギー源となる栄養素、水およびナトリウムを含み、互いに略同一の成分であるが、エネルギー源となる栄養素、水およびナトリウムから選ばれる1種以上の成分の含量が異なる2種以上の栄養組成物を予め調製して準備し、多様な人の状態に応じた処方に合わせて前記栄養組成物を2種以上で組み合わせることにより、組み合わせ後の栄養組成物のエネルギー量、水分量および食塩換算量を、同時に簡便かつ迅速に調整できることを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、エネルギー源となる栄養素、水およびナトリウムを含む栄養組成物であって、他の1種以上の栄養組成物と組み合わせることにより、組み合わせ後のエネルギー量、水分量および食塩換算量を調整する前記栄養組成物において、該組み合わされる全ての栄養組成物と略同一の成分を含むが、該組み合わされる栄養組成物のうちの1種以上とは、エネルギー源となる栄養素、水およびナトリウムから選ばれる1種以上の成分の含量が異なる、前記栄養組成物に関する。
また本発明は、栄養組成物のエネルギー量が5kcalの整数倍であり、水分量が5mlの整数倍であり、食塩換算量が0.25gの整数倍である、前記栄養組成物に関する。
【0014】
さらに本発明は、栄養組成物のエネルギー量が100〜600kcalであり、水分量が100〜800mlであり、食塩換算量が0.25〜4.5gである、前記栄養組成物に関する。
また本発明は、栄養組成物のエネルギー量、水分量および食塩換算量が、夫々、300kcal、300mlおよび1.0g、300kcal、400mlおよび1.5g、300kcal、500mlおよび2.0g、400kcal、400mlおよび1.5g、400kcal、500mlおよび2.0g、または400kcal、600mlおよび2.5gである、前記栄養組成物に関する。
【0015】
さらに本発明は、エネルギー源となる栄養素が、脂質、タンパク質、炭水化物、およびそれらの加水分解物からなる群より選ばれる1種以上である、前記栄養組成物に関する。
また本発明は、含量を調整する成分として、さらにビタミンおよび/またはナトリウム以外のミネラルを含む、前記栄養組成物に関する。
【0016】
また本発明者は、従来の栄養組成物は、水分量に対するエネルギー量が1.0kcal/mlを超えるように配合設計されており、身体活動レベルの低い寝たきりの高齢者などが必要とする水分量とエネルギー量のバランスとは異なることに着目して、寝たきりの高齢者などの身体活動レベルに適合した、最適な水分量とエネルギー量のバランスを有する栄養組成物の発明を同時に開発した。
したがって本発明は、栄養組成物の水分量に対するエネルギー量が、0.5〜1.0kcal/mlである、前記栄養組成物にも関する。
【0017】
さらに本発明者は、従来の栄養組成物は、エネルギー量に対する食塩換算量が0.25g/100kcal未満となるように配合設計されており、身体活動レベルの低い寝たきりの高齢者などが必要とするエネルギー量と食塩換算量のバランスとは異なることに着目して、寝たきりの高齢者などの身体活動レベルに適合した、最適なエネルギー量と食塩換算量のバランスを有する栄養組成物の発明を同時に開発した。
したがって本発明は、栄養組成物のエネルギー量に対する食塩換算量が、0.25〜1.0g/100kcalである、前記栄養組成物にも関する。
【0018】
また本発明者は、前記栄養組成物を密閉型の容器入りとすることにより、外気との接触を最小限にして患者に投与することを可能とし、栄養組成物の汚染の可能性をさらに減少できることに着目して、密閉式の容器に入れた容器入り栄養組成物の発明を同時に完成した。
したがって本発明は、前記栄養組成物を、密閉式の容器に入れた、容器入り栄養組成物にも関する。
【0019】
また本発明は、前記容器入り栄養組成物を2種以上で含む、容器入り栄養組成物のキットに関する。
さらに本発明は、前記栄養組成物または容器入り栄養組成物を、2種以上で組み合わせることより、組み合わせ後の栄養組成物のエネルギー量、水分量および食塩換算量を調整する方法に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、エネルギー源となる栄養素、水およびナトリウムを含み、互いに略同一の成分を含むが、エネルギー源となる栄養素、水およびナトリウムから選ばれる1種以上の成分の含量が異なる栄養組成物を、2種以上で組み合わせることにより、組み合わせ後の栄養組成物のエネルギー量、水分量および食塩換算量などを自由に配合設計して同時に調整することができるため、多様な人の状態に応じた処方に合わせて、水やナトリウムなどの一日の必要量を計算して栄養組成物に添加する作業を無くして省力化することができる。さらに栄養組成物の調製時の汚染の可能性を大幅に低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明において、栄養組成物とは、経腸栄養法に用いる栄養組成物であり、食品または医薬品である。
ここで、経腸栄養法には、栄養補給を口から行う経口摂取法と、チューブを用いて投与する経管栄養法とを含み、典型的には経管栄養法である。さらに経管栄養法には、経口法、経鼻法および経瘻法を含む。
【0022】
本発明の栄養組成物の性状は、液体、流動体、ゼリー状またはペースト状などであり、典型的には液体または流動体である。なお、栄養組成物を濃縮または乾燥して粉末状または固体などにし、使用時に水などを加えて液体または流動体などにする使用形態でもよい。
また、栄養組成物の分類は、成分栄養剤、消化態流動食もしくは消化態栄養剤、半消化態流動食もしくは半消化態栄養剤、または天然濃厚流動食などであり、典型的には消化態流動食もしくは消化態栄養剤、または半消化態流動食もしくは半消化態栄養剤である。
【0023】
本発明において、組み合わせるとは、本発明の栄養組成物の単体を、単体同士で組み合わせること、ならびに単体で組み合わせて混合した栄養組成物の一部を、単体および/または単体で組み合わせて混合した栄養組成物の一部に組み合わせることを意味する。
本発明の栄養組成物を2種以上で組み合わせることより、エネルギー量、水分量および食塩換算量を調整した栄養組成物は、組み合わせる各栄養組成物の単体を一食分として投与してもよく、また2種以上の栄養組成物の単体を互いに混合した後に、該混合した栄養組成物の全部または一部を一食分として投与してもよい。
【0024】
本発明において、組み合わされる他の1種以上の栄養組成物が、互いに略同一の成分を含むとは、組み合わされる2種以上の栄養組成物が、互いに同一の成分を含むこと、または互いに同一の組み合わせることにより含量を調整する成分を含み、さらに互いに異なる他の成分を含むことを意味する。
【0025】
組み合わされる他の1種以上の栄養組成物の数は、組み合わせ後の栄養組成物が多様な処方に対応できることの観点から、例えば、1〜5つであり、計算が容易であることおよび調製の作業負担を考慮して、好ましくは1〜4つであり、より好ましくは1〜3つである。
【0026】
本発明の栄養組成物において、そのエネルギー量は、組み合わせ後の栄養組成物のエネルギー量が多様な処方に対応できること、およびエネルギー量の計算が容易であることの観点から、好ましくは5kcal、10kcal、25kcal、50kcalまたは100kcalの整数倍であり、品種数を少なくする観点から、より好ましくは25kcal、50kcalまたは100kcalの整数倍であり、とくに好ましくは50kcalまたは100kcalの整数倍である。
【0027】
本発明の栄養組成物において、その水分量は、同様に組み合わせ後の栄養組成物の水分量が多様な処方に対応できること、および水分量の計算が容易であることの観点から、好ましくは5ml、10ml、25ml、50mlまたは100mlの整数倍であり、品種数を少なくする観点から、より好ましくは25ml、50mlまたは100mlの整数倍であり、とくに好ましくは50mlまたは100mlの整数倍である。
【0028】
本発明の栄養組成物において、食塩換算量とは、栄養組成物に含まれるナトリウム量を塩化ナトリウム(食塩)量に換算した数値である。
本発明の栄養組成物において、その食塩換算量は、同様に組み合わせ後の栄養組成物の食塩換算量が多様な処方に対応できること、および食塩換算量の計算が容易であることの観点から、好ましくは0.25g、0.5g、1.0gまたは2.5gの整数倍であり、品種数を少なくする観点から、より好ましくは0.25g、0.5gまたは1.0gの整数倍であり、とくに好ましくは0.5gまたは1.0gの整数倍である。
【0029】
本発明の栄養組成物において、エネルギー量、水分量および食塩換算量の配合は、組み合わせ後の栄養組成物のエネルギー量、水分量および食塩換算量が多様な処方に対応できること、計算が容易であることおよび品種数を減らす観点から、好ましくはエネルギー量、水分量および食塩換算量が、夫々、100kcal〜600kcal、100ml〜800mlおよび0.25g〜4.5gの範囲であり、より好ましくは200kcal〜500kcal、200ml〜700mlおよび0.5g〜3.5gの範囲であり、とくに好ましくは300kcal〜400kcal、300ml〜600mlおよび0.5g〜2.5gの範囲である。
【0030】
本発明の栄養組成物において、エネルギー量、水分量および食塩換算量の具体的な配合例としては、同様に組み合わせ後の栄養組成物のエネルギー量、水分量および食塩換算量が多様な処方に対応できること、計算が容易であることおよび品種数を減らす観点から、例えば、エネルギー量、水分量および食塩換算量が、夫々、300kcal、300mlおよび0.5g、300kcal、300mlおよび1.0g、300kcal、400mlおよび1.0g、300kcal、400mlおよび1.5g、300kcal、500mlおよび1.5g、300kcal、500mlおよび2.0g、400kcal、400mlおよび1.0g、400kcal、400mlおよび1.5g、400kcal、500mlおよび1.5g、400kcal、500mlおよび2.0g、400kcal、600mlおよび2.0g、または400kcal、600mlおよび2.5gである栄養組成物などがあげられ、好ましくは、エネルギー量、水分量および食塩換算量が、夫々、300kcal、300mlおよび1.0g、300kcal、400mlおよび1.5g、300kcal、500mlおよび2.0g、400kcal、400mlおよび1.5g、400kcal、500mlおよび2.0g、または400kcal、600mlおよび2.5gである栄養組成物などがあげられる。
【0031】
実際の臨床現場などにおける経腸栄養法の処方は多様であり、処方のエネルギー量、水分量および食塩換算量の範囲は必ずしも明確ではないが、一般的には、エネルギー量が600〜2000kcalの範囲であり、水分量が600〜2000mlの範囲であり、食塩換算量が3〜12gの範囲であるため、上記のとおり配合された栄養組成物を2種以上で組み合わせることにより、実際の臨床現場などにおいて求められる大部分の処方に対応することできる。
【0032】
本発明において、含量を調整する成分としては、エネルギー源となる栄養素、水、ナトリウム、ビタミン、ナトリウム以外のミネラルおよび食物繊維などがあげられ、典型的には、エネルギー源となる栄養素、水およびナトリウムである。エネルギー源となる栄養素としては、脂質、タンパク質、炭水化物およびそれらの加水分解物などがあげられる。これらの成分の詳細は後述する。
【0033】
本発明の栄養組成物において、栄養組成物の水分量に対するエネルギー量は、本発明の栄養組成物が投与される患者などの身体活動レベルを考慮して、好ましくは0.5〜1.0kcal/mlであり、より好ましく0.5〜0.9kcal/mlであり、とくに好ましくは0.5〜0.8kcal/mlである。経腸栄養法が適用される寝たきりの高齢者などでは、身体活動レベルが低いため、栄養組成物の水分量に対するエネルギー量を低くする必要があり、0.5〜1.0kcal/mlの範囲であれば、水分摂取不足による脱水状態や尿量減少に起因する尿路感染症などの問題を防止することができる。
【0034】
本発明の栄養組成物において、栄養組成物のエネルギー量に対する食塩換算量は、本発明の栄養組成物が投与される患者などの必要な熱量を考慮して、好ましくは0.25〜1.0g/100kcalであり、より好ましくは0.35〜1.0g/100kcalであり、とくに好ましくは0.45〜1.0g/100kcalである。経腸栄養法が適用される寝たきりの高齢者などでは、必要な熱量が少ないため、エネルギー量に対する食塩換算量を高くする必要があり、0.25〜1.0g/100kcalの範囲であれば、尿濃縮能による低ナトリウム血症などの問題を防止することができる。
【0035】
本発明において、密閉式容器とは、内容物である栄養組成物と外界とを遮断するための密閉された容器(クローズドパック)を意味し、容器の形態としては、典型的にはパック、レトルトパウチ、ソフトバッグ、定形の容器および缶などがあげられ、好ましくはパック、レトルトパウチ、ソフトバッグ、定形の容器などである。容器の材質としては、典型的には紙、プラスチック、ガラスおよび金属などがあげられ、好ましくは紙、プラスチックおよび金属などである。
【0036】
また容器は、流出用および/または混合用の細口部を1つまたは2つ以上で備えていてもよく、該細口部は、使用前にはシールされており、使用時に栄養組成物を投与するチューブまたは他の栄養組成物の容器の細口部などに、直接に接続できる機構を備えていてもよい。
本発明の栄養組成物を充填する容器を、上記の密閉式容器とすることにより、栄養組成物の患者への投与、栄養組成物同士への他のタンパク質、ビタミン、ミネラルなどの成分の添加、および栄養組成物同士の混合などを、開封せずに、または最小限の細口部のみを開封することにより行うことが可能となり、外気との接触を最小限に抑えて汚染を防止することができる。
【0037】
本発明において、栄養組成物のキットとは、本発明の容器入り栄養組成物を2種以上で含む、経腸栄養法に用いるための栄養組成物のキットを意味し、容器入り栄養組成物を2種以上の他に、経管栄養法用のチューブ、活栓、シリンジおよび接続用のアダプタなどを含んでもよい。
キットに含まれる2種以上の容器入り栄養組成物は、臨床現場などにおいて求められる大部分の処方に適切に対応することできるように、特定の配合の容器入り栄養組成物を2種以上で組み合わせた容器入り栄養組成物の一群としてもよく、該容器入り栄養組成物の一群を複数セット含んでもよい。
【0038】
また、キットに含まれる容器入り栄養組成物の品種数は、組み合わせ後の容器入り栄養組成物が多様な処方に対応できることなどの観点から、例えば、1〜18種類であり、計算が容易であることおよび品種数を少なくする観点などから、好ましくは1〜12種類であり、より好ましくは1〜6種類である。
【0039】
容器入り栄養組成物の一群の具体例としては、例えば、エネルギー量、水分量および食塩換算量の配合が、夫々、(A)300kcal、300mlおよび1.0g、(B)300kcal、400mlおよび1.5g、ならびに(C)300kcal、500mlおよび2.0gである3種類の容器入り栄養組成物を一群としたもの、(D)400kcal、400mlおよび1.5g、(E)400kcal、500mlおよび2.0g、ならびに(F)400kcal、600mlおよび2.5gである3種類の容器入り栄養組成物を一群としたもの、該(A)〜(F)の6種類の容器入り栄養組成物を一群としたもの、(A’)300kcal、300mlおよび0.5g、(B’)300kcal、400mlおよび1.0g、ならびに(C’)300kcal、500mlおよび1.5gである3種類の容器入り栄養組成物を一群としたもの、(D’)400kcal、400mlおよび1.0g、(E’)400kcal、500mlおよび1.5g、ならびに(F’)400kcal、600mlおよび2.0gである3種類の容器入り栄養組成物を一群としたもの、該(A’)〜(F’)の6種類の容器入り栄養組成物を一群としたもの、ならびに該(A)〜(F)および該(A’)〜(F’)の12種類の容器入り栄養組成物を一群としたものなどがあげられる。
【0040】
本発明の栄養組成物に配合する、前記のナトリウム、脂質、タンパク質、炭水化物、ビタミンおよびミネラルなどは、食品および飲料ならびに医薬品の分野において、通常に用いられているものであれば特に限定されないが、厚生労働省に、食品および医薬品の原材料および添加剤として認可されているものを用いることが好ましい。また、各栄養素の配合量は、例えば厚生労働省策定の「日本人の食事摂取基準(2005年版)」に従って決定することができる。本発明の栄養組成物に配合する各栄養素の具体例を以下に示す。
【0041】
本発明の栄養組成物のナトリウム供給源としては、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素一ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムおよびトリポリリン酸ナトリウムなどがあげられ、好ましくは塩化ナトリウムおよびクエン酸ナトリウムなどがあげられる。また、これらのナトリウム供給源を1種以上で用いてもよい。
また、本発明の栄養組成物に用いる水は、純水、精製水およびイオン交換水などがあげられる。
【0042】
本発明の栄養組成物に配合する脂質としては、大豆油、パーム油、パーム分別油およびオリーブ油などの植物性油脂、乳脂肪、豚脂および魚油などの動物性油脂、ならびにオレイン酸、リンノレン酸およびγ-リノレン酸などの遊離脂肪酸などがあげられ、好ましくは、大豆油およびパーム油などがあげられる。また、これらの脂質を1種以上で用いてもよい。脂質の配合量は、好ましくは0〜4%の範囲であり、より好ましくは2.2〜3.3%の範囲であり、健常な日本人の平均的な摂取量の観点から、好ましくは栄養組成物の全エネルギー量の0〜30%の範囲であり、より好ましくは20〜25%の範囲である。
【0043】
本発明の栄養組成物に配合するタンパク質としては、大豆タンパク質などの植物性タンパク質、カゼインおよびホエイタンパク質などの動物性タンパク質などがあげられ、好ましくは、大豆タンパク質、カゼインおよびホエイタンパク質などがあげられる。また、これらのタンパク質の加水分解物などを用いてもよく、これらのタンパク質およびその加水分解物などを1種以上で用いてもよい。タンパク質の配合量は、好ましくは2〜10%の範囲であり、より好ましくは3〜6.5%の範囲であり、健常な日本人の平均的な摂取量の観点から、好ましくは栄養組成物の全エネルギー量の12〜40%の範囲であり、より好ましくは16〜25%の範囲である。
【0044】
本発明の栄養組成物に配合する炭水化物としては、デキストリン、ショ糖、乳糖およびオリゴ糖などがあげられ、好ましくは、デキストリン、ショ糖およびパラチノースなどがあげられる。また、これらの炭水化物の加水分解物などを用いてもよく、これらの炭水化物および加水分解物などを1種以上で用いてもよい。炭水化物の配合量は、好ましくは5〜20%の範囲であり、より好ましくは10〜15%の範囲であり、健常な日本人の平均的な摂取量の観点から、好ましくは栄養組成物の全エネルギー量の20〜80%の範囲であり、より好ましくは40〜60%の範囲である。
【0045】
本発明の栄養組成物に配合するビタミンとしては、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンB、ビタミンB、ナイアシン、ビタミンB、葉酸、ビタミンB12、パントテン酸およびビタミンCなどがあげられ、好ましくはビタミンB、ビタミンB、ナイアシン、ビタミンB、葉酸、ビタミンB12、パントテン酸およびビタミンCなどがあげられる。また、これらのビタミンを1種以上で用いてもよい。
【0046】
本発明の栄養組成物に配合するナトリウム以外のミネラルとしては、カルシウム、鉄、リン、マグネシウム、カリウム、銅および亜鉛などがあげられ、好ましくはカルシウム、リン、マグネシウム、カリウムなどがあげられる。また、これらのミネラルを1種以上で用いてもよい。
【0047】
また、本発明の栄養組成物は、食物繊維を含んでもよく、水溶性食物繊維としては、難消化性デキストリンおよび還元難消化性デキストリンなどがあげられ、また、非水溶性食物繊維としては、セルロースなどがあげられる。さらに、本発明の栄養組成物は、各種香料、甘味料および他の添加物などを含むことができる。
【0048】
本発明の栄養組成物のpHは、風味面や物性面の観点から、好ましくはpH3〜11の範囲であり、より好ましくは4〜10の範囲であり、さらに好ましくは5〜9の範囲であり、実質的に7であってもよい。またpHを調整するために、クエン酸などのpH調整剤を含んでもよい。
【0049】
また、本発明の栄養組成物の浸透圧は、高浸透圧による下痢、腹痛など消化器症状の防止の観点から、好ましくは200〜800mOsm/Lの範囲であり、より好ましくは300〜750mOsm/Lの範囲である。
【0050】
さらに、本発明の栄養組成物が液体または流動体の場合には、その粘度は、経管栄養法に用いる観点から、好ましくは室温測定において3〜40mPa・sの範囲であり、より好ましくは5〜20mPa・sの範囲である。
【0051】
本発明の栄養組成物は、当該分野において公知の常法に従って調製することができる。例えば、各成分を秤量し、水に加えて十分に混合した後、乳化させ、該栄養組成物を予め加熱滅菌した後、無菌的に容器に充填する方法(例えば、UHT滅菌法とアセプティック包装法を併用した方法)、または該栄養組成物を容器に充填した後、容器とともに加熱滅菌する方法(例えば、オートクレーブ法)などがあげられる。
【0052】
以下、本発明について実施例に基づいて更に詳細に説明を加えるが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0053】
[実施例1]
エネルギー量が300kcalであり、水分量および食塩換算量が、夫々、Aタイプは300mlおよび1.0g、Bタイプは400mlおよび1.5g、Cタイプは500mlおよび2.0gとなるように、各原材料の配合を設計した。各成分を、約60℃の純水に投入して混合した後、混合液をホモミキサーに投入し、約5000rpm、10分間で粗乳化を行った。ついで、90℃に加温して5分間で静置した後、高圧乳化機にて精乳化(20kgf/cm)を行った。得られた乳化液を約20℃に冷却し、ビタミン、ミネラルおよび香料を添加後、メスアップを行い、A〜Cタイプの流動性栄養組成物を得た。互いに組み合わせるA〜Cタイプの栄養組成物の配合例を、実施例1の配合例として下記表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
また、互いに組み合わせる上記A〜Cタイプの栄養組成物の原料組成例を、実施例1の原料組成例として下記表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
[実施例2]
エネルギー量が400kcalであり、水分量および食塩換算量が、夫々、Dタイプは400mlおよび1.5g、Eタイプは500mlおよび2.0g、Fタイプは600mlおよび2.5gとなるように、各原材料の配合を設計した。前記A〜Cタイプと同様に調製して、D〜Fタイプの流動性栄養組成物を得た。互いに組み合わせるD〜Fタイプの栄養組成物の配合例を、実施例2の配合例として下記表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
また、互いに組み合わせる上記D〜Fタイプの栄養組成物の原料組成例を、実施例2の原料組成例として下記表4に示す。
【0060】
【表4】

【0061】
品質の確認の一例として、上記Fタイプの栄養組成物を、経腸栄養法用の接続口を備えた密閉型のプラスチック容器に充填した後に、レトルト殺菌(予備加熱80℃、殺菌121℃、9分30秒間)して容器入り栄養組成物を調製した。該栄養組成物の物性値を下記表5に示す。なお、表中の製品規格値(基準値)は、一般的な経腸栄養法用の流動性栄養組成物に求められる製品規格値である。
【0062】
【表5】

【0063】
上記Fタイプの容器入り栄養組成物の各物性値は、製品規格値を満たしており、長期の保存でも顕著な増粘、沈殿形成および脂肪分離などの変化は認められなかった。
【0064】
前記A〜Fタイプの栄養組成物を2種以上で組み合わせることにより、組み合わせ後の栄養組成物のエネルギー量、水分量および食塩換算量を最適に調整して、臨床現場において求められる、患者などの症例に合わせた多様な栄養組成物の処方に、迅速かつ柔軟に対応することができた。従来品(単位エネルギー量:1kcal/ml)の栄養組成物を使用した投与方法を比較例1〜6とし、前記A〜Fタイプの栄養組成物を2種以上組み合わせた投与方法を実施例3〜8とした。比較結果を下記表6に示す。
【0065】
【表6−1】

【0066】
【表6−2】

【0067】
上記表6の結果より、比較例1〜6の投与方法では、患者の処方に合わせた栄養組成物の一食分当たりの投与量に対して、水および塩化ナトリウムの添加作業を1日に3回行い、水分量および食塩換算量を調整する必要があることが分かる。また、実際の臨床現場においては、一般的には作業負担を考慮して、エネルギー量は100kcal、水分量は100ml、食塩換算量は0.5または1g単位で管理されており、従来品の水分量および食塩換算量が端数であるため、患者の処方の要求量と投与量の間に誤差が生じていることが分かる。
一方、実施例3〜8の投与方法では、前記A〜Fタイプの栄養組成物を2種以上で組み合わせることにより、患者の処方に完全に適合した栄養組成物を、簡便かつ迅速に調製できることが分かる。
【0068】
次に、前記A〜Fタイプの栄養組成物を組み合わせて、エネルギー量、水分量および食塩換算量を調整した投与パターンの一例を下記表7に示す。
【0069】
【表7−1】

【0070】
【表7−2】

【0071】
上記表7の結果より、前記A〜Fタイプの6種類の栄養組成物を組み合わせる投与パターンにより、エネルギー量が800〜1200kcal、水分量が800〜1800ml、食塩換算量が3.0〜7.5gまでの極めて広い範囲に調整できることが分かる。
実際の臨床現場における患者などの処方は多様であり、処方のエネルギー量、水分量および食塩換算量の範囲は必ずしも明確ではないが、一般的には、エネルギー量が600〜2000kcalの範囲であり、水分量が600〜2000mlの範囲であり、食塩換算量が3〜12gの範囲であるため、前記A〜Fタイプの配合の栄養組成物を2種以上で組み合わせることにより、実際の臨床現場において求められる大部分の処方に対応できることが分かる。
【0072】
本発明によれば、エネルギー源となる栄養素、水およびナトリウムを含み、互いに略同一の成分であるが該成分の含量が異なる2種以上の栄養組成物を予め調製して準備し、これを2種以上で組み合わせることにより、組み合わせ後の栄養組成物のエネルギー量、水分量および食塩換算量などを自由に配合設計して同時に調整することができるため、患者などの処方に合わせて、水やナトリウムなどの一日の必要量を計算して栄養組成物に添加する作業を無くして省力化することができ、かつ栄養組成物の調製時の汚染の可能性を大幅に低減することができるため、とくに病院などの医療機関、保育施設や介護施設などの福祉施設などにおいて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー源となる栄養素、水およびナトリウムを含む栄養組成物であって、他の1種以上の栄養組成物と組み合わせることにより、組み合わせ後のエネルギー量、水分量および食塩換算量を調整する前記栄養組成物において、該組み合わされる全ての栄養組成物と略同一の成分を含むが、該組み合わされる栄養組成物のうちの1種以上とは、エネルギー源となる栄養素、水およびナトリウムから選ばれる1種以上の成分の含量が異なる、前記栄養組成物。
【請求項2】
栄養組成物のエネルギー量が5kcalの整数倍であり、水分量が5mlの整数倍であり、食塩換算量が0.25gの整数倍である、請求項1に記載の栄養組成物。
【請求項3】
栄養組成物のエネルギー量が100〜600kcalであり、水分量が100〜800mlであり、食塩換算量が0.25〜4.5gである、請求項2に記載の栄養組成物。
【請求項4】
栄養組成物のエネルギー量、水分量および食塩換算量が、夫々、300kcal、300mlおよび1.0g、300kcal、400mlおよび1.5g、300kcal、500mlおよび2.0g、400kcal、400mlおよび1.5g、400kcal、500mlおよび2.0g、または400kcal、600mlおよび2.5gである、請求項3に記載の栄養組成物。
【請求項5】
エネルギー源となる栄養素が、脂質、タンパク質、炭水化物、およびそれらの加水分解物からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の栄養組成物。
【請求項6】
含量を調整する成分として、さらにビタミンおよび/またはナトリウム以外のミネラルを含む、請求項1〜5のいずれかに記載の栄養組成物。
【請求項7】
栄養組成物の水分量に対するエネルギー量が、0.5〜1.0kcal/mlである、請求項1〜6のいずれかに記載の栄養組成物。
【請求項8】
栄養組成物のエネルギー量に対する食塩換算量が、0.25〜1.0g/100kcalである、請求項1〜7のいずれかに記載の栄養組成物。
【請求項9】
請求項1〜8に記載の栄養組成物を、密閉式の容器に入れた、容器入り栄養組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の容器入り栄養組成物を2種以上で含む、容器入り栄養組成物のキット。
【請求項11】
請求項1〜9に記載の栄養組成物または容器入り栄養組成物を、2種以上で組み合わせることにより、組み合わせ後の栄養組成物のエネルギー量、水分量および食塩換算量を調整する方法。

【公開番号】特開2010−275318(P2010−275318A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179344(P2010−179344)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【分割の表示】特願2009−550844(P2009−550844)の分割
【原出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【Fターム(参考)】