説明

エポキシ付加物の製造方法

【課題】1分子のポリグリセリンに対して過剰にエポキシ化合物が付加する反応を抑制し、ポリグリセリンとエポキシ化合物との1:1付加物を高い選択率で経済的かつ効率的に製造することができるエポキシ付加物の製造方法を提供する。
【解決手段】アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩又は重炭酸塩、アルコキサイド及び水素化物からなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ性触媒の存在下、ポリグリセリンとエポキシ化合物とを反応させて得られるエポキシ付加物の製造方法であって、前記アルカリ性触媒の使用量がポリグリセリンに対して0.02質量%より大きく0.8質量%以下であり、反応温度が180〜250℃であるエポキシ付加物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリグリセリンとエポキシ化合物との付加反応によるエポキシ付加物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリグリセリンとエポキシ化合物との付加反応により得られるエポキシ付加物は、洗浄剤、可溶化剤、乳化剤、分散剤や起泡剤として香粧品、医薬品等の分野で利用されている。洗浄剤の用途に前記エポキシ付加物を使用する場合、1分子のポリグリセリンに1分子のエポキシ化合物が付加した1:1付加物が優れた洗浄性能を示すが、1分子のポリグリセリンに対して過剰にエポキシ化合物が付加した化合物は、洗浄性能や曇点が低下することが知られている。
【0003】
ポリグリセリンとエポキシ化合物との付加反応では、一般に三フッ化ホウ素エーテル錯体等の均一系酸性触媒や、金属ナトリウム、水酸化ナトリウム等の均一系アルカリ性触媒が用いられるが(特許文献1,2参照)、この場合、反応生成物にエポキシ化合物由来の活性水素が新たに生成するため、反応生成物に対して更に過剰のエポキシ化合物が付加してしまうという問題がある。
【0004】
このような課題を解決するために、多価アルコール化合物とエポキシ化合物との付加反応において、酸性又は塩基性の固体触媒を使用する方法が提案されている(特許文献3参照)。
また、エーテル結合を有する非プロトン性極性溶媒の存在下、ポリグリセリンに対してグリシジルエーテルを反応させるポリグリセリンアルキルエーテルの製造方法が提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−16774公報
【特許文献2】特開2007−9167公報
【特許文献3】特開平11−315043公報
【特許文献4】特開2010−100531公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献3に記載の方法は、前述のエポキシ化合物の過剰な付加反応を抑制することができるが、反応速度が十分ではない。また、固体触媒を分離する作業を必要とするため、生産性に課題がある。
また、前記特許文献4に記載の方法では、生成物であるエポキシ付加物に対するエポキシ化合物の過剰な付加反応を十分に抑制することができない。更に、エポキシ化合物の加水分解が進行して加水分解物を生じ、この加水分解物が洗浄性能や曇点を低下させてしまうという問題がある。
また、エポキシ化合物として、特に、疎水性のエポキシ化合物を用いる場合には、親水性のポリグリセリンとの反応性が低下するため、反応効率(反応速度)が悪化するという課題がある。
【0007】
そこで、本発明は、1分子のポリグリセリンに対して過剰にエポキシ化合物が付加する反応を抑制し、ポリグリセリンとエポキシ化合物との1:1付加物を高い選択率で経済的かつ効率的に製造することができるエポキシ付加物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、アルコキサイド及び水素化物からなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ性触媒の存在下、ポリグリセリンとエポキシ化合物とを反応させて得られるエポキシ付加物の製造方法であって、前記アルカリ性触媒の使用量が、ポリグリセリンに対して0.02質量%より大きく0.8質量%以下であり、反応温度が180〜250℃であるエポキシ付加物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、1分子のポリグリセリンに対して過剰にエポキシ化合物が付加する反応を抑制し、ポリグリセリンとエポキシ化合物との1:1付加物を高い選択率で経済的かつ効率的に製造することができるエポキシ付加物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[ポリグリセリンとエポキシ化合物との付加反応]
本発明におけるポリグリセリンとエポキシ化合物との付加反応は、アルカリ性触媒の使用量をポリグリセリンに対して0.02質量%より大きく0.8質量%以下とし、反応温度を180〜250℃として行う。
【0011】
ポリグリセリンとエポキシ化合物との付加反応においては、1:1付加物の他に、1:2付加物等の副生成物が生じるが、本発明は、アルカリ性触媒の使用量や反応温度を規定しているため、1:1付加物を高い選択率で得ることができる。
なお、本明細書において、「1:1付加物」とはポリグリセリン1分子とエポキシ化合物1分子との付加反応により生成する化合物をいい、「1:2付加物」とはポリグリセリン1分子とエポキシ化合物2分子との付加反応により生成する化合物をいう。
本発明において、ポリグリセリンに対するエポキシ化合物の過剰な付加反応が抑制される理由は明らかではないが、前記条件下で反応を行うことにより、ポリグリセリンが効率的に活性化され、更に原料(ポリグリセリンとエポキシ化合物)の相溶性が向上することにより、ポリグリセリンとエポキシ化合物との反応が効率的に進行するためであると推測される。
【0012】
[原料]
<エポキシ化合物>
本発明の製造方法に用いられるエポキシ化合物は、分子内に1つのエポキシ基を有する化合物をいう。本発明において使用するエポキシ化合物は、反応性向上、エポキシ付加物を洗浄剤として使用したときの洗浄力向上の観点から、下記式(1)で表されるものが好ましい。
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、R1は、炭素数1〜36のアルキル基もしくはアルコキシメチル基、炭素数2〜36のアルケニル基もしくはアルケニルオキシメチル基、又は炭素数6〜36のアリール基もしくはアリールオキシメチル基を示し。R2〜R4は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜36のアルキル基を示す。)
【0015】
前記式(1)中のR1は、エポキシ付加物を洗浄剤として使用したときの洗浄性向上の観点から、炭素数1〜36のアルキル基、アルケニル基、炭素数2〜36のアルコキシメチル基又はアルケニルオキシメチル基が好ましい。これらの置換基の炭素数としては、5〜22がより好ましく、8〜18がより好ましく、10〜14が更に好ましい。また、R1は、同様の観点から、炭素数6〜22のアリール基又はアリールオキシメチル基であってもよく、これらの置換基の炭素数としては、8〜18がより好ましく、10〜14が更に好ましい。
なお、前記アルキル基、アルコキシメチル基、アルケニル基、アルケニルオキシメチル基は、ぞれぞれ直鎖又は分岐鎖のいずれでもよい。
前記R1の中では、エポキシ付加物を洗浄剤として使用したときの洗浄力向上の観点から、前記炭素数のアルキル基、アルコキシメチル基、アルケニルオキシメチル基、又はアリールオキシメチル基が好ましい。
より好ましいR1としては、アルキル基、アルコキシメチル基であって、炭素数が5〜22のもの、より好ましくは炭素数が8〜18のもの、更に好ましくは炭素数が10〜14のものである。更に好ましいR1としては、前記炭素数の直鎖アルコキシメチル基である。
【0016】
前記式(1)中のR2、R3及びR4は、入手容易性、洗浄剤として使用したときの洗浄力向上の観点から、それぞれ独立して水素原子、又は置換基を有してもよい炭素数1〜36のアルキル基を示すが、水素原子又は炭素数1〜15のアルキル基が好ましく、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基がより好ましく、水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基が更に好ましい。ここで、R2〜R4のアルキル基は、ぞれぞれ直鎖又は分岐鎖のいずれでもよい。本発明で使用するエポキシ化合物は、入手容易性及び洗浄力向上の観点から、R2〜R4が全て水素原子のものが好ましい。
【0017】
[ポリグリセリン]
本発明の製造方法に用いられるポリグリセリンは、グリセリンが重合したものであれば特に制限はないが、洗浄性向上の観点から下記式(2)で表されるポリグリセリンを用いることが好ましい。
HO−(A−O)r−H (2)
(式中、Aはグリセリンから2つの水酸基を除いた残基を示し、rは平均縮合度であって、1より大きく20以下の数を示す。)
エポキシ付加物を洗浄剤に用いる場合、式(2)中のrは、1.1〜10が好ましく、1.1〜8がより好ましく、1.5〜6がより好ましく、2〜5が更に好ましい。
このようなポリグリセリンは、例えば、グリセリンをアルカリ性触媒存在下、高温で反応させる方法、グリセリンにグリシドールを付加重合させる方法、及びグリセリンにエピクロロヒドリンを付加重合させた後にアルカリで処理する方法等の従来公知の方法により製造することができる。
【0018】
[アルカリ性触媒]
本発明では、生産性向上、選択性の向上の観点から、ポリグリセリンとエポキシ化合物との反応を、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、アルコキサイド及び水素化物からなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ性触媒の存在下で行う。アルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、取り扱いの容易さと反応性の観点からナトリウム、カリウムがより好ましい。アルカリ土類金属としてはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられ、ポリグリセリン及びエポキシ付加物への溶解性の観点からバリウムがより好ましい。前記アルカリ性触媒としては、反応性及び経済性の観点から、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩及びアルコキサイドからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩及び重炭酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び水酸化バリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが更に好ましい。
【0019】
本発明におけるアルカリ性触媒の使用量は、ポリグリセリンに対して0.02質量%より大きく0.8質量%以下とする。アルカリ性触媒の使用量が0.02質量%以下であると反応性が低下し、アルカリ性触媒の使用量が0.8質量%を超えると1:1付加物の選択率が低くなると共に、反応液に着色が生じる場合がある。
このアルカリ触媒の使用量は、ポリグリセリンに対して0.03〜0.7質量%が好ましく、0.03〜0.6質量%がより好ましく、0.03〜0.5質量%がより好ましく、0.03〜0.4質量%がより好ましく、0.03〜0.3質量%がより好ましく、0.04〜0.2質量%が更に好ましい。
【0020】
本発明における反応温度は180〜250℃である。この反応温度が180℃未満の場合には反応性が低下し生産効率が悪化する。一方、反応温度が250℃を超える場合には、1:1付加物の選択性が低下すると共に、エポキシ化合物の加水分解反応がより促進されてしまう。また、ポリグリセリンの脱水縮合も併発するため所望のエポキシ付加物が得られない。
本発明における反応温度は、生産性の向上、選択性の向上、加水分解反応の抑制の観点から、180〜240℃が好ましく、185〜230℃がより好ましく、190〜230℃が更に好ましい。
【0021】
付加反応の反応時間としては、生産性向上の観点、残存する原料を低減させる観点から、0.1〜20時間が好ましく、1〜10時間がより好ましく、1〜8時間がより好ましく、1〜6時間が更に好ましい。
【0022】
本発明において、反応開始時におけるポリグリセリンとエポキシ化合物とのモル比(エポキシ化合物のモル数/ポリグリセリンのモル数)は、0.1/1〜1.5/1が好ましく、0.15/1〜1/1がより好ましく、0.2/1〜0.5/1がより好ましい。モル比が前記範囲内であると、1:1付加物の選択率が高くなると共に、反応性が向上するため生産効率が良好になる。
【0023】
付加反応は、副反応を抑制する観点から、不活性ガス雰囲気下、特にアルゴンガス、窒素ガス雰囲気下において行うことが好ましい。
また、反応圧力は1:1付加物の選択率を向上させる観点から、好ましくは0.010〜2.0MPa、より好ましくは0.10〜1.0MPaである。
【0024】
前記付加反応は、回分式で反応を行うことができる。ここで回分式とは、一定容積の反応容器に反応原料を投入し、反応の途中もしくは終了後に生成物を取り出す反応方法のことをいう。
本発明においては、回分式反応装置にポリグリセリンとアルカリ性触媒、及びエポキシ化合物の全てを導入して反応を開始してもよい。また、本発明においては、ポリグリセリンとアルカリ性触媒とを含む溶液を回分式反応装置に導入した後、この溶液を反応温度に加温し、これにエポキシ化合物を滴下しながら反応を行ってもよい。
本発明においては、ポリグリセリンとアルカリ性触媒とを含む溶液を回分式反応装置に導入した後、この溶液を反応温度に加温し、これにエポキシ化合物の全量を一括して添加し、反応を行うことが好ましい。このようにエポキシ化合物の全量を一括して添加した場合には、エポキシ化合物の加水分解反応を抑制することができる。
なお、本発明においてエポキシ化合物の全量を一括して添加するとは、反応に使用するエポキシ化合物の全量を分割することなく、できるだけ短時間で反応系内に添加することを指す。エポキシ化合物の加水分解反応を抑制する観点から、好ましい添加時間は、100分以内であり、より好ましくは60分以内、更に好ましくは45分以内、より更に好ましくは30分以内である。
【0025】
本発明の製造方法において、必要に応じて有機溶媒を用いてもよい。有機溶媒としては、活性水素を有しないエーテル系溶媒、ケトン系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アミド系溶媒、スルホキシド系溶媒等が挙げられる。これらのうち、1:1付加物の選択性を高める観点から、活性水素を有しないエーテル系溶媒が好ましく、下記一般式(3)で表される化合物がより好ましい。なお、前記「活性水素」とは、水酸基(−OH)、カルボキシ基(−COOH)、アミノ基(−NH2)、又はチオール基(−SH)中の水素原子をいい、前記「活性水素を有しない」とは、これらの官能基の水素原子が炭化水素基等で置換されていることをいう。
【0026】
5−O−〔(PO)m/(EO)n〕−R6 (3)
(式中、R5、R6は、炭素数1〜8のアルキル基であり、POとEOはそれぞれプロピレンオキシ基とエチレンオキシ基であり、m、nはPO又はEOの付加モル数を示し、それぞれ0〜10であり、mとnとの合計は2〜20である。POとEOの付加順序は問わない。また、“/”は、POとEOの付加形態がブロックでもランダムでもよいことを意味する。)
【0027】
前記一般式(3)中、R5及びR6は、それぞれ独立して炭素数1〜8のアルキル基であり、1:1付加物の選択性を高める観点から、炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
前記一般式(3)中、mとnとの合計は、1:1付加物の選択性を高める観点から、2〜20であり、好ましくは2〜10であり、より好ましくは3〜5、更に好ましくは3〜4である。また、1:1付加物の選択性及び収率を高める観点から、mは0であることが好ましい。
前記一般式(3)で表される化合物としては、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ペンタエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、又はペンタエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。このうち、1:1付加物の選択性を高める観点から、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、又はペンタエチレングリコールジメチルエーテルが好ましく、トリエチレングリコールジメチルエーテル、又はテトラエチレングリコールジメチルエーテルがより好ましい。
【0028】
前記活性水素を有しないエーテル系溶媒の沸点は、1:1付加物の選択性を高める観点から、本発明における反応温度以上であることが好ましい。ここで、前記沸点とは標準沸点、すなわち飽和蒸気圧が1013.25hPa(1atm)と等しくなる温度を意味する。
活性水素を有しないエーテル系溶媒の沸点は、具体的には設備負荷低減の観点から、好ましくは180℃〜500℃、より好ましくは180℃〜400℃、更に好ましくは180℃〜300℃である。
【0029】
活性水素を有しないエーテル系溶媒の使用量は、1:1付加物の選択性を高める観点から、多価アルコール化合物100質量%に対して、好ましくは1〜500質量%、より好ましくは20〜200質量%、更に好ましくは30〜150質量%、特に好ましくは50〜150質量%である。
【0030】
反応系内の水の含有量は、エポキシ化合物の加水分解反応を抑制する観点及び生産性の観点から、0〜1.0質量%が好ましく、0.005〜0.5質量%がより好ましく、0.01〜0.2質量%が更に好ましい。水の含有量が前記範囲内であれば、反応時間が短縮され効率的な製造を行うことができる。なお、反応系内の水の含有量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
エポキシ化合物の加水分解を抑制する観点から、本発明においては、予め脱水処理を施した原料を使用することが好ましい。
この脱水処理としては、反応原料の熱分解を回避する観点、及び粘度低下による操作性向上の観点から、ポリグリセリン、エポキシ化合物共に60℃〜120℃、0.01〜20kPaで行うことが好ましい。
【0031】
本発明においては、反応終了後、酢酸、乳酸、クエン酸等の有機酸や、リン酸、硫酸、塩酸等の無機酸を加えてアルカリ性触媒を中和することが好ましい。また、必要に応じて、イオン交換樹脂、合成吸着剤等による吸着処理により、アルカリ性触媒及び触媒の中和塩を除去することが好ましい。
【0032】
本発明の製造方法によれば、ポリグリセリンとエポキシ化合物との1:1付加物を高い選択率かつ高収率で得ることが可能である。
本発明の製造方法により得られるエポキシ付加物としては、ポリグリセリンとグリシジルエーテル化合物の付加反応によるアルキルポリグリセリルエーテルが挙げられる。
また、本発明の製造方法により、ポリグリセリンとオレフィンオキシド化合物とを反応させることにより、例えば、ポリグリセリン−1−ヒドロキシメチルアルキルエーテル、ポリグリセリン−2−ヒドロキシアルキルエーテルを得ることができる。
本発明により得ることができる化合物としては、洗浄剤として使用した場合に優れた洗浄性を示す、ラウリルトリグリセリルエーテル、ラウリルテトラグリセリルエーテル、ラウリルペンタグリセリルエーテルが好ましく、これらの中では、ラウリルトリグリセリルエーテル、ラウリルテトラグリセリルエーテルが好ましい。
【0033】
本発明により製造されるエポキシ付加物は、ポリグリセリンとエポキシ化合物の1:1付加物を主成分として含有する。ここで主成分とは、得られるエポキシ付加物中における、1:1付加物と1:2付加物との合計含有量に対する1:1付加物の割合が80質量%以上であることを意味する。
【0034】
また、前記反応による生成物中のエポキシ化合物の副生物である加水分解物の含有率は、添加したエポキシ化合物のmol数に対して10mol%以下が好ましく、5mol%以下が好ましく、3mol%以下が更に好ましい。
本発明により得られる生成物は、副生成物が少なく1:1付加体の純度が高いため、精製することなく使用することも可能であるが、精製操作により1:1付加物の純度を更に上げてもよい。純度を高くすることにより、洗浄性能や曇点が高くなる。この1:1付加物は、洗浄剤、可溶化剤、乳化剤、分散剤や起泡剤として香粧品、医薬品等の分野で利用することができる。
【実施例】
【0035】
実施例及び比較例において、「%」は特記しない限り「質量%」を意味する。
[原料]
本発明の実施例及び比較例で用いた原料は以下のとおりである。
<エポキシ化合物>
以下の実施例及び比較例で用いたエポキシ化合物(ラウリルグリシジルエーテル)については、特許3544134号公報に記載の製造方法にしたがって製造した。
具体的には、ラウリルアルコール(商品名:カルコール2098、花王株式会社製)とα−エピハロヒドリンとを酸触媒存在下で反応させてハロヒドリンエーテルを得た後、アルカリ処理を施すことで閉環させてラウリルグリシジルエーテルを得た。
【0036】
<ポリグリセリン>
以下の実施例及び比較例で用いたポリグリセリンは、特開平2−169536号公報に記載の製造方法にしたがって製造した。
具体的には、グリセリンをアルカリ性触媒存在下に脱水縮合反応させた後に蒸留精製を施してポリグリセリン(平均縮合度3.1、Mw:250)を得た。得られたポリグリセリンは、水酸基価1153mgKOH/g、含水率0.18質量%であった。
【0037】
[測定方法]
以下の実施例、比較例における反応の終了は、ガスクロマトグラフィー(GC)にて原料のエポキシ化合物の消失を確認することにより判断した。
また反応後のエポキシ付加物の選択率については、GCにて分析・定量を行った。分析装置及び分析条件を下記に示す。
【0038】
<ガスクロマトグラフィー(GC)分析>
試料に外部標準物質としてテトラデカン(和光純薬株式会社製)を添加した上、トリメチルシリル化剤(GLサイエンス製、TMSI−H)にて処理を施した。固形分をろ別後、以下の条件のガスクロマトグラフィーにて定量分析した。
・装置 :HP6850 Series(HEWLETT PACKARD製)
・カラム:DB1−HT(J&W製、内径0.25mm、長さ15m、膜厚0.1m)
キャリアガス :He、1.0mL/分
注入口温度 :350℃
検出 :FID方式、350℃
カラム温度条件:60℃で2分保持後、10℃/分で温度上昇、350℃で5分保持
【0039】
<反応系内の水含有量の測定方法>
平沼産業(株)製水分測定装置「AQUA COUNTER AQV−2100」シリーズを用いた。試料は測定前に70℃に加熱して均一溶解させ、脱水処理したメタノール及びクロロホルムを重量比1:1で混合した溶媒に溶解させて測定を行った。
【0040】
<1:1付加物の選択率の測定>
反応生成物のGC分析から「1:1付加物選択率」を下記式より算出した。
1:1付加物選択率(%)={(1:1付加物重量)÷(1:1付加物重量+1:2付加物重量)}×100
【0041】
<エポキシ化合物の加水分解物>
反応生成物のGC分析から「エポキシ化合物の加水分解物」を下記式より算出した。
エポキシ化合物の加水分解物(mol%)
=(生成した加水分解物のモル数÷添加したエポキシ化合物のモル数)×100
【0042】
[実施例1〜12,比較例1〜5]
<実施例1>
300ml四つ口フラスコにポリグリセリン100.19g(0.40mol)と炭酸カリウム(和光純薬株式会社製)0.070g(0.51mmol)を入れ、120℃にて撹拌混合した後に0.04kPaの減圧下で脱水処理を2時間行った。脱水後の反応系内含水率は0.08質量%だった。窒素を使用して反応系内を常圧に戻した後、窒素雰囲気下で溶液を200℃まで昇温した後、ラウリルグリシジルエーテル24.31g(0.10mol)を一括で添加した。
エポキシ化合物の添加後、反応系内の温度が200℃に到達した時を反応開始点として反応の進行をガスクロマトグラフィー分析(GC分析)にて追跡したところ、1時間でラウリルグリシジルエーテルの消失を確認したため反応を終了した。
反応生成物をGC分析したところ、1:1付加物選択率は83%、エポキシ化合物の加水分解物は2.3mol%であった。
【0043】
<実施例2>
アルカリ性触媒を水酸化ナトリウム(キシダ化学株式会社製)0.040g(1.0mmol)としたこと以外は、実施例1と同様にして反応を行った。GC分析により反応を追跡したところ、1時間でラウリルグリシジルエーテルの消失を確認したため、反応を終了した。
反応生成物をGC分析したところ、1:1付加物選択率は84%、エポキシ化合物の加水分解物は2.1mol%であった。
【0044】
<実施例3>
アルカリ性化合物に水酸化バリウム八水和物(和光純薬株式会社製)0.16g(0.50mmol)を使用した以外は実施例1と同様にして反応を行った。GC分析により反応を追跡したところ、2時間でラウリルグリシジルエーテルが消失したことを確認した。
反応生成物をGC分析したところ、1:1付加物選択率は83%、エポキシ化合物の加水分解物は3.0mol%であった。
【0045】
<実施例4>
反応温度を180℃としたこと以外は実施例1と同様にして反応を行った。GC分析により反応を追跡したところ、3時間でラウリルグリシジルエーテルが消失したことを確認した。
反応生成物をGC分析したところ、1:1付加物選択率は81%、エポキシ化合物の加水分解物は3.0mol%であった。
【0046】
<実施例5>
反応温度を230℃としたこと以外は実施例1と同様にして反応を行った。GC分析により反応を追跡したところ、エポキシ化合物を添加して反応系内の温度が230℃に到達した時点でラウリルグリシジルエーテルは既に消失していた。
反応生成物をGC分析したところ、1:1付加物選択率は83%、エポキシ化合物の加水分解物は2.7mol%であった。
【0047】
<実施例6>
炭酸カリウムの使用量を0.14g(1.0mmol)としたこと以外は実施例1と同様にして反応を行った。GC分析により反応を追跡したところ、0.5時間でラウリルグリシジルエーテルが消失したことを確認した。
反応生成物をGC分析したところ、1:1付加物選択率は83%、エポキシ化合物の加水分解物は2.7mol%だった。
【0048】
<実施例7>
炭酸カリウムの使用量を0.70g(5.1mmol)としたこと以外は実施例1と同様にして反応を行った。GC分析により反応を追跡したところ、0.5時間でラウリルグリシジルエーテルが消失したことを確認した。
反応生成物をGC分析したところ、1:1付加物選択率は81%、エポキシ化合物の加水分解物は2.3mol%だった。
【0049】
<実施例8>
ラウリルグリシジルエーテルを4時間かけて滴下し、滴下終了後、更に1時間反応を行ったこと以外は実施例1と同様にして反応を行った。
反応生成物をGC分析したところ、1:1付加物選択率は83%、エポキシ化合物の加水分解物は5.0mol%だった。
【0050】
<実施例9>
脱水処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして反応を行った。なお、反応系内の水含有量は0.63質量%であった。GC分析により反応を追跡したところ、2時間でラウリルグリシジルエーテルが消失したことを確認した。
反応生成物をGC分析したところ、1:1付加物選択率は81%、エポキシ化合物の加水分解物は24.8mol%だった。
【0051】
<実施例10>
エポキシ化合物を1,2−エポキシテトラデカンとしたこと以外は実施例1と同様にして反応を行った。GC分析により反応を追跡したところ、1.5時間で1,2−エポキシテトラデカンが消失したことを確認した。
反応生成物をGC分析したところ、1:1付加物選択率は84%、エポキシ化合物の加水分解物は2.6mol%だった。
【0052】
<実施例11>
500ml四つ口フラスコにジグリセリン(東京化成工業株式会社製)100.09g(0.60mol)と炭酸カリウム(和光純薬株式会社製)0.070g(0.50mmol)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(和光純薬株式会社製)100.00gを入れ、120℃にて撹拌混合した後に0.04kPaの減圧下で脱水処理を2時間行った。窒素を使用して反応系内を常圧に戻した後、窒素雰囲気下で溶液を200℃まで昇温した後、ラウリルグリシジルエーテル36.01g(0.15mol)を一括で添加した。
エポキシ化合物の添加後、反応系内の温度が200℃に到達した時を反応開始点として反応の進行をガスクロマトグラフィー分析(GC分析)にて追跡したところ、2時間でラウリルグリシジルエーテルの消失を確認したため反応を終了した。
反応生成物をGC分析したところ、1:1付加物選択率は89%、エポキシ化合物の加水分解物は8.2mol%であった。
【0053】
<実施例12>
テトラエチレングリコールジメチルエーテルの使用量を49.98gとしたこと以外は、実施例11と同様にして反応を行った。GC分析により反応を追跡したところ、2時間でラウリルグリシジルエーテルの消失を確認したため、反応を終了した。
反応生成物をGC分析したところ、1:1付加物選択率は86%、エポキシ化合物の加水分解物は5.7mol%であった。
【0054】
<比較例1>
アルカリ性触媒を使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして反応を行った。GC分析により反応を追跡したところ、6時間でラウリルグリシジルエーテルの消失を確認した。
反応生成物をGC分析したところ、1:1付加物選択率は77%、エポキシ化合物の加水分解物は0.6mol%だった。
【0055】
<比較例2>
反応温度を160℃としたこと、炭酸カリウムの使用量を0.14g(1.0mmol)以外は実施例1と同様にして反応を行った。GC分析により反応を追跡したところ、2時間でラウリルグリシジルエーテルの消失を確認した。
反応生成物をGC分析したところ、1:1付加物選択率は79%、エポキシ化合物の加水分解物は2.2mol%だった。
【0056】
<比較例3>
炭酸カリウムの使用量を0.020g(0.14mmol)としたこと以外は実施例1と同様にして反応を行った。GC分析により反応を追跡したところ、3時間でラウリルグリシジルエーテルの消失を確認した。
反応生成物をGC分析したところ、1:1付加物選択率は79%、エポキシ化合物の加水分解物は2.9mol%だった。
【0057】
<比較例4>
炭酸カリウムの使用量を1.00g(7.2mmol)としたこと以外は実施例1と同様にして反応を行った。GC分析により反応を追跡したところ、エポキシ化合物を添加して反応系内の温度が200℃に到達した時点でラウリルグリシジルエーテルは既に消失していた。
反応生成物をGC分析したところ、1:1付加物選択率は78%、エポキシ化合物の加水分解物は1.7mol%だった。
【0058】
<比較例5>
300ml四つ口フラスコにジグリセリン100g(0.60mol)とテトラエチレングリコールジメチルエーテル50.00gを入れ、80℃にて撹拌混合した後に0.04kPaの減圧下で脱水処理を2時間行った。窒素を使用して反応系内を常圧に戻した後、三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体(和光純薬株式会社製)0.70g(4.9mmol)を添加し、ラウリルグリシジルエーテル36.49g(0.15mol)を2時間かけて滴下した。滴下終了時にラウリルグリシジルエーテルの消失を確認したため、反応を終了した。
反応生成物をGC分析したところ、1:1付加物選択率は57%、エポキシ化合物の加水分解物は0.6mol%であった。
【0059】
前記実施例及び比較例における反応生成物の分析結果(1:1付加物の選択率、エポキシ化合物の加水分解物の量)等を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示したように、本発明の製造方法は、ポリグリセリンとエポキシ化合物との1:1付加物を高い選択率で経済的かつ効率的に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、アルコキサイド及び水素化物からなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ性触媒の存在下、ポリグリセリンとエポキシ化合物とを反応させて得られるエポキシ付加物の製造方法であって、前記アルカリ性触媒の使用量がポリグリセリンに対して0.02質量%より大きく0.8質量%以下であり、反応温度が180〜250℃であるエポキシ付加物の製造方法。
【請求項2】
前記エポキシ付加物が、ポリグリセリンとエポキシ化合物の1:1付加物を主成分として含有する、請求項1に記載のエポキシ付加物の製造方法。
【請求項3】
前記エポキシ化合物が下記式(1)で表される化合物である、請求項1又は2に記載のエポキシ付加物の製造方法。
【化1】

(式中、R1は、炭素数1〜36のアルキル基もしくはアルコキシメチル基、炭素数2〜36のアルケニル基もしくはアルケニルオキシメチル基、又は炭素数6〜36のアリール基もしくはアリールオキシメチル基を示す。R2〜R4は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜36のアルキル基を示す。)
【請求項4】
反応系内の水分量が0〜1.0質量%である、請求項1〜3のいずれかに記載のエポキシ付加物の製造方法。
【請求項5】
前記ポリグリセリンが下記式(2)で表されるものである、請求項1〜4のいずれかに記載のエポキシ付加物の製造方法。
HO−(A−O)r−H (2)
(式中、Aはグリセリンから2つの水酸基を除いた残基を示し、rは平均縮合度であって、1より大きく20以下の数を示す。)
【請求項6】
ポリグリセリンとアルカリ性触媒とを含む溶液を前記反応温度に加温した後、前記溶液に対して、反応に使用するエポキシ化合物の全量を一括で添加することにより反応を行う、請求項1〜5のいずれかに記載のエポキシ付加物の製造方法。
【請求項7】
活性水素を有しないエーテル系溶媒の存在下にて反応を行う、請求項1〜6のいずれかに記載のエポキシ付加物の製造方法。

【公開番号】特開2013−100265(P2013−100265A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−223158(P2012−223158)
【出願日】平成24年10月5日(2012.10.5)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】