説明

エポキシ基含有エラストマー組成物

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、エポキシ基を有するエラストマーの加硫物に関する。更に詳しくは高速加硫性と加工安全性をもち、かつ圧縮永久歪を改良したエラストマー加硫物に関する。
【0002】
【従来の技術】エポキシ基を有するエラストマーの加硫剤としては、熱分解性アンモニウム塩、ジチオカルバミン酸の金属塩、アミン、ポリアミン塩などが一般的に広く用いられている。しかし、これらの加硫剤を用いたエラストマーの加硫物は、圧縮永久歪が比較的大きく、更に改良が望まれている。また、エラストマー部品の製造工程においては、生産性の向上と省エネルギ−の観点から加硫時間短縮のための高速加硫が要望されている。特開昭63−132925号には、エポキシ基含有エラストマーにイミダゾ−ル化合物と尿素結合を有する尿素誘導体化合物を用いる加硫組成物が開示されているが、なお圧縮永久歪および加硫速度において十分でない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、特に高速加硫性と加工安全性を確保しながら圧縮永久歪を改良することを目的に、エポキシ基を有するエラストマー組成物の加硫方法について種々検討した結果、本発明に到達した。
【0004】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、エポキシ基を有するエラストマー、下記の一般式(1)で表されるイミダゾール系化合物、および式(2)で表される結合を分子中に2個以上有する有機化合物を含有することを特徴とするエポキシ基含有エラストマー組成物に関するものである。
【化3】


(式中のR1 は炭素数1〜17のアルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アミノ基、シアノ基、メルカプト基を示し、R2 は水素原子、炭素数1〜17のアルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基を示す。また、R3 、R4 は水素原子、炭素数1〜17のアルキル基または置換アルキル基、シアノ基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシル基、チオカルボモイル基、イミダゾリル基を示す。)
【化4】


【0005】以下、本発明について詳しく説明する。本発明におけるエラストマーは、架橋席としてグリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、アリルグリシジルエーテル、メタクリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有モノマーを0.1〜5.0重量%、好ましくは0.5〜3重量%結合しているものが望ましい。
【0006】エポキシ基を有するモノマーと共重合可能なモノマーとしては、アクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルコキシアルキルエステルを主成分とし、その他の成分として共重合可能なエチレン性不飽和化合物が挙げられる。
【0007】アクリル酸アルキルエステルの例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−ペンチルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−メチルペンチルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−デシルアクリレート、n−ドデシルアクリレート、n−オクタデシルアクリレート、シアノメチルアクリレート、1−シアノエチルアクリレート、2−シアノエチルアクリレート、1−シアノプロピルアクリレート、2−シアノプロピルアクリレート、3−シアノプロピルアクリレート、4−シアノブチルアクリレート、6−シアノヘキシルアクリレート、2−エチル−6−シアノヘキシルアクリレート、8−シアノオクチルアクリレートなどが挙げられる。
【0008】また、下式の一般式(3)で示されるアクリル酸アルキルエステルも含まれる。
【化5】


(但し、R1 は水素原子またはメチル基で、R2 は炭素数3〜20のアルキレン基、R3 は炭素数1〜20の炭化水素基またはその誘導体、nは1〜20の整数を示す。)
【0009】アクリル酸アルコキシアルキルエステルの例としては、2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、2−(n−プロポキシ)エチルアクリレート、2−(n−ブトキシ)エチルアクリレート、3−メトキシプロピルアクリレート、3−エトキシプロピルアクリレート、2−(n−プロポキシ)プロピルアクリレート、2−(n−ブトキシ)プロピルアクリレートなどが挙げられる。
【0010】共重合可能なエチレン性不飽和化合物としては、必要に応じ種々の化合物を使用することができるが、その例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2−ペンテン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、などのカルボキシル基含有化合物、1,1−ジヒドロペルフルオロエチル(メタ)アクリレート、1,1−ジヒドロペルフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1,1,5−トリヒドロペルフルオロヘキシル(メタ)アクリレート、1,1,2,2−テトラヒドロペルフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1,1,7−トリヒドロペルフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、1,1−ジヒドロペルフルオロオクチル(メタ)アクリレート、1,1−ジヒドロペルフルオロデシル(メタ)アクリレートなどの含フッ素アクリル酸エステル、1−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有アクリル酸エステル、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの第3級アミノ基含有アクリル酸エステル、メチルメタクリレート、オクチルメタクリレートなどのメタクリレート、メチルビニルケトンのようなアルキルビニルケトン、ビニルエチルエーテル、アリルメチルエーテルなどのビニルおよびアリルエーテル、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエンなどのビニル芳香族化合物、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルなどのビニルニトリル、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アルキルフマレートなどが挙げられる。
【0011】次に本発明におけるイミダゾール系化合物としては、1−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−メチル−2−エチルイミダゾール、1−ベンジル−2−エチルイミダゾール、1−ベンジル−2−エチル−5−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール・トリメリット酸塩、1−アミノエチルイミダゾール、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾール、1−アミノエチル−2−エチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾ−ル、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾールトリメリテート、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾールトリメリテート、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾールトリメリテート、1−シアノエチル−2−ウンデシル−イミダゾールトリメリテート、2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1)’〕エチル−s−トリアジン・イソシアヌール酸付加物、1−シアノエチル−2−フェニル−4,5−ジ−(シアノエトキシメチル)イミダゾール、N−(2−メチルイミダゾリル−1−エチル)尿素、N,N’−ビス−(2−メチルイミダゾリル−1−エチル)尿素、1−(シアノエチルアミノエチル)−2−メチルイミダゾール、N,N’−〔2−メチルイミダゾリル−(1)−エチル〕−アジボイルジアミド、N,N’−〔2−メチルイミダゾリル−(1)−エチル〕−ドデカンジオイルジアミド、N,N’−〔2−メチルイミダゾリル−(1)−エチル〕−エイコサンジオイルジアミド、2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1)’〕−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−〔2’−ウンデシルイミダゾリル−(1)’〕−エチル−s−トリアジン、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、1,3−ジベンジル−2−メチルイミダゾリウムクロライドなどが挙げられる。
【0012】これらの添加量は、エラストマー100重量部に対して、0.2〜5.0重量部が好ましく、0.2重量部未満では、加硫物の物性が十分でなく、5. 0重量部を越えると加工安全性が損なわれるおそれがある。
【0013】また、分子中に下記の式(2)で表される単位を2個以上有する複素環式化合物の2個以上とは、該結合が互いに離れて存在する場合、及び該結合が互いに隣合って存在する場合が含まれる。更に、該結合は、複素環式化合物の置換基として環外に存在してもよい。
【0014】複素環式化合物としては、パラバン酸、アロキ酸、アロキサンチン、アロキサン−5−オキシム、バルビツル酸、5−ヒドロキシバルビツル酸、5−ベンザルバルビツル酸、5−アミノバルビツル酸、5−ヒドロキシイミノバルビツル酸、5,5−ジエチルバルビツル酸、5−エチル−5−フェニルバルビツル酸(バルビタ−ル)、5−(1−メチルブチル)−5−(アリル)バルビツル酸、5,5−ジアリルバルビツル酸、イソシアヌル酸、擬尿酸などが挙げられる。
【0015】
【0016】
【0017】その添加量は、エラストマー100重量部に対して、0.1〜5.0重量部が好ましく、0.1重量部未満では加硫速度及び圧縮永久歪の改善が十分でなく、5.0重量部を越えると成形に問題を生じるおそれがある。
【0018】本発明においては、加硫速度を調整する目的で、さらに、エポキシ樹脂の硬化剤、例えば熱分解アンモニウム塩、有機酸、酸無水物、アミン類、硫黄及び硫黄化合物などを本発明の効果を減退しない範囲で加えることができる。
【0019】更に、本発明のエラストマー加硫物は、実用に供する場合に、その目的に応じて、エラストマ−組成物に補強剤、充填剤、可塑剤などを添加して成形、加硫を行うことができる。
【0020】尚、本発明におけるエラストマー配合物の混練ならびに加硫は通常のゴム工業で行われている方法を使用することができる。
【0021】本発明のエラストマー組成物は、耐熱、耐油及び厳しい耐久性に優れるため、ベルト、ホ−ス、オイルシ−ル、ガスケット、ダイヤフラムなどの工業部品に好適であり、特に品質保証の厳しい自動車用部品として信頼性の向上が期待できる。
【0022】
【実施例】以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例重合缶に酢酸ビニル10kgとn−ブチルアクリレート30kgとの混合液40kg、部分鹸化ポリビニルアルコールの4重量%水溶液43kg、酢酸ナトリウム600g、グリシジルメタクリレート600gを投入し、攪拌機で予めよく混合して、均一懸濁液を調整した。重合缶内を窒素ガスで置換後、エチレンモノマーを上部から圧入し、圧力を重合温度45℃で50kg/cm2 になるように調節した。引き続き別途注入口より重合開始剤水溶液を添加し、約10時間重合を行った。
【0023】12時間後に生成した重合物乳化液中の未反応モノマーを除去し、3重量%のボラックス水溶液を添加して乳化液を凝固した後、洗浄、脱水、120〜130℃のロール上で20分乾燥して、シート状の生ゴムを得て試験に供した。
【0024】次に、表1に示す配合処方により、6インチロールを用いて混練を行い、厚さ2.3mmのシ−トを作製し、このシートについてプレス加硫を170℃×20分行った後(一次加硫)、ギヤーオーブンにて160℃×4時間加硫を行って(二次加硫)、エラストマー加硫物の物性評価用試験片を作製した。物性試験は、JIS K6301に準じて行い、その結果を表2に示した。
【0025】
【表1】


(注)1) ユニロイヤル社製 老化防止剤2) 東海カーボン社製 シースト#116
【0026】
【表2】


【0027】
【発明の効果】本発明のエポキシ基含有エラストマー加硫物は、実施例からも明らかなように加硫速度が速く(加硫後の100%引張応力が比較例よりも大きい)、かつ圧縮永久歪が改善されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 エポキシ基を有するエラストマー、下記の一般式(1)で表されるイミダゾール系化合物、および(2)式で表される結合を2個以上有する複素環式有機化合物を含有することを特徴とする加硫ゴム用エポキシ基含有エラストマー組成物。
【化1】


一般式(1)
(式中のR1は炭素数1〜17のアルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、アミノ基、メルカプト基を示し、R2は水素原子、炭素数1〜17のアルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基を示す。また、R3、R4は水素原子、炭素数1〜17のアルキル基または置換アルキル基、シアノ基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシル基、チオカルボモイル基、イミダゾリル基を示す)
【化2】


式(2)
【請求項2】請求項1に記載したエポキシ基含有エラストマー組成物を加硫してなる加硫ゴム。
【請求項3】請求項1記載のエポキシ基含有エラストマー組成物を熱加硫することを特徴とする加硫ゴムの製造方法。
【請求項4】加硫方法がプレス及びまたはギヤーオーブンによることを特徴とする請求項3記載の加硫ゴムの製造方法。

【特許番号】特許第3288467号(P3288467)
【登録日】平成14年3月15日(2002.3.15)
【発行日】平成14年6月4日(2002.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−79778
【出願日】平成5年4月6日(1993.4.6)
【公開番号】特開平6−287274
【公開日】平成6年10月11日(1994.10.11)
【審査請求日】平成12年3月6日(2000.3.6)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【参考文献】
【文献】特開 平5−25375(JP,A)
【文献】特開 昭63−132925(JP,A)
【文献】特開 平3−97720(JP,A)
【文献】特開 平2−20516(JP,A)