説明

エミッターの成形方法及びシステム

【課題】 本発明は電子銃エミッターの成形方法及びシステムに関し、エミッターのビルドアップを最終的に使用する装置において、自動的に行なうことができるエミッターの成形方法及びシステムを提供する。
【解決手段】 エミッター13aを備えた電子銃13と、該エミッター13aに所定の加熱処理及び/又は電圧の印加処理を行なう電子銃コントロール回路27と、前記エミッター13aの電子の出口近辺に設けたスクリーン20と、該スクリーン20を外部より観察できるようにしたスクリーン観察窓21,22と、該観察窓からスクリーン20の状態を観察するパターン観察カメラ23と、該パターン観察カメラ23の出力を取り込んでエミッションパターンを取得し、パターン認識により所定の基準パターンと比較し、比較結果に応じて前記電子銃コントロール回路27に制御信号を与えるコンピュータ25とにより構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子銃に使用するエミッターの成形方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡においては、電子銃から放出された電子を電子光学的に試料上に集束、或いは発散して照射し、その反射電子或いは透過電子から画像を得るようになっている。真空中で電子を加速させるため、エミッターには数kV、加速管には数100kVの電圧が印加される。
【0003】
図4は電子顕微鏡の構成例を示す図である。図において、1は電子を加速する高電圧を発生させるための高圧タンクである。2は高圧タンク1内に設けられた電子銃電極電源である。この電子銃電極電源2で発生された高電圧が高圧ケーブル3を介して電子銃4に送られる。
【0004】
電子銃4から放出された電子ビームは、続く照射系5を介して試料室6の試料(図示せず)に照射される。試料を透過した電子ビームは続く結像系7を経て像観察室8に導かれる。オペレータは、像観察室8に設けた観察窓から試料の透過像を観察する。9は電子顕微鏡の鏡筒を支える架台である。
【0005】
図5は従来の電界放出型電子銃の構成例を示す図である。図において、10は電子銃外筒、11は高圧絶縁タンク、12はコロナシールド、13は電子銃である。該電子銃13にはエミッター13aが設けられている。このエミッター13aには、高圧ケーブル3を介して高圧電源が印加されている。具体的には、高圧ケーブル3からの高圧電源は、高圧導入部14を介してエミッターと接続されている。EBはエミッター13aから放出される電子線(電子ビーム)である。15は電子銃13の下部に設けられた加速管で、複数の加速電極16より構成されている。17は加速管15の下部に設けられた電子銃偏向系、18は電子銃排気管、19は真空仕切弁である。電子銃排気管18は、SIP又はTSP等の真空ポンプにより排気されるようになっている。
【0006】
従来の電子銃に関する技術としては、W(100)エミッターを極めて希薄な酸素雰囲気中で加熱してエミッター先端の(100)結晶面を発達させるものが知られている(例えば特許文献1参照)。また、タングステンティップの(111)極ビルドアップ過程と先端形状変化に関する技術が知られている(例えば非特許文献1参照)。また、エミッター成形技術に関する技術として幾つかのものが知られている(例えば非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4参照)。
【特許文献1】特開昭53−40263号公報
【非特許文献1】森川浩志,松坂慶二,倉田博基,吉野康裕:真空44(2001)36
【非特許文献2】V.T.Binh and J.Marien:Surf.Sci.202(1988)L539.
【非特許文献3】V.T.Binh and N.Garcia:Ultramicroscopy 42-44(1992)80.
【非特許文献4】M.Nagai,M.Tomitori and O.Nishikawa:Jpn.J.Appl.Phys.36(1997)3844.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した従来の技術のように、ビルドアップ(先端結晶面を発達させること)したエミッターを最終的に使用する装置に組み込んで使用しようとした場合、一旦大気中に曝すため、エミッター先端の結晶面に大気中のガス分子が付着してしまい、装置に組み込んだ後、このガス分子をエミッターから取り除くため、加熱処理(フラッシング)等を行なう必要があるが、この処理によりエミッター先端の成形が崩れた場合、修復の手段がないという問題がある。
【0008】
また、エミッターを装置に組み込んだ後、各々のエミッターに対応する成形手法を行なえるように構成した場合でも、成形過程を自動的に判断し、過不足なく成形を進めるようにはなっておらず、逐次、オペレータがトータルエミッション量の増加とその速度、試料上のビーム量の増加等を勘案して総合的に判断していた。このため、電界放射形、特に本発明で用いるナノチップ電子銃は装置性能を著しく向上させる電子銃であるにもかかわらず、装置の操作を難しくするため敬遠されがちであった。
【0009】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、エミッターを最終的に使用する装置に組込んだ状態において、ビルドアップを自動的に行なうことができる電子銃のエミッター成形方法及びシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)請求項1記載の発明は、エミッター先端の形状を先鋭化したものに対して、加熱処理と電界印加処理からなる前処理を行なった後、引き出し電極に負電圧を印加すると同時にエミッターを加熱し、次に引き出し電極に正電圧を印加してエミッションさせ、エミッションパターンを確認するという工程を必要な回数繰り返してビルドアップを行なうことを特徴とする。
【0011】
(2)請求項2記載の発明は、前記ビルドアップシーケンスを終了したら、得られたエミッションパターンをパターン認識により所定のパターンと比較し、比較結果に応じて更にビルドアップを行なうかどうかを決定することを特徴とする。
【0012】
(3)請求項3記載の発明は、エミッターを備えた電子銃と、該エミッターに所定の加熱処理及び電圧の印加処理を行なう電子銃コントロール回路と、前記エミッターの電子の出口近辺に設けたスクリーンと、該スクリーンを外部より観察できるようにしたスクリーン観察窓と、該観察窓からスクリーンの状態を観察するパターン観察カメラと、該パターン観察カメラの出力を取り込んでエミッションパターンを取得し、パターン認識により所定の基準パターンと比較し、比較結果に応じて前記電子銃コントロール回路に制御信号を与えるコンピュータとにより構成されることを特徴とする。
【0013】
(4)請求項4記載の発明は、前記コンピュータは、前記電子銃コントロール回路を制御して、ケミカルエッチング等によりエミッター先端の形状を先鋭化したものに対して、所定の前処理を行ない、所定の前処理の後、引き出し電極に負電圧を印加すると同時にエミッターを加熱し、次にビルドアップを確認する工程をビルドアップが完了するまで必要な回数繰り返してビルドアップを行なうことを特徴とする。
【0014】
(5)請求項5記載の発明は、前記ビルドアップが完了したことの判断は、エミッションパターンと予め記憶されている基準パターンとのパターンマッチングにより行なうことを特徴とする。
【0015】
(6)請求項6記載の発明は、前記ビルドアップが完了するまでの判断は、試料近辺に設けられたファラデーケージで検出した電子ビーム強度信号の、トータルのエミッション電流に対する比率が所定の値以上であるかどうかにより行なうことを特徴とする。
【0016】
(7)請求項7記載の発明は、前記ビルドアップが完了するまでの判断は、トータルエミッション電流の時間変化により行なうことを特徴とする。
(8)請求項8記載の発明は、前記所定の前処理は、加熱処理と電界印加処理を行なってエミッター先端の結晶面を発達させる成形を行なうものであることを特徴とする。
【0017】
(9)請求項9記載の発明は、前記所定の前処理とビルドアップを行なった際、最終的にビルドアップした時のビルドアップ条件、引き出し電極電圧、エミッター加熱電流、加熱時間等を前記コンピュータに記録しておき、必要に応じて、呼び出し設定できることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
(1)請求項1記載の発明によれば、エミッターに対して前処理とビルドアップ工程とを行なうことで、エミッターを最終的に使用する装置において、ビルドアップを自動的に行なう方法を提供することができる。即ち、ビルドアップ前のエミッター(例えばケミカルエッチング等によりエミッター先端の形状を先鋭化し、加熱などの前処理をしたもの)を最終使用装置に組み込み、特殊なビルドアップが最終使用装置の電子銃内で自動的に可能になり、そのままエミッターとして使用できる。本発明により、ナノチップ電子銃の操作を容易にし、その輝度、エネルギー幅等の優れたビーム特性で分析性能を向上させた装置の普及、応用が拡大される。
【0019】
(2)請求項2記載の発明によれば、前記したビルドアップシーケンスを必要な回数だけ行なうことで、所望のビルドアップされたエミッターを形成することができる。
(3)請求項3記載の発明によれば、エミッターに対して前処理とビルドアップ工程とを行なうことで、エミッターのビルドアップを最終的に使用する装置において、自動的にビルドアップを行なうことができるエミッターの成形方法を提供することができる。
【0020】
(4)請求項4記載の発明によれば、エミッターをビルドアップするシーケンスを必要な回数だけ繰り返して所望の性能の電子銃を提供することができる。
(5)請求項5記載の発明によれば、ビルドアップが完了したかどうかを正確に判定することができる。
【0021】
(6)請求項6記載の発明によれば、ビルドアップが完了したかどうかを簡易な方法で判定することができる。
(7)請求項7記載の発明によれば、ビルドアップが完了したかどうかを簡易な方法で判定することができる。
【0022】
(8)請求項8記載の発明によれば、前記前処理として加熱処理と電界印加処理を行なう処理を用いることにより、エミッターのビルドアップ処理を行なう前段階としてエミッター先端を好ましい状態にすることができる。
【0023】
(9)請求項9記載の発明によれば、前記所定の前処理とビルドアップを行なった際、最終的にビルドアップした時のビルドアップ条件、引き出し電極電圧、エミッター加熱電流、加熱時間等を前記コンピュータに記録しておき、必要に応じて、呼び出し設定できることにより、以前に行った条件と同じ条件でエミッターの処理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態例を詳細に説明する。
図1は本発明の原理構成例を示す図で、エミッションパターンをカメラにより取り込む手段を備えた電子銃の構成例を示している。図5と同一のものは、同一の符号を付して示す。14はエミッター13aに高電圧を印加する高圧導入部、13は電子銃、13aは高圧導入部14からの高電圧が印加されるエミッターである。該エミッター13aから電子ビームが放出される。
【0025】
10は電子銃外筒、11は高圧絶縁タンク、15は加速管、16は加速電極である。20はエミッター13aの下部に設けられたスクリーンで、その表面に蛍光体が塗布され、電子線強度分布が観察できるようになっている。21は電子銃近傍に設けられたスクリーン像を観察するためのスクリーン観察窓、22は電子銃外筒10に設けられたスクリーン観察窓である。23は該スクリーン観察窓22に近接して設けられたスクリーン20上のエミッションパターン(電子ビーム強度分布)を観察して得られたパターン像を電気信号に変換するパターン観察カメラで、光電変換素子としては、例えばCCDが用いられる。パターン観察カメラ23内には、光電変換されたパターン像をディジタルデータに変換するためのA/D変換器(図示せず)が設けられている。
【0026】
25はパターン観察カメラ23からのエミッションパターン信号を取り込み、成形がどの段階にあるかを判断し、更に成形が必要な場合は、エミッター13aの加熱温度、加熱時間、引き出し電極電圧等を設定するコンピュータとしてのパソコン(PC)である。26はエミッションパターンを表示するモニタである。モニタ26としては、例えばCRTや液晶表示器等が用いられる。27はパソコン25からの電源値の設定信号を受けて電子銃13の制御を行なう電子銃コントロール回路である。このように構成されたシステムの動作を説明すれば、以下の通りである。
【0027】
先ず、ケミカルエッチング等によりエミッター先端の形状を先鋭化したものを電子銃13内に取り付ける。そして、ある条件の下でエミッター13aから放出された電子ビームのエミッションパターンをスクリーン20上で視覚化する。即ち、放出された電子ビームがスクリーン20上の蛍光面に当たって発光する。この発光パターンをパターン観察カメラ23で撮影し、電気信号に変換した後、ディジタル画像信号としてパソコン25に与える。
【0028】
パソコン25は、エミッションパターンを取り込み、エミッター13aの成形がどの段階にあるかを判断し、更に成形が必要な場合はエミッター13aの加熱温度、加熱時間、引出し電極電圧等を設定するための制御信号(電源値の設定等)を電子銃コントロール回路27に与える。該電子銃コントロール回路27は、制御信号に応じて電子銃13を制御する。この結果、エミッター13aはビルドアップされ、所望の先端形状のエミッターが得られることになる。
【0029】
即ち、パソコン25はエミッター13aに対して電子銃コントロール回路27から所定の前処理を行なった後、スクリーン20上のエミッションパターンをパターン観察カメラ23で撮影し、その画像データをパソコン25に与える。パソコン25は、このエミッションパターンを所定の基準パターンと比較し、ビルドアップ処理が完了したかどうかを判定する。ビルドアップが完全でない場合には、エミッター13aの加熱と電圧印加を行う所定のシーケンスを繰り返す。繰り返したら、その段階におけるエミッションパターンを所定の基準パターンと比較し、エミッションパターンが基準パターンに一致するようになったかを判定する。このような操作を必要回数繰り返して、エミッター13aのビルドアップを完了する。
【0030】
この実施の形態例によれば、エミッター13aに対して前処理とビルドアップ工程とを行なうことで、エミッター13aのビルドアップを最終的に使用する装置において、自動的にビルドアップを行なうことができる電子銃を提供することができる。即ち、ビルドアップ前のエミッター(例えばケミカルエッチング等によりエミッター先端の形状を先鋭化したもの)を最終使用装置に組み込み、特殊なビルドアップが最終使用装置の電子銃13内で自動的に可能になり、そのままエミッターとして使用できる。本発明により、ナノチップ電子銃の操作を容易にし、その輝度、エネルギー幅等の優れたビーム特性で分析性能を向上させた装置の普及、応用が拡大される。
【0031】
また、上記実施の形態例によれば、ビルドアップシーケンスを必要な回数だけ行なうことで、所望のビルドアップされたエミッターを持つ電子銃を形成することができる。
また、上記実施の形態例によれば、エミッター13aに対して前処理とビルドアップ工程とを行なうことで、エミッター13aのビルドアップを最終的に使用する装置において、自動的にビルドアップを行なうことができる。また、上記実施の形態例によれば、エミッター13aをビルドアップする工程を必要な回数だけ繰り返して所望の性能の電子銃を提供することができる。また、上記実施の形態例によれば、前記前処理として加熱処理と電界印加処理を行なう処理を用いることにより、エミッター13aのビルドアップ処理を行なう前段階としてエミッター13aの先端を好ましい状態にすることができる。
【0032】
図2は本発明の一実施の形態例を示す構成図である。図1、図5と同一のものは、同一の符号を付して示す。図において、10は電子銃鏡筒、11は高圧絶縁タンク、34は高圧絶縁タンク11内に設けられた超高圧真空チャンバである。13は電子銃、13aはエミッター、29は該エミッター13aの近傍に設けられた引出し電極、20は電子ビームのエミッションパターンを観察するためのスクリーンである。23はスクリーン20のエミッションパターンを観察するパターン観察カメラとしてのCCDカメラである。なお、スクリーン観察窓は省略してある。25は該CCDカメラ23で観察されたエミッションパターン画像を入力して、電子銃の各種の制御信号を出力するパソコン、26はエミッションパターンを表示するGUI(グラフィカル・ユーザ・インタフェース)モニタである。30は各種のコマンドを入力するキーボードである。
【0033】
27はパソコン25からの電源値の設定信号を受けて電子銃13の制御を行なう電子銃コントロール回路である。1は該電子銃コントロール回路27からの各種の制御信号を受けて高電圧を発生する高圧タンクである。該高圧タンク1内には、エミッター加熱電源2a、+10kV電源2b、−10kV電源2cが設けられている。31は所定の電源から高電圧を発生させる昇圧回路である。該高圧回路31から前記+10kV電源2b、−10kV電源2cをつくる。+10kV電源2bはリレー28のa接点に、−10kV電源2cはリレー28のb接点に接続されている。該リレー28の切り替え信号は、電子銃コントロール回路27から与えられる。リレー28の共通接点は、引出し電極29に、エミッター加熱電源2aはエミッター13aにそれぞれ高圧ケーブル3を介して接続されている。33は電子銃コントロール回路27からエミッター加熱電源2a,+10kV電源2b,−10kV電源2cへの制御信号を伝達するための光ファイバである。32は電子銃コントロール回路27からのリレー制御信号をリレー28に伝達するための光ファイバである。このように、制御信号を光信号で送ることにより、接地側からの高圧側の制御を容易に行なうことができる。このように構成されたシステムの動作を説明すれば、以下の通りである。
【0034】
エミッター13aから放出された電子の方位分布を電子銃13に取り付けたスクリーン20とCCDカメラ23で取り込み、パソコン25に送る。パソコン25には、予め強度分布のデータを記憶させておき、そのデータとの比較(パターンマッチング)により、エミッター13aのビルドアップが完成したかどうかを判定する。ビルドアップが完了していない場合には、どの段階にあるかを判定し、次のステップでのフィラメント加熱電流、引出し電極の極性、電圧値を決定し、これらのデータを電子銃コントロール回路27に送る。該電子銃コントロール回路27は、各電源のコントロール信号を発生して、各電源をパソコン25の指示値に設定する。以上の操作を必要なだけ繰り返し、エミッター13aのビルドアップを完成させる。
【0035】
先ず、ケミカルエッチング等によりエミッター先端の形状を先鋭化したものを電子銃13内の所定の位置に取り付ける。取り付けた後は、この状態のままでエミッター13aのビルドアップを行なうので、取り外されて外気に曝されることはない。従って、エミッター13aに大気中のガス分子が付着するということがなくなる。
(前処理)
1.先ずエミッター加熱電源2aによりエミッター13aを通電加熱してフラッシング(初期加熱)を行ない、エミッター13aの表面を清浄化する。
2.電子銃コントロール回路27からリレー28に切り替え信号を送り、リレーの共通接点をa接点側に接続し、引出し電極29に適度の正電圧を印加した状態で、モニタ26に表示されるエミッションパターンが所望のパターン(W(111)方位を示す)であることを確認する。
3.引出し電極29に印加される電圧を0.0kVにする。
4.次に、電子銃コントロール回路27からエミッター加熱電源2aを制御してエミッター13aを加熱してフラッシングする。この時の加熱温度は2500K程度である。
5.次に、エミッター加熱電流を0.0Aにする。そして、加熱により生じたガスを排気し、超高真空チャンバ34内が超高真空に復帰するまで待つ。
6.次に、電子銃コントロール回路27からリレー28に切り替え信号を送り、リレーの共通接点をa接点側に接続し、引出し電極29に適度の正電圧を印加した状態で、モニタ26に表示されるエミッションパターンを観察しながら、エミッター加熱電源2aを制御してエミッター13aを1500K程度に加熱する。
7.エミッター13aの加熱を0にする。
【0036】
以上の前処理で、エミッター13aのビルドアップ処理を行なう前段階として、エミッター13aの先端を好ましい状態にすることができる。
次に、エミッター13aをビルドアップする処理を行なう。
(ビルドアップ処理)
1.電子銃コントロール回路27からエミッター加熱電源2aとリレー28を制御する。まず、リレー28の共通接点をb接点側に接続して引出し電極29を−数kVに設定すると共に、エミッター加熱電源2aにより、エミッターを1000Kに加熱する。
2.エミッター加熱電流を0.0Aにする。
3.引出し電極29の印加電圧を0.0kVにする。
4.次に、電子銃コントロール回路27からリレー28を制御し、共通接点をa接点側に接続して引出し電極29を適度の値に設定する。
【0037】
以上の処理が終了したら、パソコン25は、CCDカメラ23から送られてくるエミッションパターンを取り込み、内部に記憶させている基準パターンとのパターンマッチングを行ない、ビルドアップが完了したかどうかを確認する。ビルドアップが完了した場合には、処理を終了する。ビルドアップが終了していない場合には、前記1〜4までのシーケンスを繰り返す。最終的には、ビルドアップが完了するまで繰り返すことになる。この発明によるビルドアップの判定方法は、パターンマッチングにより行なうので、正確に判定することができる。図3はスクリーン上のエミッションパターン観察例を示す図で、本発明の一実施例におけるディスプレイ上に表示した表示画面中のメイン画面の一例を中間調画像の写真で示す図である。タングステン(W)の〈111〉結晶面のエミッションパターンを示している。
【0038】
上述の実施の形態例では、電子ビームのエミッションパターンをパターン認識することにより、ビルドアップ完了を判定した場合を示した。しかしながら、本発明はこれに限るものではなく、試料近辺に電子ビームを検出するファラデーケージを設けておいて、このファラデーケージで測定したビーム強度信号と、トータルのエミッション電流との比率を求め、この比率がある一定値以上にあるかどうかでビルドアップの判定に用いるようにすることができる。この方法によれば、パターンマッチング等の高度な判断を用いずに、簡易な方法でビルドアップの完了を判定することができる。
【0039】
以上、説明したように、本発明によれば、エミッターの最終的な成形を自動的に行なうシステムをエミッター使用装置に構成したことにより、装置の性能を飛躍的に向上させることができるナノチップ電界放射形エミッターを、エミッターに関する詳細な知識を必要とせずに容易に使用できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の原理構成例を示す図である。
【図2】本発明の一実施の形態例を示す構成図である。
【図3】スクリーン上のエミッションパターンの観察例を示す図である。
【図4】電子顕微鏡の構成例を示す図である。
【図5】従来の電界放出形電子銃の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1…高圧タンク、2…電子銃電極電源、3…高圧ケーブル、4…電子銃、5…照射系、6…試料室、7…結像系、8…像観察室、9…架台、10…電子銃外筒、11…高圧絶縁タンク、12…コロナシールド、13…電子銃、13a…エミッター、14…高圧導入部、15…加速管、16…加速電極、17…電子銃偏向系、18…電子銃排気管、19…真空仕切弁、20…スクリーン、21…スクリーン観察窓、22…スクリーン観察窓、23…パターン観察カメラ、25…パソコン、26…モニタ、27…電子銃コントロール回路、28…極性切り換えリレー、29…引出し電極、30…キーボード、31…昇圧回路、32…光ファイバ、33…光ファイバ、34…超高圧真空チャンバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エミッター先端の形状を先鋭化したものに対して、加熱処理と電界印加処理からなる前処理を行なってエミッター先端の結晶面を発達させる成形を行ない、次に、引き出し電極に負電圧を印加するとともに、一定時間エミッターを加熱し、次に引き出し電極を0電位にし、次に引き出し電極に適正な正電圧を印加することによりビルドアップを確認する工程を必要な回数繰り返してビルドアップを行なう、ことを特徴とするエミッターの成形方法。
【請求項2】
前記ビルドアップシーケンスを終了したら、得られたエミッションパターンをパターン認識により所定のパターンと比較し、比較結果に応じて更にビルドアップを行なうかどうかを決定することを特徴とする請求項1記載のエミッターの成形方法。
【請求項3】
エミッターを備えた電子銃と、
該エミッターに所定の加熱処理及び/又は電圧の印加処理を行なう電子銃コントロール回路と、
前記エミッターの電子の出口近辺に設けたスクリーンと、
該スクリーンを外部より観察できるようにしたスクリーン観察窓と、
該観察窓からスクリーンの状態を観察するパターン観察カメラと、
該パターン観察カメラの出力を取り込んでエミッションパターンを取得し、パターン認識により所定の基準パターンと比較し、比較結果に応じて前記電子銃コントロール回路に制御信号を与えるコンピュータと、
により構成されるエミッターの成形システム。
【請求項4】
前記コンピュータは、前記電子銃コントロール回路を制御して、ケミカルエッチング等によりエミッター先端の形状を先鋭化したものに対して、所定の前処理を行ない、
所定の前処理の後、一定時間、引き出し電極に負電圧を印加するとともにエミッターを加熱し、次に引き出し電極を0電位にし、次に引き出し電極に正電圧を印加してビルドアップを確認する工程をビルドアップが完了するまで必要な回数繰り返してビルドアップを行なうことを特徴とする請求項3記載のエミッターの成形システム。
【請求項5】
前記ビルドアップが完了したことの判断は、エミッションパターンと予め記憶されている基準パターンとのパターンマッチングにより行なうことを特徴とする請求項4記載のエミッターの成形システム。
【請求項6】
前記ビルドアップが完了するまでの判断は、試料近辺に設けられたファラデーケージで検出した電子ビーム強度信号の、トータルのエミッション電流に対する比率が所定の値以上であるかどうかにより行なうことを特徴とする請求項4記載のエミッターの成形システム。
【請求項7】
前記ビルドアップが完了するまでの判断は、トータルエミッション電流の時間変化により行なうことを特徴とする請求項4記載のエミッターの成形システム。
【請求項8】
前記所定の前処理は、加熱処理と電界印加処理を行なってエミッター先端の結晶面を発達させる成形を行なうものであることを特徴とする請求項4記載のエミッターの成形システム。
【請求項9】
前記所定の前処理とビルドアップを行なった際、最終的にビルドアップした時のビルドアップ条件、引き出し電極電圧、エミッター加熱電流、加熱時間等を前記コンピュータに記録しておき、必要に応じて、呼び出し設定できることを特徴とする請求項4記載のエミッターの成形システム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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