説明

エレクトロクロミック表示装置およびエレクトロクロミック素子の駆動方法

【課題】 エレクトロクロミック素子の応答速度を早くし、初期状態で発色している作用極を透明に切換えるときに、残像が残りにくくしたエレクトロクロミック装置およびエレクトロクロミック素子の駆動方法を提供する。
【解決手段】 作用極5がフェロシアン化鉄で形成され、対極7がフェロシアン化ニッケルで構成され、電解質層8は白色に着色されている。対極7と作用極5を短絡させると作用極5の色が青色となり、対極7に対して作用極5に−0.8V〜−1.0Vの切換え電位を与えると、作用極5が透明に切換えられる。作用極5に対して+0.8V〜+1.0Vのリセット電位を与えると、その後の切換え動作のときに、作用極5の色が青色から透明に切換わるときの応答速度が速くなり、青みがかった残像も生じにくくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作用極が青色などの特定の色が発色している状態から透明な状態に切換えられるときの残像を低減でき、且つこのときの切換えの時間を短縮できるエレクトロクロミック表示装置およびエレクトロクロミック素子の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロクロミック素子は、電界を与えることで色吸収帯が変化して可逆的に色が変化するため、記憶機能を有する表示装置などとして有用である。
【0003】
特許文献1ないし3に記載されているエレクトロクロミック素子は、作用極がエレクトロクロミック材料で形成されており、作用極へ与えられる電界を変化させると、エレクトロクロミック材料の酸化還元反応によって、作用極の色が変化する。
【0004】
従来のエレクトロクロミック素子の駆動方法は、作用極と対極との間の電圧を2通りに切換えて、エレクトロクロミック材料を酸化状態と還元状態とに切換えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭61−23534号公報
【特許文献2】特開昭61−261782号公報
【特許文献3】特開2004−54221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のように作用極と対極との間の電圧を2通りに切換える駆動方法では以下の課題がある。
【0007】
作用極を構成するエレクトロミック材料がプルシアンブルーのように酸化されると発色し還元されると発色が消えるエレクトロクロミック材料で形成されている場合に、作用極を発色状態から透明に切換えられるまでの時間が長く必要となり、数十秒から1分程度かかることがある。
【0008】
また、作用極を発色状態から透明に切換えるときに、作用極の発色が完全に消えずに残像が残ることがある。
【0009】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、作用極が規定の色を呈している初期状態から電圧を切換えたときに、色が消えるまでの時間を短縮し、さらに残像を残りにくくするエレクトロクロミック装置およびエレクトロクロミック素子の駆動方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、作用極と対極と電解質層とを有するエレクトロクロミック素子と、前記作用極と前記対極との間の電圧を制御する切換え回路とを有するエレクトロクロミック表示装置において、
前記作用極が、酸化されると発色し還元されると発色が消えるエレクトロクロミック材料を有しており、前記切換え回路によって、前記作用極の電位を、
(a)前記作用極を酸化状態とする初期電位と、
(b)前記作用極に還元反応を生じさせる切換え電位と、
(c)前記作用極の前記対極に対する電位差を前記(b)と逆極性にするリセット電位と、に設定可能であることを特徴とするものである。
【0011】
本発明のエレクトロクロミック表示装置は、作用極に還元反応時と逆極性のリセット電位を与えることで、その後に作用極を酸化状態からの還元状態に変化させるときの反応速度を速くでき、作用極の色を消すのに必要な時間を短くできる。さらに、作用極の色を消すときに残像が残りにくくなる。
【0012】
本発明のエレクトロクロミック表示装置は、例えば、前記(a)の初期電位が前記対極と同電位で、前記(b)の切換え電位が前記対極の電位に対して負の極性であり、前記(c)のリセット電位が前記対極の電位に対して正の極性となるように設定される。
【0013】
この場合に、前記電解質層が白色化されて、前記作用極と対向する側から前記作用極の色の変化が目視されるものとして構成できる。
【0014】
本発明は、例えば、前記エレクトロクロミック材料が、プルシアンブルー型錯体であり、また、前記対極が、前記プルシアンブルー型錯体とは異なる金属イオンを含むプルシアンブルー型錯体を有しているものとして構成できる。
【0015】
この場合に、前記(b)の切換え電位が、対極に対して−0.8V〜−1.0Vの範囲であり、前記(c)のリセット電位が、対極に対して0.8V〜1.0Vの範囲であることが好ましい。
【0016】
本発明のエレクトロクロミック表示装置は、前記切換え回路は、エレクトロクロミック表示装置の起動時に前記作用極に前記リセット電位を与えるものとして構成できる。
【0017】
次に、本発明は、作用極と対極および前記作用極と前記対極との間の電解質層を有するエレクトロクロミック素子の駆動方法において、
前記作用極が、酸化されると発色し還元されると発色が消えるエレクトロクロミック材料を有しており、前記作用極の電位を、
(a)前記作用極を酸化状態とする初期電位と、
(b)前記作用極に還元反応を生じさせる切換え電位と、
(c)前記作用極の前記対極に対する電位差を前記(b)と逆極性にするリセット電位と、に設定可能であることを特徴とするものである。
【0018】
本発明のエレクトロクロミック素子の駆動方法は、前記(a)の初期電位を、前記対極と同電位とし、前記(b)の切換え電位を、前記対極の電位に対して負の極性とし、前記(c)のリセット電位を、前記対極の電位に対して正の極性とする。
【0019】
この場合に、本発明は、白色化した前記電解質層を使用して、前記作用極と対向する側から前記作用極の色の変化を目視できるようにすることが可能である。
【0020】
本発明のエレクトロクロミック素子の駆動方法は、前記エレクトロクロミック材料として、プルシアンブルー型錯体の微粒子を使用することができ、また、前記対極に、前記プルシアンブルー型錯体とは異なる金属イオンを含むプルシアンブルー型錯体の微粒子を使用することができる。
【0021】
この場合に、前記(b)の切換え電位を、対極に対して−0.8V〜−1.0Vの範囲とし、前記(c)のリセット電位を、対極に対して0.8V〜1.0Vの範囲とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、プルシアンブルーのように酸化状態で発色し還元反応で色が消えるエレクトロクロミック材料で作用極が構成されたエレクトロクロミック素子を用いており、作用極が、発色状態から色が消滅するまでに要する時間を短縮することができる。
また、作用極の発色を消すときに残像が残りにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のエレクトロクロミック表示装置の実施の形態を示す説明図、
【図2】エレクトロクロミック素子の表示形態の一例を示す平面図、
【図3】エレクトロクロミック素子の表示形態の他の例を示す平面図、
【図4】リセット電位を与える前と与えた後での酸化還元電流の変化を示す線図、
【図5】電圧を初期電位から切換え電位に切換えてから5秒経過するまでのエレクトロクロミック材料の応答速度を示す線図、
【図6】電圧を切換え電位から初期電位に切換えてから5秒経過するまでのエレクトロクロミック材料の応答速度を示す線図、
【図7】リセット電位を与えた後の時間の経過によるエレクトロクロミック材料の応答速度の変化を示す線図、
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に示すエレクトロクロミック素子1は、支持側基板2と表示側基板3を有している。2つの基板2,3はガラス基板などの透明基板である。
【0025】
表示側基板3の対向内面に、酸化インジウムスズ(ITO)で形成された透明な表示側電極4が形成され、表示側電極4の表面に作用極5が形成されている。支持側基板2の対向内面に同じくITOで形成された透明な支持側電極6が形成され、支持側電極6の表面に対極7が形成されている。
【0026】
支持側基板2と表示側基板3との間、すなわち作用極5と対極7との間に電解質層8が設けられている。
【0027】
作用極5と対極7はエレクトロクロミック材料を含んでいる。作用極5に含まれるエレクトロクロミック材料はプルシアンブルー型錯体であり、フェロシアン化鉄{Fe4[Fe(CN)63}である。作用極5は、フェロシアン化鉄を電界析出して形成され、またはスパッタ法でフェロシアン化鉄を積層して形成される。または、作用極5を、粒径が20nmのフェロシアン化鉄の微粒子が溶剤に溶解したインクを塗布することで形成することができる。
【0028】
対極7に含まれるエレクトロクロミック材料は、作用極5を構成するプルシアンブルー型錯体とは異なる金属イオンを含むプルシアンブルー型錯体である。詳しくは、ニッケル置換プルシアンブルー型錯体であり、フェロシアン化ニッケル{Ni[Fe(CN)6x}である。作用極5と同様に、対極7も、フェロシアン化ニッケルを電界析出しまたはスパッタ法で積層して形成される。あるいはフェロシアン化ニッケルのナノ微粒子を含んだインクによって形成される。
【0029】
電解質層8は、内部に酸化チタン(TiO2)などの白色化フィラーが混入された白色で実質的に非透光性のゲル状電解質層で構成されている。
【0030】
図4の線図に示す変化線(a)は、作用極5をフェロシアン化鉄で、対極7をフェロシアン化ニッケルとしたエレクトロクロミック素子1において、作用極5と対極7との間の電圧を変化させたときの、作用極5と対極7との間で流れる電流量の変化を示している。横軸が電圧であり、縦軸が電流量である。
【0031】
このエレクトロクロミック素子1は、作用極5と対極7とが短絡して作用極5と対極7との電位差が0Vであるとき、作用極5のフェロシアン化鉄が酸化状態であり、プルシアンブルーにおいて特有の色相である青色(紺青色)を呈している。
【0032】
対極7に対する作用極5の電位差を、図4において(i)で示すように、マイナス側へ変化させていくと、対極7から作用極5に電子が移動し、作用極5から対極7に電流が流れ、電位差が−0.5Vに近づいたときに電流量がピークP1となる。さらに(ii)に示すように、電位差をマイナス側へ変化させると、作用極5から対極7に流れる電流が減少していく。
【0033】
前記ピークP1が位置する−0.5V付近が還元電圧であり、青色を呈していた作用極6がピークP1を越えることで還元されて徐々に透明に変化していく。逆に、対極7は、還元状態の透明からピークP1を超えて酸化され、やや黄ばみがかった色に変化していく。
【0034】
対極7に対する作用極5の電位差を、−0.8Vないし−1.0V付近から(iii)で示すように上昇させていくと、作用極5から対極7へ電子が移動し、対極7から作用極5に電流が流れ始めピークP2で電流量が最大になる。さらに(iv)で示すように電位差をプラス側へ変化させると、対極7から作用極5に流れる電流が減少していく。
【0035】
ピークP2が位置する−0.4V付近が酸化電圧であり、電位差が上昇してピークP2を超えると、作用極5の酸化が進んで、作用極5の色が透明から青色に変化していく。一方、対極7は酸化状態から還元されていき黄ばみがかった色から透明に変化していく。
【0036】
図4の線図から、作用極5がフェロシアン化鉄で、対極7がフェロシアン化ニッケルで形成されたエレクトロクロミック素子1は、ピークP1が位置する−0.5V付近に酸化電圧が存在し、ピークP2が位置する−0.4V付近に還元電圧が存在しているため、対極7に対する作用極5の電位差を0Vと−0.8Vとの間で切換えることで、作用極5の色を青色と透明との間で切換えることができる。また、作用極5を透明に切換えるための切換え電圧は−0.8Vよりも低ければよく、例えば−0.8V〜−1.0Vの範囲から任意に設定される。
【0037】
図1に示すように、本発明のエレクトロクロミック表示装置は、エレクトロクロミック素子1に制御回路10が接続されている。この制御回路10により、対極7に対する作用極5の電位差が初期電圧である0Vと切換え電圧である−0.8V〜−1.0Vとの間で切換えることができるようになっている。
【0038】
制御回路10に切換え回路11が設けられ、第1のスイッチ(SW1)と第2のスイッチ(SW2)の切換えが制御される。
【0039】
エレクトロクロミック素子1の対極7と導通している支持側電極6は接地電位に設定されている。第1のスイッチ(SW1)が接続状態になると、作用極5と対極7とが短絡し、且つ接地電位となる。このときエレクトロクロミック素子1が初期状態であり、作用極5の電位が初期電位E0となる。
【0040】
制御回路10では、抵抗R1で設定される電圧が反転回路12で極性が負側に反転されて第2のスイッチ(SW2)のスイッチ端子13に切換え電位E1として与えられている。スイッチ端子13の切換え電位E1は−0.8V〜−1.0Vの間で決められる。第1のスイッチ(SW1)が非接続状態となり、作用極5と対極7と短絡されていない状態で、第2のスイッチ(SW2)がスイッチ端子13に接続されると、切換え電位E1が作用極5に与えられる。このときの対極7に対する作用極5の電位差は−0.8Vから−1.0Vとの間で設定される。
【0041】
図1に示すエレクトロクロミック素子1は、作用極5の電位を初期電位E0(対極と短絡:接地電位)と、切換え電位E1(−0.8V〜−1.0V)との間で切換えることで、作用極5の色を、青色と透明との間で変化させることができる。このエレクトロクロミック素子1は、電解質層8が白色であるため、表示側基板3と対向する側であるL方向に見たときに対極7は透視できず、作用極5の色の変化のみを目視することができる。
【0042】
すなわち、スイッチSW1,SW2を切換えることで、L方向から見たときに、作用極5の形状で青色が発色する表示状態と、全体が白の非表示状態とに切換えることができる。
【0043】
図1に示すエレクトロクロミック表示装置では、制御回路10に設けられた切換え回路11で第2のスイッチ(SW2)をスイッチ端子14に切換えることによって、作用極5の電位をリセット電位(リフレッシュ電位)E2に設定することができるようになっている。
【0044】
リセット電位E2は抵抗R1とR2とで設定される。作用極5にリセット電位E2が与えられたときの、対極7に対する作用極5の電位差は、作用極5に切換え電位E1が与えられたときの、対極7に対する作用極5の電位差とは逆極性となる。図1に示すエレクトロクロミック素子1では、リセット電位E2を与えたときの対極7に対する作用極5の電位差が、+0.8V〜+1.0Vの範囲のいずれかの値に設定される。作用極5に切換え電位E1が与えられたときと、リセット電位E2が与えられたときとで、対極7に対する作用極5の電位差が、正負の極性が逆であるが絶対値がほぼ同じになることが好ましい。
【0045】
作用極5に対して、リセット電位E2が一度与えられると、その後のエレクトロクロミック素子1の応答速度が速くなり、作用極5を透明に切換えるときの残像が生じにくくなる。リセット電位E2は、常に与える必要はなく、一定期間おきに与えればよい。また、リセット電位E2は1回あたり10秒から30秒程度与えられることが好ましい。例えば、エレクトロクロミック表示装置を起動したときに、まず前記リセット電位E2が与えられてから、表示動作に移行するように構成される。
【0046】
図4の変化線(b)は、作用極5に+1.0Vのリセット電位E2を10秒間与えた直後に、対極7に対する作用極5の電位を変化させたときの電圧と電流の変化を示している。リセット電位E2を与えずにエレクトロクロミック素子1を動作させたときの変化線(a)と、リセット電位E2を与えた直後にエレクトロクロミック素子1を動作させたときの変化線(b)とを比較すると、変化線(b)では、還元電圧を示すピークPaが、−0.4Vに近づいており、変化線(a)のときのピークP1よりも電圧が高い位置となっている。
【0047】
これは、作用極5にリセット電位E2を一度与えた後に、(i)で示すように、作用極5の電位を初期電位E0(短絡電位:接地電位)からマイナス側へ変化させていくと、変化線(a)のときに比べて、作用極5の還元反応が早く発生することを意味している。したがって、作用極5にリセット電位E2を与えた後に、作用極5の電位を初期電位E0から切換え電位E1に切換えると、リセット電位E2を与えていないときと比較して、作用極5が透明に変化しやすくなり、作用極5を切換え電位E1(−0.8V〜−1.0V)に切換えたときに、作用極5の残像が残りにくくなる。
【0048】
一方において、変化線(b)において酸化電圧を示すピークPbは、変化線(a)のピークP2での電圧をさほど変化していない。すなわち、リセット電位E2を与えた後に駆動するときと、リセット電位E2を与えずに駆動するときとで、酸化反応が発生するタイミングはほぼ同じである。つまり、作用極5にリセット電位E2を与えることによる効果は、作用極5を青色から透明に変化させるときに特に顕著に現れることになる。
【0049】
図4には、作用極5にリセット電位E2を与えて3日経過した後に、作用極5の電位を初期電位E0(短絡電位:接地電位)からマイナス側に向けて変化させたときの電圧と電流の変化を変化線(c)で示している。変化線(c)では、還元電圧を示すピークPcが、変化線(a)のピークP1と変化線(b)のピークPaとの間の電圧を示している。
【0050】
さらに、作用極5にリセット電位E2を与えて21日が経過した後に、作用極5の電位を初期電位E0(短絡電位:接地電位)からマイナス側へ変化させていくときの電圧と電流の変化を示す変化線(d)を求めたが、この変化線(d)は変化線(a)とほぼ重なっている。
【0051】
以上から、作用極5にリセット電位E2を与えてから3日間は、エレクトロクロミック素子1を駆動して作用極5を透明に切換えたときに、青みがかった残像が生じにくくなる効果を持続できることがわかる。
【0052】
次に、図5の線図は、切換え回路11でスイッチSW1,SW2を動作させて、作用極5の電位を初期電位E0(接地電位)から切換え電位E1(−0.8V〜−1.0V)に切換えた後の時間経過を横軸にとり、作用極5が切換え電位E1となった後に対極7から作用極5へ移動する電位の移動量を縦軸にとっている。変化線(e)は、作用極5にリセット電位E2を与えることなく、作用極5の電位を初期電位E0から切換え電位E1に切換えたときの電子の移動量の変化を示し、変化線(f)は、作用極5に+0.8Vのリセット電位E2を10秒間与えた直後に、作用極5の電位を初期電位E0から切換え電位E1に切換えたときの電子の移動量の変化を示している。
【0053】
図5から、作用極5にリセット電位E2を与えると、その後に作用極5の電位を初期電位E0から切換え電位E1に切換えたときの対極7から作用極5への電流の移動が速くなり、作用極5の還元作用が素早く行われて、作用極5が青色の色から透明に変化するまでに要する時間が短くなることが解る。図5の例では、変化線(f)に示されるように、スイッチSW1,SW2を切換えてから2秒以内で、作用極5を青色の色から透明に変化させることができる。
【0054】
図6の線図は、作用極5の電位を切換え電位E1から初期電位E0に切換えて、作用極5を透明から青色の色に変化させるときの、切換え後の時間経過を横軸にとり、作用極5から対極7へ移動する電位の移動量を縦軸にとっている。変化線(g)は、作用極5にリセット電位E2を与えずに、作用極5の電位を切換え電位E1(−0.8V)から初期電位E0(接地電位)に切換えたときの電子の移動量の変化を示し、変化線(h)は、作用極5に+0.8Vのリセット電位E2を10秒間与えた直後に、作用極5の電位を切換え電位E1から初期電位E0に切換えたときの電子の移動量の変化を示している。
【0055】
図6に示すように、作用極5の電位を切換え電位E1から初期電位E0に切換えるときは、元々電子が移動する速度が速く、リセット電位E2を与えるか否かに関係なく、作用極5が透明から青色の色に1秒以内に速やかに変化する。すなわち、作用極5にリセット電位E2を与えることによって、特に作用極5を青色から透明に変化させるときの切換え時間の改善に効果が発揮される。
【0056】
図7の線図には、図5と同じ変化線(e)(f)が示されているが、さらに、作用極5に+0.8Vのリセット電位E2を10秒間与えてから3日を経た後に、作用極5の電位を初期電位E0(接地電位)から切換え電位E1(−0.8V)に切換えたときの電子の移動量の変化を変化線(i)で示している。また、作用極5に+0.8Vのリセット電位E2を10秒間与えてから21日を経た後に、作用極5の電位を初期電位E0から切換え電位E1に切換えたときの電子の移動量の変化を変化線(j)で示している。
【0057】
図7から、作用極5に対してリセット電位E2を一度与えると、その後21日を経てからエレクトロクロミック素子1を動作させても、作用極5の色を青色から透明に切換えるときの切換え速度を速くできる効果を持続できていることが解る。
【0058】
以上から、例えば、1日に一度程度の頻度で作用極5にリセット電位E2を与えることで、作用極5の色を青色から透明に切換えるときの切換え速度を速くでき、また青みがかった残像が残りにくくなる。
【0059】
前記実施の形態では、作用極5に初期電位E0である接地電位が与えられているとき、作用極5を構成しているフェロシアン化鉄の酸化価数は{Fe(lll)4[Fe(ll)(CN)63}である。通常の切換え動作において作用極5に−0.8V〜−1.0Vの切換え電位E1が与えられると、フェロシアン化鉄の酸化価数は{Fe(ll)4[Fe(ll)(CN)63}となる。ただし、作用極5に+0.8V〜+1.0Vのリセット電位E2が与えられたときは、フェロシアン化鉄の酸化価数が{Fe(lll)4[Fe(lll)(CN)63}となる。
【0060】
このように、作用極5に切換え時とは正負が逆極性となるリセット電位E2が与えられると、作用極5の多くの電子が一度に放出されることになり、その後の還元動作の際に、作用極5が電子を受け取りやすい状態に変化する。これにより、作用極5の色が青色から透明に切換わるときの応答速度が速くなり、また残像が残りにくくなる。
【0061】
図2と図3は、図1に示すエレクトロクロミック素子1における作用極5のパターンの構成例を示している。
【0062】
図2に示す例では、作用極5が7個のセグメントに分かれて互いに独立している。7個のセグメントに対向する対極7は互いに導通して接地電位に設定されている。そして、7組の作用極5に対して、初期電位E0と切換え電位E1を個別に与えることで、7個のセグメントを選択して青色に表示させることができる。ただし、リセット電位E2は、7個のセグメントの作用極5の全てに対して同時に与えられる。
【0063】
図3に示す例では、複数の細長い作用極5が互いに独立して且つ隣接して平行に配置されており、それぞれの作用極5に対して共通して対向する対極7が設けられ、対極7が接地電位に設定されている。複数の作用極5を選択して、初期電位E0と切換え電位E1を個別に与えることで、細長い作用極のいずれかを選択して青色に表示させることができ、これにより表示変更が可能なバーコード表示装置が構成される。ただし、リセット電位E2は、作用極5の全てに対して同時に与えられる。
【符号の説明】
【0064】
1 エレクトロクロミック素子
2 支持側基板
2a 透明基板
3 表示側基板
3a 透明基板
4 表示側電極
4a 透明電極
5 作用極
5a 第1の作用極
5b 第2の作用極
6 支持側電極
6a 透明電極
7 対極
8,8a 電解質層
11 切換え回路
12 反転回路
12,14 スイッチ端子
SW1 第1のスイッチ
SW2 第2のスイッチ
E0 初期電位
E1 切換え電位
E2 リセット電位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用極と対極と電解質層とを有するエレクトロクロミック素子と、前記作用極と前記対極との間の電圧を制御する切換え回路とを有するエレクトロクロミック表示装置において、
前記作用極が、酸化されると発色し還元されると発色が消えるエレクトロクロミック材料を有しており、前記切換え回路によって、前記作用極の電位を、
(a)前記作用極を酸化状態とする初期電位と、
(b)前記作用極に還元反応を生じさせる切換え電位と、
(c)前記作用極の前記対極に対する電位差を前記(b)と逆極性にするリセット電位と、
に設定可能であることを特徴とするエレクトロクロミック表示装置。
【請求項2】
前記(a)の初期電位が前記対極と同電位で、前記(b)の切換え電位が前記対極の電位に対して負の極性であり、前記(c)のリセット電位が前記対極の電位に対して正の極性である請求項1記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項3】
前記電解質層が白色化されて、前記作用極と対向する側から前記作用極の色の変化が目視される請求項1または2記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項4】
前記エレクトロクロミック材料が、プルシアンブルー型錯体である請求項1ないし3のいずれかに記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項5】
前記対極が、前記プルシアンブルー型錯体とは異なる金属イオンを含むプルシアンブルー型錯体を有している請求項4記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項6】
前記(b)の切換え電位が、対極に対して−0.8V〜−1.0Vの範囲であり、前記(c)のリセット電位が、対極に対して0.8V〜1.0Vの範囲である請求項4または5記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項7】
前記切換え回路は、エレクトロクロミック表示装置の起動時に前記作用極に前記リセット電位を与える請求項1ないし6のいずれかに記載のエレクトロクロミック表示装置。
【請求項8】
作用極と対極と電解質層とを有するエレクトロクロミック素子の駆動方法において、
前記作用極が、酸化されると発色し還元されると発色が消えるエレクトロクロミック材料を有しており、前記作用極の電位を、
(a)前記作用極を酸化状態とする初期電位と、
(b)前記作用極に還元反応を生じさせる切換え電位と、
(c)前記作用極の前記対極に対する電位差を前記(b)と逆極性にするリセット電位と、
に設定可能であることを特徴とするエレクトロクロミック素子の駆動方法。
【請求項9】
前記(a)の初期電位を前記対極と同電位とし、前記(b)の切換え電位を前記対極の電位に対して負の極性とし、前記(c)のリセット電位を前記対極の電位に対して正の極性とする請求項8記載のエレクトロクロミック素子の駆動方法。
【請求項10】
白色化した前記電解質層を使用し、前記作用極と対向する側から前記作用極の色の変化を目視できるようにする請求項8または9記載のエレクトロクロミック素子の駆動方法。
【請求項11】
前記エレクトロクロミック材料として、プルシアンブルー型錯体の微粒子を使用する請求項8ないし10のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子の駆動方法。
【請求項12】
前記対極に、前記プルシアンブルー型錯体とは異なる金属イオンを含むプルシアンブルー型錯体の微粒子を使用する請求項11記載のエレクトロクロミック素子の駆動方法。
【請求項13】
前記(b)の切換え電位を、対極に対して−0.8V〜−1.0Vの範囲とし、前記(c)のリセット電位を、対極に対して0.8V〜1.0Vの範囲とする請求項11または12記載のエレクトロクロミック素子の駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−114079(P2013−114079A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260850(P2011−260850)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】