説明

エンジン冷却システム

【課題】エンジン内部温度を低下させることなく暖機を促進できる低コストのエンジン冷却システムを提供する。
【解決手段】エンジン冷却システム100は、電動式ポンプ2と、電動式ポンプ2からエンジン1に冷媒を流通させる第1流路10と、エンジン1からラジエータ5を経由して電動ポンプ2に冷媒を還流させる第2流路20と、第2流路20から分岐し、ラジエータ5を経由せずに第2流路20と合流する第3流路30と、第3流路30に設けられた第1弁70と、制御部60を備えている。制御部60は、エンジン1の始動後、エンジン1の温度が第1弁開弁温度に到達したとき、閉状態にある第1弁70に対して電動式ポンプ2による冷媒の流通量を増大させ、第1弁70が開状態になったとき、第1弁70が開状態を維持しつつ電動式ポンプ2による冷媒の流通量を減少させるよう制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンとラジエータとの間で冷媒を流通させる電動式ポンプを備えるエンジン冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンや軽油等を燃料とするエンジンでは、回転動力を得るために燃料を燃焼させているので、その運転中には高温になる。このため、これらのエンジンでは、冷媒を循環させて冷却するよう構成されている。一方、エンジンの始動時にはエンジンの内部温度が低く燃焼効率が悪いので、暖機が行われる。そこで、これらを両立すべく、エンジン始動時にはエンジン内部を流通する冷媒の流路を閉塞して冷媒の流通を遮断し、エンジンの暖機後に冷媒を流通させるシステムが利用されている。
【0003】
エンジンを搭載した車両には、EGR(Exhaust Gas Recirculation)装置やヒータコアなど熱と冷媒との間で熱交換を要するデバイスも搭載されている。このため、例えばEGR装置においては、排ガスを冷却するEGRクーラが備えられている。このようなEGRクーラは、冷媒の流通を遮断する時間が長時間に亘るとEGR装置の温度が上昇し故障に至る可能性がある。このため、エンジン側への冷媒の流通を遮断している場合でも、EGRクーラ内の冷媒を沸騰させないように冷媒を流通させる必要がある。そこで、このような構成の実現に対して利用可能な技術がある(例えば特許文献1および2)。
【0004】
特許文献1には、ハイブリッド車両の冷却に用いられ、電動式ポンプを備えて構成される冷却装置が開示されている。この電動式ポンプから吐出された冷却水は、エンジンと電気装置とに流通される。エンジンの出口側流路には二方弁が設けられ、当該二方弁の出口側流路と、電気装置の出口側流路とが接続される。二方弁の出口側流路と電気装置の出口側流路とが接続された下流側にはサーモスタット弁が設けられ、冷却水は、当該冷却水の温度に応じてラジエータ側の流路、またはヒータコアおよびバイパス側の流路に流通される。ハイブリッド車両のエンジンが停止している場合において、ヒータコアを用いる暖房の要求がある時にのみ二方弁の流量を絞り、電気装置の発熱を利用する。これにより、エンジンの温度が低下しすぎないようにしている。
【0005】
特許文献2には、電動ウォーターポンプを備えて構成される内燃機関の冷却水制御装置が開示されている。この電動ウォーターポンプの出口側通路は、エンジン側の冷却水通路と迂回通路とに分流し、エンジンの出口側で三方弁を経由して合流する。エンジンの暖機を促進する場合には、三方弁を制御して電動ウォーターポンプから吐出された冷却液を迂回通路に流通させる。一方、エンジンの暖機完了後は、三方弁を制御して電動ウォーターポンプから吐出された冷却液をエンジン側の冷却水通路に流通させる。三方弁の下流側にはヒータコアが配置され、エンジンの暖機に拘らず、冷却液はヒータコアに流通される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−182857号公報
【特許文献2】特開2009−150266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および2に開示された装置では、暖機運転後のエンジンへの冷却水(冷媒)の供給にあたり、エンジン側に冷たい冷却水が過度に流入してエンジンの内部温度が低下しないようにするために、開度調整が可能な二方弁や三方弁を利用している。しかしながら、このような二方弁や三方弁は高価であり冷却装置のコストアップにつながる、という問題があった。
【0008】
上記問題に鑑み、本発明は、エンジンの内部温度を低下させることなく暖機を促進できる低コストのエンジン冷却システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係るエンジン冷却システムの特徴構成は、冷媒の吐出量が制御可能な電動式ポンプと、前記電動式ポンプからエンジンに前記冷媒を流通させる第1流路と、前記エンジンからラジエータを経由して前記電動ポンプに前記冷媒を還流させる第2流路と、前記第2流路から分岐し、前記ラジエータを経由せずに前記第2流路と合流する第3流路と、前記第3流路に設けられ、付勢部材による付勢力を常に弁体に作用させると共に、前記弁体に作用するソレノイドによる吸着力の発生と解除を切り換え可能に構成し、閉状態にあるとき前記弁体の受圧面の一部分が弁座に当接し、前記受圧面のそれ以外の部分で前記冷媒の圧力を受ける構成を有する開閉弁と、前記エンジンの始動後、前記エンジンの温度が予め設定された開閉弁開弁温度に到達したとき、閉状態にある前記開閉弁の前記ソレノイドの吸着力を解除し、前記電動式ポンプによる前記冷媒の流通量を増加させ、前記冷媒の圧力によって前記開閉弁が開状態になったとき、前記開閉弁が開状態を維持しつつ前記電動式ポンプによる前記冷媒の流通量を減少させるよう制御する制御部と、を備えている点にある。
【0010】
このような特徴構成とすれば、開度調整が可能な弁ではなく、安価で小型のオン/オフ弁を開閉弁として使用するので、低コストのエンジン冷却システムを実現することができる。また、冷媒の流通量を増加させて圧力をかけることにより開閉弁を開状態にした後は、開閉弁が開状態を維持しつつ冷媒の流通量を減少させるように電動式ポンプを制御する。これにより、エンジンの内部温度を過度に低下させることなく暖機が促進され、エンジンをいち早く燃焼効率の良い状態に移行できるので、燃費を向上させることができる。
【0011】
一般的に、燃料噴射や排ガスの制御は、エンジン内部の冷媒の温度を基準に行うことが多い。したがって、本特徴構成によれば、冷媒の温度変化を最小限に抑えることができるので、燃料噴射や排ガス等の制御を安定して行うことが可能となる。
【0012】
また、本発明に係るエンジン冷却システムにおいては、前記弁体に作用する前記吸着力と前記付勢力は前記弁体を前記弁座に当接させる方向に発生し、前記弁体の前記受圧面に作用する前記冷媒の圧力は前記弁体を前記弁座から離間させる方向に発生するように前記開閉弁が構成されると好適である。
【0013】
このような構成とすれば、ソレノイドによる吸着力と付勢部材による付勢力を併用して閉状態にするので、消費電力が低く出力が小さいソレノイドを使用することができると共に、確実に閉状態を維持することができる。また、冷媒の圧力を高めることで開弁できるので、確実に開状態にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】エンジン冷却システムの構成を模式的に示したブロック図
【図2】第1弁の構成を模式的に示した断面図
【図3】第1弁の閉状態と開状態でのそれぞれの冷媒の流量と弁前後差圧との関係を示すグラフ
【図4】エンジン始動時から暖機完了までのエンジン内部の冷媒の流通量の変化を示すグラフ
【図5】エンジン始動時から暖機完了までのエンジンの内部温度変化を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1実施形態]
以下、本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。本発明の実施形態に係るエンジン冷却システム100は、車両に設けられるエンジン1の暖機および冷却を効率良く行う機能を備えている。図1に、エンジン冷却システム100の構成を模式的に示したブロック図を示す。エンジン冷却システム100は、エンジン1、電動式ポンプ2、第1流路10、第2流路20、第3流路30、第4流路40、帰還流路50、制御部60等を備えて構成される。冷媒は電動式ポンプ2から吐出され、エンジン1、第1流路10、第2流路20、第3流路30、第4流路40、帰還流路50を流通して電動式ポンプ2に帰還する。制御部60は、CPUを中核部材としてエンジン1の暖機および冷却を行う種々の処理を行うための機能部がハードウェアまたはソフトウェア或いはその両方で構築されている。
【0016】
電動式ポンプ2は、電動モータを駆動源とするので、エンジン1の運転状態とは無関係に作動、停止が可能である。また、電動式ポンプ2は、制御部60の制御により、吐出する冷媒の量を変化させることができる。
【0017】
第1流路10は電動式ポンプ2から吐出された冷媒をエンジン1に流入させる流路である。エンジン1の内部には第1流路から連続して冷媒を流通させる流路が形成されている。エンジン1の内部を流通する冷媒は、エンジン1の熱を吸収して自らの温度を上昇させることでエンジン1の内部温度を低下させる。
【0018】
第2流路20は、エンジン1から流出した冷媒をラジエータ5と第2弁90とを経由して電動式ポンプ2への帰還流路50まで流通させる流路である。第2流路20は、ラジエータ5に冷媒を流入するラジエータ入口流路21と、ラジエータ5から冷媒が流出するラジエータ出口流路22とから構成される。帰還流路50を流通する冷媒は、電動式ポンプ2に流入する。
【0019】
第3流路30は、第2流路20のラジエータ入口流路21から分岐して、第1弁70を経由して第4流路40まで冷媒を流通させる流路である。「ラジエータ入口流路21から分岐して」とは、図1に示すようにラジエータ入口流路21から分岐するように流路を構成することだけでなく、エンジン1から直接分岐するように構成することも含む。なお、第1弁70は特許請求の範囲に記載されている開閉弁の一例である。
【0020】
本実施形態では、第1弁70は第3流路30の途中に設けられ、オン/オフ弁で構成される。すなわち、本発明に係る第1弁70は、その開度を閉状態または開状態の2つの状態にのみ切り替え可能な弁である。したがって、安価な弁を用いることが可能である。また、第3流路30は第2流路20よりも流路の断面積を小さくすることができるので、小型の弁を用いることが可能である。第1弁70の詳細な構造は後述する。
【0021】
第4流路40は、第1流路10から分岐した冷媒を、EGRクーラ3、ヒータコア4を経由して帰還流路50まで流通させる流路である。「第1流路10から分岐して」とは、図1に示すように第1流路10から分岐するように構成することだけでなく、電動式ポンプ2から直接分岐するように構成することも含む。EGRクーラ3は、エンジン1の燃焼後の排ガスを冷却する熱交換デバイスである。エンジン冷却システム100では、EGRクーラ3を流通する冷媒の流路である第4流路40とエンジン1を流通する冷媒の流路である第1流路10、第2流路20を分けて設けている。これにより、EGRクーラ3とエンジン1とにそれぞれ独立して冷媒を流通させることが可能となる。
【0022】
EGRクーラ3の下流側には、ヒータコア4が備えられる。第3流路30はEGRクーラ3とヒータコア4との間で第4流路40と合流する。第4流路40は、ヒータコア4の下流側で帰還流路50につながっており、冷媒は帰還流路50を通って電動式ポンプ2に還流する。よって、電動式ポンプ2を作動させれば、第1弁70と第2弁90とが閉状態であっても、第4流路40内に冷媒を循環させることができる。
【0023】
第2弁90は、ラジエータ出口流路22に設けられる。第2弁90はリニア制御弁であり、弁開度に応じて第2流路20を流通する冷媒の量を変えることができる。第2弁90は、所謂サーモスタット弁で構成される。第2弁90は、予め設定された温度で開弁し始める。制御部60は第2弁90の弁開度を制御しない。第2弁90は内部に感温ワックスを備えており、図1に示すようにヒータコア4の下流の第4流路40の冷媒の熱が感温ワックスに加えられるように構成される。感温ワックスに加えられた熱の量(温度)に応じて弁開度が変化する。
【0024】
以上のように、本実施形態においては、第2流路20、第3流路30、および第4流路40は帰還流路50を共有して、並列状態で構成される。すなわち、第2流路20と帰還流路50とからなる流路と、第3流路30と帰還流路50とからなる流路と、第4流路40と帰還流路50とからなる流路とが、帰還流路50を共有して構成される。
【0025】
制御部60は、エンジン1の内部に設けられた温度センサ6によって検出される冷媒の温度に基づいて、電動式ポンプ2および第1弁70を制御する。具体的には、第2弁90の開弁開始温度よりも低温かつ予め設定された第1弁開弁温度T1で第1弁70を開弁させるように、電動式ポンプ2および第1弁70を制御する。第1弁開弁温度T1とは特許請求の範囲に記載されている開閉弁開弁温度のことである。
【0026】
温度センサ6による温度の検出は、第1弁70が開状態となった後も継続して行われる。検出された温度により、電動式ポンプ2から吐出される冷媒の量を制御するためである。
【0027】
次に、第1弁70の構造と動作について、図2を用いて説明する。図2は、第1弁70の構成を模式的に示した断面図を示す。図2(a)は第1弁70の閉状態を示し、図2(b)は開状態を示す。第1弁70は、ハウジング71と、弁座72から離間する位置と当該弁座72に当接する位置とに移動可能に支持された弁体73と、弁体73を付勢して当該弁体73を弁座72に当接させる付勢部材74と、通電により弁体73と弁座72との当接をより強くして閉状態にするソレノイド75とを備えている。
【0028】
ハウジング71は、冷媒流入路76と、冷媒流出路77と、冷媒流入路76に対して同芯状に対向するように形成された開口部78と、開口部78を密閉するカバー79とを備え、冷媒流出路77は冷媒流入路76に対して直交する方向に設けられている。
【0029】
ソレノイド75は、図示しないコネクタにより駆動回路に電気的に接続され、鉄等の磁性体から成る外径部80および内径部81を備えた二重筒状に形成されたボディ82と、ボディ82の内部に同芯状に装着された絶縁材料製のボビン83と、ボビン83に巻き付けられた絶縁銅線84とを備えている。ボディ82は、内径部81の内側に冷媒流入路76が同芯状に入り込むようにハウジング71に装着されている。
【0030】
弁座72は、ボディ82のカバー79の側に臨む端面に形成されている。弁体73は、例えばカバー79に形成された筒状の軸受部85によって、弁座72から離間する位置と当該弁座72に当接する位置とに亘って移動可能に支持されている。付勢部材74は、カバー79と弁体73との間に装着された圧縮コイルスプリングで構成されている。圧縮コイルスプリングによる付勢力は、弁体73を弁座72に当接させる方向に発生する。
【0031】
第1弁70を閉弁状態にするには、付勢部材74による付勢力に加え、ソレノイド75による吸着力を併用する。弁体73は鉄等の磁性体で形成され、ソレノイド75が通電により励磁されると、弁体73がボディ82に形成された弁座72に当接される方向に吸着力が発生し、弁体73と弁座72との当接がより強くなり閉弁状態となる。正確には、弁体73の受圧面73a全体が弁座72に当接しているわけではなく、受圧面73aの一部分が弁座72に当接し、受圧面73aのその他の部分は冷媒流入路76に対向している。ソレノイド75への通電のオン/オフは制御部60により制御される。
【0032】
ソレノイド75への通電がオフになって吸着力が解除されても、電動式ポンプ2が停止状態であれば、第3流路30(冷媒流入路76)にある冷媒によって弁体73が受ける圧力は付勢部材74による付勢力より小さい。したがって、第1弁70は、付勢部材74の付勢力により弁体73が弁座72に当接して閉状態を維持している。電動式ポンプ2が作動状態であったとしても、冷媒流入路76にある冷媒によって弁体73が受ける圧力が付勢部材74の付勢力より小さければ、第1弁70は閉状態を維持する。
【0033】
したがって、第1弁70を開状態にするためには、ソレノイド75への通電がオフであることに加え、冷媒流入路76にある冷媒によって弁体73が受ける圧力が付勢部材74の付勢力を上回るように電動式ポンプ2から冷媒が吐出される必要がある。第1弁70が開状態になると、冷媒は冷媒流入路76から冷媒流出路77へ流通する。
【0034】
一旦第1弁70が開状態となると、電動式ポンプ2からの冷媒の吐出量を減少させても、弁体73は弁座72に当接しない。これは以下の理由による。閉状態で冷媒の圧力を受けるのは、受圧面73aのうち冷媒流入路76に対向している部分である。以下、この部分を受圧部73bとする。一方、開状態では受圧面73a全体が冷媒の圧力を受ける。
【0035】
受圧部73bの面積は受圧面73aの面積より小さい。よって、付勢部材74の付勢力を上回る力を受圧部73bに与えて開弁させるには、電動式ポンプ2から吐出される冷媒の量を増加させて受圧部73bが受ける圧力を高める必要がある。一方、一旦第1弁70が開状態になれば、受圧面73aは受圧部73bより面積が大きいので、電動式ポンプ2からの冷媒の吐出量を減少させて受圧面73aが受ける圧力を低下させても、受圧面73aに作用する力を付勢部材74の付勢力よりも大きくして開状態を維持することができる。
【0036】
図3に、第1弁70の閉状態と開状態でのそれぞれの冷媒の流量を横軸に取り、冷媒流入路76に発生する圧力と冷媒流出路77に発生する圧力の差である弁前後差圧を縦軸に取ったグラフを示す。図3において、「閉状態」のグラフで弁前後差圧がXとなるように受圧部73bが受ける圧力が、付勢部材74の付勢力に等しい。したがって、これより大きい圧力であれば弁体73は開状態となる。図3の「開状態」のグラフより、一旦開状態になると、Xより小さい弁前後差圧に低下させても、弁体73が弁座72に当接することなく、冷媒が流通するのがわかる。
【0037】
第1弁70を再度閉弁するためには、電動式ポンプ2を停止させて冷媒の流通を止めてからソレノイド75に通電する。冷媒の流通に抗して閉弁する必要はないので、ソレノイド75の出力は小さくてもよい。
【0038】
次に、エンジン1が常温(例えば20℃)で始動してから暖機が完了するまでのエンジン冷却システム100が行う処理について、エンジン1の始動時から暖機完了までのエンジン1の内部の冷媒の流通量の変化を示すグラフ(図4)およびエンジン1の内部温度の変化を示すグラフ(図5)を用いて説明する。
【0039】
エンジン冷却システム100の第1弁70および第2弁90は、エンジン1の始動前には閉状態にある。エンジン1を始動させた後も、電動式ポンプ2はすぐには作動せず停止したままである。この状態では、冷媒は、第1流路10、第2流路20、第3流路30、第4流路40のいずれにも流通しない。もし、EGRクーラ3の内部にある冷媒が沸騰しそうな温度になったことが不図示の温度センサにより検出、または推定されたときは、制御部60は電動式ポンプ2を作動させ、第4流路40と帰還流路50に低流量で冷媒を流通させる。このときは第1弁70および第2弁90は閉状態のままなので、エンジン1の内部の冷媒は流通しない。よって、エンジン1の暖機が促進されたまま、EGRクーラ3の内部にある冷媒の沸騰を回避できる。EGRクーラ3にある冷媒が沸騰する温度に達しない場合には、エンジン1の内部温度が第1弁開弁温度T1に到達するまで、電動式ポンプ2は作動しない。
【0040】
エンジン1の暖機が進みエンジン1の内部温度が第1弁開弁温度T1に達すると、制御部60は、第1弁70のソレノイド75への通電をオフにする制御を行う。その後、短時間だけ冷媒の吐出量を増やすように電動式ポンプ2を制御する。具体的には、上述したように、弁体73の受圧部73bが受ける圧力が付勢部材74の付勢力を上回るような吐出量にする。急増した吐出量による冷媒の圧力は第3流路30につながる第1弁70の冷媒流入路76に伝わり、第1弁70は開弁する。なお、第1弁70が開状態になったかどうかは制御部60では検出できない。そのため、第1弁70を確実に開状態にするためには、制御部60は、弁体73の受圧部73bが受ける圧力が付勢部材74の付勢力を確実に上回る吐出量となるように電動式ポンプ2を制御することが必要である。
【0041】
一旦第1弁70が開状態になれば、制御部60は増加させた冷媒の吐出量を減少させて低流量の冷媒を流通させるように電動式ポンプ2を制御する。第1弁70が開状態になったことにより、エンジン1の内部を冷媒が流通し始める。しかし、エンジン1の内部温度が大きく低下することはない。これは、エンジン1の内部を流通する冷媒が低流量であることによる。図4では、低流量時の冷媒の流通量は一定になっているが、図5のエンジン1の内部温度の上昇の程度により流量を制御する。
【0042】
エンジン1の内部温度と第1流路10、第3流路30、第4流路40、帰還流路50を流通する冷媒の温度が均一化されると、制御部60は冷媒の吐出量を低流量時よりも増加させるように電動式ポンプ2を制御する。エンジン1の内部を流通する冷媒の流量は内部温度や運転状態に応じて変化する。その後、ヒータコア4の下流の第4流路40の冷媒の温度が第2弁90の開弁開始温度に達すると、第2弁90は自動的に開弁し始める。これにより、第2流路20を冷媒が流通してラジエータ5により冷却される。
【0043】
エンジン1の内部の発熱とラジエータ5の放熱を、電動式ポンプ2と第2弁90で調整することで、エンジン1の内部温度は一定になり、エンジン1の暖機が完了する。エンジン冷却システム100は、上記のようなフローに沿って暖機が行われる。このように、エンジン冷却システム100では、暖機が進んでエンジン1の内部温度が高くなってから第2弁90の開弁を開始してラジエータ5に冷媒を流通させ始めることができると共に、第2弁90の弁開度を連続的に変化させることができる。これにより、エンジン1の内部温度を過度に低下させることなく暖機が促進され、エンジン1を短時間に燃焼効率の良い状態に移行できるので、燃費を向上させることができる。
【0044】
このようにエンジン冷却システム100によれば、冷却効果の大きいラジエータ5につながる第2流路20に冷媒を流通させるよりも先に、第3流路30に低流量の冷媒を流通させるので、エンジン1の暖機中に、エンジン1の内部を流通する冷媒の量を少なくして、エンジン1の暖機を促進することができる。したがって、エンジン1を短時間で燃焼効率の良い状態に移行でき、燃費を向上させることができる。ここで、エンジン冷却システム100は、第1弁70として安価なオン/オフ弁を使用しているので、システム全体を低コストで実現することが可能となる。また、一般的に、燃料噴射や排ガスの制御は、エンジン1の内部の冷媒の温度を基準に行うことが多い。したがって、エンジン冷却システム100によれば、冷媒の温度変化を最小限に抑えることができるので、燃料噴射や排ガス等の制御を安定して行うことが可能となる。
【0045】
〔その他の実施形態〕
上記実施形態では、第3流路30はヒータコア4の上流側で第4流路40と合流している。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。第3流路30がヒータコア4の下流側で第4流路40と合流するように構成することも当然に可能である。
【0046】
上記実施形態では、第3流路30は、第4流路40と合流してから帰還流路50と合流している。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。第3流路30が第4流路40と合流せずに、帰還流路50と直接合流するように構成することも当然に可能である。
【0047】
上記実施形態では、第1弁70は、第3流路30に設けられていた。しかしながら、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。例えば、第1弁70をエンジン1の上流側である第1流路10に設けることも当然に可能である。
【0048】
上記実施形態では、第2弁90の形態については何ら説明しなかったが、アウトレットサーモ式でも、インレットサーモ式でも可能である。
【0049】
本発明は、エンジンとラジエータとの間で冷媒を流通させるポンプを備えるエンジン冷却システムに利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 エンジン
2 電動式ポンプ
5 ラジエータ
10 第1流路
20 第2流路
30 第3流路
60 制御部
70 第1弁
72 弁座
73 弁体
74 付勢部材
75 ソレノイド
90 第2弁
100 エンジン冷却システム
T1 第1弁開弁温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒の吐出量が制御可能な電動式ポンプと、
前記電動式ポンプからエンジンに前記冷媒を流通させる第1流路と、
前記エンジンからラジエータを経由して前記電動ポンプに前記冷媒を還流させる第2流路と、
前記第2流路から分岐し、前記ラジエータを経由せずに前記第2流路と合流する第3流路と、
前記第3流路に設けられ、付勢部材による付勢力を常に弁体に作用させると共に、前記弁体に作用するソレノイドによる吸着力の発生と解除を切り換え可能に構成し、閉状態にあるとき前記弁体の受圧面の一部分が弁座に当接し、前記受圧面のそれ以外の部分で前記冷媒の圧力を受ける構成を有する開閉弁と、
前記エンジンの始動後、前記エンジンの温度が予め設定された開閉弁開弁温度に到達したとき、閉状態にある前記開閉弁の前記ソレノイドの吸着力を解除し、前記電動式ポンプによる前記冷媒の流通量を増加させ、前記冷媒の圧力によって前記開閉弁が開状態になったとき、前記開閉弁が開状態を維持しつつ前記電動式ポンプによる前記冷媒の流通量を減少させるよう制御する制御部と、を備えたエンジン冷却システム。
【請求項2】
前記弁体に作用する前記吸着力と前記付勢力は前記弁体を前記弁座に当接させる方向に発生し、前記弁体の前記受圧面に作用する前記冷媒の圧力は前記弁体を前記弁座から離間させる方向に発生するように前記開閉弁が構成される請求項1に記載のエンジン冷却システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−108398(P2013−108398A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253028(P2011−253028)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)