説明

エンジン逆回転検出方法及びエンジン駆動制御装置

【課題】汎用性が高く簡易に確実なエンジンの逆回転検出を可能とする。
【解決手段】電子制御ユニット20により、エンジン始動の際、車両用バッテリ10のバッテリ電圧VBが、所定電圧範囲における電圧降下、すなわち、VBtyp>VB>VBdwnが成立しているか否かが判定され(S106)、バッテリ電圧VBに所定電圧範囲における電圧降下が生じたと判定された場合、エンジン1の逆回転が発生していると判定される(S108)一方、所定電圧範囲における電圧降下が生じていないと判定された際にバッテリ電圧VBの電圧降下が、VB>VBstを満たすと判定された場合(S110)には、エンジン1が正常に始動されたと判定されるようになっている(S112)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの逆回転検出方法に係り、特に、エンジンの逆回転検出における安定性、信頼性の向上等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来装置としては、例えば、クランク角センサにより得られたクランクパルスについて、隣接するパルスの時間間隔が正常値にあるか否かを判定することでエンジンの逆回転を検出し、逆回転検出の際には、エンジンの駆動を停止するようにしたもの等が種々提案、実用化されている(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−127299号公報(第5−11頁、図1−図8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、クランク角センサの種類によっては指向性を有するものも有り、逆回転の際に検出精度が低下し、正常なクランクパルスの取得が困難となるものもあるため、上述した従来のエンジン逆回転検出方法が適用できなくなることもあり、必ずしも汎用性のある方法とは言えず、また、十分な信頼性が保証できないという問題がある。
【0005】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、汎用性が高く簡易な構成でエンジンの逆回転を確実に検出できるエンジン逆回転検出方法及びエンジン駆動制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るエンジン逆回転検出方法は、
エンジン始動時の車両用バッテリの電圧に所定値の電圧降下、又は、所定電圧範囲における電圧降下が生じたことが検出された場合、前記エンジンの逆回転の発生と判定するよう構成されてなるものである。
また、上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るエンジン駆動制御装置は、
電子制御ユニットによるインジェクタ及び点火プラグの通電制御を行うことにより前記エンジンの駆動制御を可能としてなるエンジン駆動制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、
前記エンジン始動の際、車両用バッテリの電圧に所定値の電圧降下、又は、所定電圧範囲における電圧降下を生じたか否かを判定し、前記電圧降下が生じたと判定された場合、前記エンジンの逆回転の発生と判定するよう構成されてなるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来と異なり、クランク角センサなどの検出感度に指向性のあるものに頼ることなく、汎用性が高く、信頼性の高い確実なエンジンの逆回転検出を簡易に行うことができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態におけるエンジン逆回転検出方法が適用されるエンジン駆動制御装置の構成例を示す構成図である。
【図2】図1に示されたエンジン駆動制御装置の電子制御ユニットにより実行されるエンジン逆回転検出処理の手順を示すサブルーチンフローチャートである。
【図3】エンジンが正常に起動された場合の車両用バッテリの電圧変化例を示す特性線図である。
【図4】エンジンの逆回転が生じた際の車両用バッテリの電圧変化例を示す特性線図である。
【図5】エンジンを押しがけした場合の車両用バッテリの電圧変化例を示す特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至図5を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態におけるエンジン逆回転検出方法が適用されるエンジン駆動制御装置の構成例について、図1を参照しつつ説明する。
図1は、エンジン1と、その極近傍の概略構成を示したもので、エンジン1には、気筒数に応じてインジェクタ2が設けられると共に、点火プラグ3が各気筒毎に設けられたものとなっている。
かかるエンジン1には、良く知られているようにスロットルバルブ4を介して吸入された吸入空気が吸入管5を介して導入される一方、燃焼後の排気は、排気管6を介して排気されるようになっている。
【0010】
また、エンジン1のクランクシャフト(図示せず)には、周縁部に複数の突起が形成されたロータープレート7が取着されると共に、このロータープレート7の周縁部近傍には、クランク角センサ8が設けられており、その出力信号は電子制御ユニット20に入力され、エンジン回転数の演算算出等に供されるものとなっている。
電子制御ユニット20は、例えば、公知・周知の構成を有してなるマイクロコンピュータ(図示せず)を中心に、RAMやROM等の記憶素子(図示せず)を有すると共に、インジェクタ2を通電駆動するための駆動回路(図示せず)や、点火プラグ3に通電を行うための通電回路(図示せず)を主たる構成要素として構成されたものとなっている。
【0011】
かかる電子制御ユニット20には、先に述べたようにクランク角センサ8の出力信号の他、例えば、アクセル開度、外気温度、大気圧等が図示されない各種のセンサにより検出されて入力され、電子制御ユニット20によるエンジン1の動作制御や燃料噴射制御、さらには、後述するエンジン逆回転処理に供されるようになっている。
なお、電子制御ユニット20は、イグニッションスイッチ9がオンとされることで、車両バッテリ10による電源供給がなされるようになっている。
【0012】
図2には、電子制御ユニット20により実行されるエンジン逆回転検出の処理手順がサブルーチンフローチャートに示されており、以下、同図を参照しつつ、その内容について説明する。
まず、前提条件として、この図2に示された一連のサブルーチン処理は、図示されないメインルーチンにおいて、エンジン1の回転が確認されたことを条件に実行されるものとなっている。通常、エンジン制御処理等が実行される電子制御ユニット20においては、エンジン1の制御処理が、所定のパラメータ等を判定することで行われるようになっており、その判定結果は、例えば、フラグに記憶されるようになっている。したがって、そのフラグにエンジン回転を示す所定の値が設定されている場合に、この図2に示された処理が開始されるようにすると好適である。
【0013】
しかして、電子制御ユニット20により処理が開始されると、最初に、クランクパルスの入力があるか否かが判定される(図2のステップS102参照)。
すなわち、クランク角センサ8からの入力があるか否かが判定され、クランク角センサ8からの入力有り、すなわち、クランクパルスの入力有りと判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS104の処理へ進む一方、クランクパルスの入力無しと判定された場合(NOの場合)には、エンジン1が回転していない(エンジン無回転)と判定され(図2のステップS114)、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。なお、メインルーチンでは、通常、故障対応のための制御処理が用意されており、エンジン1が無回転状態の場合には、警報等の必要な処理が実行されるようになっている。
【0014】
ステップS104においては、車両用バッテリ10のバッテリ電圧VBが電子制御ユニット20に入力され、電圧値が所定の記憶領域に記憶され、ステップS106の処理へ進むこととなる。
S106においては、上述のように入力されたバッテリ電圧VBが、所定電圧範囲内にあるか否かが判定される。
すなわち、具体的には、VBtyp>VB>VBdwnが成立しているか否かが判定されることとなる。ここで、VBtypは、車両用バッテリ10の正常時における標準的な電圧、VBdwnは、エンジン1の逆回転が生じている場合にバッテリ電圧が低下する際の最低電圧値である。
【0015】
ここで、上述のような判定を行うのは、エンジン逆回転とバッテリ電圧との相関関係について本願発明者が鋭意試験、研究を行った成果に基づくものである。
すなわち、上述のステップS106の処理は、本願発明者が鋭意試験、研究を行った結果、エンジン1が正常にスターターモータ(図示せず)によるクランキングにより始動される際のバッテリ電圧は、図3のバッテリ電圧波形例に示されたように、回転開始時(図3において時刻t1の時点)に一気にある電圧まで低下し、その後、先に生じた電圧降下の凡そ半分程度の電圧まで徐々に上昇し、その上昇した電圧に暫時停滞し、次いで、緩慢な変化でほぼ元のバッテリ電圧へ回復してゆくような変化を示すことを見出した。ここで、車両用バッテリ10が例えば12Vのものでるとすると、時刻t1時における電圧降下の大きさは大凡4〜5V前後である。換言すれば、この時、バッテリ電圧は例えば約8〜7V付近まで低下することとなる。
【0016】
その一方、エンジン1の逆回転が生じた際には、図4のバッテリ電圧波形例に示されたように、バッテリ電圧は正常時の場合(図3参照)に比して比較的小さな電圧降下を生じ、エンジン1が逆回転の状態にある間、その電圧降下したバッテリ電圧に維持されるような変化を示すことを、本願発明者は鋭意試験、研究を行った結果として見出すに至った。この場合の電圧低下は、12Vの車両用バッテリの場合、大凡1V前後である。
なお、エンジン1が正常に始動された際に、オールタネータ(図示せず)によりる発電出力は、通常、整流回路(図示せず)を経て車両用バッテリ10に充電されるようになっている。したがって、エンジン逆回転の際にオルターネータ(図示せず)に生じた逆電流は理論的には、上述の整流回路(図示せず)により遮断されるが、実際には微小の逆電流が流れ、その結果として、述のような比較的小さなバッテリ電圧の電圧降下が生じるものと推察される。
【0017】
ステップS106における判定は、このような本願発明者による試験、研究の結果に基づくもので、先のVBdwnは、12Vの車両用バッテリの場合、例えば、11V前後の値とするのが好適である。
かかるVBdwnの値は、車両用バッテリの種類やエンジン駆動制御装置の具体的な仕様等を考慮して、試験やシミュレーション結果等に基づいて設定するのが好適である。
なお、図5には、いわゆる押しがけによりエンジン1を始動させた場合のバッテリ電圧変化例が示されているが、この場合、バッテリ電圧は、ほとんど変化が無いことが確認されている。
【0018】
しかして、ステップS106において、VBtyp>VB>VBdwnが成立していると判定された場合(YESの場合)、すなわち、換言すれば、バッテリ電圧がエンジン逆回転が生じていると判断できる電圧範囲に低下していると判定された場合には、エンジン逆回転が生じていると判定され(図2のステップS108参照)、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。なお、メインルーチンでは、エンジン1が逆回転状態との判定結果に基づいて、個々の装置に応じて予め設定された必要な処理が実行されるようになっている。
【0019】
なお、この例では、ステップS106において、バッテリ電圧の電圧降下が、上述の不等式(VBtyp>VB>VBdwn)で表されたように、所定電圧範囲にあるか否かを判定することで、エンジン1の逆回転が生じているか否かを判定するようにしているが、バッテリ電圧が所定電圧だけ降下しているか否かを判定するようにしても良い。
【0020】
また、判定の信頼性を高く保つ観点から、先に図4を参照しつつ説明したように、エンジン1が逆回転の状態にある間、バッテリ電圧が低下した電圧でほぼ一定状態となることを考慮して、上述のステップS106における判定がYESとされた場合に、バッテリ電圧が所定時間の間ほぼ一定状態にあるか否かを判定し、バッテリ電圧がほぼ一定状態にあると判定された場合にステップS108へ進むようにしても好適である。
【0021】
一方、ステップS106において、VBtyp>VB>VBdwnは成立していないと判定された場合(NOの場合)には、VB>VBstが成立しているか否かが判定されることとなる(図2のステップS110参照)。
ここで、VBstは、エンジン1が正常に始動されたと判定する際の基準となる正常基準バッテリ電圧である。
【0022】
エンジン1が正常に始動された場合、先に図3を参照しつつ説明したように、バッテリ電圧は一旦ある電圧降下を生じ、その後、徐々に回復してゆくような変化を示すことを考慮して、VBstは、バッテリ電圧の電圧降下の最大値程度に設定するのが好適である。すなわち、先に図3の説明で例示したように、12Vの車両用バッテリの場合、始動時にバッテリ電圧は、大凡7V前後まで低下する。したがって、この場合、VBstは7V前後の値に設定するのが好適である。
かかるVBstの値は、車両用バッテリの種類やエンジン駆動制御装置の具体的な仕様等を考慮して、試験やシミュレーション結果等に基づいて設定するのが好適である。
【0023】
しかして、ステップS110において、VB>VBstが成立していると判定された場合(YESの場合)には、エンジン1は正常に始動された状態であると判定され(図2のステップS112参照)、図示されないメインルーチンへ戻ることとなる。
一方、ステップS110において、VB>VBstが成立していないと判定された場合(NOの場合)には、エンジン回転が正常か否かの判定ができないため、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。この場合、メインルーチンでは、エンジン1の回転状態が確定できないことに対応して、エンジン1の動作状態を確認するための他の処理等が実行されることとなる。具体的に如何なる処理が実行されるかは、個々の装置によって定められるべきものであり、特定の処理に限定される必要はないものである。
【産業上の利用可能性】
【0024】
簡易、且つ、確実なエンジン逆回転検出が所望されるエンジン駆動制御装置に適する。
【符号の説明】
【0025】
1…エンジン
2…インジェクタ
3…点火プラグ
8…クランク角センサ
10…車両用バッテリ
20…電子制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの逆回転を検出するエンジン逆回転検出方法であって、
エンジン始動時の車両用バッテリの電圧に所定値の電圧降下、又は、所定電圧範囲における電圧降下が生じたことが検出された場合、前記エンジンの逆回転の発生と判定することを特徴とするエンジン逆回転検出方法。
【請求項2】
前記電圧降下後の電圧がほぼ一定状態と判定された場合に、エンジンの逆回転の発生と判定することを特徴とする請求項1記載のエンジン逆回転検出方法。
【請求項3】
電子制御ユニットによるインジェクタ及び点火プラグの通電制御を行うことにより前記エンジンの駆動制御を可能としてなるエンジン駆動制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、
前記エンジン始動の際、車両用バッテリの電圧に所定値の電圧降下、又は、所定電圧範囲における電圧降下を生じたか否かを判定し、前記電圧降下が生じたと判定された場合、前記エンジンの逆回転の発生と判定するよう構成されてなることを特徴とするエンジン駆動制御装置。
【請求項4】
電子制御ユニットは、
電圧降下後の電圧がほぼ一定状態と判定された場合に、エンジンの逆回転の発生と判定するよう構成されてなることを特徴とする請求項3記載のエンジン駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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