説明

カプシノイドの脱水縮合による製造方法、カプシノイドの安定化法、並びにカプシノイド組成物

【課題】酵素を用いたエステル化によるカプシノイドの製造方法において、脱水剤を用いる必要なく、短時間かつ高収率でカプシノイドを簡便に得る方法を提供する。また、得られるカプシノイドの精製を安定条件下に行い、製造したカプシノイドを安定に保存する方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される脂肪酸と、一般式(2)で表されるヒドロキシメチルフェノールとを、酵素を触媒に用い、無溶媒で又は低極性溶媒下で縮合させて、一般式(3)で表されるエステル化合物を得る。また、一般式(3)で表されるエステル化合物に、一般式(4)で表される脂肪酸を添加して安定化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カプシノイドの脱水縮合による製造方法、カプシノイドの安定化方法、並びにカプシノイド組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トウガラシ(Capsicum annuum L.)の辛味成分カプサイシン((E)−N−[(4−ヒドロキ
シ−3−メトキシベンジル]−8−メチル−6−ノネンアミド)は、肥満抑制作用、エネルギー代謝亢進などの生理活性を有するが、辛味が非常に強いために使用量が限定され、食品添加物や医薬品などとして使用できなかった。
【0003】
近年、矢澤らは、タイ原産の強辛味品種CH−19の果実から選抜した無辛味果実を長年かけて固定化して無辛味品種Capsicum annuum L.、CH−19甘、を開発し、報告した(例えば、Yazawa, S.; Suetome, N.; Okamoto, K.; Namiki, T. J. Japan Soc. Hort. Sci. 1989, 58, 601-607.参照)。
CH−19甘は辛味の無いカプシノイドを多量に含む。当該カプシノイドは、含量の多い順にカプシエイト、ジヒドロカプシエイト、ノルジヒドロカプシエイトを含み、それらは以下の構造を有する。
【0004】
【化1】

カプシエイト
【0005】
【化2】

ジヒドロカプシエイト
【0006】
【化3】

ノルジヒドロカプシエイト
【0007】
これらカプシノイドはカプサイシンと同様の生理活性を有していながら、辛味が無い。従って、これらを食品添加物や医薬品として利用できる可能性がある。しかし、天然供給源から高純度カプシノイドを大量に得るには限界があり、簡便に大量にカプシノイドを生産するための新規合成法が求められている。
【0008】
カプシノイドのエステル結合を形成するには、バニリルアルコールと脂肪酸誘導体とを縮合させるのが一般的である。
バニリルアルコールは一級水酸基とフェノール性水酸基の二箇所の反応点を有する。一般的なエステル化法、例えば、バニリルアルコールと脂肪酸の酸塩化物とを塩基存在下で縮合させるような方法(例えば、Kobata, K.; Todo, T.; Yazawa, S.; Iwai, K.; Watanabe, T. J. Agric. Food Chem. 1998, 46, 1695-1697.参照)では、酸塩化物が一級水酸基とフェノール性水酸基の両方と反応してしまうために、目的とするカプシノイドの収率が低くなる。
そこで、一般的なエステル化法でカプシノイドを合成するには、バニリルアルコールのフェノール性水酸基を選択的に保護することも考えられるが、エステル化の前後で、保護、脱保護を行う必要があり、その製造において工程が多くなり、好ましくない。更に、カプシノイドは不安定ゆえ、脱保護の際に分解し易いという問題点もある。
【0009】
一級水酸基のみを選択的に反応させる方法として、光延反応による方法(例えば、Appendino, G.; Minassi, A.; Daddario, N.; Bianchi, F.; Tron, G. C. Organic Letters 2002, 4, 3839-3841.参照)及びLiClO4を用いる方法(例えば、Bandgar, B. P.; Kamble, V. T.; Sadavarte, V. S.; Uppalla, L. S. Synlett 2002, 735-738.参照)が挙げられる。前者は、反応後にトリフェニルホスフィンオキシド及びジエチルアゾジカルボキシレートの還元体が共生成物として生じるため、精製が困難であるという欠点があり、後者は、本発明者らが実験を忠実に繰り返したが文献記載通りの収率の再現は得られなかった。このように、いずれも工業的実施には適さない。
【0010】
一方で、酵素を用いたエステル化法によって、一級水酸基のみを選択的に反応させることが可能である。当該方法は、試薬入手の容易さ、および工程の簡便さの観点から、工業的実施に適していると考えられる。酵素を用いた方法の具体例としては、リパーゼの一種である固定化酵素ノボザイム 435(Novozym 435、ノボザイムズ社製)を用いて、バ
ニリルアルコールと脂肪酸とをアセトン溶媒下で縮合させる方法(例えば、特開2000−312598号公報参照)がある。しかし、この酵素を用いた反応は、エステル化に伴い水が発生する平衡反応であるため、反応に長時間を要する上、収率が60%程度と低い
。収率を向上させるために、原料の1つを大過剰にして平衡をエステル化に偏らせることが考えられるが、反応後の残存した原料と生成物を分離する工程が不可欠となり、工程が複雑になる。また、脱水剤としてモレキュラーシーブスを添加すれば、収率は向上するが、それでも最大でも、わずか80%であり、更に脱水剤を濾過して除去する必要がある。酵素を再利用するには、反応後のケーキから酵素と脱水剤とを分離しなくてはならない。
【0011】
更には、カプシノイドは不安定であり、ある種の有機溶媒に溶解しておくだけで分解が進むことが知られている(例えば、Sutoh, K.; Kobata, K.; Watanabe, T. J. Agric. Food Chem. 2001, 49, 4026-4030.参照)。そのため、工業的にカプシノイドの工業的製造後
は、カプシノイドを安定に分離し、保存する技術が必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、酵素を用いたエステル化によるカプシノイドの製造方法において、脱水剤を用いる必要がなく、短時間かつ高収率でカプシノイドを簡便に得る方法を提供することである。更には、得られるカプシノイドの分離を安定条件下に行い、製造したカプシノイドを安定に保存する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、酵素による縮合反応において、無溶媒で又は低極性溶媒下で縮合反応を行えば、生成した水が速やかに反応混合物から分離するため、脱水剤を用いなくても反応が加速され、簡便に、短時間かつ高収率でカプシノイドを得ることができることを見出した。更に、カプシノイドに数%の脂肪酸を共存
させておくと、カプシノイドを安定に分離することが可能となり、その上長期保存が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、以下の通りである。
〔1〕一般式(1):
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、R1は、無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルキル基又は無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルケニル基を示す。)
で表される脂肪酸(以下、脂肪酸(1)ともいう)と、一般式(2):
【0017】
【化5】

【0018】
(式中、R2〜R6は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、炭素数1から25のアルキル基、炭素数2から25のアルケニル基、炭素数2から25のアルキニル基、炭素数1から25のアルコキシ基、炭素数2から25のアルケニルオキシ基又は炭素数2から25のアルキニルオキシ基を示し、R2〜R6の少なくとも一つは水酸基である。)
で表されるヒドロキシメチルフェノール(以下、ヒドロキシメチルフェノール(2)ともいう)とを、酵素を触媒に用い、無溶媒で又は低極性溶媒下で縮合させることを特徴とする、一般式(3):
【0019】
【化6】

【0020】
(式中、R1〜R6は上記と同義である。)
で表されるエステル化合物(以下、エステル化合物(3)ともいう)の製造方法。
〔2〕低極性溶媒が、ヘプタン、ヘキサン、ペンタン、トルエン、4−メチル−2−ペンタノン、2−ブタノン及び1,2−ジメトキシエタンからなる群より選ばれる1種以上の溶媒である、上記〔1〕に記載の方法。
〔3〕ヒドロキシメチルフェノール(2)が、バニリルアルコールである、上記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕脂肪酸(1)を、ヒドロキシメチルフェノール(2)よりも過剰に用いることにより、縮合後の反応混合物に脂肪酸(1)を含有させることを特徴とする、上記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一つに記載の方法。
〔5〕脂肪酸(1)とヒドロキシメチルフェノール(2)とを縮合させた後に、一般式(4):
【0021】
【化7】

【0022】
(式中、R1’は、無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルキル基又は無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルケニル基を示す。)
で表される脂肪酸(以下、脂肪酸(4)ともいう)の添加を更に含む、上記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一つに記載の方法。
〔6〕縮合させた後、得られたエステル化合物(3)を脂肪酸(1)との混合物として分取する精製工程を更に含む、上記〔4〕に記載の方法。
〔7〕縮合させた後、得られたエステル化合物(3)を脂肪酸(4)との混合物として分取する精製工程を更に含む、上記〔5〕に記載の方法。
〔8〕R1が、ヘキシル基、5−メチルヘキシル基、トランス−5−メチル−3−ヘキセニル基、ヘプチル基、6−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、トランス−6−メチル−4−ヘプテニル基、オクチル基、7−メチルオクチル基、トランス−7−メチル−5−オクテニル基、ノニル基、8−メチルノニル基、7−メチルノニル基、トランス−8−メチル−6−ノネニル基、トランス−8−メチル−5−ノネニル基、トランス−7−メチル−5−ノネニル基、デシル基、9−メチルデシル基、トランス−9−メチル−7−デセニル基、トランス−9−メチル−6−デセニル基、ウンデシル基及びドデシル基からなる群より選ばれる基である、上記〔1〕乃至〔7〕のいずれか一つに記載の方法。
〔9〕酵素がリパーゼである、上記〔1〕乃至〔8〕のいずれか一つに記載の方法。
〔10〕縮合が15℃から90℃で行われる、上記〔1〕乃至〔9〕のいずれか一つに記載の方法。
〔11〕脂肪酸(1)が、一般式(8):
【0023】
【化8】

【0024】
(式中、R1は上記と同義であり、Rcは、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、アリル基又はベンジル基を示す。)
で表されるエステル化合物(以下、エステル化合物(8)ともいう)を加水分解し、次いで得られた化合物を(A)塩基と反応させて塩結晶を形成し、次いでフリー体に変換する工程及び/又は(B)蒸留する工程に付すことにより得られる、上記〔1〕乃至〔10〕のいずれか一つに記載の方法。
〔12〕エステル化合物(8)が、一般式(5):
【0025】
【化9】

【0026】
(式中、Raは、無置換もしくは置換の炭素数1から24のアルキル基又は無置換もしくは置換の炭素数2から24のアルケニル基を示し、Xは、ハロゲン原子を示す。)
で表される化合物(以下、化合物(5)ともいう)を、一般式(6):
【0027】
【化10】

【0028】
(式中、Ra及びXは上記と同義である。)
で表されるグリニア試薬(以下、グリニア試薬(6)ともいう)に変換し、グリニア試薬(6)を、一般式(7):
【0029】
【化11】

【0030】
(式中、Rbは、無置換もしくは置換の炭素数1から24のアルキル基又は無置換もしくは置換の炭素数2から24のアルケニル基を示し(ただし、RaとRbの炭素数の和は5から25である。)、Rcは上記と同義であり、Yは、ハロゲン原子、メタンスルフォニルオキシ基、パラトルエンスルフォニルオキシ基又はトリフルオロメタンスルフォニルオキシ基を示す。)
で表される化合物(以下、化合物(7)ともいう)とのクロスカップリング反応に付すことにより得られたものである、上記〔11〕に記載の方法。
〔13〕脂肪酸(1)が、一般式(10):
【0031】
【化12】

【0032】
(式中、Rd及びReは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1から6のアルキル基を示し、mは、0又は1を示し、nは、1から5の整数を示す。)
で表される脂肪酸(以下、脂肪酸(10)ともいう)とそのシス異性体の混合物を塩基と反応させて塩を形成し、形成した塩の結晶性又は溶解度の違いに基づいて脂肪酸(10)の塩を精製し、次いでフリー体に変換することによって得られたものである、上記〔1〕乃至〔10〕のいずれか一つに記載の方法。
〔14〕エステル化合物(3)と、一般式(11):
【0033】
【化13】

【0034】
(式中、R1’’は、無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルキル基又は無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルケニル基を示す。)
で表される脂肪酸(以下、脂肪酸(11)ともいう)とを含有してなる組成物(ただし、当該組成物は植物体からの油脂抽出物ではない。)。
〔15〕脂肪酸(11)が、エステル化合物(3)に対し、0.1重量%から30重量%含有されている、上記〔14〕に記載の組成物。
〔16〕増量剤又は担体として、油脂組成物、乳化剤、保存剤及び抗酸化剤からなる群より選ばれる1種以上の添加物を更に含有してなる、上記〔14〕又は〔15〕に記載の組成物。
〔17〕エステル化合物(3)に、脂肪酸(4)を添加し、エステル化合物(3)の分解を防ぐことを特徴とする、エステル化合物(3)の安定化方法。
〔18〕脂肪酸(4)が、エステル化合物(3)に対し、0.1重量%から30重量%添加される、上記〔17〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、酵素を用いて、大量のカプシノイドを短時間で収率よく簡便に生産することができる。加えて、脱水剤(例、モレキュラーシーブス等)を必要としないため、酵素を濾過により回収するだけで再利用できる。さらに、本発明によれば、少ない酵素の使用量でも反応が収率よく進行するため、酵素の使用量が低減でき、酵素の回収も容易になる。さらに、生成したカプシノイドを、脂肪酸の共存下で分離することによって、安定に得ることができる。このように本発明により、カプシノイドを工業的に有利に製造することが可能となる。
更に、本発明の安定化方法によれば、カプシノイドを脂肪酸と共存させることにより、カプシノイドを安定に保存することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明について具体的態様を説明する。
まず、本発明で用いられる用語は、以下のように説明される。
R1で表される「無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルキル基」の「炭素数5から25のアルキル基」は、直鎖状でも分岐鎖状であってもよく、具体例としては、n−ペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、5−メチルヘキシル基、ヘプチル基、6−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、4,4−ジメチルペンチル基、オクチル基、2,2,4−トリメチルペンチル基、7−メチルオクチル基、ノニル基、8−メチルノニル基、7−メチルノニル基、デシル基、9−メチルデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基、ドコシル基、ペンタコシル基等が挙げられる。その他、これらの種々の分岐鎖異性体が挙げられる。好ましくは炭素数6から12のアルキル基である。
【0037】
R1で表される「無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルケニル基」の「炭素数5から25のアルケニル基」は、直鎖状でも分岐鎖状であってもよく、また、二重結合の数は1つ以上であってもよく、具体例としては、ペンテニル基(例、4−ペンテニル基、3−ペンテニル基等)、ヘキセニル基(例、2−ヘキセニル基、4−ヘキセニル基等)、5−メチル−3−ヘキセニル基、5−メチル−4−ヘキセニル基、ヘプテニル基(例、2−ヘプテニル基、3−ヘプテニル基、5−ヘプテニル基等)、6−メチル−4−ヘプテニル基、オクテニル基(例、3−オクテニル基、6−オクテニル基等)、7−メチル−5−オクテニル基、ノネニル基(例、3−ノネニル基、7−ノネニル基等)、8−メチル−6−ノネニル基、8−メチル−5−ノネニル基、7−メチル−5−ノネニル基、デセニル基(例、8−デセニル基等)、9−メチル−7−デセニル基、9−メチル−6−デセニル基、ウンデセニル基(例、9−ウンデセニル基等)、ドデセニル基(例、10−ドデセニル基等)、テトラデセニル基、4,8,12−テトラデカトリエニル基、ペンタデセニル基(例、13−ペンタデセニル基等)、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基(例、15−ヘプタデセニル基等)、オクタデセニル基(例、16−オクタデセニル基等)、17−ノナデセニル基、イコセニル基(例、18−イコセニル基等)、ヘニコセニル基(例、19−ヘニコセニル基等)、ドコセニル基(例、20−ドコセニル基等)、ペンタコセニル基等が挙げられる。その他、これらの種々の分岐鎖異性体が挙げられる。好ましくは炭素数
6から12のアルケニル基である。二重結合部分の立体構造は、トランス型、シス型のいずれであってもよいが、好ましくはトランス型である。
【0038】
R1で表される「無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルキル基」の「炭素数5から25のアルキル基」及び「無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルケニル基」の「炭素数5から25のアルケニル基」は、1から4個の置換基を有していてもよい。置換基としては、アルキル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アミノ基、水酸基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、メルカプト基等が挙げられる。これらのうち、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基等が挙げられる。
【0039】
R1としては、目的物であるエステル化合物(3)のカプシノイドとしての有用性の観点から、ヘキシル基、5−メチルヘキシル基、トランス−5−メチル−3−ヘキセニル基、ヘプチル基、6−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、トランス−6−メチル−4−ヘプテニル基、オクチル基、7−メチルオクチル基、トランス−7−メチル−5−オクテニル基、ノニル基、8−メチルノニル基、7−メチルノニル基、トランス−8−メチル−6−ノネニル基、トランス−8−メチル−5−ノネニル基、トランス−7−メチル−5−ノネニル基、デシル基、9−メチルデシル基、トランス−9−メチル−7−デセニル基、トランス−9−メチル−6−デセニル基、ウンデシル基及びドデシル基が好ましい。
【0040】
脂肪酸(1)は、単一化合物であっても、R1が上記定義内である2種以上の化合物の混合物であってもよいが、単一化合物であることが好ましい。天然のカプサイシノイドを加水分解して得た脂肪酸を用いてバニリルアルコールと縮合させてカプシノイドを合成する場合には、脂肪酸(1)はトランス−8−メチル−6−ノネン酸、8−メチルノナン酸、7−メチルオクタン酸などの混合物である。又、天然の存在比のカプシノイド組成物を合成物で再現したい場合などは、本法により別途合成した各カプシノイドを上記と同じ存在比で混合すれば良い。また、対応する脂肪酸(1)の上記と同じ存在比の混合物を用いて本法を適用することによってもその目的を達成することが出来る。
【0041】
R2〜R6で表される「炭素数1から25のアルキル基」は、直鎖状でも分岐鎖状であってもよく、具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基等及び上記R1で表される「無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルキル基」の「炭素数5から25のアルキル基」と同様のものが挙げられる。好ましくは炭素数1から12のアルキル基である。
【0042】
R2〜R6で表される「炭素数2から25のアルケニル基」は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、また、二重結合の数は1つ以上であってもよく、具体例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基等及び上記R1で表される「無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルケニル基」の「炭素数5から25のアルケニル基」と同様のものが挙げられる。好ましくは炭素数2から12のアルケニル基である。
【0043】
R2〜R6で表される「炭素数2から25のアルキニル基」は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、また、三重結合の数は1つ以上であってもよく、具体例としては、エチニル基、プロピニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、オクチニル基、ノニニル基等が挙げられる。好ましくは炭素数2から12のアルキニル基である。
【0044】
R2〜R6で表される「炭素数1から25のアルコキシ基」は、直鎖状でも分岐鎖状であってもよく、アルキル部が上記R2〜R6で表される「炭素数1から25のアルキル基」と同様であるアルコキシ基が例示される。好ましくは炭素数1から12のアルコキシ基
である。
【0045】
R2〜R6で表される「炭素数2から25のアルケニルオキシ基」は、直鎖状でも分岐鎖状であってもよく、また、二重結合の数は1つ以上であってもよく、アルケニル部が上記R2〜R6で表される「炭素数2から25のアルケニル基」と同様であるアルケニルオキシ基が例示される。好ましくは炭素数2から12のアルケニルオキシ基である。
【0046】
R2〜R6で表される「炭素数2から25のアルキニルオキシ基」は、直鎖状でも分岐鎖状であってもよく、また、三重結合の数は1つ以上であってもよく、アルキニル部が上記R2〜R6で表される「炭素数2から25のアルキニル基」と同様であるアルキニルオキシ基が例示される。好ましくは炭素数2から12のアルキニルオキシ基である。
【0047】
R2〜R6としては、それぞれ水素原子、水酸基、メトキシ基、エトキシ基、アリル基、ビニル基及びビニルオキシ基が好ましい。
なお、R2〜R6は、少なくとも一つが水酸基であり、なかでもR4が水酸基であることが好ましい。また、R2〜R6のうち一つだけが水酸基であることが好ましい。
【0048】
R2〜R6の好ましい組み合わせとしては、R2、R5及びR6が水素原子であり、R3がメトキシ基、エトキシ基、アリル基、ビニル基又はビニルオキシ基であり、R4が水酸基である。なかでもR3がメトキシ基である(すなわちヒドロキシメチルフェノール(2)は、バニリルアルコールである)ことが、目的物であるエステル化合物(3)のカプシノイドとしての有用性の観点から最も好ましい。
【0049】
ヒドロキシメチルフェノール(2)は、単一化合物であってもR2〜R6が上記定義内にある2種以上の化合物の混合物であってもよいが、好ましくは単一化合物である。
【0050】
R1’で表される「無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルキル基」は、R1で表される「無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルキル基」と同じものが例示できる。
R1’で表される「無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルケニル基」は、R1で表される「無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルケニル基」と同じものが例示できる。
【0051】
R1’としては、ヘキシル基、5−メチルヘキシル基、トランス−5−メチル−3−ヘキセニル基、ヘプチル基、6−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、トランス−6−メチル−4−ヘプテニル基、オクチル基、7−メチルオクチル基、トランス−7−メチル−5−オクテニル基、ノニル基、8−メチルノニル基、7−メチルノニル基、トランス−8−メチル−6−ノネニル基、トランス−8−メチル−5−ノネニル基、トランス−7−メチル−5−ノネニル基、デシル基、9−メチルデシル基、トランス−9−メチル−7−デセニル基、トランス−9−メチル−6−デセニル基、ウンデシル基及びドデシル基が好ましく、R1として選択された基と同一であることが最も好ましい。すなわち、脂肪酸(1)のR1と脂肪酸(4)のR1’は、同一の基であることが好ましい。
【0052】
R1’’で表される「無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルキル基」は、R1で表される「無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルキル基」と同じものが例示できる。
R1’’で表される「無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルケニル基」は、R1で表される「無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルケニル基」と同じものが例示できる。
【0053】
R1’’としては、ヘキシル基、5−メチルヘキシル基、トランス−5−メチル−3−ヘキセニル基、ヘプチル基、6−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、トランス−6−メチル−4−ヘプテニル基、オクチル基、7−メチルオクチル基、トランス−7−メチル−5−オクテニル基、ノニル基、8−メチルノニル基、7−メチルノニル基、トランス−8−メチル−6−ノネニル基、トランス−8−メチル−5−ノネニル基、トランス−7−メチル−5−ノネニル基、デシル基、9−メチルデシル基、トランス−9−メチル−7−デセニル基、トランス−9−メチル−6−デセニル基、ウンデシル基及びドデシル基が好ましく、R1として選択された基と同一であることが最も好ましい。すなわち、脂肪酸(1)のR1と脂肪酸(11)のR1’’は、同一の基であることが好ましい。
【0054】
本発明は、脂肪酸(1)とヒドロキシメチルフェノール(2)とを、酵素を触媒に用い、無溶媒で又は低極性溶媒下で縮合することを特徴とする、エステル化合物(3)の製造方法である。
【0055】
縮合反応を進めるため、ヒドロキシメチルフェノール(2)(例えばバニリルアルコール)を完全に溶解させることのできるアセトン、ジオキサン等の高極性溶媒(水と混ざり合う)の使用が必須であった公知方法とは異なり、無溶媒で行う又はトルエン等の低極性溶媒(水と混ざり合わない或いは混ざりにくい)を用いる本発明の方法では、生成した水が速やかに反応混合物から分離するため、それによって、脱水剤を用いなくても反応が加速される。したがって、公知方法に比べ、本発明の方法は次の点で優位性がある。
(i)縮合反応により生成した水が速やかに反応混合物と分離し反応系外に除かれるため
に、平衡がエステル生成の側へ傾き、転換率が高くなる点で有利である。そのため、原料の1つを大過剰に使用したり、原料の数倍重量という過剰の酵素触媒を使用する必要が無い。
(ii)縮合反応により生成した水の捕捉剤(すなわち脱水剤)としてモレキュラーシーブスを添加する必要が無いため、酵素を濾過後にモレキュラーシーブスと分離する必要が無く、酵素の再利用が容易である。
(iii)転換率(収率)が高く、副生物が無いため、反応終了後は、低極性溶媒を加え、
酵素触媒を濾過して除去し、濾液を濃縮するだけ、或いは酵素触媒除去後に分液して、有機層を濃縮するだけで、クロマトグラフィーによる精製を行う事無く、簡便な後処理のみで高品質の目的物を得ることができる。
【0056】
本発明で使用する脂肪酸は市販のものを用いるか、又は公知の方法(例えば、Kaga, H.; Goto, K.; Takahashi, T.; Hino, M.; Tokuhashi, T.; Orito, K. Tetrahedron 1996, 52, 8451-8470記載の方法)により合成可能である。
目的化合物であるエステル化合物(3)(例:カプシノイド等)の多くが周囲温度で油状であるため、再結晶による精製が実施できない。また、安定性の問題から減圧蒸留による精製も困難である。このように精製法が限定されることから、高純度のエステル化合物(3)を得るためには、原料として出来る限り高純度の脂肪酸(1)を用いることが望ましい。従って、少なくとも97重量%又はそれ以上の純度の脂肪酸(1)を用い、エステル化反応に供することが望ましい。このような高純度の脂肪酸を得るためには、公知方法等により得た脂肪酸、特に立体異性体などの不純物を含むものは、さらに一旦脂肪酸塩結晶として精製し、次いでフリー体に変換することが好ましい。下記反応スキームで示されるクロスカップリング法で脂肪酸を合成する場合には、触媒を選択するなど反応条件を最適化することで副生物の生成を抑えたり、加水分解後に脂肪酸を塩基性水溶液に溶解し有機溶剤で副生物を抽出除去したり、蒸留を行うことによって高純度の脂肪酸を得ることができるが、一旦脂肪酸塩結晶として精製し、次いでフリー体に変換することにより精製する方法も高純度の脂肪酸を得る方法として好ましい。
【0057】
以下にクロスカップリング法により脂肪酸を合成する方法及び脂肪酸を塩結晶として精
製する方法について示す。
まず、クロスカップリング法により脂肪酸を合成する方法について説明する。
【0058】
【化14】

【0059】
(式中、Xはハロゲン原子を示し、Ra及びRbは、それぞれ独立して、無置換もしくは置換の炭素数1から24のアルキル基又は無置換もしくは置換の炭素数2から24のアルケニル基を示し(ただし、RaとRbの炭素数の和は5から25である。)、Rcはメチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、アリル基又はベンジル基であり、Yはハロゲン原子、メタンスルフォニルオキシ基、パラトルエンスルフォニルオキシ基又はトリフルオロメタンスルフォニルオキシ基を示し、R1は、上記と同意義である。)
【0060】
Ra及びRbは、それぞれ無置換もしくは置換の炭素数1から24のアルキル基又は無置換もしくは置換の炭素数2から24のアルケニル基であって、RaとRbの炭素数の和が5から25となるような基を示す。但し、置換基に炭素原子が含まれる場合には、置換基の炭素数は除く。
【0061】
Ra又はRbで表される「無置換もしくは置換の炭素数1から24のアルキル基」の「炭素数1から24のアルキル基」としては、R2〜6で表される「炭素数1から25のアルキル基」のうち、炭素数が1から24のものが挙げられる。
Ra又はRbで表される「無置換もしくは置換の炭素数2から24のアルケニル基」の「炭素数2から24のアルケニル基」としては、R2〜6で表される「炭素数2から25のアルケニル基」のうち、炭素数が2から24のものが挙げられる。
【0062】
Ra又はRbで表される「無置換もしくは置換の炭素数1から24のアルキル基」の「炭素数1から24のアルキル基」及びRa又はRbで表される「無置換もしくは置換の炭素数2から24のアルケニル基」の「炭素数2から24のアルケニル基」は、1から4個の置換基を有していてもよい。置換基としては、R1で表される「無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルキル基」の「炭素数5から25のアルキル基」が有していてもよい置換基と同様のもの等が挙げられる。
【0063】
Raで表される基とRbで表される基とが、クロスカップリング反応により結合して、R1で表される基(すなわち、無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルキル基又は無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルケニル基)になる。従って、Ra及びRbは、具体的には、R1の構造により適宜決まる。
X又はYで表されるハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、好ましくは、臭素原子である。
【0064】
当該クロスカップリング法においては、まず化合物(5)をグリニア試薬(6)に変換し、該グリニア試薬(6)を化合物(7)とのクロスカップリング反応に付して、エステル化合物(8)に変換し、更に、該エステル化合物(8)を加水分解して、脂肪酸(1)を得る。
【0065】
化合物(5)及び化合物(7)は、公知方法などにより合成して入手可能であり、市販に入手可能であるときは、市販品をそのまま使用することができる。
【0066】
化合物(5)は、化合物(5)を常法に従いマグネシウムと反応させることにより、グリニア試薬(6)へ変換することができる。
【0067】
グリニア試薬(6)と化合物(7)とのクロスカップリング反応は、例えば、グリニア試薬(6)と、グリニア試薬(6)に対し1〜3当量の化合物(7)とを、溶媒中、銅触媒の存在下、低温(好ましくは反応混合物温度を−20℃〜15℃、より好ましくは−5℃〜10℃、特に好ましくは−3℃〜5℃)で15分〜3時間反応させることにより、行うことができる。
溶媒は、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;N−メチルピロリドン(NMP)、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2−(1H)−ピリミジン(DMPU)等及びこれらの混合溶媒を使用することができる。
銅触媒としては、LiCuCl、CuI、CuBr、CuCl、CuBr・MeS等が挙げられる。銅触媒は、化合物(7)に対して0.5〜20モル%、好ましくは1〜3モル%使用される。副生物がより少ない点で、CuBrを触媒として用いるのがより好ましい。
また、反応を円滑に進行させるために、トリメチルクロロシラン等の添加剤を、化合物(7)に対して0.5〜4当量(好ましくは1〜2当量)用いてもよい。
【0068】
上記カップリング反応により得られるエステル化合物(8)の加水分解は、公知方法(酸を用いる方法、アルカリを用いる方法等)により行うことができる。
【0069】
加水分解した脂肪酸(1)を塩基性水溶液に溶解し、エーテル、t−ブチルメチルエーテル、ヘキサン、ヘプタンなどの有機溶剤で抽出することにより、ケトンやアルコールなどの副生物を効率的に除去することが出来る。
【0070】
次に、脂肪酸を一旦塩結晶として得、次いでフリー体に変換することにより、精製する方法について説明する。
公知方法等により得られる脂肪酸や、上記加水分解により得られる脂肪酸(1)は、塩基との塩結晶を形成させることによって、不純物を除去することができる。以下、説明の便宜として脂肪酸(1)の精製方法について説明するが、以下、説明する方法は公知方法等により得られた脂肪酸にも同等に適用できる。
【0071】
塩結晶は、例えば、脂肪酸(1)と塩基とを溶媒中で撹拌することによって形成させることができる。
【0072】
塩基としては、無機塩基(例、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム等の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩等)、有機アミン(例、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノ−2−プロパノール、シクロヘキシルアミン、4−メトキシベンジルアミン、エタノールアミン、(S)−又は(R)−フェニルグリシノール、(S)−又は(R)−フェニルアラニノール、シス−2−アミノシクロヘキサノール、トランス−4−アミノシクロヘキサノール、(1S,2R)−シス−1−アミノ−2−インダノール、L−リジン、L−アルギニン等)、アンモニア等が挙げられる。塩基の使用量としては、脂肪酸(1)に対して0.8〜1.2当量、好ましくは0.9〜1.1当量である。
【0073】
溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸イソプロピル等の酢酸エステル類;ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、THF等のエーテル類;ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素類;アセトン等のケトン類;クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類等及びこれらの混合溶媒
を使用することができる。
【0074】
上記のようにして脂肪酸(1)と塩基との塩結晶を形成することによって、必要に応じて次いで再結晶することによって、脂肪酸(1)以外の反応副生物、例えばアルコールやケトン等を、容易に効率よく除去することが出来る。
次いで、得られた塩結晶を酸性水溶液(例えば、塩酸、クエン酸水溶液等)に加え、有機溶媒(例えば、ヘキサン、ヘプタン等)で抽出した後、有機溶媒を留去することによって、目的の脂肪酸(1)を高純度で得ることが出来る。
【0075】
脂肪酸(1)が式(10):
【0076】
【化15】

【0077】
(式中、Rd及びReは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1から6のアルキル基を示し、mは、0又は1を示し、nは、1から5の整数を示す。)
で表される化合物とそのシス異性体との混合物である場合、その混合物を塩基と反応させて塩を形成し、形成した塩の結晶性又は溶解度の違いに基づいて、脂肪酸(10)の塩をそのシス異性体の塩と分離することができる。
【0078】
Rd又はReで表される「炭素数1〜6のアルキル基」の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、te
rt−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられ、好ましくは、Rd及びReが共にメチル基である。
mは、0又は1であり、好ましくは0である。
nは、1〜5の整数であり、好ましくは3又は4であり、より好ましくは4である。
【0079】
脂肪酸(10)とそのシス異性体との分離において、塩の形成は、上述した脂肪酸(1)と塩基との塩結晶の形成と同様にして行うことができる。
形成した塩の結晶性又は溶解度の違いに基づいて、脂肪酸(10)の塩をそのシス異性体の塩と分離する方法としては、晶析、スラリー洗浄、再結晶等が挙げられる。
【0080】
脂肪酸(10)とそのシス異性体との分離の一例をこれより示す。トランス−8−メチル−6−ノネン酸とそのシス異性体(シス−8−メチル−6−ノネン酸)との混合物(トランス体88%、シス体12%)においては、シス−2−アミノシクロヘキサノールを塩基として用いて異性体混合物の塩を形成し、その塩を2、3回晶析することによりシス異性体の塩を除き、トランス−8−メチル−6−ノネン酸の比率を97%以上にまで高めることができる。
【0081】
得られた塩結晶を酸性水溶液(例えば、塩酸、クエン酸水溶液等)に加え、有機溶媒(例えば、ヘキサン等)で抽出した後、有機溶媒を留去することによって、脂肪酸(10)を得ることが出来る。
【0082】
このように、脂肪酸(1)と塩基との塩結晶を形成して精製する方法を適用すると、ケトンやアルコールなどの中性物質のみならず、副生物として生成する目的物以外の脂肪酸(酸性物質)も同時に除去することが出来る。
【0083】
上記脂肪酸(10)とそのシス異性体の分離精製方法は、上述のカップリング反応によって得られた脂肪酸に限らず、公知の方法によって得られる脂肪酸(10)の精製方法として同等に適用できる。
【0084】
本発明で使用されるヒドロキシメチルフェノール(2)は、公知方法により合成して入手することができる。市販品があるものについては、市販品を使用することができる。
【0085】
縮合のための操作としては、脂肪酸(1)とヒドロキシメチルフェノール(2)との縮合反応が進行する限り特に制限はないが、例えば、脂肪酸(1)、ヒドロキシメチルフェノール(2)及び酵素を反応容器に加え、必要により低極性溶媒を添加し、必要により加熱する。或いは、脂肪酸(1)及びヒドロキシメチルフェノール(2)を低極性溶媒に溶解させ、酵素を添加し、必要により加熱してもよい。
【0086】
本発明に用いられる酵素としては、脂肪酸(1)とヒドロキシメチルフェノール(2)の縮合反応を媒介しうるものであれば、特に制限無く使用することができ、代表的にはエステラーゼが用いられる。エステラーゼとしては通常リパーゼが使用され、微生物起源のものでもよいし、動物起源、或いは植物起源のものも使用できる。とりわけ微生物起源のリパーゼが好ましい。具体的には、カンジダ属(例えば、カンジダ・アンタルクシア(Candida antarctica)、カンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea)等)、シュー
ドモナス属(例えば、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)
、シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)等)、アルカリゲネス属(例えば、アルカリゲネス・エスピー(Alcaligenes sp.)等)、アスペルギルス属(例えば、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等)、リゾプス属(例えば、リゾプス・デレマー(Rhizopus delemar)、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)等)起源ののリパーゼが挙げられる。これらのリパーゼは、それら
を生産する微生物の培養等によって得られるが、市販品も好適に使用することができる。かかる市販のリパーゼとしては、リパーゼPS「アマノ」、リパーゼAK「アマノ」、リパーゼAS「アマノ」、リパーゼAYS「アマノ」(以上、天野エンザイム(株)製)、リポザイム CALB L(ノボザイムズ社)等が挙げられる。
これらの酵素は、それぞれ単独でも、あるいは、混合物として用いることも出来る。
また、酵素の形態は、反応溶液中に添加し得る限り、どのような形態で用いても良いが、その後の酵素回収などが容易となるため固定化酵素を用いることが好ましい。固定化酵素としては、リパーゼPS−C「アマノ」I(セラミック固定)、リパーゼPS−C「アマ
ノ」II(セラミック固定)、リパーゼPS−D「アマノ」I(けいそう土固定)(以上、天野
エンザイム社製)、ノボザイム 435、リポザイム RM IM、リポザイム TL IM(以上、ノボザイムズ社製)等のリパーゼの固定化酵素を用いることができる。このうち、安価である点ではリパーゼPS「アマノ」及びリポザイム CALB Lが望ましく、再利用が可能で
ある点ではリパーゼPS−C「アマノ」等のリパーゼの固定化酵素が望ましい。また、リパーゼPS−C「アマノ」或いはリパーゼPS−D「アマノ」Iを用いると反応混合物が
若干着色を伴うことがあるが、着色が無いという点ではノボザイム 435が望ましい。
酵素の添加量は、その酵素の活性や用いる溶媒量、原料の量によるが、脂肪酸(1)の0.01〜60重量%、望ましくは0.1〜30重量%の範囲から選択することができる。また、反応の途中で更に酵素を添加し、過剰に用いても良い。
【0087】
反応は、無溶媒で又は低極性溶媒下で行う。
ここで、低極性溶媒とは、水と混ざりにくい低極性の溶媒のことをいい、具体例としては、ヘプタン、ヘキサン、ペンタン、トルエン、4−メチル−2−ペンタノン、2−ブタノン及び1,2−ジメトキシエタンから選ばれる1種の溶媒又は2種以上の混合溶媒が挙げられる。反応時間の短縮、操作の簡便性、及びコスト削減の面から、無溶媒で反応を行うことが好ましい。また、トルエン、ヘプタン又はヘキサンを最小量用いることにより、
反応混合物の撹拌をより効率良く行うことができる。
低極性溶媒を使用する場合には、その使用量としては、溶媒の種類、用いる酵素の活性、出発原料の量、各試薬の濃度等を考慮に入れ、収率等の観点から適宜選択されるが、通常脂肪酸(1)1gに対して0.05〜100mlであり、好ましくは、0.3〜50mlである。
【0088】
無溶媒で反応を行う場合、反応初期にはヒドロキシメチルフェノール(例えばバニリルアルコール)は油状の脂肪酸に十分溶解せず、反応系は不均一である。しかし、撹拌操作に支障はなく、反応の進行と共に、反応系は均一となる。
【0089】
反応系を軽く減圧状態にしたり、反応混合物面上に不活性ガスを流すことにより、生成する水が効率的に除去することができ、反応を加速することができる。トルエンを溶媒として用いる場合には、水との共沸現象を利用し、減圧濃縮を行うことによって、脱水反応を加速することが出来る。
【0090】
反応の際に使用する脂肪酸(1)とヒドロキシメチルフェノール(2)(例、バニリルアルコール等)は、最も高収率でエステル化合物(3)(例、カプシノイド等)を生成するモル比率で用いれば良い。当業者であれば、目的とするエステル化合物(3)に対応する脂肪酸(1)とヒドロキシメチルフェノール(2)との比率を、簡単な予備実験により決定することが出来る。例えば、脂肪酸(1):バニリルアルコールの比率は、0.8:1から1.2:1の範囲、最も望ましくは1:1から1.1:1の範囲から適宜選択することができる。このような反応条件では、脂肪酸を小過剰に用いることにより、クロマトグラフィーによる精製が不要なほど副生物が少ないエステル化合物(3)(すなわちカプシノイド)を製造することができる。反応の進行をモニターしながら原料の一方を更に添加することも勿論可能である。
【0091】
反応温度は、用いる酵素が最も効率よく反応する温度を選択すれば良く、当業者であれば簡単な予備実験により容易に設定可能である。使用する酵素によって至適温度はそれぞれ異なるため、一概には言えないが、一般には15℃〜90℃を、更に望ましくは35℃〜65℃である。例えば、リパーゼとしてノボザイム 435やリパーゼPS「アマノ」を使用する場合、50℃程度に加熱すると反応が促進される。また、水の分離を促進するためや、脂肪酸を十分融解させるために、50℃程度に加熱することも望ましい。
反応時間としては、用いる酵素の活性、原料の量、各試薬の濃度等を考慮に入れ、収率等の観点から適宜選択され、通常3〜90時間であり、好ましくは、10〜30時間である。
【0092】
反応終了後、常法に従い、エステル化合物(3)を分離することができる。例えば、ヒドロキシメチルフェノール(2)が不溶の有機溶媒(例えば、ヒドロキシメチルフェノール(2)がバニリルアルコールの場合は、ヘキサンやヘプタン等)を添加して未反応のヒドロキシメチルフェノール(2)を析出させ、ヒドロキシメチルフェノール(2)及び酵素を濾別する。濾液に、例えば5〜10%クエン酸水溶液を加えて分液して、有機層を減圧濃縮することにより、エステル化合物(3)を得ることができる(HPLC分析で99面積%以上の純度のエステル化合物(3)を90%以上の高収率で得ることができる。)。更に高純度のエステル化合物(3)を得るにはシリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて分離、精製を行うことができる。
酵素を再利用する場合には、酵素だけをろ過すれば良い。その際、ヒドロキシメチルフェノール(2)が酵素に混入している場合、該混合物を次回の反応に用いることができる。ヒドロキシメチルフェノール(2)だけを有機溶媒に溶解することによって除去した後に酵素だけを次回の反応に用いることも出来る。
【0093】
得られたエステル化合物(3)は、脂肪酸(4)と共存させることにより、安定化することができる。
【0094】
エステル化合物(3)をカラムクロマトグラフィーで分離精製する場合、反応混合物中に過剰に存在する脂肪酸(1)は、エステル化合物(3)とRf値が近いため、エステル化合物(3)の分離精製は困難を伴う。一方、本発明者らは、過剰に添加された場合に反応混合物中に余剰する脂肪酸(1)とエステル化合物(3)とをカラムクロマトグラフィーで互いに分離、精製してみたところ、得られた純品のエステル化合物(3)は分解しやすいことを見出した。例えば、デカン酸とバニリルアルコールからバニリルデカノエイトを合成した場合、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにてデカン酸と分離、精製した純品のバニリルデカノエイトをアセトニトリルに溶解し、HPLC分析を行った。その結果、バニリルデカノエイトの純度は、95.6面積%であった。ところが、当該サンプルを62時間後再度分析すると、82.0面積%と純度が低下し、バニリルデカノエイトの分解が見られた。すなわち、バニリルデカノエイトは、デカン酸と分離したために不安定になったと考えられる。このため、エステル化合物(3)と分離困難な脂肪酸(1)は、分離するよりもむしろ共存させておいた方がエステル化合物(3)の安定性という観点からは好ましい。
【0095】
カプシノイドを含有する植物体から抽出して得るカプシノイドについては、抽出時に用いる油性基剤中において比較的安定であることは知られていたが、合成して得られるカプシノイドを安定化させる手法はこれまで知られていない。
本発明者らは、エステル化合物(3)をシリカゲルクロマトグラフィーによって精製する際に、脂肪酸と分離することなく脂肪酸と共に分取して得たエステル化合物(3)は安定であること、即ち、当該脂肪酸が共存することがエステル化合物(3)の安定化に寄与していることを見出し、本発明の安定化方法を完成するに至った。例えば、脂肪酸を小過剰に用いてジヒドロカプシエイトを合成し、ジヒドロカプシエイトに対し2重量%程度の残存する余剰した脂肪酸と共に分取して得たジヒドロカプシエイトについてHPLC分析を行った。その結果、その純度は99面積%以上であり、ヘキサン中5℃において少なくとも30日間全く分解することなく安定に保存可能であることがわかった。
【0096】
従って、脂肪酸(1)をヒドロキシメチルフェノール(2)よりも過剰に縮合反応に用い、縮合後の精製工程においてエステル化合物(3)を当該反応混合物に含有された脂肪酸(1)との混合物として分取することにより、エステル化合物(3)を安定な状態で得ることができる。
また、脂肪酸(1)とヒドロキシメチルフェノール(2)とを縮合させ、脂肪酸(4)を添加し、精製工程においてエステル化合物(3)を脂肪酸(4)との混合物として分取することにより、エステル化合物(3)を安定な状態で得ることができる。なお、脂肪酸(4)は、脂肪酸(1)とヒドロキシメチルフェノール(2)の縮合後、精製工程の前までに添加すればよい。
この脂肪酸(4)を得る方法としては、上記で説明したクロスカップリング法による合成方法及び脂肪酸の蒸留又は塩の結晶化による精製方法が好適である。
【0097】
分取は、エステル化合物(3)と脂肪酸(脂肪酸(1)又は脂肪酸(4))との混合物を他の成分から分離して得ることができるのであれば、その方法については特に制限はなく、例えば、固定相にシリカゲルを用いたシリカゲルクロマトグラフィーにより行うことができる。
【0098】
一例を示すと、シリカゲルクロマトグラフィーによる分取を行う場合、その条件として、粗生成物1gに対して10gのシリカゲルを充填させたカラムを用い、溶出液としてジエチルエーテル:ヘキサン=15:85の混合溶媒を使用するとエステル化合物(3)と
脂肪酸がほぼ同時に溶出する。溶出したフラクションを集め、減圧濃縮するとエステル化合物(3)が少量の脂肪酸との混合物として得られる。
【0099】
このように、エステル化合物(3)を脂肪酸との混合物として分取することにより、エステル化合物(3)のみを単離する場合に比べ、精製に用いるシリカゲルの量を少量にすることができ、かつ得られるエステル化合物(3)の安定性を高くできる。
【0100】
また、エステル化合物(3)を、単独で単離した場合又は安定化するには不十分な量の脂肪酸との混合物として分取した場合(これらの場合において、エステル化合物(3)は、本発明とは別の製造方法により得られたものであってもよい)でも、エステル化合物(3)に脂肪酸(4)を添加することにより、エステル化合物(3)を安定化することができる。
例えば、デカン酸と分離した純品のバニリルデカノエイトに対してアセトニトリル中、9.1重量%のデカン酸を添加すると19.5時間後でも97.6面積%であり、純度が維持された。
バニリルデカノエイトは、例えば以下のような平衡状態にあると考えられる。
【0101】
【化16】

【0102】
上述のように、エステル化合物(3)は小過剰量の脂肪酸を共存させておけば極めて安定であることを本発明者らが発見したが、エステル化合物(3)は脂肪酸と分離すると純度が経時的に低下して行く。このことは、上記のように、エステル化合物(3)の分解により生成したキノンメチドが、脂肪酸だけではなくバニリルデカノエイトのフェノール性水酸基とも次々と反応するためであると考えられる。従って、脂肪酸を共存させることにより、エステル化合物(3)生成の側へ平衡が傾き、エステル化合物(3)の分解を防ぎ、安定化できると考えられる。
【0103】
本発明者らは、脂肪酸と分離するなどして一部分解したエステル化合物(3)に、新たに小過剰量の対応する脂肪酸(4)を添加することにより、エステル化合物(3)の分解を防いで安定化させ、従って純度を向上(回復)させることができることも発見した。このことは、対応する脂肪酸(4)を加えることにより、上記と同様のメカニズムによりエステル化合物(3)と分解物の間の平衡がエステル化合物(3)生成の側へ傾くためと考えられる。
【0104】
一方、添加される脂肪酸(4)は、エステル化合物(3)と脂肪酸(4)を含む組成物の用途に応じて適宜選択されるが、脂肪酸(4)のR1’が、エステル化合物(3)のR
1と同一の基である脂肪酸(4)、特に脂肪酸(1)が最も好ましい。
【0105】
脂肪酸は、エステル化合物(3)に対して0.1重量%から30重量%の範囲で共存させれば良く、更に1重量%から5重量%の範囲で共存させることが望ましい。従って、過剰の脂肪酸(1)を縮合に用いる場合には、反応混合物に余剰した脂肪酸が上記範囲内で含有されるよう、脂肪酸(1)の使用量が調整されるべきである。また、安定化のために、縮合後に脂肪酸(4)を添加する場合や、エステル化合物(3)の単離後に脂肪酸(4)を添加する場合には、脂肪酸が上記の範囲内となるように添加することが好ましい。
【0106】
本発明の組成物は、エステル化合物(3)と脂肪酸(11)とを含む。当該組成物は、植物体より油脂抽出物として抽出したものではなく、人工的に、例えば上記のような方法により得られた組成物であり、肥満抑制作用、エネルギー代謝亢進などの生理活性を有するため、食品添加物や医薬品に利用できる。
脂肪酸(11)は、エステル化合物(3)に混入される成分であり、例えば、上記の製造方法によりヒドロキシメチルフェノール(2)よりも過剰に添加することにより残った脂肪酸(1)、別途添加される脂肪酸(4)等に由来する。
【0107】
当該組成物において、脂肪酸(11)はエステル化合物(3)に対し、0.1重量%から30重量%の範囲で含有されることが好ましく、更に好ましくは1重量%から5重量%の範囲で含有される。
当該組成物には、油脂組成物、乳化剤、保存剤及び抗酸化剤からなる群より選ばれる1種以上の添加物が含まれていてもよい。これら添加物を含む場合においても、エステル化合物(3)の安定化に脂肪酸(11)の共存が有効であることは言うまでもない。
【0108】
油脂組成物としては、例えば、中鎖脂肪酸トリグリセライド、菜種油等の植物性油脂、魚油等の動物性油脂等が挙げられる。
乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
保存剤としては、例えば、ウド抽出物、エゴノキ抽出物、カワラヨモギ抽出物等が挙げられる。
抗酸化剤としては、例えば、ビタミンE、ビタミンC、レシチン、ローズマリー抽出物等が挙げられる。
【0109】
本発明のエステル化合物(3)と脂肪酸(11)とを含む組成物は、長期間分解することなく安定に保存可能なものであり、合成して得たエステル化合物を、サプリメントや外用剤に調製する際にあっては、高濃度の原体として長期にわたって安定な保管が可能であり、きわめて有用である。
【実施例】
【0110】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、合成された化合物の構造は核磁気共鳴スペクトル(Bruker AVANCE400 (400MHz))によって同定した。GC−MSは、HEWL
ETT PACKARD社5890SERIESII、5972SERIES、7673CONTROLLERを用いて測定した。遊離脂肪酸含有量については核磁気共鳴スペクトルのピーク積分値から算出するか、或いは脂肪酸分析キット(YMC社)を用いて分析し
た。
カプシノイドのHPLC測定条件は以下の通りである。
HPLC条件:
カラム: Inertsil C8 3uμm (直径4.0mm x 100mm)
溶離液: 以下に示す溶離液-A、Bと緩衝液との混合溶媒をグラジェント溶離法にて溶出
した。
緩衝液: 30mM KH2PO4(pH=2.0, H3PO4)
溶離液-A: CH3CN:緩衝液=80:20
溶離液-B: CH3CN:緩衝液=0:100
グラジェント条件: 0分:A/B=(20/80); 15分:A/B=(70/30); 30分:A/B=(100/0); 45分:A/B=(100/0); 45.1分:A/B=(20/80); 50分:A/B=(20/80)
検出: UV210 nm
温度: 室温
【0111】
〔実施例1〕8−メチルノナン酸の合成(クロスカップリング法の例)
アルゴン雰囲気下、Mg切削片状(6.12 g, 252 mmol)をTHF(10 ml)に懸濁させた。
イソペンチルブロミド(34.6 g, 229 mmol)のうち200 mgを室温にて加え、発熱、発泡を確認した。THF(50 ml)を加え、イソペンチルブロミドの残り全量のTHF(65 ml)溶液を室温にて1時間かけてゆっくり滴下した後、さらに2時間撹拌した。この時緩やかな還流状態となった。反応溶液をTHFで洗いながら綿栓濾過し、イソペンチルマグネシウムブロミドのTHF溶液(全体量180 ml)を調製した。
アルゴン雰囲気下、塩化銅(I)(426 mg, 4.30 mmol)をNMP(55.2 ml, 575 mmol)に溶解させた。反応容器を0℃(氷浴)に冷却し、5−ブロモ吉草酸エチル(30.0 g, 144 mmol)のTHF(35 ml)溶液を10分かけて滴下した。続いて先に調製したイソペンチルマグネシウムブロミドのTHF溶液を0℃(氷浴)にて1.5時間かけてゆっくり滴下した。さらに同温度にて45分間撹拌後、飽和塩化アンモニウム水溶液(200 ml)にて注意深く反応をクエンチし、ヘプタン(200 ml)にて2回抽出した。合わせたヘプタン層を飽和塩化アンモニウ
ム水溶液(100 ml)、水(100 ml)および飽和食塩水(100 ml)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムにて乾燥後、濾過して減圧濃縮することにより、薄黄色油状物質(30.8 g)を得た。このうち29.6 gに対して減圧蒸留を行い(1.2 mmHg, 69〜71℃)、8−メチルノナン酸エチル(20.6 g, 収率74.7%)を無色透明油状物質として得た。
1H-NMR (CDCl3,δ): 0.860 (d, 6H, J=6.63Hz), 1.13-1.33 (m, 11H), 1.48-1.64 (m, 3H), 2.28 (t, 2H, J=7.55Hz), 4.12(q, 2H, J=7.13Hz).
13C-NMR (CDCl3,δ): 14.60, 22.98, 25.36, 27.56, 28.30, 29.54, 29.89, 34.75, 39.31, 60.47, 174.2.
得られた8−メチルノナン酸エチルのうち、19.20 gをエタノール(72.0 ml)に溶解し、0℃(氷浴)にて2M NaOH水溶液(72.0 ml)をゆっくりと加えた。混合物を60℃の油浴を用いて1時間加熱撹拌した後、反応容器を室温に戻し、エタノールを減圧留去した。
2M NaOH(30 ml)及び水(30 ml)を加え、tert−ブチルメチルエーテル(100 ml)で洗浄した。水層をさらにtert−ブチルメチルエーテル(100 ml)で洗浄した。2M HCl水溶液(150 ml)を注意深く加えて水層を酸性にし、ヘプタン(150 ml)にて2回抽出
した。合わせたヘプタン層を水(100 ml)、続いて飽和食塩水(100 ml)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムにて乾燥後、濾過して減圧濃縮することにより、8−メチルノナン酸(15.9 g, 粗収率96.6%)を薄黄色油状の粗生成物として得た。GCMS分析の結果、構造未決定の不純物A(0.01%)、B(0.03%)、C(0.04%)及びD(0.07%)を含み、8−メチルノナン酸の純度は99.6%だった。
1H-NMR (CDCl3,δ): 0.862 (d, 6H, J=6.64Hz), 1.14-1.17 (m, 2H), 1.26-1.35 (m, 6H), 1.48-1.65 (m, 3H), 2.35 (t, 2H, J=7.52Hz).
13C-NMR (CDCl3,δ): 22.95, 25.04, 27.55, 28.12, 29.47, 29.88, 34.51, 39.31, 181.0.
GC-MS: M=172.
【0112】
〔実施例2〕8−メチルノナン酸のシクロヘキシルアミン塩形成による精製(脂肪酸塩結晶による精製の例)
実施例1で得られた8−メチルノナン酸粗生成物のうち、8.00 gをヘプタン(30 ml)に
溶解させた。0℃(氷浴)にてシクロヘキシルアミン(6.91 ml, 60.4 mmol)をゆっくり滴
下した後、室温にて20分間撹拌した。反応混合物を濾過して8−メチルノナン酸シクロヘキシルアミン塩(15.7 g)を得た。
1H-NMR(CDCl3,δ):0.81-0.85(m,6H), 1.11-1.20(m,3H), 1.24-1.35(m,10H), 1.46-1.68(m,4H), 1.73-1.81(m,2H), 1.96-2.02(m,2H), 2.15-2.19(t,2H), 2.77-2.88(m,1H).
融点:70.1-70.6℃
このうち15.6 gの塩に10%クエン酸水溶液(50 ml)およびヘプタン(50 ml)を加えて分液
した。水層をヘプタン(50 ml)で抽出し、合わせたヘプタン層を10%クエン酸水溶液(50 ml)、水(50 ml)および飽和食塩水(50 ml)にて洗浄した。ヘプタン層を無水硫酸マグネシウ
ムにて乾燥後、濾過して濾液を減圧濃縮し、8−メチルノナン酸(7.69 g)を無色透明油状物質として得た。
このうち7.18 gに対して減圧蒸留(1.1 mmHg、103℃)し、8−メチルノナン酸蒸留物(6.80 g、8−メチルノナン酸粗生成物から収率91.0%)を得た。GCMS分析の結果、前
記不純物A、B、C、Dは検出限界以下であり、8−メチルノナン酸の純度は99.7%だっ
た。
【0113】
〔実施例3〕cis−2−アミノシクロヘキサノール塩による8−メチル−6−ノネン酸のtrans体、cis体の分割(脂肪酸塩結晶形成による精製法の例)
公知の方法(J. Org. Chem. 1989, 54, 3477-3478)で得られた8−メチル−6−ノネ
ン酸(異性体比trans:cis=88:12, 800 mg, 4.70 mmol)をクロロホルム(10 ml)に溶解し、cis−2−アミノシクロヘキサノール (460 mg, 4.00 mmol)のクロロホルム(5 ml)溶液を室温で滴下した。反応混合物を減圧濃縮し、残渣を再びクロロホルム(4 ml)に溶解し、ヘキサン(12 ml)を滴下した。反応混合物を室温で3日間攪拌し、析出した結晶を濾取した。得られた結晶にヘキサン(10 ml)を加え、10%クエン酸水溶液(8 ml)で3回、飽和食塩水(10 ml)で1回洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾去し、濾液を減圧濃縮して8−メチル−6−ノネン酸 (異性体比trans:cis=29:1, 408 mg, 2.40 mmol)を得た。
得られた8−メチル−6−ノネン酸 (異性体比trans:cis=29:1, 408 mg, 2.40 mmol)を再びクロロホルム(10 ml)に溶解し、cis−2−アミノシクロヘキサノール(249 mg, 2.16 mmol)のクロロホルム(5 ml)溶液を室温で滴下した。反応混合物を減圧濃縮し、残渣を再
びクロロホルム(3 ml)に溶解し、ヘキサン(12 ml)を滴下した。反応混合物を室温で一夜
攪拌し、析出した結晶を濾取した。得られた結晶にヘキサン(15 ml)を加えて、10 %クエ
ン酸水溶液(10 ml)で3回、飽和食塩水(10 ml)で1回洗浄した後、無水硫酸マグネシウム
で乾燥した。硫酸マグネシウムを濾去し、濾液を減圧濃縮してtrans−8−メチル−6−
ノネン酸 (250 mg, 1.47 mmol, 純度98.8 %, 収率35.1 %)を得た。
1H-NMR (CDCl3,δ):0.96 (d, 6H, J=6.8Hz), 1.38-1.46 (m, 2H), 1.60-1.70 (m, 2H), 1.95-2.05 (m, 2H), 2.18-2.38 (m, 1H), 2.35 (t, 2H, J=7.4Hz), 5.28-5.42 (m, 2H).
【0114】
〔実施例4〕8−メチルノナン酸の合成(CuBrを触媒として用い、高純度で合成する方法)
温度計を備え付けた500 mlの3口フラスコをアルゴン置換し、CuBr (481 mg, 3.36 mmol)を加えた。室温にてNMP (43.1 ml, 449 mmol)を加えて溶解させた後、反応容器を−20
℃に冷やした。THF (10 ml)を加え、6−ブロモ−n−ヘキサン酸エチル(25.0 g, 112 mmol)を滴下した (内温−8 ℃)。10分撹拌後、別途調製したイソブチルマグネシウムブロミドのTHF溶液 (160 ml)を60分かけてゆっくりと滴下した。
滴下終了してから90分後、10%塩化アンモニウム水溶液 (120 ml)をゆっくり滴下してクエンチし、n−ヘキサン (120 ml)で抽出した。n−ヘキサン層を10%塩化アンモニウム水溶液 (100 ml)、水 (100 ml)、飽和食塩水 (50 ml)にて洗浄した。n−ヘキサン層を無水硫酸マグネシウムにて乾燥後、濾過して濾液を減圧濃縮し、8−メチルノナン酸エチルの粗生成物24.2 gを薄黄色油状物質として得た。GC−MSにより測定した純度は、97.5%
であった。
得られた8−メチルノナン酸エチルのうち、22.2 gを500 mlナス型フラスコに入れ、エタノール (77 ml)に溶解させた。室温にて2M NaOH水溶液 (77 ml, 154 mmol)を5分かけて滴下した。滴下終了後、60 ℃の油浴を用いて90分加熱撹拌し、TLCにて原料の消失を確認した後、室温に冷却した。
エタノールを減圧留去した。溶液に、水 (40 ml)を加え、t−ブチルメチルエーテル (80 ml)で洗浄した。水層をさらにt−ブチルメチルエーテル (80 ml)で洗浄した。続いて水層を2M HCl水溶液 (120 ml)をゆっくり加えて酸性にし、n−ヘキサン (80 ml)にて抽
出した。n−ヘキサン層を水 (80 ml)、水 (40 ml)、飽和食塩水 (40 ml)にて洗浄し、n−ヘキサン層を無水硫酸マグネシウムにて乾燥後、濾過して濾液を減圧濃縮し、17.3 gの8−メチルノナン酸を薄黄色油状物質として得た。このうち、15.3 gを減圧蒸留して、12.7 gの8−メチルノナン酸を薄黄色油状物質として得た。GC−MSにより測定した純度は、99.9%以上であった。6−ブロモ−n−ヘキサン酸エチルからの総収率81%。
【0115】
〔実施例5〕ジヒドロカプシエイトの合成−1
8−メチルノナン酸 (1.00 g, 5.80 mmol)、バニリルアルコール (851 mg, 5.52 mmol)及びノボザイム 435 (50 mg)をフラスコ(25 ml)に計り取った。フラスコに栓をしないま
ま、混合物を50℃の油浴で20時間加熱撹拌した。加熱撹拌を2〜3時間行った後、フラスコ上部の器壁に水が付着しているのが観察された。反応混合物を室温に戻し、ヘキサン(25 ml)加え、ノボザイム 435及び析出した少量のバニリルアルコールを濾去した。濾液にヘ
キサン(25 ml)を加えた後、5%クエン酸水溶液(25 ml)及び飽和食塩水(25 ml)で洗い、無
水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾去し、濾液を減圧濃縮してジヒドロカプシエイトと8−メチルノナン酸の混合物1.66 gを無色油状物として得た。分析の結果、ジヒドロカプシエイトの収率は89.7%、HPLCによる分析の結果、純度は99.5面積%で
あった。混合物にはジヒドロカプシエイトに対して8−メチルノナン酸が8.0 重量%含ま
れていた。
1H-NMR (CDCl3,δ): 0.86 (d, 6H, J=6.60Hz), 1.12-1.37 (m, 8H), 1.46-1.64 (m, 3H),
2.32 (t, 2H, J=7.56Hz), 3.89 (s, 3H), 5.02 (s, 2H), 5.63 (br, 1H), 6.83-6.90 (m, 3H)
【0116】
〔実施例6〕カプシエイトの合成
trans−8−メチル−6−ノネン酸 (1.00 g, 5.87 mmol)、バニリルアルコール (1.085g, 7.04 mmol)及びノボザイム 435 (100 mg)をフラスコ(25ml)に計り取った。フラスコに栓をしないまま、混合物を50℃の油浴で16時間加熱撹拌した。加熱撹拌を2〜3時間行った後、フラスコ上部の器壁に水が付着しているのが観察された。反応混合物を室温に戻し、ヘキサン(25 ml)を加え、ノボザイム 435及び析出したバニリルアルコールを濾去した。
濾液にヘキサン(25 ml)を加えた後、5%クエン酸水溶液(25 ml)及び飽和食塩水(25 ml)で
洗い、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾去し、濾液を減圧濃縮した。TLCでバニリルアルコール以外の極性不純物が生成しているのが確認されたので、残
渣を50 mlのヘキサンに溶解させ、1.5 gのシリカゲルを充填したショートカラムに通し、ヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒(体積比10:1)で十分シリカゲルを洗い流した。溶出液中には、先の不純物はTLCで検出されなかった。溶出液を減圧濃縮してカプシエイト(1.56
g, 収率86.6 %) を無色油状物として得た。このカプシエイトには、trans−8−メチル
−6−ノネン酸が極少量含まれていた。
1H-NMR (CDCl3,δ): 0.95 (d, 6H, J=6.74Hz), 1.33-1.40 (m, 2H), 1.59-1.67 (m, 2H),
1.94-1.99 (m, 2H), 2.18-2.23 (m, 1H), 2.33 (t, 2H, J=7.52Hz), 3.89 (s, 3H), 5.02 (s, 2H), 5.26-5.39 (m, 2H), 5.63 (br, 1H), 6.83-6.90 (m, 3H)
【0117】
〔実施例7〕バニリルデカノエイトの合成−1
デカン酸 (1.00 g, 5.80 mmol)、バニリルアルコール (880 mg, 5.71 mmol)及びノボザ
イム 435 (25 mg)をフラスコ(25 ml)に計り取り、ヘキサン(0.5 ml)を加えた。フラスコ
に栓をしないまま、混合液を50℃の油浴で48時間加熱撹拌した。加熱撹拌を2〜3時間行った後、フラスコ上部の器壁に水が付着しているのが観察された。フラスコを室温に戻し、反応混合物にヘキサン(25 ml)加え、ノボザイム 435及び析出した少量のバニリルアルコ
ールを濾去した。濾液にヘキサン(25 ml)を加えた後、5%クエン酸水溶液(25 ml)及び飽和食塩水(25 ml)で洗い、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾去し、
濾液を減圧濃縮してバニリルデカノエイトとデカン酸の混合物1.69 gを無色油状物として得た。分析の結果、バニリルデカノエイトの収率は93.1%であった。混合物にはバニリルデカノエイトに対してデカン酸が2.9 重量%含まれていた。
1H-NMR (CDCl3,δ): 0.87 (t, 3H, J=7.1Hz), 1.18-1.30 (m, 12H), 1.55-1.65 (m, 2H),
2.33 (t, 2H, J=7.7Hz), 3.90 (s, 3H), 5.03 (s, 2H), 5.64 (br, 1H), 6.80-6.90 (m,
3H)
【0118】
〔実施例8〕バニリルデカノエイトの合成−2(酵素の繰り返し使用)
デカン酸 (2.00 g, 11.61 mmol)、バニリルアルコール (1.74 g, 11.27 mmol)及びノボザイム 435 (100 mg)をフラスコ(50 ml)に計り取った。フラスコに栓をしないまま、混合物を50℃の油浴で20時間加熱撹拌した。加熱撹拌を2〜3時間行った後、フラスコ上部の器壁に水が付着しているのが観察された。反応混合物を室温に戻し、ヘキサン(50 ml)加え
、ノボザイム 435及び析出した少量のバニリルアルコールを濾去した。濾液を5%クエン酸水溶液(25 ml)及び飽和食塩水(25 ml)で洗い、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾去し、濾液を減圧濃縮してバニリルデカノエイトとデカン酸の混合物3.41
gを無色油状物として得た。分析の結果、バニリルデカノエイトの収率は94.1%であった
。混合物にはバニリルデカノエイトに対してデカン酸が6.0 重量%含まれていた。
上記操作で回収したノボザイム 435及び少量のバニリルアルコールの混合物を触媒として用い、上記と同じ操作を繰り返した。バニリルデカノエイトとデカン酸の混合物3.42 gを無色油状物として得た。分析の結果、バニリルデカノエイトの収率は95.5 %であった。混合物にはバニリルデカノエイトに対してデカン酸が3.2 重量%含まれていた。
上記操作で回収したノボザイム 435及び少量のバニリルアルコールの混合物を触媒として用い、上記と同じ操作を繰り返した。バニリルデカノエイトとデカン酸の混合物3.47 gを無色油状物として得た。分析の結果、バニリルデカノエイトの収率は94.8 %であった。混合物にはバニリルデカノエイトに対してデカン酸が5.1 重量%含まれていた。
上記操作で回収したノボザイム 435及び少量のバニリルアルコールの混合物を触媒として用い、上記と同じ操作を繰り返した。バニリルデカノエイトとデカン酸の混合物3.46 gを無色油状物として得た。分析の結果、バニリルデカノエイトの収率は95.4 %であった。混合物にはバニリルデカノエイトに対してデカン酸が4.1 重量%含まれていた。
【0119】
〔実施例9〕ジヒドロカプシエイトの合成−2
8−メチルノナン酸 (1.50 g, 8.70 mmol)、バニリルアルコール (1.34 g, 8.70 mmol)及びリパーゼ PS 「アマノ」 (375 mg)をフラスコ (25ml)に計り取り、フラスコに栓をせず、55℃の油浴につけて45時間加熱撹拌した。加熱撹拌を2〜3時間行った後、フラスコ上部の器壁に水が付着しているのが観察された。フラスコを室温に戻し、反応混合物にヘプタンを10 ml加えて10分間撹拌後、リパーゼ PS 「アマノ」及び析出した少量のバニリル
アルコールを濾去した。濾液を減圧濃縮後、得られた油状物質 (2.48g)をHPLC分析したところ、ジヒドロカプシエイトは94.0 面積%であった。続いてヘプタン (15 ml)と10%クエ
ン酸水溶液 (15 ml)にて分液して、水層をさらにヘプタン (15 ml)にて抽出した。合わせたヘプタン層を飽和食塩水 (15 ml)で洗い、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾去し、濾液を減圧濃縮してジヒドロカプシエイトと8−メチルノナン酸の混合物2.45 gを無色油状物として得た。分析の結果、ジヒドロカプシエイトの収率は80.9%、HPLCによる分析では、純度は97.4 面積%であった。混合物にはジヒドロカプシエイトに対して8−メチルノナン酸が12.6 重量%含まれていた。
【0120】
〔実施例10〕ジヒドロカプシエイトの合成−3
8−メチルノナン酸 (1.50 g, 8.70 mmol)、バニリルアルコール (1.34 g, 8.70 mmol)及びリパーゼ PS-C 「アマノ」 I (セラミック固定化酵素: 375 mg)をフラスコ (25ml)に計り取り、フラスコに栓をせず、55℃の油浴につけて45時間加熱撹拌した。加熱撹拌を2
〜3時間行った後、フラスコ上部の器壁に水が付着しているのが観察された。フラスコを
室温に戻し、反応混合物にヘプタンを10 ml加えて10分間撹拌後、固定化酵素及び析出し
た少量のバニリルアルコールを濾去した。濾液を減圧濃縮後、得られた油状物質 (2.68g)をHPLC分析したところ、ジヒドロカプシエイトは92.9 面積%であった。続いてヘプタン (15 ml)と10%クエン酸水溶液 (15 ml)にて分液して、水層をさらにヘプタン (15 ml)にて
抽出した。合わせたヘプタン層を飽和食塩水 (15 ml)で洗い、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾去し、濾液を減圧濃縮してジヒドロカプシエイトと8−メチルノナン酸の混合物2.61 gを無色油状物として得た。分析の結果、ジヒドロカプシエイトの収率は95.5%、HPLCによる分析では、純度は97.1 面積%であった。混合物にはジヒドロカプシエイトに対して8−メチルノナン酸が1.97 重量%含まれていた。
【0121】
〔実施例11〕ジヒドロカプシエイトの合成−4
8−メチルノナン酸 (1.65 g, 9.59 mmol)、バニリルアルコール (1.34 g, 8.70 mmol)及びリパーゼ PS-C 「アマノ」 I (セラミック固定化酵素: 335 mg)をフラスコ (25ml)に計り取り、フラスコに栓をせず、45℃の油浴につけて37.5時間加熱撹拌した。加熱撹拌を2〜3時間行った後、フラスコ上部の器壁に水が付着しているのが観察された。フラスコを室温に戻し、反応混合物にヘプタンを10 ml加えて10分間撹拌後、固定化酵素及び析出し
た少量のバニリルアルコールを濾去した。濾液を減圧濃縮後、得られた油状物質をHPLC分析したところ、ジヒドロカプシエイトは95.7 面積%であった。続いてヘプタン (20 ml)と10%クエン酸水溶液 (20 ml)にて分液して、水層をさらにヘプタン (20 ml)にて抽出した
。合わせたヘプタン層を飽和食塩水 (15 ml)で洗い、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾去し、濾液を減圧濃縮してジヒドロカプシエイトと8−メチルノナン酸の混合物2.50 gを無色油状物として得た。分析の結果、ジヒドロカプシエイトの収率は73.1%、HPLCによる分析の結果、純度は99.3 面積%であった。混合物にはジヒドロカプシエイトに対して8−メチルノナン酸が27.4 重量%含まれていた。
【0122】
〔実施例12〕ジヒドロカプシエイトの合成 (その5)
8−メチルノナン酸 (1.54 g, 8.95 mmol)、バニリルアルコール (1.34 g, 8.70 mmol)をフラスコ (25ml)に計り取ってヘプタン (0.5 ml)に溶解させ、リパーゼ PS-C 「アマノ」 I (セラミック固定化酵素: 335 mg)を加え、55℃の油浴につけて13.5時間加熱撹拌し
た。加熱撹拌を2〜3時間行った後、フラスコ上部の器壁に水が付着しているのが観察された。フラスコを室温に戻し、反応混合物にヘプタンを5 ml加えて10分間撹拌後、固定化酵素及び析出した少量のバニリルアルコールを濾去した。濾液を減圧濃縮し、得られた油状物 (2.42 g)をHPLC分析したところ、ジヒドロカプシエイトは97.2 面積%であった。続い
てヘプタン (15 ml)と10%クエン酸水溶液 (15 ml)にて分液して、水層をさらにヘプタン (15 ml)にて抽出した。合わせたヘプタン層を水 (10 ml)、飽和食塩水 (10 ml)で洗い、
無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾去し、濾液を減圧濃縮してジヒドロカプシエイトと8−メチルノナン酸の混合物2.42 gを無色油状物として得た。分析の結果、ジヒドロカプシエイトの収率は72.3%、HPLCによる分析では、純度は99.6 面積%であった。混合物にはジヒドロカプシエイトに対して8−メチルノナン酸が24.8 重量%含まれていた。
【0123】
〔実施例13〕ジヒドロカプシエイトの合成−6
8−メチルノナン酸 (1.54 g, 8.95 mmol)、バニリルアルコール (1.34 g, 8.70 mmol)及びリパーゼ PS-C 「アマノ」 I (セラミック固定化酵素: 335 mg)をフラスコ (25ml)に
計り取り、フラスコに栓をせず、55℃の油浴につけて13.5時間加熱撹拌した。加熱撹拌を2〜3時間行った後、フラスコ上部の器壁に水が付着しているのが観察された。フラスコを室温に戻し、反応混合物にヘプタンを5 ml加えて15分間撹拌後、固定化酵素及び析出した少量のバニリルアルコールを濾去した。濾液を減圧濃縮し、得られた油状物 (2.73 g)をHPLC分析したところ、ジヒドロカプシエイトは96.3 面積%であった。続いてヘプタン (15 ml)と10%クエン酸水溶液 (15 ml)にて分液して、水層をさらにヘプタン (15 ml)にて抽出した。合わせたヘプタン層を水 (10 ml)、飽和食塩水 (10 ml)で洗い、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾去し、濾液を減圧濃縮してジヒドロカプシエイトと8−メチルノナン酸の混合物2.67 gを無色油状物として得た。分析の結果、ジヒドロカプシエイトの収率は95.5%、HPLCによる分析では、純度は99.3 面積%であった。混合物にはジヒドロカプシエイトに対して8−メチルノナン酸が4.18 重量%含まれていた。
【0124】
〔実施例14〕バニリルデカノエイトの合成−3
デカン酸 (25.0 g, 145 mmol)、バニリルアルコール (21.7 g, 141 mmol)及びノボザイム 435 (723 mg)をフラスコ (300 ml)に計り取り、フラスコに栓をせず、50℃の油浴につけて48時間加熱撹拌した。加熱撹拌を2〜3時間行った後、フラスコ上部の器壁に水が付着しているのが観察された。フラスコを室温に戻し、反応混合物にヘキサンを100 ml加えて1時間撹拌した後、固定化酵素及び析出したバニリルアルコールを濾去した。濾液にヘキ
サン (100 ml)と10%クエン酸水溶液 (200 ml)を加え、分液操作を行った。水層をさらに
ヘキサン (150 ml)にて抽出した。合わせたヘキサン層を10%クエン酸水溶液 (100 ml)、
水 (100 ml)、飽和食塩水 (100 ml)で洗った後、ヘキサン層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾去し、濾液を減圧濃縮してバニリルデカノエイトとデカン酸の混合物 (43.7 g)を得た。分析の結果、バニリルデカノエイトの収率は97.0%、HPLC
による分析では、純度は98.6 面積%であった。混合物にはバニリルデカノエイトに対してデカン酸が3.94 重量%含まれていた。
【0125】
〔実施例15〕ジヒドロカプシエイトの合成−7
8−メチルノナン酸 (1.54 g, 8.95 mmol)、バニリルアルコール (1.34 g, 8.70 mmol)及びノボザイム 435 (67.0 mg)をフラスコ (25ml)に計り取り、フラスコに栓をせず、55
℃の油浴につけて16時間加熱撹拌した。加熱撹拌を2〜3時間行った後、フラスコ上部の器壁に水が付着しているのが観察された。フラスコを室温に戻し、反応混合物にヘプタンを5 ml加えて10分間撹拌後、ノボザイム 435及び析出した少量のバニリルアルコールを濾去した。濾液を減圧濃縮後、得られた無色油状物 (2.74 g)をHPLC分析したところ、ジヒド
ロカプシエイトは96.0 面積%であった。ヘプタン (15 ml)と10%クエン酸水溶液 (15 ml)
にて分液して、水層をさらにヘプタン (15 ml)にて抽出した。合わせたヘプタン層を水 (10 ml)、飽和食塩水 (10 ml)で洗い、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾去し、濾液を減圧濃縮してジヒドロカプシエイトと8−メチルノナン酸の混合物2.65 gを無色油状物として得た。分析の結果、ジヒドロカプシエイトの収率は97.6%、HPLCによる分析では、純度は99.8 面積%であった。混合物にはジヒドロカプシエイトに対して8−メチルノナン酸が1.12 重量%含まれていた。
【0126】
〔実施例16〕ジヒドロカプシエイトの合成−8
8−メチルノナン酸 (1.54 g, 8.95 mmol)、バニリルアルコール (1.34 g, 8.70 mmol)及びノボザイム 435 (8.90 mg)をフラスコ (25ml)に計り取り、フラスコに栓をせず、55
℃の油浴につけて45時間加熱撹拌した。加熱撹拌を2〜3時間行った後、フラスコ上部の器壁に水が付着しているのが観察された。フラスコを室温に戻し、反応混合物にヘプタンを10 ml加えて30分間撹拌後、ノボザイム 435及び析出した少量のバニリルアルコールを濾
去した。濾液を減圧濃縮後、得られた無色油状物 (2.67 g)をHPLC分析したところ、ジヒ
ドロカプシエイトは97.2 面積%であった。続いてヘプタン (15 ml)と10%クエン酸水溶液 (15 ml)にて分液して、水層をさらにヘプタン (15 ml)にて抽出した。合わせたヘプタン
層を水 (15 ml)、飽和食塩水 (15 ml)で洗い、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾去し、濾液を減圧濃縮してジヒドロカプシエイトと8−メチルノナン酸の混合物2.67 gを無色油状物として得た。分析の結果、ジヒドロカプシエイトの収率は95.9%、HPLCによる分析では、純度は99.4 面積%であった。混合物にはジヒドロカプシエイトに対して8−メチルノナン酸が3.86 重量%含まれていた。
【0127】
〔実施例17〕ジヒドロカプシエイトの合成−9
1Lの4口フラスコに、8−メチルノナン酸 (310 g, 1.80 mol)、ノボザイム 435 (9.0 g)を加え、50℃の油浴につけ加熱撹拌した。続いてバニリルアルコール (90 g, 0.58 mol)を加え、トラップをはさんでポンプで減圧 (74 mmHg)しながら同温で加熱撹拌した。1時
間後と2時間後にバニリルアルコール (90 g, 0.58 mol)をそれぞれ加え、加熱、減圧反応を続けた。反応開始から45時間後に減圧解除し、加熱攪拌を停止した。この時、トラップ内には水が溜まっていた。反応混合物が室温に戻った事を確認した後、n−ヘキサン (465ml)を1時間かけて滴下し、常圧、室温で攪拌した。
20時間後に攪拌を停止し、n−ヘキサン (155 ml)で洗い込みながら濾過を行った。濾
液に10%クエン酸水溶液 (775 ml)を加えて分液して、n−ヘキサン層を水(775 ml)、水 (310 ml)、15%食塩水 (310 ml)で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マ
グネシウムを濾去し、濾液を減圧濃縮してジヒドロカプシエイトと8−メチルノナン酸の混合物532 gを無色油状物として得た。分析の結果、ジヒドロカプシエイトの収率は96%
、HPLCによる分析では、純度は99.2 面積%であった。混合物にはジヒドロカプシエイトに対して8−メチルノナン酸が3.1 重量%含まれていた。
【0128】
〔実施例18〕バニリルデカノエイトの合成−4
デカン酸 (10.0 g, 58.1 mmol)、バニリルアルコール (8.05 g, 52.2 mmol)及びリパーゼ PS-C 「アマノ」 I (セラミック固定化酵素: 1.44 g)をフラスコ (500 ml)に計り取り、トルエン(200ml)を加え、アルゴン雰囲気下、40℃の油浴中にて2時間加熱撹拌した。この反応混合物を減圧濃縮し、共沸効果により脱水を促進させた後、濃縮物にさらにトルエン(150ml)を加え、40℃の油浴中にて20時間加熱撹拌した。この反応混合物を再度減圧濃
縮した後、ヘプタン(200ml)を加えた。室温にて2時間30分攪拌した後、固定化酵素及び析出したバニリルアルコールを濾去した。濾液を減圧濃縮してバニリルデカノエイトとデカン酸の混合物15.8gを得た。分析の結果、バニリルデカノエイトの収率は98%、HPLCによ
る分析では、純度は97.9 面積%であった。混合物にはバニリルデカノエイトに対してデカン酸が8.6 重量%含まれていた。
【0129】
〔実施例19〕バニリルオクタノエイトの合成
市販のオクタン酸を用いて実施例5と同様の方法により、バニリルオクタノエイトを収率61%で合成した(オクタン酸を29.9重量%含む。)。
1H-NMR (CDCl3, δ): 0.88 (d, 3H, J=7.10Hz), 1.20-1.35 (m, 8H), 1.60-1.70 (m, 2H), 2.35 (t, 2H, J=7.40Hz), 3.90 (s, 3H), 5.03 (s, 2H), 6.83-6.90 (m, 3H).
【0130】
〔実施例20〕バニリルウンデカノエイトの合成
市販のウンデカン酸を用いて実施例5と同様の方法により、バニリルウンデカノエイトを収率98%で合成した(ウンデカン酸を3.3重量%含む。)。
1H-NMR (CDCl3, δ): 0.88 (d, 3H, J=6.76Hz), 1.20-1.35 (m, 14H), 1.58-1.68 (m, 2H), 2.35 (t, 2H, J=7.68Hz), 3.90 (s, 3H), 5.03 (s, 2H), 6.83-6.90 (m, 3H).
【0131】
〔実施例21〕バニリル9−メチルデカノエイトの合成
実施例1と同様の方法でイソペンチルブロミドと6−ブロモヘキサン酸エチルから収率78%で9−メチルデカン酸を合成し(減圧蒸留により精製)、これを用いて実施例5と同様の方法でバニリル9−メチルデカノエイトを収率91%で合成した(9−メチルデカ
ン酸を3.1重量%含む。)。
1H-NMR (CDCl3, δ): 0.86 (d, 6H, J=6.64Hz), 1.12-1.35 (m, 10H), 1.45-1.55 (m, 1H), 1.50-1.60 (m, 2H), 2.34 (t, 2H, J=7.44Hz), 3.89 (s, 3H), 5.03 (s, 2H), 5.60 (brs, 1H), 6.83-6.90 (m, 3H).
【0132】
〔実施例22〕バニリル10−メチルウンデカノエイトの合成
実施例1と同様の方法でイソペンチルブロミドと7−ブロモヘプタン酸エチルから収率81%で10−メチルウンデカン酸を合成し(減圧蒸留により精製)、これを用いて実施例5と同様の方法でバニリル10−メチルウンデカノエイトを収率98%で合成した(10−メチルウンデカン酸を8.5重量%含む。)。
1H-NMR (CDCl3, δ): 0.86 (d, 6H, J=6.64Hz), 1.10-1.40 (m, 12H), 1.50-1.60 (m, 1H), 1.60-1.70 (m, 2H), 2.33 (t, 2H, J=7.68Hz), 3.90 (s, 3H), 5.03 (s, 2H), 5.63 (s, 1H), 6.83-6.90 (m, 3H).
【0133】
〔実施例23〕バニリル6−メチルオクタノエイトの合成
実施例1と同様の方法で1−クロロ−2−メチルブタンと4−ブロモブタン酸エチルから収率83%で6−メチルオクタン酸を合成し(減圧蒸留により精製)、これを用いて実施例5と同様の方法でバニリル6−メチルオクタノエイトを収率80%で合成した(6−メチルオクタン酸を6.7重量%含む。)。
1H-NMR (CDCl3, δ): 0.80-0.90 (m, 6H), 1.05-1.19 (m, 2H), 1.22-1.40 (m, 5H), 1.60-1.70 (m, 2H), 2.34 (t, 2H, J=7.56Hz), 3.89 (s, 3H), 5.03 (s, 2H), 5.60 (brs, 1H), 6.85-6.91 (m, 3H).
【0134】
〔実施例24〕バニリル7−メチルノナノエイトの合成
実施例1と同様の方法で1−クロロ−2−メチルブタンと5−ブロモペンタン酸エチルから収率90%で7−メチルノナン酸を合成し(減圧蒸留により精製)、これを用いて実施例5と同様の方法でバニリル7−メチルノナノエイトを収率93%で合成した(7-メ
チルノナン酸を6.8重量%含む。)。
1H-NMR (CDCl3, δ): 0.80-0.90 (m, 6H), 1.05-1.20 (m, 2H), 1.20-1.38 (m, 7H), 1.60-1.70 (m, 2H), 2.34 (t, 2H, J=7.72Hz), 3.90 (s, 3H), 5.03 (s, 2H), 5.60 (brs, 1H), 6.85-6.91 (m, 3H).
【0135】
〔実施例25〕バニリル8−メチルデカノエイトの合成
実施例1と同様の方法で1−クロロ−2−メチルブタンと6−ブロモヘキサン酸エチルから収率87%で8−メチルデカン酸を合成し(減圧蒸留により精製)、これを用いて実施例5と同様の方法でバニリル8−メチルデカノエイトを収率88%で合成した(8−メチルデカン酸を9.6重量%含む。)。
1H-NMR (CDCl3, δ): 0.80-0.90 (m, 6H), 1.02-1.20 (m, 2H), 1.20-1.40 (m, 9H), 1.60-1.70 (m, 2H), 2.34 (t, 2H, J=7.72Hz), 3.90 (s, 3H), 5.03 (s, 2H), 5.60 (brs, 1H), 6.85-6.91 (m, 3H).
【0136】
〔参考例1〕脂肪酸非共存下でのカプシノイドの安定性について
バニリルアルコールとデカン酸からバニリルデカノエイトを別途合成し、安定性を調べた。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにてデカン酸を分離、精製した純品をアセトニトリルに溶解し、HPLC分析を行ったところ、95.6面積%であった。更に同サンプルを62時
間後再度分析すると82.0面積%と純度が低下し、バニリルデカノエイトが分解しているこ
とを確かめた。
【0137】
〔実施例26〕脂肪酸共存による安定化の例−1
シリカゲルカラムクロマトグラフィーにてデカン酸を分離、精製した純品バニリルデカ
ノエイトをアセトニトリルに溶解し、9時間後にHPLC分析したところ、90.4面積%であった。一方、この純品バニリルデカノエイトのアセトニトリル溶液に9.1重量%のデカン酸を添加して19.5時間後にHPLC分析を行ったところ、97.6面積%とデカン酸を添加しない場合に
比べて純度が向上した。同様に、バニリルデカノエイトに16.7重量%、28.7重量%、44.8重量%デカン酸を添加すると、それぞれ98.1面積%、98.1面積%、97.9面積%とデカン酸を添加しない場合より高純度となった。
【0138】
〔実施例27〕脂肪酸共存による安定化の例−2
実施例5と同様の方法で得られた脂肪酸3.2重量%含有するカプシエイトに対してHPLC分析を行ったところ、97.8面積%であった。このカプシエイトをヘキサン溶媒中、5℃にて30日間保存した後HPLC分析を行ったところ、97.6面積%と純度を保っていた。
【0139】
〔実施例28〕脂肪酸共存による安定化の例−3
実施例15と同様の方法で得られた脂肪酸2.0重量%を含有するジヒドロカプシエイトに対してHPLC分析を行ったところ、99.2面積%であった。このジヒドロカプシエイトをヘキ
サン溶媒中、5℃にて30日間保存後HPLC分析を行ったところ、99.3面積%と純度を保っていた。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明の方法は、安価な酵素を用いて操作が簡便でかつ、既存の技術より短時間で、高収率でカプシノイドを合成できるため、カプシノイドの工業生産に有用である。更に、エステル化合物(カプシノイド)を脂肪酸と共存させることにより、従来不安定であったカプシノイドを安定に供給、保存することが可能となった。従って、本発明のエステル化合物と脂肪酸との組成物は、食品添加物や医薬品に利用できる。
【0141】
本出願は、日本で出願された特願2005−043154、及びUSAで出願されたNo.60/702,606を基礎としており、その内容は本明細書にすべて包含されるも
のである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(3):
【化1】

(式中、R1は、無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルキル基又は無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルケニル基を示し、R2〜R6は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、炭素数1から25のアルキル基、炭素数2から25のアルケニル基、炭素数2から25のアルキニル基、炭素数1から25のアルコキシ基、炭素数2から25のアルケニルオキシ基又は炭素数2から25のアルキニルオキシ基を示し、R2〜R6の少なくとも一つは水酸基である。)
で表されるエステル化合物と、一般式(4):
【化2】

(式中、R1’は、無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルキル基又は無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルケニル基を示す。)
で表される脂肪酸とを含有してなる組成物(ただし、当該組成物は植物体からの油脂抽出物ではない。)。
【請求項2】
R1’が、R1と同一の基である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
一般式(4)で表される脂肪酸が、一般式(3)で表されるエステル化合物に対し、0.1重量%から30重量%含有されている、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
増量剤又は担体として、油脂組成物、乳化剤、保存剤及び抗酸化剤からなる群より選ばれる1種以上の添加物を更に含有してなる、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
一般式(3):
【化3】

(式中、R1は、無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルキル基又は無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルケニル基を示し、R2〜R6は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、炭素数1から25のアルキル基、炭素数2から25のアルケニル基、炭素数2から25のアルキニル基、炭素数1から25のアルコキシ基、炭素数2から25のアルケニルオキシ基又は炭素数2から25のアルキニルオキシ基を示し、R2〜R6の少なくとも一つは水酸基である。)
で表されるエステル化合物に、一般式(4):
【化4】

(式中、R1’は、無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルキル基又は無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルケニル基を示す。)
で表される脂肪酸を添加することを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の組成物の製造方法。
【請求項6】
一般式(1):
【化5】

(式中、R1は、無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルキル基又は無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルケニル基を示す。)
で表される脂肪酸と、一般式(2):
【化6】

(式中、R2〜R6は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、炭素数1から25のアルキル基、炭素数2から25のアルケニル基、炭素数2から25のアルキニル基、炭素数1から25のアルコキシ基、炭素数2から25のアルケニルオキシ基又は炭素数2から25のアルキニルオキシ基を示し、R2〜R6の少なくとも一つは水酸基である。)
で表されるヒドロキシメチルフェノールとを、酵素を触媒に用い、縮合させる請求項2乃至4のいずれか一項に記載の組成物の製造方法において、
式(1)で表される脂肪酸を式(2)で表されるヒドロキシメチルフェノールよりも過剰に縮合反応に用いることを特徴とする当該方法。
【請求項7】
一般式(3):
【化7】

(式中、R1は、無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルキル基又は無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルケニル基を示し、R2〜R6は、それぞれ独立して、水素原子、水酸基、炭素数1から25のアルキル基、炭素数2から25のアルケニル基、炭素数2から25のアルキニル基、炭素数1から25のアルコキシ基、炭素数2から25のアルケニルオキシ基又は炭素数2から25のアルキニルオキシ基を示し、R2〜R6の少なくとも一つは水酸基である。)
で表されるエステル化合物に、一般式(4):
【化8】

(式中、R1’は、無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルキル基又は無置換もしくは置換の炭素数5から25のアルケニル基を示す。)
で表される脂肪酸を添加し、一般式(3)で表されるエステル化合物の分解を防ぐことを特徴とする、一般式(3)で表されるエステル化合物の安定化方法。
【請求項8】
R1’が、R1と同一の基である、請求項7記載の安定化方法。
【請求項9】
一般式(4)で表される脂肪酸が、一般式(3)で表されるエステル化合物に対し、0.1重量%から30重量%添加される、請求項7又は8に記載の方法。

【公開番号】特開2012−82193(P2012−82193A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218307(P2011−218307)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【分割の表示】特願2007−539383(P2007−539383)の分割
【原出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】